特別受益の時効|遺留分算定の場合の特別受益の時効は10年!

生前贈与

更新日 2026.03.25

投稿日 2024.04.12

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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公平な遺産相続を実現するために重要なのが、「特別受益」です。特別受益とは、一部の相続人が生前贈与などで他の相続人よりも多くの財産を受け取っている場合に、受けた財産分を「特別受益」として相続分の算定時に遺産の額に加算する制度です。これを、「特別受益の持ち戻し」といいます。

ところで、この持ち戻しの対象となる「特別受益」は、何年前の生前贈与が対象になるのでしょうか。「20年以上前の生前贈与は、さすがに時効ではないか?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

そこで、この記事では「特別受益の時効」について、弁護士が詳しく解説させていただきます。

また、特別受益は遺産相続の相続分の計算だけでなく、遺留分侵害額の計算においても問題となることがありますので、遺留分侵害額の算定における特別受益の持ち戻しについても、確認していきたいと思います。

遺産分割を公平に進めるためにも、特別受益の時効の問題について、正しく理解しておくことが重要です。本記事が、少しでもご参考となりましたら幸いです。

目次

特別受益の時効

相続人の中には、被相続人から生前贈与を受けていたり、遺言によって相続財産を贈与(遺贈)されたりするなど、特別な利益を得る相続人もいます。こうした場合にその相続人が受けた特別な利益のことを、「特別受益」といいます。

例えば実際に遺産相続が開始され、生前贈与として4,000万円を受け取っていた相続人と、特別受益の一切ない相続人が、それぞれ遺産として「現金1,000万円」を受け取ることになった場合、どのように感じるでしょうか。現金1,000万円のみ受け取る相続人から見れば、「生前贈与と遺産分割とで合わせて5,000万円も受け取っていて、不公平だ」と思うかもしれません。

こうした不公平感を解消するために、遺産相続では「特別受益を相続財産に加算し、各相続人の具体的な相続分を計算する」という方法で具体的な相続分が算定されます(特別受益の持ち戻し)。

ところで、この「特別受益の持ち戻し」は、生前贈与や遺贈を受けた側にとっては寝耳に水、といった場合もあるかもしれません。「20年以上前に生前贈与を受けているが、それだけ昔の特別受益はとっくに時効ではないか?」と疑問に思われる方もいらっしゃるかと思います。

そこでこの記事では、特別受益の時効について詳しく解説させていただきます。

特別受益に時効はない

1.何年前までの特別受益が持ち戻しの対象?

さて、この特別受益ですが、いったい何年前までの特別受益が持ち戻しの対象となるのでしょうか。

結論から申しますと、特別受益の持ち戻しには時効はありません。したがって、「何年前までの特別受益が持ち戻しの対象なのか?」という問いに対しては、「何年前の特別受益であっても持ち戻しの対象になる」ということになります。

2.10年以上前の生前贈与も持ち戻しの対象

遺産分割において、特別受益に時効は設けられていませんから、被相続人から受けた贈与や遺贈がたとえ10年以上前のものであっても、特別受益として持ち戻しの対象となります。

例えば、被相続人が亡くなった後、相続財産として6,000万円が残され、子どもAと子どもBが相続人である場合を考えてみましょう。このケースにおいて、子どもAが5年前と12年前に合計2,000万円の生前贈与を受けていたとします。

法定相続分に従うと、AとBはそれぞれ「6,000万円 × 1/2 = 3,000万円」ずつ相続することになります。ですが、Aが特別受益を受けていますから、持ち戻して相続分を計算することになります。

特別受益に時効はないため、5年前の特別受益と12年前の特別受益の両方を相続財産に加えます。2,000万円を6,000万円に持ち戻すので、相続財産の合計額は「8,000万円」となります。

8,000万円をAとBで分ける、という計算になりますので、それぞれの本来の相続分は「8,000万円 × 1/2 = 4,000万円」です。ですが、Aは生前に2,000万円を生前贈与として受けていますので、相続分4,000万円から2,000万円を差し引いた金額が「実際のAの相続分」ということになります。

したがって、特別受益のあるAの相続分は2,000万円、Bは4,000万円ということになります。

ただし、すべての生前贈与や遺贈が特別受益として扱われるわけではありません。例えば、扶養義務の範囲内で行ったとみなされる生活支援等は特別受益には当たりません。小遣いや冠婚葬祭の祝金など、被相続人の資産状況等に照らして扶養の一部と認められる少額のものについても同様です。一般的な金額の生命保険金や死亡退職金についても、通常は特別受益とはみなされません。

3.遺産分割協議で特別受益を主張できる期間は相続開始から10年

特別受益については以上のとおり、それ自体に時効はありません。ですが、令和5年4月1日に施行された改正民法によって「遺産分割において特別受益を主張し、特別受益や寄与分を考慮した相続分による分割を求めることができる期間は、原則として相続開始の時から10年」という期間制限が設けられることとなりました(民法第904条の3)。

したがって、被相続人が亡くなってから10年が経過した場合、その後に特別受益を主張しても、その主張は認められません。10年を経過すると、生前贈与等の特別受益を考慮して相続分を修正することができなくなってしまうのです。

(期間経過後の遺産の分割における相続分)
民法第904条の3 前三条の規定は、相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
一 相続開始の時から十年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
二 相続開始の時から始まる十年の期間の満了前六箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から六箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

なぜこういった改正があったかといいますと、相続開始から長期間が経過すると、証拠が散逸していることも多く、関係者の記憶も曖昧になっており、特別受益を考慮した具体的相続分の算定が困難になるためです。また、スムーズな遺産分割を促すことで、所有者不明の土地が発生することを防止する、という狙いもあります。

なお、次の場合には、例外として被相続人から亡くなってから10年経過した場合でも、特別受益を考慮することが認められます(民法第904条の3各号)。

  • 相続開始後10年を経過する前に、家庭裁判所に遺産分割を請求をしたとき
  • 10年の期間の満了前6ヶ月以内に、遺産分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6ヶ月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産分割の請求をしたとき

また、「遺産分割協議や調停、審判において、相続人全員が特別受益の持ち戻しについて合意をしたとき」も例外的に特別受益を考慮することが認められます。民法第904条の3の規定は、あくまで早期の遺産分割を促すための原則的な基準であって、共同相続人全員の合意による「私的自治」や「協議の自由」を妨げるものではないからです。

なお、令和5年4月1日に施行された改正民法については、経過措置が設けられています(民法改正附則3)。法律の施行日である令和5年4月1日以前に被相続人が亡くなっていた場合でも、改正後の規定が適用されますので、注意が必要です。ただし、以下のとおり、施行から5年間の猶予期間が設けられています。

  1. 相続が発生した日(被相続人の死亡日)が令和5年4月1日以降の場合
    相続発生から10年が経過した時点で特別受益の主張の時効が到来します。
  2. 相続が発生した日が令和5年4月1日より前の場合
    相続発生から10年が経過した時点、または法律施行日から5年経過した時点(令和10年4月1日)のいずれか遅い方が特別受益の主張の時効となります。

4.特別受益の持ち戻しの免除と時効

なお、特別受益の持ち戻しは、被相続人が生前に意思表示を行うことで「免除」することができます(民法第903条2項・3項)。特別受益の持ち戻しが免除されると、遺産分割において相続財産に特別受益の分を加算する必要がありません。

この持ち戻し免除に関して民法に特別な方式はなく、時効のような期間制限も規定されていません。ですので、贈与等と同時に意思表示をする必要はなく、相続開始時までの間であればいつでも可能です。

遺留分算定と特別受益の時効

1.遺留分額の計算に入れる特別受益の時効は10年

遺留分とは、特定の法定相続人に法律上保障された、最低限度の相続分のことです。

例えば遺言などで相続人のうち1人全財産を相続することになった場合に、他の相続人は本来法定相続分に従って相続できるはずだった遺産を何も受け取れないことになってしまいます。このような場合は、遺言によって遺留分を侵害されていることになるため、実際にいくら遺留分を侵害されているのかを算出し、遺留分侵害した他の相続人へ侵害額を請求することになるのです。

そして、この遺留分額の計算においては、特別受益に関する時効が10年と定められています(民法第1044条)。

民法第1044条 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
2 第九百四条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。
3 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。

具体的にいいますと、遺留分の計算においては、相続開始前の10年間に行われた生前贈与や遺贈のみが持ち戻しの対象となる一方、10年以上前の贈与や遺贈については、持ち戻しの対象にはならない、ということです。

 

例えば、被相続人が残した相続財産が7,000万円あり、子どもAと子どもBが相続人である場合を考えてみましょう。A、Bそれぞれの遺留分の割合は「1/2 × 1/2 = 1/4」なので(民法第1042条1項2号)、遺留分の額は1,750万円となります。

仮に、このケースでAが相続開始前の10年以内に3,000万円の生前贈与を受けていた場合は、その贈与を特別受益として相続財産に加えた上で遺留分額を計算することになります。

この場合、相続財産の総額は「7,000万円 + 3,000万円 = 1億円」となります。そして、A、Bそれぞれの遺留分割合は1/4ですので、各人の遺留分は「1億円 × 1/4 = 2,500万円」となるのです。

 

このように、特別受益が遺留分の計算に加えられることにより、遺留分の額が大きく変わることがあります。したがって、遺留分の計算を行う際には、10年以内の特別受益があるかどうか、またその額がどのくらいであるかを正確に把握することが重要です。

2.民法改正により10年の期間制限になった

ところで、なぜ遺留分にこのような10年の期間制限があるのでしょうか。

それは、特別受益の分を加算することを無制限に認めると、「贈与の時点では遺留分を侵害していなかったのに、遺産相続する時になって遺留分を侵害してしまう特別受益になっていた」というような事態が生じてしまうからです。

例えば被相続人が、「相続人は実子2人だけ、遺産は数億円あるので、5,000万円までの生前贈与であれば遺留分を侵害しないだろう。」と考え、30年前に実子の1人に生前贈与をしたとしましょう。生前贈与を受けた実子も、遺留分を侵害する贈与ではない、と金額を確認した上で受け取りました。もしこのケースで被相続人の事業が傾き、30年後の遺産相続開始時には遺産が500万円しか残っていなかったとしたら、どうでしょうか。被相続人も受贈者も、生前贈与した時には遺留分を侵害することになるとは想定できなかったかもしれません。

このような場合にまで、特別受益の分を遺留分侵害額の算定に加えてしまうと、贈与の時から長い年月が経過後、その贈与によって遺留分侵害額が大きく変動することになってしまうため、法的安定性が著しく害されると考えられていたのです。

また、相続人以外の受遺者や受贈者といった第三者は、被相続人と相続人の間で行われた数十年も前の贈与については、あったかどうかも知り得ないのが通常です。このような場合にまで、何十年も後から多額の遺留分侵害額請求を受けることになってしまう、という不測の損害を被るおそれがありました。

このような、何十年も前に行われた贈与が遺留分侵害額の計算に含まれることによって生じる「法的安定性の阻害」や「第三者への不測の損害」を解消する目的から、10年という期間制限が設けられることとなったのです。

ただし、10年以上前の贈与であっても、他の法定相続人の遺留分を侵害することを知っていてなされた生前贈与は、遺留分侵害額請求の対象となりますので、その特別受益分を持ち戻して遺留分侵害額を計算する必要があります。

なお、相続人以外の人に対する生前贈与については、相続開始前1年以内になされた贈与のみが遺留分侵害額請求の対象です。

特別受益の時効に関するQ&A

Q1.特別受益に時効はありますか?

A:特別受益そのものに時効という概念はありません。どれだけ昔の贈与であっても、特別受益として持ち戻しされることになります。ただし、遺産分割をする際に、特別受益があったことを主張することに関しては、相続開始から10年という時効があります(民法第904条の3)。また、遺留分額を計算する際には、相続開始前10年以内の特別受益、と時効が定められています(民法第1044条)。

Q2.令和5年4月1日に施行された改正法によって、特別受益のルールはどのように変わりましたか?

A:令和5年4月1日に施行された法改正により、相続が開始してから10年を経過した場合には、特別受益を主張できなくなりました。相続開始後10年以内に遺産分割が終わらず、家庭裁判所に遺産分割の調停等を申立てもしていなければ、特別受益は認められなくなります。

Q3.特別受益の時効が問題になるケースとして、どういったものが想定されますか?

A:特別受益そのものに時効はありませんが、主に特別受益があったことを主張する権利を行使できる期間や、遺留分算定の基礎となる「財産の範囲」を確定させる際などに、「相続開始から10年以内」などの期間制限が問題となることが考えられます。

まとめ

この記事では、特別受益の時効について、弁護士が詳しく解説させていただきました。

令和5年4月1日以降、特別受益に関して新しいルールが適用されるようになったこともあり、特別受益のあった相続人と特別受益のない相続人との間で、トラブルが生じることも懸念されます。

特別受益の有無について争いになった場合、当事者同士での話し合いで解決するのは簡単ではありません。冷静に交渉を進めることのできる、法律の専門家である弁護士に、なるべく早めにご相談いただければと思います。

弁護士は、特別受益の主張に際して適切な証拠を収集するほか、相手方との交渉、法的手続きの代行など、依頼者の代理人としてさまざまなサポートをいたします。

弁護士法人あおい法律事務所では、弁護士による法律相談を初回無料で行っております。特別受益に関するお悩みだけでなく、遺産相続全般についてのお悩みなども、幅広くお受けしておりますので、まずは一度無料相談にお越しいただければと思います。

なお、対面でのご相談だけでなくお電話によるご相談も行っておりますので、当ホームページのWeb予約フォームやお電話にて、ぜひお気軽にお問合せください。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。