孫が遺産相続出来る場合とその割合│祖父母の遺産を渡す方法と相続税の注意点も

法定相続人

遺産分割

更新日 2024.06.04

投稿日 2024.01.25

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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多くの祖父母は、自らの生涯を通じて築き上げた財産を孫に渡したいと願うことが少なくありません。しかし、遺産相続のルールや税制は複雑で、孫がどのようにして遺産を相続できるのか、どの程度の割合で受け取れるのかは一般的にはあまり知られていません。また、税法の中には孫の相続に関する特別なルールや例外も存在します。

この記事では、孫が遺産相続する際の条件、相続の割合に関してわかりやすく解説します。さらに、祖父母が遺産を孫に渡す最も効果的な方法や、相続税に関する注意点も詳しく説明します。遺産相続は、感情的な側面と法律的な側面が絡み合うデリケートな問題です。適切な知識と理解を持つことで、将来的なトラブルを避け、家族全体が円満に遺産を受け継ぐことができるようになります。孫への遺産相続をスムーズに進めるための手引きとして、ぜひ本記事をお役立てください。

目次

孫は原則として法定相続人ではない

法定相続人になれる人

法定相続人とは、民法で指定された人が亡くなった時にその財産を受け取ることができる人のことを指します。これは血のつながりのある家族だけが対象となり、その中でも特に優先される人だけが法定相続人として認められます。

法定相続人になれる人は民法で次のように定められています。

相続順位

相続人

配偶者

常に相続人となる

第一順位

子ども(子が既に死亡している場合は孫)

第二順位

親、祖父母(両親が既に死亡している場合は祖父母)

第三順位

兄弟姉妹(兄弟姉妹が既に死亡している場合は甥・姪)

この表から、被相続人の配偶者が最初に相続人として考慮されます。その後、血族に基づき、子どもが最優先の相続人として考慮されます。もし子どもが先に死亡していた場合、孫が相続人となります。次に、親や祖父母が考慮され、両親が先に死亡していた場合は、祖父母が相続人となります。そして、最後に兄弟姉妹が考慮され、もし兄弟姉妹が先に死亡していた場合、その甥や姪が相続人となります。

法定相続人とは何かについて詳しくは、下記記事で解説しております。あわせて参照してください。

法定相続人とは?範囲と順位・相続割合について詳しく解説

孫が相続人となる場合

孫は、原則として民法上の法定相続人に該当せず、祖父母の財産を相続する権利はありません。ただし、例外的に次の場合には孫が相続人になることができます。

  1. 代襲相続:代襲相続とは、本来相続人となるべき人が、被相続人より先に亡くなったり、相続権を失ったりした場合に、その人の子がその地位を引き継ぐ制度です。例えば、被相続人の子が亡くなっている場合には、その子の子である孫が代襲して相続人となります。
  2. 養子縁組: 養子縁組とは、親子関係を法的に結ぶことです。養子は実子と同じように嫡出子として扱われ、相続権を有します。例えば、被相続人が孫と養子縁組をすると、孫は被相続人の実子と同じ相続権を得ます。

遺産相続するときの割合

上で述べたように、孫が法定相続人として相続権を持つのは、以下の2つの場面です。

  1. 子がすでに亡くなっているため、孫がその子の代わりに相続する「代襲相続」の場合。
  2. 養子として家族に迎えられた場合。

孫が代襲相続人や養子になった場合は、第一順位の法定相続人として「法定相続分」をそのまま孫が引き継ぎます。
代襲相続の場合は、法定相続人である子の地位をそのまま引き継ぐこととなり、養子の場合は実子と同じように扱われるためです。
具体的な遺産の分け方(法定相続分)は以下のとおりです。

  1. 相続人が配偶者と子の場合:財産の半分(2分の1)が子たちの間で平等に分けられます。
  2. 相続人が子だけの場合:全財産が子たちの間で平等に分けられます。
  3. 養子も実子と同様の割合で相続します。

特に代襲相続において注意が必要なのは、亡くなった子(被相続人の子)に複数の子供(孫)がいる場合です。この場合、孫たちはその亡くなった子の相続分を平等に分けることとなります。

例えば、被相続人の子に相続分として財産の半分(2分の1)が定められている場合、その子がすでに亡くなり、孫が2人いるならば、この2分の1の相続分は、2人の孫の間でさらに半分ずつ、つまり4分の1ずつに分けられることになります。

法定相続人の相続割合については、下記記事で詳しく解説しております。あわせて参照してください。

法定相続分とは?│法定の相続割合と計算方法を事例で解説します!

孫へ遺産相続するには

遺言書を作成する│遺言による遺産相続

 

寄贈

 

遺産相続において、通常は「法定相続人」が財産を受け継ぐものですが、遺言書を使うことで、法定相続人でない孫にも遺産相続させることが可能です。「遺贈」とは、遺言により無償で財産を移動させる行為を指します。この遺贈には、主に次の2つの方法があります。

  1. 包括遺贈:これは、遺言者の全財産の一定の「割合」を遺贈する方法です。(例: 「全遺産の4割)を孫に遺贈する」。この方法の特徴は、具体的な財産を指定しない点です。ただし、この方法での遺贈は、財産だけでなく、一定の割合の負債も引き継がれることに注意が必要です。
  2. 特定遺贈:こちらは、特定の財産だけを遺贈する方法です。(例: 「私の持っているA町の土地を孫に遺贈する」。)この方法を使った場合、負債の引き継ぎは発生しません。
さらに重要な点として、孫が遺贈によって財産を受け継ぐ場合、相続税が課されます。このとき、孫は祖父母の財産を直接相続する形となるので、通常の相続税額に2割加算される点も覚えておきましょう。

養子縁組をする│「子」として遺産相続する

祖父母は、養子縁組を通じて孫を自らの「子」として認定することができます。相続において、最も優先される「子」のカテゴリーには、実の子供だけでなく「養子」も含まれます。これを利用すると、祖父母は孫に直接財産を相続させることが可能となります。

この方法は、特定の孫に財産を確実に相続させたい場合に有効です。しかし、養子縁組については、家族間での意見の対立が生じることも少なくありません。したがって、行う前に家族内での十分な協議が必要です。

また、もう一つのポイントとして、孫が養子縁組を経由して財産を相続する場合、通常の相続税に加えて「2割の加算税」が課されることを知っておく必要があります。

生前贈与をする│非課税制度を活用することで相続税対策も

生前贈与とは、相続や遺贈を待たず、生きている間に財産を移すことです。これにより、課税対象となる財産の額が減少し、相続税の負担を軽くすることができます。
贈与税の非課税制度を活用する方法は以下の3つです。

  1. 暦年課税制度を利用する方法:この制度は、1月から12月の間の贈与に対して適用されるものです。年間に110万円までを贈与すると、それは非課税の枠内として認識されます。しかし、この額を超えて贈与する場合、超過した部分については贈与税が課されます。したがって、年間120万円を贈与した場合、10万円の部分に対して税金がかかることとなります。
  2. 相続時精算課税制度を利用する方法: 大きな額の贈与を予定している方には、この制度がおすすめです。利用するためには、「相続時精算課税選択届出書」を税務署へ提出する手続きが必要となります。この制度を選択することで、贈与者と受贈者間の累計で2500万円までの贈与が贈与税の対象から免除されます。ただし、この額を超えた部分については、贈与税がかかることとなります。
  3. 特定の目的のための非課税制度を利用する方法: 教育のための資金や、結婚・子育てのサポートとしての贈与、さらには住宅の取得やリフォームの資金など、特定の目的を持った贈与に対して非課税の特例が設けられています。具体的には、教育資金として子や孫へ一括で1500万円まで、結婚や子育てのサポートとしては1000万円まで、そして住宅の取得やリフォームのための資金としても1000万円までが非課税の対象となります。

生前贈与をしてこれらの非課税制度を利用することで、将来の相続税の負担を減少させることができるため、相続税対策として取り入れるのがおすすめです。

生命保険の受取人にする

生命保険の死亡保険金は、指定された受取人に直接支払われるため、他の遺産とは別に管理されます。したがって、孫を受取人として指定することで、その保険金は孫だけのものとなり、他の相続人はこれを分けてもらう権利が生じません。

しかし、この保険金は相続税の計算上、特定の条件下で「みなし相続財産」と見なされることがあるので、税金の負担が発生する場合もあります。

相続税に注意が必要!

相続税がかかる│生前贈与の非課税枠にも

孫が上で述べた方法で遺産を受け継ぐ場合、相続税が発生することを理解しておく必要があります。
まず、死亡保険金は特別で、受取人にとっての直接の財産とはいえ、「みなし相続財産」と見なされ、相続税の対象になることがあります。また、相続時精算課税制度を通じて行われた2500万円までの贈与は、当初は非課税とされるものの、後に相続が発生した時、その贈与された額は相続財産として全額計上されます。

さらに、教育や結婚、子育てのサポートとして贈られた金額に関しても、もし亡くなった時にその資金が使い切られていない場合、残った部分に対して相続税が課されることが考えられます。これらの点を考慮して、孫への贈与や遺産の受け継ぎに際しての税務対策をしっかりと計画することが大切です。

2割加算される

相続税は、どのような関係の人が遺産を受け継ぐかによって、その税額が変わります。
特に、被相続人の1親等の血族以外が受け取る相続税は、通常よりも2割多くなることが一般的です。孫も基本的にはこの追加の2割加算が適用される対象です。

ただ、ここで注意したいのは「代襲相続人」という特例です。これは、例えば、子が先に亡くなり、孫がその代わりに遺産を受け継ぐ場合を指します。このような場合、孫は直接の相続人とみなされ、追加の2割の税金はかからなくなります。また、この特例は、孫が養子として迎えられ、その養子が代襲相続人となる場合にも適用されます。

基礎控除の計算│実子がいる場合は孫の養子は1人まで

相続税の際、基礎控除額という要素が考慮され、これは「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。法定相続人が増加すると、控除額も増え、相続税の負担が減る可能性があります。
孫を養子にした場合、相続人が増えるため、基礎控除額も上昇し、結果的に相続税の負担が軽減される可能性が高まります。

ただし、注意点として、もしも実の子供がいる場合、相続税の計算の上で、孫を養子にできるのは1人だけという制限がある点を忘れてはなりません。法的には養子の数に制限はないのですが、税務上の制約としてこのルールが適用されます。
さらに、養子として迎えた孫が遺産を受け継ぐ場合も相続税が2割加算される点も注意が必要です。

孫へ遺産相続するデメリット│トラブルに注意

相続は家族間の感情や関係に大きな影響を及ぼす可能性があり、特に孫への遺産分配は慎重な取り扱いが求められます。祖父母が孫に多くの遺産を残す意向であっても、これが他の直接の相続人、例えば実子の取り分を減少させると、不満やトラブルの原因となる可能性が高まります。実子が「もっと遺産を受け継げたはず」と感じることや、孫が家族内で孤立するリスクも考慮されるべきです。

法的には、各相続人に最低限保障される遺留分が存在し、これを無視した遺産の分配は後々の法的トラブルを引き起こす恐れがあります。

そのため、孫への遺産の分配は、家族の感情や法的権利を考慮し、コミュニケーションをとりながら慎重に進めることが重要です。

孫への遺産相続に関するQ&A

Q1. 孫への遺産分配に際して気をつけるべきことは?

A1. 孫への遺産相続は細心の注意が必要です。他の相続人の遺留分を侵害しないように注意するとともに、家族間の感情や関係を損ねないような配慮が必要です。

Q2. 孫を養子にすることで相続税上のメリットはありますか?

A2. 孫を養子にすることで、基礎控除額が増える可能性があります。しかし、孫の受け取る遺産に課税される相続税の金額は2割加算されることも考慮する必要があります。

Q3. 孫の遺留分はどのように計算されますか?

A3. 孫の遺留分は、孫が代襲相続人として相続権を行使する場合にのみ関連します。孫の親が先に亡くなった場合、孫はその親の代わりに相続権を有するため、その親が生前に持っていた遺留分の権利を孫が継承します。

Q4. 遺産を分割して、孫に一部を遺す方法はありますか?

A4. はい、遺言により遺産の分割を指定することができます。孫に特定の財産や一定の割合を遺すことを明記することで、遺産を希望通りに分割して相続させることができます。

Q5. 孫として遺産相続を放棄することはできますか?また、放棄した場合の影響は何ですか?

A5: はい、孫としても遺産相続を放棄することは可能です。放棄する場合、放棄の意思表示をするための手続きが必要となります。放棄した場合の最も大きな影響は、放棄した遺産の相続権が消滅することです。その結果、遺産は次に順位の高い相続人に移ることになります。

まとめ

祖父母から孫へ遺産相続することは、感情的な価値が大きく節税対策にもなる一方で、様々な複雑な問題を引き起こす可能性もあります。他の相続人の相続分が減少することで、家族間のトラブルの原因となることが少なくありません。特に、孫と他の相続人との間に対立が生じると、将来的な親戚関係にも悪影響を及ぼす恐れがあるのです。

そのため、孫へ遺産相続した場合は、計画的な対応が求められます。家族の感情や法的権利を考慮し、生前にコミュニケーションをとりながら慎重に進めることが重要です。遺産の分配に関する意向や考えを事前にしっかりと共有し、理解し合うことで、争いを回避することが可能となります。
最後に、遺産相続の手続きや準備には専門的な知識が必要です。専門家である弁護士の意見や助言を取り入れることで、より安全かつ円滑な遺産相続を実現できます。ぜひ当事務所にご相談ください。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。