内縁の妻と相続|内縁関係・事実婚の遺産相続を弁護士が徹底解説!

内縁の妻とは、正式な婚姻手続きを経ていなくても、実質的に夫婦として生活を営む人を指します。
内縁の妻は、配偶者と認められるための公的な手続きを経ていないため、内縁の夫が亡くなった場合にその遺産を相続することができるのかが問題となります。
近年は婚姻の形態も多様化しており、夫婦別姓などの観点から、事実婚を選択する男女も少なくありません。そのため、内縁の妻に遺産を残すことができるのか、といった問題は今後ますます身近なものとなっていくことでしょう。
そこでこの記事では、内縁の妻の遺産相続について、弁護士が詳しく解説させていただきます。
内縁関係における相続権の基本について確認し、内縁の妻に遺産を残すためにどういった方法があるのか、生前のうちに取り得る対策もご紹介いたします。
法的な結婚をしていないからといって、遺産を一切受け取ることができないわけではありません。
この記事が、内縁関係の相続について少しでもご参考となりましたら幸いです。
目次
内縁の妻の相続
1.内縁の妻の相続権
1-1.内縁の夫が死亡したら内縁の妻は相続できる?
内縁の妻とは、法律上の結婚はしていないものの、実質的に夫婦としての生活を送る女性のことを指します。このような関係を「事実婚」とも呼びます。両者がお互いを夫婦と認識し、生活を共にしている実態がある場合に、事実上の婚姻として認められることがあります。
法律婚の夫婦と異なり、内縁の妻は法律上の「配偶者」ではありません。そのため、内縁の夫が死亡した場合に、内縁の妻に遺産相続する権利が認められるかが問題となります。
1-2.内縁の妻は法定相続人にならない
さて、民法によって相続人となる可能性のある人のことを「法定相続人」といいます。婚姻や血縁関係によって、遺産相続するほど被相続人と密接な関係性があると考えられている人です。
法定相続人には、法律上の配偶者(民法第890条)、被相続人の子供や孫(民法第887条)、父母や祖父母などの直系尊属と被相続人の兄弟姉妹(民法第889条)が挙げられます。
そして、内縁の妻は、法定相続人にはなりません。
1-3.法定相続分や遺留分も内縁の妻には認められない
法定相続人にならないということは、原則として内縁の妻に相続権はない、ということです。そのため、長年に渡って共同生活を続けてきて一緒に財産を築上げてきたとしても、相続の際に法律上の権利を主張することができません。
例えば、内縁の夫の遺産について、民法に定められている法定相続分(民法第900条)を主張することもできません。また、法律上最低限保障された取り分である遺留分(民法第1042条)を請求する権利も持たないことになります。
1-4.寄与分や特別寄与料も認められない
共同相続人の中で、被相続人の財産の維持や増加に特別の寄与をした者がいる場合に、その相続分を修正する「寄与分」という制度があります(民法第904条の2第1項)。
民法第904条の2第1項 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
寄与分は相続分を修正するということから、「相続人」に認められる制度であり、仮に内縁の妻に寄与分を認めると、それは実質的に相続権を与えることと同じであるとして、内縁の妻に寄与分は認められていません。
また、被相続人の介護などの生活上の貢献を考慮し、遺産の一部を請求できる「特別の寄与」という制度があります(民法第1050条1項)。
民法第1050条1項 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。
ですが、特別寄与料については「被相続人の親族」に限定されています。親族の範囲は、法律上以下のとおり定められており、内縁の妻は該当しません。
(親族の範囲)
民法第725条 次に掲げる者は、親族とする。
一 六親等内の血族
二 配偶者
三 三親等内の姻族
1-5.内縁の妻と相続放棄
相続人は、遺産相続をしたくない場合に、家庭裁判所に対して「相続放棄の申述」という手続きを行い、相続権を放棄することが可能です。
そして、相続放棄の申立権者は「相続人」であるため、基本的に法定相続人でない内縁の妻に、相続放棄することは想定されていません。放棄する相続権がないからです。
もっとも、遺言により遺贈を受けている場合には、「遺贈の放棄」をする余地があります。
遺贈には、財産を特定せずに全部または一定の割合で譲り渡す「包括遺贈」と、特定の財産を譲り渡す「特定遺贈」があります。
包括遺贈を受けた者(包括受遺者)は、相続人と同一の権利義務を有するため(民法第990条)、相続人の相続放棄と同様の方法で、遺贈の放棄をすることになります。
特定遺贈を受けた者(特定受遺者)は、家庭裁判所への申述は不要です。遺言者の死亡後、いつでも遺贈を放棄することができ、その意思表示を相続人や遺言執行者に対して行うことで足ります。そして、遺贈を放棄すると、遡って遺言者が亡くなった時から遺贈を受けなかったことになります(民法第986条2項)。
とはいえ、内縁の妻は法律上の相続人ではないため、相続放棄ではなく、あくまで「遺贈の放棄」です。
2.内縁の妻の子に相続権はある?
内縁の関係にある女性との間に生まれた子どもは、認知されていれば法定相続人となり、相続権を持ちます。
したがって、非嫡出子(婚姻関係にない両親から生まれた子ども)であっても、父親から正式に認知された場合、嫡出子(法的な結婚を結んだ両親のもとに生まれた子ども)と同等の相続権を持つことになります。
従来は、非嫡出子の相続分は嫡出子の半分とされていました。ですが、平成25年に民法が改正されたことにより、現在は認知された非嫡出子は、嫡出子と全く同じ相続分を持つこととなっており、遺留分を請求する権利も保障されています。
それでは内縁の夫の存命中に認知されなかった場合、子の相続権はないのでは、と思われるかもしれませんが、父親が生前に認知しなかった場合でも、死後に子どもが認知を求める訴えを起こすことが可能です(死後認知)。
認知の訴えは、父親の死後3年以内に提起する必要があります(民法第787条)。認知の効力は、子の出生の時にさかのぼって発生するため(民法第784条)、請求が認められた場合は実子と同じように相続人となります。仮に遺産分割協議が終わっていても、死後認知が認められれば、他の相続人に対して法定相続分に相当する金銭を請求することが可能です。
(認知の訴え)
民法第787条 子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、認知の訴えを提起することができる。ただし、父又は母の死亡の日から三年を経過したときは、この限りでない。(認知の効力)
民法第784条 認知は、出生の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者が既に取得した権利を害することはできない。
なお、子の認知は遺言によってもすることができます(民法第781条2項)
(認知の方式)
民法第781条 認知は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによってする。
2 認知は、遺言によっても、することができる。
事実婚の遺産相続
1.内縁の妻に遺言書で遺贈する
法律上相続権がなくても、遺言書によって遺贈することで、内縁の妻に財産を渡すことが可能になります。遺言書は亡くなった人の意思表示であるため、遺言により指定された内容は、法定相続に優先することとされているからです。
例えば、内縁の夫が遺言で明確に「内縁の妻に現金2,000万円を遺贈する」などと記載しておけば、内縁の妻はその財産を受け取ることができます。
ですが、内縁の妻に全財産を渡す旨の遺言を残していたとしても、内縁の夫に法定相続人がいる場合には、注意が必要です。
法定相続人には、法律で最低限受け取ることのできる取り分(遺留分)が保障されています。もし遺言による遺贈が法定相続人の遺留分を侵害していた場合、内縁の妻は法定相続人から遺留分に相当する金銭の支払いを求められる可能性があります(遺留分侵害額請求)。
そのため、遺言を作成する際には、法定相続人の遺留分も考慮しておく必要があります。
2.生前贈与しておく
内縁の妻に財産を渡す方法の一に「生前贈与」があります。
内縁の夫が生きているうちに、内縁の妻に財産の一部または全部を無償で譲渡する方法です(民法第549条)。贈与は、贈与者の一方が財産を無償で与える意思を示し、相手方(受贈者)がそれを受諾することで成立する契約です。書面でなく口頭による意思表示でも成立しますが、内縁の夫と内縁の妻の両方の合意が必要となります。
1年間の贈与額が110万円までは基礎控除(租税特別措置法第70条の2の4)が適用されますので、なるべく早めに生前贈与を開始し、1年間に110万円までの贈与を繰り返すことで、節税しながら内縁の妻に遺産を残すことが可能です。
ただし、将来にわたる贈与(定期贈与)の約束をした場合、その約束をした年に、贈与予定の総額に対して一括で贈与税が課されることがあります。例えば、「内縁の妻に預金1,100万円を、今後10年間で毎年110万円ずつに分けて贈与する」と約束すると、口頭か書面かを問わず、その総額1,100万円について、定期贈与を約束した年に贈与税が課せられることになるのです。
生前贈与を定期贈与とみなされないためには、振込みの時期を毎年バラバラにする、振り込む金額を110万円に統一しない、一度の贈与ごとに必ず個別の贈与契約書を作成する、といった対策をしておくことをおすすめいたします。
3.特別縁故者として財産分与請求をする
内縁の妻が内縁の夫の「特別縁故者」に当たると認められた場合、相続財産を受け取ることができる可能性があります(民法958条の2)。
(特別縁故者に対する相続財産の分与)
民法第第958条の2 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2 前項の請求は、第九百五十二条第二項の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。
具体定期には、以下のような人を特別縁故者といいいます。
- 被相続人と生計を同じくしていた人
- 被相続人の療養看護に努めた人
- その他被相続人と特別の縁故があった人
内縁の妻が特別縁故者として相続財産の分与を請求する流れは、以下のとおりです。
内縁の妻が特別縁故者として相続財産の分与を請求する流れ
特別縁故者への財産分与が行われるのは、被相続人に相続人がいない場合に限られます。そのため、内縁の夫について遺言の有無や法定相続人の有無を確認し、相続人の有無が不明な場合、家庭裁判所が相続財産の清算人を選任します(民法第952条1項)。相続財産の清算人は、内縁の夫に借金などがあれば債権者に対して相続財産から弁済し、財産の清算を行います。
財産の清算と並行して、6か月以上の期間の「相続人捜索の公告」が行われます(民法第952条2項)。相続人捜索の公告によっても相続人が現れず、または現れても相続放棄した場合、公告期間の終了によって相続人の不存在が確定します。このときに清算後に財産が残っていれば、公告終了から3か月以内に家庭裁判所で特別縁故者への財産分与を申し立てることで、内縁の妻は相続財産を受け取れる可能性があるのです。
なお、内縁の妻だからといって、必ず財産分与が認められるとは限りません。家庭裁判所は、① 内縁の妻が内縁の夫と特別な縁故関係にあり(特別縁故者該当性)、② 内縁の妻に財産分与することと、その額の相当性(分与相当性)があると判断した場合に、相続財産の全部または一部を分与します。
4.内縁の妻を生命保険の受取人にする
保険会社によっては、内縁の妻を生命保険の受取人として認めている場合もあります。
通常、生命保険を悪用した不正行為を防止するため、生命保険の受取人は法律上の配偶者や二親等内の親族に限られていることが一般的です。ですが、例えば「法的な配偶者がおらず、内縁の妻と一定期間以上同居して生計を立てている」といった条件に該当した場合、内縁の夫の生命保険の受取人になれる可能性があります。
5.借地権・借家権を活用する
借地権や借家権は、それぞれ建物の所有や賃借を目的とする権利であり、財産権として相続の対象になります。そのため、内縁の夫が賃借していた建物に居住していた内縁の妻は、内縁の夫に相続人がいない場合、継続して居住できる可能性があります(借地借家法第36条)。
(居住用建物の賃貸借の承継)
借地借家法第36条 居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合において、その当時婚姻又は縁組の届出をしていないが、建物の賃借人と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継する。ただし、相続人なしに死亡したことを知った後一月以内に建物の賃貸人に反対の意思を表示したときは、この限りでない。
2 前項本文の場合においては、建物の賃貸借関係に基づき生じた債権又は債務は、同項の規定により建物の賃借人の権利義務を承継した者に帰属する。
ただし条文にあるとおり、内縁の夫が相続人なしに死亡したことを知った後1か月以内に、賃貸人に対して借家権を承継しない旨の意思表示をした場合は、内縁の妻に借家権は承継されません。
内縁の夫に相続人がいる場合については、法律上の規定はありませんが、賃借人であった内縁の夫が死亡し、相続人がいる場合に、家主(賃貸人)が内縁の妻に家屋の明渡しを求めた事案において、内縁の妻は賃貸人との間で相続人の賃借権を援用し、居住する権利を主張できると認めた裁判例もあります(最高裁判所昭和42年2月21日判決)。
6.遺族補償や遺族年金を受給する
6-1.遺族補償
労働災害が原因で労働者が亡くなった場合の遺族補償については、内縁の配偶者も遺族補償給付の対象になることが認められています(労働基準法第79条、労働者災害補償保険法第16条の2)。
(遺族補償)
労働基準法第79条 労働者が業務上死亡した場合においては、使用者は、遺族に対して、平均賃金の千日分の遺族補償を行わなければならない。労働者災害補償保険法第16条の2 遺族補償年金を受けることができる遺族は、労働者の配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹であつて、労働者の死亡の当時その収入によつて生計を維持していたものとする。ただし、妻(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。以下同じ。)以外の者にあつては、労働者の死亡の当時次の各号に掲げる要件に該当した場合に限るものとする。
一 夫(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。以下同じ。)、父母又は祖父母については、六十歳以上であること。
二 子又は孫については、十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあること。
三 兄弟姉妹については、十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあること又は六十歳以上であること。
四 前三号の要件に該当しない夫、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹については、厚生労働省令で定める障害の状態にあること。
② 労働者の死亡の当時胎児であつた子が出生したときは、前項の規定の適用については、将来に向かつて、その子は、労働者の死亡の当時その収入によつて生計を維持していた子とみなす。
③ 遺族補償年金を受けるべき遺族の順位は、配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹の順序とする。
6-2.遺族基礎年金
国民年金には、保険料を支払っていた者が亡くなった際に、その配偶者や子供に対して支給される「遺族基礎年金」があります。遺族基礎年金については、内縁の配偶者にも法律上の配偶者と同等の受給資格があるとされています(国民年金法第5条7項、同第37条本文)。
(用語の定義)
国民年金法第5条7項 この法律において、「配偶者」、「夫」及び「妻」には、婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むものとする。(支給要件)
国民年金法第37条(本文) 遺族基礎年金は、被保険者又は被保険者であつた者が次の各号のいずれかに該当する場合に、その者の配偶者又は子に支給する。
6-3.遺族厚生年金
また、厚生年金保険の被保険者が死亡した際に遺族に対して支払われる遺族厚生年金に関しても、内縁の配偶者が法律上の配偶者と同様に受給資格を有しています(厚生年金保険法第3条2項、同第59条)。
こうした給付金や年金を受給するには、内縁関係を証明する書類が必要となるため、事前に確認しておきましょう。
内縁の妻と相続法改正による影響
1.内縁の妻に配偶者居住権は認められる?
2020年4月の相続法改正により、配偶者居住権や配偶者短期居住権が新たに設けられました。これにより、被相続人の死後も、終身にわたって住宅に居住することが可能な終身の配偶者居住権、または遺産分割が完了するまで最低6か月間、無償で住宅に居住できる配偶者短期居住権が認められるようになったのです。
しかしながら、これらの権利は法律上の配偶者に限定されており、内縁の妻は対象外となっています。内縁の妻は、配偶者居住権や配偶者短期居住権を得ることはできません。つまり、内縁の夫が亡くなった際に、その遺産を相続する法定相続人が住宅から立ち退くよう内縁の妻に要求する場合、内縁の妻はこれに対抗する直接的な法的根拠を持たないのです。
2.内縁の妻の居住をめぐる事例
ですが、裁判所の判例を見ると、実務では内縁の妻に対してある程度の配慮がなされています。
例えば、内縁の妻を内縁の夫の死亡と同時に住居から追い出すことが「権利の濫用」に当たるとし、一定の条件下で立ち退き請求を否定した事例があります。
内縁の妻への立ち退き請求を「権利濫用」に当たるとして棄却した判例
この事案では、重婚的内縁関係にあった夫が死亡し、その相続人である長男が、重婚的内縁関係の妻に対して建物明け渡しと賃料相当損害金を請求しました。裁判所は、内縁の夫の死亡後は、内縁の妻が建物を単独で無償使用する旨の黙示の合意があったと認定した上で、「被相続人が死亡するまで、被相続人と被相続人の妻の生活を知ろうと思えば知り得たが敢えてこれを知ろうとせずに放任し、同人らの労働によって得られた収入から生活費を受領して育てられ、被相続人を責めることもしていなかった原告が、被相続人が死亡した段階になって、突然、被告の権利をすべて否定し、本件建物の明渡し及び賃料相当損害金を要求することは、被告が被相続人の妻の法律上の妻としての権利を侵害している事実を考慮してもなお、権利の濫用として許されないというべきである。」と判断して、長男の請求を棄却しました。
(名古屋地方裁判所平成23年2月25日判決)
この他にも、以下のような判例もあります。
共有不動産における黙示の合意により内縁の妻の権利を保護した判例
内縁関係にあった被相続人とその内縁の妻は、共有する不動産を居住・共同事業のために共同で使用してきました。内縁の夫の死亡後も、不動産については内縁の妻がそのまま住み続け、単独で占有し事業のために使用を継続しました。これに対し、被相続人の子が「不動産については相続人である自分にも2分の1の持分がある。内縁の妻が不動産を単独で使用することによって、その賃料相当額の2分の1を法律上の原因なく利得している。」として、内縁の妻に対して不当利得返還請求をした事案です。原審は子の請求を認めたため、内縁の妻が上告しました。
裁判所は、「内縁の夫婦がその共有する不動産を居住又は共同事業のために共同で使用してきたときは、特段の事情のない限り、両者の間において、その一方が死亡した後は他方が右不動産を単独で使用する旨の合意が成立していたものと推認するのが相当である。けだし、右のような両者の関係及び共有不動産の使用状況からすると、一方が死亡した場合に残された内縁の配偶者に共有不動産の全面的な使用権を与えて従前と同一の目的、態様の不動産の無償使用を継続させることが両者の通常の意思に合致するといえるからである。」として、本件について「特段の事情のない限り、右両名の間において、その一方が死亡した後は他方が本件不動産を単独で使用する旨の合意が成立していたものと推認するのが相当である。」と判断し、不当利得返還請求を認めた原審の判決を破棄差し戻しとしました。
(最高裁判所平成10年2月26日判決)
内縁の妻の遺産相続の注意点
最後に、内縁の妻の遺産相続における注意点を確認しておきましょう。
1.相続税・贈与税などの特例が適用されない
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贈与税の配偶者控除の特例
婚姻期間(婚姻届の届日から贈与日までの期間)が20年以上ある法律上の夫から、居住用不動産やその購入資金の贈与があった場合、最高2,000万円まで控除される「配偶者控除の特例」制度があります(相続税法第21条の6)。ですが、内縁の妻は法律上の夫婦ではないため、配偶者控除の特例が適用されません。一方、贈与税の110万円までの基礎控除(租税特別措置法第70条の2の4)は適用されます。
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相続税の配偶者控除が適用されない
法律上の配偶者は、相続する遺産が「1億6,000万円または法定相続分相当額」の、どちらか多い金額までは相続税が免除される「配偶者の税額軽減(配偶者控除)」の適用を受けることができます。ですが、法律上の配偶者ではない内縁の妻は、配偶者控除を受けることができません。
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相続税の基礎控除額に含まれない
受け取る相続財産が相続税の基礎控除額(3,000万円 + 法定相続人の数 × 600万円)を超えたときには、相続税の申告・納税の義務が発生します。ですが、内縁の妻は法定相続人ではないため、基礎控除額の計算の「法定相続人の数」に含むことはできません。仮に内縁の妻だけが相続人となる場合、「3,000万円 + 法定相続人の数 0 × 600万円 = 3,000万円」なので、遺産が3,000万円を超えたら相続税が生じることになるのです。
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生命保険の非課税枠が適用されない
生命保険の非課税枠は、相続時に生命保険金や損害保険金を受け取る相続人に対して、「500万円×法定相続人の数」を限度に相続税が免除される制度です。ただし、生命保険の非課税枠を利用できるのは、受取人が法定相続人である場合だけなので、法定相続人ではない内縁の妻には適用されません。内縁の妻が保険金を受け取る場合、その保険金の全額が相続税の課税対象となります。
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小規模宅地等の特例が適用されない
被相続人が使用していた住宅や事業用宅地について、相続によってこれらの宅地を継承する場合、一定の条件を満たせば土地の評価額を最大80%減額することが可能です。ただし、適用を受けるためには取得者が親族であることが必要であり、親族には含まれない内縁の妻は、この特例の適用を受けることができません。
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相続税の障害者控除が適用されない
相続人が85歳未満の障害者である場合、85歳に到達するまで毎年10万円(特別障害者の場合は20万円)を相続税額から差し引くことができるという制度です。控除の対象となるのは法定相続人に限られており、法定相続人ではない内縁の妻は障害者控除を受けることはできません。
2.相続税が2割加算される
内縁の妻は、法律上の配偶者とはみなされないため、相続税の税率が高くなります。
具体的には、配偶者と一親等以内の血族以外の人について、相続税額の2割に相当する金額が加算されます(2割加算)。
相続税が2割加算されると、配偶者としての各種控除を受けることのできない内縁の妻にとっては、さらに大きな負担となってしまいます。内縁の妻に遺産を相続させたい場合は、相続税の節税対策を生前から検討しておくことが重要です。相続税の節税対策については、弁護士に相談することをおすすめいたします。
3.死亡届
内縁の夫が亡くなり葬儀などを執り行う場合に、「死亡届」を提出する必要があります。死亡届の提出は「戸籍の届出」に当たるため、本来は内縁の夫との関係を戸籍で確認できる家族や親族が届出人となることが一般的です。該当する親族などがいなければ、戸籍上の関係のない内縁の妻が届け出ることもできますが、戸籍で内縁の夫との関係性を確認できないため、死亡届の受理や火葬許可書の発行に時間がかかってしまうこともあります。
内縁の妻の相続に関するQ&A
Q1.内縁の妻に遺産を確実に残す方法はどのようなものがありますか?
A:内縁の妻に遺産を残す確実な方法としては、遺言書が挙げられます。遺言書によって、内縁の夫が死亡した後に内縁の妻へ財産を遺贈する旨を明記することで、法的な手続きを通じて財産を継承させることができます。また、生前贈与や生命保険の受取人指定も有効な手段です。ただし、これらの手段には税金の問題が伴うため、専門家との相談して進めていただければと思います。
Q2.内縁の妻は相続税法において配偶者の税額軽減を受けられますか?
A:内縁の妻は、相続税法における配偶者の税額軽減の特例の対象にはなりません。これは、法律上の配偶者にのみ適用される制度です。内縁の妻が受け取る相続財産や生命保険金には、一般的な相続税が課税され、その全額が課税対象となるため、税負担が大きくなることが予想されます。納税費用を確保しておくことが重要です。
Q3.内縁の夫と共に住んでいたマンションの契約が夫名義の場合、夫が亡くなったら内縁の妻が追い出されることはありますか?
A:内縁の夫名義の賃貸マンション契約の場合、夫の死亡により契約が終了する可能性があります。その結果、貸主は契約を更新せず、内縁の妻に退去を求めることができます。ただし、貸主との間で内縁の妻を契約者とする新たな賃貸借契約を結んで住み続けることも考えられます。
なお、裁判においては個別の事情を勘案して内縁の妻の居住を認めた事例もありますので、まずは弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。
まとめ
内縁の妻は法的に相続権が認められていないため、自動的に夫の財産を相続することはできません。
ですが、遺言による遺贈や生前贈与、特別縁故者としての権利申請など、適切な対応をすることで、内縁の夫の財産を受け継ぐことが可能です。複雑で時間のかかる方法も多いため、内縁の夫が健在なうちから、なるべく早めに準備を進めるようにしましょう。
また、相続に関する知識が不足していると、予期せぬトラブルに巻き込まれるリスクもあります。そのため、法律の専門家である弁護士にご相談いただければと思います。弁護士は、遺言の作成から相続税対策に関するアドバイスまで、幅広く支援させていただきます。
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この記事を書いた人
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
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