夫死亡による遺産相続、子供ありの場合妻の取り分は?│割合や注意点

法定相続人

更新日 2024.03.18

投稿日 2024.01.25

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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夫死亡という悲しみの中でも、家族はこれからの遺産相続について考えなければなりません。特に「子供あり」の家庭では、財産の分け方一つ取っても、子どもたちの将来がかかっています。

このコラムでは、家族を支えていた夫死亡の悲報を受けた後、家族が直面する遺産相続の手続きについて、特に「子供あり」のご家庭がどのように対処すれば良いのかを、弁護士がやさしく解説していきます。

目次

夫死亡時の妻と子供の遺産相続

夫が死亡する前に遺言書を作っていなかった場合、夫死亡後の遺産の分け方は民法の規定によります。これを「法定相続」といい、被相続人の意志がわからない時に、これをもとに誰がどのように遺産を受け取るかを決めます。

以下では、誰が法定相続人となるのか、どの順番で遺産を受け継ぐのか、それぞれどれだけの遺産を受け取るのかを解説します。特に、夫死亡後に妻と子供が残されるケースがよくありますが、妻と子供はどう遺産を受け取るのでしょうか?

配偶者(妻)は常に法定相続人

遺産を受け継ぐ権利(相続権)をもっている人の範囲は民法で明確に定められています。このような人を「法定相続人」といいます。
日本の法律において、法定相続人になれる人は以下のように定められています。
配偶者は常に法定相続人となるため、夫死亡時、まず遺産を受け継ぐ権利があるのは、配偶者である妻です。

常に相続人

配偶者

第一順位

子や孫など直系卑属

第二順位

親や祖父母など直系尊属

第三順位

兄弟姉妹

「子供あり」の場合の遺産相続│いない場合は次の順位に

子供がいる場合は、彼らも配偶者と共に相続人になります。もし子供が既に亡くなっている場合は、その子供の子、つまり孫が相続人となることがあります。(代襲相続)

子供や孫がいない場合、夫の親、つまり亡き夫の父母が相続人になります。そして、彼らも亡くなっている場合は、祖父母がその権利を持ちます。次に、夫の兄弟姉妹、彼らがいなければ、その子どもたちである甥や姪が相続人となります。このように、親族の中で誰が相続人となるかは、一定の順番に従って決められています。

配偶者と子供(1人・2人・3人)が相続人の場合の相続割合

民法では、法定相続人になれる人が決まっているだけでなく、相続人が遺産を相続する割合についても決まっています。これを「法定相続分」といいます。
夫が遺言を作成していなかった場合、この法定相続分によって遺産が分配されます。妻は常に遺産の1/2を受け取り、子供の数に応じて残りの1/2が子供らに均等に分配されることが決まっています。以下の表は、「配偶者あり・子供あり」の場合の具体的な法定相続分を示しています。

家族構成

妻の相続分

子供の相続分

妻と子供1人

1/2

1/2

妻と子供2人

1/2

1/4ずつ

妻と子供3人

1/2

1/6ずつ

妻の取り分は変わらない

このように、子供が1人の場合はその子供が残りの半分を全て受け取り、2人いる場合はそれぞれ1/2×1/2=1/4ずつ、3人いる場合はそれぞれ1/2×1/3=1/6ずつを受け取ることになります。子供の数が多くなればなるほど、一人当たりの取り分は少なくなりますが、妻の受け取る割合は変わりません。

妻と子供2人の遺産相続の具体例

上で解説した内容をもとに、相続人が配偶者(妻)と子供2人の場合の遺産相続について、具体的な例を挙げて解説しましょう。
例えば、夫が家、預貯金、株式など合計で1億円の遺産を残したとします。この場合、法定相続分に基づき、妻は半分の5000万円、子供2人はそれぞれ残りの半分を分け合うため、2500万円ずつを相続することになります。

家がある場合、家族がその家に住み続けたいと考えることが多いです。家の価値を市場価格で3000万円と評価したとすると、妻は家(3000万円)とさらに2000万円の預貯金や株式などを相続することになります。子供たちは、それぞれ2500万円の預貯金や株式を受け取ります。

法定相続分は、遺言がない場合に適用される基準となるものです。あくまでも基準であり、妻と子供たちがお互いに合意すれば、この割合は自由に変更することができます。例えば、もし妻が子供たちにより多くを譲りたいと思った場合、話し合いによってそのように分配の割合を調整することが可能です。

妻と子供2人のケースの遺産相続│妻が既に死亡している場合

ちなみに、夫死亡前に妻が既に死亡しており、相続人が子供たちだけの場合、どのような遺産相続になるのでしょうか。

例を挙げてみると、夫が不億円の遺産を残して亡くなったとします。ここで、夫と妻には2人の子供がおり、1人はすでに亡くなっており、その亡くなった子供には2人の孫がいるとします。

この場合、生存している子供は法定相続分として1億円の1/2、つまり5000万円を相続します。亡くなった子供が本来受け取るべき残りの5000万円は、その子供の孫たちが代わりに相続(代襲相続)することになります。その結果、2人の孫はそれぞれ2500万円を相続することになります。

 

妻と子供2人のケースの遺産相続│妻が既に死亡している場合

 

夫死亡時、妻と子供の遺産相続の注意点

妻が安心して生活できるように遺産を分けるべき

法定相続分に従って遺産相続した場合、妻は夫が残した不動産、例えば自宅の土地や建物を相続することになりがちですが、これが妻の相続割合の大部分を占めてしまうと、手元に必要な現金が不足する可能性があります。これでは日常の生活費に困ってしまいます。

妻の安定した生活を維持するためには、年金収入や支出を詳しく計算し、生活に必要な現金を保持できるよう適切な相続割合で遺産を分けることが重要です。

相続人同士がしっかりと話し合い、合意に達すれば、遺産を法定相続分通りに分ける必要はありません。実際には、残された配偶者が安心して老後を過ごすために、自宅不動産だけでなく全ての遺産を相続することを選ぶ家族も存在します。子供たちとの話し合いにより、妻が生活費に困らないように配慮してもらうことが大切です。

夫が離婚した前妻との間に子供がいる場合

離婚した妻との間に子供がいる場合、その子供も夫の財産を受け継ぐ権利があります。この子供は、夫と現在の妻との間にいる子供と同じく、第一順位の法定相続人となります。つまり、離婚した前妻との子供は、夫の財産に対して、現在の妻との子供たちと同じ割合の相続権を持つことになります。前妻自体には相続権はありません。

遺産を分ける話し合いは、全ての法定相続人の同意が必要となります。つまり、離婚した前妻との子供を遺産分割協議から外すことはできないということです。円滑な話し合いを進めるためには、相続に含まれる財産の範囲や詳細を明確に伝え、誠意を持って対応することが重要です。もし遺産分割協議がまとまらずトラブルが生じた場合は、家庭裁判所での調停や審判を申し立てることにより解決を図ることができます。

配偶者(妻)が全ての遺産を相続するには│方法とメリット・デメリット

配偶者が全ての遺産を相続する方法

配偶者が子供たちと共に相続人である状況で、配偶者に全財産を相続させるための方法は主に2つあります。

遺言書がある場合

遺言書で「配偶者にすべての財産を相続させる」と指定されていれば、配偶者は遺言に従って全財産を相続することになります。しかし、子供たちも法定相続人であるため、彼らが遺留分を主張すれば、遺言通りにはいかないことがあります。遺留分は、子供たちに保証された法律上の最低限の相続分です。子供たちが遺留分を請求すると、配偶者は遺留分に相当する金銭を支払う必要があります。

遺言書がない場合│遺産分割協議書を作成する

遺言書がない場合でも、配偶者と子供たちが相続について話し合い、全財産を配偶者が相続することで合意できれば、そのように決定することができます。子供たちも「母にすべての財産を相続させたい」と考えた場合、遺産分割協議書にその旨を記載します。

ここで注意したいのが、子供が相続放棄をしても意味がないということです。
妻にすべての財産を相続させようと、子供が相続放棄をしても、第2順位(父母)または第3順位(兄弟姉妹)の法定相続人が健在であれば、結局その人達との間で遺産分割協議を行うことになります。

妻に全ての遺産を相続するメリット│相続税が軽減される

配偶者である妻が全ての財産を相続することには大きな相続税上のメリットがあります。
相続が発生した際には、故人が残した財産の総額と、それを受け継ぐ相続人の法定相続分に基づいて相続税が計算されます。この時、配偶者には、この相続税を軽減する特別な措置が用意されています。
具体的には、配偶者が相続によって取得する正味遺産額が、次のいずれか高い金額までは、配偶者の相続税が免除されるものです。

  • 1億6,000万円
  • 配偶者の法定相続分に相当する額

この制度は、配偶者が夫の死後に経済的な困難に直面することなく、安定した生活を続けることができるようにするために設けられています。

ただし、この税額軽減を適用するには、遺産が実際に配偶者に分割されている必要があり、そしてその分割が相続税の申告期限内に行われている必要があります。分割がまだされていない財産にはこの軽減は適用されません。

配偶者がすべてを相続することで、この税金のメリットを最大限利用することができ、それは配偶者の安定した未来に直結するため、相続計画における重要な考慮点となるのです。
他にも以下のようなメリットがあります。

小規模宅地の特例を適用できる

相続税額を大幅に減らすことができる「小規模宅地等の特例」が適用できることが挙げられます。
小規模宅地等の特例は、被相続人から相続した事業用・居住用の宅地などについて、相続税の課税価格から最大80%を減額できる特例のことをいいます。

この特例には複雑な適用条件がありますが、被相続人の配偶者が特定居住用宅地を相続する場合は、この特例が無条件で適用されます。
また、減額後の金額が配偶者の税額軽減の基準となるため、税負担が軽くなることが期待できます。

妻に全ての遺産を相続するデメリット│妻が死亡した時の二次相続に注意

妻に全ての財産を相続させることには、相続税額が軽減できるというメリットがある一方で、長期的な視点ではデメリットもあります。特に、妻が亡くなった際に発生する二次相続での相続税が高くなる可能性があります。

二次相続とは、最初に配偶者(妻)と子供が相続する一次相続の後、その配偶者(妻)が亡くなった時に子供が行う相続のことです。高齢になるほど一次相続の後すぐに二次相続が発生する可能性が高まります。ここで注意が必要なのは、一次相続で相続税を抑えたとしても、二次相続では相続税が多額になることがあるということです。

このデメリットは主に二つの要因によります。

  • 相続税の基礎控除額が少なくなる
  • 配偶者の税額軽減措置が適用されない

まず、二次相続時は基礎控除が少なくなることが挙げられます。一次相続では妻と子供が相続人ですが、二次相続では妻がいなくなるため相続人数が減り、結果として基礎控除額が下がります。
相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
相続税の基礎控除は法定相続人の数に応じて増えるため、妻がいない二次相続では相続税額が増加することになります。

次に、配偶者の税額軽減措置が二次相続では適用されない点です。一次相続で配偶者が税額軽減のメリットを受けたとしても、二次相続ではその財産も相続税の対象となります。

さらに、二次相続では配偶者がもともと持っていた財産も相続税の計算に含まれるため、相続財産の総額が増えると税率が高くなります。その結果、一次相続で節税を図ったとしても、二次相続での税負担が大きくなるリスクがあるのです。

したがって、配偶者が安定した生活を送るのに十分な額を確保できるのであれば、全財産を配偶者に相続させるよりも、子どもにも相続させることで二次相続の時の税負担を抑えることが可能です。
長期的に見ると、配偶者に全ての財産を相続させるのは、デメリットが大きい場合も少なくありません。

夫死亡時の相続手続き│子供が未成年の場合は注意

夫死亡時に遺産相続の手続きを行う際の流れは以下のようになります。
手続きには法定の期限はありませんが、相続税が発生する場合、相続の開始を知った翌日から10ヶ月以内に税務署への相続税申告が必要になります。相続税の申告が必要な場合、以下の手続きが求められます

①死亡の届出

・死亡届:死亡を知った日から7日以内に提出が必要です。
・介護保険資格喪失届・世帯主変更届・住民票の抹消届:これらは死亡日から14日以内に提出します。

②相続人の確認と財産調査

・相続人の確認:戸籍謄本を収集して法定相続人を特定します。
・財産調査:不動産評価額や死亡時の預貯金額、生命保険の有無、負債の有無などを確認し、相続財産全体を把握します。

③遺産分割協議

法定相続分に従わない場合、相続人全員の合意で遺産の分配方法を決定します。

④相続税申告と納付

相続税の基礎控除額は「3,000万円 + (600万円 × 相続人数)」です。この範囲内であれば税務署への相続税申告や納付は不要です。
相続税申告は次のように様々な書類が必要です。

  • 相続税申告書:これは税務署に提出されます。
  • 戸籍謄本:故人の出生から死亡に至るまでのすべての戸籍謄本を集める必要があります。
  • 死亡診断書:医師が発行した死亡診断書を用意します。
  • 相続人の本人確認書類:マイナンバーカードや運転免許証などの写しを準備します。
  • 遺言書または遺産分割協議書:遺産の分配方法に関する合意が記載された書類を提出します。
  • 印鑑登録証明書:相続人全員分の印鑑登録証明書が必要です。
  • 金融資産証明書:預貯金の残高証明書や通帳のコピーを用意してください。
  • 不動産証明書:不動産の登記簿謄本や固定資産税評価証明書が求められます。
  • 葬儀費用の領収書:相続税申告時に葬儀費用の領収書が必要になります。

特に相続税手続きは複雑ですので、相続の専門家である弁護士に相談することをお勧めします。

子供が未成年の場合は

夫死亡後、妻が遺産相続の手続きを進める際に、法定相続人である子供が未成年である場合、いくつか注意すべき点があります。
未成年の子供は、成人と同様に遺産を受け継ぐ権利を持ちますが、自身で法律行為を行うことはできません。つまり、遺産分割協議に参加することができないため、通常は親権者である妻が、未成年の子供の法定代理人として遺産分割協議に参加します。

ただし、この場合には、妻と未成年の子供の利益が衝突する可能性があります。例えば、妻が遺産の全てを自分のものにしようとすると、子供の相続権が侵害されることになります。このようなことを防ぐため、子供のために「特別代理人」を選任する必要があります。特別代理人は、家庭裁判所に申し立て手続きを行うことで、選ばれます。この特別代理人は、親権者である妻や他の相続人とは別の親族から選ばることがほとんどです。他に、弁護士や司法書士などに依頼してなる場合もあります。

このように選定された特別代理人は未成年の子供のために、遺産分割協議で子供の利益を最優先に考えます。この代理人がいることで、子供が正当な遺産を受け取る権利をしっかりと守ることができます。

夫死亡による遺産相続に関するQ&A

Q1: 遺言書がない場合、夫の遺産はどのように分割されますか?

A1: 遺言書がない場合、夫の遺産は法定相続分に従って分割されます。配偶者である妻が1/2を、残りの1/2を子供たちが等分に相続します。具体的な分割方法は、相続人同士の話し合いや家庭裁判所の調停を通じて決定されることもあります。

Q2: 夫死亡時、子供が未成年の場合の相続にはどのような注意が必要ですか?

A2: 子供が未成年の場合、法定代理人(通常は生存している親)が相続の手続きを代わりに行います。ただし、相続に関する重要な決定をする際には、子供の利益を守るために家庭裁判所から特別代理人が選任されることがあります。

Q3: 夫死亡後、相続手続きはどのように始めるべきですか?

A3: 夫が亡くなった場合、まずは遺言書の有無を確認し、遺言書がなければ法定相続人が集まり遺産分割協議を開始します。遺産の範囲を明らかにし、必要に応じて専門家の助言を求め、遺産分割協議書を作成します。

Q4: 夫が離婚した前妻との間にも子供がいる場合、現妻と子供との相続に影響はありますか?

A4: はい、影響があります。夫に前妻との間に子供がいる場合、その子供も法定相続人となります。その結果、夫の遺産は現妻と全ての子供たち(現妻との子供と前妻との子供)で法定相続分に従って分割されます。

Q5: 配偶者が全ての遺産を相続する場合、どのような税法上のメリットがありますか?

A5: 配偶者が全ての遺産を相続する場合、配偶者の税額軽減措置を利用することができます。これにより、配偶者は1億6,000万円または法定相続分相当額まで相続税が免除されることがあります。さらに、小規模宅地等の特例や配偶者居住権といった制度を通じて、税負担を軽減することが可能です。ただし、これらのメリットは二次相続の税負担に影響を与えることがあるため、長期的な視点での相続計画が必要です。

まとめ

夫が亡くなった後、遺産相続は妻と子どもたちにとってとても大切な手続きです。遺産を公平かつ適切に分けるためには、家族だけの話し合いでは足りないことが多いです。

妻の老後の生活や、妻が亡くなった場合の二次相続にかかる税金、そして家やその他の財産の管理について、相続税の特別措置などをきちんと理解したうえで遺産相続を進める必要があります。こうした複雑な問題は、家族だけの話し合いで最適な解決策を見つけるのは難しいため、専門家への相談をお勧めいたします。

適切な専門知識とともに、家族全員が納得できる遺産の分配を目指しましょう。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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