兄弟による遺産相続│兄弟のみ相続人の時は?トラブルの対処法も

法定相続人

更新日 2024.11.08

投稿日 2024.01.25

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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遺産相続では、相続人の間でトラブルが生じることも少なくありません。特に、それぞれ独立して異なる立場・生活環境にいる兄弟姉妹などは、物理的・心理的距離感や主張の衝突から、さまざまな争いや問題が起きがちです。しかし、親族で遺産相続後も交流は続く関係ですから、できればトラブルを回避し、問題が生じた場合も穏便に解決したいですよね。

そのためには、兄弟姉妹で遺産相続をするケースについて、その概要と予想されるトラブル、トラブルの対処方法や注意点をおさえておくことが必須です。

兄弟姉妹で遺産相続をするパターンは、大きく分けて2つありますが、この記事では特に、そのうちの1つについて着目し、弁護士が詳しく解説させていただきます。

まず、兄弟姉妹が相続人となるのはどういった状況なのか、基本的なポイントをおさえましょう。そして、想定される争いの内容と、トラブルを回避するために取り得る対策についても、この記事でしっかり確認しておきましょう。

親族間の相続トラブルを軽減させるために、本記事が少しでもご参考となりましたら幸いです。

目次

兄弟による遺産相続とは?

ところで、そもそも「兄弟姉妹が遺産相続する場合」と聞いてイメージするケースは、次の2つのうちどちらのパターンでしょうか。

  1. 親が死亡し、その子供が複数いる場合の遺産相続
  2. 兄弟姉妹の一人が死亡し、残った兄弟姉妹で遺産相続

兄弟姉妹による遺産相続といっても、実は想定されるパターンは2つあるのです。

パターン1つ目の「親が死亡し、その子供が複数いる場合の遺産相続」は、相続人である子供から見ると「自分と兄弟姉妹による遺産相続」となりますが、被相続人から見ると「自分の子供による遺産相続」です。そのため、「兄弟姉妹による遺産相続」でこちらのケースが想定されることはあまりありません。

対して、パターン2つ目の「兄弟姉妹の一人が死亡し、残った兄弟姉妹で遺産相続」するというのは、兄弟姉妹の中に被相続人がいて、残った兄弟姉妹が亡くなった兄弟姉妹の遺産を分配するケースとなります。そのため、相続人である兄弟姉妹から見ても、被相続人から見ても、「自分の兄弟姉妹による遺産相続」といえます。

通常、兄弟姉妹での遺産相続として想定されるのは、この2つ目のパターンになります。

そこで、本記事でも「兄弟姉妹の一人が死亡し、残った兄弟姉妹で遺産相続」するケースを前提として、解説を進めさせていただきたいと思います。

兄弟に相続権があるケース

それでは、まずは遺産相続における被相続人の兄弟姉妹の立場について、簡単に見ていきましょう。

そもそも、被相続人の兄弟姉妹は、常に相続人になるわけではありません。遺言による特別な指定などがない限り、通常は次の順番で法定相続人になります。

常に相続人

配偶者(民法第890条)

第一順位

子供や孫など被相続人の直系卑属(民法第887条)

第二順位

親や祖父母など被相続人の直系尊属(民法第889条1項1号)

第三順位

被相続人の兄弟姉妹(民法第889条1項2号)

 

表の通り、被相続人の兄弟姉妹は第三順位の法定相続人です。

被相続人の配偶者は、他の家族や親族がいても、常に法定相続人となります。

なお、相続において配偶者とみなされるのは、被相続人の死亡時に法的な婚姻状態にある人だけです。そのため、事実婚の配偶者や元配偶者は法定相続人にはなれません。

そして、配偶者を除く親族については、被相続人の子供、被相続人の親、被相続人の兄弟姉妹の順に、法定相続人となります。

もし高い順位の相続人が存在する場合、順位が低い相続人は基本的に法定相続人として認められません。

したがって、被相続人の兄弟姉妹が法定相続人として相続権を得るのは、相続時に被相続人の子や父母が存在しない場合に限られるのです。

また、被相続人の子や父母が相続開始前に亡くなっていても、孫や祖父母が存命であれば、子の代わりに孫が、父母の代わりに祖父母が法定相続人としての地位を引き継ぐことになります。孫の相続順位は子供の相続順位である第一順位、祖父母の相続順位は父母の相続順位である第二順位なので、子や父母がいなくても、孫や祖父母がいる場合は、第三順位である被相続人の兄弟姉妹が法定相続人になることはないのです。

なお、被相続人の兄弟姉妹が法定相続人になる場合に、その兄弟姉妹が相続開始前に亡くなっている時は、死亡した兄弟姉妹の子供(被相続人にとっての甥・姪)が、第三順位の法定相続人の地位を引き継ぐことになります。相続開始時に甥・姪もいない場合、これ以上第三順位の地位が受け継がれることはありません。

兄弟のみで遺産相続する場合の相続割合

さて、第一順位・第二順位の法定相続人がおらず、被相続人の兄弟のみが法定相続人になる場合、気になるのはどれくらいの遺産を相続できるのかが気になりますよね。

 

被相続人の兄弟のみが法定相続人となる場合は、被相続人の遺産の全てを兄妹のみで均等に分配することになります。

例えば、5人兄弟がおり、長男が亡くなって、遺産として1億2000万円を遺したとしましょう。法定相続人は長男の兄弟のみなので、4人の相続人がいることになります。

全財産を4人で均等に分配するため、それぞれの相続割合は4分の1になります。

兄弟一人ひとりが受け取る遺産は、1億2000万円×4分の1=3000万円となります。

兄弟が遺産相続する場合の2つの注意点

以上が被相続人の兄弟姉妹による遺産相続の概要となりますが、兄弟姉妹の遺産相続では特に次の2点に注意してください。

代襲相続は一代だけ!

ある相続人が亡くなっている場合、その相続人の子供に相続権が移ることを、「代襲相続」といいます。直系卑属である被相続人の子供が亡くなっている場合は孫が、孫が亡くなっている場合はひ孫が、というように、次の世代に相続権が移るわけです。

被相続人の兄弟姉妹に関しても、この代襲相続が認められていますが、直系卑属である被相続人の子供の場合とは異なり、被相続人の兄弟姉妹の代襲相続は甥・姪までに限られます。つまり、甥や姪が既に亡くなっていた場合、その次の世代である甥・姪の子供に再代襲することはないのです。

相続税は2割加算されます

遺産相続で忘れてはならないのが、相続税です。

相続税とは、遺産相続で財産を受け継ぐ際にかかる税金です。その内容に応じて、相続税の金額が増減することがあるのですが、被相続人の兄弟姉妹が遺産を相続する場合、相続税の金額は2割加算されることになります。

この相続税の「2割加算」の制度は、被相続人の配偶者や、子供などの直系卑属、親などの直系尊属以外の人が遺産を相続する場合に適用されます(相続税法第18条1項)。

(相続税額の加算)
相続税法第18条1項 相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続又は遺贈に係る被相続人の一親等の血族(当該被相続人の直系卑属が相続開始以前に死亡し、又は相続権を失つたため、代襲して相続人となつた当該被相続人の直系卑属を含む。)及び配偶者以外の者である場合においては、その者に係る相続税額は、前条の規定にかかわらず、同条の規定により算出した金額にその100分の20に相当する金額を加算した金額とする。

また、兄弟姉妹が死亡しており、代襲相続が発生して甥や姪が相続する場合も、同じく2割加算が適用されることになります。

 

兄弟による遺産相続でもめるトラブル4選

兄弟姉妹での遺産相続を穏便に進めることができたら理想的ですが、どうしても相続争いのトラブルが起こりがちです。

単に相続分の主張などでもめるだけでなく、時には喧嘩や嫌がらせにまで発展してしまうケースも見受けられます。

実際にトラブルが起きた時に、落ち着いて対処できるよう、兄弟姉妹の遺産相続で起こりやすい主な4つのトラブルについて、簡単に要因を把握しておきましょう。

トラブル①一人が勝手に遺産を相続(処分)していた

遺産相続において、兄弟姉妹の中の一人が独断で遺産を処分したり、相続手続きを進めたりしてしまうと、深刻なトラブルの要因となります。

特に、不動産の処分については、価値が高い上に形のある財産のため、その取り扱いには特に注意が必要です。一人の相続人が合意なしに不動産を売却したり、他者に譲渡した場合、他の相続人はその取引を無効とするための法的手続きをとることができます。

相続人間での一人の勝手な行動は、信頼関係の破綻を引き起こし、相続人間の対立をさらに激化させるリスクが大きいのです。

当然、争いの要因になる相続財産は不動産だけではありません。預貯金に関しても、一人が独断で引き出す行為は、他の相続人との間でのトラブルの原因となります。特に、引き出されたお金の使途や分配が不透明な場合、他の相続人は取り分を侵害されていると感じ、不当利得返還請求権を主張するなど、その相続人と争うことになるでしょう。

トラブル②話し合いに応じてくれない、絶縁状態

相続に関する手続きや遺産の分割は、法定相続人の間での合意が非常に重要です。特に、被相続人が遺言を残していない場合、法定相続人全員が協力し合い、遺産分割協議を進める必要があります。遺産分割協議は、相続人全員で遺産をどう分けるかについての重要な話し合いですから、正当な理由もなく話し合いを拒否する相続人がいては、遺産相続を一向に進められないのです。

特に、兄弟姉妹間での関係が良好でない場合や、絶縁状態である場合、遺産分割協議が難航することが多いです。話し合いに応じない兄弟や、自らの相続分を強く主張して譲歩しない兄弟がいると、遺産分割協議は成立しづらくなり、相続手続き全体が停滞するリスクが高まります。

トラブル③兄弟姉妹のうち一人が相続放棄をしていた

兄弟姉妹のうち一人が相続放棄をしていた場合、これが原因でトラブルに発展することもあります。

相続放棄は、個人の権利として任意で選択することが可能であり、その手続きは単独で進行できます。さらに、他の相続人から許可を得る義務もありません。ですので、本来は問題ないのですが、独自の判断が、後で他の相続人の反発を招く原因となってしまうことがあるのです。

相続放棄をすると、その放棄した人の相続分は他の相続人に移行します。そのため、他の兄弟姉妹はその分の遺産を引き継ぐことになります。単純に相続分が増えて嬉しい、で済む場合もありますが、時に予想外の結果となることもあるのです。

例えば、相続財産に不動産や借金が含まれている場合、相続放棄をした人が負担すべきだった債務や、不動産の管理処分の問題が、他の相続人に集中することになります。このように、兄弟姉妹の相続放棄によって他の相続人の負担が増えることで、放棄した人に対して不満が生じ、争いとなってしまうことがあります。

トラブル④遺産のほとんどが土地などの不動産

遺産相続において、相続財産の大部分が不動産で占められる場合も、兄弟姉妹間のトラブルの要因となりやすいです。

遺産としての現金や証券などの資産は、その特性上、兄弟姉妹間で簡単に分割できます。そのため、これらの資産に関する相続に際しては、紛争が起こりにくい傾向にあります。ですが、自宅や土地などの不動産は、真っ二つに割る、なんてことはできませんから、納得いくように等分にすることが非常に難しいのです。

特に、財産の大部分が自宅のような不動産で構成され、さらに預貯金などの資産が少ない場合、遺産を平等に分けるためには、その不動産を売却する必要性が出てきます。しかし、売却を希望する相続人と、そのまま保有したいと考える相続人との間で、意見が分かれることになりかねません。特に、家や土地には、被相続人との思いでや歴史が詰まっているため、単なる金銭的価値以上のものを持っていることも少なくないのです。

このような背景から、不動産が遺産の主体となる場合、兄弟姉妹間での意見対立が生じやすいのです。

遺産相続の兄弟間トラブルの対処方法

それでは、このような兄弟姉妹間でのトラブルが発生しないよう、事前に取り得る対処方法はあるのでしょうか。

対処方法①事前に話し合いをしておく

相続に関しては、事前に家族や兄弟姉妹との話し合いを積極的に行うことが、相続開始後のトラブルを防ぐ対策になります。兄弟姉妹間でよく話し合っておくことで、それぞれの希望、懸念事項を共有しておき、相続が始まるまでに余裕を持って検討しておけるからです。

特に、不動産や大きな財産の相続については、兄弟姉妹間での意見や考え方が対立することが想定されます。分配の難しい財産をどのように分割・管理するか、家や土地を売却するか残すかなど、具体的な取り決めを事前に行うことで、相続時に突然のトラブルや対立が発生するリスクを減らすことができます。

なお、事前の話し合いといっても、どうしても感情的に言い合いになってしまうこともあるかと思います。そうした時には、中立的な第三者や、弁護士などの専門家の意見を取り入れることで、穏便に話し合いを進めることが期待できます。

対処方法②遺言書で遺産分割の方法を指定しておく

遺言書も、有効な対処方法です。

遺言書は、相続に関する被相続人の意向を、文書として明記する手段です。具体的に、誰にどの財産をどれくらい渡すのかを指定しておくことで、不明確な遺言によるトラブルを防ぐことが可能になります。特に、不動産の相続では、遺産分割の方法を遺言書で指定することが推奨されます。

配偶者と兄弟姉妹が法定相続人となる場面で、相続争いが予測される場合、遺言書で「全財産を配偶者に相続させる」との指定も一つの方法として考えられます。兄弟姉妹には遺留分を請求する権利が存在しないため、遺留分の制度を気にせず、スムーズに配偶者が遺産相続の手続きを進めることが可能です。

遺言書に不備があると、せっかく作成しても無効になってしまいますので、遺言書の作成は弁護士にご依頼していただくことをお勧めいたします。

 

兄弟姉妹の遺産相続に関するQ&A

Q1: 被相続人に子供がいない場合、兄弟姉妹は遺産を相続する権利がありますか?

A1: 兄弟姉妹が相続人になるのは、被相続人に子供や親がいない場合です。つまり、被相続人の親が存命の場合、兄弟姉妹には相続権がなく、親が全ての遺産を相続します。被相続人に子供も親もいない場合に限り、兄弟姉妹が相続人となり、遺産を分割する権利が生じます。

Q2: 兄弟姉妹のうち、一人が既に亡くなっている場合、その兄弟姉妹の子供は相続できますか?

A2: 兄弟姉妹の一人が亡くなっている場合、その子供(甥や姪)が代わりに相続する権利があります。これを「代襲相続」と呼び、亡くなった兄弟姉妹の相続分をその子供が引き継ぐことになります。

Q3:被相続人の兄弟姉妹のうち一人が相続放棄をした場合、他の兄弟姉妹に影響はありますか?

A3:兄弟姉妹の一人が相続放棄をした場合、放棄した兄弟姉妹は最初から相続人でなかったものとみなされます。そのため、放棄した兄弟姉妹を除いた他の兄弟姉妹で、遺産を分配することになります。相続放棄は、放棄をしたその人にのみ適用されるため、他の兄弟姉妹の相続権に直接影響を与えることはありません。

まとめ

この記事を通して、法定相続人としての兄弟姉妹の相続順位や相続割合、そして遺産相続でのトラブルや、相続争いを防ぐための対処方法を解説させていただきました。

兄弟姉妹間での遺産の配分や相続割合の取り決めは、長年の家族の絆や亀裂、それぞれの生活状況や感情が絡み合い、トラブルの原因となる要素が数多く存在します。

実際に相続の手続きを進める際は、明確な遺言の存在や、兄弟姉妹間での話し合いが大切です。そして、もしも疑問点や不明点が生じた場合、適切な法的アドバイスを求めることが重要となります。

誤解や不明確な部分があると、相続人間での争いの原因となることもあるため、相続に関するしっかりとした知識を持ち、適切に対応していきましょう。

もし、ご自身での解決が難しい場合、または相続に関する詳しいアドバイスやサポートが必要な場合は、弁護士に相談することをお勧めいたします。当法律事務所でも、相続に関するご相談をお受けしておりますので、お気軽に初回無料相談をご利用いただければと思います。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。