法定相続人とは?わかりやすく図解!相続人との違いは?

「法定相続人」という言葉を耳にすることはあっても、法定相続人の具体的な意味やその範囲などについては、明確に理解していないという方も少なくないのではないでしょうか。
そこでこのコラムでは、法定相続人をテーマに、「相続人」との違いや、法定相続人の範囲などについて、具体的な例とともに弁護士がわかりやすく解説させていただきます。
また、法定相続人が相続放棄を選択した場合にもたらす影響や、相続税の計算における法定相続人の考え方についても、わかりやすくご説明いたします。
相続は私たちの生活に密接に関わる重要な問題です。この記事を通じて、相続について少しでも身近に感じられるよう、わかりやすく解説してまいりますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
法定相続人とは?わかりやすく解説
法定相続人とは、民法によって範囲が定められている、遺産を相続する権利を有する者を指します。
法定相続人は、ある人が死亡した場合に、その人の財産を受け取る資格を「法律で」与えられている、特定の家族や親族のことをいいます。法定相続人として代表的なの人は、被相続人の配偶者や、被相続人の子どもです。
法定相続人と相続人との違い
さて、法定相続人と似た言葉に、「相続人」という言葉があります。普段耳にするのは、法定相続人よりも相続人の方が多いのではないでしょうか。
相続人という言葉は、法定相続人に限らず、遺言によって財産を引き継ぐ者として指定された人も含みます。例えば、被相続人が友人や内縁の妻に財産を譲ることを遺言に書き残していた場合、その友人や内縁の妻が相続人となります。
この場合、友人や内縁の妻は民法によって認められている相続人に当てはまらないため、「相続人」にはなっても、「法定相続人」にはなりません。
簡単に言いますと、法定相続人は「民法で定められた遺産を受け取る資格を持つ人」で、相続人は「実際に遺産を受け取る人」というわけです。
なお、法定相続人が遺産を受け取る権利を持っているとは言っても、その法定相続人が実際に遺産を受け取るかどうかは、また別の問題です。
例えば、法定相続人が相続放棄をすると、その法定相続人は遺産を受け取る資格を失うため、実際の相続人としては認められなくなります。
さて、法律によって相続権を認められている法定相続人ですが、法定相続人の範囲については、民法にどのように定められているのでしょうか。
以下の図を用いて、具体的に見ていきたいと思います。
法定相続人の範囲【図解】
こちらは、法定相続人の範囲について図解したものになります。
法定相続人とは、法律で定められた相続人のことをいいます。法定相続人といっても、全員が全く同じ扱いを受けるわけではなく、大きく次の2つのグループに分けられます。
- 配偶者:被相続人(死亡した人)と婚姻関係にあった人。
- 血族:被相続人と血縁関係にある親族。例えば、子どもや親、兄弟姉妹など。
配偶者も子どもも被相続人の「家族」ではありますが、相続手続きにおいては扱いが異なるのです。
具体的には、配偶者は常に法定相続人になりますが、子どもをはじめとする血族による法定相続人に関しては、実際には法定相続人にならない場合もあるのです。それは、「相続順位」という法律上の決まりが関わってきます。
相続順位については後述いたしますが、「自分より上位の法定相続人がいる場合、下位の順位者は法定相続人になることはできない」という仕組みになっています。
血族の法定相続人に関しては、自分の順番が回ってこない限り実際には法定相続人になれない、という点が、常に法定相続人となる配偶者との大きな違いなのです。
法定相続人になるには?
さて、法定相続人になる人の範囲を図解いたしましたが、全ての人が同じタイミングで法定相続人になるわけではありません。
実際に法定相続人になるには、前述した法定相続人の範囲だけでなく、以下の相続順位というものも関わってきます。
- 第一順位:子ども、代襲相続人(孫)
- 第二順位:親、祖父母
- 第三順位:兄弟姉妹、代襲相続人(甥姪)
なお、代襲(だいしゅう)相続人とは、本来の法定相続人が死亡している場合に、その人の代わりに相続する人のことを指します。
例えば、被相続人の子どもAが、被相続人より先に死亡している場合は、Aの子ども(被相続人の孫)が代襲相続人となります。あるいは、被相続人の兄弟姉妹が親より先に死亡している場合は、兄弟姉妹の子ども(被相続人の甥姪)が代襲相続人となります。
被相続人の子どもや兄弟姉妹が先に亡くなっている場合は、さらにその子どもが法定相続人になることもあるのです。
それでは、具体的にどういった相続順位で法定相続人になるのか、簡単な例で見ていきましょう。
配偶者は常に法定相続人になる
被相続人の配偶者は、他の法定相続人の相続順位に影響を受けず、常に法定相続人となります。
そして、ここでいう「配偶者」とは、被相続人が死亡した時点で法律上の婚姻関係にあった人を意味しています。
つまり、内縁関係や事実婚など、戸籍上の配偶者でない人は、法定相続人にはなれないのです。
例えば、きちんと婚姻届を提出して、法律上夫婦として認められている男女がいるとしましょう。
その夫は一度離婚歴があり、元妻は存命中です。また、夫には法律婚の妻とは別に、内縁関係にある女性もいるとします。
この夫が亡くなった場合、法的に結婚している妻は夫の法定相続人になりますが、元妻と内縁の妻はどうなるのでしょうか。
内縁の関係にある女性は、社会的には夫のパートナーとして認識されているかもしれませんが、戸籍上での結婚はしていません。このような関係を「事実婚」や、「内縁関係」といいます。
前述の通り、法定相続人となる配偶者は法律婚の配偶者に限られるため、この夫が亡くなった場合、内縁の妻は夫の法定相続人とはならず、婚姻関係にある妻のみが法定相続人となるのです。
また、「元配偶者」の場合は、夫の死亡時に法律上の婚姻関係にないため、元妻に関しても法定相続人としての資格は認められません。
第一順位:子ども、代襲相続人(孫)
それでは、相続順位「第一順位」である子どもや孫についてはどうなるのでしょうか。
被相続人には3人の子ども(長男、二男、三男)がいるとしましょう。長男はすでに亡くなっていますが、長男には2人の子どもがいます。さらに、被相続人の配偶者も存命です。
この場合、被相続人の法定相続人として考えられるのは、以下の三者です。
- 配偶者
- 子ども:二男、三男
- 孫(長男の子ども):2人
前提として、配偶者は他の法定相続人の相続順位に影響を受けず、常に法定相続人となります。
そして、第一順位者である子ども3人のうち、二男と三男は存命のため、二男と三男が法定相続人となります。
第一順位者である子ども3人のうち、長男は相続開始時に亡くなっているため、長男が法定相続人になることはありません。
ただし、長男には子どもが2人いるため、代襲相続人として、長男の子ども2人が法定相続人となります。
第二順位:親、祖父母
次に、第二順位者である親や祖父母について見ていきましょう。
例えば、被相続人が結婚しておらず、子どもや孫もいない場合は、第一順位者がいません。そのため、相続順位は次の第二順位者へと移ります。
したがって、被相続人の法定相続人は、第二順位者である直系尊属(被相続人から見て「上の世代」にあたる血縁者)、つまり両親や祖父母になります。
もし被相続人の父と母がまだ存命であれば、被相続人の遺産は父母で公平に分割して相続することになります。
しかし、もし被相続人の両親が既に亡くなっていて、祖父や祖母がまだ生きている場合、被相続人の遺産は祖父母で公平に分割して相続することになります。
第三順位:兄弟姉妹、代襲相続人(甥姪)
最後に確認するのは、第三順位者である兄弟姉妹や甥姪です。
被相続人は結婚しておらず、子どもや孫もいないとしましょう。また、両親や祖父母もすでに亡くなっているとします。被相続人には兄1人と妹1人がいましたが、兄もすでに亡くなっています。
この場合において、兄に子ども(被相続人から見た甥姪)がいない場合、第三順位者である妹が、被相続人の法定相続人として全ての遺産を相続する権利を持ちます。
仮に、兄に子どもが2人いた場合は、その2人の子どもたちが代襲相続人として、兄の代わりに遺産を相続する法定相続人となりますので、被相続人の妹と兄の子ども2人の、あわせて3人が法定相続人となります。
なお、法定相続人の相続割合(法定相続分)は、誰が法定相続人になるか、法定相続人が何人であるかによって変わりますので、ここでは割愛させていただきます。
法定相続分については、下記記事にて詳しく解説しておりますので、ぜひ本記事とあわせてご参照ください。
もし遺言書が存在すればその内容に従って財産を分けます。また、全ての相続人間で遺産の分割に合意がある場合、法定の割合にとらわれずに遺産を分けることも可能です。
法定相続人に関する注意
以上、法定相続人の基本的な知識についてわかりやすく解説させていただきました。
最後に、相続の手続きにおける法定相続人に関する注意点をご説明いたします。
法定相続人が相続放棄した場合
相続放棄とは、相続の権利を手放すことです。具体的には、被相続人から遺産や負債を受け取らない、という選択をすることを指します。法定相続人が相続放棄をすると、その人は初めから相続人ではなかったことになります。
また、同順位の法定相続人が全員相続放棄をした場合は、その相続順位に当てはまる法定相続人がいないため、次順位の法定相続人に相続の権利が移ることになります。
例として、被相続人の妻、被相続人の子ども2人、の合わせて3人が被相続人の法定相続人である場合を考えてみましょう。
このケースで子ども2人が相続放棄をすると、どうなるでしょうか。
被相続人には2人の他に子どもはいないため、第一順位の法定相続人がいないことになります。すると、次順位の法定相続人である、第二順位者の親や祖父母に相続順位が移ります。被相続人に存命の親や祖父母もいない場合は、さらに次の順位へ相続権が移るため、第三順位者である被相続人の兄弟姉妹や、兄弟姉妹の子どもである甥姪などが法定相続人となります。
なお、配偶者は相続順位に影響を受けないため、他の法定相続人が相続放棄をしても、常に法定相続人のままです。
また、配偶者や子どもをはじめ、親や祖父母、兄弟姉妹ら全ての法定相続人が相続を放棄した場合は、その遺産を受け取る法定相続人はいなくなります。この場合、国がその遺産の管理や処理を行うことになります。
相続税における法定相続人の考え方
以上の通り、法定相続人が相続放棄をすると、最初から法定相続人ではなかったことになります。ですが、相続税の計算をする際には「いなくなったことにならない」ため、注意が必要です。
なぜかといいますと、相続放棄があったとしても、像族税の計算に関しては、相続放棄がなかった場合と同じように法定相続人の数を数えるからです。
例えば、被相続人に配偶者と子どもA・Bがおり、この3人が被相続人の法定相続人となるケースを考えてみましょう。この時、誰も相続放棄をしなければ、法定相続人3人で遺産分割が行われます。
ですが、例えば子どもAが相続放棄をした場合は、配偶者と子どもBのあわせて2人で遺産分割を行うことになります。
ところが、このどちらのケースにおいても、相続税を計算する上での法定相続人の数は、3人のまま変わらないのです。相続放棄をした子どもAも、相続税の計算上は法定相続人としてカウントされることになります。
相続税の計算の際には、実際の相続放棄の有無に関わらず、最初の法定相続人の数で計算される、ということを念頭に置いておく必要があるので、注意してください。
法定相続人に関するQ&A
Q1.法定相続人の範囲や順位についてわかりやすく教えてください。
A1: 法定相続人の範囲は、配偶者、子ども、親、兄弟姉妹などが含まれます。相続の順位としては、まず子どもが法定相続人となります。子どもや孫がいない場合、第二順位者の親が法定相続人となります。親や祖父母もいない場合は、第三順位者である兄弟姉妹が法定相続人となります。
Q2.「法定相続人」と「相続人」の違いは何ですか?
A3: 「法定相続人」とは、法律で定められた条件に基づき相続の権利を持つ人のことを指します。一方、「相続人」は、実際に遺産を相続するすべての人を指す一般的な用語です。したがって、法定相続人であっても、相続放棄などの理由で遺産を相続しない場合、その人は「相続人」とは言えません。
Q3.相続税の計算において、相続放棄した法定相続人は考慮されますか?
A4: 相続税の計算時には、法定相続人が相続放棄をしていても、相続放棄がなかったとして、法定相続人の数に含めて相続税を算定します。つまり、相続放棄があっても、相続税の計算においては法定相続人の数に変動は生じません。
まとめ
さて、本記事では、法定相続人についての基本的な知識を、わかりやすく解説させていただきました。
なんとなく曖昧に使い分けていた「法定相続人」と「相続人」に関しても、本記事でご理解いただけたのではないでしょうか。
法定相続人は、相続において特別な権利を持つ人々を指します。法定相続人の範囲や相続順位、相続割合といった権利については、民法に明確に定められています。
スムーズかつ適切に相続手続きを進めていくためには、こういった基本的な事項を正しく理解し、自身の状況に当てはめてきちんと検討することが重要です。
相続は、ほとんどの方にとって避けて通れない問題です。相続についての正確な知識を持つことで、円滑に遺産分割を行うことができ、将来的なトラブルも防止することができるでしょう。
また、この記事だけでは解決しきれない疑問や問題がありましたら、お気軽に弁護士法人あおい法律事務所までお問合せいただければと思います。当法律事務所では、初回無料の法律相談を行っておりますので、ぜひご利用ください。
この記事を書いた人
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。