遺留分侵害額請求|遺留分侵害額請求権とは?調停・裁判など請求のやり方も解説

遺言書がある場合の遺産相続は、被相続人の意思を尊重し、遺言書に書かれたとおりに遺産を分配するのが原則です。
ですが、「遺産の全てを友人Aに相続させる。」など、法定相続人にとって不公平な内容の遺言書となっていることも少なくありません。
このようなケースに対応するため、民法には「遺留分」という制度が設けられています。遺言書などによって法定相続人が遺留分を侵害された場合には、遺留分侵害額請求権を行使することで、一定の割合の遺産を取り返すことができる制度です。
そこでこの記事では、遺留分侵害額請求の手続きについて、前提となる「遺留分侵害額請求権」の基礎知識から詳しく解説させていただきます。遺留分を侵害する人・される人とは誰なのか、遺留分を侵害された場合はどのように請求すればよいのか、わかりやすくご説明いたします。
公平な遺産相続を実現するため、本記事が遺留分侵害額請求について理解する参考となりましたら幸いです。
目次
遺留分侵害額請求
1.遺留分侵害と遺留分侵害額請求とは
遺言書が存在する場合、通常はその内容に従って遺産を分配します。ですが、例えば被相続人の妻子が相続人となる場合に、「親友に全財産を相続させる。」などの遺言が残されていると、被相続人の妻子が何も遺産を相続できず、場合によっては生活が困窮してしまうこともあります。
このように、法定相続人が法律で保証された最低限の遺産取得分よりも少ない財産しか受け取ることのできない状況を、「遺留分を侵害」されているといいます。
こうした事態を避け、被相続人によって生計を維持している可能性の高い法定相続人の生活を最低限保障するため、民法は「遺留分」をいう制度を設けているのです。
遺留分が侵害された相続人は「遺留分侵害額請求権」を行使して、遺留分を侵害した人に対して遺留分侵害額を請求することができます。
遺留分を請求できる相続人の範囲は、民法で「① 配偶者、② 子や孫などの直系卑属、③ 親や祖父母などの直系尊属」と定められています(民法第1042条1項)。なお、兄弟姉妹やその子どもである甥姪には遺留分は認められていません。
遺留分の割合は、法律で以下のように定められており、相続人の種類と人数によって具体的な割合が変動します。
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遺留分権利者 |
相続財産に占める遺留分の割合 |
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親や祖父母などの直系尊属のみが相続人である場合 |
3分の1 |
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配偶者や子供などの直系卑属が相続人に含まれる場合 |
2分の1 |
具体的な侵害額の計算については、本記事で後述いたします。
2.遺留分侵害額請求のやり方と流れ
遺留分侵害額請求の具体的な方法と流れですが、一般的には以下の通りとなります。
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内容証明郵便を送付し請求する
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相続人同士で話し合う
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遺留分侵害額の請求調停を申し立てる
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遺留分侵害額請求訴訟をする
なお、内容証明郵便の送付と話し合いは、前後することがあります。一度話し合ってまとまらず、内容証明郵便を送って再度話し合う、といったケースもあるため、あくまで一般的な流れです。
遺留分侵害額請求権とは
1.遺留分侵害者に対して金銭を請求できる権利
「遺留分侵害額請求権」とは、遺留分が認められている相続人(遺留分権利者)が、法律で保証された最低限の遺産取得分(遺留分)に満たない財産しか受け取れなかったときに行使できる権利です。
不平等な遺言や贈与によって自分の遺留分が侵害された場合、相続人は遺留分侵害額請求権を用いて自分の遺留分を取り戻すことができます。
遺留分侵害額請求権を行使することで、相続人は遺言や贈与によって遺産の一部を受け取った遺留分侵害者、すなわち受遺者や受贈者に対して、侵害された分の金銭を請求することができます(民法第1046条)。
(遺留分侵害額の請求)
民法第1046条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
2 遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。
一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額
二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額
たとえば、遺留分が1,000万円で、実際に受け取った遺産が600万円の場合、侵害された遺留分は400万円(1,000万円―600万円)となります。この400万円の支払いを、受遺者や受贈者に対して請求することができる、という権利なのです。
1-1.民法改正前は「遺留分減殺請求権」
ところで、「遺留分侵害額請求権」は、2019年7月1日施行の民法改正前は、「遺留分減殺請求権」という制度でした。この改正の最も重要な点は、遺留分の侵害を解決する方法が物品の返還(現物分割)から金銭支払いへと変更されたことです。
以前の制度では、遺留分減殺請求を行うと、遺贈や贈与によって受け取った物品や権利は、遺留分を侵害する限度で失効し、自動的に請求者に帰属するとされていました。
ですが、現物を返還するという方法では、目的物が請求者と受遺者・受贈者の間で共有状態になることも少なくありませんでした。代表的な例でいえば、不動産です。土地や建物を、「侵害されている分を現物で返還する」といっても、物理的な分割は難しいことが多いです。そのため、共有状態となった相続財産の管理や処分に関して、トラブルが生じるケースが多く見られたのです。
このため、民法改正後の「遺留分侵害額請求権」では、遺留分の精算は金銭支払いに変更されました。金銭請求に一本化することで、財産の共有状態やそれに伴うトラブルを避けることができるようになり、遺留分問題がより迅速に解決されるようになったのです。
1-2.遺留分侵害額請求権の行使
遺留分侵害額請求権を行使する意思の表示方法については特段の決まりはありません。遺留分侵害者に対して、遺留分侵害額請求権を行使する旨の意思表示をすれば足ります。
なお、あくまで「権利」ですので、遺留分が侵害されていたら必ず請求する必要がある、という「義務」ではありません。遺留分権利者が「自分は遺産はいらない、遺言どおりでよい。」と納得していれば、遺留分侵害額請求をする必要はないのです。
遺留分侵害額請求権を行使するためには、遺留分を請求したい相続人が、受遺者や受贈者に対して、「遺留分侵害額請求権を行使する」旨の意思表示をする必要があります。この意思表示は、以下の一定の期限内に行わなければなりません(民法第1048条)。
- 相続開始と遺留分の侵害を知ったときから1年(消滅時効)
- 相続開始から10年(除斥期間)
(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
民法第1048条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
原則として、相続が開始されたことと遺留分が侵害されたことを知った場合、知った日から1年以内に遺留分侵害額請求を行う必要があります。
また、たとえ遺留分権利者が相続の開始や遺留分を侵害する遺言書の存在を知らなかったとしても、相続が開始されてから10年が経過すると、遺留分侵害額請求権は消滅してしまいます。
遺留分の時効、請求期限については、下記記事で詳しく解説しております。本記事と合わせてご覧ください。
1-3.遺留分侵害額請求権の相続
そして、遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者本人だけでなく、その「承継人」も行使することが可能です(民法第1046条1項)。したがって、遺留分権利者が亡くなった場合、その権利は承継人に引き継がれます。
つまり、遺留分侵害額を請求する権利は、その人個人に一身専属的に帰属するものではなく、遺留分侵害額請求権も相続されるものと考えられるのです。
2.遺留分侵害額
2-1.遺留分侵害額算定の対象となる財産
遺留分侵害額請求を行うには、まず「自分の遺留分の金額はどれくらいあり、いくら侵害されているのか」を明確にしなければなりません。
遺留分をどれだけ侵害されているかを計算するためには、まず遺留分の対象となる財産(基礎財産)を明確にする必要があります。
遺留分の対象となる財産は、相続開始時の財産に生前贈与した財産を加え、そこから借金やその他の債務を差し引いたものです。
なお、全ての生前贈与が遺留分侵害額請求の対象となるわけではありません。生前贈与が遺留分侵害額請求の対象となるかどうかは、贈与された相手が相続人か否か、そして贈与された時期によって異なります(民法第1044条)。
遺留分侵害額請求の対象となる生前贈与
- 相続人に対して行われた生前贈与:相続開始の日から遡って10年内に行われたもの
- 相続人以外に対して行われた生前贈与:相続開始の日から遡って1年間の範囲内のもの
- 相続開始から遡って10年間の間に行われた、婚姻や養子縁組、生計の補助としての贈与(特別受益)
- 当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与(悪意の贈与)
遺留分の請求を考える際には、遺贈された財産や生前贈与の内容を詳細に把握し、適切に遺留分侵害額の計算を行うことが重要です。
2-2.遺留分侵害額の計算例
具体的な事例で確認しておきましょう。
被相続人の遺産総額が6,000万円で、配偶者と子供2人が相続人である場合を考えてみます。
遺留分侵害額の算定
配偶者と子供2人の法定相続分は、民法第900条1号により「子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。」とされているため、以下の通りとなります。
配偶者の法定相続分:1/2
子供1人の法定相続分::1/2 × 1/2 = 1/4
法定相続人は「被相続人の配偶者と子供」なので、相続財産に占める遺留分の割合は、それぞれ1/2となります(民法第1042条1項2号)。
配偶者の遺留分:1/2 × 1/2 = 1/4
子供1人の遺留分: 1/4 × 1/2 = 1/8
これに、対象となる財産の金額を掛け合わせ、遺留分の金額を算出します。
配偶者の遺留分:6,000万円 × 1/4 = 1,500万円
子供1人の遺留分:6,000万円 × 1/8 = 750万円
このケースで、仮に被相続人が遺言で「全財産を配偶者に相続させる」と指定し、子供には何も相続させなかった場合、遺留分侵害者である配偶者に対して、子供2人は合わせてそれぞれ750万円ずつ請求する権利があるのです。
3.遺留分侵害者
なお、遺言で指定された相続人が必ず遺留分侵害者として遺留分侵害額請求を受けるとは限りません。というのも、遺留分を侵害する行為は「遺贈」「贈与(死因贈与、生前贈与)」とされており、遺贈を受けた人(受遺者)と贈与を受けた人(受贈者)の中でも、以下のとおり「請求に対し支払い義務を負う順番」が定められているのです(民法第1047条1項1号)。
-
遺贈(受遺者)
- 贈与(受贈者)
(受遺者又は受贈者の負担額)
民法第1047条1項 受遺者又は受贈者は、次の各号の定めるところに従い、遺贈(特定財産承継遺言による財産の承継又は相続分の指定による遺産の取得を含む。以下この章において同じ。)又は贈与(遺留分を算定するための財産の価額に算入されるものに限る。以下この章において同じ。)の目的の価額(受遺者又は受贈者が相続人である場合にあっては、当該価額から第千四十二条の規定による遺留分として当該相続人が受けるべき額を控除した額)を限度として、遺留分侵害額を負担する。
一 受遺者と受贈者とがあるときは、受遺者が先に負担する。
二 受遺者が複数あるとき、又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは、受遺者又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
三 受贈者が複数あるとき(前号に規定する場合を除く。)は、後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。
ところで、贈与には大きく「生前贈与」と「死因贈与」とがあります。生前贈与と死因贈与が混在する場合に、どちらが遺留分義務者として優先されることになるのでしょうか。この点について判例では「死因贈与が生前贈与より先に対象となる」と考えられています(東京高裁平成12年3月8日判決)。
この裁判例は、「遺留分減殺を原因とする不動産の所有権移転登記」を求めて争われた事件の、控訴審です。民法改正前の事例なので、金銭請求による「遺留分侵害額請求」ではなく、現物返還の「遺留分減殺請求」となっています。
本件の前提として、被相続人が所有する不動産Xを相続人Aが遺贈によって相続し、不動産Yを相続人Bが死因贈与によって取得しています。
【一審】
他の相続人CとDが、AとBに対して遺留分侵害を訴え、遺留分減殺による所有権移転登記を求めました。裁判所は、遺留分減殺の順序について、遺贈と死因贈与は同順位であるとし、A・Bに遺留分減殺を命じました。Aは控訴せず、Bのみが控訴しました。
【控訴審】
裁判所は一審の判断について、「死因贈与も、生前贈与と同じく契約締結によって成立するものであるという点では、贈与としての性質を有していることは否定すべくもないのであるから、死因贈与は、遺贈と同様に取り扱うよりはむしろ贈与として取り扱うのが相当であり、ただ民法一〇三三条及び一〇三五条の趣旨にかんがみ、通常の生前贈与よりも遺贈に近い贈与として、遺贈に次いで、生前贈与より先に減殺の対象とすべきものと解するのが相当である。」として、減殺の順序について「① 遺贈、② 死因贈与、③ 生前贈与」とすべきと判断しました。
そして、Aに対する遺贈がまず減殺の対象となるべきであり、それによってC・Dの遺留分が回復されない場合に、初めてBに対する死因贈与が減殺の対象になる、と判示し、Aに対する遺留分減殺請求によって回復することができるとして、原判決を取り消し、Bに対する請求を棄却しました。
(東京高裁平成12年3月8日判決)
遺留分侵害額請求
1.内容証明郵便で遺留分侵害額請求する
遺留分侵害額請求を行う際、まずは内容証明郵便を送付して請求する方法が一般的です。
内容証明郵便とは、郵便局が送付した文書の内容と日付を正式に証明するサービスです。このサービスを利用すると、送付した文書のコピーと送付日が記録されますので、請求が期限内に行われたことが証明できます。「相続開始と遺留分侵害を知った時から1年以内に遺留分侵害額請求をした」という記録を残すことができるのが、内容証明郵便のメリットです。
さらに、配達証明サービスを併用することで、文書が相手方に届いた日付も確認でき、相手が「請求を受けていない」と主張するのを防ぐことができます。
遺留分侵害額請求の書面には、請求する遺留分の金額、その根拠、支払いを求める期限などを明記しておきます。きちんとした書面が届くことで、相手方も「本気で請求されている」と感じ、交渉に応じてもらえることが期待できるでしょう。
なお、前述の通り、内容証明郵便と当事者同士での話し合いは、順番が前後することもあります。
2.当時者同士で話し合い合意書を作成する
内容証明郵便や口頭での請求で話し合いすることになったら、実際に交渉を行います。話し合いでスムーズに合意できれば、その後の裁判所での請求手続きに進まずに済むため、時間や費用、手間を軽減することができます。
一方、直接話し合うとなると、以下のようなデメリットもあります。
- 相手方が話し合いに応じない場合や、合意に至らない場合がある。
- 相手方が遺産の状況や価値を隠したり、虚偽の情報を提供したりする場合がある。
- 遺留分侵害額請求権の消滅時効や除斥期間の成立による請求権の喪失を狙い、時間稼ぎをする場合がある。
- 相続人間の意見や感情が対立し、冷静な交渉が難しい場合がある。
自分で交渉すると、話がこじれて解決までに長い年月がかかるケースも少なくありません。上記のような状況が想定される場合には、中立的な立場で話し合いを冷静に進められる弁護士に依頼することをお勧めいたします。
話し合いによって遺留分の支払いについて合意できた場合には、必ず「遺留分侵害額の支払いについての合意書」を作成しましょう。なお、後日のトラブルを避けるためにも、この合意書は公正証書の形で作成しておくのが望ましいです。
合意書は、遺留分侵害額請求の結果として、相手方から一定の金額を受け取ることで合意したことを証明する書面になります。合意書には、以下のような内容を記載するのが一般的です。
- 遺留分侵害額請求権を行使する法定相続人の氏名、住所
- 遺留分侵害額の支払いをする受遺者や受贈者の氏名、住所
- 遺留分侵害額の計算方法と金額
- 遺留分侵害額の支払い方法と期日
- 合意書の作成日
- 当事者の署名押印
合意書の作成についても、弁護士に依頼することが望ましいです。弁護士は、合意書の内容が適切かどうかの判断や、合意書の作成に必要な書類の用意、合意書の保管や送付を依頼者の代理人として行います。
3.遺留分侵害額の請求調停
当事者同士の話し合いがうまくいかない場合には、遺留分侵害額の請求調停を裁判所に申し立てることになるでしょう。
遺留分侵害額の請求調停とは、家庭裁判所で調停委員会の仲介の下、遺留分の支払いについて話し合う手続きです。遺留分侵害額の請求調停は、以下の流れで進めていくことになります。
3-1.遺留分侵害額の請求調停を裁判所に申し立てる
遺留分侵害額の請求調停を行うには、まず、遺留分侵害額請求権を有する法定相続人が、家庭裁判所に調停を申し立てます。申立てをできる権利者は、「遺留分を侵害された者(兄弟姉妹以外の相続人)」か、「遺留分を侵害された者の承継人(相続人や相続分譲受人)」です。
家庭裁判所が調停を受理し、調停委員会を組織し、当事者に調停期日を通知します。調停期日では、調停委員が請求者と相手方それぞれの言い分を聞いて意見をすり合わせるため、当事者が直接話し合う必要はありません。
3-2.調停申立ての必要書類・管轄
申し立て先の家庭裁判所は、原則として、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所です。申し立てには、調停申立書と遺留分侵害額請求権の証明書類(戸籍謄本や遺言書、贈与契約書、遺産分割協議書)が必要です。
また、遺留分侵害額請求調停の申し立てに、以下のような書類が必要です。
- 申立書及びその写し(相手方の数の通数)
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している人がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 遺言書写し又は遺言書の検認調書謄本の写し
- 進行に関する照会回答書
- 不動産登記事項証明書
- 固定資産評価証明書
- 預貯金通帳の写し
- 残高証明書
- 有価証券写し
- 債務の額に関する資料等
こうした必要書類のほか、申し立て費用として、1,200円分の収入印紙と、連絡用に数千円分の郵便切手(金額は管轄裁判所によって異なります)が必要となります。
3-3.調停の終了(成立または不成立)
当事者が遺留分の支払いについて合意に達した場合は、裁判所はその合意内容を調停調書に記載し、当事者に署名捺印をさせます。調停調書は、判決と同じ効力を持ち、具体的には以下のような調停条項が記載されます。
遺留分侵害額請求の調停条項
- 遺留分侵害額請求の対象となる被相続人の遺言などを特定し、それによって申立人(遺留分権利者)の遺留分を侵害されている事実を確認する条項
- 相手方(遺留分義務者)が遺留分権利者に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払義務を負うことを確認し、その給付について定める条項
- 支払うべき具体的な遺留分侵害額の金額
- 支払い期限
- 支払いが遅れた場合の遅延損害金などについて定めた条項
- 相続税や譲渡所得税の負担についての合意
一方で、当事者が遺留分の支払いについて合意に達しなければ、調停が不成立となります。調停が不成立となった場合には、遺留分侵害額請求訴訟を提起することになります。
4.遺留分侵害額請求の裁判
4-1.遺留分侵害額請求の訴訟提起
調停が不成立となった場合には、遺留分侵害額請求訴訟を裁判所に提起することになるでしょう。
遺留分侵害額請求訴訟とは、裁判所で遺留分侵害額請求権の存在や請求額を争い、裁判所による判断(判決)を受ける手続きです。訴訟では、遺留分が侵害されていることを証拠により立証する必要があります。
遺留分侵害額請求訴訟を行うには、遺留分侵害額請求権をもつ法定相続人が、管轄の裁判所に必要書類を提出して訴訟を提起します。管轄裁判所は訴えを受理すると、被告(請求を受ける人)に対して答弁書の提出を命じます。被告は、答弁書に自分の主張や反論、証拠などを記載し、裁判所に提出することになります。
4-2.遺留分侵害額請求訴訟の管轄・必要書類
管轄の裁判所は、原則として、被相続人の最後の住所地を管轄する地方裁判所または簡易裁判所です(民事訴訟法第5条14号)。
(財産権上の訴え等についての管轄)
民事訴訟法第5条 次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定める地を管轄する裁判所に提起することができる。
(中略)
十四 相続権若しくは遺留分に関する訴え又は遺贈その他死亡によって効力を生ずべき行為に関する訴え
相続開始の時における被相続人の普通裁判籍の所在地
調停と異なり、家庭裁判所ではありません。請求する遺留分侵害額の金額が140万円未満の場合は簡易裁判所に、140万円以上の場合は地方裁判所に訴訟を提起することになりますので、注意してください。
提訴には、訴状と遺留分侵害額請求権の証明書類が必要です。訴状には、当事者の氏名や住所、遺留分侵害額の計算方法や金額、訴訟の目的や請求などを記載します。
4-3.裁判の終了(和解・判決)
裁判所は、当事者の主張や証拠を総合的に比較検討し、適切な判決を下します。
なお、裁判官は、判決を言い渡す前に、当事者に和解を勧めることがあります。和解とは、当事者が遺留分の支払いについて自主的に合意することです。和解が成立すれば、和解調書が作成されて訴訟は終了します。
和解調書には、具体的に以下のような和解条項が記載されることになります。
遺留分侵害額請求訴訟の和解条項
被告は、原告に対して遺留分侵害額として金○○円の支払い債務があることを認める。
原告は、その余の請求を放棄する。
訴訟費用及は被告の負担とする。
原告および被告は、本件に関し、この和解条項に定めるもののほかに、その他一切の債権債務がないことを確認する。
和解が成立しなければ、判決によって終結することになります。判決には、遺留分侵害額請求権の有無や請求額の認否などが明記されます。判決に不服がある場合には、控訴や上告といった上級審に対する不服申立てを行うことが可能です。
5.遺留分侵害額請求と調停前置
ところで、家族・親族間の争いについては、まずは話し合いで解決することが望ましいという意図から、一般的に訴訟の前に調停を経ることとされています(調停前置主義・家事事件手続法第257条)。
(調停前置主義)
家事事件手続法第257条 第二百四十四条の規定により調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない。
2 前項の事件について家事調停の申立てをすることなく訴えを提起した場合には、裁判所は、職権で、事件を家事調停に付さなければならない。ただし、裁判所が事件を調停に付することが相当でないと認めるときは、この限りでない。
3 裁判所は、前項の規定により事件を調停に付する場合においては、事件を管轄権を有する家庭裁判所に処理させなければならない。ただし、家事調停事件を処理するために特に必要があると認めるときは、事件を管轄権を有する家庭裁判所以外の家庭裁判所に処理させることができる。
ですが、遺留分侵害額請求においては、調停前置は厳格な訴訟要件ではありません。そのため、調停を経ずに訴訟が提起されたとしても、その訴えが直ちに不適法となるわけではありません。相続人同士が激しく対立しているなど、調停による解決の見込みがないと判断した場合には、裁判所は調停に付さずに訴訟の審理を続けることができます。
遺留分侵害額請求権の行使に備えた対策を
1.遺言や生命保険を活用しましょう
被相続人の死後に相続人間で無用な争いが生じないよう、あらかじめ以下の対策を講じて備えておくことがお勧めです。
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早めの生前贈与をする
本記事でご説明したとおり、遺留分侵害額の対象となる生前贈与は、原則として「法定相続人に対する死亡前10年間に行われた贈与」か、「法定相続人以外の人に対する死亡前1年以内にされたもの」です。言い換えれば、なるべく早めに生前贈与を行っておくことで、遺留分侵害額の対象からその生前贈与を除外する、という対策が可能となるのです。
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あらかじめ遺留分を放棄してもらう
遺留分の放棄(民法第1049条)も事前の備えとして有効です。被相続人の生前、家庭裁判所で遺留分の放棄の手続きをすることで、遺留分侵害額請求権を失うことになります。これにより、受遺者や受贈者が遺留分侵害額を請求される心配がなくなるため、遺言どおりの遺産分割の実現が期待できるでしょう。
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遺言書を活用する
遺言書に「遺留分侵害額請求をしないこと」と記載しておくこと自体は、法的には可能です。ただし、これには強制力はないため、あくまで被相続人の希望を伝える事実上の効果であることに注意しましょう。遺留分は「遺言によっても妨げられない、最低限保障された取り分」ですので、遺言書の活用と合わせて、他の対策を講じておくことをお勧めいたします。
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生命保険を活用する
生命保険を遺留分対策に活用することも考えられます。
例えば、遺留分権利者になる可能性の高い人を生命保険金の受取人に指定しておき、「生命保険金を受け取る代わりに、遺留分侵害額を請求しない」ことを約束しておくやり方があります。
より効果的な対策としては、受遺者や受贈者を生命保険金の受取人に指定しておき、遺留分侵害額請求されたときに、生命保険金で遺留分侵害額を支払うといった、代償金としての利用方法が考えられるでしょう。 -
弁護士を遺言執行者に選任する
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な行為を行う人のことで、家庭裁判所によって選任されるか、遺言によって指定することができます。遺言であらかじめ弁護士などの専門家を遺言執行者に選任しておくことで、当事者だけで遺言どおりの遺産分割を進めるよりも感情的な対立を軽減することが期待できます。
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家族で話し合いをしておく
なにより、家族で十分に話し合っておくことが重要です。いきなり遺言書に「遺留分侵害額請求をしないこと」と記載するより、事前に時間をかけて理由を説明し納得してもらう方が、死後に遺留分侵害額請求されてしまうリスクを軽減することが期待できるでしょう。
2.遺留分侵害額請求は弁護士にご相談ください
遺留分侵害額請求は、相続財産の調査や評価、侵害額の算定、相手方との交渉や調停・訴訟への対応など、専門的な判断が求められることの多い手続きです。対応を誤ってしまうと、本来受け取れるはずの金額を受け取ることができなかったり、無用なトラブルが生じて長期化したりするおそれもあります。
遺留分侵害額請求を弁護士にご相談いただくことで、遺留分侵害額の正確な算定から、交渉・調停・訴訟まで一貫したサポートを受けることが可能です。法的根拠に基づいた適切な主張ができるため、相手方との交渉も有利に進めやすく、適切な金額を回収することが期待できます。加えて、時間的・精神的な負担を軽減できる点も、弁護士に依頼する大きなメリットです。
適切で円滑な解決のためにも、遺留分侵害額請求は弁護士にご相談ください。
遺留分侵害額請求に関するQ&A
Q1.遺留分侵害額請求とは何ですか?
A:遺留分侵害額請求とは、遺言や贈与によって遺留分を侵害された法定相続人が、遺留分に相当する金額の支払いを受遺者や受贈者に請求する権利です。遺留分とは、法定相続人が相続するべき最低限の財産のことで、遺言や贈与によって遺留分を下回る場合には、遺留分を請求することができます。
Q2.遺留分侵害額請求の期限は何ですか?
A:遺留分侵害額請求の期限には、消滅時効と除斥期間があります。消滅時効とは、一定期間の間に権利を行使しないと、その権利が消滅することです。遺留分侵害額請求の消滅時効は、原則として、被相続人の死亡から10年です。
ただし、消滅時効は、内容証明郵便などで相手方に遺留分侵害額請求の意思を通知することで止めることができます。除斥期間とは、一定期間の間に権利を行使しないと、その権利を放棄したものとみなされることです。遺留分侵害額請求の除斥期間は、原則として、遺留分侵害の事実を知った日から1年です。
Q3.遺留分侵害額請求を行う際、必要な情報は何ですか?
A:遺留分侵害額請求を行うためには、以下の情報が必要です。
- 相続人全員の身分情報(戸籍謄本などで確認)。
- 被相続人の財産の全体像、つまり遺産の総額(不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳の写し又は残高証明書、有価証券写し、債務の額に関する資料等で確認)。
- 遺言書の内容(存在する場合)。
- 生前贈与の詳細(贈与契約書、銀行取引記録など)。
- 法定相続分の計算に基づく遺留分の算定。
これらの情報を基に、遺留分の侵害額の算定を行い、遺留分侵害額請求を行うことになります。
まとめ
遺留分侵害額請求は、相続における自分の権利を守るための重要な手段です。
一方で、家族間の争いが生じることを心配し、請求を躊躇する人も少なくありません。
ですが、遺留分侵害額請求は法律によって保障された正当な権利ですから、不公平な遺産相続に対しては、自身の権利を守るため適切に行動を起こすことが大切です。
遺留分の侵害があった場合には、なるべく早めに弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。請求には侵害額の算定や時効の問題といった、複雑な法的知識も必要です。法律の専門家である弁護士に、ぜひご相談いただければと思います。
弁護士法人あおい法律事務所では、弁護士による法律相談を初回無料で行っております。お電話によるご相談もお受けしておりますので、お気軽にお問合せください。
この記事を書いた人
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。








