姦通【徹底解説】「姦通罪」などの姦通とはどういう意味?韓国など海外での姦通罪も

かつて、「姦通罪」という規定が日本の刑法にあったことをご存知でしょうか。
現在では廃止されているこの罪名ですが、戦前の日本では、特に妻の不貞行為が刑罰の対象とされていた時代がありました。
ところで、そもそも「姦通」とは、どういう意味なのでしょうか。
そこでこの記事では、「姦通」とはどういった概念なのかを弁護士が詳しく解説させていただきます。姦通が犯罪であると考えられるようになった経緯をはじめ、姦通罪は実際にどのように運用されていたのか、なぜ今は姦通罪がないのか、といった点についても触れていきます。
また、韓国など、日本以外の海外の国々における「姦通」についても、取り上げていきたいと思います。
昨今あまり使われなくなった言葉ですが、日本における不倫についての考え方を理解するためにも、姦通・姦通罪について本記事で確認していきましょう。
目次
姦通
「姦通」という言葉は、近年は日常的に使われることも少ない言葉なので、耳慣れない方も多いかもしれません。
姦通と聞くと、「浮気」や「不倫」というイメージを持つ方が少なくないかと思いますが、現在は「浮気・不倫」という言葉が一般的ですし、法律においても浮気や不倫のこと「不貞行為」という言葉を使います。そのため、浮気や不倫を示す言葉としてもあえて「姦通」という言葉を使う場面は少なくなっています。
ですが、かつての日本には、この「姦通」という行為に対して、明確に刑罰が科される時代がありました。
つまり「姦通罪」と呼ばれる犯罪類型が、正式に日本の刑法に規定されていたのです。単なるモラルや倫理の問題ではなく、「法律で裁かれる行為」として姦通が位置づけられていた歴史があるのです。
さらに興味深いのは、こうした姦通罪の概念が、日本だけでなく海外にも存在していた、あるいは現在も存在している国があるという点です。
なぜ「姦通」は罪とされていたのでしょうか。そして、なぜ日本では今では「姦通罪」を見かけなくなったのでしょうか。また、国や文化によって、姦通についての考え方がどのように異なるのか、以下で詳しく見ていきましょう。
姦通とは
「姦通」とは、一般的に「配偶者のある者が、その配偶者以外の異性と性的関係を持つこと」を指す言葉です。つまり、婚姻関係にあるにもかかわらず、第三者と性的関係を持つことが、姦通に該当します。
語源としての「姦通」は、もともと「みだらな男女関係」や「男女の不義密通」を意味するもので、古くから道徳的にも非難の対象とされてきました。
「姦通」の「姦」という概念は、中国の律令制度に由来するものです。中国に由来する律令において、「姦」という言葉は、「婚姻外の性交渉」一般を指す犯罪観念として位置づけられていました。
江戸時代に入ると、姦通と同様の意味を持つ言葉として、「密通」や「不貞」、「不義」といった表現も用いられ、「浮気」という言葉も広く使われていました。
本記事で後述しますが、江戸時代の一般社会においても、夫婦間の貞操義務に反する姦通という行為は、道徳的にも社会的にも強く非難されるものだったのです。
そして、現代の日本の法律では、「姦通」という言葉はもはや法令上使われていません。代わりに「不貞行為」という用語が、民法上の離婚原因や慰謝料請求の根拠として用いられています。
結論として、「姦通=不貞行為」と理解して差し支えありません。ただし、現在では一般的な言葉としては「不倫」や「浮気」といった表現が多く使われており、「姦通」という言葉が使われることは少なくなっています。
次章では、この姦通を処罰の対象としていた「姦通罪」について、具体的に確認していきます。
姦通罪
それでは、昔の日本にあった「姦通罪」とは、どういった刑罰だったのでしょうか。
姦通罪とは
本記事で前述したように、「姦通」は現在の日本の法律においては「不貞行為」として取り扱われる概念となっています。しかし、かつては姦通という行為が刑法上の犯罪として扱われ、刑罰が科されていた時代が存在しました。それが「姦通罪」です。
姦通罪は、刑法に明記された犯罪類型のひとつであり、姦通という行為そのものが、処罰の対象とされていたのです。現在の日本では、不貞行為はあくまで私的な信頼関係の破綻ですので、刑事罰として裁かれる行為ではありません。この点が、昔と今とで大きく異なります。
① 日本における姦通罪
「姦通罪」という名称で日本の刑法に正式に規定されたのは、明治期に入ってからのことですが、それ以前の日本社会においても、姦通(不義密通)は重く取り締まられる対象でした。
たとえば江戸時代には、「姦通」や「不義密通」と呼ばれる行為は重大な道徳違反かつ犯罪とされており、公事方御定書(くじかたおさだめがきしょ)という刑事法の基本法令において、姦通は男女ともに死罪に処される重罪として明記されていました。さらに、姦通を手助けした者も「中追放」または死罪という重罰を受けることがありました。
また、当時の社会通念として、夫が妻と姦通相手(姦夫)を現行犯で発見し、その場で殺害した場合には、罪に問われなかったという慣習も存在しており、姦通は家の名誉や秩序を根底から揺るがす重大事とされていたことがうかがえます。
こうした厳罰の思想は、アイヌ社会にも見られました。不義密通を犯した男女は見せしめとして、耳や鼻を削がれる、頭髪や髭を抜かれるといった身体刑が科されていた、とされています。
そして明治期に入り、近代的な刑法体系が整備される中で、1880年(明治13年)7月17日布告の旧刑法(太政官布告第36号)により、「姦通罪」が明文化されることとなりました(太政官布告第36号 第353条)。
太政官布告第36号 第353条
有夫ノ婦姦通シタル者ハ六月以上二年以下ノ重禁錮ニ處ス其相姦スル者亦同シ
此條ノ罪ハ本夫ノ告訴ヲ待テ其罪ヲ論ス但本夫先ニ姦通ヲ縱容シタル者ハ告訴ノ效ナシ
これは、「夫のある女子が姦通した場合、6ヶ月以上2年以下の重禁錮に処する。その姦通相手も同様とする。」という処罰内容となります。ちなみに、「重禁錮」とは現在の刑法の有期懲役に相当します。
その後、1907年(明治40年)には、明治40年法律第45号 第183条において、次の通り規定されました。
明治40年法律第45号 第183条
有夫ノ婦姦通シタルトキハ二年以下ノ懲役ニ處ス其相姦シタル者亦同シ
前項ノ罪ハ本夫ノ告訴ヲ待テ之ヲ論ス但本夫姦通ヲ縱容シタルトキハ告訴ノ效ナシ
明治13年の規定と比べると、処罰の内容から刑の下限(6ヶ月以上)が削除されていますが、引き続き「処罰対象が女性に限定されている」という点は変わっていません。
これから分かるのは、日本における姦通罪の大きな特徴は、処罰対象が女性に限定されていた、という点でしょう。すなわち、妻が配偶者以外の男性と性交した場合に限って姦通罪が成立する一方、夫が同様に妻以外の女性と姦通をしても、原則として処罰の対象とはならなかったのです。
また、夫の告訴が必要だったため、実際には姦通が発覚しても夫が姦通相手と示談を成立させ、告訴に至らなかった事例も少なくなかったようです。
しかし、こうした姦通罪のあり方は、男女不平等を前提とした制度であることから、戦後の法改正において大きな見直しが行われました。日本国憲法が施行された1947年(昭和22年)、刑法の改正により姦通罪は正式に廃止され、それ以降は刑事罰の対象から除外されることとなったのです。
現在では、姦通行為は民法上の「不貞行為」として、離婚原因や慰謝料請求の根拠となるのみであり、刑罰が科されることはありません。
② 韓国など海外での姦通罪
日本ではすでに廃止された姦通罪ですが、海外に目を向けると、近年まで同様の罪が存在していた国もあります。その代表的な例が韓国です。
韓国における姦通罪
韓国では、1953年に制定された刑法第241条により、姦通が正式に犯罪とされていました。配偶者のある者が婚姻外の性的関係を持った場合、最大で懲役2年の刑が科されるという厳しい内容で、姦通した配偶者だけでなく、その相手方も処罰の対象とされていました。日本の旧姦通罪と異なり、韓国では男女を問わず平等に処罰される制度となっていた点が特徴です。
しかし、姦通罪は「個人の私生活に国家が過度に介入している」「性的自己決定権を侵害している」といった点から長らく議論の的となっており、実際の運用においても、形式的に起訴されるだけで不起訴処分となるケースや、和解によって告訴が取り下げられる例も少なくありませんでした。
最終的に、2015年2月26日、韓国の憲法裁判所は姦通罪について「個人の性と私生活に対する過剰な国家介入であり、憲法に反する」と判断し、違憲決定を下しました。これにより、韓国における姦通罪は約62年ぶりに廃止されることとなりました。
中国における姦通罪
中国においては、姦通を直接的に刑罰の対象とする法律は存在しませんが、婚姻法の規定により、「配偶者の不貞行為」は離婚事由や慰謝料請求の根拠となり得ます。また、姦通が原因で家庭が破壊された場合などには、「精神的損害賠償」として民事上の責任を問われる可能性があります。さらに、公務員や共産党員については、姦通行為が「規律違反」として党内処分や懲戒対象になることがあり、社会的制裁の側面が強いのが特徴です。
アメリカにおける姦通罪
アメリカでは州ごとに法律が異なるものの、2020年代に入ってもなお、一部の州では姦通(adultery)を犯罪と位置づける規定が残っています。たとえば、ニューヨーク州では「姦通は違法である」という刑法の条文が存在し、サウスカロライナ州やオクラホマ州などでも姦通が軽犯罪とされています。
ただし、実際に起訴される例は極めて稀であり、事実上は死文化している法律といえるでしょう。
イランにおける姦通罪
イランでは、シャリーアに基づく刑法(イスラム刑法)により、既婚者の姦通は「死刑」の対象とされています。特に、既婚女性が配偶者以外の男性と性交した場合は重く処罰され、石打ち刑(ラジャム)が科される可能性があるようです。
また、イランに限らず、現在でも姦通が死刑(死罪)に処される可能性のある国は存在します。ただし、それは限られた一部の国や地域においてであり、かつ主にイスラム法を厳格に適用している法域に限られます。
そして、法制度として死刑が規定されていても、実際には適用が限定的であったり、外交圧力や国内世論を受けて刑の執行が停止されたりするケースもあります。また、法律上は死刑の可能性があるものの、実務では禁錮刑やむち打ち刑にとどまることも少なくないようです。
以上の通り、姦通に関する法的な扱いは国によって大きく異なります。
韓国では長らく姦通罪が維持されていたものの、2015年に違憲とされ廃止されました。中国では刑罰の対象とはなっていないものの、民事上の責任や社会的制裁が認められる場面もあります。アメリカでは州によって姦通が犯罪とされている例も残っていますが、実際に刑事訴追されることはほとんどありません。
一方で、イランなど一部の国々では、現在でも姦通が死刑に処される可能性があり、イスラム法に基づく厳罰が継続されています。
このように、姦通という行為は文化・宗教・法律の違いにより、その評価や制裁のあり方が国ごとに大きく分かれているのが「姦通罪」の実情なのです。
姦通に関するQ&A
Q1.姦通とはどういう意味ですか?
A:姦通とは、配偶者のある者が、その配偶者以外の異性と性的関係を持つことを指します。婚姻関係にあるにもかかわらず第三者と肉体関係を持つ行為であり、日本においても昔は刑罰の対象とされていました。
Q2.かつての日本における姦通罪は、男女どちらも平等に処罰対象だったのですか?
A:日本の旧刑法では、処罰対象は「妻」に限られており、夫が姦通しても原則として処罰の対象とはなりませんでした。姦通相手の男性(姦夫)は処罰されましたが、制度全体としては男女不平等なものでした。
Q3.現代でも、姦通が死刑になる国は本当にあるのですか?
A:あります。イランやサウジアラビアなどの一部の国では、シャリーア(イスラム法)に基づき、既婚者の姦通に対して死刑が科される可能性があります。ただし、実際の執行には厳格な要件があり、限定的です。
まとめ
本記事では、「姦通」という言葉の意味や歴史的背景、かつて日本に存在していた姦通罪の内容、さらに韓国や中国、アメリカ、イスラム法を採用する国々における姦通の法的扱いについて、弁護士が解説させていただきました。
現在の日本では姦通罪は廃止され、民法上の「不貞行為」として慰謝料請求や離婚請求の原因となるにとどまります。
不貞行為のお悩みがあるときには、一人で抱え込まず、法律の専門家である弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。
この記事を書いた人

雫田 雄太
弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
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