養育費新算定表は高すぎる?見直し後の新算定表の金額がおかしいと感じたら
令和元年に改定された養育費新算定表は、子供の生活を支えるため、時代により即した金額になるよう、基準となる金額が改められましたが、その内容について「高すぎる」と感じる人も多いようです。特に、支払う側の収入や生活状況によっては、家計に大きな負担を感じるケースが少なくありません。一方で、子供が十分な教育や生活環境を得るためには、適切な養育費が重要です。
この記事では、養育費新算定表が改定されるに至った背景や、その基準がどのように決定されているのかを詳しく解説します。また、「高すぎる」と感じた場合に考慮すべき具体的な対応策や調整方法についても触れていきます。
目次
養育費新算定表は高すぎる?
養育費新算定表の金額が高すぎると思われていますが、そもそも養育費新算定表の金額がどのように決められたものなのか、ご存知でしょうか。
「高い」か「安い」かは、収入や家計の状況、支払う側か受け取る側か、など個人の事情に応じた感覚的なものなので、養育費新算定表の基準額を妥当なものだと感じる人もいれば、高すぎる・安すぎる、と感じる人もいるでしょう。
本記事では、このような「養育費新算定表は高すぎるのか」という主観的な問題点には答えを出せませんが、その判断材料となる「養育費新算定表の基準額が見直された背景」などについて、詳しく解説させていただきます。
まずは、養育費新算定表についての基本的な知識をおさえておきましょう。
養育費新算定表
養育費新算定表、と本記事で言っておりますが、正式な名称を「養育費・婚姻費用算定表」といいます。養育費・婚姻費用算定表とは、養育費の金額を決定するための基準表で、家庭裁判所が公開しているものです。
参考:養育費・婚姻費用算定表(裁判所)
さて、なぜ「新」なのかというと、最初に作られた養育費算定表が令和元年に改定されたためです。そして、本記事で養育費新算定表と表記しております養育費・婚姻費用算定表が、現行の養育費算定表となります。
夫婦が離婚や別居をした場合、子供が健やかに成長するためには、生活費や教育費が欠かせません。しかし、長期的に必要となる養育費の金額を具体的に決めるのは簡単ではありません。その際に役立つのが、家庭裁判所が提供する養育費新算定表です。
この新算定表は、夫婦それぞれの年収、子供の年齢や人数などをもとに、標準的な養育費の額を示しています。養育費新算定表があることによって、基準が明確となり、夫婦間の金銭的な争いを減らすことが期待できるのです。
養育費新算定表は家庭裁判所が公式に公開しており、その信頼性と公平性から広く利用されています。また、家庭裁判所での調停や裁判における養育費の決定においても基準として用いられることが多く、養育費を計算する上で非常に重要な指標となっています。
算定基準が見直された背景
このように、離婚に際して便利な養育費新算定表ですが、元の基準となる養育費算定表が策定されたのは2003年と、比較的近年のことでした。
養育費の算定基準としての算定表は、もともと2003年に策定され、裁判官による研究の成果として発表されました。この基準は当初、具体的な状況に十分対応できないとの批判を受けつつも、家庭裁判所での利用が進む中で、全国的な標準として定着していきました。当時は親の年収や子供の人数、年齢を基に算出する仕組みが画期的とされていましたが、年月が経つにつれ、生活環境や経済状況の変化に対応しきれなくなったのです。
その間に、物価上昇や景気の低迷といった社会的変動が続き、子供を育てるために必要な費用をこの基準でまかなうことが難しいとの声が強まりました。
例えば、この年代では家計に直接影響を与える事情として、こうした社会的・経済的変動がありました。
2008年頃、リーマンショックにより世界的な金融危機が発生し、日本でも経済成長が停滞しました。これに伴い、企業収益の悪化や雇用情勢の悪化が広がり、多くの家庭で収入が減少する事態となりました。特に非正規雇用者の増加が目立ち、生活の安定を欠く状況に直面する世帯が増えたことが、養育費の見直しの必要性を後押ししたと考えられます。
また、2011年の東日本大震災は多くの家庭に直接的な影響を与えました。震災による経済的打撃や復興支援のための資金投入が国家財政にも影響を及ぼし、多くの家庭で生活費や教育費の負担が増したとされます。特に被災地の家庭では、養育費を含む生活基盤の再構築が課題となりました。
さらに、2014年には消費税率が8%に引き上げられたことで、日常的な生活費が増加しました。これにより、家庭で必要な支出が増え、養育費の金額が現実の生活費に追いついていないという問題が浮き彫りになりました。
少子高齢化が進む中で、正規雇用の減少と非正規雇用の増加が顕著になり、特に一人親家庭では安定した収入を得にくい状況が目立つようになりました。これらの社会的背景からも、養育費の算定基準を見直し、生活費や教育費をより適切に反映することが求められるようになりました。
こうした社会的な課題を背景に、2016年に日本弁護士連合会(日弁連)が新しい算定基準を提示し、家庭裁判所に対して算定表の改定を求める提言を行いました。この提言では、旧算定表が実際の生活費に対して十分でないことを示し、養育費の増額を通じて子供の生活をより安定させる必要性が訴えられました。この提言を受け、家庭裁判所を含む司法機関でも、現在の状況に合った基準を設けるための調整が進められることになりました。
参考:養育費・婚姻費用の新しい簡易な算定方式・算定表に関する提言(日本弁護士連合会)
その結果、2019年に新たな養育費算定表が公表され、これまでとは異なる計算方法が導入されることとなりました。この新算定表では、子供の生活に必要な費用をより現実的に反映するための修正が行われ、金額設定が従来と比べて大幅に変更されています。結果として、親が負担する金額が従来より増える場合もありますが、その背景には、子供が安心して暮らせる環境を整えるという目的が込められています。この新算定表は、これまでの基準を基にしつつも、より現代の生活に即した指標として大きな役割を果たしているのです。
このように、新算定表の策定は、社会情勢や経済状況の変化に応じて、子供の福祉を守るために必要な改良として行われたものです。その一方で、養育費の金額が負担に感じられる場合もあるため、基準を活用しつつ個々の事情に合った解決を目指すことが求められています。
養育費新算定表の改定点
令和元年に改定された養育費新算定表では、従来の基準に対していくつかの重要な変更が加えられました。この改定は、社会や経済の変化に対応し、養育費をより現実に即した金額に調整する目的で行われました。以下はその主な改定点です。
①基礎収入の見直し
養育費の算出に用いる「基礎収入」とは、総収入から税金や社会保険料、職業に関連する経費、固定費などを差し引いた金額のことを指します。この基礎収入が、近年の統計データや税制の変更を踏まえて再計算されました。
税金や経費の控除率の変化
新算定表では、給与所得者および自営業者の控除率が細かく調整され、より実情を反映した形となりました。たとえば、給与所得者の控除率が旧基準ではおおむね34~42%だったのに対し、新基準では38~54%に引き上げられています。自営業者についても同様に、控除率が全体的に増加しています。
自営業者への対応強化
フリーランスや自営業者が増加している社会背景を反映し、収入の変動が大きい職業に対しても柔軟な基準が適用されるようになりました。
②子の生活費指数の変更
養育費の金額を算出する際に用いられる「子の生活費指数」も改定されています。これは子供の生活費を成人の生活費と比較して示した指標です。
若年層の生活費指数の上昇
0~14歳までの子供の生活費指数は従来の55から62に上昇しました。これにより、未成年の子供に必要な生活費が増えたことが金額に反映されています。
15歳以上の生活費指数の調整
一方、15歳以上の生活費指数は従来の60から85に引き上げられました。この変更は、高校教育費の変化を反映したものであり、公立高校の授業料無償化なども背景にあるとされています。
養育費新算定表は高すぎるのか
養育費新算定表の基準額は本当に高すぎるのでしょうか。令和元年に改定され、金額が調整されたこの算定表ですが、近年の著しい物価高が家計に与える影響を無視することはできません。養育費を支払う側にとっては、生活費の上昇や収入の減少などから、家計に大きな負担を感じることがあり、「高すぎる」との意見が出るのも無理はありません。一方で、養育費を受け取る側にとっては、必要な教育費や生活費がまかなえず、「全然足りない」と感じるケースも少なくないようです。
こうした双方の立場の違いは、養育費の金額が家庭の状況や地域差によって、受け止められ方に大きな差があることを示しています。そのため、新算定表の基準を参考にしつつも、夫婦間の話し合いや家庭裁判所での調整を通じて、個別の事情に応じた適切な金額を決めることが重要です。
養育費新算定表の金額が高すぎる場合
養育費新算定表に基づいて養育費が決定されたとしても、例えば以下のような場合には、金額が高すぎるとして減額できる可能性があります。
支払い額を減らせる4つのケース
①相場の金額より多い養育費を払っている
支払い金額が相場を大幅に超えている場合には、支払う側から減額を求めることが可能です。
養育費は、子供の生活を維持するための必要な費用として設定されますが、現実には当事者間の合意や調停によって算定表の金額以上を支払うことが合意される場合もあります。しかし、その金額が過剰で、支払う側の経済的負担が過度に大きい場合には、養育費の減額を検討する余地があります。
例えば、養育費を支払う側が新算定表の範囲を超えた金額を支払っている場合、その支払いが当初の合意に基づくものであったとしても、現状に合わないと判断されることがあります。特に、支払額が支払う側の生活費を圧迫している場合や、相場とかけ離れた金額が設定されている場合には、支払額の見直しを求めることができます。
②支払う側の減収
支払う側の収入が大幅に減少した場合には、養育費の金額を見直すことが可能です。養育費の金額は支払う側と受け取る側の収入に基づいて算出されるため、収入が減少すれば、当初の金額が現実的ではなくなることがあります。
例えば、リストラや勤務先の倒産、病気や怪我などによって収入が減った場合、これまでの養育費の支払いが困難になることがあります。このような状況では、当初の金額を維持することが支払う側にとって過度の負担となるため、適正な金額への減額が求められるケースが多いです。
特に、収入減少が長期間続く見込みである場合や、自身に過失のない理由で収入が減少した場合には、養育費の減額が認められる可能性が高まります。ただし、自ら収入を減らした場合や、減少が一時的なものと判断される場合には、減額が認められにくい場合もあります。
③養育費を受け取る側の収入が増えた
養育費は、子供の生活を支えるために必要な金額として支払われるものですが、その算定は受け取る側と支払う側の収入状況を基に決定されます。そのため、養育費を受け取る側の収入が大幅に増加した場合には、支払い額の見直しを求めることが可能です。
例えば、受け取る側が新たに正社員として働き始めたり、昇進や副収入などで収入が増えたりした場合、当初の養育費の算定時に想定していた状況から大きく変化しているといえます。こうした場合には、受け取る側の収入増加によって、養育費の減額が適正とされる可能性があります。
ただし、収入の増加が一時的なものである場合などには、減額が認められにくい場合もあります。
④受け取る側や支払う側が再婚した
受け取る側や支払う側が再婚した場合には、養育費の金額を見直す必要が生じることがあります。再婚による家庭環境や収入状況の変化が、養育費の適正な額に影響を与える場合があるからです。
例えば、受け取る側が再婚し、新たな配偶者の収入によって子供の生活水準が向上した場合、その影響で養育費の減額が検討されることがあります。
また、支払う側が再婚し、新たに扶養すべき親族が増えた場合、収入が変わらないのであれば、1人あたりの養育費の負担を見直すことが可能です。扶養義務は公平に考慮されるべきであり、前妻との間に生まれた子供だけでなく、新しい配偶者との間の子供も同等に扶養する責任があります。そのため、支払う側の生活状況や家族構成が変化した場合には、養育費の金額を調整する余地があります。
ただし、新たな家族を優先したいという理由だけで、前妻との子供に対する養育費を減額したり、支払いを怠ったりすることは認められません。前妻との子供への扶養義務が軽視されるような行為は、法律上問題となる可能性があります。あくまで公平な視点から、再婚による状況の変化が実際に支払能力や生活費にどのように影響を及ぼしているかが判断の基準となります。
このような事情がある場合には、まずは現状を具体的に整理し、必要に応じて受け取る側と話し合うことで、適切な金額について再度合意を図ることが重要です。
養育費新算定表ではおかしいと感じたら
さて、養育費新算定表の金額では、自身の実態に合っていない、高すぎる、と感じたら、減額請求を検討することになります。
①相手と直接減額交渉する
養育費の金額が高すぎると感じた場合、まず相手と直接話し合いを行うことが可能です。養育費の支払い額は、当初の合意や家庭裁判所の調停によって決められたものであっても、当事者間で新たに合意することで変更することができます。相手との話し合いは、手続きや時間をかけずに柔軟に対応できる点がメリットです。
話し合いを始める際には、冷静かつ誠実な態度で臨むことが重要です。減額を求める理由について、具体的な根拠を示すことで、相手の理解を得やすくなります。例えば、収入が減少したこと、再婚などで扶養すべき親族が増えたこと、あるいは相手の収入が増えたことなど、現状の変化を客観的に説明しましょう。また、新たな支払い額の提案を具体的に示すことで、より現実的な合意に繋がりやすくなります。
ただし、話し合いの結果は必ず文書化しておく必要があります。口頭での合意だけでは、後々トラブルが発生する可能性があるためです。合意内容を「合意書」などにして文書化し、可能であれば公正証書として残すことを検討してください。
相手との交渉で合意が得られない場合には、家庭裁判所での調停など次の手段を考える必要があります。話し合いで解決できるかどうかにかかわらず、適切な対応を取ることが大切です。
②養育費減額請求調停
相手との話し合いで減額について合意できない場合、家庭裁判所で「養育費減額請求調停」を申し立てることが考えられます。この調停では、第三者である調停委員が仲介役となり、当事者間で公正な話し合いを進める場が提供されます。調停は、養育費の適正な金額を改めて検討し、合意に基づいて現実的な支払い額を決めるための重要な手続きです。
調停を申し立てる際には、減額の理由を証明するための書類を準備することが必要です。例えば、収入が減少したことを示す給与明細や所得証明書、新たに扶養すべき家族が増えた場合の戸籍謄本などが挙げられます。また、養育費新算定表の金額を根拠に、現状に適した支払い額を提案することも効果的です。
調停では、双方の主張を丁寧に確認した上で、適正な金額について合意を目指します。ただし、調停で合意が成立しない場合には、家庭裁判所の審判に移行することがあります。この場合、裁判官が双方の状況を踏まえて最終的な判断を下します。
勝手に支払いを打ち切るのはNG!
養育費が高すぎると感じたり、支払いが負担に思えたりする場合であっても、相手との合意や法的手続きを経ずに一方的に支払いを止めることは避けなければなりません。養育費は子供の生活を維持するために必要なものであり、支払い義務を果たさない行為は法的な問題を引き起こす可能性があります。
例えば、相手が家庭裁判所に申し立てを行った場合、給与や財産が差し押さえられるといった強制執行の手続きを受けることがあります。また、一方的な支払い停止は、相手との信頼関係を損なうことに繋がり、その後の話し合いや交渉を円滑に進めることが難しくなるでしょう。さらに、支払い義務を怠る行為は、子供の生活や成長にも大きな影響を与えるため、慎重な対応が求められます。
養育費の金額に不満がある場合や減額を希望する場合には、適切な方法を取ることが重要です。まずは相手と話し合いを行い、合意が得られない場合には家庭裁判所の調停や審判を利用して解決を図るべきです。こうした正当な手続きを経ることで、双方が納得できる形で解決する可能性が高まります。
養育費の支払いに関して疑問や悩みがある場合には、まず冷静に現状を整理し、専門家である弁護士に相談することをお勧めします。正しい対応を取ることで、自身にとっても不利な結果を避け、子供の生活を守るための適切な解決を目指すことができます。
Q&A
Q1.養育費新算定表が高すぎると感じるのですが、そもそもどのように金額が決められているのでしょうか
養育費新算定表は、支払う側と受け取る側の収入を基にして、子供が生活するために必要な費用を算出するものです。この表は、基本的な生活費や教育費を考慮して作成されていますが、個々の家庭の事情に完全に適合するわけではないため、場合によっては高額に感じることもあります。
Q2.新算定表よりも低い金額にしたい場合、どうすればいいですか
相手と直接話し合いを行い、双方が納得できる金額を決めることが第一歩です。話し合いが難しい場合には、家庭裁判所で調停を申し立て、調停委員の助けを借りて適正な金額を決める方法もあります。
Q3.新算定表の金額は必ず支払わなければならないのでしょうか
新算定表の金額はあくまで基準であり、必ずその額を支払わなければならないわけではありません。家庭の状況や収入によって、相手との話し合いや調停で適正な金額に調整することが可能です。
まとめ
養育費新算定表が改定され、従来よりも高額になるケースが増えたことで、支払う側から「高すぎる」との声が聞かれるようになりました。しかし、新算定表は子供の生活を守るための基準として作成されたものであり、必ずしも全ての家庭に適用できるものではありません。状況に応じて減額の交渉や手続きを進めることが可能です。
養育費の負担が重いと感じた場合には、まず相手と話し合いを行い、それでも解決が難しい場合には家庭裁判所の調停などを検討する必要があります。一方的に支払いを止めることは法的トラブルにつながるため、冷静かつ適切な対応が求められます。
養育費の金額や支払い方法について悩みがある方は、弁護士に相談することで、具体的なアドバイスを得ることができます。養育費新算定表の金額が高すぎると感じたら、おひとりで悩まずに、まずは弁護士にご相談ください。
この記事を書いた人
雫田 雄太
弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。