監護権|監護権とは?親権との違いや子の監護者指定の手続きについても解説

離婚する際に、未成年の子どもがいる場合は、原則として夫か妻のどちらかを親権者と定め、離婚届に記入する必要があります。この親権者や親権という言葉は広く一般的に知られていますが、親権に関連して「監護権」という言葉があることをご存知でしょうか。
「監護権」とは、未成年の子どもの実際の養育や、日常生活上の保護・教育に関わる権利のことを意味します。
監護権という言葉については、親権ほど一般的に知られてはいません。そのため、その重要性について十分理解されないまま、子どもの親権についての協議が進んでしまうことも少なくありません。
監護権について正しく知っておくと、子どもの親権についての交渉で、取り得る選択肢を増やせることになりますので、ぜひ知っておいていただければと思います。
そこでこの記事では、監護権について弁護士が詳しく解説させていただきます。子どもの親権問題で揉めている場合などに、少しでも本記事がご参考となりましたら幸いです。
目次
監護権
以下では、監護権の意味や権利の内容、親権と監護権の違いに加え、実際に監護権を得るための手続きや注意点について、詳しく解説していきます。
それでは、監護権について具体的に見ていきましょう。
監護権とは
さて、監護権とは、どういった権利なのでしょうか。
監護権とは身上監護権のこと
監護権とは、子どもの親権の内容の一部を意味しています。親権は大きく「財産管理権」と「身上監護権」の2つに分けられますが、このうちの「身上監護権」のことを、一般的に「監護権」と呼びます。
民法においては、民法第820条において「子の監護及び教育をする権利」と明記されており、この子どもの監護・教育をする権利が監護権なのです。
民法第820条 親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。
そして、監護権(身上監護権)の中身である「子の監護及び教育をする権利」とは、詳しくは次の4つに分けられます。
①身分行為の代理権
「身分行為の代理権」とは、未成年の子どもが自分自身で行うことが難しい身分に関する法律行為について、親が子どもに代わって同意や代理を行う権利です。
具体的には、嫡出否認の訴えにおける代理(民法第775条)、非嫡出子が父親から認知を受けられない場合の認知の訴えの代理(民法第787条)、養親が20歳未満の者である場合の養子縁組の取消し(民法第804条)などが挙げられます。
(嫡出否認の訴え)
民法第775条 次の各号に掲げる否認権は、それぞれ当該各号に定める者に対する嫡出否認の訴えによって行う。一 父の否認権 子又は親権を行う母
二 子の否認権 父
三 母の否認権 父
四 前夫の否認権 父及び子又は親権を行う母
(認知の訴え)
民法第787条 子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、認知の訴えを提起することができる。ただし、父又は母の死亡の日から三年を経過したときは、この限りでない。
(養親が二十歳未満の者である場合の縁組の取消し)
民法第804条 第792条の規定に違反した縁組は、養親又はその法定代理人から、その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし、養親が、二十歳に達した後六箇月を経過し、又は追認をしたときは、この限りでない。
たとえば、非嫡出子が法的に父親に認められるために認知を求める場合、未成年の子に代わって、親が訴訟を起こすことになります。また、嫡出否認の訴訟においても、未成年の子どもに代わり親が代理を務めることがあります。
実務においては、これらの権利行使は常に「子どもの利益」を最優先に考える必要があり、家庭裁判所もその視点から権利行使の適切性を判断しています。
②居所指定権
「居所指定権」とは、親権者が未成年の子どもの居住場所を決定できる権利を指します。子どもは原則として、親が指定した場所に居住しなければなりません(民法第822条)。
(居所の指定)
民法第822条 子は、親権を行う者が指定した場所に、その居所を定めなければならない。
③懲戒権
「懲戒権」とは、親が子どものしつけや教育を目的として、一定の懲戒を行う権利を指します。ここでの「懲戒」とは、子どもの非行や不適切な行動に対して、教育的な観点から行われる指導や叱責を意味します。
従来、民法では親権者に対して懲戒権を明示的に認めていましたが(旧民法第822条)、2022年の民法改正により、この懲戒権に関する規定は削除されました。その代わり、親は子どもの人格を尊重し、体罰やその他有害な言動を明確に禁止しつつ、年齢や発達段階に応じた教育を行うこととする、民法第821条が新たに定められました。
(子の人格の尊重等)
民法第821条 親権を行う者は、前条の規定による監護及び教育をするに当たっては、子の人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければならず、かつ、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない。
過度な叱責や体罰は、法的にも社会的にも許されません。家庭裁判所も児童虐待防止の観点から、親権者による懲戒行為を厳しく判断し、必要に応じて親権の制限や停止を行います。一方、社会通念上許容される範囲内での叱責や指導は、親の監護教育権として認められています。
④職業許可権
「職業許可権」とは、未成年の子どもが職業を営むことについて、許可を与える権利です。未成年の子どもは原則として、親権者の許可がなければ職を持つことはできません(民法第823条)。
(職業の許可)
民法第823条 子は、親権を行う者の許可を得なければ、職業を営むことができない。2 親権を行う者は、第六条第二項の場合には、前項の許可を取り消し、又はこれを制限することができる。
実務的な具体例としては、高校生がアルバイトをする場合などが挙げられます。未成年者がアルバイトを始める際、企業側は通常、親の同意書の提出を求めます。これは法律上、未成年者との労働契約には親権者の許可が必要であるためです。また、一度許可を出しても、子どもの学業成績や健康状態などが悪化した場合などには、親はその許可を取り消し、労働をやめさせることもできます。
監護者とは
さて、以上の4つの権利をまとめて、監護権といいます。そして、監護権を行使する人のことを、監護者(監護権者)というのです。
「監護者」とは、未成年の子どもを実際に養育し、その日常生活を保護・教育する役割を担う人を指します。通常は、親権者が子どもを実際に養育することで監護者を兼ねるため、わざわざ「監護者」とは呼ばず、親権者と呼ぶことが一般的です。
監護者については、親権者と異なり、離婚届に記載する欄はありません。離婚時に離婚届に記載されるのは、あくまで親権者となります。
なお、民法改正により子どもの成人年齢が20歳から18歳に引き下げられたため、親権(監護権)についても、子どもが18歳になると消滅することになります。そのため、18歳に達した子どもは、自分の意思で居所や仕事を選ぶことができるようになるのです。
ただし、実際に18歳になったからといってすぐに自立する子は多くありません。たいていの場合は、経済的に親を頼り、少なからず親の影響下にあるケースが少なくありません。
親権と監護権の違い
さて、監護権とは親権の内容の一部であるとご説明しましたが、親権と監護権の違いについてもおさえておきましょう。親権も監護権も、未成年の子どもに関する権利と義務ですが、それぞれの内容や役割には明確な違いがあります。
「親権」とは、親が未成年の子どもに対して持つ包括的な権利義務のことです。親権には大きく分けて、子どもの財産を管理し法的な代理を行う「財産管理権」と、子どもの日常的な養育や教育を行う「身上監護権(監護権)」の二つが含まれています。通常、離婚した場合には父母のいずれか一方のみが親権者となります。
「財産管理権」とは、未成年の子どもが所有する財産を管理し、子どもに代わって法律行為を行う権利のことです(民法第824条)。
(財産の管理及び代表)
民法第824条 親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。
財産の管理の身近な具体例でいえば、子どものお小遣いやお年玉を管理することも財産管理権に基づく行為に当たります。
法律行為というと堅苦しく感じるかもしれませんが、売買やアルバイト契約など、あまり意識せずに行っている契約なども、法律行為に当たります。未成年の子どもがこうした法律行為をする場合は、親の同意が必要であると民法にも定められています(民法第5条)。
(未成年者の法律行為)
民法第5条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
3 第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。
一方、「監護権(身上監護権)」とは、親権の中の子どもの実際の養育・保護・教育を担当する権利義務に特化した部分を指します。監護権は子どもと日々生活を共にし、直接的にその世話や教育を行う役割です。
つまり、親権は子どもに関する法的権利を包括的に含むのに対し、監護権はそのうち実際の養育・教育の役割に限られるのです。
親権と監護権を分けるメリット・デメリット
ところで、離婚時に親権者を定めても、実際に親権者が子どもを養育するのは難しい、というケースもあるでしょう。
親権者の仕事が忙しく、まだ幼い子を養育することが難しい場合。離婚のタイミングが中途半端な時期で、親権者とともに居住環境が変わると、子どもの学習や進級・進学に都合の悪い場合。
こういった場合には、法的に親権者を定めた上で、親権者ではない他方の親を監護者として指定し、実際の養育は監護者に任せることも可能とされています。
親権と監護権を分けるメリット
親権と監護権を分けることには、たとえば次のようなメリットがあります。
- 親権者が仕事の都合で子どもと一緒に暮らすことが難しい場合、監護者に養育を任せることで、一緒に暮らせない親も法律上は子どもの親権者であることができます。
- 幼い子どもの面倒を見るのは母親が望ましいが、母親は財産管理をする余裕まではない、といった場合、父親が親権者となり財産管理を行うことで、父母それぞれが自分の得手不得手に合わせた形で子どもと関わることが可能です。
- 母親が親権者となることが一般的ですが、養育費の未払いが非常に多いのが現実です。こうした場合に、養育するのは母親であっても、父親を親権者と決めておくことで、父親が離婚後も子どもの親である自覚を持ち、養育費の未払いのリスクを軽減させることが期待できます。
親権と監護権を分けるデメリット
一方で、次のようなデメリットもあります。
- 親権者と監護者が別の親である場合、子どもの教育方針や健康管理など重要な意思決定をする際に意見が一致しないことがあり、時間や労力がかかる可能性があります。
- 子ども自身が両親の間の意見の違いや対立に巻き込まれ、精神的な負担やストレスを感じることも少なくありません。
- 実際に一緒に暮らしている監護者と子どもの苗字が違うことで、子どもが偏見の目で見られてしまう可能性もあります。
親権と監護権を分けるかどうかを決定する際には、これらのメリットとデメリットをよく理解し、子どもにとって何が最善なのかを慎重に検討することが重要です。
監護権の手続き
最後に、監護者を決める具体的な手続きについて見ておきましょう。
子の監護者指定の手続きとは
監護者を決める手続きとしては、主に協議(話し合い)、調停(子の監護者の指定調停)、審判(子の監護者指定審判)という方法があります。
別居や離婚をする前に、親権と監護権を分けること、監護者を父と母のどちらにするのかについて話し合って取り決めます。
協議で合意が難しい場合や、話し合い自体が困難な場合には、家庭裁判所に対して「子の監護者の指定調停」を申し立てます。子の監護者の指定調停では、調停委員が双方から事情を聞き取り、子どもの年齢、子ども自身の意向、双方の経済状況や養育環境、現在の養育状況などを総合的に考慮し、子どもの福祉を第一に考えて話し合いを進めます。
調停が成立しなかった場合には、子の監護者指定審判に移行することになります。また、そもそも話し合って決めることが難しい場合は、調停を申し立てずに最初から審判を申し立てることもあります。
調停は話し合いなので、夫婦間で合意ができずに結論が出せないこともありますが、審判は話し合いではなく裁判所による判断となるため、結論が出る点がメリットです。
なお、監護者指定の調停や審判を申し立てる際の費用ですが、対象となる子ども一人につき1,200円分の収入印紙と、送達用の郵便切手が必要となります。
自分一人で調停や審判を申し立てるのが心配な場合は、法律の専門家である弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。
監護権は公正証書に記載しましょう
本記事でも前述した通り、離婚届には親権者を記載しますが、監護者については記載できません。そのため、離婚時に話し合いで監護者を決めた場合には、離婚公正証書を作成しておき、父母のどちらを監護者として決めたのか明記しておくと、将来のトラブルを回避できるでしょう。
監護権に関するQ&A
Q1.監護権とは何ですか?
A:監護権とは、未成年の子どもを実際に育てるための権利のことで、「身上監護権」ともいいます。通常は親権の一部として親権者が監護権も持ちますが、状況によっては親権者とは別に監護権を持つ監護者を指定することもあります。
Q2.監護権と親権を分けることにデメリットはありますか?
A:親権者と監護者が別の親である場合、子どもの教育方針や健康管理など、重要な意思決定をする際に意見が一致せず、時間や労力がかかってしまう可能性があります。また、監護者と子どもの苗字が違うことで、子どもが偏見の目を向けられる可能性もあります。
Q3.監護者が再婚した場合、監護権を失うことになってしまいますか?
A:監護権を持つ親が再婚しても、監護権を失うことにはなりません。基本的に、再婚が子どもの監護権や親権に影響を与えることはありません。
まとめ
この記事では、監護権について弁護士が解説いたしました。
監護権については親権ほど広く知られていないため、子の監護権という権利がある、ということを知らない人も少なくありません。そのため、子どもと一緒に暮らすことはできても財産管理までする余裕はなくやむを得ず相手が親権者になることに同意してしまった、といったケースもあるでしょう。
こうした場合に、監護権があること・親権者と監護者は別に指定できることを知っておくことで、「相手を親権者にすることに合意するが、自分は監護者として子どもの養育に関わりたい」と主張・交渉することができるようになるのです。
子どもの親権問題で話し合いが進まない場合、交渉の余地を広げるためにも、親権のほかに監護権という考え方があるのだということを、しっかり把握しておくことが重要です。
子の親権や監護権に関して不安やお悩みがあるときは、なるべく早めに弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。
ご相談者さまの疑問や不安を解消させていただくほか、相手方との離婚協議についても代理人として交渉することができますので、スムーズに離婚手続きを進めることが期待できるでしょう。
弁護士法人あおい法律事務所では、初回無料で離婚問題の法律相談を行っております。当Webサイトやお電話にて、お気軽にお問合せいただければと思います。
この記事を書いた人

雫田 雄太
弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。