親権を取り返す|離婚後に親権を取り戻すための条件・方法は?弁護士が解説

離婚時には収入が不安定で子どもの親権を諦めたものの、今では経済的にも精神的にも余裕ができ、子どもと再び一緒に暮らしたい・・・と願うことがあるかもしれません。
しかし、離婚後に親権を取り返すことは、現実的に可能なのでしょうか。子の親権を取り戻すための手続きなど、詳細についてはご存知ない方も少なくないかと思います。
そこでこの記事では、離婚後に親権を取り返すことができるのかについて、弁護士が詳しく解説させていただきます。そして、親権を取り返すことができる場合には、取り戻すために必要な条件や方法には何があるのかについても、具体的にご説明いたします。
離婚後に子どもの親権を取り返したい、とお悩みの方にとって、本記事が少しでもご参考となりましたら幸いです。
目次
親権を取り返す
子どもの親権については、離婚時に話し合いで、あるいは調停などで取り決めているものの、その結論に納得できていない人や、親権を譲らざるをえなかった、という人もいるでしょう。
たとえば、離婚時には非正規雇用で収入が不安定だったため、泣く泣く親権を手放したけれど、その後資格を取得して正社員となり、安定した生活を送れるようになった結果、子どもを迎える準備が整ったので親権を取り返したい、という場合があります。
また、元配偶者が再婚し、新しい家庭に子どもが馴染めず精神的に不安定になっている場合や、子どもが不自然な怪我を繰り返したり、虐待やネグレクト(育児放棄)の疑惑が浮上したりすることもあります。こうした場合にも、子どもの親権を取り戻す必要があると感じるでしょう。
あるいは、子どもの方から「もう一方の親と暮らしたい」と希望するケースも考えられます。
いずれの場合も、単に子どもが親権者ではない親と生活をする、というだけであれば、特に問題はありません。両親が合意していれば、実際に子どもと暮らし養育する親(監護権者)と親権者とを分けても構わないとされているからです。
ですが、「親権者を変える」となった場合は、きちんとした法的な手続きが必要になってきます。
それでは以下に、子どもの親権者を変更するための条件や方法について、詳しく見ていきましょう。
離婚後に親権を取り戻すための条件
離婚後に決定した親権を変更したい場合、父母の間で話し合いが成立したとしても、勝手に親権者を変えることは法律上認められていません。親権の変更には、必ず家庭裁判所の許可を得る必要があります(民法第819条6項)。
(離婚又は認知の場合の親権者)
民法第819条6項 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。
したがって、親権者を変更するには、「子どもの利益」を最優先に考えた上で、家庭裁判所に対して親権者を変更する旨の請求をし、裁判所の許可を得る必要があるのです。
「子どもの利益になる」場合に取り戻せる
なお、請求すれば簡単に子の親権者の変更が認められるものではありません。親権者を変更することが「子どもの利益のため必要がある」と認められるときに限り、家庭裁判所で親権者の変更が認められることになります。
さて、民法第819条6項に明記された「子どもの利益のため必要があると認めるとき」という条件ですが、具体的には次のような事実関係を考慮して判断することになります。
- 子どもがこれまで親権者によって継続的かつ安定的に養育されてきたかどうか。
- 父母それぞれが実際に子どもを引き取り養育する意思を持っているか。
- 親権変更を求める申立てが、子どもの利益を考慮し、正当な目的や動機を有しているか。
- 父母間で親権者の変更に関する合意が成立しているか。
- 子ども本人の意思や年齢。
- 現在の親権者の生活状況や養育環境について、離婚後に著しい変化が生じたか。
- 現在の親権者が所在不明であったり、虐待や育児放棄があったりするなど、子どもの安全を脅かす事実が存在していないか。
- 現在の親権者が再婚している場合、その再婚が子どもの生活や心身の健康にどのような影響を与えているか。
- 現在の親権者による養育環境が子どもの心身の発達にとって適切であるかどうか。
- 現在の親権者に子どもを養育する経済的能力や生活環境が整っているか。
- 親権者の変更を希望する側に、子どもを養育するための経済的基盤や生活環境、支援体制が整っているか。
- 親権者の変更が子どもにとって精神的または社会的に有益であるか。
- 子どもがこれまで過ごしてきた生活環境や人間関係の継続性が維持されるか。
- 兄弟姉妹がいる場合、親権者の変更が兄弟姉妹関係にどのような影響を与えるか。
これらの要素を総合的に考慮した上で、親権者を変更することが子どもの利益となる、と判断された場合に、親権者の変更が認められることになるのです。
親権を取り戻す方法
さて、実際に子どもの親権を取り戻すためには、家庭裁判所の調停手続きか、審判手続きをする必要があります。
①親権者変更調停
親権者変更調停は、離婚後に親権を相手方から自分へ変更したい場合に、家庭裁判所を通じて夫婦が話し合って進める手続きです。
親権者変更調停は、親権の変更を希望する側が、家庭裁判所に調停の申し立てを行います。原則として、管轄となる裁判所は、相手方(現在の親権者)の住所地を管轄する家庭裁判所になります。
親権者変更調停の申立ての際には、基本的に以下の書類が必要となります。
- 親権者変更調停の申立書
- 申立人・相手方・子どもの戸籍全部事項証明書
- 事情説明書
- 送達場所等の届出書
- 進行に関する照会回答書
また、上記の書類に加えて、子ども一人につき1,200円分の収入印紙と、連絡用の郵便切手が手数料として必要になります。
親権者変更調停を申し立てた後は、家庭裁判所が初回の調停期日を指定して通知します。裁判所が指定した調停期日に、裁判官や調停委員が当事者双方から意見を別々に聞き取りながら、合意に向けて話し合いを進めていきます。調停の期日は通常、1~2か月に1回程度のペースで開催され、何度か期日を重ねる中で、夫婦の合意形成を目指すことになります。
調停では、親権者変更を希望する理由や変更後の子どもの養育環境、親の養育能力、子どもの意向など、さまざまな事情が考慮されます。また、家庭裁判所の調査官が子ども本人と面談したり、家庭訪問や学校訪問を行ったりして、実際の生活環境や養育状況を詳しく調査することもあります。親権者の変更に関しては、前述の通り子どもの利益(子どもの心身の安定や安全、教育環境の確保)が最優先されるため、単なる親の都合による変更は認められません。
話し合いによって双方が合意に達し、裁判所としても親権者変更を認めて問題ない、と判断した場合に、親権者変更調停は成立します。親権者変更調停が成立すると調停調書が作成され、正式に親権者が変更されます。
夫婦で合意に至らない場合や、親権者の変更を認めるべきではないと家庭裁判所が判断した場合は、親権者変更調停は不成立となります。親権者変更調停が不成立となった場合は、次にご紹介する「親権者変更審判」という手続きへ移行することになります。
②親権者変更審判
親権者変更調停が不成立となった場合や、現在の親権者の死亡・消息不明などにより調停をするのが難しい場合は、親権者変更審判によって子どもの親権者変更の是非を検討することになります。
親権者変更審判とは、話し合いではなく、家庭裁判所の裁判官が結論を下す手続きです。
親権者変更審判では、当事者双方から提出された書面や調停での記録、調査官の調査報告書などを裁判官が総合的に検討して、親権者の変更が子どもの利益にかなうかを判断します。
調停と異なり、審判は裁判官が一方的に判断を下しますので、当事者同士が合意する必要はありません。ただし、一方的に結論を下されるため、納得できない結果に終わることもあります。審判の判断に納得がいかない場合には、審判の告知を受けた日から2週間以内に、不服申し立ての手続き(即時抗告)を行い、高等裁判所で再度判断を求めることも可能です。
審判の手続き中も、必要に応じて家庭裁判所の調査官が、子どもとの面談や家庭訪問、学校訪問などを通じて、子どもの生活環境や養育状況について調査を行います。これらの調査結果は、裁判官が判断する上で重要な材料となります。
親権者変更審判は、裁判官が法的・客観的な観点から判断を下すため、明確な証拠を準備し、適切な主張ができるよう効果的な書面を整えて、審判に臨むことが非常に重要です。
親権者変更審判の結果、親権者変更が認められれば、審判書によって正式に親権者が変更されます。
例外的ケース
親権者の変更には原則として家庭裁判所の許可が必要であるとご説明しましたが、以下のような場合には、例外的に父母間の合意と届出のみで親権者を変更することができます。
- 離婚後に生まれた子について、親権者を父に指定することに父母が合意している場合(民法第819条3項)
- 子を認知した父を親権者に指定することに父母が合意している場合(民法第819条4項)
(離婚又は認知の場合の親権者)
民法第819条3項 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父を親権者と定めることができる。民法第819条4項 父が認知した子に対する親権は、父母の協議で父を親権者と定めたときに限り、父が行う。
上記のような場合には、例外的に家庭裁判所の調停や審判は不要となり、父母の合意と市区町村役場への届出だけで、親権者変更の手続きを完了できます。
親権を取り返すのは難しい?
これまでの解説の通り、親権を取り返すためには、親権者を変更することが相応であると認められるような理由や事情が必要です。
そのため、一度決定した親権を取り戻すのは簡単ではありませんが、子どもの利益を第一に考え、たとえば以下のような事情がある場合には、親権者変更が認められやすくなります。
- 親権者が日常的に子どもの食事や健康管理を怠ったり、学校に通わせなかったりするなど、養育の基本的な義務を果たしていない場合。
- 親権者が再婚したことで新しい家庭内で子どもが居場所を失ったり、再婚相手や同居人から暴言や暴力を受けたりするなど、現在の家庭環境が悪化し、子どもの心身に悪影響が及んでいる場合。
- 親権者が重い病気や障害のために十分な養育ができなくなった場合、あるいは親権者が死亡した場合で、子どもの生活環境を整えるために他方の親に親権を変更する必要がある場合。
- 子どもが15歳以上で、自ら明確に現在の親権者ではなくもう一方の親と暮らしたいと考えている場合(家事事件手続法第169条2項)。
こうした状況に該当する場合は、具体的な証拠を揃えて家庭裁判所で調停や審判を進めていくことで、親権を取り戻すことができる可能性が高いです。ですので、親権者を変更したいと思ったら、法律の専門家である弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。
Q&A
Q1.離婚後に親権を取り返すことは可能ですか?
A:はい、可能です。ただし、親権者の変更は子どもの利益を最優先として判断されるため、単なる親の都合だけで親権者を変更するのは難しく、家庭裁判所の判断を経て親権者変更が認められる必要があります。
Q2.子どもの親権を取り戻すために必要な条件は何ですか?
A:子どもの親権を変更するには、家庭裁判所に親権者変更の請求をし、「子どもの利益のため必要がある」と認められる必要があります。具体的には、子どもの養育環境の安定性、親の養育意思や能力、子ども自身の意思や年齢、現在の親権者の生活状況や経済力、家庭環境の変化や安全性、精神的・社会的な影響、兄弟姉妹関係への影響などを総合的に考慮して、親権者を変更することが子どもの利益となるか、を判断することになります。
Q3.子どもの親権を取り戻すための方法には何がありますか?
A: 主な方法としては、家庭裁判所における親権者変更調停と、親権者変更審判があります。親権者変更調停では、調停委員を介した夫婦の話し合いで合意を目指し、その上で裁判所が親権者変更を認めれば、親権者を変えることができます。調停で合意に至らない場合や、調停自体が難しい場合は、審判で裁判官による判断を仰ぐことになります。
まとめ
この記事では、離婚後に親権を取り返すことができるのか、という疑問について、弁護士が解説させていただきました。
離婚後に親権を取り戻すことは可能ですが、簡単なことではありません。親権者の変更は、常に「子どもの利益」を最優先に判断されます。
また、親権を取り戻すためには、家庭裁判所の親権者変更調停や親権者変更審判という法的手続きを経る必要があります。その際、適切な証拠とともに、事実関係を適切に主張することが重要です。
親権の問題は複雑で、専門的な知識が求められる場面が多いため、まずは法律の専門家である弁護士に相談していただくことをおすすめいたします。
当法律事務所では、子どもの親権問題をはじめ、離婚・夫婦問題に関するご相談をお受けしております。初回法律相談は無料となっておりますので、お気軽にご利用いただければと思います。
この記事を書いた人

雫田 雄太
弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
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