内縁と慰謝料|内縁関係で浮気されたり関係解消されたりしたら慰謝料を取れる?

婚姻届によらずに夫婦として共同生活を送る男女の関係を内縁関係といいます。
法律婚と比べて行政的な手続きを省略でき、夫婦別姓を維持できるというメリットのある内縁関係ですが、そのためにしばしば法的に不安定な立場に置かれがちである、と認識されているようです。
たとえば、内縁関係にある夫婦の一方が内縁相手以外の異性と男女の関係になった場合に、「法律上の夫婦ではないから、不貞行為にはならない。戸籍上は独身なのだから自由恋愛の範囲だ。」などと主張するケースが見受けられます。
夫婦として生活しているにもかかわらず、婚姻届を提出していないという理由で、事実上の夫婦としての実態がなかったことにされてしまうのでしょうか。
そこでこの記事では、内縁関係における慰謝料の基礎知識や請求の可否、慰謝料の相場の金額などについて、弁護士が分かりやすく解説させていただきます。
この記事が少しでもご参考となりましたら幸いです。
目次
内縁と慰謝料
内縁関係とは、事実婚とも呼ばれ、法律上の婚姻をしていないものの、長期間にわたって夫婦としての共同生活を営む男女の関係を意味しています。
法的に夫婦ではないため、たとえば住民税や所得税といった税制上の扶養控除を受けることができない、といった法律婚の夫婦との違いがある一方で、内縁関係の解消時には離婚時の夫婦のように財産分与が認められるといった、法律婚の夫婦に準じた部分もあるのが内縁関係です。
そして、内縁解消時の財産分与以外にも、内縁解消時の慰謝料請求も認められています。
たとえば裁判例において「ところで、いわゆる内縁は、婚姻の届出を欠くがゆえに、法律上の婚姻ということはできないが、男女が相協力して夫婦としての生活を営む結合であるという点においては、婚姻関係と異るものではなく、これを婚姻に準ずる関係というを妨げない。」(最高裁判所昭和33年3月11日判決)と示されていることなどからも、内縁の夫婦には法律婚の夫婦のような同居義務(民法第752条)や、不貞行為をしてはいけない旨の貞操義務、互いに助け合う旨の相互扶助義務(民法第752条、第760条)があると考えられています。
こうした義務があるということは、これらの義務違反に対し慰謝料を請求する権利もあるというわけです。
内縁関係で慰謝料請求できるケース
それでは、内縁関係でどのような場合に慰謝料を請求することができるのか、具体的なケースを見てみましょう。
①内縁の夫や妻に不貞行為があった
浮気や不倫といった不貞行為は、本来夫婦がお互いに守るべき「貞操義務」に違反する重大な裏切り行為とされています。これは法律上の婚姻においてだけでなく、内縁関係においても同様です。
法律婚の場合、不貞行為は民法第709条の不法行為に該当するため、不法行為を原因とした慰謝料請求が認められています。
(不法行為による損害賠償)
民法第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
そして、内縁は法律婚に準じていると考えられていますから、内縁相手が不貞行為を行った場合も、同様に不法行為に基づく慰謝料請求が認められる可能性があります。
なお、内縁は法律婚のように、戸籍で夫婦であることを証明することができません。そのため、慰謝料を請求された側が「そもそも夫婦ではないから貞操義務などない。」と反論してくる可能性もあります。こうした場合、内縁の夫婦であることと、不貞行為のあったことを証明しなければなりません。
内縁関係を証明するためには、家計を夫婦として共同で管理していること、夫婦同様の生活実態があること、家族や友人などの周囲の人から夫婦として認識されていることなどを示す必要があります。具体的には、住民票の記載が同一世帯になっているかどうか、公共料金や家賃を共通の口座から支払っているか、家族や友人の間で「夫婦として扱われていた」事実があるか、結婚式を挙げたか、といったことを証明することになります。
また、不貞行為があったことを示すための客観的な証拠として、メールやSNSの通信記録、写真や動画、興信所の調査結果などを確保しておくことが重要です。また、不貞相手が内縁関係の存在を知りながら関係を続けていた場合は、その第三者に対しても慰謝料請求が認められる可能性があります。ただし、不貞相手が「内縁関係を知らなかった」と主張するケースや、立証内容をめぐって争いが生じることもあるため、主張内容と証拠の整理が欠かせません。
②正当な理由のない内縁関係の解消・破棄
正当な理由がないにもかかわらず一方的に内縁関係を解消・破棄された場合は、民法第709条の不法行為に基づき、慰謝料を請求できる可能性があります。
もっとも、「正当な理由がない解消」とは、一方当事者の主観だけで決まるものではありません。
たとえば、相手方からDVやモラルハラスメントを受けていたり、経済的な虐待とも言えるような行為が繰り返されていたりした場合は、内縁関係を維持することが困難と判断され、一方的に内縁関係を解消しても、その理由に正当性が認められることがあります。この他にも、相手に不貞行為があった場合や、相手が生死不明になった場合など、民法第770条1項に該当する理由がある場合は、一方的な内縁関係の解消が認められる可能性が高いです。
民法第770条1項 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
反対に、「他に好きな人ができた。」や「共同生活が面倒になった。」といった理由では、内縁関係を一方的に解消できるほどの正当な理由がある、とはいえません。そのため、こうした理由で一方的に内縁関係を解消・破棄された場合には、慰謝料を請求できる可能性があります。
③内縁の夫・妻からDVやモラハラを受けた
内縁関係にある相手からDV(家庭内暴力)やモラハラなどが繰り返し行われていた場合には、民法第709条に基づく不法行為として慰謝料請求が認められる可能性があります。
ただし、単なる夫婦喧嘩や一時的な嫌がらせ、口論程度では、不法行為に該当しないと考えられています。
DVやモラハラとして認定されるためには、行為の継続性や被害の深刻度、被害者側が負った身体的・精神的ダメージの大きさなどを裏付ける証拠が重要になります。
たとえば、医師の診断書や写真、録音・録画データ、日記やSNSのやり取りなど、可能な限り客観的な記録を残しておくことで、暴力やハラスメントが常習的かつ深刻であったことを立証しやすくなります。
こうした証拠が十分でない場合には、一時的な口論や意見の対立と見なされ、慰謝料請求が困難となることがあります。
④内縁の夫・妻が一方的に別居した
内縁関係にある相手が、正当な理由もなく突然別居を始めてしまうと、生活費の支払いが滞ったりコミュニケーションが断たれたりするなど、共同生活の維持が困難になる場合があります。単なる夫婦喧嘩で一時的に家を出る程度なら問題にならないこともありますが、長期にわたる一方的な別居は、事実上の夫婦生活を否定する行為とみなされ、慰謝料請求の対象になる可能性があります。
もっとも、別居そのものが不法行為として直ちに認められるわけではなく、正当な理由の有無が重要な判断要素です。たとえば、DVやモラハラなどが原因で身の安全を守るために別居を選択したのであれば、内縁関係を維持することが困難と判断され、やむを得ない対応と認められる場合があります。
一方で、家を出る側に特段の事情がなく、経済的支援を一切せず、連絡も絶つといった形で放置し続けるようなケースでは、正当な理由のない内縁関係の破棄にあたる可能性が高いでしょう。
⑤内縁相手が既婚者であることを隠していた
内縁関係となった相手が、実は戸籍上の配偶者を持ちながらその事実を隠していた場合、後になって「重婚的内縁」であったことが発覚するケースがあります。既婚であることを知らされていなかった側にとっては、「相手が既婚者であると知っていたら、男女の関係になどならなかった。」と考えられます。
そのため、既婚者であることを隠されたまま重婚的内縁関係になってしまった場合、自由に性的な関係を結ぶ相手を選択できるはずの「貞操権」を侵害されたともいえるため、慰謝料請求が認められる可能性があります。
慰謝料を請求するためには、相手が既婚である事実を隠していた点や、もし正しく既婚者であることを知らされていれば、そもそも内縁関係を結ばなかったこと、などを立証する必要があります。
内縁関係の慰謝料の相場
内縁関係で慰謝料を請求する場合、一般的には50万円から300万円程度が相場とされています。
ただし、これはあくまでも目安であり、実際の金額は事案ごとの事情によって増減します。不法行為の内容が著しく悪質であった場合には、相場を超える高額な慰謝料が認められることもあるでしょう。
たとえば、10年間にわたって複数の異性と関係を持ち、不貞相手との間に子どもまでもうけていたような場合と、半年間不貞行為をしていた場合とでは、同じ不貞行為でもその期間の長さや悪質性が大きく異なります。相手の行為によって被った精神的苦痛が甚大であると判断されれば、その分慰謝料が高額になる傾向があります。一方で、内縁関係の期間が短かったり、問題となる行為の程度が比較的軽微であったりする場合には、相場よりも低めの金額となることが少なくありません。
なお、慰謝料の金額は、内縁関係の実態や継続期間、行為の悪質性、被害者の精神的苦痛の程度、相手の資力など、さまざまな事情を総合的に判断して決めることになります。そのため、内縁相手に不法行為があった場合は、その行為の態様を客観的に第三者に証明することのできる証拠が非常に重要なのです。
内縁関係と慰謝料の判例
最後に、内縁関係における慰謝料請求に関する裁判例をご紹介させていただきます。
(1)内縁関係の不当破棄による慰謝料請求が認められた判例
京都地方裁判所平成4年10月27日判決
事実関係
妻子のある男性(被告)と交際し、未婚のまま男性との子を出産した内縁関係の女性(原告)が、男性から内縁関係を不当に破棄されたことを理由に、内縁の夫に対して慰謝料を請求した事例です。
内縁の妻は当時19歳の専門学校生でした。内縁の夫からは「妻とは仲が悪く別居状態にあり、離婚することを考えている」ということを言われ、妻子がいることを知りつつ、内縁関係になりました。
数年の交際期間の後、約2ヶ月間内縁の夫婦として同居生活を送り、子を出産しましたが、出産直後に内縁の夫は「妻とは離婚できないので別れてくれ。」と話し、同居していたマンションを解約し一方的に内縁関係を解消しました。
裁判所の判断
こうした事実関係に基づき、裁判所は内縁の妻からの慰謝料請求に対し、次の通り判断して300万円の慰謝料を認めています。
被告(内縁の夫)は、妻子があるにもかかわらず、当時19歳で未婚の原告(内縁の妻)に対し、妻とは別れると言いながら交際を重ね、妊娠させた上、内縁生活に入り子を出産させたが、その出産直後に一方的に別れたものであって、内縁の妻と子の今後の生活等も考えると、内縁の夫が内縁の妻に与えた精神的苦痛は大きいものがある。
他方、原告である内縁の妻は、内縁の夫である被告に妻子があるのを知りながら交際したものであって、内縁の夫の「離婚する」という旨の言葉を信じていたとはいえ、このような結果になったことについては原告にも責任があることは否定できない。
これらの事情のほか、原告の年齢、両名の内縁生活の期間等を総合して判断すると、原告の精神的損害に対する慰謝料として、300万円の損害賠償を認めるのが相当である。
(2)内縁関係が認められず慰謝料請求が棄却された判例
東京地方裁判所平成28年7月13日判決
事実関係
本件の控訴人である男性は、婚約関係となった女性とマンションで約9年3ヶ月間の同居生活をしました。その後、女性がマンションを出て男性と別居し、約2年1ヶ月の別居期間を経て、女性から一方的に関係を解消されました。
これに対して男性が、内縁関係と婚約を不当に破棄されたとして、女性に対し慰謝料を請求しました。原審がこの慰謝料請求を棄却したため、男性が控訴したという事例になります。
裁判所の判断
こうした事実関係に基づき、裁判所は次の通り判断し、男性からの慰謝料請求を棄却しました。
婚姻予約と内縁とは区別して考えるべきであり、婚姻予約をし、同居(同棲)していたからといって、内縁が常に成立するわけではない。内縁(事実婚)とは、当事者間に社会観念上夫婦共同生活と認められるような関係を成立させようとする合意(主観的要件)があり、社会観念上夫婦共同生活と認められるような共同生活の事実(客観的要件)はあるが、婚姻届の出されていない男女関係を指すというべきである。そうすると、本件においては、婚姻届を提出しなかった又はできなかった理由は特段うかがわれず、社会観念上夫婦共同生活と認められるような関係を成立させようとする合意があったものとは認め難い。
ただし、同居期間が9年以上に及んでいること等に鑑み、本件では「内縁関係」にあったものとして論ずることとするが、この内縁関係は、女性が一方的に男性との関係を絶った日に、完全に解消されたものと認められる。
そして、本件においては社会観念上夫婦共同生活と認められるような関係を成立させようとする合意があったものとは認め難いこと、二人の関係は必ずしも円満ではなかったこと、男性側も女性との内縁関係を否定する趣旨の言動をしていたことが認められることに加え、別居期間が約2年間と長期間に及んでいること、その間に将来に向けた話合いが行われていないことに鑑みれば、別居を始めた頃には内縁関係は実質的に解消されていたといえ、内縁関係の不当破棄としての不法行為が成立しない。
内縁と慰謝料に関するQ&A
Q1.結婚していない内縁関係ですが、関係を破棄されたことで慰謝料請求できますか?
A:一方的に内縁関係を破棄された結果、生活基盤の喪失や精神的苦痛が生じた場合には、民法第709条の不法行為を根拠に慰謝料を請求できる可能性があります。
ただし、内縁関係の存在を証明する必要があり、たとえば同居期間の長さや家計の共同管理状況、周囲から夫婦として扱われていた事実などを立証しなければなりません。また、正当な理由があって内縁関係を解消したと主張される場合には、慰謝料が認められないケースもあるため、個別の事情を総合的に検討することが大切です。
Q2.内縁の夫が浮気しました。不貞行為で慰謝料請求できますか?
A:内縁関係であっても、相手が浮気(不貞行為)をした場合には慰謝料を請求できる可能性があります。これは、法律婚の場合と同様に、内縁相手の浮気や不倫といった不貞行為が、民法第709条の不法行為に該当すると考えられるからです。
また、内縁相手の不貞の相手方が内縁の存在を認識していた場合は、第三者に対しても慰謝料を請求できる可能性があります。
Q3.内縁関係の慰謝料の相場はどれくらいですか?
A:一般的には、内縁関係の慰謝料は50万円から300万円程度といわれています。法律婚の離婚慰謝料よりやや低めになる傾向が指摘されるものの、あくまでも目安であり、事案によって大きく異なります。
裁判所が金額を判断する際には、内縁関係の継続年数や、問題となる行為の悪質性、被害を受けた側の精神的苦痛の程度、加害者の資力などが総合的に考慮されます。
まとめ
本記事では、内縁関係における慰謝料について、弁護士が解説させていただきました。
内縁は法律婚の夫婦とは異なり、どのような権利や義務が生じるのか、内縁関係は法的に曖昧な部分もあり、その関係解消時には悩む人も少なくありません。
本記事の解説で、そうした疑問や不安を解消していただけましたら幸いです。
内縁関係の事件では、内縁関係の立証が非常に重要となってきます。自分一人で証拠書面を揃えるのは、手間も時間もかかる作業です。弁護士にご相談いただければ、手続きや法的問題についてまとめて対応いたしますので、ぜひ一度、弁護士法人あおい法律事務所にお問合せいただければと思います。
この記事を書いた人

雫田 雄太
弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。