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重婚的内縁|重婚的内縁関係とは?複数の配偶者を持てる?判例もまじえて解説

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。
3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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法律上の配偶者がいるにもかかわらず、別の相手とも夫婦のように生活している状態のことを、「重婚的内縁」といいます。

日本では一夫一妻制と定められており、重婚は原則として認められていませんが、実際のところ、重婚的内縁関係は一体どのような法的評価を受けるのでしょうか?

たとえば、法律婚の夫婦が離婚する場合、離婚時には財産分与や慰謝料の請求などが行われます。ですが、重婚的内縁はあくまで「内縁・事実婚」にすぎません。内縁関係を解消するとなった場合、法律婚の夫婦のように財産分与や慰謝料の請求などはできるのでしょうか。

あるいは、法律婚の配偶者がいる場合、重婚的内縁の相手について、相続権は認められるのでしょうか。

そこで本記事では、「重婚的内縁関係」の具体的な意味を明確にした上で、法律婚の配偶者に認められるような法的権利が重婚的内縁の配偶者にも認められるのか、実際の裁判例もまじえながら、弁護士が詳しく解説させていただきます。

目次

重婚的内縁

「重婚」とは、法律上の配偶者がいるにもかかわらず、さらに別の人とも婚姻することです。日本では民法732条と刑法第184条により重婚は明確に禁止されており、これに違反した場合は刑罰の対象となることが規定されています。

(重婚の禁止)
民法第732条 配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない。

(重婚)
刑法第184条 配偶者のある者が重ねて婚姻をしたときは、二年以下の懲役に処する。その相手方となって婚姻をした者も、同様とする。

日本には戸籍制度があるため、実際に重婚を行おうとしても重複する婚姻届は受理されない仕組みになっています。そのため、現実に刑法上の重婚罪が成立するケースは非常にまれです。ですが、この重婚に類似した「重婚的内縁」のケースを見受けることがあります。

それでは以下に、重婚的内縁について詳しく見ていきたいと思います。

重婚的内縁関係とは

重婚的内縁関係とは、法律上の配偶者がいるにもかかわらず、別の相手と婚姻届を提出しないまま夫婦としての実質的な共同生活を営むことを指します。

愛人関係(不倫関係)とも似ていますが、愛人関係は一般的に秘密裏に行われることが多く、共同生活や社会的認知が伴わない一方で、重婚的内縁関係は夫婦としての実質的な同居生活や社会的認知を伴うことが多いです。

重婚的内縁は法的に保護される?

内縁関係の当事者に法律婚の配偶者がいない場合は、単なる内縁関係となります。この内縁関係の場合は、婚姻届を提出していないだけで実質的に夫婦として生活している、と考えられるため、法律婚の夫婦と同じように、同居・扶養の義務や貞操義務、婚姻費用分担や財産分与の権利などが認められるとされています。

ですが、重婚的内縁関係は原則として、法的に保護されないのが基本です。なぜなら、日本の民法では重婚を禁止しており、公序良俗(公の秩序や社会的な道徳観念)に反すると考えられているからです。重婚的内縁関係も、社会全体の利益や倫理に反するような行為とされるため、基本的には法律上保護されることはありません。

しかし、例外的に重婚的内縁関係でも法的に保護されるケースがあります。それは、法律婚が実質的に破綻または形骸化している場合です。

法律婚の夫婦の関係が破綻あるいは形骸化しているかどうかは、主に以下の点について総合的に考慮し判断されることになります。

  • 法律婚の夫婦の別居期間が長期間に及んでいるかどうか
  • 法律婚の配偶者や子どもとの間での音信・訪問の有無や頻度
  • 別居後に法律婚の配偶者間で経済的な依存関係が継続しているかどうか

「別居期間の長さ」については、短期間の別居では単なる一時的な夫婦喧嘩や関係修復の可能性があると判断されやすいですが、数年以上にわたる長期の別居状態が継続している場合、婚姻関係が実質的に継続困難であると認められる可能性が高くなります。裁判では、一般的に3年以上の別居期間が一つの目安とされることが多いものの、個々の事情により別居期間の長短の判断は異なります。

「配偶者や子どもとの間での音信・訪問の状況」については、定期的な連絡や交流がある場合は、婚姻関係が完全には破綻していないと判断される可能性があります。別居していても、夫婦関係の修復のために話し合いを進めている場合などは、夫婦関係の形骸化や破綻が認められにくいでしょう。一方、長期間にわたり連絡が途絶え、全く交流や訪問が行われていない状況では、実質的な夫婦関係や親子関係が断絶した状態にあると評価され、婚姻関係の破綻が認定されやすくなります。

「経済的依存関係の有無」についてですが、別居後も継続的に生活費や養育費などの経済的支援を受けている場合には、婚姻関係に一定の継続性があると考えられ、婚姻関係の破綻が認められない可能性があります。反対に、一切の経済的依存がなく、完全に独立して生活を営んでいるような場合には、婚姻関係が実質的に終了していると判断されやすくなります。

裁判実務では、これらの要素を複合的に考慮し、「婚姻関係が実質的に破綻している」と認められる場合に限り、重婚的内縁関係に対して一定の法的保護が与えられる可能性が生じるのです。

 

法的保護の判断フロー

 

【判例解説】重婚的内縁の慰謝料や財産分与

さて、重婚的内縁関係が法的保護を受ける可能性のある場合、重婚的内縁の関係解消時に慰謝料や財産分与の問題が生じることになります。

関係解消時の慰謝料・財産分与

前述した通り、本来は公序良俗に反する行為とされているため、重婚的内縁関係には通常の内縁関係のような法律婚に準じた法的保護は認められていません。そのため、原則として重婚的内縁の関係解消時には、慰謝料の請求や財産分与はできません。

ですが例外的に、法律婚の婚姻関係が形骸化あるいは破綻している場合には、慰謝料請求や財産分与が認められることがあります。

たとえば、正当な理由なく一方的に内縁関係を解消されたような場合や、DVやモラハラといった不法行為があった場合には、慰謝料請求が認められる可能性があるのです。

重婚的内縁の関係解消時の慰謝料請求について、実際の裁判例を見てみましょう。

 

妻子のある男性が、女性に対して「妻と離婚する」と言い、結婚の意思があることを明らかにして昭和30年頃から交際を始めました。男性と女性は婚姻の届け出はしていませんでしたが、子どもをもうけ、女性の住所地を生活の本拠にするなど、内縁と認められる関係にありました。

昭和53年に男性は法律婚の妻と離婚しましたが、その後内縁の妻との婚姻について届出を出すことはなく、昭和61年頃からは生活費の支払いもしなくなりました。

こうした事情から、結婚を餌に女性を利用し一生を踏みにじったもので、男性の行為は婚姻予約不履行又は内縁の不当破棄の不法行為に当たるとして、内縁関係にあった女性が男性に対し慰謝料を請求した事例です。

男性と女性が内縁関係に入ったときには、男性と法律婚の妻との間に4人の子がいました。ですが、妻は夫が女性と内縁関係にあることを知るより前から離婚を望んでおり、養育費の負担等について夫との折り合いがつかなかったため離婚に至らなかったという事情がありました。加えて、内縁の女性についても妻は「夫のだらしない女性関係の被害者の一人」として認識していたといったことからも、夫婦は戸籍上の婚姻関係は継続していたものの、女性が内縁関係となるまでには既に婚姻関係が形骸化していたものであると認めるのが相当である、と裁判所は判断しています。

その上で、内縁にあった女性が男性と共に生活した期間が30年にも及ぶこと、内縁関係の破棄が専ら男性の意向でされ、女性に責められるべき事情があるとはうかがえないことなど諸般の事情が考慮され、「重婚的内縁関係であっても、妻との婚姻が形骸化している場合には、内縁関係に相応の法的保護が与えられるべきであり、これを理由なく破棄することは、不法行為を構成する」として、金1,000万円の慰謝料が認められました。

(東京地方裁判所平成3年7月18日判決)

重婚的内縁と相続

さて、もう一つ気になるのが相続権の問題です。重婚的内縁関係にある場合、その相手方は法律上の相続権を持つことができるのでしょうか。

まず基本的な原則として、日本の法律上、配偶者は常に相続人となることが定められています(民法第890条)。

(配偶者の相続権)
民法第890条 被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第887条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。

ここでいう「配偶者」とは、婚姻届を提出した法律上の配偶者に限るとされているため、内縁の夫や妻は含まれていません。

実際に、内縁夫婦の一方の死亡により内縁関係が解消した場合に相続権を有するのかが争われた裁判例では、裁判所は次のように判示し、内縁関係では相続権を有しないと結論しています。

 

重婚的内縁と相続

 

 

民法は、法律上の夫婦の婚姻解消時における財産関係の清算及び婚姻解消後の扶養については、離婚による解消と当事者の一方の死亡による解消とを区別し、前者の場合には財産分与の方法を用意し、後者の場合には相続により財産を承継させることでこれを処理するものとしている。このことにかんがみると、内縁の夫婦について、離別による内縁解消の場合に民法の財産分与の規定を類推適用することは、準婚的法律関係の保護に適するものとしてその合理性を承認し得るとしても、死亡による内縁解消のときに、相続の開始した遺産につき財産分与の法理による遺産清算の道を開くことは、相続による財産承継の構造の中に異質の契機を持ち込むもので、法の予定しないところである。また、死亡した内縁配偶者の扶養義務が遺産の負担となってその相続人に承継されると解する余地もない。したがって、生存内縁配偶者が死亡内縁配偶者の相続人に対して清算的要素及び扶養的要素を含む財産分与請求権を有するものと解することはできないといわざるを得ない。

(引用:最高裁判所平成12年3月10日判決)

一般的な内縁関係において相続権が認められないのですから、重婚的内縁関係の場合も相続権は認められないのです。

重婚的内縁と子どもの親権・養育費

重婚的内縁関係が解消される場合、子どもの親権や養育費についてどのような扱いになるのか気になる方も多いでしょう。

親権とは、子どもの監護や教育を行い、財産管理をする権利・義務のことです。日本では、原則として親権者になれるのは子どもの父母か、子どもと養子縁組をした養親に限られます。そのため、重婚的内縁の当事者が子どもをもうけた場合でも、親権は法律上の子どもの父母(認知をした父や出産した母)にのみ認められることになります。

養育費についても、法律的な親子関係が認められる場合に支払う義務が生じます。具体的には、内縁の父親が子どもを認知したケースです。

したがって、重婚的内縁関係が解消されても、子どもに関する親権・養育費の問題は、法律上の親子関係の有無によって決定されることになります。

重婚的内縁に関するQ&A

Q1.重婚的内縁関係とはどういう状態を意味しますか?

A:重婚的内縁関係とは、法律上の配偶者がいるにもかかわらず、他の相手と婚姻届を提出せずに夫婦同然の共同生活を営んでいる状態のことを意味します。

Q2.一般の内縁関係に認められる法的保護が重婚的内縁関係の場合にも認められますか?

A:重婚的内縁関係の場合、原則として法的保護は認められません。これは重婚が民法で禁止されており、公序良俗に反すると考えられているためです。ただし、法律婚が実質的に破綻していると認められる場合には、重婚的内縁関係の相手にも、例外的に一定の法的保護が認められることがあります。

Q3.重婚的内縁関係の場合、関係を解消した際の財産分与は絶対に認められないのでしょうか。

A:絶対に認められないわけではありません。法律婚の夫婦関係が実質的に破綻しており、重婚的内縁関係が長期間にわたり実質的な夫婦関係として認められる場合には、例外的に財産分与が認められることがあります。裁判では、個別の事情を総合的に考慮した上で判断されますので、弁護士にあらかじめ相談することをおすすめいたします。

まとめ

本記事では、重婚的内縁について弁護士が解説させていただきました。

一般の内縁関係とは異なり、重婚的内縁は原則として法的な保護を受けることが困難とされています。その主な理由は本記事でもお伝えした通り、日本の法律が重婚を禁じており、重婚的内縁関係が社会の秩序や倫理(公序良俗)に反すると考えられているためです。

ですが、裁判所は例外的に法律婚が実質的に破綻している状況に限り、一定の法的保護を認めるケースもあります。しかしそうしたケースでは、法律婚の関係が実質的に破綻していることや、夫婦同然の内縁関係にあることなどを証明しなければなりません。

裁判所での手続きとなると手間や時間もかかる上、非常に複雑でデリケートな問題を含んでいますので、実際に重婚的内縁による法的問題に直面した際には、法律の専門家である弁護士になるべく早期に相談してみましょう。

弁護士法人あおい法律事務所では、初回無料の法律相談を実施しております。重婚的内縁関係のお悩みや疑問がありましたら、お気軽にご相談いただければと思います。

この記事を書いた人

雫田 雄太

弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

 

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