離婚公正証書に書けないこと|離婚の公正証書に書けない10のことを弁護士が解説

離婚する際に取り決めた約束事が守られるよう、法的な強制力を持つ書面にしたものを「公正証書」といいます。養育費の不払い、慰謝料の未払い、財産分与の履行トラブルなどを防ぐため、協議離婚では公正証書が用いられることが少なくありません。
支払いが途絶えれば公正証書によって差し押さえも可能という、離婚後の生活に心強い文書ですが、何でもかんでも書けるわけではありません。せっかく記載しても無効になる内容や、かえって揉め事の火種になってしまう内容もあるため、離婚公正証書を作成する際には記載する内容を慎重に検討し、書いてはいけないことを確認しておくことが重要です。
そこでこの記事では、離婚公正証書に書けないことについて、弁護士が具体的に解説させていただきます。どういった内容の記載が認められないのかについて、具体的な10個の項目を挙げながらご説明いたします。
これから離婚公正証書を作成される方にとって、本記事がご参考となりましたら幸いです。
目次
離婚公正証書に書けないこと
離婚にあたって公正証書を作成するには、まず夫婦間で条件の合意が整っていることが前提となります。そのため、「合意さえあれば、どんな内容でも書面にできる」と思われている方も少なくありません。ですが実際には、法的に記載できない事項や、公序良俗の観点から公正証書に書くには適さない取り決めがあるため、注意が必要です。
また、公証人や公証役場によっても、記載できる内容が変わることがあります。まずは、この点について確認しておきましょう。
公証人によっても変わる
離婚公正証書は、法的効力を持たせるために作成される公文書ですが、その内容の記載可否については、実務上、公証人ごとに判断が分かれることがあります。文言や条項の記載を希望しても、公証人の解釈や運用方針によっては修正や削除を求められることもあるのが実情です。
たとえば、同じ離婚協議書をもとに公正証書の作成を申請しても、A公証役場では記載が認められず内容の修正を求められた一方、B公証役場では問題なく記載が認められた、というケースがあります。
また、代理人による手続きの可否や、委任状の形式についても公証人によって対応が分かれるケースがあり、記載内容以前の手続面でも差が生じることがあります。
こうした違いがあるため、公正証書に記載したい内容が決まっている場合は、事前に公証役場に相談しておくのがおすすめです。希望する条項が認められない場合には、他の公証役場に依頼することも検討してみましょう。
離婚公正証書に書けないこと10選
それでは、離婚公正証書に書けないことについて、具体的な内容を見ていきたいと思います。離婚公正証書に書けない一般的な内容として、次の10個の内容が主に挙げられます。
- 離婚後の姓の制限
- 慰謝料や財産分与の長期分割払い
- 親権者として父母以外の第三者を指定する条項
- 親権者変更の申立ての制限
- 年齢による親権者変更
- 養育費の請求権の放棄
- 養育費の金額の変更の制限
- 面会交流の制限
- 離婚時年金分割請求の制限
- 利息制限法を超える金利
一つずつ、どういった内容で、なぜ離婚公正証書に書けないのか、確認していきましょう。
(1)離婚後の姓の制限
離婚後の氏(姓)については、民法第767条および戸籍法により、一定のルールが定められています。
(離婚による復氏等)
民法第767条 婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、協議上の離婚によって婚姻前の氏に復する。2 前項の規定により婚姻前の氏に復した夫又は妻は、離婚の日から三箇月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を称することができる。
原則として、離婚した場合、婚姻中に改姓していた配偶者は、離婚と同時に婚姻前の氏に戻ることになります(民法第767条1項)。ただし、離婚届を提出した日から3ヶ月以内に届け出ることで、婚姻中の氏をそのまま名乗ること(氏の継続)も可能です。
この「氏の選択」は個人の人格権に関わるものですから、法律に定められた手続きを前提として、本人の自由意思に委ねられています。
そのため、たとえば公正証書において「離婚後は必ず旧姓に戻すこと」や「今後婚姻中の姓を使ってはならない」といった条項を盛り込むことは、当人の自由な選択を不当に制限するものとして、法的には無効となるのです。
仮に夫婦間でそういった合意があったとしても、公証人はその内容を公正証書に記載することを認めない場合がほとんどです。これは、氏の選択という個人的な決定に対し、強制力をもたせるような文言が公序良俗に反するおそれがあるためです。
したがって、離婚後の姓に関しては、たとえ当事者間で明確な意図があったとしても、それを公正証書で拘束することはできません。氏の取り扱いは法律に則って、各人が適切に届け出ることでのみ決定されるべき事項であり、公正証書の記載事項としては適さないといえます。
(2)慰謝料や財産分与の長期分割払い
離婚に際して発生する慰謝料や財産分与は、金額や支払方法について当事者間で自由に合意できる性質のものですが、支払期間を過度に長期に設定する場合には注意が必要です。
慰謝料や財産分与について、当事者間で分割払いの合意をすること自体は可能ですが、20年以上にわたるような過度に長期間の分割払いについては、公正証書に記載できない、あるいは内容の修正を求められるケースがあります。
まず、慰謝料については、そもそも不法行為に基づく損害賠償の性質を持ち、できるだけ早期に支払われるべき債務とされています。実際の離婚裁判における慰謝料の相場は、概ね100万円〜300万円程度とされており、それに対して支払期間を20年とするような契約は、著しく不相当かつ債権者保護の観点からも問題があるとされます。このような長期分割の条項は、公証人から無効と判断され、支払期間の修正を求められることが少なくありません。
一方、財産分与も同様に、離婚に伴い婚姻中に築いた共有財産を清算するための制度であり、原則として離婚の時点で一括して処理されるべき性質を持ちます。長期にわたる分割払いは、本来の制度趣旨に反するものなのです。
したがって、公正証書に慰謝料や財産分与の分割払いを定める際には、現実的かつ法的に妥当な支払期間と方法を選ぶ必要があります。過度な長期分割を希望したとしても、そのまま記載されるとは限らず、公証人から修正の指示を受ける可能性が高い点に注意が必要です。
(3)親権者として父母以外の第三者を指定する条項
離婚時に取り決めるべき重要な事項のひとつが、未成年の子に関する親権者の指定です。日本の民法では、父母が協議離婚する場合、どちらか一方を親権者として定めることが義務づけられています(民法第819条1項)。また、裁判上の離婚の場合も、裁判所が父母のどちらか一方を親権者として定めることと決められています(民法第819条2項)。
このように、いずれの場合においても、親権者は原則として父または母のいずれかでなければなりません。そのため、公正証書において「祖父母」や「叔父・叔母」など、父母以外の第三者を親権者として定める条項を記載することは、法的に無効とされます。仮に当事者がそのような合意に達していたとしても、親権者の指定は民法の規定に従っていなければ家庭裁判所での離婚手続き自体が進行できないため、公証人もこのような条項の記載を受け付けません。
なお、子の監護(養育・生活の面倒を見る)について第三者に事実上任せることは可能ですが、それは親権の移転を意味するものではなく、親権の法的効果(教育・居所指定・財産管理など)を第三者に委ねることはできないとされています。
したがって、離婚公正証書において親権者を定める場合には、必ず父母のいずれか一方を記載しなければならず、それ以外の者を指定することは、たとえ合意があっても無効となり、公証人にも記載を拒否されることになるでしょう。
(4)親権者変更の申立ての制限
離婚時には、未成年の子について父母のいずれかを親権者とする必要がありますが、その後の事情の変化によっては、親権者を変更することも可能です。民法はこれを想定し、家庭裁判所に申し立てをすることで親権者を変更できる制度を設けています(民法第819条6項)。
民法第819条6項 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。
つまり、親権者変更の申立ては、法律で認められている権利なのです。
ですが、「将来、親権者を変更しない」「親権者変更の申立ては行わない」といった内容を離婚公正証書に盛り込もうとするケースが見受けられることがあります。しかし、これは当事者が法律で認められている申立権を自ら放棄または制限しようとする行為ですから、親権者変更の申立てをしない、といった内容の記載は認められないことになるのです。
(5)年齢による親権者変更
前述の民法第819条6項の通り、将来、事情が変わったときに必要性が認められれば、子の親権者を変更することができます。
つまりは、子の養育に関して何らの事情の変更もないのに、子の年齢だけで親権者を変更することは、認められていません。したがって、「子が15歳になった時点で自動的に親権者を父に変更する」「中学卒業後は母から父へ親権が移る」といった、年齢に応じた親権者変更をあらかじめ定める内容の記載は認められないのが一般的です。
さらに、未成年の子には成長段階に応じた多様な事情が生じる可能性があるため、年齢を理由に自動的な親権変更を行うことは、子の最善の利益を損なうおそれもあります。
そのため、公証人もこのような年齢条件による親権者自動変更の条項については、削除または記載不可とする対応を取るのが一般的です。
(6)養育費の請求権の放棄
離婚時の取り決めにおいて、養育費について「今後一切請求しない」「子どもが何歳になっても養育費は発生しない」などの条項を記載しようとする例があります。しかし、こうした養育費の請求権を将来的に一括して放棄する内容は、法的に無効とされる可能性が高く、公正証書にも記載できないと判断されることが一般的です。
養育費は、民法第766条1項に基づき、子の監護に必要な費用として、父母双方が分担すべき法的義務とされています。
(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
民法第766条1 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
ここで重要なのは、養育費は親の権利ではなく、子の権利として認識されている点です。そのため、親同士が「今後は請求しない」と合意しても、その合意によって子の利益が害されるような内容であれば無効と判断されるでしょう。
そのため、公証人も養育費の放棄条項については慎重な姿勢を取り、完全な放棄を前提とした内容には記載を認めない対応を取ることが通常です。また、養育費の取決めは、将来にわたって柔軟に見直され得るものですから、これを一方的に制限・否定することは公正証書には馴染まないともいえます。
(7)養育費の金額の変更の制限
離婚時に取り決めた養育費の金額について、「将来いかなる事情変更があっても、この金額を変更しない」「今後、増額・減額請求は行わない」といった条項を盛り込もうとする人もいますが、こうした将来的な金額変更を一切認めない合意は、法的に無効となる可能性が高く、公正証書にも記載できないことが一般的です。
養育費の金額については、子どもの年齢や進学、健康状態、親の収入や生活状況の変化など、さまざまな要因によって時間とともに変動することが想定されています。
そのため、家庭裁判所の養育費請求調停の手続きによって、養育費の金額の変更が認められています。「将来にわたって金額を一切変更しない」などとする取り決めは、法律が認めた請求権を放棄させる取り決めとなってしまい、制度の趣旨に反するものとされ、記載が認められないことになります。
(8)面会交流の制限
離婚後における子どもと別居親との交流、いわゆる面会交流は、民法第766条に基づいて、子の利益のために適切な方法・頻度で実施されるべき事項とされています。ここで重要なのは、面会交流が単に「別居親が子に会いたい」という希望を叶える制度ではなく、子ども自身が親と会うことを通じて情緒的な安定や健全な成長を図るための権利でもあるという点です。
そして、実務上も面会交流については、子どもの年齢・性格・生活環境・心理状態などを個別に考慮して、都度調整することが原則です。
このような制度の性質にもかかわらず、公正証書に「今後、一切面会交流を認めない」「親権者が許可した場合のみ交流可能」などといった極端に制限的、あるいは全面的に禁止する条項を盛り込もうとしても、子ども自身が有する面会交流の権利を不当に制限するものとして、記載が認められないことになります。
(9)離婚時年金分割請求の制限
離婚に際して行われる年金分割制度は、婚姻期間中に形成された厚生年金の記録の一部を、当事者間で分割することを可能にする制度であり、主に第3号被保険者(専業主婦等)の年金権の保障を目的としています。年金分割には、「3号分割」と「合意分割」の2種類があり、いずれも法定の手続に基づいて行われます。
この制度に関連して、公正証書に「将来、年金分割を請求しない」「年金分割請求権を放棄する」といった内容を盛り込もうとするケースがありますが、こうした条項は法律により認められた請求権の行使を制限するものですから、離婚公正証書への記載は認められません。
(10)利息制限法を超える金利
離婚に際して定めた慰謝料や養育費などの支払いが滞った場合に備えて、「支払が遅れたときには年利30%の遅延損害金を加算する」などと、相場よりも多い利率での金利を記載しようとするケースも見受けられます。
ですが、慰謝料などの金利については、利息制限法によってその上限が定められているため、利息制限法の上限を超える金利設定は、法律上認められておらず、離婚公正証書への記載も認められません。
離婚公正証書に書けないことに関するQ&A
Q1.離婚公正証書に書けないことはありますか?
A:法的に記載できない事項や、公序良俗に反するような内容については、離婚公正証書に書くには適さないため、記載が認められません。
Q2.どの公証役場でも離婚公正証書に書けないことは共通ですか?
A:いえ、必ずしも共通とは限りません。原則として、法的に記載できない事項や、公序良俗に反するような内容は離婚公正証書に書けない、という点はどの公証役場でも共通しています。ですが、A公証役場で認められなかった条項の記載がB公証役場では認められる、といったケースもあります。
Q3.子どもに関する離婚公正証書に書けないことには何がありますか?
A:親権者として第三者を指定することや、親権者変更の申立てを禁止する条項、養育費の請求権を放棄する条項や、将来の面会交流を全面禁止する条項などは、法律によって認められた権利を侵害するだけでなく、子どもの権利も侵害することになるため、公正証書には記載できません。
まとめ
本記事では、離婚公正証書に書けないことについて弁護士が解説させていただきました。
離婚公正証書は、離婚後のトラブル防止に役立つ有効な手段ですが、すべての合意内容を自由に記載できるわけではありません。法律に違反する内容や、公序良俗に反する条項などは記載が認められず、仮に記載しても無効となるおそれがあります。
ですので、離婚公正証書を作成する際は、記載内容の適法性や実務上の扱いについて十分に確認し、必要に応じて法律の専門家である弁護士に相談することをおすすめいたします。
当法律事務所では、離婚公正証書の条項の検討や公証人とのやり取りなど、離婚公正証書の作成にかかる全般的なお悩みについてのご相談をお受けしております。弁護士による法律相談は初回無料となっておりますので、ぜひお気軽にお問合せいただければと思います。
この記事を書いた人

雫田 雄太
弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。