財産分与と登記|離婚財産分与の不動産登記の必要書類は?自分で申請できる?

離婚にともなう財産分与では、預貯金や家財道具の分け方に加えて、不動産の取り扱いが重要になります。預貯金や動産の場合は、夫婦の合意に基づいて分配し、現物をそれぞれが手に入れたら終了です。ですが、不動産の場合は、“不動産の共有”や第三者との権利関係が問題となることも多く、財産分与を終えた後も、不動産の登記という重要な手続きが残っています。
ところで、不動産の登記手続きと聞いて、実際にどこで何をするのか、具体的なイメージは浮かぶでしょうか。
不動産登記は公的な手続きになりますが、日常的・定期的に行う手続きではありませんので、実際に必要となるまでどういった手続きかを知らない、という人も少なくはないでしょう。
そこでこの記事では、離婚時の財産分与にともなう不動産の登記手続きについて、そのやり方や必要書類、注意点などを弁護士が解説させていただきます。必要書類については、離婚時に不動産をもらう側・不動産を相手に渡す側とで分けて、それぞれ詳しくご説明いたします。
財産分与で不動産の分配を検討中の方や、手続きを進めている方にとって、本記事が少しでもご参考となりましたら幸いです。
目次
財産分与と登記
離婚時の財産分与とは
離婚時の財産分与とは、婚姻中に形成した夫婦の実質的な共有財産について、離婚時に清算することです(民法第768条1項)。
民法第768条1項 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
共有財産には、結婚後に夫婦が協力して取得した不動産や預貯金などが挙げられます。預貯金などの口座名義が一方の名義であっても、婚姻期間中に協力して築いた財産であれば、夫婦の共有財産として扱われます。一方、結婚前から所有していた財産や、結婚後に個人が相続や贈与などによって取得した財産は「特有財産」と呼ばれ、財産分与の対象にはなりません。
原則として、離婚時に共有財産を夫婦それぞれが2分の1ずつの割合で分け合います。
なお、専業主婦の場合でも、家事や育児を通じて夫の収入に貢献しているとみなされるため、共有財産の2分の1を受け取る権利があります。
登記とは
登記とは、土地や建物などの不動産に関する権利関係を、法務局が管理する登記簿に記録し、公に示す手続きのことです。
登記することによって所有者や抵当権などの情報を明確にして、取引の安全性を確保し、所有者の権利を第三者に対抗(主張)できるようにします。
具体的には、売買契約や、離婚時の財産分与、相続などで所有者が変わった場合に、所有者が誰なのかを明らかにするため、登記手続きを行います。
登記手続きは法務局で行われ、登記が完了すると、その内容が登記簿に反映され、誰でも閲覧可能になります。登記簿に正しい権利者が記載されていることで、不動産を渡す側ももらう側も、正当な権利者との正しい取引だと信頼することができ、安心して取引を進められるのです。
そのため、不動産の登記手続きを適切に行うことは、正当な権利者として自身の財産権を保護し、権利関係のトラブルを予防するために、非常に重要なのです。
不動産の財産分与と登記
それでは、離婚時の不動産の財産分与における登記手続きについて、具体的に見ていきましょう。
財産分与と登記原因
不動産の登記手続きは、「登記原因」によって異なります。登記原因とは、不動産の登記申請手続きにおいて、その権利変動を生じさせた事実・法律行為のことを意味します(不動産登記法第5条2項かっこ書き)。
不動産登記法第5条2項 他人のために登記を申請する義務を負う第三者は、その登記がないことを主張することができない。ただし、その登記の登記原因(登記の原因となる事実又は法律行為をいう。以下同じ。)が自己の登記の登記原因の後に生じたときは、この限りでない。
簡単にいうと、登記原因とは「不動産登記の理由」です。人から土地を買ったので登記をする、というケースの登記原因は「売買契約」ですし、親が亡くなり不動産を受け継いだ、というのであれば「相続」が登記原因です。つまり、離婚時の財産分与をきっかけに登記手続きをする場合は、登記原因は「財産分与」となります。
登記原因が明らかであることで、いつ・どのような理由で権利が移転したのかが明確になるため、不動産取引の透明性が確保でき、将来的にも紛争を予防することができると考えられています。
不動産登記の制度は、土地や建物の所有者・権利者を第三者に明示し、取引の安全を図ることが目的ですから、単に名義を変更しただけでは、第三者はその権利移転の理由や正当性を判断できません。権利変動の正当性を示すためにも、「なぜ権利が移転したのか」を具体的に明らかにする必要があるのです。
また、不動産の登記手続き自体でも、この「登記原因」が重要になってきます。登記原因が何であるかによって、登記申請の手続きや必要書類が異なってくるからです。
たとえば、離婚財産分与が登記原因の場合でも、協議離婚か調停離婚かによって、登記申請のやり方は変わってきます。調停離婚であれば、調停調書という公的書類に財産分与の内容が記載されていることで、登記原因とその具体的な分配内容が明確であるため、不動産を受け取る側が、単独で登記申請の手続きを行うことができます。
一方で、協議離婚の場合は、登記申請手続きを進めるにあたって相手方の協力が必要です。
このように、離婚財産分与が登記原因の場合でも、離婚の種類によって申請手続きは異なります。離婚後に慌てないためにも、登記原因と申請方法について事前に整理しておき、余裕を持って準備を進めることが重要なのです。
離婚財産分与の登記の必要書類
それでは、具体的な登記申請方法と必要書類について、見ていきたいと思います。
不動産登記申請のやり方と注意点
財産分与による不動産の登記申請は、「財産分与による所有権移転登記」の手続きを行います。基本的なやり方は、申請書と必要書類を法務局に提出する方法です。
ですが、前述した通り、離婚の方法が協議離婚かそれ以外かによって、登記申請手続きのやり方が異なってきますので、それぞれについてご説明いたします。
協議離婚の場合
協議離婚の場合は、離婚財産分与による所有権移転登記の手続きを、夫婦が共同で進めていかなければなりません。現時点での不動産の所有者と、不動産を新たに取得する側の両方が協力して必要書類を用意し、二人で法務局に行って申請を行うのが原則です。
登記原因が離婚にともなう財産分与であるため、所有権移転登記の申請は、離婚後に行う必要があります。離婚後は一方が転居したり連絡が取れなくなったりと、なかなか元配偶者に協力を依頼するのは難しいため、離婚届の提出前に登記申請の必要書類を用意しておくことをおすすめいたします。
裁判上の離婚の場合
調停離婚や裁判離婚など、裁判上の離婚の場合は、調停調書や判決書に財産分与の内容が記載されていれば、相手の協力なしに、申請者が単独で手続きを行うことが可能です。
裁判所から受領した調停調書や判決書が「登記原因証明情報」となりますので、これを申請書やその他の必要書類と併せて法務局に提出します。
法務局への申請書類の提出は、基本的には窓口ですが、郵送やオンラインによって提出することも可能です。書類を提出して登録免許税を納付すると、法務局が審査を行います。審査の段階で、何か不備があった場合には、修正や再申請が求められることがあります。
法務局の審査が終わると、登記完了証と登記識別情報通知書が交付されるので、受領します。法務局の窓口で受け取るほか、郵送やオンラインでも受け取ることが可能です。
どちらの場合も、法務局で申請してから所有権移転登記が完了するまで、通常1~2週間かかります。郵送で行う場合はその分の日数もかかるため、余裕を持って申請を行いましょう。
登記申請費用
どちらの場合も、登記申請には登録免許税という費用がかかります。登録免許税は、原則として「不動産の固定資産税評価額の2%(千分の二十)」となっています(登録免許税法第9条)。
(課税標準及び税率)
登録免許税法第9条 登録免許税の課税標準及び税率は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、登記等の区分に応じ、別表第一の課税標準欄に掲げる金額又は数量及び同表の税率欄に掲げる割合又は金額による。
別表第一 課税範囲、課税標準及び税率の表(第二条、第五条、第九条、第十条、第十三条、第十五条―第十七条、第十七条の三―第十九条、第二十三条、第二十四条、第三十四条―第三十四条の六関係)
登記、登録、特許、免許、許可、認可、認定、指定又は技能証明の事項
課税標準
税率
一 不動産の登記(不動産の信託の登記を含む。)
(注)この号において「不動産」とは、土地及び建物並びに立木に関する法律(明治四十二年法律第二十二号)第一条第一項(定義)に規定する立木をいう。
(二) 所有権の移転の登記
ハ その他の原因による移転の登記不動産の価額
千分の二十
たとえば、土地の固定資産税評価額が2,000万円の場合、登録免許税は2,000万円×0.02=40万円なので、登記申請の手数料として40万円が必要です。
不動産の価値が高ければ高いほど登録免許税も高額になるため、注意しましょう。
また、登記申請を郵送で行う場合には、送付にかかる郵便切手代も必要です。
不動産登記申請の必要書類
離婚財産分与による所有権移転登記では、原則として以下の書類が必要となります。
①登記原因証明情報
財産分与の合意内容を示す書面で、離婚協議書や公正証書、調停調書、裁判の判決書などが該当します。具体的には、協議離婚であれば当事者双方が署名押印した離婚協議書や公正証書、調停離婚では家庭裁判所が作成した調停調書、裁判離婚では判決書が該当します。登記原因証明情報によって、財産分与の具体的な内容を客観的に証明することが可能となります。
②登記申請書
不動産登記の申請を行う際の基本的な書類です。所有権移転の目的、登記原因(日付と財産分与という文言)、登記権利者(不動産を受け取る人)と登記義務者(不動産を渡す人)の住所氏名などを正確に記載します。書式は法務局のホームページや窓口から入手することができます。
参考:不動産登記の申請書様式について【2-4 所有権移転登記申請書(財産分与)】(法務局)
③戸籍謄本
離婚が成立したことと、離婚の日付を証明するために必要です。戸籍謄本は本籍地の市区町村役場で取得できます。
④住民票(受け取る側)
新たに不動産を取得する側(登記権利者)の現在の住所と氏名を証明するために必要な書類です。住民票は居住地の市区町村役場で取得できます。住民票については、不動産登記申請において有効期限が法令で明確に定められているわけではありませんが、実務上は登記申請時点での最新の情報を反映するため、発行後3ヶ月以内のものを提出することが一般的です。
⑤登記済権利証・登記識別情報通知(渡す側)
不動産を渡す側(登記義務者)が、その不動産を所有していることを証明するために必要な書類です。通常は、登記義務者が不動産を取得した時に法務局から交付されています。
なお、登記済権利証や登記識別情報通知を紛失してしまった場合は、早めに法務局に相談しましょう。登記済権利証や登記識別情報通知は再発行できないため、代替手段による登記申請を行うことになります。通常のケースよりも費用や時間がかかることになるため、注意が必要です。
⑥固定資産評価証明書(渡す側)
登録免許税を算定するために必要な、不動産の評価額が記載された証明書です。不動産の所在地を管轄する市区町村役場の税務課等で取得します。
⑦印鑑証明書(渡す側)
実印を押印した書類の真正性を証明するために使用します。印鑑証明書は、発行後3ヶ月以内のものとされていますので(不動産登記令第16条3項)、注意してください。
(申請情報を記載した書面への記名押印等)
不動産登記令第16条3項 前項の印鑑に関する証明書は、作成後三月以内のものでなければならない。
財産分与と登記に関するQ&A
Q1.登記とは何ですか?
A:登記とは、不動産の所在や面積、所有者の氏名などの情報を法務局に登録し、第三者に対してその権利関係を公に示す制度のことです。特に所有権の移転や抵当権の設定など、権利に関わる内容を登記することで、その効力が法的に保護されるようになります。不動産の取引や相続、財産分与などの場面では、正確な登記手続きがとても重要になります。
Q2.協議離婚で不動産の財産分与をします。所有権移転登記を妻が単独でできますか?
A:原則として、協議離婚の場合の不動産の所有権移転登記手続きには、登記義務者(通常は不動産を手放す側)と登記権利者(不動産を取得する側)の双方の協力が必要です。そのため、たとえ離婚協議で合意ができていても、妻が単独で所有権移転登記をすることはできません。夫の協力や署名押印のある書類の提出が必要です。ただし、調停や審判など裁判所の関与がある場合は、例外的に単独で申請できることがあります。
Q3.財産分与による所有権移転登記には、どのような書類が必要ですか?
A:財産分与による所有権移転登記では、一般的に以下のような書類が必要です。発行から3ヶ月以内のもの、など有効期限が定められている書類もありますので、登記申請を行う日に合わせて、余裕を持って書類の準備を進めましょう。
- 登記申請書
- 登記原因証明情報(調停調書など)
- 登記権利者の住民票
- 登記義務者の印鑑証明書
- 登記識別情報通知(登記済証)
- 固定資産評価証明書
まとめ
この記事では、離婚にともなう財産分与を原因とする不動産の登記申請手続きについて、弁護士が解説させていただきました。
不動産の所有権移転登記を怠ると、相手方が勝手に不動産を処分したり、第三者に売却してしまったりするリスクがあります。第三者に対しては、登記をしていなければ、自分が正当な権利者であることを主張できません。そうなると、法的紛争に発展する恐れもあります。
こうしたトラブルを回避するためには、不動産の所有権移転登記を適切に行うことが重要なのです。
また、登記手続きは原則として元配偶者と協力して行わなければなりません。離婚後は相手方と揉めたり、連絡がつかなくなったりすることもありますので、離婚協議中に不動産の登記申請についても準備を進めておくことをおすすめいたします。
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この記事を書いた人

雫田 雄太
弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
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