夫婦関係の破綻|婚姻関係の破綻とはどこから?定義や証明方法などを解説

結婚生活においては、些細なすれ違いや夫婦喧嘩から、夫婦仲が険悪になることもあります。中には、夫婦関係が修復困難なほどに夫婦仲が悪化してしまうケースもあるでしょう。
そのような状態を「夫婦関係が破綻している」などといいますが、具体的にはどういった状態の夫婦を意味しているかご存知でしょうか。
そこでこの記事では、「夫婦関係の破綻(婚姻関係の破綻)」について、弁護士が解説させていただきます。
夫婦関係の破綻とはそもそもどういった状態のことをいうのか、定義や条件といった基本的知識に加え、夫婦関係の破綻が原因で離婚問題に発展した場合の「婚姻関係の破綻の証明」についてもご説明いたします。
夫婦関係の悪化は、誰にとっても身近な問題です。夫婦関係の破綻で離婚を検討したときに、本記事が少しでもご参考となりましたら幸いです。
目次
夫婦関係の破綻
さて、仲が険悪な夫婦というのは珍しくはないですが、夫婦関係が破綻していることが、そもそも法律上どのような場面で問題となってくるのでしょうか。
離婚原因としての夫婦関係の破綻
実務上「夫婦関係の破綻」が重要になってくるのは、離婚裁判においてです。
日本では、離婚する主な方法として、夫婦の話し合いによる離婚(協議離婚・調停離婚)と、裁判所に離婚の可否を判断してもらう離婚(裁判離婚)があります。
協議離婚や調停離婚においては、離婚することについての夫婦双方の合意があれば離婚が成立しますが、裁判離婚においては民法に定められた離婚理由(法定離婚事由)がなければ、離婚することができません。そして、この離婚裁判で離婚が認められるための理由については、民法第770条1項各号に以下の通り定められています。
(裁判上の離婚)
民法第770条1項 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
上記のうち、民法第770条1項5号「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。」のことを「夫婦関係の破綻(婚姻関係の破綻)」というため、離婚裁判において夫婦関係が破綻していることが認められるかどうかが重要な争点となるのです。
夫婦関係の破綻と不貞行為
夫婦関係の破綻が法律上問題となるもう一つの典型的な場面が、不貞行為に基づく慰謝料請求になります。
不貞行為とは、配偶者以外の異性と性的関係を持つことです。不貞行為は民法の「不法行為」に該当するため、民法第709条による損害賠償請求(不貞慰謝料請求)をすることが可能とされています。
(不法行為による損害賠償)
民法第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
ですが、いかなる場合も不貞慰謝料の請求が認められるわけではなく、不貞行為が行われた当時、夫婦関係がすでに破綻していたと認められる場合は、不貞慰謝料の請求が認められないことがあるのです。
そもそも不貞慰謝料の請求が認められるのは、不貞行為によって、婚姻関係にある配偶者の「権利」や「法律上保護される利益」が侵害されたと判断されるからです。夫婦関係が既に破綻していた場合、夫婦関係はすでに事実上終了しているとみなされるため、仮に配偶者が第三者と性的関係を持ったとしても、そもそも配偶者としての権利や利益を侵害したとは言えないので、結果として不法行為は成立しないということになります。
そのため、夫婦関係が破綻していたかどうかは、慰謝料を請求する側・請求される側のどちらにとっても重要なポイントとなります。不貞行為があったことが明白であっても、実際には慰謝料が認められないケースもあるため、離婚裁判や不貞慰謝料の請求においては「当時の夫婦関係がどういう状態だったのか」が大きな争点となるのです。
夫婦関係が破綻していたか否かについては、個別具体的な事情を総合的に考慮して判断されます。たとえば、長期間別居して生計も完全に分離しており、もう何年も連絡すら取っていない、といった状態では、夫婦関係が破綻していると判断される可能性が高いでしょう。反対に、外形的には別居していても、定期的に連絡を取り合っており、季節のイベントや子どもの行事に夫婦で参加していたような事情があれば、夫婦関係は破綻していないと判断される可能性があります。
以上の通り、夫婦関係の破綻は離婚問題においては非常に重要な争点となるため、その定義や条件について以下でしっかりと確認していきましょう。
婚姻関係の破綻とは
まずは、夫婦関係(婚姻関係)の破綻について、定義と条件をおさえておきましょう。
夫婦関係破綻の定義
「夫婦関係の破綻」とは、法律上の婚姻関係が形式的には継続していても、実質的に夫婦としての実体が失われている状態を指します。より具体的にいいますと、①夫婦双方に婚姻を継続する意思がなく、②夫婦としての生活を継続することが困難なほど、夫婦関係が深刻に悪化している状態を意味しています。
夫婦関係の破綻とはどこから?認められやすい条件
それでは、夫婦関係の「破綻」とは、具体的にどこからが破綻になるのでしょうか。離婚裁判において、夫婦関係が破綻していると認められやすい条件について確認しましょう。
夫婦関係が破綻していることが認められるためには、一般的に次の3つの条件が必要とされています。
- 長期間に渡って別居が続いている
- 夫婦双方に夫婦関係を修復する意思がない
- 配偶者に有責性がある
まず、「長期間の別居」は、夫婦が実質的な共同生活を営んでいないという客観的な証拠になります。法律上、明確に「何年」と決まっているわけではありませんが、一般的には5年以上の別居が続いていると、裁判所は「関係修復が困難な状態」と判断しやすくなります。別居は、夫婦関係が形だけで中身がないことを示す、最もわかりやすい材料のひとつです。
次に、「夫婦双方に修復の意思がない」とは、どちらか一方が「もうやり直したい」と考えているようなケースではなく、双方が「もう無理」「一緒に暮らす気はない」と感じている状態を指します。たとえ別居していても、どちらかに修復の意志が明確に見える場合には、「破綻」とまでは判断されにくいのが実情です。
そして3つ目の「配偶者に有責性があること」とは、DVや不貞、悪意の遺棄など、夫婦関係を破綻させた明確な原因が一方にあるということです。配偶者の一方に有責性がある場合、婚姻関係が破綻したことの責任の所在が明確になるため、離婚を求める側にとっては有利な事情になります。
以上の条件を具体的なケースで見てみると、以下の7つが「婚姻関係の破綻が認められる可能性のある主なケース」としてあげられます。
①離婚する意思がある
まず、夫婦双方にもはや夫婦としての関係を修復させる意思がなく、「これ以上婚姻を継続するつもりはない」などと考えているような場合は、婚姻関係が破綻していることが認められやすいでしょう。
なお、ただ単に「離婚したいと思っている」ではなく、離婚に向けた話合いを進めていた・離婚協議書の作成を進めていた、などの事情があると、婚姻関係の破綻が認められる可能性が高くなります。
②長期間の別居・家庭内別居
婚姻関係の破綻の3条件でも触れましたが、長期間に渡って別居・家庭内別居している場合は、夫婦関係の破綻が認められやすいケースです。
婚姻関係にある以上、夫婦には法律上の義務として、同居の義務が定められています(民法第752条)。
(同居、協力及び扶助の義務)
民法第752条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
単身赴任や海外出張といったやむを得ない場合の別居を除き、夫婦としての協力関係がない状態での別居が継続することで、夫婦関係が修復される見込みはないと考えられるからです。
また、物理的には同居している場合でも、夫婦間で日常的な会話がまったくなく、食事・生活スペース・家計などもすべて別々にしている、いわゆる家庭内別居の状態が長期にわたって続いていると、実質的には別居と同様に評価されることがあります。たとえば、家の中で顔を合わせることすらなく、生活空間を完全に区別していて、生活費もそれぞれが自分の分は自分で賄っている、といった状態では、「夫婦の協力・扶助の実態がない」と判断され、婚姻関係が破綻していると認定される可能性があるのです。
なお、「長期間」の具体的な年数の決まりはありませんが、一般的には5年以上とされています。
③家庭での役割を放棄している
夫婦は、家庭を維持するために互いに協力し支え合わなければならないとされています(民法第752条)。収入を得る・家事や育児をする・精神的な支えになるなど、役割の具体的内容は家庭によってさまざまですが、いずれにしても「夫婦の相互協力関係」が婚姻生活の基本です。
そのため、たとえば経済的には働く意思をまったく見せず、生活費も支払わずに浪費を続ける、あるいは育児・家事を一切放棄して長期間家を空けるといった、非協力的な態度が長期に渡って継続すると、夫婦としての協力義務を果たしていないと判断され、婚姻関係の破綻が認められる可能性があります。
なお、家庭の放棄が一時的であったり、体調や仕事上の事情などでやむを得ず協力できなかったりするような場合には、ただちに婚姻関係が破綻していると認められるわけではありません。
④DVやモラハラがある
配偶者からのDV(家庭内暴力)やモラハラ(精神的虐待)がある場合、婚姻関係の破綻が認められる可能性は非常に高くなります。
DVには、殴る・蹴るといった身体的暴力だけでなく、物を投げる、生活費を与えない、外出や交友を過度に制限するといった行為も含まれます。モラハラは、暴言や人格否定、無視、過度な監視など、精神的に相手を追い詰める言動を意味します。
こうした行為が継続的に行われ、配偶者が強い恐怖や精神的苦痛を感じている場合には、夫婦としての信頼関係は完全に失われていると判断されるでしょう。加えて、被害者が安全確保のために別居することも多いため、それにより婚姻関係の実体がすでに存在しないと評価されやすくなります。
裁判の場では、DVやモラハラの存在を裏付ける証拠として、警察への相談記録、医師による診断書、配偶者の言動の録音・録画データなどが重視されます。
なお、たとえ暴力が一時的であったとしても、その内容や影響の重大さによっては、「婚姻関係はすでに破綻している」と評価される可能性があります。
⑤性の不一致
性の不一致は、婚姻関係の破綻を判断する際の一要素として考慮されることがあります。性行為は夫婦間における重要なコミュニケーション手段のひとつです。単にセックスレスが続く場合だけでなく、一方が拒否し続けているような場合や、配偶者が同性愛者・性的不能により性交渉ができない場合などにも、夫婦関係の継続が困難であると判断され、婚姻関係の破綻が認められる可能性があります。
⑥配偶者に飲酒癖、浪費癖などの問題がある
配偶者にアルコール依存や極端な浪費癖などの問題行動がある場合、それが家庭に著しい悪影響を及ぼしていると判断されれば、夫婦関係の破綻が認められる可能性があります。
たとえば、飲酒によって暴力的になり、酒を控えるよう言ってもやめてくれない、仕事をすぐに辞めてしまい収入が不安定、借金や高額の支出を繰り返している、といったケースが考えられます。
一方で、飲酒や浪費があったとしても、それが一時的なものであったり、本人が改善に取り組んでいたりする場合には、ただちに夫婦関係が破綻しているとは認められない可能性もあるようです。
重要なのは、そうした問題行動が長期的かつ継続的に繰り返されており、夫婦としての信頼関係や生活基盤がすでに壊れているかどうかです。
⑦配偶者が犯罪行為をした
配偶者が刑法に違反するような犯罪行為をし、逮捕・起訴・服役といった重大な結果に至っている場合は、他方配偶者にもその影響が及ぶことが懸念されます。
たとえば、配偶者が傷害、窃盗、詐欺、薬物などの犯罪により実刑判決を受けた場合には、刑務所に服役することとなり、長期間に渡って同居できない状態となります。刑事事件を起こした事実が近所や職場、親族などに知られれば、もう一方の配偶者も社会的信用を失い、人間関係の悪化や孤立といった影響を受けることにもなりかねません。さらに、収入源が絶たれたり、子どもが学校でいじめを受けたりするなど、家庭全体に深刻な悪影響が及ぶことも少なくありません。
このようなケースでは、配偶者が犯罪行為をしたことによって婚姻関係が破綻した、と判断されることがあるのです。
婚姻関係破綻を証明するには
さて、夫婦の婚姻関係が破綻していることを証明するためには、何がポイントとなるのでしょうか。
①別居期間の長さ
夫婦関係の破綻を証明するものとして、別居期間の長さは重要です。
一般的には、5年程度の別居期間が夫婦関係の破綻が認められるための目安とされています。
もちろん、別居期間が5年未満だと認められない、というわけではありません。夫婦が別居しているという事情の他にも、DVやモラハラといった重大な事情があれば、別居期間が5年未満でも夫婦関係の破綻が認められることもあるでしょう。
そして、別居期間が長ければ長いほど婚姻関係の破綻が認められる可能性も高くはなりますが、かといって単に別居期間が長いというだけでは足りず、その間に夫婦が交流していない・復縁に向けた働きかけも行っていないなど、「夫婦関係の修復の見込みがない状態」であることも必要です。
②客観的な証拠
裁判所は当事者の主張だけでは判断しませんから、夫婦関係が破綻しているという主張を裏付ける証拠が必要不可欠です。
たとえば、具体的に次のような客観的証拠があげられます。
別居したことの証拠
- 住民票、転出届などの住所変更記録
- 公共料金や携帯料金の請求先の変更履歴・支払い記録
- 別居時期や別居生活について記録した日記・スケジュール帳・メモなど
- 郵便物の転送記録や配達証明
- 引越契約書や賃貸契約書
婚姻継続の意思がないことを示す証拠
- 離婚を求めるLINE・メールの文面
- 離婚協議書や離婚公正証書の草案など
- 関係修復を拒否する内容の手紙やSNSのやり取り
- 家庭内での会話を録音したもの(復縁拒否の明確な発言)
配偶者の有責性(破綻の原因)を示す証拠
- DVやモラハラの録音・録画・診断書・警察の相談記録
- 不貞行為の証拠(ラブホテルの領収書、交際記録、探偵報告書)
- 暴言・人格否定などを記録した日記や音声データ
- 飲酒・浪費・ギャンブル依存を示すレシート、カード明細、借用書など
以上に挙げたものの他にも、夫婦の個々の事情に応じたさまざまな証拠が考えられます。
どのような証拠が有効かは、状況や相手の反応によっても変わってくるため、証拠の選別や集め方に迷った場合は、なるべく早めに弁護士に相談いただくことをおすすめいたします。
夫婦関係の破綻に関するQ&A
Q1.夫婦関係の破綻とはどういう意味ですか?
A:夫婦関係の破綻とは、夫婦としての実体ある関係がすでに失われており、今後も関係修復の見込みがない状態を指します。具体的には、①夫婦双方に婚姻を継続する意思がなく、②夫婦として生活を続けることが困難なほど関係が悪化している、という状態です。
Q2.別居していれば、必ず夫婦関係の破綻と認められますか?
A:いいえ、別居しているからといって必ずしも破綻しているとは限りません。
たとえば、単身赴任などによるやむを得ない別居の場合は、夫婦としての協力関係が失われているわけではないので、夫婦関係が破綻していると判断されることはないでしょう。
離婚裁判においては、別居の期間・理由・状況に加えて、連絡の有無や夫婦間のやり取り、関係修復に向けた努力がなされたかなどを総合的に判断して、夫婦関係の破綻が判断されることになります。
Q3.夫婦関係が破綻していると思うのですが、相手が離婚に応じてくれません。どうすればいいですか?
A:相手が離婚に応じてくれない場合は、協議離婚の話し合いを弁護士に依頼することもひとつの有効な手段です。弁護士が間に入ることで、当事者では感情的になりがちな話し合いを冷静に進めることが期待できます。話し合いでも離婚できない場合は、まず家庭裁判所に離婚調停(夫婦関係調整調停)を申し立てることになります。離婚調停でも合意に至らなければ、最終的には離婚裁判によって離婚を請求します。
まとめ
この記事では、夫婦関係の破綻が法律上どのような意味を持ち、どのような場面で問題となるのかについて、離婚裁判の実務を踏まえて解説させていただきました。
夫婦関係が破綻していると認められるには、単なる不仲や一時的な対立では足りず、関係の修復が現実的に困難であることを、別居期間や証拠資料などから客観的に立証する必要があります。
状況に応じて必要な証拠や主張の内容も異なるため、個別のケースについては、早めに弁護士に相談し、方針を整理することが大切です。ご自身の状況が「破綻」といえるのか判断に迷う場合も、法的な観点から適切なアドバイスを受けることで、今後の選択肢がより明確になるでしょう。
夫婦関係でお悩みの場合は、ぜひ弁護士にご相談ください。弁護士法人あおい法律事務所では、弁護士による法律相談を初回相談料無料で行っております。当ホームページのWeb予約フォームやお電話にて、お気軽にお問合せいただければと思います。
この記事を書いた人

雫田 雄太
弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
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