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DVを警察に相談したらどうなる?対応してくれないって本当?相談・通報~対応までを解説

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。
3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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DV(ドメスティック・バイオレンス、家庭内暴力)は、夫婦間や親子間などの近しい関係で起こる暴力や精神的虐待の総称です。DV被害を受けている人の中には、「家庭の問題だから警察に相談しても取り合ってくれないのではないだろうか。」と不安に思う人も少なくありません。

しかし、警察は暴力行為や脅迫行為を決して軽視しておらず、被害者の保護や加害者への対応を行う法的な仕組みが整っています。
とはいえ、実際に通報や相談を考える際、「何をどうすればいいのか」「どのような流れになるのか」と悩むこともあるでしょう。

そこでこの記事では、DVを警察に相談するとどうなるのかを中心に、相談の方法や対応策、加害者への処罰の可能性など、具体的な内容をわかりやすく解説します。
実際にDV被害を受けた場合に迅速に行動できるよう、DV被害を警察に相談する流れを知り、警察がDV相談にどのように対応してくれるのかを把握しておきましょう。
本記事が少しでもご参考となりましたら幸いです。

目次

DVを警察に相談したらどうなる?

さて、DV被害を警察に相談したくても、きちんと対応してもらえるのか心配という人も多いのではないでしょうか。
よく耳にするのは、「家庭内のトラブルには基本的に警察は介入しないと聞いた。」といった言葉や、「相談してもあまり意味がないらしい。」といった言葉です。
では、警察にDV相談をしても、本当に対応してくれないのでしょうか。

DVに警察は対応してくれないって本当?

「DVは家庭のことだから」という思い込みによって通報をためらってしまうDV被害者は多いのですが、警察はDV問題について、本記事で後述する通り、さまざまな形で対応します。
それにも関わらず、DVに関して警察が対応してくれないのでは、と思われているのは、日本には「民事不介入の原則」というものがあるからです。

民事不介入の原則とは

「民事不介入の原則」とは、警察などの公的機関が、夫婦間の離婚や単なる夫婦喧嘩など、あくまで民事上のトラブルとみなされる問題については直接的な介入をしないとされる考え方です。

たとえば、日常的な口論だけで刑事罰にあたるような暴力行為や脅迫がなければ、警察は問題解決に踏み込めません。警察は刑事事件として立件できるかどうか、つまり法律上の犯罪にあたるかどうかを基準に動くため、単に「夫婦が離婚を考えている」「些細な口論が絶えない」などの場合は、警察が動かないケースが多いのです。これが「民事不介入」という原則ですが、DVのように暴力が加わると、もはや単なる民事トラブルではなく犯罪行為とみなされる可能性が高まります。

かつてはDVも、こうした民事トラブルとみなされ民事不介入とされていたのですが、DV問題が深刻化して法制度が整備されたことにより、DV問題は民事不介入の対象からはずれることとなったのです。

家庭内暴力に警察は介入できる

具体的には、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律の一部を改正する法律」、通称「DV防止法」を根拠にして、警察が家庭内暴力に介入・対応することになります。

具体的には、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律の一部を改正する法律」、通称「DV防止法」を根拠にして、警察が家庭内暴力に介入・対応することになります。この法律は、夫婦間で行われる身体的暴力や精神的な暴力を社会問題として捉え、警察や行政が被害者を保護できるよう、法律として明文化したものです。

DV防止法を見てみると、法律が想定している「配偶者からの暴力」というのが、単なる身体的暴力だけでないことが分かります。

(定義)
DV防止法第1条1項 この法律において「配偶者からの暴力」とは、配偶者からの身体に対する暴力(身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすものをいう。以下同じ。)又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動(以下この項及び第28条の2において「身体に対する暴力等」と総称する。)をいい、配偶者からの身体に対する暴力等を受けた後に、その者が離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者から引き続き受ける身体に対する暴力等を含むものとする。

たとえば、殴る・蹴るといった身体への直接的な攻撃はもちろん、「殺すぞ」「今度やったらただでは済まない」などと恐怖を与える発言も、精神的な暴力としてDVに該当する可能性があります。

DV被害を受けたと判断される状況では、警察は「単なる夫婦間の揉め事」として放置せず、被害者の安全を確保するために、通報や相談を受けて対応を行います。被害者から詳しく事情を聞き取り、必要に応じて加害者への警告や被害者の身柄の保護を行い、場合によっては加害者の身柄を拘束し、刑事事件としての捜査を進めることもあるのです。

従来、「家庭内のトラブルだから警察は介入しないのではないか」といった懸念を抱く人も多かったかもしれませんが、DV防止法の整備によって、家庭内の暴力であっても、警察が介入し対応できる仕組みが確立されたのです。

家庭内だからといって暴力が許されるわけではなく、必要であれば一刻も早く警察へ相談することが大切です。

警察へのDV相談の流れ

それでは、実際に警察へDV被害を相談する流れについて見ていきましょう。

警察へDVの相談を考えている人の中には、「どのように動けばよいのかわからない」「警察に行くこと自体、少し抵抗がある」と感じている人もいるかもしれません。以下では、警察へのDV相談の一般的な流れを、順を追って詳しく解説します。
実際の相談は、次のような流れで行われます。

  1. 警察署または警察本部に出向く。
  2. 受付でDV相談を希望している旨を伝え、DV相談担当窓口へ案内してもらう。
  3. 担当者によるDV被害の詳細な聞き取りを行う。
  4. 被害者の希望や状況を踏まえ、どのような対応策がとれるかを検討する。

まずは、近くの警察署や都道府県警察本部へ出向き、「DV相談をしたい」と受付で伝えます。交番にも一時的に駆け込める場合がありますが、交番では本格的な相談に対応する窓口が設けられていません。そのため、緊急事態で身の危険を感じているために交番に駆け込むといったとき以外は、警察署や警察本部に行くようにしましょう。

受付でDV相談の希望を伝えると、DV相談を専門的に取り扱う担当窓口へ案内されます。DV被害を相談する際には、夫や妻から受けた暴力の程度や頻度、どのような状況で起こったのかなど、できる範囲で具体的に説明しましょう。相談時には、記録を取ってもらえるので、のちのち被害届を出す際などにも役立ちます。

DV相談では、被害者がどれほどの恐怖や危機感を抱いているかを把握することが重要になります。

  • 身体的な暴力(殴る・蹴るなど)がいつ、どのように行われたか。
  • 精神的な暴力(脅迫、暴言)がどれくらい続いているか。
  • 同居している子どもへの影響はあるか。
  • 被害者が今後どのようにしていきたいか(離婚を考えているか、身を守るために避難先を探しているかなど)。

相談時には、警察官がこれらの内容を詳しく確認します。証拠になりそうなもの(診断書や暴力の録音データ、写真など)があれば、合わせて提示すると、より正確に状況を把握してもらえます。記憶があいまいになっている部分があっても、わかる範囲で伝えてください。

警察は、被害者の希望や現在置かれている状況を踏まえつつ、必要な措置を検討します。どのような措置があるかについては後述いたしますので、ぜひこのままご覧ください。

警察は、「夫婦の問題だから」といった理由で対応を拒否することはありません。むしろ、被害者の安全確保を優先しなければならない立場にあるため、DVの深刻さを伝えれば、それに応じた手段を講じてもらえます。ただし、警察の対応はあくまでも「刑事事件になり得る暴力や脅迫」に対処するという性質があるため、被害者自身が「何を求めるのか」を明確にしておくと、スムーズにやり取りできるでしょう。

家庭内暴力への警察の対応

被害者から相談を受けた警察は、必要に応じてDV防止法に基づいた対応を取ります。

(1)保護命令等による被害者の保護

 

保護命令等による被害者の保護

 

①被害者への接近禁止命令

配偶者や元配偶者からのDV被害者を保護するため、保護命令の効力が生じた日から6ヶ月間、申立人(DV被害者)に接近・接触することを禁止するよう、相手方(加害者)に命じるものです(DV防止法第10条1項1号)。

この接近禁止命令が裁判所によって発令されると、被害者へのつきまといや、被害者の自宅・職場・被害者が通常所在する場所をはいかいすることが禁止されます。

さらに、裁判所は接近禁止命令を発令すると同時に、その事実を警察に通知するため(DV防止法第15条3項)、命令発令後につきまといなどがあった際には、警察への相談や取り締まりがスムーズに行われることが期待できます。

DV防止法第15条3項 保護命令を発したときは、裁判所書記官は、速やかにその旨及びその内容を申立人の住所又は居所を管轄する警視総監又は道府県警察本部長に通知するものとする。

ただし、接近禁止命令は被害者へのつきまといや生活圏内でのはいかいを禁じるものなので、それ以外の行為を一切禁止するものではありません。たとえば、相手方からの連絡自体をすべて断ちたい場合や、DV被害者だけでなく子どもや家族・親族などへの接触も禁じたい場合には、後述するほかの保護命令を併せて申し立てる必要があります。

なお、電話等禁止命令・子どもへの接近禁止命令・親族などへの接近禁止命令については、それ単独では申し立てることができず、接近禁止命令が前提とされています。

②電話等禁止命令

続いてご紹介する電話等禁止命令は、接近禁止命令の実効性を確保するために有効な保護命令です。DV被害者の生命や身体を保護するために、配偶者や元配偶者に対して電話連絡等の行為を禁止するよう命じるものになります(DV防止法第10条2項)。

DV防止法第10条2項 前項本文に規定する場合において、同項第一号の規定による命令を発する裁判所又は発した裁判所は、被害者の申立てにより、その生命又は身体に危害が加えられることを防止するため、当該配偶者に対し、命令の効力が生じた日以後、同号の規定による命令の効力が生じた日から起算して6ヶ月を経過する日までの間、被害者に対して次の各号に掲げるいずれの行為もしてはならないことを命ずるものとする。
1 面会を要求すること。
2 その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
3 著しく粗野又は乱暴な言動をすること。
4 電話をかけて何も告げず、又は緊急やむを得ない場合を除き、連続して、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールを送信すること。
5 緊急やむを得ない場合を除き、午後十時から午前六時までの間に、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、又は電子メールを送信すること。
6 汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと。
7 その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
8 その性的羞恥心を害する事項を告げ、若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する文書、図画その他の物を送付し、若しくはその知り得る状態に置くこと。

電話「等」禁止命令とある通り、電話以外にもFAXやメール、物の送付なども禁止される命令です。直接の接触はなくても、執拗にメッセージを送られることで恐怖や不安が高まるケースもあるため、これを禁じることで被害者を保護します。

③子どもへの接近禁止命令

子供へのつきまといや、子供が通う学校などの近辺をはいかいする行為を禁止する命令が、子どもへの接近禁止命令です(DV防止法第10条3項)。

DV防止法第10条3項 第1項本文に規定する場合において、被害者がその成年に達しない子(以下この項及び次項並びに第12条第1項第3号において単に「子」という。)と同居しているときであって、配偶者が幼年の子を連れ戻すと疑うに足りる言動を行っていることその他の事情があることから被害者がその同居している子に関して配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため必要があると認めるときは、第1項第1号の規定による命令を発する裁判所又は発した裁判所は、被害者の申立てにより、その生命又は身体に危害が加えられることを防止するため、当該配偶者に対し、命令の効力が生じた日以後、同号の規定による命令の効力が生じた日から起算して6ヶ月を経過する日までの間、当該子の住居(当該配偶者と共に生活の本拠としている住居を除く。以下この項において同じ。)、就学する学校その他の場所において当該子の身辺につきまとい、又は当該子の住居、就学する学校その他その通常所在する場所の付近をはいかいしてはならないことを命ずるものとする。ただし、当該子が15歳以上であるときは、その同意がある場合に限る。

子どもを巻き込んだ暴力や脅迫の被害が懸念される場合に適用されます。子どもの学校や習い事の場などにも加害者が近づけないようにし、被害者だけでなく子どもまで含めて安全を確保しようとする趣旨です。
なお、法律にもある通り、子どもが15歳以上である場合は、接近禁止命令を出すのに子ども本人の同意が必要です。

④退去命令

同居している加害者に対して、自宅など被害者が生活している場所から退去するよう求める命令です(DV防止法10条1項2号)。

DV防止法10条1項2号 命令の効力が生じた日から起算して2ヶ月間、被害者と共に生活の本拠としている住居から退去すること及び当該住居の付近をはいかいしてはならないこと。

被害者が自宅での生活を続けたい場合や子どもがいる場合など、加害者を排除しなければ安全確保が難しいと判断されるときに活用されます。

⑤親族等への接近禁止命令

親族等への接近禁止命令は、被害者の親族や、その他被害者と社会生活において密接な関係を有する者の身辺へのつきまといや、勤務先等その通常いる場所の付近をはいかいすることを禁止する保護命令です(DV防止法第10条4項)。

DV防止法第10条4項 第1項本文に規定する場合において、配偶者が被害者の親族その他被害者と社会生活において密接な関係を有する者(被害者と同居している子及び配偶者と同居している者を除く。以下この項及び次項並びに第12条第1項第4号において「親族等」という。)の住居に押し掛けて著しく粗野又は乱暴な言動を行っていることその他の事情があることから被害者がその親族等に関して配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため必要があると認めるときは、第1項第1号の規定による命令を発する裁判所又は発した裁判所は、被害者の申立てにより、その生命又は身体に危害が加えられることを防止するため、当該配偶者に対し、命令の効力が生じた日以後、同号の規定による命令の効力が生じた日から起算して6ヶ月を経過する日までの間、当該親族等の住居(当該配偶者と共に生活の本拠としている住居を除く。以下この項において同じ。)その他の場所において当該親族等の身辺につきまとい、又は当該親族等の住居、勤務先その他その通常所在する場所の付近をはいかいしてはならないことを命ずるものとする。

なお、親族などへの接近禁止命令を発令する際、対象となる親族などが15歳以上の場合は本人の同意が必要で、15歳未満の場合は法定代理人の同意が求められます。
親族などへの接近禁止命令が出されることが想定されるのは、たとえば、配偶者や元配偶者が被害者の親族などの家に押しかけ、「被害者の居場所を言わないとただでは済まない」といった激しい言葉を投げかけるような場面です。

このような状況になると、被害者が親族などを守るため、あるいは仲立ちをするために加害者と直接対面せざるを得なくなり、結果として被害者が再び暴力を受ける危険が高まります。こうした事態を避けるために、親族などに対する接近禁止命令を利用することが想定されているのです。

命令違反は罰則

なお、上記の命令に違反した場合は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金という罰則が定められています(DV防止法第29条)。

DV防止法第29条 保護命令(前条において読み替えて準用する第10条第1項から第4項までの規定によるものを含む。次条において同じ。)に違反した者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。

(2)被害者の身の安全確保のサポート

警察にDV相談をすると、上述の①から⑤の保護命令以外にも、被害者の身の安全を確保するためのサポートも行ってくれます。

DV被害が深刻な場合、加害者と同居している住居にとどまると危険が高いと判断されることがあります。そこで警察は、被害者の身を守るために、行政や民間のシェルターへの避難を紹介するなどの対応を行うことがあります。たとえば、配偶者による暴力が激しく、今すぐ安全な場所へ移動しないと危害が及ぶおそれがあるといったケースでは、警察と連携したシェルター側の受け入れ手続きがスムーズになり、より迅速に保護が受けられる可能性が高まります。

また、子どもがいる場合は、子どもの安全確保を含めて避難先を考慮する必要があります。シェルターによっては、子どもと一緒に滞在できるところもあるので、警察はそうした施設が利用できるかどうかも含め、被害者に案内することが一般的です。

このように、警察には保護命令の申立てを支援するだけでなく、被害者が安全に避難できる場所を紹介するという大切な役割もあるのです。自宅に戻ると危険だと感じる場合や、相談先がわからない場合でも、一人で悩まず、まずは警察に連絡してみることをおすすめします。

(3)被害届の受理

場合に応じては、被害届の提出や告訴状の提出も検討することになるでしょう。

被害届は、被害者が警察に対して「〇〇の犯罪被害を受けた」という事実を知らせる書類です。警察は被害届を受理すると、被害内容を捜査し、暴行や傷害などの犯罪が成立する可能性が高い場合には加害者の捜査に着手します。ただし、被害届を出しても、必ずしも逮捕や立件に至るとは限りません。警察が証拠不十分と判断すれば、捜査が打ち切られる場合もあります。

告訴状は、被害者が「加害者を処罰してほしい」という意思を示し、警察や検察庁に捜査や起訴を求める正式な書類です。被害届と異なり、被害者の「処罰を求める意思表示」が書面で示されます。告訴状が受理されると、警察・検察は捜査を進めざるを得ないため、捜査が進む可能性が高いというメリットがあるほか、被害届よりも「本気で処罰を求めている」という姿勢が明確になり、加害者に対する抑止力になり得る、というメリットもあります。

被害届を出すデメリット

DV被害を警察に相談し、被害届を出すことで加害者に対して捜査や処罰を求めることが可能になりますが、一方でいくつかのデメリットも存在します。

 

被害届を出すデメリット

 

まず、被害届が出されたことを知った加害者が逆上し、これまで以上に暴力や嫌がらせを激化させるおそれがあるため、被害者や子ども、周囲の人たちを巻き込んださらなる被害拡大に注意が必要です。

また、被害届を出すことは加害者を処罰する意思表示とみなされるため、夫婦関係の修復が難しくなる可能性があります。被害者が「離婚をするつもりはないけれど、暴力を止めさせたい」と考えている場合には、その思いと実際の手続が一致しないことで葛藤が生じるかもしれません。

さらに、被害届を出しても証拠不十分などの理由で事件化されない場合があり、勇気を振り絞って届け出たにもかかわらず捜査に進展がなく、被害者が大きな失望感や精神的負担を抱えるケースもあります。捜査が本格化した場合には、事情聴取や捜査協力などで被害者が何度も警察に出向かなければならず、時間的・精神的な負担が増すことも考えられます。

こうしたデメリットを踏まえると、弁護士や行政・民間の相談窓口などと連携しながら、被害届の提出を検討すべきでしょう。

DVで通報したらどうなる?

DV被害を相談するだけでは解決しない場合や、相談する余裕もないような場合には、警察に通報することもあるかと思います。
以下に、DVで通報した場合のその後の流れについて、簡単にご説明いたします。

①DV加害者の逮捕
通報後、警察が現場に駆けつけて暴行や傷害、脅迫などの犯罪が行われている実態を確認した場合、現行犯として加害者を逮捕することがあります。たとえば、被害者が怪我をしている、加害者による暴力行為が続いているなど、緊急性が高いとみなされると、その場で身柄を拘束される可能性があります。

一方、現行犯逮捕に至らない段階でも、加害者に任意同行を求めて事情を聴き、証拠を収集したうえで「通常逮捕」に踏み切る場合があります。たとえば、その場では暴力が確認できなかったとしても、被害者の証言や証拠(診断書、録音など)から十分な疑いがあると判断されれば、逮捕状を請求して身柄を拘束することが可能です。いずれにしても、警察は被害者の安全を最優先に考え、必要な措置を講じます。

②「配偶者からの暴力相談など対応票」の作成
警察は、DV(家庭内暴力)の相談や通報を受けた際、被害者がどのような危険や恐怖を感じているかを正確に把握し、今後の捜査や保護措置に役立てるために、正式名称「配偶者からの暴力相談等対応票」という書類を作成します。これは、夫婦間の暴力に関する具体的な内容や回数、被害者がどのような状況に置かれているかなどを記録する重要な資料で、警察内で情報を共有する際の基礎データとなります。 

対応票には、被害者と加害者それぞれの氏名や住所、連絡先などの基本情報のほか、加害者の暴力の程度(たとえば、殴る・蹴るなど身体的な危害を加える行為や「殺すぞ」などの脅迫行為)、けがの有無や診断書の有無、子どもに対する影響、「加害者に対する指導・警告」や「関係機関の紹介」などの具体的な要望についても記載されることになります。

対応票の作成後、警察はそこに記載された情報を参考に、加害者への事情聴取や保護命令の申立て支援、一時保護先の手配といった措置を具体的に検討します。

なお、相談等は被害者の安全の確保とプライバシー保護に十分に配慮してなされますが、保護命令に係る裁判において、加害者は対応票を閲覧することが可能となります。裁判所が保護命令を発令するかどうかを判断する際、証拠資料として対応票の内容が提出されることがあるからです。

③被害者の保護と情報提供
DVの通報を受けて警察が状況を把握し、加害者の逮捕や任意同行などの措置を取ったとしても、被害者が安心して生活できる環境を整えるには、継続的な保護と具体的な情報の提供が欠かせません。まず、警察は被害者に対して「今後、もし加害者が自宅に戻ってきたらどうするか」「万が一のときにどこへ連絡するか」など、日常生活で危険が迫ったときの連絡先や対処法を伝えます。DV防止法に基づき保護命令を取得する必要がある場合は、申立ての手続を案内し、加害者との接触を禁じる仕組みについて詳しく説明してもらえます。

また、被害者が自宅にとどまることで再び危険にさらされるおそれが高い場合、行政機関や民間のシェルターを紹介して一時的に安全を確保する対応を行うことがあります。

子どもがいる場合は、子どもの通学先や生活環境を含めて総合的に考慮し、親子で避難できる施設を案内してもらえるケースもあります。住居の確保や生活費の悩みを抱えている場合、自治体の福祉窓口や配偶者暴力相談支援センターなどを紹介してもらい、必要な支援制度につなげてもらうことも可能です。

こうした対応に加え、警察に希望すれば自宅周辺の巡回を強化してもらうこともできるため、加害者が戻ってきたり待ち伏せしたりするリスクを軽減しやすくなります。一時避難中に荷物を取りに帰る必要がある場合は、警官に同行を依頼することも可能です。こうした措置によって再度の暴力を防ぎ、被害者が物理的にも精神的にも安全を確保しながら生活を続けられるよう配慮されているのです。

このように、警察はDV被害者の安全と生活再建を支援するため、多様な公的機関や支援組織との連携を図りながらサポートを行います。少しでも不安や疑問があるときは一人で抱え込まず、警察や支援センター、行政などに早めに相談することがおすすめです。

警察へのDV相談に関するQ&A

Q1. DV相談をしても、夫婦間の問題だから警察が動いてくれないのではないでしょうか?

A: DVは家庭内の問題であっても、暴力や脅迫など刑法に触れる可能性が高い行為です。警察は被害者の安全を第一に考え、事実関係を確認したうえで加害者への警告や身柄の拘束、被害者への保護などを検討してくれます。夫婦間だからといって対応を拒まれるわけではありません。

Q2. DV相談をして被害届を出すと、どのようなデメリットがあるのでしょうか?

A: 被害届を出すことで警察が本格的に捜査を始めるきっかけになりますが、加害者が逆上して暴力をエスカレートさせるおそれや、夫婦関係の修復が難しくなる可能性があります。また、証拠が不十分で事件化されない場合、精神的な落胆が大きくなることも。こうしたデメリットを踏まえつつ、警察や弁護士、配偶者暴力相談支援センターと連携して安全面を十分に確保したうえで検討することが大切です。

Q3. 離婚は考えていないのですが、DV相談をしてもよいのでしょうか?

A: 離婚の意思がなくても問題ありません。警察は被害者がどのような結論を望むかとは関係なく、暴力を止めるための対策を一緒に考えてくれます。加害者の逮捕だけでなく、警察による警告や接近禁止命令など、被害者が安全を確保できる手段を提案してくれるケースもあります。

まとめ

本記事では、DVについて警察に相談するとどうなるのか、といった点について弁護士が解説させていただきました。

ご紹介したように、家庭内の暴力や脅迫は決して「夫婦間の揉め事」だけでは片づけられず、状況によっては加害者の逮捕や保護命令の発令につながります。警察へ連絡することで早期に暴力を止められる可能性は高まりますが、

一方で、加害者が逆上して事態が深刻化するリスクや、被害届の提出に伴う精神的・経済的な負担など、注意しなければならない面も少なくありません。また、子どもがいる場合には、子どもも含めた安全確保を最優先に行動することが重要です。

また、DVは刑事問題としての側面だけでなく、離婚や慰謝料の請求、子どもの親権など、夫婦としての将来にかかわる問題も広く検討しなければなりません。警察への相談だけでは解決が難しい局面もあり、適切な対処を見極めるためには法律の専門知識が不可欠です。

もしDVの被害に悩んでいる場合は、一人で抱え込まず、当法律事務所の弁護士へご相談ください。DV被害者の安全を最優先に、離婚や慰謝料などを含めたご事情に即した最適な方針をご提案いたします。

この記事を書いた人

雫田 雄太

弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

 

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。

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