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児童扶養手当はどこまで調べる?養育費を申告しないで不正受給がバレたら?弁護士が解説!

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。
3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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ひとり親家庭の生活を支える制度として重要な役割を果たしているのが、児童扶養手当(母子手当)です。

離婚や死別により配偶者がいなくなった後、子どもを養育するにはどうしても経済的な負担が大きくなりがちですが、生活費の一部を補助する公的支給金として、児童扶養手当が活用されています。

児童扶養手当は誰でももらえるものではありませんから、所得制限などの一定の条件を満たさない場合には、児童扶養手当を受給する資格がありません。そのため、「児童扶養手当を受給する際、世帯の収入や家族構成についてはどこまで調べるの?」、「別れた夫から養育費をもらっているけど、児童扶養手当も受給していいの?」といった疑問を抱える方が少なくありません。

そこでこの記事では、児童扶養手当の調査範囲や不正受給のリスク、養育費の取り扱いなどを中心に、弁護士がわかりやすく解説いたします。

また、もし役所から調査が入って、児童扶養手当の不正受給であると判断された場合、どういったリスクがあるのかなど、児童扶養手当の制度について正しく理解しておくことが重要です。
本記事の内容が、これから児童扶養手当の申請を検討している方や、すでに受給している方にとってご参考となれば幸いです。

目次

児童扶養手当はどこまで調べる?

さて、児童扶養手当の支給要件に関連して、役所はどこまで調べるのか、という本題について見ていく前に、児童扶養手当(母子手当)の基本的事項について簡単におさえておきましょう。

児童扶養手当(母子手当)とは

児童扶養手当(母子手当)は、ひとり親となった家庭を対象に、公的機関から一定の金額が支給される制度です。離婚や死別などで配偶者がいなくなり、1人で子どもを育てている場合、どうしても経済的な負担が大きくなってしまいます。そこで国や自治体は、子どもの健やかな成長を支えるため、主に母や父が1人で養育している家庭を対象として、金銭によって児童扶養手当を支給しています。

ただし、誰でも無条件に受け取れるわけではありません。まず、児童扶養手当の支給対象となる児童は、次の条件に当てはまる18歳までの児童(一定以上の障害がある場合は20歳まで)と定められています。

  • 父母が婚姻を解消した児童
  • 父または母が死亡した児童
  • 父または母が重度の障害を有する児童
  • 父または母の生死が明らかでない児童
  • 父または母から引き続き1年以上遺棄されている児童
  • 父または母が1年以上拘禁されている児童
  • 母の婚姻によらないで懐胎した児童
  • 父もしくは母がDV防止法の規定による命令(保護命令)を受けた児童

そして、以上の条件を満たした上で、所得制限の要件も満たさなければなりません。
母や父の年収が一定以上であれば支給額が減額される、あるいは支給そのものが停止となることもあります。
世帯の事情によって要件や支給額は異なるため、自分が該当するかどうかを確認し、正しく申請や手続を行うことが重要です。

何について「調べる」の?

以上の支給要件に基づいて支給が決定される児童扶養手当ですが、市区町村役場は何について「調べる」場合があるのでしょうか。
大きく分けると、①実際に受給者がひとり親状態にあるのか、②所得制限を超えるほどの収入や養育費を得ていないか、この二点を中心に確認することが多いと考えられます。

 

何について「調べる」の?

 

たとえば、元夫(または元妻)から一定の金額を継続的に養育費として受け取っている場合、所得として申告されているのか、役所がチェックすることがあります。養育費は、児童扶養手当の制度における「所得」に含まれるからです。そのため、ひとり親自身の給与収入だけでは所得制限にかからなくても、養育費の分を加えると所得制限にかかるという場合には、児童扶養手当の支給額が減るか、支給対象ではなくなる可能性があります。そのため、養育費の有無について調べることがあるのです。

また、本当にひとり親なのかという点も重要です。離婚後も同居を続けていたり、内縁関係の夫や妻がいたりする場合は、事実上ふたりの大人で子どもを養育しているとみなされる恐れがあります。住民票上は別世帯になっていても、実態として生活費を共有しているなどの事情があれば、支給の対象外とされるリスクがあるため注意が必要です。

児童扶養手当を適切に受給するためには、「収入面」と「家族構成(同居の有無)」を役所に正直に申告し、必要な書類をきちんと提出することが重要なのです。

児童扶養手当(母子手当)の不正受給の調査方法

児童扶養手当は、ひとり親であることや所得制限などの条件を満たす人に支給される公的制度です。しかし、内縁関係(事実婚)の相手と生活を共にしているにもかかわらず、別々に住んでいるように申告するなど、本来の要件を満たさないまま受給を続けているケースも残念ながら存在します。ここでは、不正受給を疑われるきっかけや調査の流れについて、解説いたします。

 

児童扶養手当(母子手当)の不正受給の調査方法

 

(1)不正受給を疑う通報を受ける

児童扶養手当の不正受給が疑われると、市区町村役場が書類や聞き取り・訪問による調査を行い、受給資格の正当性を調べることになります。このきっかけとして少なくないのが、近隣住民や知人・友人による「不正受給の疑いの通報」です。

通報といっても、警察に連絡するわけではありません。市区町村役場に対し、投書や匿名の電話連絡などによって通報が行われます。

(2)訪問調査・聞き取りを行う

市区町村役場は、通報内容が具体的かどうか、裏付け資料があるかなどを確認し、実際に調査を開始するかどうかを判断します。内容が曖昧であれば調査の優先度は低くなりますが、事実に基づいた証拠が示されている場合などは、本格的な調査に踏み切ることが多いです。

調査を行うと決まれば、まずは児童扶養手当の受給者に対して、「書類の追加提出を求める」、「詳しい事情をヒアリングする」といった対応がとられます(児童扶養手当法第29条1項)。

児童扶養手当法第29条1項 都道府県知事等は、必要があると認めるときは、受給資格者に対して、受給資格の有無及び手当の額の決定のために必要な事項に関する書類(当該児童の父又は母が支払った当該児童の養育に必要な費用に関するものを含む。)その他の物件を提出すべきことを命じ、又は当該職員をしてこれらの事項に関し受給資格者、当該児童その他の関係人に質問させることができる。

たとえば、下記のような書類の提出が、改めて求められることがあります。

  • 住民票や戸籍謄本
  • 家賃や光熱費などの請求書や領収書
  • 養育費の入金履歴がわかる預金通帳や振込明細

この段階で受給者が誠実に対応し、必要書類を揃えて正直に事情を説明すれば、疑いが晴れる場合もありますが、質問に対して回答があいまいだったり、提出を拒んだりすると、役所はより詳しい調査を進めることになるでしょう。

具体的には、まずは提出された書類に不審点がないかを詳しくチェックします。養育費の有無が疑われる場合には、離婚協議書や公正証書の確認、あるいは通帳や振込明細による入金の有無を調べます。もし元夫や元妻から一定額の振込が定期的に行われているのに申告がないとわかれば、「実は養育費があるのに受給要件を満たしていないのでは」と考えられ、不正受給を疑われる可能性が高まります。

提出書類だけでは状況を把握しきれない場合、受給者や近隣住民に対して聞き取りを行うことがあります。これは「実際に内縁関係の相手が同居しているのではないか」という疑問を解消するためです。たとえば、「毎晩特定の人が出入りしている」、「家賃や食費を共同で負担している」などの事実が判明すると、ひとり親とは言えないとみなされる可能性があります。

役所の職員が自宅を訪問することもあります。住民票には別の住所が記載されていても、実際には共同生活が営まれているなら、冷蔵庫の中身や洗濯物などによって同居の痕跡が見つかるケースがあります。こうした家庭訪問まで行われるのはまれですが、悪質な不正が疑われる場合には実施される可能性があります。このような現地調査は受給者のプライバシーに配慮して行われますし、必ず受給者の同意を得ることとされています。

なお、こうした調査は市区町村役場の担当者だけではなく、民生委員とも連携を取って行われています。民生委員とは、住民の生活に寄り添い、さまざまな福祉活動を地域で担うボランティアのことです。厚生労働大臣によって委嘱され、市町村ごとに配置されているため、地域の身近な相談窓口として機能しています。児童扶養手当の調査においては、民生委員が直接「不正受給がないか」を判断するわけではありませんが、地域の事情に詳しい立場から、必要があれば役所の職員が情報提供や相談を受ける場合もあるのです。

(3)マイナンバーカードで養育費の受給はバレる?

ところで、マイナンバー制度が始まったことで、「マイナンバーカードを持っていると養育費の受給がすぐにバレるのではないか」と心配する人もいます。しかし、マイナンバーによって養育費の受給がすべて自動的に把握されるわけではありません。

金融機関の口座とマイナンバーの紐づけも進められていますが、一部の場合を除いて紐づけは義務ではなく、任意となっています。

紐づけを行うと、国や自治体に預金口座の存在を知られることにはなりますが、現時点では「養育費が○月○日にいくら振り込まれたか」という個々の取引まで行政がリアルタイムでモニタリングしているわけではありませんので、紐づけただけで残高や入出金の取引がバレるわけでもありません。

そのため、マイナンバーカードがあることで直接的に養育費の受給がバレることはありません。

ですが、マイナンバーの有無に関わらず、不正受給の疑いなどがあれば調査は行われることになりますので、マイナンバー制度に関係なく、養育費を受給していたら正しく申告しておくことが大切です。

養育費を申告しないで不正受給がバレたら

誰かに不正受給の疑いで通報されて、役所から訪問調査や聞き取りを求められた場合、これを拒否したらどうなるのでしょうか。
また、役所の調査を受けた結果、もし児童扶養手当の不正受給がバレた場合は、どうなるのでしょうか。

不正受給の疑いがかかった場合や、養育費の未申告がバレた場合にどうなるのかについて、見ていきましょう。

(1)調査や書類提出を拒否した場合

行政は、児童扶養手当を適正に支給するために、必要に応じて各種の書類の提出を受給者に対し求めることがあります(前述の児童扶養手当法第29条1項)。
これに関連して、児童扶養手当法には、次のいずれかの事項に該当する場合は、児童扶養手当の全部または一部を支給しない、と定められています。

児童扶養手当法第14条 手当は、次の各号のいずれかに該当する場合においては、その額の全部又は一部を支給しないことができる。
一 受給資格者が、正当な理由がなくて、第29条第1項の規定による命令に従わず、又は同項の規定による当該職員の質問に応じなかつたとき。
二 受給資格者が、正当な理由がなくて、第29条第2項の規定による命令に従わず、又は同項の規定による当該職員の診断を拒んだとき。
三 受給資格者が、当該児童の監護又は養育を著しく怠っているとき。
四 受給資格者(養育者を除く。)が、正当な理由がなくて、求職活動その他内閣府令で定める自立を図るための活動をしなかったとき。
五 受給資格者が、第6条第1項の規定による認定の請求又は第28条第1項の規定による届出に関し、虚偽の申請又は届出をしたとき。

また、続く法第15条では、児童扶養手当の支払いを一時差し止めることができる旨も規定されています。

児童扶養手当法第15条 手当の支給を受けている者が、正当な理由がなくて、第28条第1項の規定による届出をせず、又は書類その他の物件を提出しないときは、手当の支払を一時差しとめることができる。

この通り、児童扶養手当についての質問や調査を正当な理由なく拒否した場合は、児童扶養手当法第14条に基づいて、手当額の全部または一部が支給されない場合があり、また正当な理由なく必要書類を提出しなかった場合には、児童扶養手当の支払いを差し止められてしまうことがあるのです。

(2)不正受給をした場合

そして、養育費を受給しているのに「養育費はもらっていない」と申告をしなかったり、あるいは虚偽の申告をしたり、必要な届出をしなかったりと、不正に児童扶養手当を受給した場合には、次の規定によって、受給済みの児童扶養手当の返還を求められる可能性や、罰則が与えられる可能性があります。

児童扶養手当法第23条1項 偽りその他不正の手段により手当の支給を受けた者があるときは、都道府県知事等は、国税徴収の例により、受給額に相当する金額の全部又は一部をその者から徴収することができる。

児童扶養手当法第35条 偽りその他不正の手段により手当を受けた者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。ただし、刑法(明治40年法律第45号)に正条があるときは、刑法による。

ところで、児童扶養手当法第35条には、同第23条1項にはない「ただし、刑法に正条があるときは、刑法による。」という文言があります。耳慣れない言葉かもしれませんが、これは「もし児童扶養手当の不正受給行為が、刑法の詐欺罪などに完全に該当する場合は、そちらの方が処罰規定として優先される。」という意味になります。

養育費の未申告などによる児童扶養手当の不正受給は、「支給要件を満たさないにもかかわらず、あたかも要件を満たしているかのように装って、結果的に国や自治体から公的資金(手当)を支払わせる」という行為です。つまり、不正受給者側が「嘘」をついて財物(ここでは手当金)を受け取り、行政側がその「嘘」を見抜けずに金銭を渡してしまう構図は、「人を欺いて財物を交付させた」ことになるため、刑法第246条の詐欺罪に当たる可能性があるのです。

(詐欺)
刑法第246条1項 人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。

刑法の詐欺罪についての規定には罰金刑はなく、10年以下の懲役刑のみ定められているため、児童扶養手当法による罰則よりも重い罰則となります。
受給した手当額が多額だったり、偽造書類を多用していたりすると、悪質な不正受給であるため、児童扶養手当法ではなく刑法が適用される可能性が高まります。反対に、不正が発覚しても悪質性が低いと判断されれば、児童扶養手当法による処罰範囲内で対応される場合もあります。

児童扶養手当の不正受給は、受給した手当の返金を求められるだけでなく、刑法上の詐欺罪にも該当する可能性のある行為です。児童扶養手当は、ひとり親を支援する大切な制度である反面、不正の手段で受給した場合は厳しく罰せられうることを十分に理解し、適正な申告・利用を心がけることが重要です。

児童扶養手当はどこまで調べるのかに関するQ&A

Q1. 市区町村役場は、どのようなきっかけで児童扶養手当の調査を始めるのですか?

A:もっとも多いのは、近隣住民や関係者から「不正受給ではないか。」という通報があった場合です。たとえば、「実は内縁関係の人と同居している。異性が頻繁に出入りしているのを見たことがある。」といった通報や、「友人は養育費を受け取っているのに申告していないと言っていた。」といった具体的な情報が寄せられると、市区町村役場は必要に応じて、詳しい調査に着手します。

Q2. 養育費についてはどれくらい厳しく調べられるのでしょうか?

A:養育費も収入の一部とみなされるため、児童扶養手当を継続して受けるには正確に申告しなければなりません。離婚協議書や公正証書の内容はもちろん、通帳の振込履歴などを確認されることがあります。もし養育費の受け取りが明らかになったにもかかわらず、申告していないとわかれば不正受給の疑いが強まります。

Q3. マイナンバーがあれば、役所はすぐに養育費の受給を把握できるのですか?

A:マイナンバー制度によって税や社会保障の情報が整理されつつありますが、全ての振込が自動的にバレるわけではありません。現時点では、マイナンバーと銀行口座の紐づけも任意となっています。ただし、何かしらの疑いが生じた場合には、マイナンバー情報を含め複数のデータを照合して養育費の振込実態が判明する可能性があります。

まとめ

児童扶養手当は、離婚や死別などでひとり親となった人の生活を経済的に支える重要な制度です。

しかし、所得制限を超えているのに申告せずに受給を続けたり、内縁関係で同居している事実を隠したりすると、不正受給とみなされるおそれがあります。不正が疑われる場合、役所は提出書類だけでなく、口座の入出金履歴のチェックや訪問調査・聞き取りなど、多角的な調査を行います。そして調査の結果、不正受給が発覚すれば、受給停止や返還請求が行われ、悪質性が高いと判断されると刑事罰の対象になる可能性も否定できません。

こうしたリスクを避けるためには、養育費を含めた収入状況を正直に申告し、家族構成なども正確に伝えておくことが大切です。児童扶養手当は正しく利用すれば、子どもの成長を支えるうえで大変心強い制度です。正確な知識をもって活用し、安心して子育てができる環境を整えましょう。

もし申請内容に不明点があったり、トラブルが生じてしまったりした場合は、市区町村役場に相談するほか、弁護士など専門家の力を借りるのも一つの方法です。

当法律事務所では、離婚に関連する手続きや子どもの養育費についての疑問や悩みについて、弁護士がご相談をお受けしております。弁護士法人あおい法律事務所の法律相談は、初回の法律相談料が無料となっておりますので、ぜひお気軽にご利用いただければと思います。

この記事を書いた人

雫田 雄太

弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

 

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。

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