相続放棄とは│手続きの方法と必要書類は?注意点も解説!

相続放棄

更新日 2024.08.12

投稿日 2024.02.09

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

弁護士法人あおい事務所の相続専門サイトをご覧いただき、ありがとうございます。当サイトでは、相続に関する法的な知識を分かりやすくお届けしております。皆様のお悩みの解消に少しでもお役立ちできましたら幸甚です。

突然に親族が亡くなり、相続が開始した際、資産だけでなく借金などの負債も引き継がれることがあります。このような状況では、「相続放棄」をして相続権を放棄することで借金の返済から免れることができます。

しかし、相続放棄の手続きは単純ではありません。借金を引き継がないためには、手続きの方法、必要書類、そして相続放棄の影響について十分に理解することが大切です。

この記事では、相続放棄とは、その手続きの流れ、必要書類、さらにはこの決断を下す際の重要な注意点について詳しく解説します。相続放棄は適切な情報と正しい手続きをもって初めて、賢明な選択となります。親の借金で相続放棄を検討している方などは、ぜひご参考にしてください。

目次

相続放棄とは│相続の権利をすべて放棄すること

相続放棄とは、被相続人の財産(資産と負債)を一切引き継がず、全ての相続権を放棄することです。特に、被相続人の借金などの負債が財産を上回る場合、相続放棄を選択することを検討する必要があります。

通常の相続では、被相続人のプラスの財産(例えば不動産、有価証券、現金など)だけでなく、マイナスの財産(借金や保証債務など)もすべて相続人が引き継ぎます。しかし、相続放棄を選択した場合、相続人はプラスの財産もマイナスの財産も一切受け継がないことになり、事実上、初めから相続人ではなかったとみなされます。

相続放棄を行うためには、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ必要な書類を提出し、申述する必要があります。この手続きは、相続の事実を知った時から3ヶ月以内に行わなければなりません。自分で手続きを行うことも可能ですが、書類の不備や必要書類の提出漏れなどのリスクがあります。

もしそのようなリスクが心配の方は、相続に関する専門知識を持つ弁護士に依頼することをお勧めします。

財産放棄や遺産放棄との違い

財産放棄や遺産放棄とは、相続人が他の相続人に対して自分の遺産相続の権利を放棄する意思を示すことを指します。これは法律上の用語ではなく、遺産分割協議の際の慣例的な呼称です。財産放棄や遺産放棄に期限がなく、特定の方式や家庭裁判所での手続きなども必要ありません。ただし、相続人としての地位は残るため、被相続人の負債の相続から免れることはできません。

要するに、相続放棄は、相続人としての地位そのものを放棄する法的な行為である一方、財産放棄や遺産放棄は、相続する財産に対する権利を放棄するが、相続人としての地位は残る行為です。債務がなく単に財産を受け取りたくない場合や、相続権の移動を避けたい場合に適しています。

相続放棄をした方が良いケース

相続放棄は、どのような状況下で選択すべきなのでしょうか。相続放棄をした方が良いケースは例えば以下のような状況が考えられます。

  1. 明らかに負債が資産を上回る場合
    被相続人が莫大な借金を残している場合、その負債が被相続人の持っていた資産を上回ると、相続放棄を選択することで、相続人自身が借金の返済義務を負うことを免れます。被相続人のプラスの財産とマイナスの財産を比較した結果、明らかにマイナスの方が多い場合は、相続放棄が最善の選択である可能性が高くなります。
  2. 相続問題に巻き込まれたくない場合
    複雑な家族関係や相続に関する紛争を避けたい場合も、相続放棄は有効な手段です。これにより、遺産分割協議など相続人間での話し合いや相続人同士のトラブルなどから距離を置くことができます。
  3. 被相続人の財産を特定の相続人に全て承継させたい場合(例:事業承継等)
    相続放棄を行うことで、被相続人の財産を特定の相続人が承継しやすくなります。例えば、家族経営の事業を特定の家族が承継するようなケースです。

相続放棄を行った場合、その相続人は法的に相続開始当初から相続人ではなかったと見なされます。これにより、他の相続人の相続割合が変動したり、新たに相続権を取得する人が出たりする可能性があります。また、相続放棄をした人に子供がいても、その子が代襲相続することはありません。
ただし、相続放棄は一度行うと撤回ができないため、弁護士等の専門家に相談しながら、慎重に判断することが必要です。

相続放棄の条件

死後に手続きを行う│生前に手続きはできない

相続放棄は、被相続人の死後にのみ行うことができる手続きです。生前に相続放棄を行うことは法的に認められていません。相続は、被相続人の死によって発生するものであり、それ以前には相続人という地位も存在しないため、生前に相続放棄をすることは不可能です。

相続開始から3ヶ月の期限内に手続きを行う

 

相続開始から3ヶ月の期限内に手続きを行う

 

相続放棄を行うためには、まず相続が開始したこと、つまり被相続人が亡くなったことを知る必要があります。相続開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所へ相続放棄の申述をしなければなりません。この期限を過ぎてしまうと、相続放棄は認められなくなるため、相続が発生したことを知ったら速やかに手続きを開始することが重要です。

単純承認にあたる行為をしない

相続放棄を行う場合、特に注意しなければならないのが「単純承認」と見なされる行為を避けることです。単純承認とは、相続人が被相続人の財産を承認し、プラスの財産とマイナスの財産の全てを引き継ぐことを意味します。

単純承認にあたる行為とは、被相続人の遺産を処分したり、使用したりすることです。このような行為は相続を事実上承認したこととみなされ、たとえ相続放棄の熟慮期間(3ヶ月)内であっても、相続放棄を行うことができなくなります。
単純承認に該当する行為の例としては、土地などの不動産の売却や、預貯金の引き出し、被相続人の借金の返済などが挙げられます。

相続放棄を検討している場合は、遺産に対していかなる処分も行わないように注意し、相続放棄の申述が受理されるまで待つようにしてください。

相続放棄をしたら相続権はどうなる?│次の法定相続人に移行する

相続放棄をすると、その相続権は自動的に次の優先順位の相続人に移行します。日本の民法では、相続人の優先順位が定められており、この順序に従って相続権が移ることになります。

配偶者のケース

配偶者は常に法定相続人となるため、相続開始後から相続放棄の手続きが可能です。配偶者は相続順位に関係ないため、相続放棄をしても他の人に相続権が移ることはありません。
しかし、配偶者が相続放棄をすると、配偶者の相続財産を他の法定相続人で分配することになるので、他の法定相続人の法定相続分が変わります。

第1順位の相続人(子供や孫)のケース

最も優先して法定相続人となるのは被相続人の子供です。子供が亡くなっている場合はその子供の子(被相続人の孫)が法定相続人となります。第1順位の相続人がいる場合、通常は彼らが相続人となります。
被相続人の子供が複数いてそのうち1人だけ相続放棄した場合は、残りの子供が相続することになります。もし第1順位の全員が相続放棄をした場合に、相続権は次の順位に移行します。

第2順位の相続人(両親や祖父母)のケース

第1順位の相続人がいない、または全員が相続放棄をした場合、第2順位である被相続人の親が相続人となります。親が既に死亡していて、祖父母が生存している場合は祖父母が法定相続人となります。もし第2順位の相続人もいないか、全員が相続放棄をすると、相続権はさらに下の順位へと移ります。

第3順位の相続人(兄弟姉妹)のケース

第1順位、第2順位の相続人がいない、または全員が相続放棄をした場合、第3順位である被相続人の兄弟姉妹が法定相続人となります。兄弟姉妹が既に死亡している場合は、甥や姪が法定相続人となります。

このように、相続放棄を行った相続人の権利は、民法に定められた優先順位に基づいて、次の順位の相続人に移行します。ただし、相続放棄の効果は、相続放棄をした人が初めから相続人でなかったかのように扱われるため、相続放棄をした人の子供などが代わりに相続することはありません。(代襲相続は発生しません。)

全ての法定相続人が相続放棄をした場合

全ての法定相続人が相続放棄を行った場合、被相続人の財産については以下のように扱われます。

まず、全ての法定相続人が相続放棄をした場合、民法に定められた「特別縁故者」がいるかどうかが問題になります。
特別縁故者とは、被相続人と特別な関係にあった人で、法律に基づき財産を受け取ることができる人を指します。これには、事実上の配偶者(内縁の妻)や被相続人の養育に関わった人などが含まれます。特別縁故者が存在しない場合、被相続人の財産は全て国庫に帰属することになります。

また、被相続人に一定の資産がある場合には、その資産を債権者へ分配することが必要となります。そのような手続きを希望する債権者などが、相続財産管理人の選任を裁判所へ申立てるなどして、分配手続きが進められることになります。

相続放棄の手続き方法と必要書類│流れに沿ってわかりやすく解説

相続放棄の申述とは

相続放棄の申述とは、被相続人の借金やその他の債務を含む全ての財産を一切相続したくない場合に、家庭裁判所にその旨を申し出る手続きのことを指します。
相続放棄の申述を行い認められれば、相続人は初めから相続人ではなかったと見なされます。つまり、相続放棄をすると、相続人は被相続人のいかなる財産も、プラスであれマイナスであれ、受け継がないことになります。

相続放棄の申述を行うための期限は、相続の開始(被相続人の死)があったことを知った時から3ヶ月以内と定められています(民法938条)。この期限内に相続放棄の申述を行わなければ、相続放棄は認められません。そのため、相続開始を知ったら速やかに相続放棄の手続きを進めることが必要です。
相続放棄の申述は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所にて行います。この申述の手続きには、相続放棄を行う意志を示す書面(相続放棄申述書)の提出が必要となります。

相続放棄の申述は、一度行うと撤回はできません。そのため、相続放棄を決断する前には、被相続人の財産状況を慎重に把握し、必要であれば弁護士に相談することをお勧めいたします。

以下では、相続が開始されてから相続放棄の手続きが完了するまでの一連の流れをわかりやすく解説します。

①遺言書の有無を確認する│債務は他の相続人が引き継ぐ可能性も

遺言書がある場合、その内容に基づいて財産が分配されます。遺言書には、被相続人が財産をどのように分けたいかという意思が明記されています。特に、遺言書によって財産分配が明確に指示されている場合、相続人は自動的に負債を引き継ぐことになるとは限りません。
なお、相続人全員が合意する場合に限り、遺産分割協議により遺言書に記載された内容と異なる方法で相続することも可能です。

遺言書がない場合、相続人全員で遺産分割協議を行います。そして、全ての相続人が合意に至るまで協議が続けられます。最終的には、遺産分割協議書を作成し、それに基づいて財産が分配されます。

②相続財産の調査をする│相続方法を慎重に検討を

相続財産の調査には、被相続人のプラスの財産(例えば不動産、預金、株式など)だけでなく、マイナスの財産(借入金、税金の未払い、保証債務など)も含まれます。相続財産の全体像を把握することは、相続放棄を検討する際に非常に重要です。相続放棄を行った後で、予期せぬ多額の資産が発見されたり、予想外の負債が明らかになったりすることを避けるためにも、事前の徹底した調査が必要です。

特に、被相続人の資産や負債が不明確な場合は、財産調査を弁護士に依頼することをお勧めいたします。相続放棄は一度行うと撤回ができないため、正確な財産調査と価値の評価を行うことは、適切な判断を下す上で不可欠です。

③手続きにかかる費用を準備する

次に、相続放棄の手続きにかかる費用を準備しましょう。主な費用として、次のものがあります。

  • 収入印紙の費用
    相続放棄の申述手続きの費用として、相続放棄申述人(相続放棄をする人)1人につき800円の収入印紙が必要です。この印紙は、申述書に貼付し、裁判所に提出します。家庭裁判所やコンビニエンスストア、郵便局などで購入できます。
  • 郵便切手の費用
    裁判所からの返信用に、連絡用の郵便切手を準備します。切手の額面は裁判所によって異なり、一般的には400~500円程度です。具体的な額は管轄の家庭裁判所に問い合わせて確認してください。
  • 必要書類の取得費用
    以下のような必要書類の取得費用がかかります。また、市町村役場に郵送で戸籍謄本などを請求することも可能です。その場合は、往復の郵送費も必要になります。
    戸籍謄本は、本籍地の役所でのみ取得可能であり、居住地の市区町村役場では入手できないため、この点に注意が必要です。
    ・被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本: 750円
    ・被相続人の住民票除票(または戸籍の附票): 300円
    ・申述する人の戸籍謄本: 450円

④必要書類を準備する│続柄によって必要な書類は異なる

次に、必要書類を準備しましょう。必要書類は、被相続人との続柄によって異なります。
以下に、相続放棄する人(「申述人」)に応じた必要書類をまとめました。

全員共通の必要書類
1. 相続放棄申述書
2. 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
3.申述人の戸籍謄本

申述人が被相続人の配偶者の場合
4. 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本

申述人が被相続人の子又はその代襲者(孫、ひ孫等)の場合
4. 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
5. 申述人が代襲相続人(孫またはひ孫等)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍謄本

申述人が被相続人の父母・祖父母等の場合
4. 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
5. 被相続人の子(及びその代襲者)が死亡している場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
6. 被相続人の親が死亡している場合、親の死亡の記載のある戸籍謄本

申述人が被相続人の兄弟姉妹またはその代襲者(甥・姪)の場合
4. 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
5. 被相続人の子(及びその代襲者)が死亡している場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
6. 被相続人の親の死亡の記載のある戸籍謄本
7. 申述人が代襲相続人(甥・姪)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍謄本

詳しくは、「相続放棄の必要書類は?│子供・親・兄弟・孫・甥姪など続柄別に解説」で解説していますので参照してください。

⑤相続放棄申述書を作成する│申述人の情報や理由を記載する

相続放棄申述書は家庭裁判所の窓口で入手することができ、また裁判所のホームページからダウンロードすることも可能です。成人と未成年者用の様式がありますのでどちらかを選択してください。
成人が相続放棄する場合:「相続の放棄の申述書(成人)
未成年が相続放棄する場合:「相続の放棄の申述書(未成年)

申述書には申述人の基本情報(本籍、住所、氏名など)を記載し、相続放棄の理由を明確に記載します。理由は、例えば「債務超過で支払いが不可能」などと記載します。
相続放棄の理由に制限はありません。したがって、どのような理由であっても相続放棄を申述することが可能です。

ただし、家庭裁判所から追加で事情説明書などの提出をもとめられることもありますので、出来るだけ具体的に記載しておきましょう。
相続放棄申述書の書き方は以下のページで詳しく解説していますので、自分で作成する場合はこちらを参考にしてください。
内部リンク:「相続放棄申述書とは?書き方や記載例、どこでもらえるかなどを解説」

⑥家庭裁判所に書類を提出する│郵送または窓口で

相続放棄の申述書が準備できたら、次はそれを家庭裁判所に提出する必要があります。提出先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。これは、被相続人が亡くなる前に居住していた地域の裁判所ということになります。
裁判所のホームページに裁判所の管轄区域が掲載されていますので、参照してください。(裁判所HP:裁判所の管轄区域
書類の提出方法は以下の2つがあります。

  1. 家庭裁判所への直接提出する
    直接家庭裁判所の窓口へ出向いて、書類を提出する方法です。この方法では、提出の際に必要な資料や手続きについて直接職員からの説明を受けることができ、疑問点や不明点をその場で解決できるメリットがあります。
  2. 郵送する
    遠方に住んでいる場合や、裁判所に直接行くことが難しい場合は郵送で提出することもできます。郵送する際は、書類が確実に届くように書留郵便などの追跡可能な送付方法を選ぶことが望ましいです。

どちらの方法を選択するにしても、相続開始を知ってから3ヶ月以内の期限内に提出することが重要です。提出期限を過ぎると相続放棄ができなくなる可能性があるため、必ず期限内に書類を提出するようにしましょう。

⑦家庭裁判所から送付される照会書に回答する

家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出した後、裁判所から「照会書」と呼ばれる書類が送付されることがあります。これは、裁判所が申述書の内容に関して追加で情報を得るための質問状です。照会書には、相続放棄の理由や状況に関する具体的な質問が記載されています。
照会書に対する回答は、相続放棄の申し立てが受理されるかどうかに影響を与える可能性があるため、非常に重要です。回答する際は、質問の内容を正確に理解し、誤解のないように丁寧に回答してください。

回答に不備がある場合や、裁判所が相続放棄の理由を不適切と判断した場合、相続放棄の申し立ては却下されることがあります。この場合、一度却下されると、再度相続放棄を申し立てることはできません。したがって、照会書への回答は、慎重に対応する必要があります。
なお、照会書への回答は、指定された期間内に行う必要があります。期間内に回答を提出しないと、申し立てが無効になる可能性があるため、迅速かつ正確に対応してください。

⑧「相続放棄申述受理通知書」が届く

照会書への回答後、問題がないと判断されれば、通常1週間から10日ほどで「相続放棄申述受理通知書」が郵送されてきます。この通知書が届いたということは、相続放棄の申し立てが正式に認められたことを意味します。つまり、申述人は法的に相続人ではなくなったということになります。

しかし、債権者や他の関係者に対して相続放棄を証明する必要がある場合、単なる通知書では不十分なことがあります。その場合、「相続放棄申述受理証明書」が必要になります。

⑨「相続放棄申述受理証明書」を発行してもらう

相続放棄申述受理証明書は、相続放棄の事実を正式に証明する公的な文書であり、債権者への証明や、不動産の相続登記手続きなどで使用します。
相続放棄申述受理通知書には、証明書を申請するための用紙が同封されていることが多いです。または、家庭裁判所の窓口やホームページから入手することが可能です。

もし証明書が必要な場合は、この申請用紙を使って別途家庭裁判所に申請することになります。

死亡保険金は受け取れる

相続放棄を行っても、契約者と被保険者が同一人の場合に指定された保険金受取人は、死亡保険金を受け取ることができます。これは、死亡保険金が受取人の固有の財産と見なされるためです。つまり、死亡保険金は死亡した人の相続財産とは別に、直接保険金受取人に支払われるものとなります。
例えば、夫が契約者兼被保険者で、妻が死亡保険金の受取人の場合、夫が亡くなった際に妻に支払われる保険金は、妻の固有の財産となります。このため、妻が相続放棄したとしても、夫の死亡保険金を受け取ることが可能です。

ただし、この死亡保険金は税制上、「みなし相続財産」とされ相続税の課税対象となる点に注意が必要です。

相続放棄をしたのに債権者から請求が来た!│裁判で訴えられたらどうする?

まず、相続放棄が受理されたことを証明するためには、「相続放棄受理証明書」が必要になります。証明書の発行手数料は1通につき150円程度です。相続放棄受理証明書は、債権者に対して相続放棄が行われたことを公的に証明することができるので、請求を取りやめる可能性が高いです。
もし債権者が脅迫や暴行によって債務の弁済を強要する場合、これは刑法における強要罪に該当する可能性があります。強要罪の法定刑は3年以下の懲役です。相続放棄をした人は、債権者に対する弁済義務を負いませんので、このような場合は警察に被害届を提出し、刑事告訴することが可能です。

しかし、相続放棄が受理されたからといって必ずしもその有効性が認定されるわけではありません。現在の制度では、相続放棄の申述の際にその有効性を詳しく審査することはありません。通常、相続放棄は広く受理されており、有効性に関しては個別の訴訟で判断されることが多いです。したがって、相続放棄をしても債権者から訴訟を起こされる可能性はあります。

特に、相続開始から長期間経過した後に相続放棄を行った場合、債権者は相続放棄が3ヶ月の熟慮期間を経過した後の手続きであるため無効であると主張しやすく、裁判を起こす可能性が高くなります。

相続放棄を検討する際の注意点

期間制限がある│期間の伸長は相当の理由があれば可能

相続人は、被相続人の相続開始を知った日から3ヶ月以内(「熟慮期間」)に、単純承認、限定承認、または相続放棄のいずれかを決定しなければなりません。この期間内に相続放棄も限定承認も行わない場合、単純承認したものとみなされ、プラスの財産だけでなくマイナスの財産も全て相続することになります。

しかし、3ヶ月の熟慮期間を過ぎた後でも、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てることにより、相続放棄の期間経過後でも相続放棄ができる場合があります。
たとえば、相続財産の状況を熟慮期間内に把握することが困難だった場合などに家庭裁判所が期間の伸長を認めることがあります。

ただし、熟慮期間の伸長には「相当の理由」が必要で、「相当の理由」とは何かは事案によって異なります。仕事が忙しく、相続財産が債務超過であることを認識していたにもかかわらず期間が過ぎてしまった場合には、期間伸長が認められる可能性は低いです。

代襲相続しない

代襲相続とは、本来の相続人が死亡している場合に、その人の子供などが相続人となることを指します。しかし、相続放棄を行った人に関しては、「最初から相続人ではなかった」とみなされます(民法939条)。したがって、相続放棄をした相続人に子供がいたとしても、その子供は代襲相続人として相続権を持つことはありません。

借金を返済した・不動産を売却したなど相続財産の処分行為に注意

相続財産を処分する行為、例えば被相続人の預貯金を解約したり、借金を返済したり、不動産を売却したりする場合、これらは単純承認したものと見なされる可能性が高く、その結果、相続放棄ができなくなります。
その他、相続財産の隠匿や消費、預金口座から支出などを行うと、これも「相続財産の処分行為」とみなされるため、注意が必要です。

ただし、葬儀費用に関しては、常識的な範囲内で亡くなった人の口座から支払うことは一般的に問題ありません。しかし、亡くなった人が生前に利用していた病院の入院費や介護費用の支払いをその人の預金口座から行うと、「相続財産の処分行為」とみなされるリスクがあり、結果的に相続放棄ができなくなる可能性があります。
また、亡くなった人の住居関連の費用、例えばアパートの契約解除や滞納家賃の支払いなども、相続財産の処分行為とみなされる可能性があります。亡くなった人の財産を使用していると解釈され、単純承認とみなされる恐れがあるのです。

このため、相続放棄を考えている場合は、亡くなった人の財産に触れないように注意することが重要です。相続財産に関わる行為を行う前に、相続放棄の申述を家庭裁判所に行い、相続放棄が受理されるまで待つようにしましょう。

みなし相続財産を受け取った場合は相続税が発生する可能性も

相続放棄を行うと、その人は「始めから相続人ではなかった」とみなされます。これにより、相続財産の一切を受け継ぐことはできなくなり、通常の相続財産に関しては相続税が発生することはなく、相続税申告の義務も生じません。

ただし、例外的に「みなし相続財産」を受け取る場合、この財産が基礎控除額を超えると相続税が発生する可能性があります。

みなし相続財産とは、被相続人の死亡によって相続人が受け取ることになった財産で、本来は被相続人が生前に所有していたものではありません。例えば、生命保険金や死亡保険金などがこれに該当します。これらの財産は受取人の固有の財産として扱われるため、相続財産には含まれません。

しかし、相続を原因としてこれらの財産が発生したため、税法上は相続財産とみなされ、相続税の計算に含める必要があります。つまり、生命保険金や死亡保険金などのみなし相続財産が基礎控除額を超えると、相続税の納付義務が発生するのです。
このため、相続放棄を行う場合でも、みなし相続財産の受け取りについては慎重に検討し、相続税の負担についても事前に十分に把握しておく必要があります。

弁護士に代理で手続きしてもらうメリット

手間と時間の節約

弁護士に相続放棄の手続きを代理でしてもらうことで、必要書類の収集や申述書の作成、回答書の記載など、手間がかかる作業を省略できます。弁護士は、期限内に正確に手続きを完了させることができるため、自分で行うよりも時間と労力を節約できます。

親族間のトラブル回避

弁護士が関与することで、他の相続人へ相続放棄の旨の連絡や説明を適切に行ってもらえます。これにより、相続放棄をすることで親族間のトラブルが起こるのを防ぐことができます。

債権者との交渉

債権者からの支払い督促があれば弁護士が対応します。弁護士が交渉を行うことで、債権者も無理な主張をしにくくなり、自分でやるよりも精神的負担なく手続きを完了することができます。

期限を過ぎた相続放棄の可能性

通常、相続放棄は相続開始を知ってから3ヶ月以内に行う必要がありますが、特定の状況下では期限を過ぎても相続放棄が認められる可能性があります。弁護士に依頼すると、期限を過ぎた後でも相続放棄ができるかもしれません。

相続放棄に関するQ&A

Q: 相続放棄をする手続きはどのような流れで行いますか?

A: 相続放棄の手続きは主に次のような流れで行います。まず、被相続人の相続開始を知った日から3ヶ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に相続放棄の申述を行います。相続放棄申述書には、相続放棄を行う本人の情報(氏名、住所、本籍など)と相続放棄の理由を記載し、必要書類(戸籍謄本など)を添えて提出します。裁判所からの照会書への回答が必要な場合もあります。

Q: 相続放棄の期限を過ぎてしまった場合、まだ相続放棄は可能ですか?

A: 原則として、相続放棄は被相続人の死を知った日から3ヶ月以内に行う必要がありますが、特別な事情がある場合には期限後でも相続放棄が可能なことがあります。たとえば、被相続人との関係が疎遠で相続財産の把握が困難な場合などです。このような場合、家庭裁判所に相続放棄期間の延長を申し立てることができます。

Q: 相続放棄をした場合、生命保険の受取金はどうなりますか?

A: 相続放棄をしても、生命保険の受取金はそのまま受け取ることができます。これは、生命保険金が相続財産ではなく、保険金受取人の固有の財産と見なされるためです。ただし、相続税の計算には影響する可能性があります。

Q: 相続放棄後に債権者から請求があった場合、どのように対応すべきですか?

A: 相続放棄が受理された後は、相続人は被相続人の財産を相続することはできません。そのため、債権者からの請求があっても、相続放棄受理証明書を提示することで、支払い義務がないことを証明できます。債権者が引き続き支払いを求める場合や、法的な手続きを取ると脅迫してくる場合には、弁護士に相談することをお勧めします。

Q: 相続放棄をすると、どのようなデメリットがありますか?

A: 相続放棄をする主なデメリットは、被相続人の負債だけでなく、不動産、預金、株式などの資産も放棄することになる点です。また、相続放棄を行うことで、代襲相続人である子供などが相続権を失うこともデメリットとなります。さらに、相続放棄の決定は撤回ができないため、一度放棄を決定すると後に資産が見つかった場合でも受け取ることはできません。

まとめ

親に多くの借金が残っていたことが分かった場合などは、借金を引き継ぎたくないことから相続放棄を選択するでしょう。しかし、相続放棄すると被相続人の不動産や預貯金なども含めてすべてを失うため、財産の状況をよく理解し、慎重に判断する必要があります。

また、相続放棄の手続きは複雑で、間違いがあると相続放棄が認められないリスクがあります。そのため、まずは弁護士に相談することをお勧めいたします。弁護士は、相続放棄の手続きの支援はもちろん、相続放棄をすべきかについても適切なアドバイスをすることが可能です。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。