限定承認|限定承認とは?手続きのやり方や相続放棄との違いなども解説

遺産相続には、相続財産をどの程度相続するかについて、全てを相続する「単純承認」、一切の権利を放棄する「相続放棄」のほかに、プラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産を引き受ける「限定承認」という方法があります。限定承認は、相続放棄まではしたくないが、借金を無制限に負いたくない、という場合にバランスの取れるやり方です。
そこでこの記事では、限定承認とはどういった相続方法なのか、弁護士がわかりやすく解説させていただきます。相続放棄や単純承認などとの違いや、限定承認の手続き、限定承認する際の注意点などについて詳しくご説明いたします。
遺産に借金があり相続方法に悩んでいる方にとって、本記事が少しでもご参考となりましたら幸いです。
目次
限定承認
1.限定承認とは
1-1.具体例で見る限定承認の効果
限定承認とは、プラスの財産(例えば銀行預金や不動産などの価値ある財産)の限度内でのみ、マイナスの財産(借金やその他の負債)を引き受ける遺産相続の方法です(民法第922条)。
(限定承認)
民法第922条 相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。
例えば、2,000万円の預貯金が相続財産で、被相続人に借金があった場合を考えてみましょう。
もし借金が1,000万円ある場合、預貯金2,000万円から全額弁済することになっても、1,000万円は手元に残ります。この場合は、相続財産の全体を相続する単純承認でも問題はありません。
一方で、仮に借金が2,500万円ある場合はどうでしょうか。もし財産をプラス・マイナス関係なく全て引き受ける単純承認をしてしまうと、預貯金よりも借金の方が金額が上回ってしまうため、相続財産では借金を弁済できません。預貯金で弁済できない500万円については、相続人が自分自身の財産から弁済しなければならなくなってしまいます。
そこで、限定承認をすることで、相続人は相続するプラス財産の2,000万円を限界として、借金を引き受けることになります。マイナスが上回るため、手元に残る預貯金はありませんが、2,000万円を超える借金を背負う必要もありません。つまり、限定承認をすることで、500万円を自己の財産から弁済する必要がなくなるのです。
1-2.共同相続人全員で行う必要がある
限定承認をするためには、家庭裁判所で「限定承認の申述」という手続きを行います。単に他の共同相続人に「限定承認をする」と意思表示するだけでは、効果はありません。
ところで、限定承認を行う場合、共同相続人全員が合意して手続きを進める必要があります(民法第923条)。
(共同相続人の限定承認)
民法第923条 相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。
なぜ相続人全員による共同申述が必要なのかといいますと、複数の相続形態が混在することによって、法律関係が混乱することを防ぐためです。仮に一部の相続人が単純承認(無限責任)を選び、他が限定承認(有限責任)を選ぶことを認めた場合、相続財産の管理や清算が複雑になってしまいます。
また、もし一部の相続人が単純承認をすると、その相続人が自身の共有持分を自由に処分したり、特定の債権者に優先的に弁済したりすることが可能となってしまい、限定承認による厳格な清算手続きの意義が失われてしまいかねないのです。相続債権者への公平な弁済を実現させるためにも、相続人全員が共同して手続きをしなければならないと規定されることとなりました。
1-3.限定承認の件数は少ない?
なお、限定承認の手続きは家庭裁判所で行いますが、裁判所の公表している「司法統計年報」によると、限定承認の申述受理件数は平成17年の995件をピークに令和5年は688件、令和6年は690件と、毎年1,000件未満で横ばいの状態が続いています。
参考:令和6年度 司法統計年報(家事編)より「第2表 家事審判・調停事件の事件別新受件数―全家庭裁判所」(裁判所)
実際の利用頻度は高くないのが現状です。
1-4.遺贈と限定承認
遺言によって遺産の全部または何分の1という割合で財産を遺贈された「包括受遺者」がいる場合の限定承認は、注意が必要です。
限定承認は相続人全員が共同して行う必要がありますが、包括受遺者がいる場合には、その人も含めた全員で申述しなければなりません。というのも、包括受遺者は「相続人と同一の権利義務を有する」とされており(民法第990条)、限定承認の手続きにおいても、相続人と同様に扱われることになるからです。
(包括受遺者の権利義務)
民法第990条 包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。
包括受遺者自身も、自己のために包括遺贈があったことを知った時から3ヶ月以内に限定承認や相続放棄を選択する必要があります。3ヶ月の期間内に限定承認や相続放棄の手続きをしない場合や、単純承認に当たる行為をした場合には、単純承認したものとみなされて、限定承認(または相続放棄)が認められなくなってしまいます。
2.限定承認と相続放棄等との違い
限定承認は遺産をどのように相続するかという相続方法の一つですが、この記事でも何度か出ている「単純承認」と「相続放棄」という相続方法との違いについても簡単に触れておきたいと思います。
相続放棄とは、相続人が初めから相続人ではなかったかのように扱われる手続きです。相続放棄することで、相続人は故人のプラスの財産だけでなく、マイナスの財産も一切受け継がなくなります。そのため、マイナスの財産の方がプラスの財産よりも多い場合(債務超過)に選択されることの多い方法です。
単純承認とは、故人のすべての財産と負債を引き継ぐ方法です。具体的には、故人が残した積極財産(不動産や預金など)だけでなく、消極財産(借金やその他の負債)も全て相続することになります。単純承認は限定承認と違い、特段の手続きは必要ありません。法律で定められた期限内に限定承認や相続放棄の手続きをしない場合は、自動的に単純承認したことになります。
限定承認、相続放棄、そして単純承認について、適用条件、申立て方法などをまとめますと、下表の通りになります。
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限定承認 |
相続放棄 |
単純承認 |
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適しているケース |
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相続財産が借金などで明らかに超過している場合 |
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申立て方法 |
相続人全員が共同で申述手続きをする必要がある |
各相続人が単独で申立て可能 |
なし |
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手続き期限 |
相続開始を知った日から3ヶ月以内 |
相続開始を知った日から3ヶ月以内 |
なし |
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メリット |
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デメリット |
相続財産の時価による譲渡とみなされ、含み益は譲渡所得として課税される可能性がある |
財産を一切相続できない |
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3.限定承認を選択すべきケース
それでは、限定承認は具体的にどういったケースで選択すべきなのでしょうか。
3-1.負債と資産のどちらが多いのかわからない場合
以下のような被相続人の財務状況が不透明な場合に、限定承認は有効です。
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被相続人の債務額が明確でない場合
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被相続人と密接な関係にあった相続人がいないため、その財産や負債の詳細が不明な場合
限定承認を行うことにより、相続人は後に発覚するかもしれない未知の債務について、相続した遺産の範囲内でのみ責任を負うことになります。限定承認を選択すれば、相続財産を超える負債に対して責任を持つリスクを避けることができるのです。
3-2.相続したい財産がある場合
多額の借金があるものの、特定の貴重な財産を相続したい場合にも有効です。例としては、長年家族が住んできた自宅、自社の株式、または事業に必要な資産などが考えられます。
このケースで仮に相続放棄を選ぶと、確かに借金を引き継ぐ必要はありませんが、同時に価値ある財産も一切受け継ぐことができません。一方、限定承認を選択すると、負債は相続財産の範囲内で管理されるため、財産を超える借金を背負う心配がありません。この方法であれば、自宅不動産や自社株といった大切な財産を保持することが可能です。
3-3.次順位の相続人に迷惑をかけたくない場合
次順位の相続人に迷惑をかけたくない場合にも、限定承認は適しています。
通常、ある順位の相続人が全員相続放棄を選ぶと、その順位の相続人は最初から存在しなかったことになるため、相続権が次順位の相続人へ移ります。これにより、本来関与しなかったはずの次順位の相続人が突然、借金を含む相続問題を抱えることになることもあるのです。
例えば、第一順位者である長男と二男が相続人だった場合、彼らが相続放棄を行うと、第二順位者である被相続人の父母が相続人になります。長男も次男も「借金があるから相続放棄した」と伝えずにいた場合、父母は借金があることを知らないまま相続人になってしまいかねないのです。相続放棄のやり方によっては、後順位の相続人にとって予期しない負担が生じてしまいます。
こうした場合に限定承認をすると、相続人の地位は失わないため、相続権が次順位に移ることはありません。他の相続人に突然不利益が及ぶことはなく、問題を限定的に処理することが可能です。
したがって、次順位の相続人に迷惑をかけたくない、相続の事情を知られたくない、といった場合には、限定承認が有効な手段となります。
限定承認の手続き
続いて、限定承認の手続きを確認していきましょう。
1.限定承認の手続きの流れ
1-1.相続人全員で家庭裁判所に申立てをする
前述のとおり、相続人全員が共同で手続きを進める必要があるため、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対し、相続の開始を知ってから3ヶ月以内に全員で限定承認の申述をします。
限定承認の申述を行う際には、申立書など以下のような資料が必要となります。
- 限定承認の申述書
- 申述人全員の戸籍謄本
- 被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本
- 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
- 被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している者がいる場合、その出生から死亡までの全ての戸籍謄本
- 被相続人の財産目録
参考:相続の限定承認の申述(裁判所)
1-2.相続財産清算人が選任される
家庭裁判所で限定承認の申述が受理されると、申述が受理された限定承認者は、相続財産の清算手続きを進めていくことになります。なお、相続人が複数いる場合、裁判所は自動的にその中から一人を相続財産清算人として選任し、選任された人が清算手続きを行うことになります。
1-3.官報にて債権申出の公告・催告
限定承認の申述が受理された後、相続人が1人の場合は受理から5日以内、相続財産清算人が選任された場合は選任から10日以内に公告を行う必要があります(民法第927条)。
(相続債権者及び受遺者に対する公告及び催告)
民法第927条 限定承認者は、限定承認をした後五日以内に、すべての相続債権者(相続財産に属する債務の債権者をいう。以下同じ。)及び受遺者に対し、限定承認をしたこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、二箇月を下ることができない。
2 前項の規定による公告には、相続債権者及び受遺者がその期間内に申出をしないときは弁済から除斥されるべき旨を付記しなければならない。ただし、限定承認者は、知れている相続債権者及び受遺者を除斥することができない。
3 限定承認者は、知れている相続債権者及び受遺者には、各別にその申出の催告をしなければならない。
4 第一項の規定による公告は、官報に掲載してする。
この公告は、被相続人に対して債権を持っている人々に名乗り出るよう呼びかけるものです。また、限定承認者が把握している「知れている債権者および受遺者」に対しては、個別に申出の催告をしなければなりません。
公告の手続きは、最寄りの官報販売所で行われます。
公告が設定された2ヶ月の期間内に名乗り出なかった債権者は、清算手続きから除外されます。ただし、清算後に残余財産がある場合に限り、その範囲での権利行使が認められます(民法第935条)。
(公告期間内に申出をしなかった相続債権者及び受遺者)
民法第935条 第九百二十七条第一項の期間内に同項の申出をしなかった相続債権者及び受遺者で限定承認者に知れなかったものは、残余財産についてのみその権利を行使することができる。ただし、相続財産について特別担保を有する者は、この限りでない。
一方で、限定承認者が把握していた債権者や受遺者については、たとえ公告期間内に申出がなくても除外することはできません。
1-4.相続財産の換価手続き
そして、相続財産から弁済するために、換価手続きを行います。
被相続人名義の銀行口座が存在する場合、限定承認の審判書を用いて、これらの預金を財産管理用の口座に移し変えて解約する手続きを行います。
相続財産に不動産が含まれる場合は、相続財産清算人が家庭裁判所に申し立てをして、不動産の競売を進めることになります(民法第932条)。
(弁済のための相続財産の換価)
民法第932条 前三条の規定に従って弁済をするにつき相続財産を売却する必要があるときは、限定承認者は、これを競売に付さなければならない。ただし、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い相続財産の全部又は一部の価額を弁済して、その競売を止めることができる。
不動産は市場価値に基づいて現金化され、その収益は債権者の支払いや相続人への配分に充てられることになります。
1-5.請求申出を行った相続債権者への弁済
公告を通じて名乗り出た債権者、および既知の債権者に対して、それぞれの債権額に応じた配当を行います。各債権者の請求額の比率に基づいて分配されるため、公平性の保たれた配当が実現できます。
1-6.残余財産の処理
清算手続きが完了し、なお残余財産がある場合、残余財産は次のように処理されることになります。
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相続人へ帰属する
清算後に財産が残った場合、相続人に帰属します。共同相続人がいる場合には、残余財産を対象として遺産分割協議を行い、各相続人が具体的な財産を取得することになります。
ただし、完全に自由に処分して良いわけではありません。前述のとおり、法律上は「知れなかった債権者」が残余財産に対して権利を行使できますから(民法第935条)、限定承認者は、少なくとも一定期間は残余財産の明細や清算手続きの過程を証明できる資料を適切に保管しておき、予期せぬ請求があった際には残余財産の限度においてのみ応じられるよう、準備しておくべきとされています。
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相続人が破産している場合
相続人が破産手続き中である場合、限定承認における残余財産のうち当該相続人に帰属すべき部分は、その相続人の固有財産とみなされ、破産財団の目録に補充されます。
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相続人不在の場合
相続人の存在が明らかでない場合の清算(民法第951条以下)では、残余財産は特別縁故者への分与を経て、最終的に国庫に帰属します。ただし、限定承認は「相続人がいる」ことが前提の制度であるため、相続人不存在の場合の手続きとは厳密には区別されます。
2.限定承認にかかる費用
2-1.限定承認の申立ての費用
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戸籍謄本などの取得費用
限定承認の申述をするために、被相続人の出生時から死亡日までのすべての戸籍謄本など、必要な添付資料を揃えなければなりません。戸籍謄本は1通あたり約450円、除籍・原戸籍謄本は1通あたり約750円の費用がかかります。相続人の数や必要な文書の種類によって、こうした書類の取得費用が増えることになります。通常は数千円程度が目安となるでしょう。
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印紙代
限定承認の申述に必要な書類を裁判所に提出する際、1件につき800円分の収入印紙が必要です。
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郵便切手代
裁判所からの書類の送達に使われる郵便切手も必要になります。郵便切手の金額と内訳については、申述先の家庭裁判所によって異なりますので、事前にホームページや窓口などで確認しましょう。
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官報公告費用
限定承認が家庭裁判所で受理された後の官報公告の費用として、数万円程度がかかることが一般的です。ただし、公告に係る費用の法的性質については「相続財産に関する費用」と考えられており、相続財産の中から支払うことが認められています(民法第885条)。
(相続財産に関する費用)
民法第885条 相続財産に関する費用は、その財産の中から支弁する。ただし、相続人の過失によるものは、この限りでない。
2-2.限定承認の申立てを弁護士に依頼する場合
なお、限定承認の手続きを弁護士に依頼することもあるかと思います。弁護士費用は、その法律事務所の料金体系によってさまざまです。一般的には着手金(10万円前後)に加え、実費、弁護士報酬や日当が発生します。
そのため、限定承認の申述を弁護士に依頼する際には、あらかじめ法律事務所の無料相談などで費用の目安について確認しておくことが大切です。
2-3.不動産がある場合は競売の予納金や鑑定費用が追加でかかる
不動産がある場合、換価するための競売や、不動産を保持するための鑑定に費用が発生することがあります。
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競売の予納金
不動産などの相続財産を換価する場合、競売にかけることになります(民法第932条)。競売を行う際には、競売手続きの開始費用として予納金の支払いが必要となりますが、限定承認の競売においては清算人の報酬引当て分も加算され、予納金の金額は約100万円になることもあります。
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鑑定費用
相続人が特定の不動産を競売に出さずに保持したい場合、家庭裁判所によって選任された鑑定人がその財産の価値を評価します。この評価に基づいた金額を鑑定費用として支払うことになるのですが、鑑定費用は数十万円に上ることも少なくありません。鑑定は相続財産の適切な価値を確定するために重要で、この費用は限定承認者が負担することになります。
3.手続きの期限は3ヶ月
本記事で前述したとおり、限定承認の手続きは「相続が開始されたことを知った日から3ヶ月以内」に家庭裁判所で行わなければなりません(民法第915条1項)。
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
民法第915条1項 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
この期限内に限定承認(または相続放棄)の手続きを行わない場合、単純承認したとみなされ、借金がある場合は無制限に負担することになってしまいます。
もし3ヶ月の期限内にどの手続きを選ぶべきか決めかねる場合は、期限の延長を求める手続きを行いましょう。家庭裁判所に「相続の承認または放棄の期間の伸長」を申し立てることにより、相続財産の調査や検討をするための期間を延長することが可能です。
期間の伸長については、こちらの関連記事にて詳しく解説しておりますので、ぜひ本記事とあわせてご覧いただければと思います。
限定承認の注意点
最後に、限定承認に関する注意点について確認しておきましょう。
1.限定承認すると譲渡所得税がかかる場合がある
限定承認をした場合、税法上、被相続人から相続人への財産譲渡が時価で行われたとみなされます。これを税法では「みなし譲渡」と呼びます。
この譲渡所得税は、被相続人の所得税として計算され、準確定申告の対象になり、相続人は相続財産の範囲内でその納付義務を負います。
金額の算定については、相続開始時の「時価」から、被相続人の「取得価額(取得原価)」を差し引いた金額が「譲渡所得」となります。所得(値上がり分)が生じている場合にのみ課税されますので、土地が値下がりしている場合や価値が変動していない場合は、所得がないため所得税は発生しません。
このように算出された所得税は、被相続人の所得税ですから、被相続人の債務となります。そのため、相続財産から清算されることになります。
もし相続財産で納税しきれなかった場合、「相続する財産の限度で債務を負担する」という限定承認の効果により、残部分は切り捨てられます。したがって、相続財産の額を納税額が上回っても、相続人が自分自身の財産で負担する必要まではないとされています。
2.単純承認に当たる行為をすると限定承認は選択できない
単純承認を行うと、その後で限定承認を選択することはできなくなります。そのため、熟慮期間である3ヶ月の間に単純承認に該当する行為(民法第921条)をしないよう、注意する必要があります。
(法定単純承認)
民法第921条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
例えば、以下のような行為が単純承認に該当する行為とみなされる可能性があります。
- 被相続人の預貯金を引き出し、自分の支払いに充てた
- 不動産を売却した・取り壊した
- 不動産に抵当権を設定した
- 被相続人の債権を取り立てた
- 被相続人が受取人となっている生命保険の解約返礼金を受け取った
- 株主権を行使した
- 相続人全員での遺産分割協議をした
- 高額の敷金の所在を明らかにせず、その客観的証拠も提出しなかった
- 財産目録に積極財産(プラスの財産)や消極財産(債務)を意図的に記載しなかった
どういった行為が単純承認に該当するのかは、判断が難しいです。なるべく早い段階で、弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。
限定承認に関するQ&A
Q1.限定承認を選択した場合、被相続人が連帯保証人となっていた債務はどのように扱われますか?
A: 限定承認を選択した場合でも、被相続人が連帯保証人となっていた債務は相続人に引き継がれます。これは、連帯保証人の地位が相続の対象となるためです。したがって、その債務に関しては、相続財産の総額を上限に弁済が必要となります。
限定承認の場合は、プラス財産でマイナス財産をカバーできなくとも、超過分の負担を相続人が負うことはありませんが、連帯保証人としての責任もプラス財産の範囲内で対応する必要があります。そのため、相続財産を調査する際には、被相続人自身の債務だけでなく、被相続人が連帯保証人になっていた債務も確認し、適切に対応する必要があります。
Q2.相続放棄した相続人がいる場合、残りの相続人は限定承認をできますか?
A: 相続放棄を選択した相続人は、法律上、最初から相続人ではなかったとみなされます。そのため、相続放棄した相続人がいる場合でも、相続放棄をしていない相続人全員が限定承認に同意すれば、限定承認をすることは可能です。
Q3.債務超過の状態で限定承認をしたら、特定の財産を確保することができますか?
A:限定承認をした相続人は、民法第932条但書に基づく「先買権」を行使することで、特定の財産(自宅など)を確保することができます。具体的には、限定承認の申述が受理された後、相続人(または相続財産清算人)は、家庭裁判所に鑑定人選任の申立てを行うことになります。鑑定人によって算出された評価額相当の金銭を相続財産に払い込むことで、特定の財産を競売にかけることなく確保することが可能となるのです。
まとめ
本記事では、遺産相続の基本の一つである「限定承認」について弁護士が解説させていただきました。
限定承認は相続財産を管理する上で、相続人が借金などの負債を相続財産の範囲内でのみ負担することを可能にする制度です。これにより、遺産が負債を超える場合には、その超過分を相続することができます。
しかし、この制度は一見便利に思えるかもしれませんが、実際には相続人全員での共同の申請が必要であるなど、複雑で時間や手間もかかります。そのため、実際に利用されることは少ない制度です。
また、限定承認が認められる期限や、限定承認をした場合に譲渡所得税といった税金が発生する点にも、注意が必要です。
限定承認をご検討中でしたら、まずは弁護士法人あおい法律事務所の初回無料相談をご利用いただければと思います。当法律事務所では、弁護士による法律相談を事務所もしくはお電話にて、初回相談料無料で行っております。当ホームページのWeb予約フォームやお電話にてご予約いただけますので、ぜひお気軽にお問合せください。
この記事を書いた人
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。






