相続放棄のデメリット・メリット│トラブル事例や兄弟への影響も解説

相続放棄

更新日 2024.10.31

投稿日 2024.02.09

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

弁護士法人あおい事務所の相続専門サイトをご覧いただき、ありがとうございます。当サイトでは、相続に関する法的な知識を分かりやすくお届けしております。皆様のお悩みの解消に少しでもお役立ちできましたら幸甚です。

亡くなられた親などの相続人に借金があり、「相続放棄をするかどうか悩んでいるが、どのようなデメリットがあるのだろうか」と悩まれる方は多いのではないでしょうか。
確かに、相続放棄をするとプラスの財産もマイナスの財産も含め、被相続人のすべての財産を手放すことになりますので、借金から解放され、返済義務を負わなくて済むなどのメリットがあります、

一方で、一度相続放棄が受理されると、原則として撤回できないなど、デメリットもあります。
相続放棄をするかどうかの判断は、メリット・デメリットの両面を考慮し、慎重に行う必要があります。

本記事では、メリットやデメリット、トラブル事例、兄弟や親族への影響などについて詳しく解説しますので、相続放棄するかどうか悩んでいる方は、ぜひ参考になさってください。

目次

相続放棄のデメリット・メリット│するかしないかの判断は?

相続放棄にはデメリット・メリットの両面がある

相続放棄には、メリットだけではなく、メリット・デメリットの両面があります。
「相続放棄」は、民法上の概念、用語の一つであり、「相続人が、被相続人の財産に対する相続権の一切を放棄する意思表示のこと」をいいます。
相続放棄は、被相続人の財産のうち、預貯金や不動産などのプラスの財産よりも、ローンや借金などのマイナスの財産が明らかに多い場合や、相続人が財産の取得を望まない場合などに用いられます。

相続放棄の対象となるのは、被相続人のすべての財産相続となりますので、相続放棄をした場合は、プラスの財産とマイナスの財産、いずれも相続人が承継することはありません。
相続放棄するかしないかは、デメリット・メリットの両方をおさえた上で、慎重に判断しましょう。

相続放棄するかしないかの判断は各相続人の自由

相続放棄をするかしないかの判断は、各相続人の自由意志で行うことができます。
つまり、「こういった事情があれば、相続放棄しなければならない」などといった法律などの決まりはありません。また、相続放棄をする理由や動機に、何らかの制限があるわけでもありません。

例えば、相続人が複数人いる場合でも、各相続人は、他の相続人の意向に関わらず、自分一人だけで相続放棄をすることができます。
相続放棄をした場合、相続を放棄した人は、「初めから法定相続人でなかった」ものとして扱われます。

相続放棄のデメリット・メリット一覧

相続放棄には、デメリット・メリットの両面があることを冒頭でお伝えしました。
では、具体的にどのようなデメリット・メリットがあるのでしょうか。
相続放棄のデメリット・メリットには、以下のようなものがあります。

相続放棄のデメリット

  • デメリット1│プラスの財産も含めてすべての財産を手放すことになる
  • デメリット2│一度相続放棄が受理されると、原則として撤回できない
  • デメリット3│一部でも財産を使用したり処分したりすると、相続放棄が認められない
  • デメリット4│家庭裁判所で手続きをしなければならない
  • デメリット5│親の借金が消えてなくなるわけではない

相続放棄のメリット

  • メリット1│被相続人の借金から解放され、返済義務を負わなくて済む
  • メリット2│遺産分割協議に関与しなくて済む

次項では、相続放棄のデメリット・メリットについて、それぞれ詳しく解説いたします。

相続放棄のデメリットとは?

相続放棄の5つのデメリット

相続放棄のデメリットは、以下の通りです。

  • デメリット1│プラスの財産も含めてすべての財産を手放すことになる
  • デメリット2│一度相続放棄が受理されると原則として撤回できない
  • デメリット3│一部でも財産を使用したり処分したりすると相続放棄が認められない
  • デメリット4│家庭裁判所で手続きをしなければならない
  • デメリット5│親の借金が消えてなくなるわけではない

以下では、それぞれのデメリットの内容について詳しく解説いたします。

デメリット1│プラスの財産も含めてすべての財産を手放すことになる

 

デメリット1│プラスの財産も含めてすべての財産を手放すことになる

 

相続放棄の1つ目のデメリットは、「プラスの財産も含めてすべての財産を手放すことになる」ことです。
相続放棄をした場合は、被相続人の財産を一切相続することができません。
例えば、あなたか被相続人の所有する家に住んでいた場合、その家を相続することができないため、出ていかなければいけません。

また、現金や預貯金、自動車や電化製品、骨董品や宝石類など、被相続人の所有物だったものを持ち出すことはできなくなってしまいます。
被相続人の資産の中に、特別な思い入れのあるものがある場合は、かなり心残りを感じてしまうかもしれません。

デメリット2│一度相続放棄が受理されると、原則として撤回できない

 

デメリット2│一度相続放棄が受理されると、原則として撤回できない

 

相続放棄の2つ目のデメリットは、「一度相続放棄をすると原則として撤回できない」ことです。
例えば、母親が亡くなり、借金60万円があったため、相続人の子供たちが急いで相続放棄手続きをしたとします。その後、タンス預金150万円が見つかりました。相続放棄していなければ、親の借金である60万円を支払った後の90万円は手元に残ったはずですが、相続放棄を撤回することはできないため、損をしてしまうのです。
したがって、相続放棄をするかどうか判断する際には、財産の調査に漏れがないように、慎重に確認を行ってから手続きを進めることが重要です。

民法上、相続放棄は、自己のために相続が発生したことを知ったときから3ケ月以内に行わなければなりません(民法915条1項)。では、3カ月以内であれば、相続放棄の撤回ができるのではないか?とお考えになる方もいらっしゃるのではないでしょうか。残念ながら、たとえ相続放棄できる3カ月以内であっても、一度裁判所で受理された相続放棄を撤回することはできません(民法第919条)。

ただし、例外として、相続放棄の「取り消し」ができるケースがあります。相続放棄の「取り消し」とは、相続放棄の申述が受理された時点ですでに問題が生じており、本来は受理されるべきではなかったが受理されてしまったので、相続放棄をした時点にさかのぼって効力をなくすことです。
相続放棄の取り消しができるケースとして、以下のような例が挙げられます。

  • 相続放棄が、詐欺や強迫行為によって行われた場合(民法96条)
  • 未成年者が、法定代理人の同意なしに、単独で相続放棄した場合(民法5条)
  • 成年被後見人が自分一人で相続放棄をした場合(民法9条)

相続放棄の取り消しをする場合は、相続放棄の申述をした家庭裁判所に、「相続放棄取消申述書」及び必要書類を揃えて提出します。相続放棄の取消しは、簡単には認められない手続きですので、ご自身での判断や手続きが難しい場合は、相続に詳しい弁護士に相談されることをおすすめします。

デメリット3│一部でも財産を使用したり処分したりすると、相続放棄が認められない

相続放棄の3つ目のデメリットは、「一部でも財産を使用したり処分したりすると相続放棄が認められない」ことです。
相続人が、相続が開始をした事実を知りながら、相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認したもの(相続したもの)とみなされます(民法921条)。
相続人は、単純承認をしたときは無限に被相続人の権利義務を承継することになりますので(民法920条)、以後、相続放棄をすることができなくなります。

つまり、一部でも財産を使用したり処分したりすると、相続を認めたことになってしまい、相続放棄をすることができなくなってしまうのです。
例えば、以下のような行為をした場合、単純承認したもの(相続したもの)とみなされるリスクがあります。

  • 不動産を売却・贈与などによって処分した。
  • 預貯金口座を解約・払い戻した。
  • 家屋を取り壊した。
  • 遺産分割協議を行った。

デメリット4│家庭裁判所で手続きをしなければならない

相続放棄の4つ目のデメリットは、「家庭裁判所で手続きをしなければならない」ことです。
ご自身で相続放棄の手続きをする場合は、「相続放棄の申述書」を作成し、収入印紙や戸籍謄本などの必要書類を揃え、家庭裁判所に提出しなければなりません。

相続放棄をするには、相続の開始を知った日から3ヵ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申し立てを行う必要があります(民法第915条第1項)。この期間を「熟慮期間」といいます。
3カ月というと、ある程度余裕があるのではないかと考える方もいるかもしれません。しかし、相続発生後、残された家族は、葬儀や財産の調査など、さまざまな対応をしなければなならないため、3ヵ月以内という相続放棄の申請の期間はかなり短いといえます。

デメリット5│親の借金が消えてなくなるわけではない

相続放棄の5つ目のデメリットは、相続放棄したとしても、「親の借金が消えてなくなるわけではない」ことです。
相続放棄は、「相続放棄をした人が初めから相続人ではなかったこと」を認める手続きであって、借金を清算するものではありません。

例えば親に借金があっても、相続放棄をすることで、相続人は借金を引き継がずに済みます。 しかし、あなたが相続放棄をした親の借金は、消えてなくなるわけではないのです。 あなたの代わりに、次の順位の相続人に借金の返済義務が引き継がれるだけなのです。
債権者からの借金の取り立ても、借金の返済義務を引き継いだ相続人に対して行われます。

このように、相続放棄により相続権が移ることにより、大きなトラブルに発展する恐れがあります。
相続放棄によって、自分の周りの関係者にどのような影響が及ぶのか正しく理解し、事前に関係者に説明しておくなどの注意が必要です。

相続放棄のメリットとは?

相続放棄の2つのメリット

相続放棄のメリットは、以下の通りです。

  • メリット1│被相続人の借金から解放され、返済義務を負わなくて済む
  • メリット2│遺産分割協議に関与しなくて済む

以下では、それぞれのメリットの内容について詳しく解説いたします。

メリット1│被相続人の借金から解放され、返済義務を負わなくて済む

相続放棄の1つ目のメリットは、「被相続人の借金から解放され、返済義務を負わなくて済む」ことです。これが相続放棄の最大のメリットでしょう。
例えば、被相続人に借金や負債があった場合、家庭裁判所を通した相続放棄をしない限り、借金や負債は相続人に引き継がれるのが原則です。相続によってい引き継がれる負債は、借金だけに限らず、家賃や税金も対象となります。
相続した財産によって借金・負債の全額が弁済ができるのであれば問題ありませんが、弁済ができない場合には、相続人自身の財産によって弁済をしなければなりません。

このような状況において有効なのが、相続放棄です。
下記のとおり、民法では、相続放棄をした人は初めから相続人ではなかったことになりますので、被相続人の借金などの負債を相続せずに済みます。

民法939条「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。」

メリット2│遺産分割協議に関与しなくて済む

相続放棄の2つ目のメリットは、「遺産分割協議に関与しなくて済む」ことです。
相続放棄をすると、その人は初めから相続人ではなかったことになりますので(民法939条)、遺産の分け方を話し合う遺産分割協議に一切関与しないことになります。
相続関係から外れることになりますので、相続人同士の関係性が悪い場合や、もめごとが生じた場合に、トラブルに巻き込まれずに済みます。

遺産分割協議は相続人全員で行う必要があり、相続人全員の合意がなければ成立しません。
協議が成立しない場合、家庭裁判所での調停・審判手続きに移行するなどして、解決までに数年要することもあります。
さらに、不動産を相続する場合は登記手続きが必要になったり、相続税が発生する場合は相続税の申告や納税が必要になったりします。
相続放棄をすると、このように手間のかかる手続きをする必要がなくなります。

相続放棄のトラブル事例│もめた場合の対処法

相続放棄のトラブル事例・リスクや対処法

相続放棄を行うと、予期せぬトラブルが生じるケースも少なくありません。
相続放棄を巡って、以下のようなトラブルが生じるリスクがあるため、注意しましょう。

  • トラブル事例①│家庭裁判所での手続きを行っていなかった。
  • トラブル事例②│ほかの相続人から一方的に相続放棄を求められた。
  • トラブル事例③│財産調査に想定よりも時間がかかってしまい、相続放棄の期限に間に合わない。
  • トラブル事例④│相続放棄をしたにもかかわらず、債務の取り立てが来る。

以下では、各トラブル事例とその対処法について解説いたします。

トラブル事例①│家庭裁判所での手続きを行っていなかった。

家庭裁判所での手続きを経ておらず、相続放棄ができていなかった、というトラブル事例が考えられます。
例えば、遺産分割協議において、他の相続人との間で「遺産を相続しない」という意思表示をし、書面を取り交わしていたとしても、それは民法の定める「相続放棄」(民法939条)ではないということです。
家庭裁判所での手続きがなされていない場合、被相続人に借金などの負債があり、その債権者から支払いを求められたとしても、対抗することができません。

遺産分割協議で相続分を放棄していたとしても、負債から解放されるわけではなく、引き継ぐことになってしまいますので注意しましょう。
このようなトラブルを防ぐために、期限内に必ず家庭裁判所での相続放棄の手続きを行いましょう。

トラブル事例②│ほかの相続人から一方的に相続放棄を求められた。

ほかの相続人や関係者から、一方的に相続放棄を求められる、というトラブル事例が考えられます。
このようなトラブルに巻き込まれた場合、相手からの一方的な要求に応じる必要はありません。
一般的に、相続放棄を強要することは、法律上許されていません。相続放棄をするかどうかは、あくまでも各相続人の自由意思による判断となります。

相続放棄の強要が行われた場合、犯罪が成立する可能性や、法律により救済される可能性があります。
民法では、「強迫」による意思表示は、取り消すことができるとされています(第96条第1項)。
相続放棄の強要は、この民法上の「強迫」に該当する可能性があり、もし該当した場合は、同規定に従って相続放棄の意思表示を取り消すことが認められます(民法第919条第2項)。

ただし、相続放棄の意思表示を取り消すことのできる期間には、消滅時効による制限が存在する点に注意が必要です。
相続放棄取消しの期限は、次のいずれかの期間が経過した時点で、事項により消滅します(民法919条3項)。

  • 追認をすることができる時から6カ月以内
  • 相続放棄の時から10年以内

「追認することができる時」とは、取り消しの原因になっていた状況がなくなった時などを指します。
なお、前項で説明した通り、相続放棄の取り消しをする場合は、家庭裁判所に対して申述する方法によって行う必要があります(民法第919条第4項)。
一方的に相続放棄を求められている場合や、それに応じて相続放棄をしてしまった場合は、早期の段階で、相続手続きに詳しい弁護士に相談し、適切に対応されることをおすすめします。

トラブル事例③│財産調査に想定よりも時間がかかってしまい、相続放棄の期限に間に合わない。

相続財産の調査に時間がかかってしまい、相続放棄の申述期限に間に合わない、というトラブル事例が考えられます。
相続放棄をするかどうかの判断は、財産の内容が分かっていないと決められません。
相続財産の調査対象は、預貯金や土地、借金など多岐に渡ります。財産の種類が多い場合や、複数の債権者から借金をしていた場合などには、財産調査に思いのほか時間を要するケースが多いです。

相続放棄の期限に間に合いそうにない場合の対処法として、家庭裁判所に対して、期間を延ばしてもらいたい旨の申立て(「相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立て」)を行うことを検討しましょう。
家庭裁判所に了承してもらえば、熟慮期間が延長される可能性があります。ただし、期限の延長の手続きは、3か月の期限内に行う必要がありますので、注意しましょう。
財産の種類が多い場合や、相続を放棄すべきかどうか迷っている場合には、早い段階で専門家に相談されることをおすすめします。

トラブル事例④│相続放棄をしたにもかかわらず、債務の取り立てが来る。

相続放棄をしたにもかかわらず、債務の取り立てが来る、といったトラブル事例が考えられます。
相続放棄をした場合、その人は最初から相続人ではなかったものとして扱われますので、債務を弁済する義務を負いません。
仮に、債権者から債務の返済を求められたとしても、相続放棄していれば、債権者に対抗することができます。

このようなトラブルの対処法として、債権放棄したことを証明するために、「相続放棄申述受理通知書」や「相続放棄申述受理証明書」を裁判所で発行してもらい、債権者に提示しましょう。
債権者からの取り立てがしつこい場合は、弁護士に相談されることをおすすめします。

相続放棄するとどうなる?│兄弟・妻・親・子への影響は?

前項では、相続放棄のデメリットとして、相続権が新たな相続人に移動することについて説明しました。
相続放棄は1人でもできますが、相続権が次順位の相続人に移動することによって、思わぬ親族に迷惑がかかってしまうおそれがあります。

では、具体的に、相続放棄をして相続権が移動すると、どのようなリスクや問題が生じる可能性があるのでしょうか。
以下では、例として、「夫が大きな借金を残して亡くなり、配偶者の妻と、子どもが1人がいる場合」を想定し、相続放棄による影響について解説いたします。

妻と子が相続放棄した場合│親への影響

この例において、妻と子どもが相続放棄すると、故人に親がいる場合は、親が借金を相続します。
妻と子の相続放棄によって、夫の親に相続権が移ることを知らない方は、多くいらっしゃるのではないでしょうか。
そのため、妻や子が相続放棄をする場合、手続きをする前に、夫の親に対してその旨を伝えておかないと、家族関係が悪化してしまうおそれがあります。

妻・子・親が相続放棄した場合│兄弟への影響

妻と子どもが相続放棄し、夫の親も相続放棄をした場合、妻、子、父、母は最初から相続人ではなかったことになります。
そして、この場合、故人に兄弟がいる場合は、兄弟が新たに相続人となります。
兄弟と疎遠になってしまっていることもあり、その場合は相続放棄をしたことが兄弟に伝わらず、被相続人の債権者から想定外の借金等の請求を受けてトラブルに発展することがあります。

故人の兄弟も含め全員が相続放棄した場合│借金の行方

相続人全員が相続放棄をした場合は、誰も借金を引き継ぎません。
相続人全員が相続放棄すると、引き継がれなかったプラスの財産は、最終的に国のものになります。
しかし、借金があれば債権者の権利も生きているので、債権者から「相続財産管理人」を選任するための申し立てをされる場合があります。相続財産管理人とは、遺産を管理して遺産を清算する職務を行う人のことです。

相続財産管理人が選任されると、相続財産管理人が遺産の範囲内で債権者に対する弁済を行います。プラスの財産から債権回収が見込めない場合、債権者は連帯保証人に支払いを請求することになります。相続放棄していても連帯保証債務は残るので、支払い請求があった場合は、応じなければなりません。

このように、自分が相続放棄をしても、負債の支払い義務がなくなるわけではなく、父母や兄弟など次の順位の人に返済義務が移るため、相続放棄をする際は、事前に相続放棄をする旨を伝えることが大切です。

相続放棄した後も残る管理義務

相続放棄をした場合でも、相続財産管理人への引き継ぎが完了するまでは、きちんと財産の管理をする義務を負います。
民法は、「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意義務をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」と定めています(民法940条1項)。

例えば、相続財産が既に誰も住んでいない空き家だった場合、相続放棄したからといってそのまま放置すれば、誰かが住みついたり、不法投棄がされたり、周囲の治安・環境に影響を及ぼすおそれがあります。さらに、老朽化した建物が倒壊して事故につながる可能性もあるでしょう。

このような事態を防ぐためにも、相続人は、相続放棄をしたとしても、次順位の相続人が管理を始められるまでは、相続財産の管理義務を負います。
管理義務の対象となる遺産には、以下のようなものがあります。

  • 空き家
  • 空き地
  • 農地
  • 山林

また、相続財産の管理とは、具体的には、以下のような例が挙げられます。

  • 定期的な見回り等による状況把握
  • 倒壊の危険を回避するための補強工事
  • 剪定や除草、害虫駆除

このように、相続放棄をした場合でも、管理が必要な財産があるため、注意しましょう。

相続放棄のデメリットに関するQA

Q.相続放棄のデメリットは何ですか?

相続放棄には、以下のようなデメリットがあります。

  • プラスの財産も含めてすべての財産を手放すことになる
  • 一度相続放棄が受理されると原則として撤回できない
  • 一部でも財産を使用したり処分したりすると相続放棄が認められない
  • 家庭裁判所で手続きをしなければならない
  • 親の借金が消えてなくなるわけではない

Q.相続放棄のメリットは何ですか?

相続放棄には、以下のようなメリットがあります。

  • 被相続人の借金から解放され、返済義務を負わなくて済む
  • 遺産分割協議に関与しなくて済む

Q.相続放棄にはどのようなトラブル事例がありますか?

相続放棄には、以下のようなトラブル事例があります。

  • 家庭裁判所での手続きを行っていなかった。
  • ほかの相続人から一方的に相続放棄を求められた。
  • 財産調査に想定よりも時間がかかってしまった。
  • 相続放棄をしたにもかかわらず、債務の取り立てが来る。

まとめ

被相続人に借金があった場合、相続放棄を検討される方も多いでしょう。
相続放棄には、メリットだけでなく、デメリットもあります。
一度相続放棄が受理されてしてしまうと、原則として相続放棄を撤回することができません。
また、自分が相続放棄をしたことにより、思わぬ親族に相続権が移動し、迷惑をかけてしまったり、トラブルに発展したりするおそれがあります。

相続放棄するべきかどうかの判断も含め、少しでもお悩みがある場合は、相続に詳しい専門家に相談されることをおすすめします。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。