子供が相続放棄すると誰が法定相続人になる?孫は相続人となるのか
相続問題において、子供が相続を放棄するケースは珍しくありません。しかし、その場合、相続権はどのように移行するのでしょうか?特に、子供全員が相続放棄した場合、法定相続人として次に認められるのは誰になるのか、多くの方が疑問に思います。
もし子供が相続放棄したとしても、その子の子である孫が自動的に法定相続人になるわけではないのです。相続放棄した子供は、法的には相続に関与しない人物として扱われ、その結果、代襲相続も生じません。
この記事では、子供が相続放棄をした際に、誰が新たな法定相続人となるのかについて詳しく解説します。
目次
子供が相続放棄したら孫は相続人にならない!
親、子供、孫が存在する家庭において、親が亡くなった場合の法定相続人は通常、子供となります。しかし、もし子供が親の死亡前に亡くなっていた場合には、その子供の子、つまり孫が代襲相続により第1順位の相続人として遺産を引き継ぐことになります。
一方で、もし子供が相続放棄をした場合、代襲相続は発生しません。相続放棄を選択した子供は民法の観点から「初めから相続人ではなかった」とみなされます。これは、その子供が法的に遺産とは無関係な存在となるため、その子供の孫も相続人とは認められません。
つまり、相続放棄した子供がいる場合、その子供の死亡にかかわらず孫は直接的な相続人にはなれないのです。
子供全員が相続放棄した場合、次順位が法定相続人に!
相続放棄は、遺産に関する法的権利を放棄する行為であり、この選択をした人は法的に「初めから相続人ではなかった」と見なされます。このため、相続権は自動的に次の順位の相続人に移行します。日本の民法では、相続人の順位が明確に定められており、第1順位は故人の子供、第2順位は故人の父母や祖父母などの直系尊属、そして第3順位が故人の兄弟姉妹となっています。
子供が相続放棄を行った場合、次に相続権が移るのは直系尊属です。これには亡き親や祖父母が含まれますが、これらの直系尊属もすでに亡くなっているか、同様に相続放棄をしている場合、法定相続人としては故人の兄弟姉妹が権利を受け継ぐことになります。
子供一人だけが相続放棄した場合は残りの子が相続人に
相続は個々の権利に基づいた選択が可能であり、被相続人の子供一人だけが相続放棄を選んだ場合でも、その選択が他の法定相続人に影響を与えることはありません。つまり、一部の子供が相続放棄を行っても、放棄しなかった残りの子供がその分の財産を引き継ぐことになります。
具体的な例として、故人が配偶者と3人の子供を残して亡くなった場合を考えてみましょう。この状況で2人の子供が相続放棄をしたならば、残った1人の子供と配偶者が法定相続人として遺産を共有します。配偶者がいない場合でも、相続放棄をしなかった子供が全ての遺産を相続することになります。
配偶者が相続放棄したら他の相続人の法定相続分が増える
配偶者が相続放棄を選択する場合、その相続権は自動的に他の法定相続人に移行します。配偶者は特殊な位置を占めており、常に法定相続人としての地位を持ちますが、相続放棄した場合、その相続権が無効となり、残された法定相続人が遺産を相続することになります。
例えば、故人が配偶者と3人の子供を残して亡くなったとします。この場合、配偶者が相続放棄を行ったなら、残った3人の子供が遺産を等分に相続することになります。配偶者の放棄により、子供たちが相続する遺産の割合が増えるわけです。
兄弟姉妹が相続放棄したらその子(甥姪)は相続人になる│代襲相続が起こるケース
代襲相続は、直接の相続人が相続する前に亡くなった場合に、その人の子供や法定相続人が相続権を引き継ぐ制度です。この制度は、法定相続人が連鎖的に亡くなっている場合に、遺産が法的な空白を生じることなく適切に分配されることを保証します。
例として、子供が相続放棄を行い、被相続人の直系尊属もすでに亡くなっている場合、法定相続人として次の順位にある兄弟姉妹に相続権が移ります。しかし、その兄弟姉妹も既に亡くなっている場合、その子供たち、つまり被相続人から見れば甥や姪が代襲相続の対象となります。
この代襲相続は、一代限りのものであり、甥や姪もすでに亡くなっている場合、その子どもたちへの再代襲相続は認められません。したがって、甥や姪が亡くなっている場合、さらに下の世代への相続は発生しません。
具体的な遺産の分配を例に取ると、被相続人の配偶者が存在し、その配偶者が遺産の4分の3を受け取る場合、残りの4分の1を甥と姪が共有します。この場合、甥と姪はそれぞれ遺産の8分の1を受け取ることになります。
子供を含む法定相続人全員が相続放棄するとどうなる?
法定相続人全員が相続放棄を選択した場合、相続財産の取り扱いはどうなるのでしょうか?このような状況では、民法に基づく相続順位に従っても相続人が現れない場合、家庭裁判所が相続財産清算人を選任します。この清算人は、被相続人の財産を管理し、必要に応じて財産の調査、財産目録の作成、債務の履行などを行う責任を負います。
相続財産清算人の業務は無償ではなく、その活動には専任費用が必要です。具体的には、予納金として最低でも20万円程度が必要とされ、この金額は被相続人の財産から支払われることになります。
子供の相続放棄による法定相続人と法定相続分の変更
父親が死亡し、妻と子供が残されたケースにおいて、子供が相続放棄した場合の法定相続人と法定相続分は下記の表のとおりです。
相続人と相続放棄した人 |
元の相続分配 |
相続放棄後の新しい相続分配 |
---|---|---|
相続人: 妻と子供2名 相続放棄した人:子供1名 |
妻: 1/2 子供:各 1/4 |
妻: 1/2 子供: 1/2 |
相続人:子供2人(妻なし) 相続放棄した人:子供1人 |
子供:各 1/2 |
残る子供が全て相続 |
相続人: 妻と子供1名 相続放棄した人:子供1人 (直系尊属有) |
妻: 1/2 子供: 1/2 |
妻: 2/3 直系尊属(親): 1/3 |
相続人: 妻と子供1名 相続放棄した人:子供1人(直系尊属無) |
妻: 1/2 子供: 1/2 |
妻: 3/4 兄弟姉妹: 1/4 |
この表は、相続放棄が各相続人の法定相続分にどのような影響を及ぼすかを示しています。相続放棄がある場合、相続権は他の法定相続人に移行し、遺産の再分配が行われます。
子供が相続放棄を検討すべきケース
親の借金の方がプラスの財産よりも多い場合
親が生前に多額の借金や未払い金などの負債を抱えていた場合、相続を放棄することが賢明な選択であることが多いです。相続放棄の判断をする前には、被相続人の財産を詳細に調査することが重要です。この調査により、プラスの財産(不動産、預金、株式など)とマイナスの財産(借金、税金の滞納、その他の負債)の実態を把握できます。
相続放棄は家庭裁判所に申述を行いますが、被相続人の死亡を知った日から3か月以内に行う必要があります。したがって、迅速かつ正確な財産評価が求められるため、専門家のアドバイスを求めることも一つの方法です。
相続トラブルを避けたい場合
長年にわたり交流がなかった身内から突然、相続人であることを知らされるケースは、意外にも発生します。このような状況では、被相続人や他の相続人との面識がほとんどない、または全くないことも珍しくありません。さらに、遺産分割に関する争いや、債権者からの請求といったトラブルが既に存在している場合もあります。
この場合、その遺産の管理や分割に関わることは、大きな心理的負担となり得ます。また、法的なトラブルや追加的な金銭的負担に巻き込まれるリスクも伴います。特に、遺産に関する情報が不明瞭である場合や、相続人間での意見の対立が激しい場合は、そのような状況に関与することが自己の利益にならない可能性が高いです。
相続放棄は、このような複雑で負担が大きい相続から距離を置くための有効な手段となります。
子供が相続放棄する際の手続きの流れ
相続放棄をする際には、一連の手続きを適切に行うことが求められます。以下は、相続放棄の手続きの流れです。
- 必要書類を準備する
- 家庭裁判所に「相続放棄の申述」をする
- 照会書へ回答し返送
- 「相続放棄申述受理通知書」の受領
- 他の相続人への通知
必要書類・費用を準備する
相続放棄を行う際には、主に以下の2つの書類が必要です。
- 相続放棄申述書: この書類は、相続放棄を正式に申し立てるために使用されます。相続人と被相続人の詳細な個人情報、相続放棄をする理由などが記載されます。この書類は最寄りの家庭裁判所から入手することができ、裁判所のホームページからもダウンロード可能です。
- 戸籍関係の書類
・被相続人の住民票または戸籍の附票
・被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本または除籍謄本
・申述人の戸籍謄本
被相続人との法的な関係を証明するために必要です。これには、被相続人の戸籍謄本や相続人の戸籍抄本など、具体的な必要書類がケースによって異なるため、事前にどの書類が必要かをホームページなどで確認することが重要です。
相続放棄の申請には、収入印紙800円分の手数料が必要です。また、家庭裁判所からの連絡用に郵便切手も準備し、金額は手続きを行う裁判所によって異なるので事前に確認が必要です。
家庭裁判所に相続放棄の申述をする
これらの必要書類と手数料を添えて、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。相続人自身の住所地の裁判所や、他の任意の裁判所を選ぶことはできません。
申述には3ヶ月の期限がある
相続放棄を行う際には、相続開始を知った日から3カ月以内に申し立てをする必要があります。この期間内にすべての財産を調査し、必要な手続きを完了させることが求められますが、これが自力で行うには困難な場合もあります。特に、財産の状況が複雑であったり、法的な知識が必要な場合には、相続に精通した弁護士に支援を依頼することをお勧めします。
照会書へ回答し返送する
相続放棄の申述を行うと、手続きの一環として家庭裁判所から「相続放棄の照会書」が送付されます。この照会書は、申述人が相続放棄の意思を本当に持っているかどうかを確認する目的で用いられます。受け取った照会書には必要事項を記入し、指定された期限内に家庭裁判所へ返送する必要があります。
家庭裁判所は、返送された照会書の内容を基にして、申述人の相続放棄の意思が明確であるかを検討し、その結果に基づき相続放棄の申述を正式に受理するかどうかを判断します。
「相続放棄申述受理通知書」を受け取る
家庭裁判所から相続放棄の申述が受理されると、申述人に「相続放棄申述受理通知書」が送付されます。しかし、この通知書の発行によって裁判所が債権者(貸主)に相続放棄の事実を伝えるわけではありません。そのため、親が残した借金に関して債権者から支払いの請求が来た場合は、自らこの通知書を提示して支払いを拒否する必要があります。
また、相続放棄申述受理通知書は申述人一人につき一通のみ発行され、紛失した場合には再発行はされませんので、大切に保管することが重要です。もし正式な証明が必要になった場合は、「相続放棄申述受理証明書」を手数料を支払って発行してもらうことができます。
子供が相続放棄する際の注意点
相続放棄後の取り消しと再申請はできない
相続放棄が一度法的に認可されると、その決定を取り消したり、再申請することは原則としてできません。これは、相続放棄後に予期せぬ財産が発見されたとしても、もとの相続権を回復することはできないことを意味します。したがって、相続放棄を決定する前に、財産の全体像を把握するための徹底した調査が非常に重要です。
例外的に、相続放棄が他の相続人による脅迫など不当な影響下で行われた場合は、この放棄の決定が無効となる可能性があります。このような状況では、法的な措置を講じることによって、相続放棄が取り消されることが考えられます。
このため、相続放棄を考えている際には、事前に遺産の詳細な調査を行い、必要に応じて法律専門家の助言を受けることが勧められます。
財産を使用、処分すると相続放棄できなくなる
亡くなった人の財産を使用したり、処分したり、名義変更を行ったりすることは、相続放棄が認められなくなる恐れがあるため、非常に慎重な対応が求められます。これは、これらの行為が法的に「相続の承認」とみなされるためです。
相続放棄を検討している場合、まず最も重要なのは、亡くなった人の遺品や財産については、任意に処分や使用を避けることです。特に、銀行口座からのお金の引き出し、不動産の売却や賃貸への出し入れ、自動車や株式などの名義変更は、相続放棄の意思がないと解釈される可能性が高いです。
このような状況にある場合、どのような行動が許されるのか、またどのような行動が相続放棄に影響を及ぼすのかについては、ケースバイケースで異なるため、具体的なアドバイスを得ることが必要です。弁護士などの専門家に相談し、適切な対応を行うことで、無用な法的トラブルや財産の無駄遣いを避けることができます。
相続放棄を検討する場合は次順位の相続人に連絡を
相続放棄の申立ては「相続開始を知った日の翌日」から3か月以内に行わなければなりません。この期限内に適切な手続きを完了させる必要があり、多くの場合、葬儀の手配や役所での手続き、財産調査に追われ、申立ての期限まで日数が限られてしまうことがあります。
申立てが間に合ったとしても、相続放棄の手続きが法的に完了するまでには通常1カ月程度を要します。その間に相続権が次順位の相続人、例えば祖父母に移行している可能性があり、一度相続権が移行してしまうと、祖父母は相続放棄を選択する機会を逃してしまうかもしれません。
また、相続放棄が成立した後、次順位の相続人には債権者からの事前連絡がないため、彼らが自動的に借金の返済義務を負うことになります。この状況は、特に次順位の相続人が債務を知らずに相続人になってしまうと、金銭的な問題に直面する可能性があり、家族関係に亀裂が入ることも考えられます。
このため、相続放棄を検討している子供は、自身が相続放棄をする前に次順位の相続人に事前に連絡を取り、彼らが債務者になる可能性について説明することが重要です。これにより、次順位の相続人も適切な対策を講じることができ、予期せぬ法的責任や金銭的負担から守ることが可能になります。
未成年の子供が相続放棄する場合の手続き
未成年の子供が相続放棄をする際、手続きには特別な配慮が必要です。通常、未成年者の法定代理人は親ですが、相続の状況によっては親自身が代理人として行動することが適切でない場合もあります。具体的には、親と未成年者の利益が相反する状況です。
利益相反の例と特別代理人の必要性
例えば、父が亡くなり、相続人が母と未成年者の2名の場合を考えます。母が相続を受け入れる(単純相続)と決め、未成年の子が相続放棄を希望する場合、母と子の利益が相反します。この場合、母親は子供の相続放棄の手続きを法定代理人として行うことはできません。
このような状況では、家庭裁判所に申し立てを行い、未成年者のために特別代理人を選任してもらう必要があります。特別代理人は、未成年者の相続放棄の申立てを行う責任を負います。
親と未成年者が共に相続放棄する場合
一方で、親と未成年者が共に相続放棄をする場合、特別代理人の選任は必要ありません。親が未成年者の法定代理人として、両者の相続放棄を同時に申し立てることが可能です。この場合、利益相反の問題は生じません。
子供の相続放棄に関するQ&A
Q: 子供全員が相続放棄した場合、相続権は誰に移りますか?
A: 子供全員が相続放棄を行った場合、相続権は民法で定められた次の相続順位の人物に移ります。具体的には、第2順位の直系尊属、つまり亡くなった人の父母が次の法定相続人となります。父母がすでに亡くなっているか、または相続放棄を行っている場合には、次に祖父母が相続人となります。祖父母も相続放棄をした場合は、最終的に第3順位の兄弟姉妹が相続人となる流れとなります。
このように、相続権は法定の順位に従って、配偶者を含む親族間で移行します。
Q: 子供が相続放棄をした場合、孫は相続放棄する必要がありますか?
A: 通常、子供が相続放棄をした場合、その子供が相続人としての権利を持っていたことがなかったとみなされるため、その子供の子である孫はもともと相続人ではありません。したがって、孫が相続放棄を行う必要はありません。
ただし、例外として、子供が被相続人より先に死亡していたり、相続人としての資格を喪失していた場合(例えば、相続人欠格や廃除に該当する場合)、代襲相続が発生します。代襲相続により、孫が直接相続人となる場合は、孫自身が相続放棄をする必要があります。
この場合、孫は自分が相続人であることを知った日の翌日から3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申立てを行う必要があります。
Q: 相続放棄の手続きには期限がありますか?その期限を延長する方法はありますか?
A: 相続放棄を行うための期限は、「自己のために相続が開始したことを知ったとき」から3か月以内です。この期間は、被相続人が亡くなったことを知った日からではなく、具体的に相続の開始を知った日から数え始めます。
また、被相続人の負債が後に発覚した場合は、その負債を知った日から3か月以内に相続放棄を行う必要があります。遺産の調査が終わらないなどで3か月以内に手続きを完了することが難しい場合は、裁判所に「相続の承認または放棄の期間の伸長」を申し立てることが可能です。
しかし、この伸長が認められるのは、具体的な困難がある場合であり、単に忙しい等の理由では認められません。期間の伸長の可否は、申立を受けた裁判所が具体的な状況を考慮して判断します。
まとめ
子供全員が相続を放棄した場合、次の相続順位である直系尊属、すなわち亡くなった人の両親や祖父母が新たな法定相続人となります。これらの直系尊属がすでに亡くなっているか、存在しない場合は、兄弟姉妹が次の法定相続人になります。
一方で、相続人になった子供たちの中で一部が相続放棄を行った場合、放棄しなかった子供たちが遺産を分割します。この際、相続順位が上の相続人がいる限り、次の順位に移ることはありません。重要な点として、相続放棄した子供は法的に「初めから相続人ではなかった」と見なされるため、その子供の子、つまり孫への代襲相続も発生しません。
相続放棄の手続きには、相続開始を知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申立てをする必要があります。この期限内に手続きを完了させることは、多くの場合、専門的な知識と経験を要するため、相続に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。これにより、手続きのミスを防ぎ、適切な法的保護を受けることが可能になります。
この記事を書いた人
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。