相続放棄の必要書類|兄弟や子供、甥姪などの続柄別に解説

相続放棄

更新日 2025.10.28

投稿日 2024.02.09

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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被相続人の財産に借金や負債があるとき、人によっては相続放棄を考えるかと思います。

相続放棄の手続きは家庭裁判所で行いますが、自身と被相続人の続柄などによって提出する書類が異なるため、あらかじめ確認しておくと安心です。

そこでこの記事では、相続放棄の手続きの必要書類について、弁護士がわかりやすく解説させていただきます。兄弟や子供など、それぞれの続柄に応じた具体的な必要書類の一覧と、必要書類の取得方法や提出先についてもご説明いたしますので、ご参考になりましたら幸いです。

目次

相続放棄の必要書類

それではさっそく、相続放棄の手続きの必要書類について確認していきましょう。

家庭裁判所に提出する相続放棄の必要書類

相続放棄の手続きは家庭裁判所で行いますので、相続放棄の必要書類も家庭裁判所に提出することになります。

(相続の放棄の方式)
民法第938条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

上の民法の規定にある通り、相続人が家庭裁判所に対して「自分は相続をしません」と正式に相続の放棄を申し出る手続きのことを、「相続放棄の申述(しんじゅつ)」といいます。

この申述を行う際に、まず必要となるのが「相続放棄申述書」です。これは、相続放棄の意思を明確に示すための書類で、定められた書式に従って正確に記入しなければなりません。記載に不備があると、手続きが受理されない可能性もあるため注意が必要です。

そして、この相続放棄申述書の書式ですが、裁判所のホームページからダウンロードが可能です。

参照:相続の放棄の申述(裁判所)

なお、相続放棄申述書の書き方については、こちらの関連記事にて解説しております。本記事とあわせて、ぜひご覧ください。

次に、自分が相続人であることを証明するための戸籍関係の書類も必要です。

具体的には、被相続人の戸籍謄本、除籍謄本、戸籍の附票、申述人本人の戸籍謄本などが必要となります。こうした戸籍謄本等を提出することで、自分が法的に相続人であり、相続放棄をする立場にあることを裁判所に示すことができるわけです。

戸籍謄本は、本人の本籍地にある市区町村役場で取得できます。また、被相続人の住民票除票は、被相続人が最後に居住していた地域の市区町村役場で手に入れることができます。これらの書類は窓口で直接請求することもできますし、郵送での請求も可能です。

市区町村役場の窓口を利用すれば、多くの場合、即日で書類を受け取ることができます。郵送請求の際は、書類の発送から受領まで通常1~2週間程度かかることを見込んでおきましょう。

なお、相続放棄の申述の手続きは、被相続人の死亡を知った時から3か月以内に行わなければなりません(民法第915条1項)。

(相続の承認又は放棄をすべき期間)
民法第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

この期限を過ぎると、相続放棄ができなくなってしまうため、相続放棄を考えている場合は、すぐに必要書類の準備を始めるようにしましょう。

相続放棄の期間を伸長する手続きの必要書類

もし相続放棄をするかどうかを3か月の期間内に決められない場合、特別な事情があれば、この期間を延長することが可能です。期間の延長をしたい場合は、被相続人の最後の住所地を管轄している家庭裁判所に対し、「相続放棄の期間を伸長」の手続きを行う必要があります。

相続放棄の期間を伸長する手続きの必要書類

この申立てを行う際の必要書類は、以下の通りです。

  1. 申立書
    裁判所のホームページ「相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立書」で申立書の書式のダウンロードが可能です。記載例もありますので、ご参照ください。
  2. 被相続人の住民票の除票または戸籍附票
  3. 申立てを行う相続人の戸籍謄本
  4. 収入印紙800円および郵券(郵券の必要金額と枚数は各家庭裁判所によって異なるため、事前に確認が必要です。)

相続放棄の必要書類一覧

以上の相続放棄の必要書類ですが、被相続人との続柄に関係なく全員に共通する必要書類に加え、被相続人との続柄によって必要となる書類があります。

まずは、全員に共通して提出が必要となる書類について解説いたします。
以下の表は、相続放棄の手続きにおいて、被相続人との続柄に関係なく、共通して用意しなければならない必要書類です。

【全員に共通する必要書類】

必要書類 書類の詳細 取得先
相続放棄申述書 相続放棄の意思を表明する書類です。被相続人と申述人の住所、氏名、生年月日や相続財産の内容、相続放棄の理由などを記載します。 全国の家庭裁判所で入手でき、裁判所のホームページからダウンロードも可能です。
被相続人の住民票除票または戸籍附票 死亡により除かれた住民票、または戸籍が作られてから除籍されるまでの住所が記録された書類を指します。 被相続人の死亡時の住所地の役所(住民票除票)、本籍地の役所(戸籍附票)で取得でき、郵送での取得も可能です。
申述人(相続放棄をする人)の戸籍謄本 申述人が記載されている戸籍の謄本です。相続人としての身分を証明します。 申述人の本籍地の役所でしか取得できず、居住地と本籍地が異なる場合は注意が必要です。遠方の場合は郵送での取得が可能です。

また、書類のほかに、手数料と書類の送達費用が必要になります。

必要なもの 詳細 取得先
収入印紙 相続放棄の手続きの手数料として必要です。1人につき800円分を納付します。 郵便局やコンビニエンスストアで購入できます。
郵便切手 相続放棄受理通知書などの書類を裁判所から申述人に郵送するために必要です。必要な切手の金額・組合せは、管轄の家庭裁判所によって異なります。 郵便局で入手できます。必要な金額は事前に家庭裁判所で確認してください。余った切手は返還されます。

 

郵便切手や書式などは家庭裁判所によっても異なる場合があるため、具体的な必要書類や手続きの概要につきましては、管轄の裁判所のホームページや窓口にてご確認ください。
管轄の裁判所については、裁判所のホームページから調べることが可能です。

裁判所HP:裁判所の管轄区域

印鑑証明書は必要ない

ところで、相続手続きでは印鑑証明書が必要、というイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。

実際、不動産などの名義変更の手続きをする際に、金融機関や法務局において相続人の印鑑証明書が必要だとされています。窓口における手続きで印鑑証明書が求められるのは、相続人全員が遺産の分け方に合意しているのかを、印鑑証明書と併せて遺産分割協議書などで確認する必要があるからです。

ですが、家庭裁判所における相続放棄の手続きでは、印鑑証明書は必要ありません。

なぜなら、相続放棄は「本人が家庭裁判所に対して単独で行う手続き」であり、他の相続人との合意や協議を必要としないからです。申述人が誰であるか、つまり本当に相続人であるかどうかは、戸籍謄本などの公的書類によって確認されます。そのため、印鑑証明書を提出する必要がないのです。

土地の相続放棄における必要書類は?

土地を含む相続を放棄したい場合でも、特別な書類を追加で提出する必要はありません。土地の有無によって、裁判所に出す書類の内容が変わることはなく、手続きの流れも共通です。

というのも、相続放棄は「特定の財産だけを手放す」というものではなく、最初から一切の相続を受けないことを申請する手続きだからです。そのため、たとえ相続財産の中に不動産が含まれていたとしても、それを理由に不動産の登記簿や評価証明書といった資料を用意する必要はありません。

相続放棄の必要書類【兄弟姉妹・甥姪】

(1)兄弟姉妹による相続放棄の必要書類

被相続人に子や孫、親や祖父母といった直系血族の相続人がいない場合、またはこれら直系血族の全員が相続放棄している場合、次に相続人となるのは被相続人の兄弟姉妹です。

そして、兄弟姉妹が相続放棄する場合は、上記の共通して必要な書類の他、以下の書類が必要となります。

必要書類 書類の詳細 取得先
被相続人の出生時から死亡時までの戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 被相続人に子や孫、親や祖父母がいないことを確認するため、出生から死亡までのすべての戸籍謄本を提出します。 被相続人の本籍地の役所で取得できます。転居や結婚で本籍地が変わっている場合は、それぞれの役所から必要な戸籍を取得する必要があります。もし被相続人の過去の住所が不明な場合は、最新の戸籍から過去の住所をたどることになります。
<子や孫が既に死亡している場合>被相続人の子と孫の出生から死亡までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 他に相続人となる人がいないことを確認するため、被相続人の子と孫の生涯にわたる戸籍記録を集める必要があります。 子と孫の本籍地にある役所で取得できます。転居や結婚で本籍地が変わっている場合は、複数の役所から戸籍を取得する必要があります。
被相続人の親の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 親や祖父母に相続権がないことを証明します。通常、親の生年月日から祖父母が亡くなっていることが明らかであれば、祖父母の戸籍謄本は不要です。 被相続人の親の本籍地の役所で取得できます。

(2)甥や姪による相続放棄の必要書類

被相続人の兄弟姉妹が相続人になる場合で、被相続人が亡くなる前に既に兄弟姉妹が亡くなっていた場合、甥や姪が相続人としての地位を引き継ぎます。

甥や姪が相続放棄をする場合は、上記(1)兄弟姉妹による相続放棄の必要書類に加え、下記書類が必要となります。

必要書類 書類の詳細 取得先
被相続人の兄弟姉妹の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 兄弟姉妹に相続権がないことを証明します。 兄弟姉妹の本籍地の役所で取得できます。

なお、甥や姪も亡くなっている場合に、甥や姪の子が相続人となることはありません。相続人とするには、被相続人との関わりが薄いと考えられているからです。

相続放棄の必要書類【子供・配偶者】

(1)子供や配偶者による相続放棄の必要書類

被相続人の配偶者や子が相続放棄する場合は、上記の共通の必要書類に加えて、下記の書類が必要となります。

なお、配偶者や子が被相続人と同じ戸籍に記載されている場合は、「申述人の戸籍謄本」を用意すれば足りることが一般的です。

必要書類 書籍の詳細 取得先
被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 被相続人の死亡が記載されている戸籍謄本です。除籍とは、戸籍から個人が削除された記録のことで、改製原戸籍とは、戸籍が新しく作られた際の以前の戸籍のことを指します。 被相続人の本籍地の役所で取得できます。郵送での取得も可能です。
※死亡届の受理後1週間程度で戸籍に死亡の旨が記載されます。

(2)孫による相続放棄の必要書類

被相続人に子供がいたが、被相続人が亡くなる前にその子供が既に亡くなっていた場合、被相続人の孫が相続人としての地位を引き継ぎます(代襲相続)。

被相続人の孫が相続放棄をする際は、まず自分の親である「被相続人の子供(被代襲者)」が亡くなったことを証明する必要があります。そのため、「被代襲者の死亡が記された戸籍謄本」の提出が必要です。

したがって、被相続人の孫が相続放棄する場合は、上記の共通の必要書類に加えて、下記の書類が必要となります。

必要書類 書類の詳細 取得先
被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 被相続人の死亡が記載されている戸籍謄本です。除籍とは、戸籍から個人が削除された記録のことで、改製原戸籍とは、戸籍が新しく作られた際の以前の戸籍のことを指します。 被相続人の本籍地の役所で取得できます。
※死亡届の受理後1週間程度で戸籍に死亡の旨が記載されます。
被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 申述人が孫など代襲相続人の場合に必要です。本来の相続人(被相続人の子)の死亡が記載された戸籍の謄本を指し、除籍や改製原戸籍が含まれます。代襲相続により自分が相続人となったことを証明します。

被代襲者(被相続人の子)の本籍地の役所で取得可能です。

※死亡届の受理後1週間程度で戸籍に死亡の旨が記載されます。

(3)親や祖父母による相続放棄の必要書類

被相続人に子や孫がいない、または子や孫も相続放棄している場合は、次に相続人となるのは被相続人の親です。もし親も亡くなっていれば、生存している祖父母が相続人となります。

親や祖父母が相続放棄をする場合は、上記の共通の必要書類の他、他に相続人がいないことを示すために、被相続人の生まれてから亡くなるまでの全戸籍を集める必要があります。

また、「子や孫が亡くなっているケース」と「被相続人の親が死亡しているケース」では、さらに以下の書類が必要となります。

必要書類 書類の詳細 取得先
被相続人の出生時から死亡時までの戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 被相続人に子や孫がいないことを確認するため、出生から死亡までのすべての戸籍謄本を提出します。 被相続人の本籍地の役所で取得できます。転居や結婚で本籍地が変わっている場合は、それぞれの役所から必要な戸籍を取得する必要があります。もし被相続人の過去の住所が不明な場合は、最新の戸籍から過去の住所をたどることになります。
<子や孫が既に死亡している場合>
被相続人の子と孫の出生時から死亡時までの戸籍謄本
他に相続人となる人がいないことを確認するため、被相続人の子と孫の生涯にわたる戸籍記録を集める必要があります。 子と孫の本籍地にある役所で取得できます。転居や結婚で本籍地が変わっている場合は、複数の役所から戸籍を取得する必要があります。
<親が既に死亡している場合>
被相続人の親の死亡の記載のある戸籍謄本
親の死亡が記載された戸籍謄本を提出することで、親の相続権がないことを証明します。 被相続人の親の本籍地の役所で取得できます。

 

相続放棄の必要書類に関するQ&A

Q1.被相続人の兄弟が相続放棄する場合の必要書類は何ですか?

A:被相続人の兄弟が相続放棄をする場合、以下の書類が必要です。

  • 相続放棄申述書
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 申述人(相続放棄をする人)の戸籍謄本
  • 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • 被相続人の子と孫が亡くなっている場合、その子と孫の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • 被相続人の親や祖父母の死亡の記載がある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

Q2.生前に相続放棄の必要書類を準備しておくことは可能ですか?

A:相続放棄の手続き自体は被相続人の死亡後でなければできませんが、書類を準備しておくことには問題ありません。死亡後に速やかに手続きできるよう、事前に必要になりそうな戸籍の範囲を確認し、自分や家族の戸籍を取り寄せておくと良いでしょう。
相続放棄には「死亡を知ってから3か月以内」という厳格な期限があるため、事前に準備を進めておくことは重要です。

Q3.他の相続人がすでに相続放棄を行っている場合、同じ書類を再度提出する必要はありますか?

A:同じ被相続人に関して他の相続人が既に相続放棄の手続きをしている場合、その手続きで提出された戸籍謄本などは再提出の必要がありません。ただし、相続放棄申述書は個人ごとに提出する必要があります。

まとめ

本記事でご説明させていただきました通り、相続放棄を行う場合は、被相続人の死亡を知った日から3か月以内に、相続放棄申述書や戸籍謄本などの必要書類を準備し、提出する必要があります。

被相続人との続柄によっては、取得する戸籍謄本等の数が非常に多くなることもあるでしょう。

必要書類の収集に不安がある方や、相続放棄の期限が迫っていて必要書類が集められそうにない場合には、法律の専門家である弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。

当法律事務所では、弁護士による法律相談を初回無料で行っておりますので、ぜひお気軽にお問合せください。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。