親の借金は相続放棄で回避できる?代わりに誰が払う?他の親戚を追ってくる!
親が亡くなった後に突然明らかになる親の借金。多くの人にとって想定外の状況ですが、現実にはこれが原因で深刻な悩みを抱えることも少なくありません。では、亡き親の借金を背負いたくない場合、どう対処すればよいのでしょうか?「相続放棄」という選択肢があります。相続放棄をすると、亡くなった親の財産だけでなく、借金からも手を引くことができる法的な手段です。
しかし、相続放棄を選択した場合、親の借金が消滅するわけではありません。親の借金は他の相続人に移行することになります。
この記事では、相続放棄を行った際の具体的な流れ、注意すべきポイント、そして他の親戚が借金を負うリスクをどのように回避できるかについて詳しく解説していきます。
目次
親の借金は相続放棄をしたら返済義務はなくなる!
親の借金は相続放棄で回避できます。相続放棄とは、被相続人の遺産をすべて放棄する手続きです。相続放棄をすれば、借金を含むすべての債務を相続する必要がなくなり、プラスの財産も受け取れなくなります。
通常は親の借金があると子供に返済義務はない
原則として、子どもには親が残した借金を返済する義務はありません。これは、借金が債権者と債務者間の契約に基づくものであるためです。
ただし、子どもが親の保証人や連帯保証人になっている場合は親と同様に返済義務があります。そのような特別な状況を除いて、子どもは親の借金について法的な返済義務を負うことはないのです。
ただし、親が死んだら子供が返済義務を負う
親からの遺産を相続する際は、資産だけでなく負債も引き継ぐことが一般的です。これには親の借金も含まれ、法定相続分に基づいて子どもたちに分配されます。したがって、子どもたちは親の借金の返済義務も負うことになります。
全ての遺産を一人の相続人が引き継ぐといった遺産分割協議があったとしても、債権者に対してはその協議の効力が認められないため、親の借金の相続を回避することはできません。
親が離婚後に別居していた場合でも、相続の原則は変わりません。親が亡くなった時に住宅ローンが残っている場合でも、通常は相続の対象となります。しかし、多くの住宅ローンには団体信用生命保険(団信)が付帯しており、保険が適用されると親の死亡時に残債は消滅するため、子どもがその返済義務を負うことはありません。
親の借金の返済義務は相続放棄で回避できる
親の借金などの負債は、原則として、相続放棄をすると返済義務を回避できます。
ただし、相続放棄すると、親のマイナスの財産だけではなくプラスの財産も放棄しなければなりません。そのため、本当に負債の方が大きいのか、本当に相続放棄をして良いのか、慎重に確かめる必要があります。
相続放棄によって支払い義務が免除される借金(負債)は、被相続人名義の金融機関からの借入、各種ローン、滞納していた税金や社会保険料、負っていた損害賠償金、そして被相続人の事業に関連する借金(買掛金や未払金など)を含みます。これらの負債は相続対象となり、親から子へ自動的に引き継がれるものです。
具体的には、ローン、消費者金融やカードローンからの借金、滞納税、滞納家賃、滞納健康保険料、損害賠償債務、事業に基づく買掛金や未払いのリース料などがこれに該当します。
相続放棄しても借金は消えずに親戚中を追ってくる
親の借金はどこまで追ってくる?
相続放棄を行っても、亡くなった人の借金が消滅するわけではありません。借金はそのまま残り、相続放棄した人の代わりに次の順位の相続人がその返済義務を引き継ぐことになります。つまり、相続放棄をすることで自身は借金から解放されるかもしれませんが、その責任は家族や親族など他の相続人に移るため、彼らが債権者からの取り立てを受けることになります。
このため、相続放棄の決定は、自分だけでなく他の関係者にも大きな影響を与える重要な選択であることを理解し、慎重に行う必要があります。
親の借金は誰が払う?
親の借金が誰が払うのかについて、例を挙げて具体的に説明します。
父親に子供が2人いた場合、一人が相続放棄をすると、残ったもう一人の子供が全て父親の遺産を相続することになり、相続権が他の人に移ることはありません。しかし、子供が2人とも相続放棄をした場合は、相続人としての第一順位が存在しなくなるため、法律に定められた次の順位、つまり父親の親や祖父母などの直系尊属が相続人となります。この直系尊属もすでに亡くなっているか、全員が相続放棄をしている場合には、次に父親の兄弟姉妹やその子どもである甥・姪が相続人としての権利を持ちます。
このように、相続放棄によって借金が消えるわけではなく、家族内で相続人が変わるだけで、借金の責任は家族内で引き継がれていくことになります。
特に、子供が相続放棄した事実を他の親族に伝えていない場合、彼らは予期せぬ借金の負担に直面し、感情的な反発や困惑を引き起こすことが少なくありません。
そのため、子供が相続放棄を決定する際は、次に相続人となる家族に事前にこの情報を伝え、彼らが突然の借金返済の要求に直面することなく、適切に対応できるように準備を促すことが重要です。これにより、家族間のトラブルを避け、スムーズな相続手続きを支援することができます。
全員が相続放棄したら連帯保証人が返済義務を負う
相続人が全員相続放棄を選択した場合、その後の借金の責任は連帯保証人に移ります。例えば、もし子どもが亡くなった父親の借金の連帯保証人になっていた場合、子どもが相続放棄をしても、父親の借金に対する返済義務は消えません。これは、相続放棄が連帯保証人の義務を解消する効果は持たないためです。
最終的には相続財産管理人がプラスの財産から借金を返済する
相続人全員が相続放棄をした場合、また連帯保証人がいないか返済不能で自己破産している場合には、「相続財産管理人」が選出されることがあります。この管理人は、主に債権者の申し立てにより家庭裁判所によって指名されることが多く、多くの場合は弁護士がこの役割を務めます。
相続財産管理人の主な仕事は、被相続人の残した財産を詳細に調査し、プラスの財産(現金、不動産、株式など)があれば、これを換金することです。換金した資金は債権者への返済に使用され、借金の一部または全てが返済されます。
債権者への返済後に余剰財産が残る場合は、特定の手続きを経て、その財産は国に帰属します。
親戚に親の借金を知られたくない場合は限定承認を│プラスの財産の範囲で負債を相続
親戚に親の借金を知られたくない場合、相続放棄ではなく「限定承認」という手続きを選択することが有効です。限定承認は、相続財産のうちプラスの部分だけを使用して借金を返済する方法で、残った負債については相続人の自己財産から支払う必要がありません。
また、限定承認を選択する最大の利点は、相続権が次の順位の相続人に移ることがないため、親の借金が親戚間で広まることがない点です。これにより、家族のプライバシーを守りつつ、法的な責任からも適切に保護することが可能です。
ただし、限定承認は手続きが複雑で時間がかかる可能性があるため、事前に法的なアドバイスを受け、準備をしっかりと行うことが重要です。相続放棄と限定承認のメリットとデメリットを十分に検討し、どちらが最も適切な選択肢であるかを判断することが望ましいでしょう。
親の借金を相続放棄できないケース
単純承認したとみなされた場合
相続人が相続財産を何らかの形で使用または処分した場合、法律により単純承認したとみなされることがあります。このような状況を「法定単純承認」と言います。ただし、被相続人の葬儀代を支払った場合など、一部の例外的な状況では、それでも相続放棄が可能です。
単純承認と見なされる可能性がある具体的な行為には、以下のようなものが含まれます。
- 相続財産の使用や譲渡、たとえば、遺産の売却や贈与。
- 被相続人の預貯金の払い戻しや解約。
- 経済的価値を持つ遺品の持ち帰り。
- 遺産分割協議に参加すること。
- 不動産や車、携帯電話などの名義変更。
- 遺産に担保権を設定する行為。
- 相続財産である実家の改築やリフォーム。
- 被相続人宛ての請求書の支払い。
これらの行為を行うと、相続人が相続を受け入れたと見なされるため、後に相続放棄をすることはできなくなります。そのため、相続の意向が未定の場合は、これらの行為を慎重に考慮する必要があります。
期限(熟慮期間)を過ぎた場合
相続人は、相続が開始したことを知った時から「3カ月以内」に相続放棄や限定承認を行う必要があります。この3カ月の期間は「熟慮期間」と呼ばれ、この時間を使って相続人は遺産の状況を考慮し、自分の選択を決定します。もしこの期間内に何も行動を起こさずに時が経過すると、法律上は単純承認したものとみなされ、自動的に相続が成立します。
ただし、遺産の内容を正確に調査するのが難しい場合など、特別な事情がある時は、この3カ月の期間を延長することが可能です。そのためには、家庭裁判所に期間延長の申立てを行う必要があります。これにより、相続人はより十分な時間を持って、相続放棄や限定承認の決定を検討することができます。
相続放棄できない場合は債務整理を
もし単純承認をしてしまい多額の親の借金を負うことになった場合、または限定承認を行ったものの借金額が想定以上に大きい場合、債務整理を通じて借金返済の負担を軽減することが可能です。債務整理は、法的な手続きを利用して借金問題を解決する方法であり、主に以下の三つの方法があります。
- 任意整理:任意整理は、債務者が債権者と直接交渉を行い、借金の利息をカットしたり、返済計画を見直したりして、月々の返済額を減額する方法です。この手続きでは、債務者の資産を手放す必要はなく、またクレジットヒストリーに破産と記録されることもありません。
- 個人再生: 個人再生は、裁判所を通じて行われる手続きで、債務総額を大幅に減額し、残りの借金を3〜5年の間で分割返済する計画を立てます。この方法は、住宅ローンなど一部の借金を除き、多くの借金を対象にすることができ、特に住宅を維持しながら借金を減額したい人に適しています。
- 自己破産: 自己破産は、他の債務整理方法で解決が困難な場合に選択される最終手段です。この手続きを行うと、裁判所の判断により、免責が認められればほとんどの借金から解放されますが、一定の資産を手放すことが必要になり、クレジットヒストリーにも大きな影響があります。
これらの債務整理方法は、個々の借金の状況や生活環境、将来の計画に応じて適切に選択することが重要です。弁護士と相談することで、最適な解決策を見つけることができるでしょう。
親の借金を相続放棄する際のメリットとデメリット
親の借金を相続放棄するメリット
被相続人の負債を引き継がずに済む
相続放棄をすることで、親の借金やその他の負債を一切引き継ぐ必要がなくなります。これにより、負債の返済に関わる金銭的な負担や、それに伴う精神的ストレスから自由になることができます。
相続トラブルに巻き込まれない
相続はしばしば複雑で感情的な問題を引き起こすことがあります。特に複数の相続人がいる場合、遺産の分配を巡って争いが発生することがあります。相続放棄を行うと、そのような遺産分割の手続きやトラブルから距離を置くことができ、関連するストレスや対人関係の悪化を避けることが可能です。
親の借金を相続放棄するデメリット
プラスの遺産も相続できなくなる
相続放棄をすると、親の借金や負債だけでなく、プラスの財産も全て放棄することになります。つまり、亡くなった人が持っていた預金、不動産、株式などの資産も一切受け取ることができなくなります。これにより、貴重な資産を失う可能性があり、経済的な機会を逸することにもなりかねません。
一度相続放棄すると撤回できない
相続放棄は最終的な決定であり、一旦行った後にはこれを撤回することはできません。したがって、相続放棄の決定は非常に慎重に行う必要があります。状況が変わったり、新たな情報が得られたりしても、一度放棄した相続は再び受け入れることは不可能です。
相続トラブルになる可能性がある
相続放棄を行うと、その人の相続権は消滅し、次順位の相続人に移行します。特に、相続放棄を検討している人が事前に他の相続人に対して説明や相談を行わなかった場合、突然次順位の相続人が借金などの負債を背負うことになる可能性があります。
相続放棄した事実は家庭裁判所から次順位の相続人に通知されることがなく、相続放棄をした人にもその旨を伝える義務がありません。このため、次順位の相続人は債権者からの取り立てが始まるまで自分が借金を相続していることを知らされず、突然の事実に困惑したりパニックに陥ることがあります。これにより、精神的なストレスや財政的な負担が予期せず発生し、家族間の関係にも悪影響を及ぼすことがあります。
相続放棄のデメリットについて、詳しくは下記記事を参照してください。
親の借金を相続放棄する前に注意すべきこと
借金の時効が成立していないか
親が過去に借金をしていた場合でも、その借金の返済が長年行われておらず、法的な時効が完成している場合があります。この時効が成立していれば、相続人は時効の援用を行うことで借金の支払い義務から免れることが可能です。時効の援用とは、時効が成立していることを理由に借金の支払いを拒否する法的な手続きを指します。
借金の消滅時効は、借金の種類やいつ借りたかによって異なります。具体的な時効期間は以下の表の通りです。
借金の時点 |
借入先 |
時効期間 |
---|---|---|
2020年4月1日以前 |
個人 |
貸主が権利を行使できる時から10年 |
2020年4月1日以前 |
金融機関 |
貸主が権利を行使できる時から5年 |
2020年4月1日以降 |
すべての貸主 |
貸主が権利を行使することを知った時から5年 (または権利を行使できる時から10年のうちの早い方) |
このように、時効の成立期間は状況によって異なるため、相続人は親の借金の詳細を正確に把握し、時効が適用されるかどうかを慎重に判断する必要があります。時効が成立している場合は、その旨を裁判所や債権者に対して明確に主張し、不要な負担から解放されるための手続きを進めることが大切です。借金に関して不明点がある場合や時効の援用を検討する場合は、弁護士のアドバイスを求めることをおすすめします。
過払い金が発生していないか
親が消費者金融などから借金をしていた場合、長年にわたる借入れと返済の繰り返しによって意外な「過払い金」が発生している可能性があります。過払い金とは、利息制限法に基づく法定利率を超えて支払われた利息のことで、借入れ期間が長かったり、高金利での借入れがあった場合に特に発生しやすいです。
過払い金が存在する場合、相続放棄を行うと、その過払い金を回収する権利も放棄することになるため、経済的に損をする可能性があります。そのため、相続の手続きを進める前に、過払い金が存在しないかどうかを確認することが重要です。
過払い金が発生しているかどうかを判断するためには、以下の2点をチェックすると良いでしょう。
- 借入れ開始日: 2010年6月17日以前に開始された借入れは、特に過払い金が発生している可能性が高いです。この日付は、利息制限法と出資法の間のグレーゾーン金利を巡る法的な規制が強化されたため、それ以前の借入れでは過払いが発生しやすいとされています。
- 最後の返済日: 最後に返済を行った日から10年以内であれば、過払い金の請求が可能です。この期間を超えると、過払い金を請求する権利が時効により消滅してしまいます。
これらの点から、親の借金の詳細を調査し、過払い金が存在するかどうかを専門家と共に確認することをお勧めします。過払い金が発見されれば、それを回収することで相続した借金の負担を減らすことができるため、単純承認の選択が経済的に有利になる場合もあります。
親の借金を相続放棄する手続きの流れ
相続放棄をする際には、一連の手続きを適切に行うことが求められます。以下は、相続放棄の手続きの流れです。
- 遺産の調査
- 相続の方法を決める
- 家庭裁判所に「相続放棄の申述」をする
- 照会書へ回答し返送
- 「相続放棄申述受理通知書」の受領
- 他の相続人への通知
特に重要なのは、相続を知った日から3ヶ月以内に上記の手続きを完了させる必要がある点です。この期間内に手続きを完了できない場合は、期間の伸長を申し立てることが必要になります。
手続きを自分で行う場合の費用は、大体3,000円から5,000円程度ですが、財産調査など複雑な作業が伴うため、弁護士に依頼することも一つの選択肢です。このように相続放棄は、慎重かつ計画的に進めるべき手続きであり、詳細な説明をこれから行います。
親の遺産を調査する
被相続人が亡くなった際は、早急に財産の調査を行うことが重要です。これは、親の借金だけでなく、予期しないプラスの資産が存在する可能性もあるためです。借金の有無を調べるには、返済の督促状や被相続人名義の銀行口座からの引き落とし履歴を確認する方法があります。
督促状は、返済が遅れている場合に発行されるため、被相続人の死後に届くこともあります。さらに、金銭消費貸借証書を確認することで、借金の詳細な内容や、故人が保証人になっていないかどうかも把握することができます。この証書は、債権者、債務者、そして保証人の間で交わされる重要な書類です。
このように、相続人は被相続人の死後すぐに財産を精査し、不明な借金がないか、あるいは見落としている資産がないかを確認することが求められます。
相続の方法を決める
財産調査の結果をもとに、どの相続方法を選択するかを慎重に検討することが重要です。選択肢は主に以下の三つです。
- 単純承認: これは、故人が残したプラスの財産(例えば、不動産や現金)とマイナスの財産(例えば、借金)の両方を相続する方法です。
- 限定承認: この方法では、故人の残した資産と負債を差し引いて、最終的にプラスになる場合のみ相続を行います。つまり、負債が資産を上回る場合は、その超過部分の負担はありません。ただし、限定承認を行う場合は、相続人全員がこの方法を選択し、「限定承認の申述」を家庭裁判所に提出する必要があります。
- 相続放棄: 相続放棄を選択すると、負債だけでなく、すべての資産から手を引くことになります。
家庭裁判所に相続放棄の申述をする
相続放棄を行う際には、主に以下の2つの書類が必要です。
- 相続放棄申述書: この書類は、相続放棄を正式に申し立てるために使用されます。相続人と被相続人の詳細な個人情報、相続放棄をする理由などが記載されます。この書類は最寄りの家庭裁判所から入手することができ、裁判所のホームページからもダウンロード可能です。
- 戸籍関係の書類:
・被相続人の住民票または戸籍の附票
・被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本または除籍謄本
・申述人の戸籍謄本
被相続人との法的な関係を証明するために必要です。これには、被相続人の戸籍謄本や相続人の戸籍抄本など、具体的な必要書類がケースによって異なるため、事前にどの書類が必要かをホームページなどで確認することが重要です。
書類が整ったら、次に必要な手続きを進めます。相続放棄の申請には、収入印紙800円分の手数料が必要です。また、家庭裁判所からの連絡用に郵便切手も準備し、金額は手続きを行う裁判所によって異なるので事前に確認が必要です。
これらの書類と手数料を添えて、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。相続人自身の住所地の裁判所や、他の任意の裁判所を選ぶことはできません。
相続放棄の申述には3ヶ月の期限がある
相続放棄を行う際には、相続開始を知った日から3カ月以内に申し立てをする必要があります。この期間内にすべての財産を調査し、必要な手続きを完了させることが求められますが、これが自力で行うには困難な場合もあります。特に、財産の状況が複雑であったり、法的な知識が必要な場合には、相続に精通した弁護士に支援を依頼することをお勧めします。
照会書へ回答し返送する
相続放棄の申述を行うと、手続きの一環として家庭裁判所から「相続放棄の照会書」が送付されます。この照会書は、申述人が相続放棄の意思を本当に持っているかどうかを確認する目的で用いられます。受け取った照会書には必要事項を記入し、指定された期限内に家庭裁判所へ返送する必要があります。
家庭裁判所は、返送された照会書の内容を基にして、申述人の相続放棄の意思が明確であるかを検討し、その結果に基づき相続放棄の申述を正式に受理するかどうかを判断します。
「相続放棄申述受理通知書」を受け取る
家庭裁判所から相続放棄の申述が受理されると、申述人に「相続放棄申述受理通知書」が送付されます。しかし、この通知書の発行によって裁判所が債権者(貸主)に相続放棄の事実を伝えるわけではありません。そのため、親が残した借金に関して債権者から支払いの請求が来た場合は、自らこの通知書を提示して支払いを拒否する必要があります。
また、相続放棄申述受理通知書は申述人一人につき一通のみ発行され、紛失した場合には再発行はされませんので、大切に保管することが重要です。もし正式な証明が必要になった場合は、「相続放棄申述受理証明書」を手数料を支払って発行してもらうことができます。
親の借金の相続放棄を検討する際に注意すべきこと
親から生前贈与を受けていても相続放棄できる
生前に受けた贈与があっても、相続放棄を行うことは可能です。生前贈与と相続放棄は別の法的枠組みに基づいており、一方が他方に直接影響を及ぼすことはありません。
ただし、生前贈与で「相続時精算課税制度」を利用していた場合、相続放棄をしても相続税の支払いから完全に免れるわけではありません。この制度は、60歳以上の親や祖父母から18歳以上の子や孫への贈与について、最大2500万円までの贈与税を免除するものです。そして、相続が発生した際には、生前に贈与された財産とその他の相続財産を合わせて評価し、その総額に基づいて相続税が計算されます。
そのため、生前贈与を受けた場合でも相続放棄を行うと、その後の相続税の評価から生前に受けた贈与分が除外されることはなく、相続放棄後も相続税の負担が発生する可能性があることを理解しておく必要があります。
生命保険金は受け取ることができる
相続放棄を行うと、通常は被相続人の財産全体を受け取ることができなくなりますが、特定の収入については例外があります。具体的には、死亡保険金、死亡退職金、個人年金などがこれに該当します。これらは直接指名された受取人に支払われるため、「受取人固有の財産」とみなされ、相続財産とは扱われません。そのため、相続放棄をしてもこれらの金額を受け取ることが可能です。
しかし、これらの収入は相続財産ではないものの、「みなし相続財産」として扱われる場合があり、その結果、相続税の計算には含まれることに注意が必要です。
他の相続人に連絡を
相続放棄を考えている場合、その決定を次順位の相続人にも事前に伝えることが重要です。これは、相続放棄が行われた場合、自動的に次順位の相続人に相続の権利が移行し、債権者から直接請求が来る可能性があるためです。特に、普段から交流が少ない次順位の相続人に対しては、突然の請求による混乱を避けるために、慎重な説明が求められます。
このような状況で弁護士を通じて連絡を行うと、情報が正確に伝えられるだけでなく、相続人も内容を理解しやすく、納得して受け入れることが容易になるため、スムーズな相続手続きが期待できます。相続放棄の意向を周囲に適切に伝えることで、法的なトラブルや個人間の誤解を未然に防ぐことが可能です。
親の借金の相続放棄に関するQ&A
Q:親が亡くなったが、借金があるかどうかわからない。どのようにして借金の有無を確認できますか?
A:親の借金があるかどうかを調べるには以下のような方法があります。
- 故人の郵便物や銀行の通帳をチェックして、定期的な引き落としや督促の通知がないかを確認します。
- デジタル化された記録の確認:オンラインバンキングやアプリを利用していた場合は、そこから取引履歴を見ることができます。
- 信用情報機関に問い合わせ:明確な情報が見つからない場合は、信用情報機関に情報開示を依頼し、故人の金融機関からの借入れ情報を確認します。
もし借金が発覚した場合、未知の負債リスクを避けるために相続放棄や限定承認の手続きを検討することも一つの選択肢です。
Q:親が離婚していたり、絶縁状態であったりしても、借金の相続放棄は必要ですか?
A:はい、必要です。親が離婚していたり、戸籍を分籍していたり、または他の人の養子になっていても、親と子の法律上の関係は継続します。法律上、親と子どもの関係を完全に消滅させる手段は現在存在しないため、親からの借金の相続は自動的に発生します。もし親からの借金を相続したくない場合は、相続が開始されたことを知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述を行う必要があります。親との関係がどのような状態であっても、この手続きは避けられません。
Q:もし相続人全員が相続放棄をした場合、残された借金や財産はどうなるのですか?
A:相続人全員が相続放棄をした場合、残された借金や財産は自動的に国庫に帰属するわけではありません。初めに、財産は管理される必要があります。この段階で、家庭裁判所は相続財産管理人を選任することが多く、この管理人が残された財産の管理や清算を行います。
財産がプラスの場合、管理人はその資産を利用してまず借金を弁済します。被相続人が連帯保証人であった場合、その返済義務も引き続き存在します。借金がすべて清算された後に残った財産があれば、それは最終的に国庫に帰属します。
Q:親の借金を相続放棄をした場合、その借金は誰が払う?
A:親の借金について相続放棄を行っても、親の借金が消滅するわけではありません。相続放棄を行った借金は、次の順位の相続人に移行し、彼らに対して請求が行われます。もし、全ての相続人が相続放棄をした場合、借金の連帯保証人が存在するなら、連帯保証人が借金の返済義務を負います。被相続人の子供が連帯保証人だった場合、子供が相続放棄をしても連帯保証人としての義務は残るため、借金を返済しなければなりません。
もし相続人が誰もいない場合や全員が相続放棄をした場合、残された財産は借金の返済に使われ、もし余剰があれば、それは国庫に帰属します。ただし、財産が国のものになるまでには複数の法的手続きが必要であり、すぐに国のものになるわけではありません。
まとめ
親が亡くなると、その財産だけでなく借金も相続の対象となります。突然、多額の借金を背負うことになるかもしれませんが、相続放棄を行うことでこれを回避する方法があります。
ただし、相続放棄には相続開始を知った日から3カ月以内に手続きを完了させる必要があるため、迅速な行動が求められます。相続が発生したらすぐに財産状況を把握し、相続放棄や限定承認といった選択肢を検討することが重要です。
手続きの複雑さや期限の厳しさから、弁護士に相談することも有効です。親の借金問題に直面した場合、適切な法的支援を受けて賢明な決断を下しましょう。
この記事を書いた人
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。