単純承認|相続における単純承認とは?限定承認・相続放棄との違いも解説

相続放棄

更新日 2025.07.22

投稿日 2024.02.09

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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相続人になった際、分配される財産が預貯金や不動産などプラスの財産だけであれば、特段問題は生じないかもしれません。

ですが、相続財産には負債や借金といったマイナスの財産が含まれることがあります。こうした場合に、「借金は相続したくない」と考えるのであれば、注意が必要です。

相続する方法には「単純承認」、「限定承認」、「相続放棄」という3つの方法があります。このうち、本記事で解説する「単純承認」は、被相続人の財産について、負債や借金も含め全てを引き継ぐ方法です。

単純承認は特別な手続きがないため、例えば「遺産分割についての話し合いを始める」というだけでも単純承認をしたとみなされてしまう場合があります。そうすると、被相続人のプラス・マイナス両方の財産を受け継ぐ意思があるとみなされてしまい、結果的に借金や負債も相続しなければならなくなってしまいかねません。

この記事では、上記の3つの相続方法の違いを明確にした上で、単純承認とみなされる行為について、弁護士が詳しく解説させていただきます。

目次

単純承認

単純承認とは、故人の財産をそのまま受け継ぐことを意味しますが、そこには思わぬ落とし穴も潜んでいます。たとえば、プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産まで引き継ぐことになる可能性もあるのです。しかも、明確な意思表示がなくても「単純承認とみなされる」ケースもあり、後で気づいても取り返しがつかない場合もあります。

このコラムでは、単純承認とはどういった相続方法か、単純承認とみなされる行為には何があるのかについて解説していきます。

それでは、単純承認について見ていきましょう。

単純承認とは

単純承認は、被相続人が残した相続財産をその全てを無条件で相続するという相続方法です。被相続人のプラスの財産だけでなく、借金や連帯保証債務などのマイナスの財産も含め、全ての財産を引き継ぐことになります。

被相続人の相続財産の全体が明確で、借金などの負債がなかったり、あっても少なかったりする場合には、単純承認の方法で遺産分割されることが一般的です。

単純承認の期限

単純承認する際には、期限に注意しましょう。

相続開始を知った日から3か月間は、「熟慮期間」として、相続の方法を選ぶための時間が設けられています(民法第915条)。

(相続の承認又は放棄をすべき期間)
民法第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

「相続開始を知った日」とは、通常は相続人が被相続人が亡くなったという事実を初めて知った時点です。当初は相続人ではなく、先順位の相続人が相続放棄したことによって相続人となった場合は、その先順位者の相続放棄を知った時点となります。
この期間内に、単純承認するか、あるいは他の相続方法を選ぶかを決める必要があります。

単純承認するか決めかねているうちに3か月経ってしまうと、単純承認したことになってしまう場合があるため、気を付けてください。

なお、どうしても熟慮期間が3か月では足りない場合は、家庭裁判所へ申請することによって、延長することができます。

単純承認の手続き

さて、単純承認の手続きはどのようにするのかというと、実は単純承認は特別な手続きを必要としません。

これこそが、単純承認の最大のメリットでもあります。

相続人が被相続人の死亡を知ってから特に何もしなければ、自動的に単純承認したとされるため、迅速かつ手間なく相続が完了します。

ですが、こうしたメリットの一方、「被相続人の負債を全て引き継ぐことになる」というデメリットもあります。

単純承認をすると、被相続人が残した全ての財産がそのまま引き継がれます。つまり、プラスの財産だけでなく、借金や負債といったマイナスの財産も受け継ぐことになるわけです。

マイナス財産がプラス財産を上回る場合、相続人自身が残った借金を負うことにります。そのため、被相続人の財産の全体像をしっかり把握し、プラスの財産とマイナスの財産を総合的に考慮することが大切です。

また、相続開始から3か月が経過すると、相続放棄や限定承認はできなくなってしまいます。もし単純承認すべきか迷った場合は、期限内に早めに弁護士にご相談いただくことをお勧めします。

単純承認・限定承認・相続放棄の違い

ところで、相続方法には「単純承認」のほかに、「限定承認」と「相続放棄」という2つのやり方があります。単純承認とこの2つの相続方法には、どのような違いがあるのでしょうか。

単純承認と限定承認との違い

限定承認とは、相続人が被相続人から引き継ぐプラスの財産の範囲内でのみ、マイナスの財産を引き継ぐことです。限定承認の場合、相続人は被相続人の財産を受け取る際、財産の総額以上の債務を負うリスクがなくなります。

例えば、被相続人が1,000万円の財産と3,000万円の借金を残していた場合に限定承認を選ぶと、相続人は1,000万円までの借金を負うことになりますが、残る2,000万円の借金については支払う必要がなくなるのです。債権者も、1,000万円を超える分に関しては相続人に弁済を求めることができません。

限定承認を行うには、家庭裁判所への申述手続きが必要です。これは、相続人が財産と債務の全体像を把握し、財産の範囲内でのみ債務を負うことを正式に申し立てる手続きです。

また、相続人が複数いる場合には、全員が限定承認に同意しなければなりません。一人でも反対する相続人がいると、限定承認は行えないので注意してください。

限定承認後の債務の精算手続きは比較的複雑なため、限定承認はあまり一般的ではないのが実情ですが、被相続人の負債が財産を大きく上回っているケースでは、限定承認が最適な選択肢となることもあるため覚えておきましょう。

単純承認と相続放棄との違い

相続放棄とは、相続人が被相続人からのマイナスの財産のみならず、プラスの財産も含めて全ての財産を引き継がない選択をすることです。

例えば、被相続人が1,000万円の財産と3,000万円の借金を残した場合、相続人が相続放棄を選べば、1,000万円の財産を受け取る権利を放棄すると同時に、3,000万円の借金を支払う責任からも免れることができます。

相続放棄を行うには、限定承認と同じく家庭裁判所への申述手続きが必要です。

なお、相続人が複数いる場合でも、相続放棄をするのは単独で行うことが可能です。他の相続人の合意を得る必要はなく、個々の相続人が自分の状況に応じて自由に相続放棄することができます。

限定承認との違い

単純承認とみなされる行為(法定単純承認)

それでは、どういった行為が「単純承認」に当たるのでしょうか。この点に関しては、民法第921条に「法定単純承認」として、どういった行為が単純承認とみなされるのかが定められています。

(法定単純承認)
民法第921条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

法定単純承認とは、相続人が特定の行為をすることで、自動的に相続を単純承認したものとみなされる制度です。

具体的には、相続開始を知ってから3か月以内の「熟慮期間」において、相続人が相続放棄や限定承認の手続きを行わなかった場合、または相続財産の全部または一部を処分した場合に単純承認したとみなされます。

法定単純承認にあたる事由に該当した場合は、単純承認をしたものとみなされ、限定承認や相続放棄をすることができなくなります。

 

さて、民法第921条の法定単純承認について、具体的な行為の内容を詳しく確認しておきましょう。

①債務の弁済や遺産分割協議

ひとつめ「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき」についてですが、相続財産の全部または一部を処分する行為は、相続人が被相続人の財産を相続する意思があるとみなされ、結果として単純承認したとみなされることがあります。

この理由は、第三者保護の観点から来ています。
例えば、相続人が財産を処分したとき、第三者は「相続人は財産を自分の物のように自由に処分しているから、相続放棄や限定承認はしないだろう。」と推測するのが一般的です。相続財産を処分したにも関わらず、その後に限定承認や相続放棄ができるとなると、第三者の信頼を裏切ることにつながるため、処分行為はみなし単純承認とされるのです。

例えば、相続人が被相続人の預貯金を引き出したり、不動産を売却したり、抵当権を設定するなどの行為が単純承認したとみなされます。また、被相続人の債権を取り立てる、遺産分割協議を始めるなどの行為も、被相続人の財産を相続する意思の表れとしてみなされる可能性があります。

ただし、被相続人の預貯金を葬儀費用や仏壇・墓石の購入費に充てる行為は、その額が社会的通念上相当と認められる範囲であれば、単純承認とはみなされないことがあります。また、特定の相続人を受取人として指定された生命保険金の受領は、相続財産に含まれないため、これを受け取っても単純承認とはみなされません。
このように、相続財産の一部または全部を処分する行為には注意が必要で、特に相続財産の詳細が不明な場合や相続放棄、限定承認を検討している場合は、慎重な対応が求められます。

②限定承認または相続放棄の手続きをしなかった

続いて、「相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。」です。

民法第915条第1項とは、相続が開始したことを知った日から3か月という「熟慮期間」についての規定です。ですので、3か月の期間内に、相続人が限定承認や相続放棄の申述手続きを家庭裁判所で行わなければ、自動的に単純承認したものとみなされる、ということになります。

前述の通り、この熟慮期間については家庭裁判所に対して延長を申し出ることが可能です。ただし、この延長の申し出手続きも熟慮期間内に行う必要があるため、早めの行動が重要になります。

限定承認や相続放棄の手続きを専門家に依頼する場合は、相談や手続きに時間がかかることを考慮し、できるだけ早く相談することをお勧めいたします。

③相続人による背信行為

3つ目が、「相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。」です。

こうした行為は、相続人による「背信行為」とみなされます。
他の相続人に対してだけでなく、被相続人の相続財産に対して弁済などの請求権を持つ債権者に対して、財産の隠匿などは信頼を裏切る行為と判断されます。限定承認や相続放棄は、基本的に債権者よりも相続人を保護する制度ですが、相続人がこのような背信行為を行った場合、その保護は及ばないことになるのです。

結果として、これらの行為を行った相続人は、単純承認したものとみなされることがあります。

そして、条文にもある通り、これは相続人が限定承認や相続放棄の手続きを行った後であっても適用されます。

単純承認にならない行為は?

相続財産に関して行う全ての行為が法定単純承認とみなされるわけではありません。一定の条件を満たせば、単純承認にはあたらないケースがあります。
例えば、葬儀費用の支払いや、相続人を受取人とした生命保険金の受領などは、単純承認に当たらない行為と考えられています。

①葬儀費用や仏壇や墓石の購入費用の支払い

葬儀費用を相続財産から支払う場合、その費用が社会通念上妥当とされる範囲であれば、法定単純承認には該当しません。この「社会通念上妥当な範囲」とは、不必要に豪華でない、一般的な葬儀の費用を指します。同様に、仏壇や墓石の購入も、必要最低限の範囲内であれば問題ありません。

しかし、相続財産と比較して多額の債務があることが明らかであるにもかかわらず、葬儀費用などを相続財産から支払った場合、債権者保護の観点から法定単純承認に該当する可能性があります。

②相続人を受取人として指定された生命保険金の受領

生命保険金は、契約者である被相続人が指定した受取人に直接支払われるものであり、通常の相続財産とは別に扱われます。

生命保険金は原則として、被相続人が死亡した際に、保険契約に基づきあらかじめ指定されている受取人に直接支払われるお金です。つまり、被相続人の遺産として分配されるのではなく、受取人に固有の財産ということになります。

特定の相続人が生命保険金の受取人として指定されている場合、その相続人が保険金を受け取っても、自身の固有の財産を受け取っているだけなので、被相続人の遺産を管理・処分する行為とはみなされません。

したがって、生命保険金の受領は法定単純承認にはあたらないのです。

しかし、被相続人を受取人とする生命保険の解約返礼金を受領した場合は、相続財産を処分する行為にあたり単純承認したとみなされるので注意が必要です。

相続放棄後の単純承認

相続放棄後に財産を処分してしまったら?

「相続放棄をしたから、もう関係ない」と思って、うっかり故人の家財道具や不動産を処分してしまった・・・というケースは意外と少なくありません。

ですが、注意が必要です。相続放棄をした後であっても、財産を処分した行為が「単純承認」とみなされ、放棄の効力を失ってしまう可能性があります。

本コラムでも前述した通り、民法では、相続人が相続財産の全部または一部を「処分」した場合、それが放棄の後であっても、単純承認したものとみなされると規定されています(民法第921条)。

例えば、遺品整理のつもりで家財を売却したり、故人の口座からお金を引き出したりすると、それが処分行為と見なされ、相続放棄の効力が否定されてしまうおそれがあるのです。

なお、例外的に「保存行為(価値を保つための行動)」や「一部の管理行為」は許されますが、こうした行為と「処分」行為との線引きは非常に難しいのが実情です。

相続放棄をした後も、安易に財産に手をつけてはいけません。処分のつもりがなくても、結果的に放棄が無効となってしまえば、借金などのマイナス財産を抱え込むリスクが生じます。不安な場合は、早めに専門家に相談し、対応を確認したうえで行動することが大切です。

単純承認に関するQ&A

Q1.単純承認とはどういう意味ですか?

A: 単純承認は、相続人が被相続人の全財産と全負債を無条件で引き継ぐことを意味します。特別な手続きは不要で、単純承認をした場合は被相続人が残した借金や負債も全て相続人が負うことになります。

Q2.単純承認を避けるためにはどんな手続きが必要ですか?

A: 単純承認を避けるには、相続開始を知った日から3か月以内に、家庭裁判所で限定承認または相続放棄の申述を行う必要があります。限定承認を選ぶと、故人の負債はプラスの財産の範囲内でのみ負担すればよく、相続放棄を選ぶとプラスの財産も負債も一切受け継がないことになります。

Q3.単純承認した後の遺産分割はどのように進めるべきですか?

A: 単純承認した後、相続人間で遺産分割協議を行い、被相続人の財産の分配方法を決定します。この協議は全相続人の合意が必要で、合意に至らない場合は家庭裁判所に遺産分割の調停や審判を申し立てることになります。遺産分割では、相続財産の価値の評価や各相続人の要求を考慮して公平な分配を目指しますが、複雑なケースは弁護士に依頼することをお勧めいたします。

まとめ

単純承認によって遺産を相続する場合、相続人は被相続人の財産をそのまま、つまりプラスの財産だけでなく、マイナスの財産も含めて全て引き継ぐことになります。

このため、被相続人が多額の借金を残して亡くなった場合などは、財産を相続することがかえって相続人の負担となるリスクがあるため、注意が必要です。このリスクを避けるためには、被相続人の相続財産に関してしっかりと調査し、全体像を把握することが不可欠です。

相続開始を知った日から数えて3か月の「熟慮期間」を有効に活用し、財産と負債の全体を理解した上で、単純承認するかどうかを慎重に判断することが重要です。安易に決断するのではなく、十分な情報収集をした上で、慎重に検討してください。

遺産相続についての疑問や悩みがある場合は、法律の専門家である弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。当法律事務所では、弁護士による法律相談を初回無料で行っておりますので、ぜひお気軽にお問合せいただければと思います。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。