生前に相続放棄はできない!遺留分放棄や生前贈与で対策を

相続放棄

更新日 2024.02.09

投稿日 2024.02.09

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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相続放棄は生前に行うことはできません。では、相続放棄をしたい、または家族に相続放棄をしてもらいたいと考える人々は、どのように対処すればよいのでしょうか?
この記事では、親の借金が多額であることがわかっており、あらかじめ相続放棄しておきたいと考える場合などにどのように対処すればよいかについて詳しく解説します。
なお、「相続しません」などと一筆書いただけでは相続放棄は出来ません。所定の手続きが必要となります。

生前にできる対策とその効果について理解しておくことで、相続発生後のトラブルを防ぐことができます。ぜひこの記事を参考に生前にできる準備をしてください。

目次

生前に相続放棄はできない!手続きはいつからできる?

 

生前に相続放棄はできない!手続きはいつからできる?

 

法律上、生前に相続放棄をすることは不可能です。相続放棄は、相続が開始したことを知った後、つまり通常は被相続人が亡くなってから3か月以内に行う必要があります。
したがって、相続放棄の手続きは死後に行うもので、被相続人が生きている間に相続放棄の手続きを進めることは法的に認められていません。

相続放棄をする場合は、家庭裁判所に申請をする必要がありますが、被相続人の死後でなければそもそも受け付けてもらえないのです。

生前に相続放棄する旨の念書を作成しても無効

さらに、被相続人が生前に借金を抱えていることを知っているため、あらかじめ相続放棄を約束しておきたいと念書を作成したとしても、それは法的な効力を持ちません。また、他の相続人に「相続しません」との念書を書かせていても、これには法的な効力がなく、その相続人が相続開始後に相続権を主張することも可能です。

では、生前に相続放棄を考えている方々や、相続放棄をしてもらいたいと思っている方は生前にどのような対策を取るべきでしょうか。次に、生前にできる具体的な対策を解説していきます。

生前に相続放棄をしたい相続人は遺留分放棄を!

相続放棄は生前にはできませんが、遺留分の放棄は生前に行うことができます。
被相続人が遺言書で、遺留分を持つ相続人に財産を残さないように指定し、その遺留分の権利者が遺留分放棄を行うことで、相続放棄と同じ効果を得ることができます。

遺留分とは、相続人が最低限保証されるべき相続財産の割合を指し、民法によって配偶者、子ども、両親など兄弟姉妹以外の相続人に認められています。
遺留分放棄とは、遺留分をもつ兄弟姉妹以外の相続人が自分の遺留分を放棄することをいいます。
ただし、遺留分は相続人にとって重要な権利です。そのため、遺留分を放棄するには正当な理由が必要とされ、家庭裁判所の許可が必要です。

生前に遺留分放棄の手続きをするには

まず、遺留分を放棄したいと考える相続人が、家庭裁判所に「遺留分放棄の許可の申立て」を行う必要があります。これは遺留分を有する相続人のみが行える手続きです。
申立ては、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。手続きには、申立手数料として800円の収入印紙が必要です。また、連絡用の郵便切手も必要で、その金額や組み合わせは申し立てをする裁判所によって異なるため、具体的な情報は管轄の家庭裁判所に問い合わせる必要があります。
申し立ての必要書類は、以下のとおりです。

  1. 遺留分放棄の許可の申立書。
  2. 被相続人の戸籍謄本(全部事項証明書)。
  3. 申立人の戸籍謄本(全部事項証明書)。

遺留分放棄をしても借金は相続することになる!亡くなった後に相続放棄が必要

遺留分放棄は自分に法律上保証された最低限の遺産の取得権を放棄するものであり、借金を含む全ての相続財産を相続しない「相続放棄」とは異なります。
相続放棄は、相続人が相続人であること自体を放棄し、まるで相続人ではなかったかのように扱われる手続きです。その結果、相続放棄を行うことで、被相続人の財産だけでなく、借金などの負債も相続しないことになります。

一方で、遺留分を放棄した場合、相続人は依然として相続人であり続けます。そのため、もし被相続人に借金がある場合、遺留分を放棄してもその借金の責任は免れません。つまり、被相続人が借金を残していた場合、遺留分放棄を行ったとしても、その借金を受け継ぐリスクがあります。ですから、被相続人が借金を残していた場合は、遺留分の放棄を行った後でも、相続放棄の手続きが必要になります。

被相続人が生前に相続放棄してもらいたい場合は?

被相続人が相続人となる人に相続放棄をしてもらいたい場合、生前に相続放棄をしてもらうことはできません。しかし、相続放棄に近い効果を得るための対処法はあります。ここでは、被相続人側から相続放棄の代わりに利用できる方法について解説します。

推定相続人の廃除をする

被相続人が生前に相続放棄をしてもらいたいと思う場合の代わりの方法として、「推定相続人の廃除」があります。これは、被相続人が家庭裁判所に申立てを行い、特定の相続人の相続権を失わせる制度です。
推定相続人の廃除は、被相続人が虐待や重大な侮辱などを受けたことを理由に、遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者)から相続権を剥奪する手続きです。(民法第892条)

例えば、被相続人に対して虐待を加えたり、重大な罪を犯したりした場合に、推定相続人の廃除がを家庭裁判所に請求することができます。ただし、この手続きは相続権を失わせるという強力な効果があるため、裁判所は認めるかどうかを慎重に審査します。そのため、実際に廃除が認められるケースは多くありません。

遺言書を作成する│ただし遺留分を放棄させることはできない

遺言書により、被相続人は特定の相続人に遺産を相続させないよう指定することが可能です。例えば、相続人の1人が被相続人と疎遠であるなどの理由から、被相続人がその人に遺産を残したくないと考えるケースなどです。

しかし、遺言書を作成する際には遺留分の存在を念頭に置く必要があります。遺留分は、相続人が自ら放棄しない限り保証されるため、遺言書で相続させないと記載しても、遺留分の権利は依然として残ります。
例えば、被相続人には長男と次男がおり、長男には長年世話をしてもらったが、次男は遠方に住み、ほとんど関わりがありません。この場合、被相続人は全遺産を長男に相続させる意向を遺言書に記載することができます。

しかし、次男にも遺留分の権利があります。次男がこの遺留分を主張すると、被相続人の遺産の一部は次男に渡ることになります。そのため、遺言書で遺留分に相当する部分までの放棄を求めることはできません。
遺言書を作成する際は、遺留分の存在を十分に理解し、慎重に検討する必要があります。

借金があっても被相続人が生前にできること

借金があっても、できるだけ子供や配偶者に財産を遺したいと思う被相続人のために、生前にできることがいくつかあります。これらの対策を講じることで、相続人への負担を軽減し、安心して財産を残すことができるでしょう。ここでは生前にできることを3つご紹介します。

債務整理をする

被相続人が借金を抱えている場合、家族に負担をかけないための対策として債務整理があります。債務整理は、方法には主に「任意整理」「個人再生」「自己破産」の3つの方法があります。借金の額や返済の可能性などによってどれを選択するべきかを検討します。

  1. 任意整理:これは裁判所を介さずに債権者と直接交渉し、利息の減額や返済額の見直しを行う方法です。
  2. 個人再生:裁判所に再生計画を提出し、認可されると、借金が大幅に減額されることがあります。この方法は、主に不動産などの財産を保持したい場合に適しています。
  3. 自己破産:借金を全額免除する代わりに、一定額以上の財産が没収されます。家や車などの大きな資産を保持することは難しくなります。

債務整理を行うことで、被相続人は借金の負担を軽減し、相続時に家族への負担を減らすことができます。ただし、これらの手続きは複雑ですので、弁護士に相談しながら行うことをお勧めいたします。また、債務整理にはそれぞれ特有の条件があるため、被相続人の状況に合った方法を慎重に選択することが重要です。

生命保険に加入する

生命保険に加入し、死亡保険金を相続人に遺す方法も有効です。死亡保険金は、受取人固有の財産として扱われ、相続財産とは異なります。このため、たとえ相続人が相続を放棄したとしても、保険金を受け取ることが可能です。

この方法の重要なポイントは、受取人を相続させたい人に指定することです。保険金の受取人を被相続人自身としてしまうと、その保険金は相続財産となってしまいます。また、死亡保険金を受け取る場合、相続税の課税対象となるため、受取人は相続税を支払う必要がある点に注意が必要です。

生前贈与をする

被相続人が、相続人に財産を残す方法の1つとして、生前贈与があります。生前贈与とは、被相続人が生前に特定の人に資産を贈与することです。贈与された財産は、その受取人が後に相続放棄をしたとしても、原則として返還する必要はありません。

ただし、生前贈与が借金の返済や財産の隠蔽を目的としていると判断された場合、これは詐害行為とみなされ、贈与が取り消される可能性があります。したがって、贈与する際には被相続人の財産額が負債を上回る状態で行うことが重要です。

また、相続開始前3年以内に行われた贈与は相続財産に含まれるため、相続税がかかってしまう点にも注意が必要です。年間110万円を超える贈与にも贈与税が課されます。
生前贈与は、特定の相続人にのみ資産を与えたい場合にも有効ですが、他の相続人の遺留分には注意が必要です。遺留分を侵害しないよう、贈与の範囲を慎重に決めてください。

生前贈与を受けたのに相続放棄できる?

被相続人が生前贈与を行った後に、相続人が相続放棄をすること自体は可能ですが、この際に「詐害行為取消権」に注意が必要です。詐害行為取消権とは、財産を隠す目的で行われた財産の移転や処分を、債権者が取り消すことができる権利を指します。

債務者が債務の弁済を逃れるために故意に財産を親族などに移転する場合に、債権者はその行為を取り消すことができます。例えば、多額の借金があるにも関わらず、債務者が財産を生前贈与という形で親族に移転し、「弁済できない」と主張するケースです。通常、債権者は債務者名義の財産にしか差し押さえを行うことができないため、このような移転は債権者の権利を侵害する行為となります。

したがって、もし多額の借金がある状況で生前贈与をした場合、詐害行為取消権が行使されると、生前に行われた贈与は取り消される可能性があります。

亡くなった後に相続放棄の手続きをする方法

相続放棄は、被相続人が亡くなった後に行うことができる手続きです。この手続きは、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。相続放棄を行う際の基本的な手続きの流れは以下の通りです。

①相続財産の調査

最初に、相続財産の全体像を把握するための調査を行います。これにより、相続放棄を行うべきかどうか判断します。一度相続放棄の手続きをすると、撤回することはできませんので慎重に検討してください。

②必要書類の準備

次に必要書類を準備します。主な書類は以下のとおりです。

  • 相続放棄の申述書
  • 被相続人の住民票除票または戸籍の附票
  • 相続放棄する人の戸籍謄本
  • 800円の収入印紙
  • 連絡用の郵便切手(裁判所によって異なる)

申述書は、未成年か否かで様式が異なり、裁判所のホームページからダウンロードできます。必要書類の詳細は事前に裁判所に問い合わせると安心です。

③家庭裁判所への提出

必要書類が揃ったら、それらを管轄の家庭裁判所に提出します。提出書類や内容に不備がなければ、通常1週間から2週間程度で「相続放棄申述受理通知書」が送付されます。この通知書の到着により、相続放棄の手続きは正式に完了し、その人は最初から相続人ではなかったものとして扱われます。

相続放棄の重要な注意点として、手続きの期限があります。相続の開始を知った日から3ヶ月以内に手続きを完了させる必要があります。期間内であっても、相続財産を一部でも処分すると、相続を承認したと見なされ、相続放棄ができなくなることがあるため注意が必要です。

また、3ヶ月では相続財産の調査ができない場合などは、期間延長の申立てが出来る場合もあります。ただし、この手続きには専門的知識が必要ですので、延長したい場合は弁護士に相談することをお勧めいたします。

生前に相続放棄はできいない!ことに関するQ&A

Q: 生前に相続放棄をすることは可能ですか?

A: いいえ、相続放棄は法的に被相続人が亡くなった後にしか行うことができません。生前に相続放棄の意思を示しても、それは法的には無効です。相続放棄は被相続人の死後、相続人が相続の開始を知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てを行う必要があります。

Q: 生前に相続放棄を考えている場合、どのような対策がありますか?

A: 相続放棄は被相続人の死後にしか行えないため、生前に相続を放棄したいと考える相続人は遺留分放棄を検討することができます。遺留分放棄とは、相続人が自分に法的に保証された最低限の遺産取得分(遺留分)を放棄することを意味します。この放棄は被相続人が生前に行うことができ、家庭裁判所の許可を得る必要があります。ただし、遺留分放棄は借金の相続を放棄するものではないので、被相続人が借金を残している場合は、死後に相続放棄の手続きを行う必要があります。

Q: 被相続人が生前に相続放棄してもらいたい場合、どのような方法がありますか?

A: 被相続人が生前に相続放棄してもらいたい場合の一つの方法として、「推定相続人の廃除」を検討することができます。これは、被相続人が虐待や重大な侮辱を受けたときなど、特定の事由がある場合に限り行うことができます。この手続きは、相続人の権利を剥奪する重大な手続きであるため、通常は厳格な審査が行われ、容易に認められるものではありません。

Q: 借金があっても被相続人が生前にできることはありますか?

A: はい、被相続人が生前に行うことができることは以下の3つです。

  • 債務整理の実施: これには任意整理、個人再生、自己破産などの方法があります。
  • 生命保険に加入する: 死亡保険金は受取人に直接支払われ、相続財産とはみなされません。
  • 生前贈与をする: 負債より資産が多い場合のみ有効です。ただし、贈与税や遺留分に注意する必要があります。

まとめ

相続放棄は、生前に行うことができません。被相続人が亡くなり、相続が発生した後に、相続放棄の手続きを開始することが可能となります。
相続放棄の手続きには、「自分が相続人であると知った日から3ヶ月以内」という明確な期限が設けられています。したがって、相続放棄を考えている場合は、この期限内に迅速に手続きを行う必要があります。期限を過ぎてしまうと、相続放棄は認められない可能性があります。

また、生前に相続放棄はできませんが、家族に借金を残さないための方法や、特定の人に財産を遺さないための対策は存在します。
遺言書の作成や遺留分放棄、生前贈与など様々な方法がありますので、相続に精通した弁護士に相談し、個々の財産や借金の状況、そして相続人の事情に応じた専門的なアドバイスを受けることをお勧めいたします。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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