前妻の子に相続させない方法７選！遺言や生前贈与で遺産相続対策

遺産相続において、前妻の子に夫の財産を相続させたくない、と考える人もいるでしょう。ですが、民法では被相続人の子供に関して相続権を持つと定められているため、単に「相続させたくない」とするだけでは解決になりません。

そのため、法律的にも問題なく前妻の子を遺産相続から除外できるよう、前妻の子に相続させない方法について、正しく把握しておく必要があります。

そこでこの記事では、前妻の子に相続させない方法と、その際の注意点について弁護士が解説させていただきます。

この記事を通じて、前妻の子への相続を避けるための選択肢と、それに伴うリスクについて理解し、よりスムーズな相続手続きの準備に役立てていただければ幸いです。

前妻の子に相続させないことはできるの？

前妻の子と後妻の関係は同じ「法定相続人」

離婚によって夫婦関係が解消されても、父親と前妻の子との親子関係は変わらず続くので、前妻の子は「父親の子」として法定相続人となります。 前妻の子の相続権は、後妻の子の相続権と同等ですから、遺言による指定などがない限り、前妻の子を遺産相続から除外することはできません。

したがって、前妻の子は民法によって決められた相続割合（法定相続分）により遺産相続する権利を持つことになります。この相続割合ですが、被相続人に配偶者と子供がいる場合、配偶者が財産の２分の１、子供が残りの２分の１を相続します。配偶者がいない場合、子供が全ての遺産を相続します。

なお、遺言が存在する場合は、遺言の内容が優先されます。時には遺言で「全財産を後妻の子に渡す」と指定する被相続人もいますが、前妻の子には最低限度の相続割合（遺留分）が保障されているため、前妻の子が遺留分の請求を行うことができる、という点に注意が必要です。

前妻の子が後妻の財産を直接相続することはない

前妻の子に相続権が発生するのは、法的な親子関係のある父親の財産に対してであり、親子関係のない後妻自身の財産について、前妻の子が直接相続権を持つことはありません。ただし、夫より先に後妻が亡くなり、後妻の財産を夫が相続してから亡くなった場合は、結果として後妻の財産も前妻の子が相続する可能性があります。

前妻は元夫の遺産を相続できない

前妻の子が父親の遺産について相続人となる一方で、前妻は元夫の法定相続人になることはできません。民法が法定相続人として定める「配偶者」とは、法律上の婚姻関係にある夫婦を指します。ですので、離婚によって婚姻関係が解消された前妻は、法的な配偶者ではないため、元夫の遺産を相続できないのです。

前妻の子の相続権や遺留分については、下記記事にて詳しく解説しておりますので、本記事とあわせてぜひご一読ください。

 

前妻の子に相続させない方法７つ

さて、以上の通り、法定相続人である前妻の子を、相続人から除外することは原則としてできません。

前妻の子は、後妻との子と同じように、法律によって相続人となることが認められています。また、相続させたくないと思っても、前妻の子が遺留分を請求すれば、一定の財産を受け取ることができてしまいます。

ですが、どうしても前妻の子に相続させたくない、という場合もあるでしょう。そこで、このような時に考えられる、前妻の子に相続させない方法を７つご紹介させていただきます。

 

前妻の子に相続させない方法①遺言書の作成

前妻の子に相続させない方法の１つ目は、遺言書の作成です。
遺言書を作成することで、被相続人は自分の死後、誰がどのように遺産を受け取るかについて、細かく指定しておくことができます。

例えば、「私の銀行預金を全て現在の妻である〇〇に相続させる。」といった遺言や、「私の不動産を現在の妻〇〇と、〇〇との子供達で等分して相続させる。」といった遺言のように、具体的な財産と相続させる相手を遺言書に指定しておくことができます。
これにより、自分が亡くなった後、相続人間で「誰がどの財産を受け取るべきか」についての争いを防ぐことができます。特に、前妻の子と疎遠である場合や、前妻の子と後妻の関係が悪化している場合は、遺言書に前妻の子を相続人から外すことを明記することで、前妻の子に財産を相続させない意向をはっきりと示すことができます。

また、遺言書があれば、相続人全員が集まって遺産分割協議を行う手間を省くこともできます。特に、後妻と前妻の子供との間には直接の繋がりが少ないことが一般的であり、コミュニケーションを取るのが困難なことがあります。そのため、相続手続きを円滑に進める上でも、遺言は非常に重要な役割を果たすのです。

前妻の子に相続させない方法②生前贈与

前妻の子に相続させない方法の２つ目は、後妻や後妻の子に生前贈与をしておく方法です。
生前に財産を贈与しておくことで、亡くなった時点でその財産は被相続人のものではなくなっているため、相続財産の対象から外れるためです。

ただし、この方法には以下の３つ点に注意が必要です。

これらの点を十分に考慮した上で、生前贈与しないと、かえってトラブルになる可能性もありますのでご注意ください。

なお、相続法の改正により、遺留分の計算には亡くなる前１０年間の贈与のみが含まれることになりました。したがって、計画的に早めに生前贈与を行い、その後１０年以上が経過してから亡くなった場合、その贈与は遺留分の計算に含まれないため、遺留分請求への対策としても有効です。

前妻の子に相続させない方法③相続放棄

前妻の子に相続させない方法の３つ目は、前妻の子自身に相続放棄をしてもらうことです。
前妻の子が相続放棄をすると、前妻の子は相続開始の時点から相続人ではなかったということになるため、後妻と後妻の子だけで遺産相続を行うことが可能になります。

しかし、相続放棄は相続人の自由意志に基づいて決定されるのものであり、他者が強制できるものではありません。ですので、前妻の子に相続放棄をお願いしても、必ずしも応じてもらえるとは限りません。この点を考慮しながら、相続対策をする必要があります。

相続放棄には期限が設けられているため、父親が亡くなったことを前妻の子が知った日から３ヶ月以内に、家庭裁判所で相続放棄の手続きを行う必要があります（民法第９１５条１項）。必要な書類を用意し、裁判所に申し立てを行い、裁判所がこれを受理すれば、相続放棄は正式に成立します。

前妻の子に相続させない方法④生命保険の活用

前妻の子に相続させない方法の４つ目は、生命保険を活用することです。

生命保険金は、あらかじめ指定されている受取人に直接支払われるお金なので、「被相続人の財産」ではありません。そのため、生命保険金は遺産分割の対象外となります。
例えば、再婚相手である後妻や後妻の子供を生命保険の受取人に指定しておくと、被相続人の死亡後、生命保険金は後妻や後妻の子供に直接支払われます。相続財産ではないため、受取人に指定されていない前妻の子は生命保険金を受け取ることはできません。

また、生命保険金は一定額まで非課税枠が設けられており、相続税の節税にも寄与することが可能です。この非課税枠を最大限に利用することで、受取人は相続税の負担を軽減しながら、多額の資金を確保できるというメリットがあります。

後妻や後妻の子供を死亡保険金の受取人にしておけば、前妻の子に遺留分を請求された場合の資金を準備しておくこともできます。

前妻の子に相続させない方法⑤死因贈与

前妻の子に相続させない方法の５つ目は、後妻や後妻の子に死因贈与する方法です。
１つ目の方法である遺言は、被相続人が一方的に内容を決める方法でしたが、一方で死因贈与とは、財産を受け取る人と被相続人があらかじめ約束しておくことで成立する贈与契約になります。

具体的には、被相続人が、後妻や後妻の子との間で、亡くなった際に特定の財産を贈与するという契約を結びます。この約束があると、被相続人が亡くなった際には約束通りに財産が移動し、その財産は相続財産とはみなされなくなるため、前妻の子はその財産を受け取ることができなくなります。

前妻の子に相続させない方法⑥名義変更

前妻の子に相続させない方法の６つ目は、不動産やその他の資産について、後妻や後妻との子の名義にしておく方法です。

そもそも、遺産相続の対象となる財産は、原則的に被相続人の名義になっている財産に限られます。通常は名義人＝その財産の所有者なので、例えば被相続人が済んでいた家が後妻の名義であれば、それは被相続人の財産ではなく、後妻が所有する後妻の財産ということになります。

ですので、再婚後に後妻や後妻の子に財産を遺したいと考えたら、なるべく生前に名義変更の手続きを行っておくのが有効です。

こうすることで、亡くなった夫の名義になっている財産を最小限に抑えることができ、その結果、前妻の子の相続財産も最小限にすることができます。

前妻の子に相続させない方法⑦相続人廃除

前妻の子に相続させない方法の７つ目は、相続人廃除（民法第８９２条）を行うことです。
相続人廃除とは、その文字通り、相続人が被相続人に対して重大な不義行為をした場合に、その相続人の権利を剥奪する法的な手段です。そのため、前妻の子が被相続人に対して、虐待や重大な侮辱行為などをしていた場合、被相続人はこの廃除の手続きを利用して、前妻の子を相続人の立場から外すことができます。

具体的には、前妻の子が被相続人に対して不適切な行動をとった証拠を揃え、家庭裁判所に相続人廃除の申し立てを行います。裁判所が虐待や侮辱が事実であると判断すれば、前妻の子を相続人から廃除する旨の決定を下します。
この手続きを通じて前妻の子を相続人から外すことができれば、前妻の子は被相続人の財産を一切受け取ることができなくなります。もちろん、相続人ではなくなるため、遺留分を請求する権利も失われることになります。

以上の通り、前妻の子に相続させない方法を７つご紹介させていただきました。特に、前妻の子に相続させない方法①の遺言書の作成と、方法②の生前贈与については、被相続人側で比較的簡単にできるものですので、上記の解説をご参考にしていただければと思います。

 

前妻の子が音信不通でも遺産相続の連絡は必要です

そもそも相続が始まった時に、連絡をしなければ前妻の子に知られず遺産分割できるじゃないか、と思われるかもしれませんが、前妻の子には必ず相続開始の連絡をしましょう。

この記事でご説明した通り、前妻の子も法定相続人であるため、遺留分を請求する権利を持ちます。また、遺産分割協議は相続人全員が合意しなければ有効に成立しないため、前妻の子に知らせず話し合いを進めてしまうと、その合意は無効とされる可能性もあるのです。

場合によっては連絡先や居住地が分からないことも考えられますが、前妻の子の居場所が分からない時は、まず被相続人の戸籍謄本を取得し、それを基に前妻の子の現在の戸籍を辿ることで、現住所を割り出すことができます。「戸籍の附票」でしたら、住民票と連動しているため、現在の住所を調べることが可能です。そして、その住所に手紙を送るなどして連絡を取り、父親の訃報と相続の開始について正しく伝えましょう。

 

連れ子・婚外子などの子供に相続させたくない場合の方法

さて、前妻の子に相続させない方法を７つご紹介しましたが、前妻の子に限らず、相続させたくない子供がいる場合にも、これらの方法は有効な手段となります。

まず、血縁関係のある実子は第一順位の法定相続人となりますので、特定の実子に相続させたくない場合には、遺言や贈与などの生前対策が重要です。

そして、後妻の連れ子や婚外子などの、実子ではない子供に相続させたくない場合は、そもそも相続権があるかどうかの確認が必要です。後妻の連れ子といっても、連れ子と被相続人が養子縁組をしている場合は実子と同じように相続権を持つことになりますし、養子縁組をしていなければ、法的な親子関係がないため相続権はありません。したがって、連れ子に相続させたくない場合は、養子縁組を行わないことが基本です。

既に養子縁組している場合は、前述した７つの方法を検討するか、あるいは生前に養子関係を解消する手続きを進める必要があります。

婚外子に関しては、法的な認知がされている場合のみ相続権が発生します。もし認知していない婚外子がいる場合は、そもそも法律上の親子関係が成立していないため、相続権はありません。しかし、認知された婚外子は相続権を持つため、婚外子に相続させたくない場合には、前述した７つの方法を検討することになります。

 

持ち家の遺産相続で前妻の子ともめないために

遺産相続に前妻の子が関わる場合、特に後妻との間でさまざまなトラブルが起こることが予想されますが、中でも相続財産に持ち家や不動産がある場合は注意が必要です。

例えば、前妻の子が持ち家の相続やその売却益を求める一方で、後妻が持ち家に住み続けたいと希望した場合、持ち家の処分に関して意見が対立し、遺産分割協議がなかなか成立せず、相続手続きを進められなくなってしまいます。

あるいは前妻の子が遺留分を請求する場合、持ち家のほとんどが遺産の資産を占めていると、後妻は遺留分相当額を準備できず、持ち家を売却せざるを得なくなってしまう、といったケースも考えられます。

こうした不動産や持ち家の遺産相続トラブルを回避するために、事前に次の対策を検討しておきましょう。

相続対策①遺言書を作成する

遺産相続においては、遺言書を作成しておくことが不可欠です。
遺言書には法的な拘束力があり、原則として遺言書の内容が最も優先されます。しかし、遺言を作成する際は、すべての相続人の遺留分を考慮に入れることが求められます。遺留分とは、法律で保証された最低限の相続権のことであり、これを無視すると、後に遺留分侵害額請求を原因とする争いが発生する恐れがあります。

特に、前妻の子が相続人の一員である場合、遺言書で財産を分配する際には前妻の子に遺留分に相当する財産を分配しておくことが不可欠です。
たとえば、持ち家を後妻とその子に遺したいと望む場合には、遺言書に「自宅は配偶者とその子に相続させ、前妻の子には○○（別の財産）を相続させる」と明記しておくべきです。これにより、遺言書に記載されたとおりに配偶者が自宅を相続し、前妻の子は遺留分を確保できるため、将来の遺留分侵害額請求によるトラブルを防ぐことができます。

相続対策②遺留分相当額の生命保険を準備しておく

もし遺言で遺留分を侵害することを選択した場合、トラブルを回避するためには、生命保険の契約を活用し、前妻の子に支払うべき遺留分に相当する金銭を用意しておくべきです。
つまり、遺言によって不動産などの財産を後妻に残す意志を明確に示しつつ、生命保険金を利用して前妻の子の遺留分を確保するということです。

具体的には、生命保険の保険金受取人を後妻に指定しておきます。すると、もし遺留分の請求があった場合には、後妻が受け取る保険金でその支払いを行うことができます。
この方法の良いところは、生命保険金が遺留分の計算には含まれないので、後妻は遺言によって指定された内容で確実に他の遺産（例えば不動産や預貯金）を受け継ぐことができる点です。

 

前妻の子に相続させない方法に関するQ＆A

Q1: 前妻の子に相続させないことは可能ですか？

A1: 原則として、前妻の子にも相続権があるため、完全に相続させないことは難しいです。ただし、遺言書で前妻の子への相続分を減らしたり、特定の相続人に財産を多く分けるように指定することは可能です。なお、前妻の子には遺留分が保証されているため、最低限の取り分を主張する権利は残ります。

Q2: 生前にできる前妻の子に相続させない方法はありますか？

A2: 生前贈与や生命保険の活用が考えられます。例えば、生前贈与で特定の相続人に財産を移しておけば、相続財産が減り、前妻の子に渡る割合も抑えられます。また、生命保険金は受取人を指定できるため、後妻や後妻の子を受取人にすることで前妻の子に渡らないようにすることが可能です。他にも生前から検討できる方法はありますので、詳しくは本記事をご参照ください。

Q3: 前妻の子が遺留分を主張した場合、どのように対応すれば良いですか？

A3: 前妻の子が遺留分を主張した場合、遺留分に相当する金額を準備し、支払う必要があります。遺産の大部分が不動産の場合、現金が不足することがあるため、家を売却するか、他の資産を活用して金銭を確保する方法を検討しなければなりません。遺言の場合にあらかじめ前妻の子の遺留分を確保しておくか、あるいは生命保険の受取人に後妻を指定し、保険金で遺留分請求に応じる、といった対応が考えられます。

 

まとめ

再婚家庭での相続は複雑で、前妻との間に子供がいる場合は、遺産相続の際に問題が起きることがあります。生前に何も準備していなければ、前妻の子と新しい家族が遺産を巡って話し合いをしなければならなくなり、それが原因で争いが起こるかもしれません。

こうした相続トラブルを防ぐためには、遺言書の作成や生前贈与、生命保険の活用、相続人廃除など、さまざまな手段がありますが、前妻の子の相続権や相続割合について十分に理解しておき、適切に対応することが重要です。

また、相続対策を誤ると相続人間での紛争が生じ、複雑な相続トラブルに発展してしまう可能性もあります。こうしたリスクを避け、円滑に遺産相続を進めていくためには、専門家のサポートを得ることがお勧めです。

当法律事務所では、前妻の子との相続トラブルに関するお悩みもお受けしております。法律相談は初回無料となっておりますので、まずはお気軽にお問合せいただければと思います。