相続廃除|推定相続人の廃除とは?相続廃除が認められない事例なども解説

法定相続人

更新日 2026.05.19

投稿日 2024.01.25

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

弁護士法人あおい事務所の相続専門サイトをご覧いただき、ありがとうございます。当サイトでは、相続に関する法的な知識を分かりやすくお届けしております。皆様のお悩みの解消に少しでもお役立ちできましたら幸甚です。

被相続人を虐待したり、侮辱したりした人や、著しい非行のあった人に、遺産を相続させたくないこともあるかと思います。そういった場合に利用されるのが、「相続廃除」という制度です。

相続廃除によって、被相続人に対する虐待や侮辱、社会的に非難される違法・不当な行為がある場合に、家庭裁判所の審判手続きを経ることで該当の推定相続人から相続権を奪うことが可能となります。

そこで本記事では、相続廃除について弁護士が詳しく解説させていただきます。どういった行為が相続廃除に該当するのか、相続廃除の手続きはどのように行うのか、といった相続廃除の基本について詳しく見ていきたいと思います。また、相続廃除が認められるケースと認められないケースにはどういったものがあるのか、実際の裁判例も確認していきましょう。

自己の意思を反映させた遺産相続を実現させるために、重要な制度の一つである相続廃除について、本記事で少しでも理解を深めていただけましたら幸いです。

目次

相続廃除

1.相続廃除とは

1-1.相続廃除の意味

「はいじょ」というと、「排除」の表記が一般的かと思います。この排除は、そこにあってはいけないものとして、取り除けたり追いやったりすることを意味する言葉です。

本記事で扱う「はいじょ」は、法律上の「廃除」になります。「廃除」とは、被相続人の意思に基づき、家庭裁判所の審判によって推定相続人の相続権を失わせることを意味します(民法第892条)。

(推定相続人の廃除)
民法第892条 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

廃除の方法には大きく分けて「遺言による廃除(民法第893条)」と「生前廃除(民法第892条)」の2つがありますが、いずれの場合も裁判所で相続廃除を認めるかどうかが判断されることになります。

1-2.相続廃除の効果

裁判所で相続廃除が認められることによって、廃除された相続人はその時から相続権を失います。遺言による廃除の場合は、被相続人の死亡時に遡って相続権を失います(民法第893条後段)。

(遺言による推定相続人の廃除)
民法第893条 被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

相続権を失うということは、相続人ではなくなることですから、一部の相続人に認められた権利である「遺留分」を請求する権利も失います。

また、相続廃除によって相続権を失うのは、廃除された本人だけです。そのため、廃除された相続人に子などの直系卑属がいる場合、子が代襲して相続人となることができます。相続廃除の効力は廃除された相続人にのみ及び、その子供や他の代襲相続人には影響しないのです。

たとえば、被相続人であるAが、息子であるBを相続廃除したいと考え、適切な手続きを経て廃除が認められたとしましょう。しかし、この場合に代襲相続が認められるため、Bに子供Cがいる場合、Cが代襲相続人としてAの遺産を相続することになります。AがCにも遺産相続させたくない場合は、Cについても別途相続廃除の手続きをする必要があるのです。

なお、相続人から相続権を失わせる制度として、相続廃除に似た「相続欠格」というものがあります。相続廃除と相続欠格は混同されやすいのですが、相続廃除は被相続人の意思に基づくもので、特定の相続人に対して相続させたくないという被相続人の意思がある場合に、所定の手続きを経ることで廃除が認められることになります。

一方、相続欠格は法律上定められた欠格事由(被相続人や他の相続人を故意に殺害する、遺言書を偽造・破棄・隠匿する、などの重大な違法行為や非行)を行った相続人について、自動的に相続権を失わせる制度です。

また、相続欠格では遺贈を受ける資格(受遺資格)を失いますが、相続廃除ではそのことに関する規定が準用されていないため、遺贈を受ける資格は失いません。

本記事では相続廃除について詳しく解説していきますが、相続欠格についてはこちらの関連記事にてご説明しておりますので、ぜひ合わせてご覧いただければと思います。

2.廃除の対象者は「遺留分を有する推定相続人」

相続人の廃除を請求できるのは、民法第892条に「被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。」とあるように、被相続人です。

廃除の対象となる相続人は、「遺留分を有する推定相続人」に限られます。推定相続人とは、現時点である人が亡くなった場合に、法律上相続人となる可能性がある人を指します。そして、推定相続人の中でも、遺留分の権利を持つ人が相続廃除の対象となります。具体的には、法定相続人である① 配偶者、② 子や孫などの直系卑属、③ 親や祖父母などの直系尊属です。

被相続人の兄弟姉妹は遺留分が認められていないことから(民法第1042条)、相続廃除の対象者に該当しません。兄弟姉妹は遺留分を有さないことから、仮に被相続人が兄弟姉妹へ相続させたくない場合は、相続廃除をするまでもなく、兄弟姉妹の相続分をゼロと指定したり、他の相続人に全財産を分配したりすることで、実質的に何も相続させないことが実現できるからです。

一方で、兄弟姉妹以外の推定相続人には、遺留分を請求する権利が認められています。仮に被相続人である父親が「長男に全財産を相続させ、次男には一切相続させない」旨の遺言を作成したとしても、次男は法律上保障された最低限の取り分である遺留分を請求し、遺留分に相当する金銭を得ることができるのです。

そのため、遺留分を有する推定相続人の相続権を完全に剥奪したい場合は、単に遺言で指定するだけでは不十分です。裁判所で相続廃除が認められることによって、遺留分を含めた相続権を失わせることが可能となります。

3.相続廃除の要件

相続廃除は、被相続人が「あの相続人に相続させたくない。」と思うだけでは認められません。民法第892条において定められた事由に当てはまり、かつ裁判所にそれが認められた場合に限り、相続人を廃除することが可能となります。

相続廃除が認められる要件としては、主に次の3つがあります。

  1. 被相続人に対する虐待
    被相続人の肉体または精神に苦痛を与える行為を指します。

  2. 被相続人に対する重大な侮辱
    被相続人の名誉や自尊心を著しく傷つける行為を指します。

  3. その他の著しい非行
    虐待や侮辱に類する行為で、社会的に非難される違法・不当な行為を指します。

なお、相続廃除が認められるためには、単にこの要件を満たしているだけでは不十分です。裁判所が廃除することを「相当である」と判断し、認めてもらう必要があります。相続廃除は相続権を奪うという重大な処分であるため、単なる一時的な激情による暴言や、被相続人側にも責任がある場合には認められない傾向にあるのです。

以下で、この3つの要件について詳しく見ていきましょう。

3-1.被相続人に対して虐待をした場合

「被相続人に対して虐待をした場合」とは、相続人が被相続人に対して肉体的、精神的な虐待を行っていた場合です。具体的には、以下のような行為が該当します。

  • 被相続人に対する暴力行為(殴打、突き、引っ張るなどの身体への直接的な危害)
  • 被相続人に対する脅迫、暴言、侮辱、無視など、精神的な苦痛を与える行為
  • 被相続人の財産や資産を無断で使用した
  • 末期がん患者に不適切な療養環境を強いた
  • 被相続人の基本的な生活必需品や医療の提供、日常生活に必要な支援を提供しなかった

被相続人への虐待を根拠に廃除が認められるかは、虐待の程度や発生頻度、被相続人の責任の有無、家庭の状況など、さまざまな事情が総合的に評価されることになります。

3-2.被相続人に重大な侮辱を加えた場合

「被相続人に重大な侮辱を加えた場合」とは、被相続の名誉や自尊心を著しく傷つけるような行為を意味します。そして、そうした行為によって家族としての共同生活を不可能にするほど、関係が破壊された場合に相続廃除が認められる可能性があります。

例えば、以下のような行為は「被相続人に重大な侮辱を加えた場合」に該当する可能性があります。

  • 暴力団員と婚姻し親の名前で勝手に招待状を出す行為
  • 執拗な電話による訴訟取り下げの要求
  • 被相続人に対する継続的な蔑視や軽蔑を示す言動があった
  • 被相続人の名前を悪用した
  • 被相続人の重大な秘密を暴露した

裁判所では、侮辱に至った背景、その程度や頻度、そして被相続人自身の責任の有無などが総合的に判断され、相続廃除を認めるかどうかが決定されることになります。

なお、「被相続人に対して虐待をした場合」の具体的な行為に「被相続人に対する脅迫、暴言、侮辱、無視など、精神的な苦痛を与える行為」があるとおり、「被相続人への重大な侮辱」と「被相続人に対する虐待」は、その内容が重なる部分もあります。そのため、裁判例においては「被相続人への重大な侮辱」と「被相続人に対する虐待」は厳密に区別されていません。

3-3.その他著しい非行があった場合

「その他著しい非行があった場合」とは、「被相続人に対する虐待」や「被相続人への重大な侮辱」には当てはまらないが、この2つに相当する程度の非行によって、被相続人に対し重大な悪影響を及ぼした場合をいいます。

例えば、以下のような場合です。

  • 相続人が犯罪行為を行い有罪となった
  • 相続人が被相続人の財産を勝手に自分のものにして返還を求めても応じない
  • 相続人が多額の借金をして、被相続人に返済を強要した
  • 窃盗などの犯罪を繰り返した
また、被相続人に対する直接的な行為だけが要件に当てはまるわけではありません。第三者に対する行為であっても、それが被相続人に重大な精神的・財産的損害を与える場合も、「その他著しい非行」に含まれる可能性があります。廃除によって相続人は遺留分を請求する権利を失うことになるため、法律上保障された権利を奪うことが正当であると評価できる程度の重大性が要求されるのです。

どういった行為が相続廃除として認められる・あるいは認められないのかは、本記事の後半で実際の裁判例をご紹介する予定です。その前に、相続人を廃除する方法について確認しておきましょう。

相続人の廃除の方法

本記事で少し触れましたが、相続人を廃除する方法には① 遺言廃除と② 生前廃除、という2つの方法があります。

①の遺言廃除は、被相続人の死後に遺言に基づいて遺言執行者が家庭裁判所に申し立てを行う方法で、②の生前廃除は、被相続人自身が直接家庭裁判所で申立てを行う方法です。いずれも、家庭裁判所での審判事項となります(家事手続法別表第1)。

それぞれについて、詳しく見ていきましょう。

1.遺言に基づく廃除

遺言廃除とは、被相続人が自身の遺言で、特定の推定相続人を相続から廃除する旨の意思表示をし、死後に遺言執行者がその遺言を実行する方法です(民法第893条)。

被相続人の死後、遺言執行者は相続開始地の家庭裁判所で、遺言にある遺留分を有する推定相続人(廃除したい対象者)を相手方として、相続人廃除の請求手続きを行います。そのため、遺言廃除する場合は遺言書で遺言執行者を指定しておくことが望ましいです。遺言執行者の資格については、民法第1009条に「未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない。」とあるため、相続人を指定することも理論上は可能です。ですが、無用なトラブルを避けるためにも、相続人以外の信頼できる第三者や、弁護士などを遺言執行者として指定しておくことをおすすめいたします。

1-1.遺言書を作成する

具体的な進め方ですが、まずは相続廃除したい旨を明記した遺言書を生前に作成しておきます。この際に、前述しましたとおり、遺言執行者も指定しておくと安心です。

  • 廃除したい相続人の氏名と生年月日を明記する。
  • 廃除の理由となる事実(虐待や侮辱の内容、日時、場所、証人など)を具体的に記載する。
  • なるべく事前に承諾を得た上で、遺言執行者を指定する。

1-2.遺言執行者による申立てをする

遺言執行者は、被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思表示をしたときは、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく家庭裁判所に推定相続人廃除の請求をしなければならない、とされています(民法第893条)。請求をしない、ということはできませんので、迅速に手続きを進めるためにも、以下の必要書類を準備します。

必要書類

  • 被相続人の死亡が記載された戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 廃除したい相続人の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 推定相続人廃除の審判申立書
  • 遺言書の写しまたは検認調書謄本

推定相続人廃除の審判申立書には、当事者の表示(遺言執行者、廃除対象である推定相続人)、申立の趣旨、相続人の遺言の内容、および廃除事由となる具体的な事実を記載した申立ての理由を明記します。以下は、審判申立書の記入例になります。

家事審判申立書(推定相続人廃除審判申立書)

当事者の表示
(省略)

申立ての趣旨

相手方が被相続人〇〇〇〇の推定相続人であることを廃除する審判を求める。

申立ての実情

1 手方は被相続人の次男であり、推定相続人である。

2 被相続人と相続開始

(1)
被相続人の本籍
最後の住所 〇県〇〇市〇町1-2-3
氏 名 〇〇 〇〇

(2)
被相続人は×年×月×日死亡し、相続が開始した。

3 被相続人の遺言

被相続人には令和△年△月△日付の公正証書遺言がある。これには、相手方は被相続人に対して下記5のとおりの著しい非行があったので、推定相続人を廃除する旨遺言してある。 併せて、この遺言書の遺言執行者として申立人が指定されている。

4 この遺言は、×年×月×日被相続人の死亡により効力が生じた。

5 廃除理由である著しい非行の内容は次の通りである。
相手方は5年前ほどから賭博にはまり、生活費を投じてまで熱中するようになり、賭博のために消費者金融から家族に無断で金銭を借り入れた。申立人は相手方に対し注意したが、それを機に暴力を振るうようになり、虐待を繰り返している。
このような相手方には、財産を相続させることはできない。

6 よって、この申立をする。

審判申立書を作成し、添付書類を揃えたら、相続開始地の家庭裁判所(被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所)に提出します。この際に、申し立て費用として800円分の収入印紙と、数千円程度の郵便切手が必要です。郵便切手の金額や組合せは裁判所によって異なりますので、事前に確認しましょう。

1-3.家庭裁判所での審判

審判では、遺言執行者と廃除対象者が、廃除理由について主張や立証を行います。裁判所は提出された主張や証拠、および関連するすべての事情を総合的に検討し、相続廃除を認めるか否かを判断します。

2.家庭裁判所での生前廃除の手続き

生前廃除とは、被相続人が存命中に相続人を相続から廃除するための手続きです。

前述した遺言による廃除の請求は、被相続人の死後に遺言執行者が家庭裁判所で申立てを行いますが、生前廃除の場合はその申立てを被相続人本人が行います。そのため、基本的な手続きの流れや必要書類は「遺言に基づく廃除」の場合と同様です。

生前廃除の手続き

3.相続廃除の取り消し

なお、生前廃除の審判が確定した後でも、被相続人は自ら廃除の取り消しを請求することができます(民法第894条)。

(推定相続人の廃除の取消し)
民法第894条 被相続人は、いつでも、推定相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
2 前条の規定は、推定相続人の廃除の取消しについて準用する。

廃除の取り消しも、生前に被相続人が直接裁判所に請求を行う方法と、死後に遺言によって裁判所に請求する方法とがあります。相続開始地(被相続人の住所地)を管轄する家庭裁判所に対し、戸籍謄本等の必要書類(遺言により請求する場合は、戸籍謄本等に加えて遺言執行者の資格証明書と遺言書の写し)を提出します。

なお、廃除の取消し請求においては、当初の廃除事由(虐待、侮辱、著しい非行)が消滅していることや、事情変更が生じていることなどを立証する必要まではありません。

4.相続廃除の審判の確定と戸籍の記載

相続廃除の審判が確定すると、その効果は法律上当然に発生し、廃除された相続人は相続権および遺留分権を喪失します。ですが、相続廃除の事実を公的に証明し、円滑な相続手続を担保するためには、戸籍への記載が欠かせません。

推定相続人廃除の審判が確定したときは、申立人(被相続人または遺言執行者)は、審判確定の日から10日以内に戸籍の届出をしなければならない、とされています(戸籍法第97条、同第63条1項)。

戸籍法第97条 第六十三条第一項の規定は、推定相続人の廃除又は廃除取消の裁判が確定した場合において、その裁判を請求した者にこれを準用する。

戸籍法63条1項 認知の裁判が確定したときは、訴を提起した者は、裁判が確定した日から十日以内に、裁判の謄本を添附して、その旨を届け出なければならない。その届書には、裁判が確定した日を記載しなければならない。

ですので、審判の確定日から10日以内に、廃除された者の本籍地又は遺言執行者の住所地の市区町村役場に「推定相続人廃除届」と「審判書の謄本と確定証明書」を提出しましょう。

推定相続人廃除届は、市区町村役場の窓口やホームページから書式を入手することが可能です。

参考:推定相続人廃除届書(大阪市)

審判書の確定証明書は、確定審判を受けた裁判所に交付申請して入手します。

相続排除された旨は、相続廃除された相続人の戸籍の身分事項欄に記載されます(戸籍法施行規則第35条8号)。

戸籍法施行規則第35条 次の各号に掲げる事項は、当該各号に規定する者の身分事項欄にこれを記載しなければならない。
八 推定相続人の廃除に関する事項については、廃除された者

戸籍には、「推定相続人廃除」の欄が設けられ、たとえば以下のように記載されることとなります。

【推定相続人廃除の裁判確定日】令和○年○月○日
【被相続人】父 〇〇〇〇
【届出日】令和元年2月3日
【届出人】父
【届出を受けた日】令和元年2月3日
【受理者】×県××市長

相続廃除が認められない事例は多い?

ところで、相続廃除の申立ての実態をご存知でしょうか。裁判所が公開しているデータを見てみますと、相続廃除が認められるケースはそれほど多くありません。

たとえば、令和6年の司法統計によると、相続廃除及びその取消しに関する審判の総件数は333件で請求が認められたものは49件です。これだけでも割合にすると約2割と少ないのですが、この数字には「相続廃除の取消し」に関する認容件数も含まれますので、相続廃除の請求が認められた件数はさらに少ないことと思われます。

参考:令和6年 司法統計年報 第3表「家事審判事件の受理、既済、未済手続別事件別件数―全家庭裁判所」(裁判所)

このように、相続廃除は認められる可能性が高いとはいえません。そのため、相続廃除が認められなかった裁判例と、認められた裁判例から、どういった事情によって判断がわかれるのかを確認しておきましょう。

1.相続廃除が認められなかった事例

1-1.相続人の行為が一方的かつ重大でないと判断した判例

被相続人の夫が、長男及びその妻が被相続人に対して暴力を振るったり、看病を拒んだりしたこと、また長男が家族間の不和を調整しなかったことを理由に廃除を求めた事案です。

寝たきりの妻を看病していた父が、息子とその妻に協力を求めましたが、子らは協力しませんでした。息子の妻は看護や家事のあり方をめぐって自己主張を始めましたが、これを父は反抗と把え反目するようになりました。その後、寝たきりの妻が死亡したことが、息子らが看病をしなかったせいだと思い込んだ父が、再三にわたり息子らを非難し、反省を求め、少しでも弁解すると興奮して茶わんや一升瓶等を投げつけたり、家財道具を壊すなどし、父の行為に憤激した息子が制止しようとしてもみ合ったり、扇風機を投げつけたりと、家庭不和の状態にありました。時には、興奮した父の行動を制止した際、父が加療約5日間を要する右手首裂傷を負ったこともありました。

こうした中で、父は息子を廃除することや息子の妻との別居等を求める旨の調停を申し立て不成立となったため、推定相続人廃除の審判を申し立てました。申立てが却下されたため、父が即時抗告を申し立てた、という事案になります。

抗告人である父親は、息子夫婦から共同で虐待された、少くとも息子夫婦の言動は、抗告人を精神的に苦しめるもので、実質的な虐待であること、息子が父が金庫に保管していた50万円を窃取したこと等を理由に、息子には廃除の事由がある旨を主張しました。

以上の事実関係や父親の主張を総合的に考慮し、裁判所は以下のとおり父親の即時抗告を棄却しています。

推定相続人の廃除は、相続的協同関係が破壊され、又は破壊される可能性がある場合に、そのことを理由に遺留分権を有する推定相続人の相続権を奪う制度であるから、民法892条所定の廃除事由は、被相続人の主観的判断では足りず、客観的かつ社会通念に照らし、推定相続人の遺留分を否定することが正当であると判断される程度に重大なものでなければならないと解すべきである。

そこで、これを本件についてみるのに、前記認定事実のもとでは、(略)制止のためとはいえ、老人に対し暴力を行使し、傷害を与えたことは些細なことと無視できるものではない。しかしながら、そのような暴行・傷害・精神的虐待の直接の原因は、抗告人の繰り返しの非難・謝罪要求にあることは前認定のとおりである。(略)抗告人は、家族から無視され精神的虐待を受けたと主張するが、抗告人が孤立したことは、家庭内不和の結果であって、前記抗争とは別の行為とは認め難いからこれをもって別個の廃除事由とみることはできない。

以上のように述べ、父親が受けた暴行・傷害・苦痛は、息子夫婦だけに非があるとはいえず、父親自身にもかなりの責任があるから、その内容・程度と前後の事情を総合すれば、いまだ息子の相続権を奪うことを正当視する程度に重大なものと評価するに至らず、結局廃除事由に該当するものとは認められないこと、一件記録を精査しても、息子が父親所有の50万円を窃取した事実を認めることはできないことから、父親の主張する廃除事由は、いずれも認められない、と判断しました。

(名古屋高等裁判所金沢支部平成2年5月16日決定)

1-2.非行の程度が「著しい」と認められなかった判例

相手方が申立人の孫らを債務者としてサラ金等から借金させ、約束を守らず弁済を怠り迷惑、不利益を与えたことを「非行」であるとして、非行を続けている相手方には申立人の財産を相続させることはできないと、推定相続人廃除の審判を申し立てた事案です。

裁判所が認定した事実によれば、相手方が申立人の孫らを債務者として、いわゆるサラ金などから4口合計280万円の借金をさせて相手方がその融資を受けながら支払いを怠ったため、孫らがサラ金などから請求を受けて弁済する破目になったことを契機として、地味に暮している申立人や長男らと異なり、転職転業が激しく、借財もある相手方の存在が、将来、かなりの資産を有する申立人の死亡により相続が開始したとき、その遺産分割問題で紛争の種になりかねないと考え、長男がその紛争防止策を警察署や家庭裁判所に聞き回り、申立人と相談した結果、本件審判の申立てに至った、という経緯があります。

裁判所は、推定相続人廃除制度について以下のとおり述べた上で、本件の申立てを却下しました。

推定相続人廃除制度は、特定の推定相続人に法定の廃除事由に該当する非行があり、いわゆる相続的協同関係を害すると評価される場合、その推定相続人の相続権を剥奪し、被相続人の私有財産権と自由意思の尊重に資するのを目的としたものである。そして、相続権の剥奪は、推定相続人の利害に及ぼす影響が極めて深刻であり、安易にこれを是認すると、遺留分制度を認めた現行相続法秩序を混乱させるおそれが大であるから、法定廃除事由に該当するか否かを判断するには慎重な考慮を要する。

そこで、本件についてみるに、前記認定のとおり、相手方に、民法892条所定の被相続人に対する「虐待又は重大な侮辱、その他重大な非行」等の廃除事由の存在を肯定できる事実を認めることはできず、かつ、申立人らもこれら廃除事由に該当する事実は相手方には存在しないことを認めているところである。相手方が申立人の孫らを債務者としてサラ金等から借金させ、約束を守らず弁済を怠り迷惑、不利益を与えたことについては、相手方は当然その責任を負わなければならないが、そのことをもって相手方の相続権を剥奪するに足る「著しい非行があった」と認めるのは無理である。

なお、申立人は、これまで相手方に多額の金員を与え、宅地を無償で貸与したことなどを強調し、ある程度それらの事実を認めることができるが、それらは親子間の愛情からなされた援助であり、いずれ遺産分割の際に相手方の特別受益として処理されるのは別として、廃除事由該当事実と認めることはできない。

2.相続廃除が認められた事例

続いて、相続廃除が認められた事例を見てみましょう。

2-1.「著しい非行」により相続廃除が認められた事例

窃盗罪等により何度も服役したほか、交通事故や借財を繰り返し、被相続人に被害者らへの謝罪、被害弁償、借金返済等により、父親に多大の精神的苦痛と多額の経済的負担を負わせた長男Aについて、父親が推定相続人からの廃除を申し立てた事案です。

申立人である父親の妻は既に死亡しているため、推定相続人は長男Aと次男Bの2人です。裁判所は本件において以下のような事実のあることを認定しました。

Aは中学時代にコンビニで万引きしたのを手始めとして以後窃盗等を繰り返し、これまで何度も刑務所に服役してきましたが、本件審判時も、現金盗につき常習累犯窃盗の罪に問われて懲役2年の刑に処せられ、刑務所に在監中でした。Aはこのほかにも、交通事故を繰り返したり、消費者金融から借金を重ねたりし、それでいながら、賠償や返済をほとんど行いませんでした。父親は、このため、窃盗や事故の被害者らに謝罪し、被害弁償や借金返済等に努め、これにより多大の精神的苦痛を被るとともに、少なくとも400万円から500万円程度を負担しました。

父親は、評価額1,300万円程度の自宅土地建物と評価額のつかない原野のほか数十万円の預金を有しており、全財産を次男Bに相続させる内容の公正証書遺言を作成済みであり、長男Aが将来遺留分を主張してBを苦しめることが予測されることから、Aを推定相続人から廃除することを思い立ったものです。

父親は、長男Aが求める手切れ金を渡すつもりがなく、将来における兄弟間の遺産争いを防ぐためにも、長男Aとの関係を断ち切るためにも、長男Aを推定相続人から廃除してほしいと述べています。一方で、長男Aは、父親に迷惑をかけたことを自認しつつ、推定相続人から廃除されることに納得できないとし、手切れ金として500万円ないし600万円を用意してくれるなら、これを受け入れてもよいし、遺留分を放棄してもよいと主張しました。

以上のような事情を総合的に検討し、裁判所は次のように結論しています。

相手方(長男A)は、これまで窃盗等を繰り返して何度も服役し、今も常習累犯窃盗罪で懲役2年の刑に処せられて在監中であり、このほかにも、交通事故を繰り返したり消費者金融から借金を重ねたりしながら、賠償や返済をほとんど行わず、このため、申立人(父親)をして被害者らへの謝罪と被害弁償や借金返済等に努めさせ、これにより、申立人に対し多大の精神的苦痛と多額の経済的負担を強いてきたことが明らかであって、申立人に対する著しい非行があったと認めるべきである。そして、これまでの経過や事情に加えて、相手方が自身の行状につき申立人にも責任の一端があるかの如く述べたうえ多額の手切れ金を要求しており、申立人がこれに応じる意思がないと述べていることからみて、両名の親子関係に改善の見込みがあるとはいい難く、その他、本件に顕れた諸般の事情を勘案すると、相手方を申立人の推定相続人から廃除するのが相当である。

(京都家庭裁判所平成20年2月28日審判)

2-2.「虐待」による相続廃除が認められた事例

被相続人(妻)がした公正証書遺言により指定された遺言執行者が、被相続人の夫Aを以下の理由で推定相続人から廃除することを求めた事案です。この事案では、以下のような事実関係が認められています。

  • 被相続人は末期の卵巣ガンの宣告を受け、入退院を繰り返しながら、夫Aとの自宅で療養を始めた。
  • Aは冬季の暖房代の節約と称して、自宅の居間をビニールシートでテントのように囲み、日々このビニールシートの中で生活、その中のみを暖房し、中でたばこも吸っていた。
  • 被相続人はやむなく居間の隣の暖房の行き渡らない部屋で療養していた。被相続人はAに対し、ビニールシートを外し、暖房を入れ、家を清潔にしてほしい旨言っても、聞き入れられることはなかった。
  • 前妻との間の長男B・長女Cはそれぞれ何度も、Aに対し、現在の生活態度を改めて、被相続人が療養できる環境を作るよう忠告したが、Aは「夫婦のことに口出しするな。」などと言ってこれを聞き入れなかった。
  • Aは、被相続人が闘病生活に入った後、長男Bに対して、「(被相続人は)五臓六腑が腐ってて、どうにもならんのだわ。」「黙っていてもまもなく死ぬんだから。」などと言ったことがあった。
  • Aは、被相続人に対し、「死人に口なし」とか、「(被相続人が治療の副作用のためにカツラを買ってほしいと頼んだのに対し)何時死ぬか分からない人間にカツラは必要ないだろう」などと言ったこともあり、保険会社の者に対し、被相続人のいる前で被相続人の死亡保険金の話をしていたこともあった。
  • Aがある日、被相続人との娘Dが使っていた電気ストーブを取り上げ、「家には昼間電気を使う金などない。寒くて勉強できなかったら出ていけ。」などと言ったため、被相続人はDとともに自宅を出ることを決意し、別居を始めた。
  • Aが被相続人側に自宅に戻るよう申し入れたこともあったが、長男Bや長女Cの説得にもかかわらず、自宅の環境の改善を拒否したため、被相続人が自宅に戻ることはなかった。かえって、被相続人が再度入院した際には、医師の措置により、Aの面会を拒否されることもあった。
  • Aとの別居後、被相続人は、ガン闘病のかたわら、長男B、長女C及び被相続人の実兄Gの勧めもあって、Aとの離婚を決意し調停を申し立てたが、Aが出頭を拒否したため調停不成立となった。そして、被相続人は、離婚訴訟を提起したが、その終結前に死亡してしまった。

以上のような事実関係について、裁判所は以下のとおり検討し、推定相続人廃除の申立てを認めました。

上記認定事実に照らして考察するに、まず、相手方は、被相続人が末期ガンを宣告された上、手術も受けて退院し自宅療養中であったにもかかわらず、療養に極めて不適切な環境を作出し、被相続人にこの環境の中での生活を強いていたのであって、このような行為は、客観的にみても虐待と評価するほかない。なお、相手方は、居間にビニールシートを張り巡らせてその中のみを暖房していたこと等について自認している一方で、被相続人に対しては療養に適した環境を作っていたとか、被相続人もこの環境に満足していたなどと主張し、さらには、被相続人が自宅を離れたのは、Gが被相続人の財産を狙って被相続人をそそのかしたからであり、離婚の申立てや本件廃除の申立ても同様であるなどとも主張しているが、そのような主張内容自体が不合理であり、G、B及びCの陳述内容や被相続人の離婚訴訟時の陳述内容にも反するから、到底採用することはできない。

次に、相手方は、被相続人本人からの不満や、B、Cらの再三の忠告にもかかわらず、ビニールシートを使った生活を継続し、また、被相続人が死んでも構わないなどという趣旨の、その人格を否定するような発言もしている。これらの事情に照らせば、相手方には、自ら闘病中の被相続人に対し虐待をしていると認識していたのはもちろん、これを積極的に認容していたと評価するほかない。

そして、相手方の被相続人に対する上記虐待行為は、その程度自体も甚だしく、相手方に推定相続人からの廃除という不利益を科してもやむを得ないものと考えられる。また、経過に鑑みれば、被相続人は、(別居開始後から)死亡するに至るまで、相手方との離婚につき強い意思を有し続けていたといえるから、廃除を回避すべき特段の事情も見当たらない。

以上検討したところによれば、相手方が被相続人に対し虐待を加えたもので、かつ、これが推定相続人の廃除の要件たる「虐待」に当たることは明らかである。

(釧路家庭裁判所北見支部平成17年1月26日審判)

 

相続廃除に関するQ&A

Q1.相続廃除とは何ですか?

A:相続廃除とは、被相続人の意思に基づき、家庭裁判所の審判によって推定相続人の相続権を失わせることです。廃除には、生前に被相続人本人が申立てを行う生前廃除と、廃除する旨の遺言をしたためておき、被相続人の死後に遺言執行者が遺言に基づき廃除を申し立てる方法があります。

Q2.相続廃除の主な要件は何ですか?

A:相続廃除の主な要件としては、民法第892条に定められた「被相続人に対する虐待、被相続人に対する重大な侮辱、その他の著しい非行」の3つが挙げられます。また、単にそうした行為に該当するだけではなく、それによって、法律上保障された相続権を奪うことが正当であると評価できる程度の重大性が要求されます。

Q3.相続廃除された相続人は遺留分を請求できますか?

A:いいえ、相続廃除された相続人は遺留分の請求権も失います。相続廃除は、その相続人の遺産相続する権利を失わせるものですから、特定の法定相続人であることを前提として保障される遺留分を請求する権利も失うことになるのです。

まとめ

相続廃除は、相続人の相続権を失わせる手続きです。遺産相続できなくなるという重大な結果を生じさせるため、単に「相続させたくない」といった理由では裁判所で申立てが認められません。

相続廃除でお困りの方は、法律の専門家である弁護士にご相談いただければと思います。

弁護士法人あおい法律事務所では、弁護士による法律相談を初回無料で行っております。当ホームページのWeb予約フォームやお電話にてご予約いただけますので、ぜひお気軽にご利用ください。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。