遺言書で全財産を一人に相続させたい!書き方は?遺留分に注意

遺言

更新日 2024.08.09

投稿日 2024.08.06

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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さまざまな理由から、全財産を一人に相続させたいと考えることは珍しくありません。しかし、全財産を一人に相続させる場合の遺言書の書き方には注意が必要です。特に、日本の相続法には「遺留分」という制度が存在し、これを無視すると相続トラブルに発展する可能性があります。

本記事では、全財産を一人に相続させるための遺言書の具体的な書き方や注意点を、専門家の解説を交えながらわかりやすく紹介します。さらに、遺留分に関するリスクとその対処法についても詳しく説明します。適切な遺言書を作成し、大切な財産を安心して託すための参考にしてください。

目次

遺言書で全財産を一人に相続させることはできる?

遺言書を作成することで、遺産を特定の一人に相続させることは可能です。これは、相続人の希望に基づいて遺産分割を行うための重要な手段です。しかし、全財産を一人に相続させる際には注意が必要です。日本の相続法では、「遺留分」という制度が存在し、法定相続人には最低限の相続権が保障されています。これを無視すると、遺留分侵害額請求をされる可能性があります。

遺留分とは、配偶者、子ども、両親、祖父母などの直系尊属に認められるもので、相続財産の一定割合が保障される制度です。例えば、配偶者と子ども一人がいる場合、それぞれに遺産の4分の1の遺留分があります。兄弟姉妹には遺留分は認められません。遺留分を侵害すると、遺留分侵害請求が行使され、相続分を取り戻されることがあります。

遺留分と遺留分侵害額請求については、下記記事を参照してください。

遺留分とは?最低限の遺産を請求できる相続人の範囲や割合と請求方法

遺留分侵害額請求とは?調停・訴訟の手続きなど請求の流れも解説

相続人以外に全財産を遺贈することも可能

また、法定相続人以外の第三者に遺産を渡したい場合も、遺言書でその旨を明記することができます。この場合は「遺贈」となり、遺言書には「○○に遺贈する」と記載します。

全財産を相続させる公正証書遺言の作成も可能

公正証書遺言は、公証人役場で公証人が作成する遺言書のことです。遺言者が口述した内容を公証人が書き取り、遺言者と証人がそれを確認して署名します。これにより、遺言書の内容が公的に証明され、信頼性が高くなります。

全財産を相続させる内容の遺言書であっても、公証人役場で公正証書遺言を作成してもらうことができます。

ただし、遺言書による遺留分の侵害が認められるわけではありません。

公正証書遺言の内容が遺留分を侵害している場合であっても、当然に遺留分を侵害された相続人は遺留分侵害額請求をする権利を持っています。そのため、遺留分侵害額請求がなされた場合は、遺言の内容は無効となり、実現できなくなりますので注意が必要です。

遺言書で全財産を一人に相続させたいケースとは?

遺言書を作成し、全財産を一人に相続させたいと考える場合、さまざまな理由や状況が考えられます。ここでは、代表的なケースについて具体的に解説します。

特定の相続人に感謝の意を示したい場合

遺言書を通じて、特定の相続人に対する感謝の気持ちを表したい場合があります。このようなケースでは、遺言者が特定の相続人に対して特別な感謝の意を持っており、その相続人に全財産を一人に相続させたいと考えます。例えば、親の介護を長年にわたり献身的に行ってきた子どもや、ビジネスの成功に大きく貢献したパートナーなどに対して感謝の意を込めて遺産を一人に相続させることが考えられます。

生活が心配な相続人がいる場合

将来の生活が不安定である相続人がいる場合、その相続人の生活を安定させるために全財産を一人に相続させることがあります。例えば、病気や障害を抱えている相続人や、経済的に苦しい状況にある相続人がいる場合です。このような場合、遺言書でその相続人に全財産を相続させることで、生活の不安を軽減することができます。

配偶者に全財産を相続させたい場合

子どもがいない、または子どもには既に十分な援助をしていると考える場合、配偶者の生活の安定を重視して全財産を相続させることがあります。遺言書で全財産を配偶者に相続させることによって、残された配偶者が安心して生活を続けられるようにすることができます。この場合も、遺言書に具体的な内容を明記することが重要です。

他の相続人に遺産を相続させたくない場合

遺言者が他の相続人と不仲である場合や、特定の相続人に対して財産を相続させたくないと考える場合もあります。このような場合、遺言書を用いて特定の相続人一人にのみ財産を相続させることができます。ただし、このようなケースでは遺留分の問題が発生する可能性があるため、専門家に相談することが重要です。

分割・共有が難しい財産がある場合

相続財産が分割や共有に適さない場合も、一人の相続人に全財産を相続させることが考えられます。例えば、先祖代々受け継がれてきた土地や家屋など、特定の財産を一人に相続させることで、その財産の維持管理を容易にすることができます。この場合も、遺言書に明確に記載することでトラブルを防ぐことができます。

全財産を一人に相続させる遺言書の書き方

遺言書を作成する際、特定の財産だけを分割方法として定めるのではなく、遺言者の所有する全ての財産について具体的に記載することが重要です。特定の財産のみを記載すると、残った財産について遺産分割協議が必要となり、紛争が生じる可能性があります。これを避けるためにも、全ての財産の帰属を「その他一切の財産」という包括的な記載で明示することが求められます。また、遺留分に反する遺言であっても、その遺言自体が無効になるわけではありませんが、遺留分侵害額請求がなされると拒むことができません。そのため、遺言内容が合理的な事情に基づく場合は、その理由を遺言書に記載することで、他の相続人からの理解を得られる可能性があります。

以下に、一人だけに全財産を相続させる遺言書の具体的な例文を示します。

遺 言 書

遺言者山田太郎は、次のとおり遺言する。
1.遺言者山田太郎は、その妻山田花子(昭和○○年○○月○○日生)に、遺言者の所有する下記不動産、預金、現金及びその他一切の財産を相続させる。

(1) 土地
・所在:○○県○○市○○町○丁目
・地番:○番○号
・地目:宅地
・地積:○○m² 

(2) 建物
・所在:○○県○○市○○町○丁目
・家屋番号:○番○号
・種類:居宅
・構造:木造瓦葺2階建
・床面積:1階 ○m²、2階 ○m² 

(3) 預金
○○銀行○○支店の遺言者名義の預金全部

(4) 現金全部
以上

2.この遺言をした理由は、次のとおりである。
この遺言をした理由は、次のとおりです。遺言者の長男である山田一郎(平成○○年○○月○○日生)は、結婚するにあたり、遺言者からマンション購入のために金○○○万円を贈与され、独立して生活しています。次男の山田次郎(平成○○年○○月○○日生)は現在遺言者と同居していますが、就職して収入が安定しています。一方、妻の山田花子は高齢であり、万が一の事態に備えて財産を有しておく必要があります。そこで、遺言者は自身の全ての財産を山田花子に相続させることに決めました。遺言者は、長男山田一郎および次男山田次郎がこの気持ちを十分に理解し、遺留分侵害額請求権を行使せず、母を大切にし、兄弟仲良く暮らしてくれることを願っています。

遺言書で全財産を一人に相続する場合の注意点

遺言書で遺産を特定の一人にすべて相続させる場合、いくつかの注意点があります。これらのポイントを押さえることで、相続に関するトラブルを避け、遺言者の意思を実現しやすくなるでしょう。

他の相続人から遺言無効を主張されるリスク

遺言書によって全財産を一人に相続させると、他の相続人が不満を抱き、遺言無効を主張することがあります。特に、自筆証書遺言は争いの対象になりやすいです。自筆証書遺言には厳密な形式が求められ、書き方に不備があると無効になる可能性があります。これを避けるためには、公証人と証人が立ち会う「公正証書遺言」を作成することが推奨されます。公正証書遺言は信頼性が高く、無効を主張されにくいです。

理由を付言事項に記載する

遺産を一人に相続させる理由を遺言書に書き添えると、他の相続人の理解を得やすくなります。これを「付言事項」といい、法的効力はありませんが、遺言者の思いを伝える効果があります。例えば、「妻の老後の生活を安定させるため」「長男には既に十分な援助をしているため」といった理由を書き添えると良いでしょう。

全財産を漏れなく記載する

遺言書には、全ての財産を具体的に記載することが重要です。特定の財産だけを記載すると、残った財産について遺産分割協議が必要となり、トラブルの原因になります。「その他一切の財産」と包括的に記載することで、全財産の帰属を明確にします。

兄弟姉妹以外の相続人には遺留分がある

遺言書で全財産を一人に相続させる場合、他の相続人が遺留分侵害額請求をする可能性があります。遺留分とは、配偶者、子供、親などに法的に保障されている最低限の相続分です。兄弟姉妹には遺留分はありませんが、他の相続人には請求する権利があります。これに対処するために、遺留分を請求されたときのために現金を多めに残しておくと良いでしょう。

高額な相続税を支払うリスク

全財産を一人で相続する場合、その相続人は全財産にかかる相続税を一人で負担することになります。遺産の総額が多ければ相続税も高額になり、相続税を支払うために相続した不動産を売却したり、預貯金や現金を切り崩したりする必要が生じるかもしれません。このような事態を避けるためには、遺産の構成を考慮し、必要に応じて相続税を支払うための現金を確保しておくことが重要です。

専門家の助けを借りる

遺言書の作成は複雑な法的手続きを伴います。そのため、弁護士や公証人などの専門家に相談することが重要です。専門家の助言を受けることで、法的に有効な遺言書を作成し、遺産を一人に相続させる意向を確実に実現できます。

これらのポイントを踏まえて遺言書を作成することで、全財産を一人に相続させる意向を円滑に実現し、他の相続人とのトラブルを避けることができます。

遺言書で全財産を一人に相続すことを検討する際の留意点

一人だけでなく複数人に残すことも可能

遺言書を作成する際、遺産を一人に相続させるだけでなく、複数の人に分けて相続させることも可能です。特定の相続人に遺産を相続させたくない場合でも、一人に全財産を相続させるのではなく、他の相続人に分配することができます。これにより、相続に関するトラブルを避けることができる場合があります。

場合によっては、遺言書で「推定相続人の廃除」を行うこともできます。これは、特定の相続人の相続権をはく奪する手続きです。廃除事由(相続人としてふさわしくない行為など)が必要ですが、遺言書で廃除を明記することで、家庭裁判所に申立てを行い、認められればその相続人の相続権を失わせることができます。

遺産分割協議によって一人だけが相続することもある

遺産分割協議とは、亡くなった人(被相続人)の遺産を相続人たちがどのように分けるかを話し合うことです。この協議で全員が合意すれば、一人の相続人が全ての遺産を相続することができます。

遺産分割協議で遺産を一人に相続させるためには、相続人全員の同意が必要です。たとえ遺言書がなくても、相続人全員が一人に遺産を相続させることに同意すれば、その相続人が全ての遺産を受け取ることができます。

単独相続の合意が成立するのは、例えば次のような場合です。

他の相続人が単独相続に賛成している場合や、相続人全員が遺産分割協議に参加し、一人に相続させることに同意する必要があります。ただし、遺産分割協議での合意には注意が必要です。一人でも反対する相続人がいると、単独相続の合意は成立しません。

さらに、遺産分割協議の内容が決定したら必ず「遺産分割協議書」を作成し、保管しておきましょう。遺産分割協議書には相続人全員の署名と実印での押印、そしてそれぞれの印鑑証明書が必要です。この書類は遺産分割協議が行われたことの証明となり、不動産の名義変更や銀行預金を解約する際に必要となります。相続関係の手続きをスムーズに進めるためにも、遺産分割協議書をあらかじめ作成しておくことが重要です。

遺言書で全財産を一人に相続させることに関するQ&A

Q: 遺言書で一人に全財産を相続させる際、他の相続人の遺留分にどう対応すればよいですか?

A: 遺留分を侵害しないようにするためには、まず遺留分の権利を持つ相続人(配偶者、子、直系尊属)の存在を確認します。遺留分を侵害すると、相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。このリスクを避けるために、遺言書に付言事項として理由を記載し、遺言者の意図を明確に伝えます。また、遺留分を請求された際に対応できるよう、現金や流動資産を多めに遺しておくと良いでしょう。さらに、弁護士に相談し、遺留分を考慮した適切な遺言書を作成することをおすすめします。

Q: 遺産を一人に相続させる理由は遺言書に書くべきですか?

A: はい、他の相続人の理解を得るために、遺言書に付言事項として理由を明記することを強くおすすめします。例えば、「妻の老後の生活を安定させるため」「長男には既に十分な援助をしているため」といった具体的な理由を記載することで、遺言者の意図が伝わりやすくなります。付言事項には法的効力はありませんが、相続人間のトラブルを避け、遺言者の思いを理解してもらうために有効です。

Q: 遺産分割協議で一人に相続させることは可能ですか?

A: はい、遺産分割協議で全相続人が合意すれば、遺言書がなくても一人に全財産を相続させることが可能です。遺産分割協議は相続人全員で行い、全員が合意する必要があります。合意内容を文書化し、「遺産分割協議書」を作成します。この協議書には相続人全員の署名と実印での押印、各自の印鑑証明書が必要です。遺産分割協議書は、不動産の名義変更や銀行預金の解約など、相続手続きを進める際に必要となります。これにより、円滑に遺産を一人に相続させることができます。

Q 遺言書作成時に弁護士に相談するメリットは何ですか?

A 遺言書作成時に弁護士に相談することで、以下のようなメリットがあります。まず、遺言書が法的に有効であることを確認できます。弁護士は遺言書の形式や内容が法律に適合しているかを確認し、無効にならないよう適切なアドバイスを提供します。次に、遺留分に関するトラブルを未然に防ぐことができます。弁護士は遺留分を考慮した上で遺言書を作成し、相続人間のトラブルを避けるための対策を講じます。また、弁護士に相談することで、相続税対策や遺産分割協議書の作成など、相続に関する手続きをスムーズに進めることができます。専門家の助言を受けることで、安心して遺言書を作成し、遺産を一人に相続させる意向を確実に実現できます。

まとめ

遺言書を作成し、全財産を特定の一人に相続させたいと考えることは少なくありません。しかし、遺言書を通じて一人に全ての遺産を相続させる場合、他の相続人が不公平だと感じることがあり、遺留分に関するトラブルが発生する可能性があります。そのため、遺言書を作成する際には、法的な要件を満たしつつ、遺留分への配慮が必要です。

一人に相続させたいと考える場合は、事前に弁護士に相談し、リスクに備えてしっかりとした相続対策を行うことが重要です。専門家のアドバイスを受けながら、適切な遺言書を作成し、円満な相続を実現しましょう。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。