遺言書の書き方と例文│自筆証書遺言が無効にならないための作成方法

遺言

更新日 2024.10.01

投稿日 2024.08.06

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

弁護士法人あおい事務所の相続専門サイトをご覧いただき、ありがとうございます。当サイトでは、相続に関する法的な知識を分かりやすくお届けしております。皆様のお悩みの解消に少しでもお役立ちできましたら幸甚です。

遺言書は、書き方が適切でなければ、無効とされてしまう可能性もあります。この記事では、自筆証書遺言の書き方と注意点について詳しく解説します。

まず、自筆証書遺言とは、遺言者が手書きで作成する遺言書のことです。これにより、自身の意志を相続に反映させることができますが、要件に従って正確に書く必要があります。

たとえば、遺言者の署名と押印が必要であり、日付の記入も必須です。また、内容が明確でない場合や法律に違反する場合には、遺言書全体が無効とみなされることもあります。

この記事では、自筆証書遺言が無効にならないための具体的な書き方と例文を紹介し、誰でも簡単に理解できるように説明します。遺言書の正しい書き方を学び、大切な財産を確実に次世代に引き継ぎましょう。

目次

遺言書を作成する前の前提知識

遺言書とは

遺言書とは、亡くなった人(被相続人)が生前に「自分の財産を誰にどれだけ残すのか」を明確にするための書面です。読み方は「ゆいごん」または「いごん」といいます。遺言書には被相続人の意思が記されており、その内容に従って遺産が分配されるため、遺産相続がスムーズに進むことが期待されます。遺産の分け方をめぐる相続人同士の争いを防ぐ役割も果たします。

なお、遺言書を作成することで、法律で定められた相続人以外の人にも財産を譲ることが可能です。例えば、長男の妻は法定相続人には含まれませんが、遺言書に記載することで長男の妻にも財産を渡すことができます。また、遺産を寄付することも可能です。このように、遺言書は被相続人の意志を確実に実現するための大きな効力を持つ文書です。

遺言書の効力については、下記記事で詳しく解説しております。あわせてご覧ください。

「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類がある

遺言にはいくつかの種類がありますが、一般的に使われているのが「普通方式遺言」です。この普通方式遺言には、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つがあります。ここでは、よく利用される「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」について、それぞれの特長やメリット・デメリットを見ていきましょう。

種類

特徴

メリット

デメリット 

自筆証書遺言

遺言者が全文、日付、氏名を手書きし、押印する遺言書。2019年1月13日以降、財産目録はパソコンや代筆でも作成可能。

・費用がかからず、いつでも書き直しが可能
・内容を秘密にできる

・法的要件を満たさないと無効になる恐れがある
・紛失、忘れられる、または改ざんされるリスクがある
・死後に家庭裁判所で検認手続きが必要

公正証書遺言

公証役場で証人2人以上の立会いの下、公証人が遺言者の述べた内容を文書にする遺言書。原本は公証役場で保管。

・公証人が作成するため、無効になる可能性が低い
・改ざん、紛失の心配がない
・家庭裁判所での検認手続きが不要

・証人が2人必要
・作成に費用と手間がかかる

 

作成した自筆証書遺言は法務局で保管してもらえる

自筆証書遺言は、費用をかけずに一人で簡単に作成できますが、無効になるリスクや紛失、改ざんの心配があります。そこで、これらの問題を解決するために、「自筆証書遺言書保管制度」が2020年7月10日から始まりました。この制度では、遺言書を法務局で保管してもらえます。全国の法務局で利用可能です。

自筆証書遺言書保管制度を利用すると以下のようなメリットがあります。

・安全な保管

法務局で遺言書の原本と画像データを保管するため、紛失や改ざんの心配がなく、安心です。

・無効のリスク低減

法務局職員が形式をチェックしてくれるため、形式上の不備で無効になるリスクが減ります。

・発見しやすい

遺言者が亡くなった時に指定した人に法務局から通知が届くので、遺言書が見つからない心配がありません。

・検認手続き不要

法務局で保管された遺言書は家庭裁判所での検認が不要になり、遺言の内容をすぐに実行できます。

自筆証書遺言書保管制度について、詳しくは下記記事で解説しております。利用を検討される方は参照してください。

また、法務省ホームページ「自筆証書遺言保管制度」でも制度内容、手続き等について説明されています。参照してください。

遺言書(自筆証書遺言)の文例・見本

初めて遺言書を作成する方にとって、その書き方や具体的な内容についてのイメージを持つことは難しいかもしれません。ここでは、自筆証書遺言の見本となる具体的な文例・ひな形を紹介します。

遺 言 書

遺言者山田太郎は、次のとおり遺言する。

1 遺言者は、遺言者が有する次の財産を、遺言者の妻山田花子(昭和○○年○○

月○○日生)に相続させる。

(1) 土地

  静岡県静岡市○○区○○町 ○○番○

          宅地 ○○○・○○平方メートル

    (2) 建物

          静岡県静岡市○○区○○町○○番地○ 家屋番号 ○○番○

          木造かわらぶき2階建 居宅

          1階 ○○・○○平方メートル

          2階 ○○・○○平方メートル

2 遺言者は、遺言者名義の預貯金口座(○○銀行、口座番号:123456789)の全額を、遺言者の長女山田三子(昭和○○年○○月○○日生)に相続させる。

3 遺言者は、前記1、2に記載した財産以外に、遺言者の有する財産があった場

合、そのすべてを妻花子に相続させる。

4 遺言者は、妻花子を遺言執行者に指定する。

令和○年○月○日

住所 静岡県静岡市○○町○○番○○号

山 田 太 郎 ㊞

自筆証書遺言の書き方│要件を満たさない遺言書は無効

自筆証書遺言には厳しい要件が法律で定められています。(民法968条)

この要件を満たさない限り、遺言書は効力を発揮せずに無効となってしまいます。

(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
(引用:e-Gov法令検索「民法968条

ここでは、民法で定められた自筆証書遺言の書き方の要件について具体的に説明します。

① 遺言書の全文、日付、氏名を手書きで自書・押印

遺言書の本文は、遺言者本人がすべて手書きで書く必要があります。これは、遺言者の意思を明確にするためです。具体的には、以下の点に注意します。

  1. 遺言書の全文:遺言書の内容全てを遺言者が手書きで記載します。
  2. 日付:遺言書を作成した具体的な年月日を記入します。「○年○月○日」という形式で書きます。
  3. 氏名:遺言者の氏名を自署します。自筆証書遺言書保管制度を利用する場合は、住民票に記載された通りの名前を書きます。
  4. 押印:遺言書には印鑑を押す必要があります。認印でも構いませんが、実印を使うとより確実です。

②添付する財産目録を手書き以外で作成する場合は全てに署名・押印

財産目録は遺言書の本文とは別の用紙に作成します。

財産目録はパソコンで作成したものや、預金通帳のコピー、不動産の登記事項証明書のコピーなどを添付しても構いません。

ただし、その場合は、各ページに遺言者の署名と押印が必要です。両面コピーの場合は、両面に署名と押印を行います。

③書き間違った場合の訂正・追加

遺言書の記載内容を変更する場合、以下の手順に従います。

  • 訂正方法:間違えた箇所に二重線を引き、訂正のための印鑑を押します。
  • 訂正箇所の指示:「上記〇中、○字削除〇字追加」と訂正又は追加した旨を付記して署名する。

自筆証書遺言保管制度を利用する場合は様式の要件がある

自筆証書遺言を法務局で保管するためには、遺言書の作成に関していくつかの様式の要件を守る必要があります。これらの要件を満たさない場合、遺言書は法務局で受け付けてもらえないため、注意が必要です。以下に具体的な要件を説明します。

1. 用紙について

遺言書の用紙は以下の条件を満たす必要があります。

  • サイズ:A4サイズの用紙を使用する。
  • 模様等:文字が読みづらくなるような模様や彩色がないものを使用する。一般的な罫線は問題ありません。
  • 余白:用紙の上下左右に最低限の余白を確保する。具体的には、上部5ミリメートル、下部10ミリメートル、左20ミリメートル、右5ミリメートルの余白を保つ。余白に文字がはみ出している場合は、書き直しが必要になります。

2. 片面のみの記載

遺言書は用紙の片面のみに記載します。両面に書かれた遺言書や財産目録は受け付けてもらえません。

3. ページ番号の記載

複数ページにわたる場合、各ページにページ番号を記載します。ページ番号は必ず余白内に書き、総ページ数がわかるように記載します。例:「1/2、2/2」。

4. ホチキス等で綴じない

遺言書の各ページはホチキスやクリップで綴じず、バラバラのまま提出します。封筒に入れる必要もありません。これは、スキャナで遺言書を読み取るためです。

記載上の留意事項

さらに、遺言書を記載する際には以下の点に留意する必要があります。

1. 筆記具について

遺言書は長期間保存されるため、ボールペンや万年筆などの消えにくい筆記具を使用します。消えるインクの使用は避けてください。

2. 遺言者の氏名

遺言者の氏名は戸籍どおりの正式な氏名を使用します。外国籍の方は公的書類に記載されている氏名を記載します。ペンネームやニックネームでは受け付けてもらえません。これは、遺言書の保管申請時に提出する資料で遺言者本人の氏名を確認するためです。

遺言書

(引用:政府広報オンライン「知っておきたい遺言書のこと。無効にならないための書き方、残し方」)

要件を満たす遺言書の用紙は法務省HPよりダウンロード可

法務省のホームページから、要件を満たす遺言書の用紙例をダウンロードして利用することができます。

法務省ホームページ:遺言書の用紙例

この用紙例は、A4サイズで印刷することで、必要な余白(左20ミリメートル以上、上・右5ミリメートル以上、下10ミリメートル以上)を確保できるように設計されています。ただし、プリンターの機種や設定によって印刷位置にずれが生じることがあるため、印刷後に余白が確保されているかを確認することが重要です。もちろん、無地の用紙も使用可能ですが、罫線が入っている場合は文字の判読を妨げないものである必要があります。

自筆証書遺言の書き方の注意点

相続する財産を把握する

遺言書を作成する際には、自身が保有するすべての財産を正確に把握することが重要です。これを怠ると、遺産の分配がスムーズに進まず、相続人間でのトラブルの原因となることがあります。事前に以下のような資料を集め、財産をリストアップしましょう。

 

説明

具体例 

不動産の関連書類

不動産の情報を把握するための書類。所有者情報や権利関係が記載されている。

登記簿(全部事項証明書)

預貯金の記録

銀行や信用金庫に預けている預貯金の残高や取引履歴を確認するための書類。

預貯金通帳、取引明細書

証券や金融資産の記録

株式や債券、FX取引、仮想通貨の取引履歴を把握するための書類。

証券会社の取引明細書、FX会社の取引履歴、仮想通貨交換所の取引記録

会員権や権利証書

ゴルフ会員権やその他の会員権に関する証書。

ゴルフ会員権の証書、その他の会員権証書

保険証書

生命保険やその他の保険に関する証書。受取人や契約内容を確認するために重要。

生命保険証書、その他の保険証書

動産の明細書

絵画や骨董品、貴金属、宝石などの動産に関する明細書や鑑定書。これにより評価額を把握。

絵画の明細書、骨董品の鑑定書、貴金属の明細書、宝石の鑑定書

その他の重要書類

賃貸収入がある場合の不動産賃貸契約書、事業を経営している場合の契約書や決算書、貴金属や宝石の鑑定書。

不動産賃貸契約書、事業の契約書、事業の決算書、貴金属の鑑定書、宝石の鑑定書

遺産分配を明確に記載する

遺言書を作成する際には、誰にどの遺産をどのように相続させるのかを明確に書くことが重要です。相続内容が曖昧だと、遺族間でのトラブルの原因となり、遺言書の意図が正しく伝わらないことがあります。

遺言書を書く際には、具体的にどの遺産を誰にどれだけ相続させるのかを明確に記載しましょう。以下に具体例を示します。

  • 長男、田中太郎には「○○銀行○○支店の定期預金、口座番号1234567890」を相続させます。
  • 次男、田中次郎には「A株式会社の株式、数量100株」を相続させます。

このように詳細に記載することで、遺産分割がスムーズに行われ、遺族間のトラブルを避けることができます。

財産目録を作成して遺言書に添付する│パソコンでも可

遺言書を作成する際には、どのような遺産があるのかを明確にするために「財産目録」を作成し、遺言書に添付することが重要です。財産目録は、遺産の資産内容と負債内容、そしてその合計額を一覧表にしたものです。

自筆証書遺言の場合でも、財産目録については手書きでなくても大丈夫です。パソコンで作成したり、他の人に代筆してもらうことが可能です。また、預貯金通帳の写しや不動産全部事項証明書などの資料を添付することでも代用できます。ただし、パソコンで作成した財産目録や添付資料を使用する場合、すべてのページに遺言者の署名と押印が必要です。

項目

説明 

不動産の情報

不動産に関する情報を、不動産全部事項証明書から引き写します。これには、住所や地番、土地の面積などが含まれます。

預貯金の情報

通帳の写しを用意し、支店名や口座番号を確認します。残高や取引履歴も明記し、具体的な金額を示します。

金融資産の情報

株式や債券、仮想通貨などの金融資産を記載します。取引明細書や保有証明書を添付し、保有数量や評価額を明示します。

動産の情報

絵画や骨董品、貴金属、宝石などの価値のある動産についても、購入時の明細書や鑑定書を添付し、評価額を明確に示します。

負債の情報

住宅ローンや借入金などの負債も一覧に含めます。借入先や残高を明確に示し、遺産の全体像を把握できるようにします。

遺言執行者を指定する

遺言書に遺言執行者を指定しておくことで、遺言内容をスムーズに実現することができます。遺言執行者は、遺言書に記載された内容を実行する責任を持つ人物であり、遺産分割や財産管理を行う際に重要な役割を果たします。信頼できる相続人や弁護士などの専門家を遺言執行者として指定することをおすすめします。

遺留分を侵害しないようにする

遺留分とは、兄弟姉妹を除く法定相続人に保障されている、相続財産の最低限の取り分です。遺言書を作成する際には、この遺留分に配慮することが非常に重要です。遺留分を無視して遺言書を書いてしまうと、遺留分に足る相続財産を受け取れなかった相続人から遺留分侵害額請求が行われ、トラブルに発展する可能性があります。

遺留分については、下記記事で詳しく解説しております。あわせてご覧ください。

付言事項で遺言の意図を伝える

付言事項とは、遺言書において相続人などに伝えたい言葉を残す部分です。この部分には、家族に対する感謝の気持ち、遺言書を作成した経緯、相続財産の配分の意図、葬儀の方法などを記載します。付言事項には法的な拘束力はありませんが、遺産分配に納得できない相続人を理解させる効果が期待できます。付言事項には、例えば以下のような内容を記載します。

感謝の気持ちを伝える

遺言書には家族や大切な人々への感謝の言葉を記載し、遺言者の思いと家族の絆を再確認します。

遺言書作成の経緯

遺言書を作成した背景や理由を説明し、相続人に対する配慮や意図を伝えます。

相続財産の配分の意図

各相続人への財産分配の具体的な理由を記載し、遺言者の意図を明確にします。

葬儀の方法

希望する葬儀の方法や場所について記載し、遺族が遺言者の意向を尊重した葬儀を行えるようにします。

感情や希望を記載

法的拘束力はないものの、感情や希望を具体的に書き残すことで相続人が遺言者の意図を理解しやすくなります。例えば、「全員が仲良くしてほしい」などの希望を伝えます。

簡単な遺言書の書き方を例文でご紹介!

遺言書の書き方は、誰にでもわかりやすく簡単にできるものから、少し複雑な内容までさまざまです。ここでは、最も簡単な遺言書の書き方について例文を交えてご紹介します。簡単な遺言書であれば、ご本人のみで作成することも可能ですが、内容が複雑になる場合には、弁護士などの専門家の助けを借りることをお勧めします。

当事務所では、最も良い内容での遺言書作成をサポートしておりますので、遺言書を作成しようとお考えの方は、ぜひご相談ください。

全財産を一人に相続させるケース

1.遺言者は、遺言者が有するすべての財産を、遺言者の二男山田次郎(昭和○○年〇月〇日生)に相続させる。
2.遺言者は、二男山田次郎を遺言執行者に指定する。

付言事項
私が亡くなった後、長年にわたって私の世話をしてくれた次郎に全財産を相続させたいと思います。長男の太一には、この決定に異議を述べることなく、これからも兄弟仲良く助け合っていってください。家族の絆を大切にし、次郎が行ってくれた献身に感謝の意を示したいと思います。

この遺言では、全財産を二男に相続させる場合の記入例を紹介しています。具体的には、遺言者が所有するすべての財産を二男に相続させ、同時にその二男を遺言執行者として指定しています。付言事項には、二男が長年世話をしてくれたことに対する感謝の気持ちと、長男に対して兄弟仲良くしてほしいという願いを記載しています。付言事項には法的効力はありませんが、遺言者の思いや理由を伝えることで、相続人間の理解と協力を得やすくなります。

子供がいない場合で妻に全財産を相続させるケース

1.遺言者は、遺言者が有するすべての財産を、遺言者の妻山田花子(昭和○○年〇月〇日生)に相続させる。
2.遺言者は、妻山田花子を遺言執行者に指定する。

付言事項
私に何かあったとき、花子が安心して暮らせるように、この遺言書を作成しました。花子と出会えたことは、私の人生の最大の幸せでした。感謝の気持ちでいっぱいです。これからも少しでも花子の人生の支えになればと思い、私の全財産を花子に相続させたいと願っています。父と母には、私の遺志を理解し、花子を支えてあげてくださるようお願いします。どうか花子をよろしくお願いします。

子供がいない場合、妻に全財産を相続させるためには遺言書が不可欠です。

もし遺言書を作成せずに夫が亡くなった場合、夫の両親が存命であれば、妻が相続できるのは全財産の3分の2に限られます。さらに、両親がすでに亡くなっていても兄弟姉妹がいる場合には、妻の相続分は4分の3になります。

この遺言書では、全財産を妻に相続させることを明記し、妻への感謝の気持ちと両親への支援のお願いを付言事項で伝えています。

相続人以外の他人に財産を相続させるケース

1.遺言者は、遺言者が有するすべての財産を、東京都○○区○○1丁目2番3号に在住の田中和美(昭和○○年○月○○日生)に遺贈する。

付言事項
田中和美さんには、長年にわたり私の世話をしていただき、心から感謝しています。恩返しの意味を込めて、私の財産を田中和美さんに遺贈することにしました。子どもたちには、不動産や金融資産を生前に贈与済みですので、田中和美さんへの配慮をお願いしたいと思います。

この遺言書では、相続人以外の人に財産を遺贈する場合のポイントを解説します。財産は友人やお世話になった人など、血縁関係にない人にも残すことができますが、この場合は遺言書に明記することが必須です。血縁関係にない人に財産を遺贈したい場合、遺言書をきちんと作成しましょう。

特に注意すべき点は、「相続」という言葉ではなく「遺贈」という言葉を使用することです。相続人以外の人に財産を残す際には、「遺贈」という言葉を使うことが正しい表現です。遺言書には、遺贈する相手の名前、住所、生年月日を具体的に記載し、感謝の気持ちや理由を付言事項に書き添えることで、相続人間の理解を得やすくなります。

その他、様々なケースにおける例文について、法務局ホームページ「遺言書は大切な人へのあなたのメッセージ」に掲載されています。参考にご覧ください。

遺言書で定められる内容

遺言書で定めることができる主な内容は以下の通りです。

①財産処分

遺産をどのように分配するかを決める。具体的には、不動産、預貯金、株式などを誰に相続させるかを指定する。

②推定相続人の廃除・取消

相続人となるべき者を相続人から除外することができる。重大な非行を理由に推定相続人を廃除したり、廃除を取り消したりする。

③認知

法律上の父子関係を認めること。未認知の子を遺言によって認知することができる。

④後見人・後見監督人の指定

未成年の子どもや判断能力の不十分な人のために、後見人や後見監督人を指定することができる。

⑤相続分の指定・その委託

各相続人が受け取る相続分を指定する。また、相続分の指定を第三者に委託することも可能。

⑥遺産分割方法の指定・その委託

遺産の分割方法を具体的に指定する。遺産分割の方法を第三者に委託することもできる。

⑦遺産分割の禁止

遺産分割を一定期間禁止することができる。遺産分割の方法について争いを防ぐためなどに有効。

⑧相続人の担保責任の指定

相続人が負うべき担保責任について指定することができる。例えば、相続人が受け取った財産に瑕疵があった場合の責任範囲など。

⑨遺言執行者の指定・その委託

遺言書の内容を実行する遺言執行者を指定する。遺言執行者の指定を第三者に委託することもできる。

公正証書遺言の書き方│公証役場の公証人が文章を作成

公正証書遺言の書き方を説明します。まずは最寄りの公証役場に電話をして相談の予約をとりましょう。書き方が完全に決まっていなくても、公証人と相談しながら決めていくことができます。もし自筆証書遺言の下書きやメモがあれば、持参するとよいでしょう。

相談の結果、遺言書を作成することが決まったら、公証人が公正証書遺言の文章を作成します。この際、ご自身や推定相続人、相続財産の裏付けとなる証明書類(印鑑証明書、戸籍、固定資産評価証明など)を提出する必要があります。これらの書類で情報を裏付けし、公証人が原稿を仕上げていきます。

作成日には証人2人の立ち会いが必要です。証人には家族や相続人などの関係者はなれませんが、公証役場に依頼すれば証人を手配してもらえます。原稿が完成したら、公証人から確認を求められますので、しっかりとチェックしましょう。

作成当日には、公証役場で公証人が遺言を読み上げ、遺言者、公証人、証人が署名捺印して公正証書遺言が完成します。実印と公証人手数料(数万円から十数万円程度)を用意してください。作成した公正証書の原本は公証役場で保管され、謄本を持ち帰ります。

公正証書遺言の作成には手間がかかりますが、専門家にサポートを依頼することで安心して進めることができます。弊事務所でも公正証書の作成サポートを行っていますので、ぜひご相談ください。

公正証書遺言について、詳しくは下記記事をご覧ください。

遺言書の書き方に不安がある方は弁護士に相談を

遺言書の書き方に不安がある場合は、弁護士などの専門家に相談することを強くおすすめします。専門家に依頼することで、要式不備による無効のリスクを避けられるため、安心して遺言書を作成できます。また、弁護士に遺言執行者を任せると、不動産の名義変更や預貯金の払い戻し、寄付などの手続きもスムーズに行われ、遺言内容の実現が容易になります。

さらに、遺言書の内容についても専門家のアドバイスを受けることができ、一人では決められない場合でも最適な遺言内容を策定できます。遺留分に配慮することも重要であり、特定の相続人に遺産の大半を分配した場合でも、他の相続人とのトラブルを防ぐための対策を講じることが可能です。弁護士に相談することで、遺言書の書き方を正確かつ法的に有効にし、安心して将来に備えることができます。

遺言書の書き方に関するQ&A

Q: 自筆証書遺言の書き方に関して、どのような点に注意すればよいですか?

A: 自筆証書遺言の書き方にはいくつかの重要な注意点があります。以下のポイントを守ることで、遺言書が無効になるリスクを避けることができます。

  1. 作成日付の具体的な記載
    遺言書を作成した具体的な年月日を記載してください。「○年○月吉日」といった曖昧な日付は無効です。
  2. 署名と押印
    遺言書には署名と押印が必要です。押印は認印でも問題ありませんが、スタンプ印は避けてください。
  3. 内容の変更・追加
    遺言書の内容を変更・追加する場合、その場所が分かるように明示し、変更・追加の旨を付記して署名し、変更した場所に押印をします。ただし、変更・追加がある場合には書き直すことをおすすめします。
  4. 氏名の記載
    遺言者の氏名は住民票や戸籍の記載どおりに記載してください。ペンネームなど、公的書類から確認できない名前では無効です。
  5. 用紙の要件(自筆証書遺言保管制度を利用する場合)
    用紙はA4サイズで、地紋や彩色のないものを使用してください。余白を確保し、ページ数や変更・追加の記載を含めて、余白部分には何も記載しないでください。また、片面のみを使用し、裏面には何も記載しないでください。
  6. 筆記具の選定
    長期間保存するため、ボールペンなどの容易に消えない筆記具を使用してください。
  7. 財産目録の添付
    財産の特定のためには、遺言書に財産目録を添付することが確実です。
  8. 推定相続人への記載方法
    推定相続人には「相続させる」または「遺贈する」と記載します。

これらのポイントを守ることで、法的に有効な自筆証書遺言を作成することができます。

Q: 自筆証書遺言に添付する財産目録はどのように作成すればよいですか?

A: 自筆証書遺言には、どのような財産があるのかを明確にするための「財産目録」を添付しましょう。財産目録は、資産の内容と負債の内容、そしてその合計額を示す一覧表です。この財産目録は、手書きでなくても、代筆やパソコンを使って作成することができます。また、預貯金通帳の写しや不動産の登記簿の写しなどの資料を添付することでも代用できます。ただし、パソコンや資料を使って財産目録を作成する場合は、すべてのページに遺言者の署名と押印をする必要があります。

不動産の情報は、不動産の登記簿から「表題部」を正確に写し、預貯金については通帳を見て支店名や口座番号を間違えずに記載します

Q: 遺言書の作成を依頼するにはどの専門家に相談すればよいですか?

A: 遺言書の作成を依頼する場合、弁護士に相談するのが最も包括的な対応が可能です。弁護士は、遺言書の作成・保管から遺言執行、さらには死後のトラブルへの対応まで、幅広い相続手続きをサポートします。不動産の相続方法を指定する際には、相続登記を依頼できる司法書士に相談することも有効です。行政書士も遺言書作成に対応していますが、弁護士事務所であれば、包括的かつ専門的なサポートを受けることができますので、安心してお任せください。

まとめ

自筆証書遺言の書き方にはいくつかの要件があり、これを守らないと無効になるリスクがあります。遺言書を書く際には、財産のリスト化、具体的な相続分の明記、遺留分への配慮が必要です。また、付言事項を利用して家族への感謝や遺言の意図を伝えることで、相続人間の理解を深めることができます。さらに、遺言執行者を指定することで、遺言内容の実現をスムーズに行うことが可能です。

遺言書の書き方に不安がある場合や、複雑な内容の場合は、弁護士などの専門家に相談することで、無効になるリスクを避け、適切な遺言内容を決定することができます。

この記事を参考にして、法的に有効な遺言書を作成し、大切な遺産を確実に分配できるようにしましょう。将来のためにしっかりと準備を整え、安心して日々を過ごしてください。遺言書の作成に関するご相談は、当法律事務所までお気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。