数次相続とは?手続きの進め方や遺産分割協議書の書き方をわかりやすく解説!

遺産相続

更新日 2024.10.01

投稿日 2024.08.06

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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突然の悲報が重なると、家族は悲しみの中で次々と相続手続きを進めなければなりません。例えば、父が亡くなった後、すぐに母も亡くなる場合、このような複数の相続を「数次相続(すうじそうぞく)」と呼びます。数次相続では、二人分の遺産分割協議を同時に行わなければならず、通常の相続よりも複雑な手続きが求められます。

本記事では、数次相続の基本的な概念や手続きの流れを解説し、特に重要な遺産分割協議書の書き方について詳しく紹介します。また、数次相続に関連する相続税の取り扱いや相続登記の注意点も解説します。数次相続に直面する家族が適切な準備と対応をするための参考になる情報を提供しますので、ぜひ最後までお読みください。

目次

数次相続とは?

数次相続(読み方:「すうじそうぞく」)とは、被相続人(財産を遺して亡くなった方)が死亡した後、遺産分割協議が終わらないうちに相続人が死亡し、さらに次の相続が開始される状況のことをいいます。

例えば、父が亡くなり(「一次相続」)、まだ遺産分割協議を行っていない状態で相続人の一人である長男が亡くなった場合(「二次相続」)、このように相続が立て続けに発生する状況を数次相続と呼びます。一次相続、二次相続と相続が連続して発生するため、各相続の手続きを一度に進める必要があります。

数次相続が発生すると、遺産分割を行う権利が次の相続人に引き継がれます。

例えば、父親の相続(一次相続)で遺産分割協議が終わらないうちに、長男が亡くなった場合、長男の相続人(たとえば長男の子ども)が二次相続における新たな相続人となります。これにより、一次相続の遺産分割協議には二次相続の相続人も参加することになります。

数次相続を具体例でわかりやすく解説!

まず、父親であるAさんが亡くなり、遺産分割協議が始まる前に、Aさんの相続人として妻Bさんと二人の子どもCさんとDさんがいます。これが「一次相続」です。一次相続の遺産分割協議が進んでいる間に、相続人の一人である長男Cさんが突然亡くなってしまいました。これが「二次相続」です。

長男Cさんには妻Eさんと子どもFさんがいます。Cさんが亡くなったことで、Cさんの相続人としてEさんとFさんが新たに登場することになります。つまり、Cさんの財産はEさんとFさんに相続されます。

この状況では、一次相続であるAさんの遺産分割協議において、Cさんの相続人であるEさんとFさんも参加する必要があります。具体的には、Aさんの遺産分割協議には、以下のメンバーが関与することになります:

  1. Aさんの妻Bさん
  2. Aさんの次男Dさん
  3. Cさんの妻Eさん
  4. Cさんの子どもFさん

数次相続が発生すると手続きが複雑に!

このように、一次相続に関する遺産分割協議が進行中に相続人の一人が亡くなると、その相続人の相続権が次の相続人に引き継がれるため、元の相続協議に新たな相続人が参加することになります。このプロセスを通じて、数次相続が発生すると、手続きが一層複雑になるため、全ての相続人の合意を得るために丁寧な調整が必要となります。

さらに、この状況では、一次相続と二次相続の両方の遺産分割協議を同時に進める必要があり、遺産の分割方法や相続税の計算がより複雑になる可能性があります。

数次相続が発生するとどのように手続きが複雑になるのかについては追って詳しく解説していきますが、数次相続が発生した場合は、弁護士の助けを借りて手続きを進めることをお勧めします。

代襲相続との違い│被相続人が死亡する前にすでにその相続人が死亡している

代襲相続とは

代襲相続は、被相続人よりも先に子供が亡くなっていた場合に、その子供の子(孫)が相続人として繰り上がる仕組みです。たとえば、祖父Aさんが亡くなったときに、すでに父Bさんが亡くなっていた場合、Bさんの子どもであるCさんがAさんの遺産を相続します。これは、本来相続するはずだったBさんが亡くなっているため、Bさんの相続権がCさんに移る形です。

また、代襲相続は、被相続人の子供が相続の欠格(法律上の相続資格を失うこと)や廃除(相続権を取り消されること)となっていた場合にも発生します。ただし、相続放棄をした人の子供には代襲相続は発生しない点に注意が必要です。

代襲相続については、下記記事で詳しく解説しておりますので、参照してください。

数次相続と代襲相続との違い

具体的に両者の違いを整理すると、数次相続は複数の相続が連続して起こるケースです。

一方、代襲相続は、相続人が被相続人より先に死亡している場合に、子が相続する制度です。

例えば、父Aさんが亡くなった後にすぐに長男Bさんが亡くなった場合、これは数次相続です。対して、父Aさんが亡くなった時点で長男Bさんが既に亡くなっていた場合、Bさんの子供Cさんが相続人となるのが代襲相続です。

相似相続・再転相続との違い│混同しがちなその他の相続

相次相続は、相続が発生し、相続税を納めた後に次の相続が始まることを指します。具体的には、最初の相続が完了した後の10年以内に複数回の相続が発生するケースです。相次相続には、相続税の軽減を図る「相次相続控除」という制度があります。

再転相続は、一次相続の開始から3カ月以内に、相続人が単純承認、限定承認、相続放棄のいずれについても意思表示をしないまま亡くなる状況を指します。数次相続と再転相続の主な違いは、相続人が相続を承認したか否かです。

具体的には、父親Aさんが亡くなった後、長男Bさんが相続についての意思表示をしないまま3カ月以内に亡くなった場合です。この場合、Bさんの相続人(例えば、Bさんの子どもCさん)はBさんに代わってAさんの相続について決定を行う必要があります。

再転相続について、詳しくは下記記事で解説しておりますので、ご参照ください。

数次相続はどこまで続く?

数次相続は、その名の通り、一次相続、二次相続、三次相続と連続して発生する相続のことを指します。そして、この連続した相続は理論上、無限に続く可能性があります。具体的に見ていきましょう。

まず、Aさんが亡くなり(一次相続)、その相続人である長男Bさんが相続を承認します。しかし、その後すぐにBさんも亡くなります(二次相続)。Bさんの相続人は、Bさんの子どもCさんです。ここで、Cさんが相続を承認した後に、Cさんも亡くなった場合(三次相続)、Cさんの子どもDさんが新たな相続人となります。このように、数次相続は相続人が亡くなるたびに新しい相続が発生し続けるのです。

数次相続が発生したときの相続手続き

数次相続が発生すると、相続手続きは通常の相続と比べて一層複雑になります。複数の相続手続きを同時に行わなければならず、財産調査や必要書類の準備にも通常の倍以上の労力がかかります。さらに、遺産分割協議書の作成も一般的な相続とは異なる点に注意が必要です。

ここでは、数次相続が発生した場合に必要な相続手続きの流れを、具体的なステップに分けて解説します。

①相続人を確定する

数次相続が発生した場合、まず重要なのは相続人を全員確定することです。相続人が一人でも欠けていると、その遺産分割協議は無効となってしまうため、全ての相続人を正確に特定する必要があります。

数次相続では、一次相続と二次相続の相続人全員を確定させる必要があります。例えば、父親Aさんが亡くなり(一次相続)、その後、相続人の一人である長男Bさんが亡くなった(二次相続)場合、Bさんの相続人である2人の子供Cさん、Dさんも相続手続きに関わります。

このように、数次相続では、一次相続に関与する相続人が増えるため、誰に相続権があるのかをしっかりと確認することが重要です。

法定相続人の範囲

相続人を確定させるためには、だれが法定相続人となるのかを知っておく必要があります。

順位が上の相続人が優先的に相続人となり、上位の人がいる場合は下位の人は相続人になれません。

順位

相続人の範囲

説明 

常に相続人

配偶者

配偶者は常に推定相続人となり、その他の順位の相続人とともに相続権を持つことが法的に定められています。

第一順位

被相続人の子または孫

被相続人の子が亡くなっている場合、その子供である孫が推定相続人となります。

第二順位

被相続人の父母または祖父母

被相続人の父母が既に亡くなっている場合は、祖父母が推定相続人としての権利を引き継ぎます。

第三順位

被相続人の兄弟姉妹

被相続人の兄弟姉妹が亡くなっている場合、その子供である甥や姪が推定相続人の地位を持つことになります。

戸籍謄本を取得して相続人を調査する

数次相続の場合は、一次相続と二次相続の被相続人について、出生から死亡までの連続した戸籍謄本を取得します。

これにより、誰が法定相続人になるのかを確認することができます。戸籍謄本には、亡くなった方の結婚歴、子供の有無、離婚歴などが記載されており、相続人を特定するための重要な情報が含まれています。

数次相続が発生したときの一次相続における相続割合

数次相続が発生しても、法定相続割合が増えることはありません。具体的には、相続割合は一次相続の段階で定められたままとなり、次の相続に引き継がれます。

例えば、父親Aさんが亡くなった場合、母Bさんと子供たち(長男Cさん、長女Dさん)が相続人となります。この時の法定相続割合は、母Bさんが1/2、長男Cさんと長女Dさんがそれぞれ1/4ずつです。

もし、一次相続の遺産分割協議が終わる前に長男Cさんが亡くなり(二次相続)、その相続人が長男Cさんの妻Eさんと子供Fさんである場合でも、Cさんの相続割合である1/4がそのままEさんとFさんに引き継がれます。つまり、一次相続の法定相続割合は変更されず、母Bさんが1/2、長女Dさんが1/4、そして長男Cさんの相続人であるEさんとFさんが1/4を分け合う形になります。

②相続人全員で遺産分割協議

相続人を確定した後、遺言がない場合は相続人全員で遺産分割協議を行います。数次相続では、各被相続人ごとに遺産分割協議を個別に行う方法と、全ての相続をまとめて一度に行う方法の二通りがあります。

もし一次相続と二次相続の相続人が共通である場合、遺産分割協議を一回でまとめて行う方が簡便です。例えば、父Aさんの相続人である長男Bさんが相続を承認した後に亡くなり、Bさんの相続人は兄弟であるCさんである場合など、相続人が共通の場合、全員が一緒に遺産分割協議を行うことで手続きがスムーズに進むでしょう。

一方、一次相続と二次相続の相続人が重複しない場合、遺産分割協議を分けて行ったほうが良い場合もあります。例えば、父Aさんの相続人が母Bさんと長男Cさんであり、Cさんが亡くなった後、その相続人が妻Dさんと子供Eさんである場合、それぞれの相続手続きを別々に行う方が理解しやすく、合意を得やすいかもしれません。

状況に応じて最適な方法を選び、相続人全員の合意を得ることが重要です。どちらの方法を選ぶにしても、相続人全員が参加し、全員の合意を得ることで遺産分割協議が成立します。

③遺産分割協議書を作成する

遺産分割協議書は必ず作成しなければならないものではありませんが、後々のトラブルを防ぐために書面に残しておくことが重要です。遺産分割協議書は、不動産などの所有権の移転登記をする際に必要な書類となりますし、相続税の申告にも添付書類として提出が求められます。

数次相続の場合、遺産分割協議書を作成する際には、複数の相続を一通の協議書にまとめる方法と、一次相続と二次相続で別々に作成する方法があります。一般的には、混乱を避けるために別々の分割協議書を作成することをお勧めします。

例えば、父親Aさんが亡くなり(一次相続)、その後に長男Bさんが亡くなった(二次相続)場合、Aさんの相続についての遺産分割協議書とBさんの相続についての遺産分割協議書をそれぞれ作成します。これにより、それぞれの相続に関する取り決めが明確になり、後々の混乱を避けることができます。

一次相続に関する遺産分割協議書は、通常の遺産分割協議書と異なる点があります。具体的には、一次相続の相続人が二次相続の相続人に引き継がれるため、その内容を詳細に記載する必要があります。

遺産分割協議書の書き方

被相続人と相続人の書き方

数次相続では、あとで亡くなった「被相続人」は、当初に亡くなった人の「相続人」の立場にもなります。例えば、父親Aさんが亡くなった後に長男Bさんが亡くなった場合、BさんはAさんの相続人でありながら、自身も被相続人となります。この場合、Bさんは「相続人兼被相続人」と表記します。

相続人の書き方

数次相続では、1人分の相続人の立場の人と2人分の相続人の立場の人が発生する可能性があります。例えば、長男Bさんが亡くなり、Bさんの妻Cさんと子供Dさんが相続人となる場合、CさんとDさんはBさんの相続人です。また、BさんがAさんの相続人でもあった場合、CさんとDさんはAさんの遺産分割協議にも関与することになります。

この場合、CさんとDさんは次のように表記します。

 

  • Cさん(相続人兼Bさんの相続人)
  • Dさん(相続人兼Bさんの相続人)

 

遺産分割協議書の記載例

遺産分割協議書の冒頭部分には、一次相続および二次相続の被相続人の詳細情報を記載します。一次相続の被相続人の情報を記載した後、二次相続の被相続人については「相続人兼被相続人」として記載します。

遺産分割協議書の最後には、相続人全員の署名欄があります。通常の相続人には「相続人」と記載しますが、二次相続で相続人となった場合には「相続人兼○○○の相続人」と記載します。

以下に、数次相続の遺産分割協議書の具体例を示します。

 

遺産分割協議書

被相続人 Aさん
生年月日 昭和○○年○○月○○日
死亡日 平成○○年○○月○○日
本籍地 ○○県○○市○○町○丁目○番○号
最後の住所地 ○○県○○市○○町○丁目○番○号
相続人兼被相続人 Bさん
生年月日 昭和○○年○○月○○日
死亡日 平成○○年○○月○○日
本籍地 ○○県○○市○○町○丁目○番○号
最後の住所地 ○○県○○市○○町○丁目○番○号
被相続人の相続人全員は、被相続人の遺産について協議を行った結果、次のとおり分割することに合意した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー(中略)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
令和○○年〇月〇日
住所 ○○県○○市○○町○丁目○番○号
相続人 Cさん 実印
住所 ○○県○○市○○町○丁目○番○号
相続人兼Bさんの相続人 Dさん 実印
住所 ○○県○○市○○町○丁目○番○号
相続人兼Bさんの相続人 Eさん 実印

 

④相続放棄の選択の検討│できるケースとできないケースがある

相続放棄とは、被相続人の遺産を相続する権利を放棄する手続きであり、「初めから相続人でなかったもの」とみなされます。これにより、被相続人の遺産や負債を相続することができなくなります。相続放棄は、被相続人に多額の借金がある場合や、相続人同士のもめごとに巻き込まれたくない場合に利用されます。しかし、数次相続が発生した場合、相続放棄の選択には制約があります。

数次相続において相続放棄できるケース

一次相続と二次相続の双方について相続放棄をするケース

 例えば、祖父が亡くなり、次に父親が亡くなった場合、祖父と父親の両方に借金があるときは、子どもとしては一次相続と二次相続の両方を相続放棄することができます。これにより、祖父や父親の負債を相続しなくて済みます。

一次相続は相続放棄して、二次相続を単純承認するケース

例えば、祖父に多額の借金があり、父親には借金がない場合、子どもとしては祖父の相続(一次相続)を放棄し、父親の相続(二次相続)を承認することができます。これにより、祖父の借金を相続せずに父親の財産だけを相続できます。

数次相続において相続放棄できないケース

一次相続は単純承認して、二次相続を相続放棄するケース

例えば、祖父に借金がなく、父親に借金がある場合、子どもとしては祖父の相続(一次相続)を承認し、父親の相続(二次相続)を放棄したいと考えるかもしれません。しかし、この場合は、一次相続を承認してしまうと、二次相続を放棄することができません。なぜなら、二次相続を放棄した時点で、初めから相続人でなかったものとみなされ、一次相続の相続権も失うことになるからです。

三次相続以上の場合

同様の理由で、三次相続以上でも、二次相続以降のいずれかだけを相続放棄することはできません。例えば、三次相続が発生した場合、二次相続や三次相続をそれぞれ個別に放棄することはできず、連続している相続の全てを放棄するか承認するかの選択をしなければなりません。

数次相続において、相続放棄ができる場合とできない場合を表でまとめると以下のとおりです。

 

一次相続の相続放棄

二次相続の相続放棄

可否

説明 

① 両方放棄

する

する

祖父と父の両方に借金がある場合などで、両方を放棄して負債を回避できます。

② 一次放棄、二次承認

する

しない

祖父に借金があり、父には借金がない場合に、祖父の相続を放棄し、父の相続を承認できます。

③ 一次承認、二次放棄

しない

する

×

祖父の相続を承認した後、父の相続を放棄することはできません。二次相続を放棄すると、最初から相続人でなかったとみなされます。

 

⑤相続登記の申請手続き│数次相続では中間省略登記が認められる

数次相続における登記申請の方法

不動産(土地や建物)を相続した場合、相続登記を行う必要があります。特に数次相続が発生した場合、相続登記を申請する方法には次の2種類があります。

 

  1. 一次相続と二次相続でそれぞれ相続登記をする方法
    まず、一次相続の登記を行い、その後に二次相続の登記を行う方法です。これは、各相続段階ごとに手続きを進めるため、確実に所有権の移転を記録できます。
  2. 中間省略登記をする方法
    中間省略登記とは、一次相続の相続人を介さず、二次相続の相続人に直接所有権を移転する方法です。ただし、この方法には一定の要件があり、全てのケースで適用できるわけではありません。

 

令和6年4月1日から、不動産の相続登記(名義変更)が義務化されます。これにより、相続によって不動産を取得した相続人等は、その所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。

期限内に登記を申請しなかった場合、10万円以下の過料が課されることとなります。また、令和6年4月1日以前に相続が開始している場合でも、3年間の猶予期間が設けられていますが、相続登記の義務化の対象となります。

一次相続と二次相続でそれぞれ相続登記をする方法

数次相続が発生した場合、相続登記の手続きは原則として「一次相続の相続登記」を行った後に、「二次相続の相続登記」を行います。この手順を守る理由は、相続手続きにおいて「中間の事実」を省略して最終的な事実のみを記載する登記が認められていないためです。

例えば、父親Aさんが亡くなり、その相続人として長男Bさんがいます。その後、Bさんも亡くなり、その相続人として孫のCさんがいる場合を考えてみましょう。

まず「AさんからBさんへの所有権移転登記」を申請します。これにより、BさんがAさんの不動産を正式に相続したことが記録されます。

次に、「BさんからCさんへの所有権移転登記」を申請します。これにより、最終的にCさんがBさんの相続財産を受け継ぐことが記録されます。

このように、数次相続における相続登記は各相続段階ごとに時系列に沿って手続きを進める必要があります。

中間省略登記をする方法

数次相続が発生した場合、中間省略登記を利用することで相続登記の手続きを簡略化し、登録免許税の負担を軽減することができます。中間省略登記とは、一定の要件を満たす数次相続において、中間の相続登記を省略する制度です。この方法を利用することで、一度の申請で相続登記を完了させることが可能です。

中間省略登記の要件は、以下の2つのいずれかに当てはまる場合です。

 

  • 中間の相続人が最初から一人
  • 複数名の相続人の中で一人だけが相続

 

1. 中間の相続人が1人の場合

例えば、子どものいない夫婦の場合を考えましょう。夫が亡くなり、その後妻が亡くなり、妻の兄弟姉妹が相続する場合です。この場合、中間の相続人は妻一人だけです。このようなケースでは、中間省略登記が認められる可能性があります。

2. 中間の相続人が複数いるが、そのうち1名が単独で相続する場合

中間の相続人が複数いる場合でも、遺産分割協議や相続放棄によって、結果的に1名が単独で相続することになれば、中間省略登記が認められます。

例えば、父親が亡くなり、相続人として3人の子どもがいる場合を考えます。遺産分割協議の結果、長男がすべてを相続し、その後に長男が亡くなり、長男の子どもが相続する場合です。この場合も、父親から長男、長男から長男の子どもへの相続を一度の登記で済ませることができます。

数次相続における土地の相続登記と登録免許税の免税措置│登記申請書への記載が必要

土地の相続登記を行う際には、通常、登録免許税が必要です。しかし、数次相続が発生した場合、特定の条件を満たせば登録免許税が一部免除される特例があります。具体的には、令和7年3月31日までに申請する相続登記に対して、この免税措置が適用されます。

数次相続において、一次相続の登記申請に対しては、登録免許税が免除されます。つまり、一次相続に対する登記の際には登録免許税を支払う必要がありません。二次相続の登記申請時にのみ、登録免許税を納めることになります。

この免除を受けるためには、一次相続の登記申請書に免税の根拠となる法令の条項を明記する必要があります。具体的には、登記申請書の「登録免許税」欄に「租税特別措置法第84条の2の3第1項により非課税」と記載します。この記載がないと、免税措置が適用されないため、注意が必要です。

参考:国税庁HP「相続による土地の所有権の移転登記等に対する登録免許税の免税措置について

登記申請書の書式と記載例は、法務局HP「相続登記の登録免許税の免税措置について」に掲載されていますので、参照してください。

⑥相続税申告をする│数次相続における5つの注意点

数次相続が発生しているときの相続税申告では、特に以下の5つの点に注意して手続きを進めてください。

1.申告と納税義務は二次相続の相続人に引き継がれる

相続税の申告義務がある人が申告書を提出する前に死亡した場合、その申告及び納税義務はその相続人に引き継がれることが、国税通則法及び相続税法で規定されています。

例えば、父親が亡くなり、その相続税申告の義務が長男にあったとします。しかし、長男が申告書を提出する前に亡くなってしまった場合、長男の申告および納税義務はどうなるでしょうか?

この場合、長男の申告および納税義務は、長男の相続人である妻と長男の子どもに引き継がれます。具体的には、長男が果たすべきだった相続税の申告と納税を、長男の相続人が代わりに行う必要があります。

2.二次相続の相続人のみ、一次相続の申告期限を延長できる

相続税の申告期限は、通常、相続開始から10ヶ月以内です。しかし、特定の条件下では、この申告期限を延ばすことができます。具体的には、二次相続の相続人に限り、一次相続の申告期限を延長することが認められています。

ある家族を例にとりましょう。父親が亡くなり、その相続税申告期限は令和5年11月1日です。しかし、長男が父親の相続税申告を行う前に亡くなり、二次相続が発生しました。ここで、一次相続の相続人は長男を含む全ての子供たちであり、二次相続の相続人は長男の子供Aと子供Bです。

この場合、子供Aと子供Bは二次相続の相続人として、一次相続の申告期限を延長することができます。具体的には、二次相続が発生した令和5年4月1日から10ヶ月以内、すなわち令和6年2月1日まで一次相続の申告期限を延ばすことができます。

3.基礎控除額は変わらない

相続税の基礎控除額は、相続が発生した時点での法定相続人の数に基づいて計算されます。数次相続が発生すると、相続人の数が増える場合がありますが、基礎控除額は増えません。

基礎控除額は次のように計算されます。

基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)

この計算式において、法定相続人の数は「被相続人の相続が発生した時点」で確定されます。つまり、一次相続が発生した時点の法定相続人の数に基づいて基礎控除額が決まります。

例えば、父親が亡くなり、法定相続人として母親、長男、長女の3人がいるとします。この場合、基礎控除額は次のように計算されます。

基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 3人) = 4,800万円

その後、長男が亡くなり、数次相続が発生して新たな相続人が加わったとしても、基礎控除額は最初の相続時点の法定相続人の数に基づいて計算されるため、変更はありません。つまり、4,800万円の基礎控除額は変わらないのです。

4.相次相続控除が受けられる

数次相続が発生した場合、二次相続の相続人は相次相続控除を適用することができます。相次相続控除とは、一次相続から10年以内に二次相続が発生した場合に、一定の要件を満たすことで二次相続の相続税額を軽減できる税額控除です。

数次相続が発生すると、同じ財産に対して短期間で2度相続税が課されることになります。これでは相続人に大きな負担がかかるため、相次相続控除が設けられています。この控除を適用することで、二次相続における相続税額が軽減されます。

相次相続控除を適用するためには、以下の要件を満たす必要があります。

 

  1. 一次相続で相続税を納税していること
  2. 一次相続から10年以内に二次相続が発生していること
  3. 二次相続の相続人が一次相続でも相続人であったこと

 

相次相続控除の詳細については、下記の国税庁HPを参照してください。

参考:国税庁HP「No.4168 相次相続控除

5.配偶者の税額の軽減・小規模宅地等の特例の活用で相続税額を大幅に軽減できる

数次相続が発生した場合、「配偶者の税額の軽減」および「小規模宅地等の特例」を活用することで、一次相続と二次相続の相続税額を大幅に軽減することができます。これらの特例を適用するためには、遺産分割を慎重に行う必要があります。

配偶者の税額の軽減

「配偶者の税額の軽減」は、被相続人の配偶者が相続する財産に対して適用される特例です。この特例により、配偶者が相続する財産の価額が1億6,000万円または法定相続分相当額のどちらか多い金額まで、相続税がかかりません。これにより、配偶者が相続する財産に対する税負担が大幅に軽減されます。

小規模宅地等の特例

「小規模宅地等の特例」は、相続した宅地等の評価額を減額できる特例です。この特例は、相続した宅地が事業用または居住用であり、一定の要件を満たす場合に適用されます。具体的には、評価額が最大で80%減額されるため、相続税の負担が大幅に軽減されます。

相続税の税額軽減を最大限に活用するためには、一次相続および二次相続の遺産分割について綿密な試算を行う必要があります。相続税に強い税理士に相談することで、最適な遺産分割計画を立て、相続税の負担を大幅に軽減することができます。

相続関係説明図の作成を│法定相続情報一覧図は一次相続と二次相続でそれぞれ作成

数次相続が発生した場合、各種相続手続きで利用するためには、一次相続と二次相続それぞれに対して法定相続情報一覧図を作成しなければなりません。これは、法定相続情報一覧図があくまで戸籍謄本に記載された相続関係を証明するため、異なる相続関係を一つにまとめることができないからです。また、一次相続においても二次相続の相続人の詳細を一覧図に記載することはできません。

法定相続情報一覧図とは、被相続人の相続関係をまとめた家系図のようなもので、法務局の登記官が証明した公的証明書です。戸籍謄本の代わりとして利用でき、多くの相続手続きで利用されています。

相続関係説明図の作成

法定相続情報一覧図に数次相続の詳細を記載できないため、数次相続の場合は、相続関係説明図も併せて作成することをおすすめします。相続関係説明図は法的な証明書ではありませんが、書き方の自由度が高く、数次相続の詳細を具体的に記載できます。

数次相続に関するQ&A

Q: 数次相続と代襲相続、再転相続の違いは何ですか?

A:数次相続、代襲相続、再転相続の違いはそれぞれの発生条件と手続きの流れにあります。

代襲相続とは、相続人が被相続人より先に死亡している場合にその子どもが相続することであり、相続が連続して起こるわけではありません。

再転相続とは、1回目の相続の「熟慮期間」内に2回目の相続が発生することを指し、具体的には「自分のために相続があったことを知ってから3か月」の期間中に次の相続が連続して起こる場合です。

数次相続とは、1回目の相続の「遺産分割」が終わる前に2回目の相続が発生することで、両者の意味は異なります。

Q: 数次相続が発生した場合、1次相続と2次相続のうち片方だけを相続放棄することはできますか?

A:数次相続が発生した場合、1次相続と2次相続のうち片方だけを相続放棄することは状況によります。例えば、子どもが父親と祖父の遺産を相続する場合、父親の2次相続を承認して祖父の1次相続を放棄することは可能ですが、父親の相続を放棄して祖父の相続を承認することはできません。これは、父親の相続を放棄した時点で祖父の相続権も失うためです。

相続放棄は「熟慮期間」内に行う必要があります。熟慮期間は「自分のために相続があったことを知った日」から3ヶ月です。数次相続の場合、1次相続についても「2次相続について自分のために相続の開始があったことを知ったとき」から起算できます。つまり、1次相続の熟慮期間が過ぎていても、2次相続の熟慮期間内であれば相続放棄が可能です。

Q:  数次相続における遺産分割協議書の書き方や進め方の注意点は何ですか?

A:数次相続では、遺産分割協議の進め方や協議書の書き方に特別な注意が必要です。まず、相続人を確定させるために亡くなった方の戸籍謄本を取得し、法定相続人を確認します。この手続きは通常よりも複雑です。

遺産分割協議は被相続人ごとに別々に行っても、同時にまとめて行ってもかまいません。相続人が共通であればまとめて行うのが簡便ですが、重複しない場合は分けて行うことが適しています。

遺産分割協議書では、後に亡くなった「被相続人」は「相続人兼被相続人」と表記し、例えば、父親が亡くなり、その後祖父が亡くなった場合、父親は「相続人兼被相続人」となります。また、1人分の相続人は「相続人」と表記し、2人分の相続人の場合は「相続人兼○○○○の相続人」と表記します。

まとめ

数次相続が発生すると、相続手続きは非常に複雑になります。相続人の調査だけでなく、遺産分割協議書の作成方法や相続登記の対応も難しくなります。特に、数次相続では一次相続と二次相続の手続きを正確に進める必要があり、どちらかの手続きを誤ると登記が受け付けられない可能性があります。

また、相続税の申告に関しても注意が必要です。二次相続の相続人は、一次相続の相続税申告の期限を延長できる特例がありますが、その適用には条件があります。さらに、相次相続控除や配偶者の税額の軽減、小規模宅地等の特例など、相続税額を軽減するための制度も活用しなければなりません。数次相続における相続税申告には、専門的な知識が必要です。

数次相続の手続きを自己判断で進めると、思わぬトラブルや法的な問題が発生する可能性があります。迷ったときには早めに弁護士や税理士などの専門家に相談し、正しい方法で遺産分割を進めることが重要です。専門家の助言を受けながら手続きを行うことで、相続に伴う負担を最小限に抑え、スムーズに手続きを完了させることができます。

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弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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