株を相続する手続きの方法│名義変更や死亡後に放置するとどうなるかも解説
相続と聞いて多くの人が連想するのは、銀行預金や不動産ですが、忘れてはならない重要な財産が株式です。株式の相続は、証券会社や発行会社とのやり取りが必要となり、手続きの複雑さが伴います。特に、株式投資の経験がない相続人にとっては、一層の注意が求められます。
この記事では、株式を相続する際の評価方法や名義変更の手続き、さらには放置した場合に発生するリスクまで、具体的に解説していきます。相続税の申告や納税にも期限があるため、スムーズな手続きを進めるために、これらの情報をしっかりと把握しておくことが大切です。
目次
株を相続する方法│手続きの流れは?
①遺言書の有無と相続人の調査
株式を相続する場合、その過程の最初のステップとして、故人の意志を確認するため遺言書の捜索が重要になります。遺言書には故人が自身の財産に対する具体的な指示が記載されていることが多く、相続においてはこの遺言書が法的に優先されます。したがって、遺言書が存在するかどうかを確認することは、相続手続きを進める上で最初に行うべきことです。
遺言書の存在を確認するには、故人の居住地を管轄する法務局に遺言書が預けられていないか問い合わせる、または故人の自宅や金庫など私的な保管場所を調査することが一般的です。遺言書が見つかった場合は、その内容に従って相続手続きを進めますが、見つからなかった場合には法定相続が適用されるため、次のステップとして相続人の特定が必要になります。
相続人を特定するためには、故人の戸籍謄本や住民票などを取得し、法定相続人が誰であるかを明確にします。これには故人の出生から死亡までの戸籍の連鎖を辿ることが含まれ、親族関係を正確に把握することが求められます。この作業により、故人の配偶者、子ども、親などの相続人が明らかになり、遺産分割の協議に進むための準備が整います。
②相続財産の調査
相続調査は、被相続人が亡くなる時点で保有していた全ての資産を明らかにし、正確な遺産分割を行うために必要です。相続財産には、不動産、預貯金、株式、自動車、貴金属など多岐にわたるため、それぞれの資産を詳細に調べる必要があります。
③株式の有無の調査│どこにあるかわからない場合の調査方法
上場株式と非上場株式の2種類に分けて調査を行う必要があります。それぞれの調査方法について詳しく解説します。
上場株式の調査方法
上場株式が相続財産に含まれる場合、証券会社や信託銀行から送付される「取引残高報告書」または「評価証明書」が最初の手掛かりになります。これらの報告書は、株取引が行われた場合には3ヶ月ごと、取引がない場合でも残高があれば年に1回送付されるため、故人の株式取引の有無や保有株式の詳細を把握することができます。
また、相続時の株価を正確に把握するためには、証券会社に「取引残高証明書」の発行を依頼することが必要です。この証明書には株式の銘柄や数量、相続発生時の時価が記載されており、遺産分割協議において重要な資料となります。株式の口座開設先が不明な場合や古い株券が見つかった場合は、証券保管振替機構(ほふり)に照会することで情報を得ることができます。
非上場株式の調査方法
非上場株式の場合、2004年の商法改正により原則として株券の不発行が定められましたが、改正前に設立された会社では実際の株券が残っていることもあります。株券が存在する場合、それを手がかりに発行会社から残高証明書を請求することが可能です。
また、株券不発行に移行した会社であれば、株主には株券の回収や定款の変更に関する通知が届いているはずです。これらの文書や郵便物からも重要な情報を得ることができます。株券が貸金庫に保管されている可能性もあるため、家庭内の整理だけでなく、故人が取引していた銀行にも照会することが推奨されます。
これらの方法により、上場株式および非上場株式の調査を行い、相続財産としての株式を正確に把握することができます。
ネット証券の調査方法
近年、ネット証券を利用する人が増えていることを踏まえ、相続財産としての株式調査においては、故人のスマホやパソコン内の情報も重要な調査対象となります。特に、亡くなった方のデジタルデバイスには、証券会社からのメール、ブックマークされたウェブサイト、金融アプリが含まれていることが多く、これらから故人が利用していたネット証券の口座情報や取引履歴を見つけることが可能です。
故人のスマホやパソコンにはネット証券のログイン情報が保存されている可能性が高いため、これらのデバイスは相続手続きが完了するまで解約しないことを推奨します。
④準確定申告を行う
被相続人が亡くなると、その人の未処理の税務事項に対処するために「準確定申告」という手続きを行う必要があります。この申告は、被相続人の死亡により突然その年の所得税申告が途中で止まることを防ぐために設けられています。準確定申告を行う期限は、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内です。この期限内に申告を完了させなければなりません。
準確定申告では、被相続人の死亡するその年に得られた収入全てを申告する必要があります。ここには、株式から得られる配当金も含まれます。具体的には、被相続人が生前に受け取った配当金は「被相続人の収入」として申告しなければなりません。
一方で、配当の基準日は被相続人の死亡前に到来していた場合でも、実際に配当金を受け取っていない場合、その配当金は相続財産として扱われるため、準確定申告の対象にはなりません。つまり、配当金を受け取る権利自体が相続財産とみなされるため、その収入は相続財産の一部として後の遺産分割等で扱われます。
⑤遺産分割協議を行う
株式調査が終わると、その結果を基に遺産分割協議が行われます。この協議期間中、相続した株式は全相続人の共有状態となり、勝手な譲渡や処分は法的に無効とされます。
上場株式の場合、評価額は取引残高証明書などを通じて容易に確認可能です。しかし、非上場株式の場合は評価が複雑であり、会社の規模や保有株式数に応じた評価が必要です。このため、弁護士や税理士に相談し、適切な株価評価を行うことが重要です。
遺産分割協議が整わないときは裁判所へ申立てを
遺産分割においては、相続人間での意見の対立が起こることも珍しくありません。協議が平行線をたどり、遺産分割が不成立に終わることもあります。このような場合、家庭裁判所に調停を申し立てることが考えられます。遺産分割調停では、裁判官や調停員が仲介に入り、双方の合意形成を試みますが、調停でも合意に至らない場合は、裁判官が遺産分割方法を決定する遺産分割審判へと移行します。
もし審判の結果に不服がある場合は、即時抗告を行い、その後は高等裁判所での審議が行われます。また、遺産分割の協議が相続税申告の期限に間に合わない場合は、相続人が法定相続分に基づき未分割の状態で申告する「未分割申告」が可能です。これにより、相続税の申告を一時的に進めることができ、後で具体的な遺産分割が決まった際に修正申告を行います。
⑥遺産分割協議書を作成する
遺産分割協議が成立した後、その結果を正式に文書化するために「遺産分割協議書」を作成します。この文書は、相続財産の分配内容を明確に記録し、将来的なトラブルを避けるための重要な書類です。特に株式を含む相続の場合、後の手続きでこの協議書の提出が必要になることもありますので、その作成には細心の注意を払う必要があります。
株式を遺産分割協議書に記載する際には、会社名と株式数を正確に記載することが重要です。これにより、どの株式が誰にどれだけ割り当てられたかが明確になり、名義変更やその他の手続きをスムーズに進めることができます。記載する情報の正確性を保証するためには、取引残高報告書などの公式文書を参照しながら記載することが推奨されます。
遺産分割協議書の記載例は次のようになります。
遺産分割協議書
被相続人○○○○(本籍:静岡県静岡市葵区)は令和5年4月18日に死亡したので、その相続人である□□□□及び△△△△は、被相続人の遺産につき次のとおり分割することを協議した。
1.次の財産は、相続健一が取得する。
– ○○株式会社 普通株式 150株
– ■■株式会社 普通株式 250株
2.次の財産は、相続美咲が取得する。
-●●銀行▲▲支店 普通預金 口座番号 ーーーー 金額1,200万円
3.本遺産分割協議の時点で判明していない被相続人の遺産が後日発見された場合は、別途協議する。
以上のとおり分割協議が成立したので、これを証するため、本書を作成し、各自署名押印する。
令和5年6月1日
静岡県静岡市葵区
□□□□ 印
静岡県静岡市葵区
△△△△ 印
この協議書に署名押印することで、すべての相続人が分割内容に同意したことが正式に確認されます。これにより、後日の遺産に関するトラブルを防ぐとともに、法的な効力を持たせることができます。遺産分割協議書は原則として各相続人が保管することになり、必要に応じて関連する手続きで提示することがあります。
⑦名義変更の必要書類を準備する
株式の相続手続きに必要な書類を整理し、以下に表でまとめました。
|
必要書類 |
備考 |
---|---|---|
遺言書がある場合 |
1. 遺言書(公正証書遺言以外は検認済みのもの)2. 被相続人の死亡が分かる戸籍謄本 |
遺言執行者がいる場合は、その人の印鑑証明書と選任審判書が追加で必要です。 |
遺産分割協議書がある場合 |
1. 遺産分割協議書 |
法定相続人全員の署名捺印(実印)が必要です。 |
遺言書も遺産分割協議書もないが合意がある場合 |
1. 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本 |
全員の署名捺印(実印)が必要です。 |
遺産分割調停や審判による場合 |
1. 調停調書謄本または審判書謄本 |
裁判所の文書により相続手続きが行われるため、戸籍謄本や株式取得者以外の印鑑証明書が不要となります。 |
それぞれのケースで求められる書類を正確に準備し、証券会社や信託銀行への手続きをスムーズに進めることが重要です。なお、上の表の株式の名義変更の必要書類はあくまでも一般的な例なので、詳細は証券会社などに確認してください。
⑧証券会社等で名義変更手続きをする
上場株式の相続において、株式の名義変更は証券会社を通じて行われます。この手続きは、相続人が適切に株式を管理し、必要に応じて売却できるようにするために不可欠です。まず、相続人名義の証券口座が必要になるため、口座を持っていない場合は新たに開設することから始めます。既に口座を持っている場合は、その口座を利用して手続きを進めることができます。
相続人が株式を売却したい場合や、長期的に保有する意向がある場合にも、まずは被相続人名義の株式を相続人名義に移管する必要があります。これにより、株式の管理権が法的に相続人に移るため、株式の売買やその他の金融活動が可能となります。
証券会社に提出する際には、前述した必要書類を揃え、必要に応じて原本の還付を希望する旨を明記します。各証券会社によって具体的な提出書類や手続きの流れには違いがあるため、事前に確認を取ることが重要です。証券会社による手続きが完了すれば、株式の名義変更が正式に行われ、相続人は新たな株式の法的所有者として登録されます。
⑨相続税の納税・申告
相続税の申告と納税は、相続開始の翌日から10ヶ月以内に行わなければなりません。この期限内に、相続財産の全容を把握し、適切に申告、納税を完了させる必要があります。
この10ヶ月という期間は、多くの手続きを要するため、実際にはかなりタイトなスケジュールです。相続財産の調査から申告準備、納税までを効率よく、かつ正確に進めるためには、早期からの計画的な対応が必要です。専門家として税理士や相続専門の弁護士に相談することも、適切な申告と納税を確実に行うための一助となります。
株の相続に時効や期限はある?
株の名義変更手続きに期限はない
株式の相続における名義変更手続きには法的な期限が設けられていません。つまり、株式の相続人が名義変更を行うのに特定の期限が存在するわけではなく、理論上はいつでも行うことができます。しかし、名義変更を行わないと、株式の管理や売買、配当の受け取りなどが適切に行えないため、相続手続きの一環としてできるだけ早期に行うことが推奨されます。
一方で、相続税の申告と納税には明確な期限が設定されています。相続税は、被相続人の死亡を知った翌日から数えて10カ月以内に申告し、同じ期間内に納税を完了させる必要があります。この期限を遵守しないと、延滞税が課される可能性があります。
また、被相続人が亡くなる前に株式などの売買を行っていた場合、その年の所得に関しては、亡くなった日から4カ月以内に準確定申告を行う必要があります。準確定申告は、故人の所得税を確定させるために行われ、故人がその年に得た収入全てに対して行われます。
株式の相続においては、名義変更手続き自体に期限はなくとも、税務上の義務や責任を適切に管理するためには、これらの期限を正確に理解し、適切に行動することが重要です。相続税の申告と納税、準確定申告の期限に注意しながら、株式の名義変更も計画的に進めることが望ましいです。
株の相続の時効はない
株式の相続に関しては、時効の制約がないため、被相続人の死亡から長い時間が経過しても、株式が発見されれば相続人はいつでも相続する権利を持っています。例えば、被相続人が亡くなってから10年以上経った後に株式が見つかった場合でも、これは法的に相続人全員の共有財産として扱われます。
一方で、相続税には時効が設けられており、特定の条件下で相続税の支払い義務から解放されることがあります。具体的には、被相続人の死後に財産が発見された場合、その財産の発見から5年間税務署が課税の事実を知らず、かつ税務署からの督促がない場合に限り、相続税の支払い義務が時効によって消滅します。ただし、相続財産を知っていながら税金を支払わなかった場合の時効は7年です。重要なのは、税務署からの督促があると時効が中断され、再び時効期間が始まる点です。
例えば、10年前に亡くなった人の隠し口座が見つかり、その口座に株式が含まれていた場合、相続税の時効が成立しているため相続税の支払いは不要です。しかし、これらの株式から生じる一時所得は所得税の対象となり得ます。
配当金の受け取りは期限がある
配当金の受け取りには企業によって設定された期限があります。一般的に配当の請求権は5年間有効で、この期間内に請求がなされなければその権利は消滅します。したがって、発見された株式については、過去5年間の配当金は請求可能ですが、それ以前の配当金については請求することはできません。
このように、株式の相続には時効がなく、いつでも相続することができますが、関連する税金や配当金の受け取りには具体的なルールや期限が設けられています。相続人はこれらの点を理解し、適切な手続きを行うことが重要です。
株主が亡くなり名義変更しないで放置したらどうなる?
①配当金を受け取れない
株主が亡くなった後、株式の名義変更が行われずに放置された場合、多くの重要な問題が発生しますが、特に影響を受けるのが配当金の受け取りです。株式が名義変更されないままであれば、配当金の正式な受取人が不明確となり、結果として配当金が未受領の状態に留まります。
未受領の配当金には期限が設定されており、一般的には3年から5年の間で設定されます。この期限内に配当金の請求が行われない場合、配当金の請求権は時効により消滅し、その後は配当金を受け取る権利が失われます。この期間が過ぎてしまうと、相続人は配当金を受け取ることができなくなるため、株式の名義変更と併せて、配当金の請求も適切に管理する必要があります。
②勝手に売却されてしまう
株主が亡くなり、適切な名義変更が行われずに株式が長期間放置される場合、重要なリスクの一つとして「株主所在不明」として扱われ、最終的に株式が競売や会社による買取によって売却される可能性があります。特に株主が亡くなった事実が証券会社や発行元の企業に伝わっていない場合、このリスクは高まります。
株主の所在が不明とされると、企業は通常、一定期間(多くの場合5年以上)株主に連絡を試みた後、株式の管理と運用のために株式を市場で売却することがあります。この措置は、株式の流動性を保ち、会社の健全な運営を維持する目的もあります。株式が売却されると、通常は売却益が株主に還元されるべきですが、株主が亡くなっている場合、売却益は適切に相続人に渡されることなく、取り扱いが複雑になることが多いです。
さらに、売却された株式による利益は、株式が売却された日から一定期間(5年から10年)内に請求されなければ、その権利は失われます。この期間が経過すると、たとえ後から相続人が現れても、売却益を受け取ることはできなくなります。
③休眠預金になる
株主が亡くなった後、その人名義の銀行口座が長期間、具体的には最後の取引から10年以上、活動がない場合、その口座の資金は「休眠預金」として扱われることになります。休眠預金とは、長期間にわたって取引がない預金口座にある資金のことで、特定の条件下で特別な取り扱いを受けることがあります。
日本では、休眠預金に関する法律に基づき、このような預金は預金保険機構によって管理され、その資金が民間公益活動に活用されることがあります。これにより、使用されていない資金が社会貢献に役立てられることになります。
ただし、このプロセスは元の預金所有者やその相続人が資金を必要とする場合を考慮しており、名義変更の手続きを行えば、休眠預金として移された資金も返還される仕組みが整っています。相続人が適切な手続きを踏み、故人の銀行口座が休眠預金として扱われていることを証明すれば、預金保険機構はその資金を返還します。
④相続税のペナルティを受ける
株主が亡くなった後、株式やその他の資産の名義変更が行われずに放置される場合、相続税の申告が適切に行われないことがあります。相続税の申告期限は、相続開始もしくは相続開始を知った日から10ヶ月以内です。この期限を過ぎて後に資産が発見された場合、申告漏れが発覚すると、相続税に加えて延滞税、無申告加算税、過少申告加算税が課せられる可能性があります。
種類 |
概要 |
---|---|
延滞税 |
相続税の納付期限を過ぎた後に納税が行われる場合に最大年率14.6%課税される。 |
無申告加算税 |
期限内に相続税の申告を行わなかった場合に課される。税務調査の通知前に申告した場合は税額の5%、通知後は10〜15%の加算税が適用される。 |
過少申告加算税 |
相続財産の申告漏れがあった場合に課される。税務調査の通知前には課税されず、通知後に発覚した場合に税額の10〜15%課税される。 |
通常、税務署は死亡届を受け取った後、相続税の申告準備が進められているかを確認するために税務調査を行います。相続開始から6〜8ヶ月後に「相続税の申告に関するお尋ね」が郵送されることが一般的です。この通知を受け取ったら、株式を含むすべての相続財産について正確な申告を行うことが重要です。
相続財産が発見された後も、株式の名義変更を怠り、相続税の申告を適切に行わないと、重いペナルティが課されることになります。このため、相続が発生した際には迅速に行動を起こし、必要な手続きを進めることが重要です。
⑤将来的に遺産分割が難しくなる
株主が亡くなった後、株の存在に気づかず初期の遺産分割協議に含めなかった場合、将来的に遺産分割を行う際に複雑な問題が発生する可能性があります。このようなケースでは、株が発見された時点で既に行われた遺産分割協議に株が含まれていなかったため、名義変更の手続きを進めることができません。
この状況を解決するためには、改めて相続人全員が集まり、新たに遺産分割協議を行う必要があります。この過程で、相続人全員の同意書と印鑑証明書が必要となり、遺産分割協議書を作成し直すことで株の名義変更が可能になります。しかし、相続人間の関係が時間の経過と共に変化している場合や、相続人が多数存在する場合は、全員の合意を得ることが困難になることもあります。
さらに、遺産分割が遅れることで、株価の変動リスクや配当金の損失など、経済的な機会損失を招く可能性もあります。また、相続人間で意見が対立し、遺産分割協議がスムーズに進まない場合は、法的な紛争に発展するリスクも考慮しなければなりません。
株の相続税評価額の評価方法
上場株式の評価方法
上場株式の場合、評価額は一般的に相続発生日の株式市場における「終値」に基づきます。ただし、市場の変動によって株価が高騰する場合もあり得るため、相続税評価額は以下の3つの方法から最も低い価値を選択することができます。
- 相続が発生した月の毎日の終値の平均値
- 相続が発生した月の前月の毎日の終値の平均値
- 相続が発生した月の前々月の毎日の終値の平均値
このように、相続税評価額を計算するにあたっては、これらの平均値を用いて市場の異常な変動による影響を緩和することが可能です。過去の株価データはオンラインでアクセスでき、証券会社が提供する残高証明書にはこれらのデータも記載されているため、必要に応じて参照することができます。
非上場株式の評価方法
非上場株式の場合、公開されている情報が限られているため、評価はより複雑です。主に以下の方法が用いられます。
- 原則的評価方式 – 会社の財務状況や業績などを基に計算されるもっとも一般的な評価方法です。
- 配当還元方式 – 主に持ち株数が少なく、経営に関与していない株主の評価に用いられる方法で、配当の予想額を基に株価が計算されます。
これらの評価方法は、会社の規模や業績、持ち株の比率に応じて異なるため、専門的な知識を要します。詳細な評価を行う場合には、税理士や専門家に相談することが推奨されます。
相続した株を売却して現金化するには
遺産分割において、相続財産として残された株式を売却してその代金を分けることを「換価分割」といいます。これは、物理的な資産を現金化し、その現金を相続人間で分配する遺産分割の一形態です。換価分割を行うには、相続人全員の合意が必要とされます。
現金化する手続き方法
相続した株を売却して現金化するための方法は、以下の通りです。
- 株式を売却する前に、まず亡くなった人の名義から相続人の代表者の名義へと株式名義を変更する必要があります。これは、株式を法的に売却可能な状態にするためです。
- 相続人の代表者がまだ証券口座を持っていない場合は、新たに証券口座を開設します。
- 換価分割を行う旨と、売却代金をどのように分配するかを遺産分割協議書に記載します。株価は市場状況によって変動するため、どのタイミングで株を売却するかも協議して決定し、文書に明記することが望ましいです。
株式を現金化するメリット
換価分割にはいくつかのメリットがあります。まず、株式を現金化することで、物理的な資産の直接分割の困難さを避け、資産を公平に分配することが可能になります。また、現金化された資産は相続人それぞれが自由に使用できるため、個々のニーズに合わせた資金の活用が期待できます。
現金化する際の注意点
換価分割を行う際にはいくつかの注意点があります。株価は市場の状況によって大きく変動するため、売却するタイミングによっては期待した額よりも低い価格で売却することになる可能性があります。また、株式の売却から得られる利益には譲渡所得税が課税されるため、税金の影響も事前に検討する必要があります。
株を相続する際の注意点
後から見つかった場合の取り扱いと相続税の時効
相続手続きの完了後に被相続人名義の株券が見つかるケースは珍しくありません。
相続税の申告期限から5年が経過している場合、追加で発見された財産については修正申告の必要がありません。これは、相続税の申告と納税に関する法的責任が時効によって消滅するためです。ただし、申告期限から5年以内に株券が見つかった場合は、修正申告が必要となります。もし税務調査でこの事実が発覚した場合、過少申告加算税が適用される可能性があるため、迅速な対応が求められます。
また、相続税の時効は虚偽申告や財産隠しのような不正行為があった場合、7年に延長されます。この点も注意が必要です。
現代では、上場企業の株式はほとんどが電子化されていますが、電子化以前に取得した株券が未だに株券の形で保管されている場合もあります。これらの株券は、通常の証券会社での手続きができず、発行された株式を管理している信託銀行での手続きが必要になります。株券を見つけた場合は、発行企業に問い合わせて信託銀行の詳細を確認し、適切な手続きを進める必要があります。
売却と譲渡所得税
相続した株式を売却する場合、売却益に対して譲渡所得税が課されます。この税は所得税と住民税を合わせて一律で20.315%と定められており、株式売却による利益に対する税金負担です。売却益は「売却金額から売却手数料と取得費を差し引いた金額」として計算されますが、重要なのは取得費の計算方法です。
取得費は、被相続人が株式を購入した際の金額、すなわち「被相続人が取得した金額」で計算されます。これは相続人が株式を相続した時の評価額とは異なるため、注意が必要です。さらに、相続税の申告期限から3年以内に株式を売却した場合は、特例として「売却した株式に対する相続税額」を取得費に加算することができます。これにより、売却益が減少し、結果的に支払う税金額も軽減されます。
もし、被相続人が株式を取得した金額が不明な場合、売却代金の5%を取得費として使用することが可能です。ただし、この方法を用いると「売却益=売却代金の95%」となり、結果的に高額の所得税が発生するリスクがあります。
このため、株を相続する際には、被相続人の株式取得金額を可能な限り把握しておくことが望ましいです。また、相続後の株式売却を検討する際には、取得費の確定と税金の特例適用の可否を慎重に評価し、適切なタイミングでの売却戦略を立てることが重要です。
非上場株式の譲渡制限
非上場株式を相続する際、特に注意が必要なのが、これらの株式に多く付帯している譲渡制限です。非上場株式は市場に自由に流通していないため、売却する際の制約が大きいのが一般的です。
これにより、相続した非上場株式を売却しようと思っても、適切な買い手を見つけることが難しく、場合によっては「塩漬け」状態になってしまうリスクがあります。つまり、価値があるにも関わらず、現金化することが困難な状況に陥る可能性があるのです。
さらに、会社の定款に「売渡請求権」が設定されている場合、株式を相続した後、会社側が一方的に株式を取り戻すことができます。この場合、相続人は株式を保持する権利を失い、会社から一定の対価を受け取ることになりますが、その額が市場価値と必ずしも一致するとは限りません。このような状況は、相続人が株式の実質的な価値を充分に享受できない可能性があるため、注意が必要です。
株の相続に関するQ&A
Q: 相続財産として株式を調査する方法について教えてください。
A:相続財産としての株式を調査する方法は、その株式が上場しているか非上場かによって異なります。
上場株式の場合
- 取引残高報告書や評価証明書の確認: 証券会社や信託銀行から送られてくるこれらの文書で、保有している株式の詳細を確認します。
- 取引残高証明書の発行: 相続発生時の株価を確認するため、証券会社に発行を依頼します。
- 証券保管振替機構の照会: 手掛かりがない場合、証券保管振替機構に照会して口座開設先を調べます。
非上場株式の場合
- 株券の確認: 物理的に保管されている株券を探し、情報を集めます。
- 発行会社への問い合わせ: 株券の発行会社に連絡して株式の詳細を確認します。
- 取引銀行への照会: 株券が貸金庫などに保管されている場合、関連する銀行に照会します。
Q: 株式の分割方法とその際の注意点について教えてください。
A:株式の相続においては、いくつかの分割方法があり、それぞれに特有の注意点が存在します。
- 現物分割
株式をそのままの形で分割する方法です。この方法では、株価の変動リスクがあり、将来的に価格が上がる可能性もあれば下がる可能性もあります。また、株式を売却する際には、譲渡所得税や証券会社の手数料が発生しますので、相続時の額面金額から目減りする可能性があります。 - 代償分割
一人の相続人が株式を取得し、他の相続人に金銭で代償を支払う方法です。株式を取得する相続人は現物分割と同様に売却時の税金や手数料の負担があります。一方、代償を受け取る相続人はこれらの負担がないため、取得した相続人が不利益を被る可能性があります。この不公平を避けるため、分割方法を調整することが重要です。 - 換価分割
株式を売却し、その売却代金を相続人間で分ける方法です。相続人の中から代表者を決定し、株式の売却を委任します。売却後は手数料を差し引いた金額を分割するため、比較的公平な分配が可能です。売却代金は法定相続分に従うか、または相続人間で合意した方法で分配することができます。
Q: 株式の相続にかかる税金と費用にはどのようなものがありますか?
A:株式の相続に伴う金銭的な負担には、主に相続税、譲渡所得税、そして証券会社の手数料が含まれます。
- 相続税: 相続税は、被相続人の死亡日における株式の終値を基に計算されます。この終値は証券会社の残高証明書に記載されていることが多いですが、公開情報でもあるためインターネットでの確認も可能です。非上場株式の場合、評価額は経営者側が取得するか少数株主側が取得するかによって異なり、相続税額も変動します。
- 譲渡所得税: 株式を売却した際には、売却益に対して譲渡所得税が発生します。この税率は約20%で、譲渡益の計算は売却代金から取得費と手数料を差し引いた後の金額に基づきます。取得費が不明な場合は売却代金の5%として計算されます。相続税の申告期限から3年以内に売却する場合、売却株式分の相続税額を取得費に加える特例が利用できます。
- 手数料: 株式の売却時には証券会社に手数料を支払う必要があります。この手数料は売却金額から差し引かれるため、実際に手元に残る金額は額面よりも低くなります。
まとめ
株式の相続は、未経験者にとっては複雑で難しい手続きに感じることが多いです。特に非上場株式の場合、その評価と管理が一層複雑になります。株式の名義変更手続きや、相続税の申告、さらには売却に至るまでの手続きの流れは、適切な知識と準備を要します。
このため、株式の相続に直面した際には、税理士や弁護士といった専門家のアドバイスを早めに求めることが非常に重要です。専門家は評価額の算出から税金の問題、法的な手続きの支援まで、様々な面で情報を提供してくれます。株式を相続する際には、慎重かつ計画的に進めることが、未来のトラブルを避ける鍵となります。
この記事を書いた人
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。