遺言書で全財産を一人に相続させたい!書き方は?遺留分に注意

さまざまな理由から、全財産を一人の方に相続させたいと考えることは珍しくありません。しかしこの場合、遺言書の書き方には注意が必要となります。特に、一定の相続人には「遺留分」という権利があり、これを無視すると後々相続トラブルに発展するリスクもあります。
この記事では、全財産を一人に相続させるための遺言書の書き方や注意点などを、弁護士がわかりやすく解説していきます。さらに、遺留分に関するリスクとその対処法についても説明します。適切な遺言書を作成し、大切な財産を安心して託すためにも、本記事を参考にしてください。
目次
遺言書で全財産を一人に相続させることはできる?
遺言書を作成することで、遺産を特定の一人に相続させることは可能です。遺言は、遺言者の意思により、遺産を誰に承継させるかを定めるための重要な手段です。しかし、全財産を一人に相続させる際には注意が必要です。日本の相続法には「遺留分」という制度があり、一定の相続人には、遺留分を侵害された場合に侵害額に相当する金銭の支払を請求できる権利が認められています。これを無視すると、遺留分侵害額請求をされる可能性があります。
遺留分は、被相続人の配偶者、子および直系尊属に認められる権利です。ただし、直系尊属が遺留分権利者となるのは、子などの直系卑属がいない場合に限られます。遺留分は、遺留分を算定するための財産の価額を基準に計算される一定割合です。相続人が配偶者と子一人のみである場合には、それぞれの遺留分は原則として4分の1となります。被相続人の兄弟姉妹には遺留分は認められません。
遺留分を侵害した場合、遺留分権利者から遺留分侵害額請求を受け、侵害額に相当する金銭の支払を求められることがあります。遺留分と遺留分侵害額請求については、下記記事を参照してください。
相続人以外に全財産を遺贈することも可能
法定相続人以外の第三者に財産を取得させたい場合も、遺言書にその旨を記載することができます。遺言書には「○○に遺贈する」と記載します。
全財産を相続させる公正証書遺言の作成も可能
「公正証書遺言」とは、遺言者が公証人に遺言の趣旨を口授し、民法所定の方式に従って作成される公正証書による遺言です。公正証書遺言では、証人二人以上の立会いのもと、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授します。公証人がこれを筆記し、遺言者および証人に読み聞かせるか閲覧させたうえで、承認を得て署名押印します。方式上の不備による無効のリスクを抑えられる点が特徴です。
全財産を相続させる内容の遺言書であっても、公証人役場で公正証書遺言を作成してもらうことができます。
ただし、公正証書遺言であっても、遺留分を侵害する内容を定めること自体が妨げられるわけではありません。遺留分侵害額請求がされても遺言が当然に無効となるわけではありませんが、請求を受けた者は、侵害額に相当する金銭の支払を求められることがあります。
遺言書で全財産を一人に相続させたいケースとは?
遺言書を作成し、全財産を一人に相続させたいと考える場合、さまざまな理由や状況が考えられます。ここでは、代表的なケースについて具体的に解説します。
特定の相続人に感謝の意を示したい場合
遺言書を通じて、特定の相続人に対する感謝の気持ちを表したい場合があります。このようなケースでは、特定の相続人への感謝の気持ちから、その相続人に全財産を相続させたいと考えることがあります。例えば、親の介護を長年にわたり献身的に担ってきた子など、特定の相続人に感謝の気持ちを示すため、その相続人に全財産を相続させることがあります。
生活が心配な相続人がいる場合
将来の生活が不安定である相続人がいる場合、その相続人の生活を安定させるために全財産を一人に相続させることがあります。例えば、病気や障害を抱えている相続人や、経済的に苦しい状況にある相続人がいる場合です。このような場合、遺言書でその相続人に全財産を相続させることで、生活の不安を軽減することができます。
配偶者に全財産を相続させたい場合
子どもがいない場合や、子どもにはすでに十分な援助をしていると考える場合には、配偶者の生活の安定を重視して、配偶者に全財産を相続させることがあります。遺言書で全財産を配偶者に相続させることによって、残された配偶者が安心して生活を続けられるようにすることができます。この場合も、遺言書に具体的な内容を明記することが重要です。
他の相続人に遺産を相続させたくない場合
遺言者が他の相続人と不仲である場合や、特定の相続人に対して財産を相続させたくないと考える場合もあります。このような場合には、遺言書により、特定の相続人一人に全財産を相続させることができます。ただし、このようなケースでは遺留分の問題が発生する可能性があるため、専門家に相談したうえです進めるべきでしょう。
分割・共有が難しい財産がある場合
相続財産が分割や共有に適さない場合も、一人の相続人に全財産を相続させることが考えられます。例えば、先祖代々受け継がれてきた土地や家屋など、特定の財産を一人に相続させることで、その財産の維持管理を容易にすることができます。この場合も、内容や意図を遺言書に明記してトラブルを防ぐことが大切です。
全財産を一人に相続させる遺言書の書き方
遺言書を作成する際、特定の財産だけについて承継先を定めるのではなく、把握している主な財産は個別に特定したうえで、残余財産の帰属先も定めておくことが重要です。特定の財産のみを記載すると、残った財産について遺産分割協議が必要となり、紛争が生じる可能性があります。預貯金や不動産などの主な財産はできる限り個別に特定し、記載漏れの財産については「その他一切の財産」のような包括条項で帰属先を定めておくとよいでしょう。
遺留分を侵害する内容の遺言であっても、遺言自体が直ちに無効となるわけではありません。ただし、遺留分権利者から遺留分侵害額請求を受ける可能性があるため、あらかじめその影響を検討しておく必要があります。遺言の理由や家族への思いは、付言事項として記載することができます。付言事項に法的効力はありませんが、遺言者の考えを伝え、相続人間の話し合いの一助となる場合があります。
以下に、特定の相続人一人に全財産を相続させる場合の遺言内容の例を示します。実際に作成する際は、選択する遺言方式に応じた要件を満たす必要があります。
遺 言 書
遺言者 山田太郎は、次のとおり遺言する。
1. 遺言者 山田太郎は、その妻 山田花子(昭和○○年○○月○○日生)に、遺言者の所有する下記不動産、預金、現金及びその他一切の財産を相続させる。
記
(1) 土地
・所在:○○県○○市○○町○丁目
・地番:○番○号
・地目:宅地
・地積:○○m²
(2) 建物
・所在:○○県○○市○○町○丁目
・家屋番号:○番○号
・種類:居宅
・構造:木造瓦葺2階建
・床面積:1階 ○m²、2階 ○m²
(3) 預金
○○銀行○○支店の遺言者名義の預金全部
(4) 現金全部
以上
2. 本遺言をした理由は、次のとおりです。
長男 山田一郎(平成○○年○○月○○日生)は、結婚に際し、遺言者からマンション購入資金として金○○○万円の贈与を受け、すでに独立して生活しています。次男の山田次郎(平成○○年○○月○○日生)は現在遺言者と同居し、就職して収入も安定しています。一方、妻の山田花子は高齢であり、万が一の事態に備えて財産を有しておく必要があります。そこで、遺言者は自身の全ての財産を山田花子に相続させることに決めました。遺言者は、長男山田一郎および次男山田次郎は遺言者の意向を十分に理解し、遺留分侵害額請求権を行使することなく、母を大切にし、兄弟が互いに支え合って暮らすことを願っています。
遺言書で全財産を一人に相続させる場合の注意点
遺言書で遺産を特定の一人にすべて相続させる場合、いくつかの注意点があります。これらのポイントを押さえることで、相続に関するトラブルを避け、遺言者の意思を実現しやすくなるでしょう。
他の相続人から遺言無効を主張されるリスク
遺言書によって全財産を一人に相続させると、他の相続人が不満を抱き、遺言無効を主張することがあります。特に自筆証書遺言では、方式の不備や遺言能力、作成経緯・内容の明確性が争点となることがあります。方式上の不備による無効リスクを抑える方法としては、証人二人以上の立会いのもとで作成する「公正証書遺言」を検討してください。公正証書遺言は法的効力や信用性が高いという特徴があります。
理由を付言事項に記載する
遺産を一人に相続させる理由を遺言書に書き添えると、他の相続人の理解を得やすくなります。これを「付言事項」といい、法的効力はありませんが、遺言者の思いを伝える効果があります。例えば、「妻の老後の生活を安定させるため」「長男にはすでに十分な援助をしているため」といった理由を、付言事項として記載することが考えられます。
全財産を漏れなく記載する
遺言書には、全ての財産を具体的に記載することが重要です。特定の財産だけを記載すると、残った財産について遺産分割協議が必要となり、トラブルの原因になります。主な財産はできる限り個別に記載し、これに加えて「その他一切の財産」とする包括条項を置くことで、記載漏れの財産の帰属先も定めることができます。
兄弟姉妹以外の相続人には遺留分がある
遺言書で全財産を一人に相続させる場合、他の相続人が遺留分侵害額請求をする可能性があります。遺留分は、配偶者、子および直系尊属に認められる権利です。ただし、直系尊属が遺留分権利者となるのは、子などの直系卑属がいない場合に限られます。兄弟姉妹には遺留分は認められません。
遺留分侵害額請求への対応を見据え、遺言で財産を取得する人が精算資金を確保できるよう、遺産の内容や配分を検討しておくことが重要です。
高額な相続税を支払うリスク
相続税が課される場合、全財産を取得する人は、取得した財産の価額を基礎として計算される相続税額を負担することになります。遺産の総額が多ければ相続税も高額になり、相続税を支払うために相続した不動産を売却したり、預貯金や現金の切り崩したりする必要が生じるおそれがあります。このような事態を避けるためには、遺産の構成を考慮し、必要に応じて相続税を支払うための現金を確保しておくことが重要です。
専門家の助けを借りる
遺言書を作成する場合、一定の法的ルールに従う必要があります。遺言内容や遺留分への対応については、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。公正証書遺言を選択する場合は、公証人のもとで必要な手続を行います。専門家の助言を受けることで、個別事情に応じた有効な遺言書を作成しやすくなります。
これらのポイントを踏まえて遺言書を作成することで、全財産を一人に相続させる意向を円滑に実現し、他の相続人とのトラブルを避けることができます。
遺言書で全財産を一人に相続させることを検討する際の留意点
一人だけでなく複数人に残すことも可能
遺言書では、複数の相続人に財産を相続させることもできます。また、相続人以外の者を含めて複数の人に財産を取得させる場合には、遺贈を用いることができます。特定の相続人に遺産を相続させたくない場合でも、一人に全財産を相続させるのではなく、他の相続人に分配することができます。これにより、相続に関するトラブルを避けることができる場合があります。
場合によっては、遺言で「推定相続人の廃除」の意思を表示することもできます。これは、一定の推定相続人の相続資格を失わせる制度です。廃除には、遺留分を有する推定相続人による虐待、重大な侮辱または著しい非行など、法律上の事由が必要です。遺遺言で廃除の意思を表示した場合には、遺言執行者が遺言の効力発生後、家庭裁判所に廃除を請求します。家庭裁判所が廃除を認めたときに、その推定相続人は相続資格を失います。
遺産分割協議によって一人だけが相続することもある
「遺産分割協議」とは、亡くなった人(被相続人)の遺産を相続人たちがどのように分けるかを話し合うことです。遺言書がない場合や、遺言書の内容と異なる分け方を相続人全員が希望する場合に行われます。たとえ遺言書がなくても、相続人全員が一人に遺産を相続させることに同意すれば、その人が全ての遺産を受け取ることができます。
合意を成立させるには、相続人全員が参加し単独相続の合意を形成する必要があります。ただし、一人でも反対する人がいると、単独相続の合意は成立しません。
遺産分割協議の内容は、後日の紛争防止や各種手続のため、「遺産分割協議書」として書面に残しておくことが一般的です。不動産の相続登記や金融機関の手続では、相続人全員の署名・押印および印鑑証明書の提出を求められることがあります。この書類は遺産分割協議が行われたことの証明となり、不動産の名義変更や銀行預金を解約する際に必要となります。相続関係の手続きをスムーズに進めるためにも、協議内容が決まった後は、速やかに遺産分割協議書を作成しておくことが重要です。
遺言書で全財産を一人に相続させることに関するQ&A
Q1.遺言書で一人に全財産を相続させる際、他の相続人の遺留分にどう対応すればよいですか?
A1. 遺留分を侵害しないようにするためには、まず遺留分の権利を持つ相続人(配偶者、子、直系尊属)の存在を確認します。遺留分を侵害すると、相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。遺言書に付言事項として理由を記載すれば、遺言者の意図を伝え、相続人間の感情的な対立を緩和できる場合があります。ただし、付言事項によって遺留分侵害額請求を妨げることはできません。遺留分侵害額請求への対応を見据え、遺言で財産を取得する人が精算資金を確保できるよう、現預金を含む財産の配分を検討するとよいでしょう。具体的な遺言内容や遺留分への影響については、弁護士に相談することをおすすめします。
Q2.遺産を一人に相続させる理由は遺言書に書くべきですか?
A2. はい、他の相続人の理解を得るために、遺言書に付言事項として理由を明記することを強くおすすめします。例えば、「妻の老後の生活を安定させるため」「長男には既に十分な援助をしているため」といった具体的な理由を記載することで、遺言者の意図が伝わりやすくなります。付言事項には法的効力はありませんが、相続人間のトラブルを避け、遺言者の思いを理解してもらうために有効です。
Q3.遺産分割協議で一人に相続させることは可能ですか?
A3. はい、遺産分割協議で全相続人が合意すれば、遺言書がなくても一人に全財産を相続させることが可能です。遺産分割協議は相続人全員で行い、全員が合意する必要があります。合意内容を文書化し、「遺産分割協議書」を作成します。この協議書には相続人全員の署名と実印での押印、各自の印鑑証明書が必要です。遺産分割協議書は、不動産の名義変更や銀行預金の解約など、相続手続きを進める際に必要となります。
まとめ
遺言書を作成し、全財産を特定の一人に相続させたいと考えることは少なくありません。しかし、遺言書を通じて一人に全ての遺産を相続させる場合、他の相続人が不公平だと感じることがあり、遺留分に関するトラブルが発生する可能性があります。そのため、遺言書を作成する際には、法的な要件を満たしつつ、遺留分への配慮も必要となります。
一人に相続させたいと考える場合は、事前に弁護士に相談し、リスクに備えてしっかりとした相続対策を行うことが重要です。適切な遺言書を作成し、円満な相続を実現するためにも、一度弁護士に相談されることをおすすめします。
この記事を書いた人
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
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