有責配偶者とは?離婚請求や慰謝料請求との関係について弁護士が解説
有責配偶者とは、夫婦のうち、婚姻関係の破綻原因を作った側を意味します。
有責配偶者からの離婚請求は、一般的に認められにくいとされていますが、「自分が有責だが離婚したい」といったご相談をお受けすることも少なくありません。
この記事では、そうした「有責配偶者」に注目して、そもそも夫婦関係や離婚問題における「有責」とはどういう意味なのか、どういった行為をすると有責配偶者として認定されるのか、といったことについて、弁護士が分かりやすく解説させていただきます。
また、例外的に、どういった条件を満たせば、有責配偶者からの離婚請求が認められるのか、といった点についても詳しく見ていきたいと思います。
DV(家庭内暴力)や浮気・不倫をした有責配偶者から離婚したいと言われている、といったような場合に適切な対応を取るために、本記事の解説が少しでもご参考となりましたら幸いです。
目次
有責配偶者とはどういう意味?
民法第770条1項の法定離婚事由に該当する行為をした配偶者のこと
有責配偶者とは、民法第770条1項の法定離婚事由に該当する行為をした配偶者のことを指します。具体的には、不貞行為や悪意の遺棄、3年以上の生死不明、重大な精神病による婚姻の継続が困難な状況、その他婚姻を継続し難い重大な事由が挙げられます。このような行為を行った配偶者は、夫婦関係の破綻原因を作った責任があるとみなされ、有責配偶者として扱われます。
たとえば、夫が浮気をして家庭を顧みない場合や、妻が家庭を放棄して長期間行方不明となる場合が該当します。このような場合、被害を受けた配偶者は離婚請求を行う権利を持ち、有責配偶者はその責任を問われることになります。
そして、法定離婚事由に該当する行為を行った有責配偶者は、離婚請求や慰謝料請求において不利な立場に立たされることが多いです。
以下に、詳しく解説していきたいと思います。
有責扱いに時効はある?いつまで有責配偶者なの?
ところで、有責配偶者とは、いつまで有責扱いなのでしょうか。離婚裁判において、有責配偶者として扱われるのはいつまでなのか、有責であることに時効はあるのでしょうか。
まず、有責行為そのものには法的な時効はありません。たとえば、夫が不貞行為を行った場合、その行為自体が離婚の理由となります。このため、時間が経過しても有責行為の事実は消えることはなく、有責配偶者としての責任は問われ続けます。
しかし、時間が経過すると夫婦関係が修復されたとみなされることがあります。夫婦が共に生活を続け、互いに和解したり、新たな生活を築いたりしている場合、裁判所は夫婦関係が実質的に修復されたと判断することがあります。この場合、有責行為を理由にした離婚請求は認められにくくなります。
一方、慰謝料の請求には時効があります。離婚に伴う慰謝料の請求は、離婚成立から一定期間内に行わなければなりません。具体的には、慰謝料の請求は離婚後3年以内に行わないと時効により請求権が消滅します。また、離婚後に不貞行為が判明した場合、その不貞行為に対する慰謝料の請求は「不貞行為が発覚した時から3年」または「不貞行為が始まった時から20年」のいずれか早い方が時効の起算点となります。
まとめると、有責配偶者としての扱いに法的な時効は存在しませんが、夫婦関係の修復が認められる場合には離婚請求が難しくなることがあります。また、慰謝料の請求には明確な時効が存在し、適切なタイミングで請求を行うことが重要です。こうした点を理解し、適切に対処することが求められます。
原則として有責配偶者からの離婚請求は認められない
原則として、有責配偶者からの離婚請求は認められません。これは、有責配偶者が自らの行為で相手に重大な損害や苦痛を与えた場合、その責任を回避するために離婚を求めることが不公平と考えられるためです。この原則は、人道的観点からのものです。たとえば、夫が不貞行為を行った場合、その夫が離婚を求めることは、被害を受けた妻にとって一層の苦痛を与えることになります。このため、裁判所は有責配偶者からの離婚請求を慎重に審査します。
ただし、例外として、有責配偶者からの離婚請求が認められる場合もあります。たとえば、長期間の別居が続いている場合や、相手が離婚に同意している場合です。長期間の別居により、事実上の婚姻関係が破綻していると裁判所が判断することがあります。また、相手が離婚に同意している場合は、双方の合意に基づく離婚が認められることがあります。
有責配偶者からの離婚請求が認められるかどうかは、個々のケースによって異なります。たとえば、別居期間の長さや、夫婦関係の現状、相手の同意の有無などが考慮されます。これらの条件を満たす場合でも、裁判所は慎重に判断を下します。したがって、有責配偶者からの離婚請求が認められるかどうかは、具体的な状況に依存します。
このように、有責配偶者からの離婚請求は原則として認められないものの、特定の条件下では例外として認められる場合があります。
この例外については、本記事で詳しく後述させていただきます。
有責配偶者は慰謝料の支払い義務がある
有責配偶者とは、民法第770条1項の法定離婚事由に該当する行為を行った配偶者を指し、その行為により婚姻関係を破綻させた責任を負うことになります。これに伴い、有責配偶者は相手に対して慰謝料の支払い義務を負います。この支払い義務の根拠となるのは、不法行為に基づく損害賠償請求です。
不法行為については、民法第709条に次の通り規定されています。
(不法行為による損害賠償)
民法第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
離婚問題においては、有責配偶者の行為が相手の精神的苦痛を引き起こした場合、これが不法行為とみなされ、相手はその損害に対する賠償を有責配偶者に対して請求することができます。
たとえば、夫が不貞行為を行った場合、その行為は妻に対する精神的苦痛をもたらし、法律上保護される利益を侵害したことになります。この不法行為に基づいて、妻は夫に対して慰謝料を請求することができます。
同様に、DV(家庭内暴力)や悪意の遺棄といった行為も、相手に対する不法行為となり、慰謝料の支払い義務が生じます。家庭内暴力や悪意の遺棄といった行為によって、生命、身体などを侵害された場合は、その侵害により生じた財産以外の損害についても、賠償を請求できる、と規定されています(民法第710条)
(財産以外の損害の賠償)
民法第710条
他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
慰謝料の金額は、事案の内容、損害の程度、婚姻期間、相手の年齢や職業などを考慮して決定されます。たとえば、長期間にわたる不貞行為や重大な暴力行為があった場合、慰謝料の金額は高額になる傾向があります。
このように、有責配偶者は不法行為に基づき、相手に対する慰謝料の支払い義務を負います。
なお、慰謝料の請求には時効があります。民法第724条では、「損害及び加害者を知った時から3年間」と定められています。
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
民法第724条
不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。
二 不法行為の時から20年間行使しないとき。
このため、相手が不貞行為や暴力行為を知った時から3年以内に慰謝料を請求しなければ、その請求権は時効により消滅してしまうため、早めの対応が重要です。
有責配偶者として認定されることになる行為とは
さて、具体的にどういった行為が、離婚裁判において有責配偶者として認定されることになるのでしょうか。
離婚裁判において離婚請求が認められるためには、民法第770条1項各号に定められた「法定離婚事由」があることが必要です。そして、この民法第770条1項各号の法定離婚事由に該当する行為をした配偶者は、有責配偶者に該当する可能性が高くなります。
(裁判上の離婚)
民法第770条1項
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
1.配偶者に不貞な行為があったとき。
2.配偶者から悪意で遺棄されたとき。
3.配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
4.配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
それでは、一つずつ見ていきましょう。
有責と認定される行為1.不貞行為(浮気・不倫)
不貞行為(浮気・不倫)とは、夫婦の一方が配偶者以外の者と性的関係を持つ行為を意味しますが、この不貞行為(浮気・不倫)は有責配偶者として認定される主要な行為の一つです。
不貞行為は、婚姻の基本的な義務である貞操義務に違反し、夫婦関係を破綻させる重大な離婚原因となるのです。
ただし、「LINEやメールで親密なやり取りをしていた」、「手をつないで1、2回ほど日帰りのデートをした」というような男女交際では、民法が定める「不貞行為」に該当するとは認められないでしょう。
不貞行為に該当すると認められる浮気・不倫は、配偶者以外の異性と性行為をともなうものであり、一度きりではなく、複数回あったことが必要と考えられています。
たとえば、夫が同僚の女性と定期的に会って関係を持っていた場合や、妻が友人の男性と複数回にわたって宿泊を伴う旅行をしていた場合などが具体例として挙げられます。
有責と認定される行為2.悪意の遺棄(経済的DV・一方的な別居)
悪意の遺棄とは、夫婦の一方が相手を意図的に見捨てる行為を指し、有責配偶者として認定される主要な行為の一つです。悪意の遺棄としては、経済的DVや一方的な別居が挙げられます。
DV(家庭内暴力)というと、一般的には身体的暴力を意味しますが、夫婦間におけるDVには経済的DVといったものもあるのです。
この経済的DVとは、夫婦の一方が相手に対して経済的な支援を意図的に拒否し、生活に困窮させる行為です。例えば、夫が妻の生活費や子どもの養育費を一切支払わない場合や、妻が夫の収入を全て管理し、夫に必要な生活費を与えない場合が該当します。このような行為は、相手に対する重大な精神的苦痛を引き起こし、婚姻関係を破綻させる原因となります。
一方的な別居も悪意の遺棄に該当します。たとえば、妻が何の説明もなく突然家を出て行き、連絡を絶つ場合や、夫が家庭内のトラブルを理由に一方的に別居を始め、相手の生活を無視する場合がこれに当たります。このような行為は、相手に深刻な精神的苦痛を与え、家庭内の秩序を乱す結果となります。
さらに、悪意の遺棄が未成熟子に与える影響も無視できません。家庭内の不和や親の一方が突然いなくなることは、未成熟子にとって大きなストレスとなり、精神的な負担を引き起こします。
生活費を渡さないといった経済的DVや、一方的な別居は、有責配偶者として認定される行為の一つであり、法定離婚事由の一つでもある「悪意の遺棄」に当たるのです。
そのため、もし別居したいと考えている場合は、その別居が悪意の遺棄としてみなされるような一方的な別居にならないよう、注意が必要です。
有責と認定される行為3.配偶者の生死が3年以上明らかでない
配偶者の生死が3年以上明らかでない場合も、有責配偶者として認定される行為の一つです。この状況は、配偶者が突然行方不明になり、その後3年以上にわたり連絡が途絶え、生存しているかどうかも不明な場合を指します。このような状態が続くと、残された配偶者にとって婚姻関係の維持が非常に困難となり、離婚を求める理由として正当性が認められます。
具体的には、例えば夫が突然家を出て行き、3年以上にわたりその行方がわからない場合、妻は夫の生死が不明な状態で生活を続けることになります。このような状況は、妻にとって大きな精神的負担となり、日常生活や未成熟子の養育にも大きな影響を及ぼします。夫が家を出て行った理由や状況がどうであれ、その後の行方が全くわからない場合、生死が3年以上明らかでないことが確認されると、妻は離婚を請求することができます。
まとめると、配偶者の生死が3年以上明らかでない場合も、有責配偶者として認定される行為の一つであり、残された配偶者が離婚を求める正当な理由となるのです。
有責と認定される行為4.配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない
配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない場合も、有責配偶者として認定される行為の一つです。これは、夫婦が協力して生活を送っていくことができなくなるほど重い精神病のことで、医師が「回復の見込みがない」と診断した場合に該当します。
たとえば、相手が重度のうつ病に罹患し、その症状が夫婦生活に重大な支障をきたしている場合が考えられます。うつ病の症状には、極度の疲労感、食欲の変動、不眠や過眠、そして著しい気分の落ち込みなどがあり、これらが日常生活を正常に送ることを困難にします。こうした状況が長期間続き、治療を続けても回復の見込みがないと判断された場合、婚姻関係の維持が非常に困難となります。
しかし、離婚が必ず認められるわけではありません。たとえば、離婚によって病気の配偶者がさらなる苦境に追い込まれる可能性がある場合、裁判所は慎重に判断します。離婚後の療養環境が整っているかどうか、また離婚が相手に与える影響を総合的に考慮します。たとえば、離婚後に病気の配偶者が適切な治療施設に入所できるか、または家族や親族の支援が期待できるかなどが重要な判断材料となります。
さらに、夫婦に未成熟子がいる場合、未成熟子への影響も無視できません。親の一方が重度の精神病を患っていると、未成熟子の精神的な安定や生活環境にも大きな影響を与えます。たとえば、母親が重度のうつ病により日常生活が送れない場合、父親がその介護と未成熟子の養育を両立することは非常に困難です。このような状況では、未成熟子の福祉を最優先に考えた判断が求められます。
このように、配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない場合でも、有責配偶者として認定される可能性がありますが、離婚が認められるかどうかは個々の事情に依存しますので、法律の専門家である弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。
有責と認定される行為5.婚姻継続し難い重大な事由(家庭内暴力など)
婚姻継続し難い重大な事由とは、夫婦が一緒に生活を続けることが非常に困難であると判断される状況を指します。これには、家庭内暴力やモラハラなど、さまざまな行為が考えられます。婚姻継続し難い重大な事由を生み出した側が、有責配偶者として認められる可能性が高いです。
たとえば、モラハラは有責配偶者と認定される代表的な行為です。夫が妻に対して日常的に侮辱的な言葉を投げかけたり、過度な批判を繰り返したりする場合、その行為は相手に対する重大な精神的苦痛をもたらし、婚姻生活の継続を不可能にするため、夫が有責配偶者としてみなされることになるでしょう。
また、宗教活動や、自分の趣味を優先するあまり、家庭を顧みなくなってしまうケースも、有責配偶者に該当する可能性があります。
浪費やギャンブルなどで借金し、生活費を使い込んで家庭に影響を及ぼすといった行為も、有責配偶者と判断される可能性のある行為です。
有責配偶者からの離婚請求が認められる要件とは
有責配偶者からの離婚請求は、原則として認められません。ですが、例外的に、3つの要件を満たす場合は、有責配偶者からの離婚請求が認められる可能性があります。
有責配偶者からの離婚請求が認められるための3つの要件とは、こちらです。
- 長期間の別居で婚姻関係が破綻している
- 夫婦の間に未成熟子がいない
- 相手が離婚によって精神的・社会的・経済的に過酷な状況にならない
上記の3条件を全て満たす場合は、有責配偶者からの離婚請求が認められることがあります。この条件について、詳しく見ていきましょう。
条件1.長期間の別居で婚姻関係が破綻している
有責配偶者からの離婚請求が認められる条件の一つ目が、「長期間の別居によって婚姻関係が破綻していること」です。これは、夫婦が長期間にわたって別居し、実質的に婚姻関係が終了していると判断されることを意味します。具体的には、別居が少なくとも数年にわたり続いている場合が該当します。
たとえば、夫が不貞行為を行った結果、妻が家を出て別居を始めたとします。この別居が何年も続き、夫婦の間に交流が全くない場合、夫婦の関係は事実上破綻しているとみなされることがあります。長期間の別居により、夫婦の信頼関係が完全に崩壊し、再び共同生活を営むことが現実的に不可能な状況が確認されることが重要です。
裁判所は、長期間の別居が婚姻関係の破綻を示す証拠として認められることが多いです。このため、別居の期間やその間の夫婦の行動、コミュニケーションの有無などが慎重に審査されます。たとえば、別居期間中に相手と全く連絡を取っていない場合や、別居の理由が明確に有責配偶者の行為によるものである場合、婚姻関係の破綻が認められやすくなります。
さらに、別居が長期間続いていることは、夫婦の関係修復が困難であることを示す重要な要素です。別居の期間が長ければ長いほど、夫婦が再び一緒に生活を送る可能性は低くなります。これにより、裁判所は離婚請求が正当であると判断する場合があります。
このように、長期間の別居が婚姻関係の破綻を示す一つの要件となります。別居期間中に夫婦の関係が修復される見込みがないことが証明されれば、有責配偶者からの離婚請求が認められる可能性が高まります。離婚請求を考える際には、別居の期間やその間の夫婦の行動を記録し、婚姻関係の破綻を立証するための証拠を準備することが重要です。
条件2.夫婦の間に未成熟子がいない
有責配偶者からの離婚請求が認められる条件の一つに、夫婦の間に未成熟子がいないことが挙げられます。この条件は、未成熟子がいる場合に比べて、離婚が子どもに与える影響を避けるために考慮されます。
未成熟子がいる場合、離婚によって子どもが精神的・経済的に不安定になる可能性が高くなります。たとえば、父親が有責配偶者であり、母親と子どもを残して別居を始めた場合、母親は一人で子どもを養育しなければならず、経済的にも大きな負担を負うことになります。さらに、子どもにとっては親の離婚が大きな精神的ショックとなり、学業や日常生活に悪影響を及ぼす可能性があります。
そのため、有責配偶者からの離婚請求が認められるためには、未成熟子がいないことが重要な条件となります。未成熟子がいない場合、離婚が直接的に子どもの生活に悪影響を与えるリスクが少なくなるため、裁判所は離婚を認めやすくなります。
具体的には、夫婦が長期間別居しており、子どもが成人して独立している場合や、子どもがそもそもいない場合が該当します。このような状況では、離婚によって相手が精神的・経済的に過酷な状況に陥るリスクも低くなります。
しかし、未成熟子がいないという条件を満たしていても、他の条件も同時に満たす必要があります。たとえば、長期間の別居によって婚姻関係が破綻していることや、相手が離婚によって過酷な状況にならないことが確認される必要があります。これらの条件が揃うことで、有責配偶者からの離婚請求が認められる可能性が高まります。
条件3.相手が離婚によって精神的・社会的・経済的に過酷な状況にならない
有責配偶者からの離婚請求が認められる条件の一つに、相手が離婚によって精神的・社会的・経済的に過酷な状況にならないことが挙げられます。これは、離婚による相手への影響を最小限に抑えることを重視するための条件です。
まず、精神的な面での配慮が求められます。たとえば、夫が有責配偶者として離婚を求める場合、妻が精神的に非常に弱っている状況では、離婚が妻に更なる精神的苦痛を与えることになります。このような状況では、裁判所は離婚を認めない可能性が高いです。相手の精神的安定が確保されていることが重要です。
次に、社会的な影響も考慮されます。離婚によって相手が社会的に孤立することがないように配慮する必要があります。たとえば、長期間専業主婦として家庭を支えてきた妻が離婚によって急に社会に適応しなければならない状況に追い込まれる場合、その負担は非常に大きいです。相手が社会的に孤立しないよう、離婚後の生活が支えられることが求められます。
最後に、経済的な影響も重要です。有責配偶者からの離婚請求が認められるためには、相手が経済的に過酷な状況に陥らないことが条件となります。たとえば、夫が高収入で妻が専業主婦の場合、離婚後に妻が生活に困窮することがないよう、適切な慰謝料や養育費の支払いが確保されることが必要です。これにより、相手が離婚後も経済的に安定した生活を送ることができるようになります。
具体的な例として、夫が有責配偶者として離婚を求める場合、妻が自立した収入を持っているか、または慰謝料や養育費が十分に支払われることが確認されていることが重要です。離婚後の生活が安定していることが確認できれば、裁判所は離婚を認める可能性が高まります。
まとめると、有責配偶者からの離婚請求が認められるためには、相手が離婚によって精神的・社会的・経済的に過酷な状況に陥らないことが重要な条件となります。相手の精神的安定、社会的な孤立の防止、経済的安定が確保されていることが必要です。これにより、離婚が相手に与える負担を最小限に抑え、有責配偶者からの離婚請求も認められる可能性が高まります。
協議離婚や離婚調停であれば有責配偶者でも離婚できる
協議離婚や離婚調停であれば、有責配偶者でも離婚できる可能性があります。これは、相手の合意が得られるのであれば、有責配偶者からの離婚請求であっても、人道的観点から離婚を認めても適切であると考えられるからです。
協議離婚とは、夫婦が話し合いで離婚に合意し、その条件を決める方法です。有責配偶者が浮気や不倫などの理由で離婚を求める場合でも、相手がその離婚に同意すれば、協議離婚は成立します。この場合、離婚の条件についても双方が合意することが必要です。たとえば、財産分与や慰謝料、未成熟子がいる場合の親権や養育費などについても詳細に話し合い、合意を得ることが求められます。
一方、離婚調停は、家庭裁判所の調停委員が間に入って夫婦間の問題を解決する方法です。調停委員は中立的な立場から話し合いを進め、合意を目指します。有責配偶者が離婚を求める場合でも、相手が離婚に同意し、調停委員が適切な条件を提示することで、離婚が成立することがあります。離婚調停では、相手が有責配偶者の行為に対して納得できる形で解決が図られるよう、慰謝料や財産分与についても公正な判断が下されます。
たとえば、夫が不貞行為を行ったために妻が離婚を求めている場合、夫がその責任を認め、慰謝料を支払うことに同意することで、調停が成立しやすくなります。また、妻が経済的に困窮しないよう、適切な財産分与や養育費の支払いが確保されることも重要です。このように、調停を通じて公正な条件が整えば、有責配偶者であっても離婚が認められることがあります。
協議離婚や離婚調停で離婚を成立させるためには、相手との合意が不可欠です。有責配偶者が誠実に対応し、相手の権利や利益を十分に考慮することで、離婚が円満に成立する可能性が高まります。たとえば、相手の精神的・経済的負担を軽減するための具体的な提案を行い、合意を得ることが重要です。
したがって、協議離婚や離婚調停であれば、有責配偶者でも離婚を成立させることが可能です。
有責配偶者と離婚するためには
相手の有責性を証明する証拠が重要
有責配偶者と離婚するためには、相手の有責性を証明する証拠が非常に重要です。相手が不貞行為(浮気・不倫)を行った場合や、悪意の遺棄(経済的DVや一方的な別居)を行った場合、その証拠を確実に集めることで、離婚が認められる可能性が高まります。
具体的には、不貞行為を証明するためには、相手が異性と一緒にホテルに出入りする写真や、親密なメールやSNSのやり取りの記録などが有力な証拠となります。また、経済的DVを証明するためには、相手が生活費を提供しないことを示す銀行の取引明細や、支払いを拒否する内容のメールなどが役立ちます。一方的な別居の場合、その期間や理由を記録した日記や、相手が家を出て行く様子を記録した写真などが証拠となります。
これらの証拠を集める際には、法的に許容される方法で収集することが重要です。違法に取得した証拠は、裁判で認められない場合があるため、専門家の助言を受けながら適切な方法で証拠を集めることが必要です。たとえば、探偵を雇って合法的に調査を依頼する方法もあります。
有責配偶者との離婚を成功させるためには、証拠を整理し、相手の有責性を明確に示すことが重要です。証拠が不十分な場合、裁判所は離婚を認めないことがあるため、徹底した証拠収集が不可欠です。具体的な証拠を揃えることで、相手が有責配偶者であることを立証し、離婚請求が正当であることを示すことができます。
証拠が揃ったら、離婚調停や裁判でその証拠を提出し、相手の有責性を主張します。調停委員や裁判官は、提出された証拠を基に離婚の可否を判断します。相手の有責性が明確に証明されれば、離婚が認められる可能性が高まります。
子供の親権や養育費、財産分与などの離婚条件に相手の有責性は影響する?
有責配偶者と離婚する際には、相手の有責性が子供の親権や養育費、財産分与などの離婚条件に大きな影響を及ぼすことがあります。以下に具体的な影響について説明します。
子供の親権
子供の親権を得たい配偶者が有責配偶者であるということは、子供の親権についての裁判所の判断材料となります。
たとえば、DVが行われていた環境で子供が育つことは、子供の精神的・身体的健康に悪影響を与えるため、DVを行った有責配偶者が親権を取得するのは非常に難しくなります。夫が妻や子供に対して暴力を振るっていた場合、裁判所は子供の福祉を最優先に考え、母親に親権を認めることが多いです。
このように、有責配偶者であることは、親権の決定に直接的に影響を与える場合があります。
養育費
養育費の支払いに関しては、有責配偶者の行為が直接的に影響することは少ないですが、有責配偶者が養育費を支払う義務があることは変わりません。
財産分与
離婚財産分与においても、有責配偶者の行為が考慮されることがあります。たとえば、有責配偶者がギャンブルで家庭の財産を浪費していた場合、裁判所はその事実を考慮して財産分与の割合を決定します。
一般的には、夫婦が共同で築いた財産は公平に分与されますが、有責配偶者の行為によって財産が減少した場合、その減少分を補填する形で財産分与が調整されることがあるのです。
以上の通り、有責配偶者と離婚する際には、有責配偶者であることが、子供の親権や離婚財産分与などの離婚条件に大きな影響を及ぼします。このため、離婚を考える際には、有責配偶者の有責性をしっかりと証明することが重要なのです。
Q&A
Q1.有責配偶者とは何ですか?
有責配偶者とは、婚姻関係を破綻させる原因となる行為を行った配偶者を指します。たとえば、不貞行為(浮気・不倫)やDV(家庭内暴力)、悪意の遺棄(経済的DV・一方的な別居)などを行った配偶者が有責配偶者に該当します。
Q2.有責配偶者からの離婚請求は認められますか?
一般的には、有責配偶者からの離婚請求は認められないことが多いです。しかし、長期間の別居で婚姻関係が実質的に破綻している場合や、夫婦間に未成熟子がいない場合など、特定の条件を満たす場合には認められることがあります。
Q3.有責配偶者が親権を取得することは可能ですか?
有責配偶者がDVを行った場合など、子供の福祉に重大な影響を与える行為がある場合は、有責配偶者が親権を取得するのは難しい場合があります。
当法律事務所の弁護士にご相談ください
有責配偶者とは、婚姻関係を破綻させる原因となる行為を行った配偶者を指します。
有責配偶者が不貞行為、DV、悪意の遺棄などを行った場合、その行為は離婚条件に大きな影響を与えます。特に、子供の親権や養育費、財産分与、そして慰謝料において、有責配偶者の行為の態様や、家庭に与える影響が考慮されることになります。
また、有責配偶者からの離婚請求は一般的には難しいですが、長期間の別居や夫婦間に未成熟子がいない場合など、特定の条件を満たす場合には認められることがあります。
そして、有責配偶者との離婚を成功させるためには、相手の有責性を証明する確実な証拠が不可欠です。不貞行為やDVの証拠を集めることで、有責配偶者の責任を明確にし、離婚手続きを有利に進めることが期待できます。
有責配偶者からの離婚請求や、有責配偶者に対する慰謝料の請求など、有責配偶者に関する離婚問題は、法的にも複雑で煩雑な手続きを要する場合が少なくありません。
有責配偶者との離婚問題のお悩みがありましたら、なるべく早めに弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。弁護士法人あおい法律事務所では、法律相談を初回無料としておりますので、お気軽にご利用いただければと思います。
この記事を書いた人
雫田 雄太
弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。