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養育費の時効は5年?10年?未払い分をいつまで請求できる?

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。
3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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養育費について合意をしたのに、離婚後に、しばらくすると養育費の支払いが止まってしまった・・・という状況に悩まれている方もいらっしゃるのではないでしょうか。養育費は子供のための費用ですから、支払いが止まると困りますよね。養育費の未払いが続いた場合には、未払い分の請求を検討することになるでしょう。

しかし、この時に注意しなければならないのが「時効」です。民法によって、養育費をはじめとする金銭債権の請求には、「いつまで請求することができるか」という時効が定められています。

そこでこの記事では、未払いの養育費を請求する際に、原則としていつまで請求することができるのか、という時効についての基本的な知識について、弁護士が分かりやすく解説させていただきます。

養育費については、離婚時に支払いについての協議や合意をできず、取り決めなしのまま離婚しているケースなどもあれば、公正証書や裁判手続きにおいて取り決めを行っているケースもあります。

そうしたケースごとに、時効が何年とされているのか、具体的に解説いたします。

また、時効の完成を回避するための方法についても、簡単にご説明いたします。

本記事が、養育費と時効についてのご参考となれば幸いです。

目次

未払い養育費に時効はある?

養育費は、離婚した夫婦の間で取り決められるものであり、未成年の子供の生活費や教育費を賄うために支払われる金銭です。離婚したとしても、子供の親であるということには変わりないので、親としての義務として養育費を支払う必要があります。

養育費の支払いは、子供の福祉を最優先に考え、親としての責任を果たすために重要です。

しかしながら、子供のために必要な権利とはいっても、離婚後何十年にも渡って養育費の請求が認められ続けることになると、支払義務者である夫や妻にとっては、いつ請求されるかも分からず、離婚後に大きな経済的・精神的負担となってしまう可能性があります。

このため、養育費にも、いつまで請求できるのかという消滅時効が定められているのです。消滅時効の制度は、債権者と債務者の間の公平性を保つために存在するといえるでしょう。

さて、本記事では、この養育費が何年の消滅時効にかかるのか、という問題について見ていきます。その前に、養育費の消滅時効の前提として、債権としての養育費の性質について把握しておきましょう。

債権としての養育費の性質は?

債権としての養育費の性質に関してですが、養育費を相手に請求する権利(養育費請求権)自体は、定期金債権であると考えられています。

定期金債権とは、毎月一定の金額を継続的に支払う義務をともなう債権のことを意味しています。

養育費の場合、たとえば「月額10万円を子供が20歳になるまで支払う」といった取り決めがなされることが一般的です。このように、養育費は支払いが毎月定期的に発生する債権なので、養育費請求権は定期金債権に該当します。

ですが、実際に養育費についての取り決めがなされ、たとえば「月額10万円を子供が20歳になるまで支払う」といった内容で合意した場合、「相手に養育費を請求する権利」とした漠然としたものから、「月額10万円」という具体的な債権になります。

そのため、毎月10万円という養育費は、毎月個々に発生する10万円の個別の債権となるため、それぞれが「定期給付債権」となります。

定期給付債権の時効

定期給付債権とは、ある一定期間の間、定期的に債務者から一定額の金銭の給付を受けることができる債権をいいます。

定期給付債権の時効に関しては、債権一般の消滅時効(民法第166条1項)の規定が適用されるため、毎月発生している定期給付債権としての養育費についても、民法第166条1項の規定が適用されることになるのです。

さて、以下が、養育費などの債権の消滅時効を規定した民法第166条1項の条文になります。

(債権等の消滅時効)

民法第166条1項
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
1.債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
2.権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。

こちらの民法の規定を見ると、養育費の消滅時効が「5年」と「10年」の2つあることに疑問を抱かれるのではないでしょうか。

この養育費の消滅時効に関する「5年」や「10年」といった期間の違いは、養育費の取り決めがどのような形で行われたか、という点に関わってきます。

以下の表で、その具体的な「5年」の消滅時効の場合と「10年」の消滅時効の場合について、詳しく見ていきたいと思います。

離婚協議書や公正証書などでの合意の場合は原則5年

 

離婚協議書や公正証書などでの合意の場合は原則5年

 

それでは、具体的な養育費の消滅時効について、見ていきましょう。

(債権等の消滅時効)

民法第166条1項
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
1.債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
2.権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。

さて、養育費の取り決めに関しては、主に次の3つのパターンが考えられます。

  1. 協議で取り決めた、取り決めた内容を公正証書などにした。
  2. 調停や審判などの裁判所の手続きで取り決めた。
  3. そもそも養育費については取り決めをおこなっていない。

そして、民法第166条1項が適用されるのは、3つのパターンのうち「1.協議で取り決めた、取り決めた内容を公正証書などにした。」場合となります。

離婚する際に、養育費の金額や支払い方法、子供が何歳まで支払うか、といった養育費の条件について取り決めをしている場合には、本記事で前述した通り、「毎月10万円の養育費を支払う」といったような具体的な金銭債権になっています。

したがって、この場合の養育費の消滅時効は、民法第166条1項の規定が適用されることになるのです。

さて、離婚協議や公正証書などで養育費について取り決めた場合は、原則として民法第166条1項1号が適用されます。そのため、民法第166条1項1号「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。」により、養育費の消滅時効は原則「5年」となります。

ところで、民法第166条1項1号にある「債権者が権利を行使することができることを知った時」というのが5年の消滅時効の起算点となるのですが、これはどういう意味なのでしょうか。

「債権者が権利を行使することができることを知った時」とは、債権者が債務者に対して請求をする権利を具体的に行使できる状態になったことを認識した時点、を指します。つまり、「債権者が請求する権利が発生し、その権利を行使できることを知った時」から、消滅時効の進行が開始されるという意味です。

具体的には、以下のような場合が考えられます。

1.支払い期限が到来した場合

たとえば、養育費の支払いが毎月末日と取り決められている場合、各月の末日が支払い期限となります。債権者である妻がこの支払い期限を過ぎても養育費が支払われていないことを認識した時が「権利を行使することができることを知った時」に該当します。この時点から5年間の消滅時効が開始します。

2.公正証書や調停調書などの文書に基づく場合

公正証書や調停調書に基づいて養育費の支払いが取り決められている場合、その文書に記載された支払い条件が満たされなかった時点で、債権者は権利を行使することができる状態になります。債権者がこの状況を認識した時から5年間の消滅時効が開始します。

この「権利を行使することができることを知った時」というのは、実際に債権者がその事実を知った時点が基準となります。つまり、養育費の支払いが未払いになっていることを知り、具体的に請求できる状況になったことを意味しているのです。

たとえば、毎月5日に養育費を支払うという取り決めをしている場合を考えてみましょう。6日に、通帳の記帳を行った際に、「5日にされているはずの養育費の振り込みがない!」と気づければ、6日が、「権利を行使することができることを知った時」になるのです。

ところで、養育費の消滅時効は原則5年と解説いたしましたが、民法第166条1項2号が適用される場合の消滅時効は10年とされています。

この5年と10年の消滅時効の違いは何なのでしょうか。

「養育費の消滅時効は5年か10年だから、時効が長い方を選べば良い。」といった誤解をしばしばお見受けすることもありますので、ここは注意が必要です。

5年と10年が適用されるケースについて、詳しく解説させていただきます。

まず、民法第166条1項2号の「権利を行使することができる時」とは、消滅時効の起算点についての記載になりますが、民法第166条1項1号は「債権者が権利を行使することができることを知った時」とあるので、微妙に表現が異なっています。

民法第166条1項2号の「権利を行使することができる時」とは、債権者が法的にその権利を行使できる状態が発生した時点を指します。この表現は、債権者が実際にその権利を知っているかどうかに関わらず、権利を行使できる客観的な状況が整った時を基準としています。

具体的に説明すると、次のような場合が考えられます。

1.支払い期限の到来

たとえば、養育費の支払いが毎月1日に行われると取り決められている場合、その月の支払い期限が到来した時点が「権利を行使することができる時」となります。つまり、支払日を過ぎた時点から権利を行使できる状態になります。そのため、養育費の支払いが毎月1日に行われると取り決められている場合には、2日の時点から権利を行使できる状態になるのです。

2.契約や合意内容の履行期の到来

公正証書や調停調書などで養育費の支払いが取り決められ、その履行期限が到来した時点です。履行期限の到来とは、たとえば、「毎月5日に養育費を支払う」という取り決めがあった場合には、その支払日が到来した日ということになります。この場合、支払い義務が発生し、債権者はその時点で権利を行使できる状態となります。

3.法的な条件の成就

契約や法律上の条件が満たされ、債権者が法的に請求できる状態になった時点です。この場合も、具体的な支払い義務が発生した時点で「権利を行使することができる時」となります。

「権利を行使することができる時」と「債権者が権利を行使することができることを知った時」の違いは、前者が客観的な状況に基づくものであり、後者は債権者がその状況を主観的に知った時点に基づくものです。

具体例として、養育費の支払いが毎月1日に行われる取り決めがあり、支払いが行われなかった場合を考えてみましょう。民法第166条1項1号では、債権者がその未払いを知った時点が起算点となります。

しかし、民法第166条1項2号では、支払日である1日が消滅時効の起算点となります。これにより、実際に債権者が未払いを認識していなくても、客観的な時点から消滅時効が進行することになるのです。

このように、民法第166条1項2号は、権利の行使可能な客観的な時点から消滅時効を起算するものであり、債権者がその権利を認識していなくても時効は進行します。

ただし、子供の養育費に関しては、何か特別な事情がない限り、「権利を行使できること」を知っている、というのが一般的な前提なので、養育費の消滅時効においては、民法第166条1項1号の「5年」が適用されるケースがほとんどといえます。

何らかの要因によって、養育費を請求できることを知らなかった場合には、民法第166条1項2号の10年の消滅時効が適用されることになりますが、原則として養育費の消滅時効は5年、と覚えておきましょう。

たとえば、長男(6歳)の養育費について、月4万円で支払うという取り決めをして、離婚した場合を考えてみましょう。離婚後に、元夫が、1年間は養育費の支払いをしていましたが、突然ある月から、養育費の支払いが止まったとします。元妻は、「何か理由があるのだろう。そのうち支払いがされるはず。」と考えて、特に夫に連絡をすることもなく、養育費の支払いが止まって以降、7年間放置していましたが、今から養育費の請求をしたいと考えたとしましょう。この場合には、今から5年以上前に発生した各月ごとの養育費請求権については、時効により消滅するということになるのです。

民法の改正により養育費の消滅時効に影響はあったのか

なお、この債権の消滅時効に関しては、2020年(令和2年)に民法の改正がありました。

2020年の民法改正以前は、民法第169条に「定期給付債権の短期消滅時効」について規定されていました。そして、定期給付債権である月々の養育費は、改正以前のこの規定が適用されていました。

(改正される前の定期給付債権の短期消滅時効)

民法第169条
年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は、5年間行使しないときは、消滅する。

改正以前は、上記の民法第169条によって、養育費の消滅時効は5年と定められていましたが、2020年の民法改正の際に民法第169条は削除され、養育費は原則として民法第166条1項1号の適用を受けることになったのです。

この2020年の消滅時効に関する民法改正によって、養育費以外にも、さまざまな債権の消滅時効がおおむね「5年」に統一されることになりました。

養育費に関しても、適用される民法の規定は民法改正によって変わったものの、原則5年の消滅時効は変わらないので、2020年の民法改正の前後で、養育費の消滅時効に実質的な変更はありません。

調停・審判・訴訟など裁判手続きの場合は10年

養育費の支払い義務が調停や審判、訴訟など裁判手続きで確定した場合、その消滅時効は原則10年間です。この10年の消滅時効については、民法第169条の消滅時効に関する規定が適用されます。

(判決で確定した権利の消滅時効)

民法第169条 確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、10年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、10年とする。
2 前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。

確定判決と同一の効力を有するものとは?

確定判決と同一の効力を有するものとは、裁判所の判決以外に、離婚調停調書や審判、訴訟の和解調書などが該当します。これらの公文書は法的に強い効力を持ち、確定判決と同じく、強制執行が可能です。

たとえば、養育費の支払いに関する取り決めが調停調書や審判によって確定された場合、それらの文書は確定判決と同一の効力を有します。

10年より短い時効期間の定めがある場合

民法第169条1項では、確定判決等によって確定された権利については、たとえ10年より短い時効期間が定められている場合でも、その時効期間は10年とされるとしています。

これは、確定判決や調停調書などで確定された債権が、特に保護されるべきものであるためです。したがって、養育費の支払い義務が裁判手続きで確定した場合、その消滅時効は10年間となり、請求の権利がより長期間にわたり保護されます。

確定の時に弁済期の到来していない債権について

ところで、民法第169条2項は、確定の時に弁済期(支払い期限)の到来していない債権については、10年の時効期間が適用されないことを示しています。10年の消滅時効の例外的なケースです。

「確定の時に弁済期(支払い期限)の到来していない債権」とは、養育費の具体例でいえば、次のようなケースになります。

たとえば、養育費の支払い期日前に、養育費の支払いに関するトラブルが発生し、養育費の支払いに関する裁判が行われた場合などに、その裁判の判決が養育費の支払い期日前に確定したときは、その養育費の消滅時効は、民法第169条1項の「10年」が適用されるわけではない、ということです。

そのため、裁判の判決確定時点で未だ発生していない将来分の養育費などについては、消滅時効は10年ではなく、原則の5年となります。

この消滅時効については、難しいため、具体例で考えてみましょう。

たとえば、長男(6歳)の養育費について、月4万円を支払うという調停が成立したとします。この調停で、調停成立までの未払い養育費についての判断(未払い養育費として合計20万円支払うという内容など)があった場合には、この未払い養育費については、10年の消滅時効が適用されることになります。つまり、この未払い養育費については、調停成立から10年を経過しないと時効により消滅しない、言い換えれば、10年以内であれば請求することができるということになるのです。もっとも、調停成立時に、調停成立後の養育費についての判断(調停成立後、養育費を毎月4万円支払うという内容など)があった場合には、この調停成立後の養育費というのは、調停成立時点でまだ発生していない各月ごとの養育費に該当します。この養育費請求権は、発生から5年で消滅時効により消滅するということになるのです。

離婚時に取り決めなしの場合は何年?いつまで請求できるの?

養育費について離婚時に取り決めがなされなかった場合、その請求に関しては特定の消滅時効が存在しません。これは、親子関係が存在する限り、親としての養育義務が継続するためです。

たとえ親権者でない場合でも、親子関係がある限り養育費の支払い義務は発生します。したがって、子供が成人するまでの間であれば、養育費の請求が可能です。

この場合、具体的には次のような手続きが考えられます。

まず、養育費の請求を行うために、調停や審判、裁判を通じて正式な手続きを開始します。これにより、養育費の支払い義務を確定させることができます。養育費の取り決めが裁判所の判断として確定されると、未払いが発生した場合でも適切な法的手続きを通じて請求することができます。

たとえば、養育費の未払いが発生した場合、支払督促や差押え、強制執行といった手続きを通じて未払い分を回収することが可能です。また、支払い義務者である夫が養育費の未払いを承認した場合や、裁判所の判断に基づいて請求が認められた場合、これらの手続きを通じて適切に養育費を請求することが重要になります。

ただし、実務上、養育費の請求は請求した月からしか認められないケースが多いです。過去にさかのぼって養育費を請求することが認められることは少なく、裁判所の判断に委ねられることが多いです。したがって、過去の未払い分についてはケースバイケースであり、裁判所の判断によって異なる結果となる可能性があります。

離婚時に養育費の取り決めをしていなかった場合でも、子供の福祉を確保するために早めに請求手続きを行うことが重要です。そのため、離婚後に、なるべく早く適切な手続きを通じて養育費の支払い義務を確定させ、未払い分についても迅速に対応するし、子供の生活環境を守る必要があるでしょう。

このように、養育費の請求については、消滅時効などの複雑な問題が関係してくるため、法律の専門家である弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。

養育費の時効の進行を中断する方法・・・民法改正後の「更新」とは

離婚成立後は何かと新生活に適応するために慌ただしく、養育費の支払いが多少遅れても気にしていられない場合もあるかもしれません。

ですが、養育費の未払いを放置しておくと、消滅時効が進行し、養育費を請求できなくなってしまいます。

消滅時効は、適切な方法を取ることによって、その進行を中断させることが可能です。以下に、消滅時効の進行を中断させるための方法である「更新」について、具体的な方法をいくつかご紹介させていただきます。

それでは、まず時効の「更新」とはどういう意味なのかについて、理解しておきましょう。

時効の「更新」とは

「更新」というと、サービスや賃貸契約の更新、という言葉で馴染みがあるかもしれませんが、消滅時効における更新は意味が異なります。

時効の場合における「更新」とは、更新の行為があると、その時まで進んできた消滅時効の時間がリセットされてゼロになり、更新の行為があった時から、新たに時効の起算が開始されるというものです。

分かりやすくいうと、更新にあたる行為を行ったら、その時から新たに5年間の時効のカウントが開始される、ということです。

時効の更新の効果はこのように強力なため、更新に該当する行為は民法によって明確に定められています。そのため、たとえば口頭で「養育費を請求したいので時効を更新したい」と主張しても、更新の行為に当たらないため、時効の更新は認められません。

それでは、時効の更新の方法として、いくつかの具体例を挙げていきたいと思います。まずは、以下の民法第147条2項に記載されている更新の方法から、主な3つの方法をご紹介いたします。

(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)

民法第147条
次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
1.裁判上の請求
2.支払督促
3.民事訴訟法第275条第1項の和解又は民事調停法(昭和26年法律第222号)若しくは家事事件手続法(平成23年法律第52号)による調停
4.破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
2 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。

更新方法1.裁判上の請求(民法第147条2項)

裁判上の請求とは、養育費の未払いに対して裁判を起こし、法的に請求権を主張することです。

養育費の消滅時効を中断するための方法として、裁判上の請求(民法第147条2項)は非常に明確で、有効な手段といえます。この手続きを行うことで、消滅時効は更新され、新たな時効期間が開始します。

養育費の消滅時効は通常5年間ですが、裁判上の請求を行うことでこの期間をリセットし、新たな5年間がスタートします。裁判上の請求を行うためには、まず養育費の未払いが発生していることを確認し、その未払い分について具体的な請求額を算出します。

次に、家庭裁判所や地方裁判所に養育費の未払い分について訴えを提起します。この訴訟手続きでは、証拠書類や証人などを用意し、裁判官に対して未払いの事実を立証する必要があります。

こうした裁判上の請求が進行している間は、その請求が終了するまで、時効の完成が猶予されることになります。

そして、裁判所が請求を認める判決を下した場合、その判決が確定すると、消滅時効は更新され、新たな消滅時効の5年間の起算がスタートすることになるのです。

裁判上の請求は、他の手続きと比べて時間と費用がかかる場合がありますが、法的に確実な権利を主張できるため、養育費の未払いに対して非常に効果的な手段です。

また、裁判所の判決を得ることで、将来的に未払いが再発した場合でも、強制執行などの法的手続きを容易に行うことができます。

更新方法2.支払督促(民法第147条2項)

養育費の消滅時効を更新するための方法として、支払督促の手続きを利用することが有効です。支払督促とは、裁判所を通じて迅速かつ簡便に金銭の支払いを請求する手続きです。支払督促の手続きを行うことにより、消滅時効が更新され、新たな時効期間が開始されます。

支払督促の手続きを開始するには、まず管轄の簡易裁判所に対して支払督促の申し立てを行います。この申し立てには、養育費の未払いが発生していることを示す証拠書類や、具体的な請求額を記載した書面などの提出が必要です。裁判所は、申し立てを受理すると、支払督促状を支払義務者である夫または妻に送付することとなります。

この支払督促状が支払義務者に送達された時点で、消滅時効は更新されます。支払督促状を受け取った支払義務者が異議を申し立てない場合、支払督促は確定し、強制執行の手続きを行うことが可能となります。これにより、未払い養育費の回収が確実に行われることになります。

一方、支払義務者が支払督促に対して異議を申し立てた場合は、通常の裁判手続きに移行します。この場合でも、支払督促の申し立てが行われた時点で消滅時効は更新されており、新たな時効期間が開始されることになります。

支払督促の手続きは、裁判手続きよりも簡便で迅速に進行するため、養育費の未払いに対する効果的な手段として利用できます。また、支払督促が確定することで、差押えや強制執行といった強力な法的手続きを利用することができ、未払い分の回収が容易になります。

更新方法3.和解及び調停の申し立て(民法第147条2項)

養育費の消滅時効を更新するための方法として、和解及び調停の申し立てが非常に有効です。これは、未払いの養育費に対して法的手続きを行い、権利を確実に保護するための手段です。

まず、和解とは、当事者間で争点を解決するための合意に至ることを指します。調停は、裁判所が介入して当事者間の争いを解決する手続きです。これらの手続きを通じて養育費の請求を行うことで、消滅時効は更新され、新たな時効期間が開始されます。

和解及び調停の申し立ては、家庭裁判所で行うことができます。まず、未払いの養育費について、夫または妻が和解や調停の申し立てを行います。これにより、裁判所が介入し、未払い養育費の具体的な額や支払い方法について話し合いを進めます。この過程で、裁判所の調停委員が仲介し、公正な解決を目指します。

和解や調停が成立した場合、その内容は調停調書や和解調書として記録されます。これらの書面は法的効力を持ち、確定判決と同じように強制執行が可能になります。

したがって、和解や調停を通じて養育費の請求が成立すると、消滅時効が更新され、新たな時効期間が開始されることになります。

更新方法4.強制執行・担保権の実行等(民法第148条2項)

続いて、民法第148条2項に規定されている更新の方法についてご説明いたします。

(強制執行等による時効の完成猶予及び更新)

民法第148条
次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
1.強制執行
2.担保権の実行
3.民事執行法(昭和54年法律第4号)第195条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売
4.民事執行法第196条に規定する財産開示手続又は同法第204条に規定する第三者からの情報取得手続
2 前項の場合には、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、この限りでない。 

養育費の消滅時効を更新するための方法の一つに、強制執行や担保権の実行があります。これは、裁判所の判決や調停調書、公正証書などの法的効力を持つ文書に基づいて、支払義務者の財産を差押え、未払い養育費を回収する手続きです。民法第148条2項によれば、これらの手続きを行うことで消滅時効が更新され、新たな時効期間が開始されます。

まず、強制執行とは、裁判所の判決や調停調書などに基づき、支払義務者の財産を差押え、強制的に未払い養育費を回収する手続きです。

たとえば、夫が養育費の支払いを怠っている場合、妻は裁判所に強制執行の申し立てを行い、夫の給与や預貯金、不動産などの財産を差押えることができます。この差押えの手続きにより、消滅時効は更新されます。

次に、担保権の実行について説明します。担保権とは、養育費の支払いを確保するために設定された担保の権利です。

たとえば、不動産に対する抵当権や動産に対する質権などがあります。支払義務者が養育費の支払いを怠った場合、債権者である妻はこれらの担保権を実行し、担保物を競売にかけることで未払い分を回収します。この手続きも消滅時効を更新する効果があります。

強制執行や担保権の実行は、法的に強力な手段であり、養育費の未払いを確実に回収するために有効です。これらの手続きを行うことで、消滅時効が更新され、新たな時効期間が開始されます。

更新方法5.債務者による債務の承認(民法第152条1項)

養育費の消滅時効を更新する方法の一つとして、債務者による債務の承認があります。これは、養育費の支払い義務を負っている夫または妻が、自ら未払いの債務を認める行為を指します。民法第152条1項に基づき、債務者が債務を承認した場合、消滅時効が更新され、新たな時効期間が開始されます。

(承認による時効の更新)

民法第152条 時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
2 前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。

具体的には、債務者が債務を承認する方法として、以下のような行為が考えられます。

書面での承認

債務者が未払いの養育費について書面で認める場合です。たとえば、夫が「これまでの未払い養育費○○円を認めます」と書いた書面を妻に渡した場合、この行為により消滅時効が更新されます。

口頭での承認

債務者が口頭で債務を認める場合も有効です。たとえば、電話や面談の場で夫が未払い養育費の存在を認める発言をした場合です。ただし、口頭での承認は後に証明が難しいため、できるだけ書面での承認を取得することが望ましいです。

支払い行為

債務者が一部でも養育費を支払った場合も、債務を承認したことになります。たとえば、夫が未払い養育費の一部を妻に支払った場合、その行為自体が債務の承認とみなされ、消滅時効が更新されます。

債務の承認が行われた時点で、消滅時効は更新され、新たな時効期間が開始されます。

仮差押え・仮処分や天災等の事由は「時効の完成猶予」

養育費の消滅時効の進行を遅らせる方法として、仮差押えや仮処分、天災等の事由により「時効の完成猶予」が適用されることがあります。「時効の完成猶予」とは、特定の事由が発生した場合に、消滅時効の完成が一定期間延長されることを意味します。これにより、消滅時効が成立するまでの期間が一時的に停止し、猶予されます。

まず、仮差押えとは、裁判所の命令により支払義務者の財産を一時的に差押える手続きです。これは、支払義務者が財産を処分しないようにするための予防的措置です。仮差押えの手続きを行うことで、消滅時効の完成が猶予されます。たとえば、夫が養育費の支払いを怠っている場合、妻は裁判所に仮差押えの申し立てを行い、夫の財産を仮に差押えることで、消滅時効の完成を猶予することができます。

次に、仮処分とは、緊急の必要がある場合に裁判所が行う一時的な措置です。仮処分も消滅時効の完成を猶予する効果があります。たとえば、妻が夫に対して養育費の支払いを求める仮処分を申し立てた場合、その手続きが終了するまでの間、消滅時効の完成が猶予されます。

さらに、天災等の不可抗力による事由も「時効の完成猶予」の対象となります。自然災害やその他の重大な事態により、債権者である妻が養育費の請求手続きを進めることが困難な場合、消滅時効の完成が一定期間猶予されます。これにより、消滅時効が成立する前に請求手続きを再開することが可能となります。

このように、仮差押えや仮処分、天災等の事由による「時効の完成猶予」は、養育費の消滅時効を遅らせるための重要な手段となるのです。

養育費の支払いと時効についてのQ&A

Q1.養育費の消滅時効は何年ですか?

養育費の消滅時効は原則として5年間です。ただし、調停や審判、裁判手続きで確定された場合は、養育費の消滅時効は10年間となります。

Q2.過去の養育費の未払い分を請求することができますか?

ケースバイケースですが、養育費の5年あるいは10年の消滅時効が完成していなければ、過去の養育費の未払い分を請求することは可能です。ただし、請求は消滅時効期間内に行う必要がありますので、消滅時効に注意する必要があります。

Q3.債務者が養育費の債務を承認した場合、消滅時効はどうなりますか?

債務者が養育費の債務を承認した場合、消滅時効はその時点から再度開始されます。たとえば、夫が未払いの養育費について書面で承認した場合、その時点から新たに5年間の消滅時効が開始されます。このように、債務の承認は消滅時効を更新するための有効な手段です。

子供の養育費のお悩みは当法律事務所の弁護士にご相談ください

養育費の消滅時効について知識を深めることは、子供の福祉を守るために非常に重要です。消滅時効の期間やその更新方法を理解しておくことで、未払いの養育費を確実に回収するための適切な手続きを取ることができます。

特に、消滅時効が迫っている場合や、既に未払いが発生している場合は、迅速な対応が求められます。

当法律事務所では、養育費に関する様々な問題について、法律の専門家である弁護士が対応いたします。裁判上の請求や支払督促、和解および調停の申し立て、強制執行、債務の承認など、具体的な手続きや方法についてのアドバイスを提供し、ご依頼者様の権利を守るためのサポートをいたします。

子供の養育費に関するお悩みや疑問がございましたら、ぜひ当法律事務所の弁護士にご相談ください。

弁護士法人あおい法律事務所では、初回無料で法律相談も行っておりますので、お気軽にお問い合わせいただければと思います。

この記事を書いた人

雫田 雄太

弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

 

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