離婚後の戸籍はどうなる?氏の変更や子どもの姓との関係を解説
離婚に際して、さまざまな手続きや変化がともないますが、その中でも特に重要なのが「戸籍」に関する問題です。
この記事では、離婚したことによって戸籍がどうなるのか、といったことについて弁護士が解説いたします。
通常、結婚した時に苗字を変えた側は、離婚する際に自分の苗字をどうするのかを検討することになります。実家の親の戸籍に戻る人もいれば、「仕事で使っている苗字を変えるのは手間だから」と婚姻中に名乗っていた苗字を使い続ける人もいるでしょう。
夫婦の間に子供がいる場合は、子供が夫と妻のどちらの戸籍に入るのか、子供の苗字をどうするのか、といったことについても考える必要があります。また、離婚後に、子供の苗字を母親の旧姓にしたい場合には、手続きが必要なのかどうか知りたいという方もいらっしゃるでしょう。
離婚後の戸籍はどうなるのかといった問題について、その具体的な手続き方法や、苗字を変える場合・旧姓に戻る場合のメリット・デメリットなどについても、簡単に解説させていただきます。
本記事が、離婚の手続きのご参考となりましたら幸いです。
目次
離婚したら戸籍はどうなるの?
離婚後の戸籍の取り扱いがどうなるかについて、ご存知でしょうか。漠然と「夫と妻の戸籍が別々になる」と認識していらっしゃる方が多いかと思います。
離婚後の戸籍ですが、正確に言うと、「結婚で戸籍に入った方が、夫婦の戸籍から除籍される(戸籍から抜け出る)」ことになります。
日本では、結婚によって夫を筆頭者とする戸籍に妻が入ることが一般的なので、離婚した場合も妻が夫を筆頭者とする夫婦の戸籍から出ていくことになります。
一方で、婿養子の場合には、離婚した場合に、夫が妻を筆頭者とする夫婦の戸籍から出ていくことになります。
「バツイチ」って?離婚歴と戸籍謄本・除籍
ところで、以前は離婚歴のある人を「バツイチ」などと表現することがありました。離婚歴1回ならバツイチ、2回離婚していればバツニです。「バツがつく」といった表現はあまり好ましい表現ではありませんが、実はこのバツイチという表現は、戸籍の記載が由来になっています。
以前の戸籍においては、離婚などの理由で該当の戸籍から名前を外す「除籍」という手続きが行われた際、除籍された人の名前の部分に×印が記されていました。当時は戸籍が全て手書きで作成され、紙の書類で管理されていたため、分かりやすく記載するためにも×印にしていたのです。
現在は戸籍管理もデジタル化したため、手書きではない戸籍に関しては×印ではなく「除籍」という文言が記載されるようになったのです。
なお、「除籍」は戸籍から抜け出ることなので、離婚だけでなく、結婚や死亡、本籍地の変更なども除籍に該当します。この誰もいなくなった戸籍謄本のことを、除籍謄本と呼びます。
本籍地を変更すると戸籍に離婚したことが記載されない?転籍
離婚したことを戸籍に記載されたくない、という場合もあるかと思います。そういった場合に考えられる方法としては、「転籍」という方法があります。
転籍とは、本籍地を変更する手続きです。除籍された人に関して、以前の戸籍から新しい戸籍へと情報が移行されないようにする手続きを指します。この方法を利用すると、元配偶者の氏名や結婚前の自分の情報などが、転籍後の新しい戸籍には反映されません。
ただし、離婚したことがあることを完全に記載しないわけにはいかないため、転籍前の除籍謄本などには離婚歴が記載されます。そのため、転籍後の戸籍が必要になった時には離婚の記載のない戸籍謄本で足りますが、相続手続きなどで出生まで戸籍を遡るような時には、離婚の記載のある除籍謄本も取得しなければなりません。
転籍の手続きは、市区町村役場に転籍届を提出することによって行います。転籍届の書式は全国共通ですので、役所の窓口やホームページなどから簡単に入手することが可能です。
新しい本籍は、日本国内であればどこを本籍地としても構いません。住民票とは異なり、実際に住んでいる場所である必要はないからです。そのため、中には皇居(東京都千代田区千代田1番1)を本籍地として登録している人もいます。
離婚後の本籍地の変更手続き方法とメリット・デメリット
さて、離婚すると夫婦の戸籍から除籍されることになるわけですが、戸籍から抜け出る方は、離婚時に離婚後の自分の戸籍をどうするかを選択する必要があります。
通常、離婚後の戸籍は次の3つの中から選ぶことになります。
- 親の戸籍など結婚前にいた戸籍に戻る(復籍)
- 元夫・元妻の苗字をそのまま使う
- 自分を筆頭者にした戸籍を新しく作る
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
1.親の苗字(旧姓)に戻る場合
離婚によって夫婦の戸籍から除籍される場合、まず考えられる選択肢の一つが、親の戸籍など結婚前にいた戸籍に戻ること、すなわち「復籍」です。
復籍は、結婚によって変更した自分の姓を、離婚を機に再び元の姓に戻す手続きです。これにより、法的にも社会的にも結婚前の状態に戻ることができます。
日本では離婚すると、原則として結婚前の戸籍に戻ることになります。
(離婚による復氏等)
民法第767条1項 婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、協議上の離婚によって婚姻前の氏に復する。
そのため、旧姓に戻りたい場合は特に手続きをする必要はありません。市区町村役場に離婚届を提出して終了です。
たとえば、婚姻中の苗字が「木村」で、妻の旧姓が「小林」だとしましょう。
この場合に、妻が、離婚後は旧姓の「小林」に戻りたいと考えている場合には、特に手続きをすることなく、市町村役場に離婚届を提出すれば良いことになります。
離婚後に旧姓に戻ること自体は、手続きがないため非常に楽ですが、旧姓に戻るため、離婚したことが周囲にバレることになります。また、婚姻中に使っていたクレジットカードや通帳、身分証明書などの名義変更手続きをしなければならないというデメリットもあります。
2.元夫・元妻の苗字をそのまま使う場合
仕事で使っているから姓を変えたくない、旧姓に戻ると離婚したことが周囲にバレてしまうのが嫌、などのさまざまな理由から、婚姻中に名乗っていた姓を離婚後もそのまま使いたい場合もあります。
このような時には、婚姻中の姓(婚氏)を継続して使う旨の手続き(婚氏続称の届出)をし、自分を筆頭者とした新たな戸籍を作ることになります。
婚氏続称の届出の手続きは、離婚後に婚氏を使いたい届出人の本籍地、または所在地の市区町村役場にて行います。
婚氏続称の届出の手続きは期限が定められているので、離婚の日から3ヶ月以内に行う必要があります(民法第767条2項、戸籍法第77条の2)。
(離婚による復氏等)
民法第767条2項 前項の規定により婚姻前の氏に復した夫又は妻は、離婚の日から3ヶ月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を称することができる。
戸籍法第77条の2
民法第767条第2項(同法第771条において準用する場合を含む。)の規定によって離婚の際に称していた氏を称しようとする者は、離婚の年月日を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。
離婚後、婚氏続称の届出をしないと旧姓に戻ることになります。そして、旧姓に戻ってから、3ヶ月を経過してしまうと、役所に届け出るだけでは婚氏を使い続けることができません。この場合、家庭裁判所に対して氏の変更許可の申立をしなければならなくなります。
たとえば、婚姻中の苗字が「木村」で、妻の旧姓が「小林」だとしましょう。そして、妻が、離婚後も「木村」という苗字を使いたいと考えているとします。このような場合に、離婚後に、妻が婚氏続称の届出の手続きをしないでいると、妻の苗字は旧姓の「小林」に原則として戻ることになります。そして、妻の苗字が旧姓の「小林」に戻ってから、3ヵ月を経過してしまうと、市町村役場に、婚氏続称の届出の手続きをしたとしても、離婚前(婚姻中)の苗字である「木村」に戻ることは原則できないということになります。この場合には、家庭裁判所に対して、氏の変更許可の申立をしなければならないのです。
離婚後も元夫や元妻の苗字を使いたい場合は、婚氏続称の届出の手続きをスムーズに行えるよう、離婚届の準備の際にあわせて準備しておくようにしましょう。
なお、婚姻中の姓をそのまま使い続けることには、次のようなメリットがあります。
- 離婚後に苗字を変える場合、運転免許証や、銀行口座、クレジットカード、各種保険契約書類などの名義変更をしなければなりませんが、苗字を変えない場合は、こうした名義変更の手続きをする必要はありません。
- 離婚した親と子供が同じ姓を使い続けることができます。
- 長年同じ苗字で仕事をしていると、その名前は個人の専門性や信頼性と結びついています。離婚により苗字が変わると、これまで築いてきた業績や評価が新しい苗字に即座に連動しない可能性があります。旧姓を維持することで、職場や業界内での認知度と評価を保持できます。
- 離婚後に苗字を変えないことで、周囲に離婚したことが知られにくいというのもメリットの一つです。
一方で、離婚後に旧姓に戻らないことには、次のようなデメリットもあります。
- 続けていると、その苗字によって元配偶者のことを連想し、精神的な苦痛を生じさせかねない。
- 離婚後に再婚して別れた時に、最初の旧姓に戻れない。
- 対外的に、元夫や元妻との婚姻関係が継続していると誤解される。
離婚後に婚氏を続称するかどうかは、こうしたメリットとデメリットを慎重に検討して判断するようにしましょう。
3.自分を筆頭者にした戸籍を新しく作る場合
苗字は旧姓に戻す場合でも、両親などの実家の戸籍には入らず、自分を筆頭者にした戸籍を新しく作りたい場合もあるでしょう。
この場合は、「新戸籍編成の申出」を行う必要があります。この新戸籍編成の申出の手続きは、離婚届によって行います。
離婚届の氏についての記入欄に「新しい戸籍をつくる」という項目があるのでチェックを入れ、「婚姻前の氏にもどる者の」本籍を記入します。そして、婚姻前の氏で自分の名前を筆頭者欄に記入します。
戸籍謄本はいつできるの?
離婚の手続きを終え、離婚後に必要な各種手続きを行おうとした時に、戸籍謄本が必要になる場合もありますよね。
離婚後なるべく早く戸籍謄本を入手したいところですが、通常、離婚届を提出したその足で即日戸籍謄本を交付してもらうことは難しいです。離婚後に戸籍謄本を交付してもらうには、離婚届を提出してから数日から1週間程度はかかると見込んでおくと良いでしょう。
なお、市区町村役場によっては、離婚後の戸籍謄本を即日発行してもらえる場合もありますので、事前に可能かどうか確認しておくことをおすすめいたします。
離婚後、子供の氏(苗字)と籍はどうすればいい?
夫婦の戸籍から出ていく夫や妻の離婚後の戸籍については、以上の通りとなります。
さて、前述の手続きに加えて、夫婦に子供がいる場合、子供の苗字と戸籍についても気を付けなければなりません。
夫婦が離婚した場合も、夫婦の子供の戸籍や姓は、原則として変わりません。つまり、夫婦が離婚して妻が夫を筆頭者とする戸籍から抜けることになっても、子供は夫を筆頭者とする戸籍に夫の姓のまま残ることになるのが原則なのです。
ですので、自分が婚姻中に戸籍の筆頭者で、配偶者と離婚後に子供の親権者となる場合は、自分と子供の姓も戸籍も同じまま変わりませんので、特に戸籍編成などについての手続きは必要ありません。
子供の姓や戸籍について注意しなければならないのは、子供の親権者となった方が、婚姻中に入っていた戸籍から出ていく場合です。親権者である親は戸籍から出て行くのに、子供は元の戸籍に残るため、親子で戸籍が違うことになってしまいます。
戸籍法の規定によって、子供は父親の戸籍に入るには父親の姓でなければならず、母親の戸籍に入るには母親の姓でなければなりません(戸籍法第18条2項)。
戸籍法第18条 父母の氏を称する子は、父母の戸籍に入る。
2 前項の場合を除く外、父の氏を称する子は、父の戸籍に入り、母の氏を称する子は、母の戸籍に入る。
こうした場合に子供を親権者の戸籍に入れるためには、子の氏の変更許可申立ての手続きを行う必要があるのです。
子の氏の変更許可申立ての必要性
ところで、「離婚後に戸籍を出ていく親権者が婚姻中の苗字を使い続けるのであれば、子供と親権者の苗字が変わらないから、子の氏の変更許可の申立て手続きをする必要はないのではないでしょうか?」という疑問の声をしばしば耳にします。ですが、表面上は同じ苗字でも、子の氏の変更許可申立ての手続きを行わなければなりません。
たとえば、婚姻中の夫婦の姓が「鈴木」で、母親の旧姓が「佐藤」としましょう。
離婚によって母親が夫の戸籍から出て、婚氏続称の手続きを行い離婚後も「鈴木」を名乗り続ける場合、原則として夫の戸籍に残る子供の姓も「鈴木」なので、母親と子供の苗字は同じだと思いますよね。
ですが、「鈴木」という姓は同じでも、戸籍は「父親の鈴木の戸籍」と「母親の鈴木の戸籍」とで異なるため、「父親の鈴木の戸籍」に入っている子供は母親の鈴木姓とは違うのです。
そのため、子の氏の変更許可の申立てを行い、子供を「父親の鈴木の戸籍」から「母親の鈴木の戸籍」に変更する必要があるのです。
また、離婚によって母親が夫の戸籍から出て旧姓の佐藤に戻る場合、子供は夫の戸籍のまま「鈴木」を名乗ることになります。親権者である母親と子供とで苗字が異なるので、やはりこの場合も子の氏の変更許可の申立てを行い、子供を母親の「佐藤」の戸籍にする必要があります。
子の氏の変更許可申立て
子の氏の変更許可申立ての手続きは、子の住所地を管轄する家庭裁判所に対して必要書類を提出して行います。申立てに必要な費用は、子供ひとりにつき800円分の収入印紙と、連絡用の郵便切手です。郵便切手については、金額と枚数の組み合わせなどが裁判所によって指定されていますので、事前に裁判所に連絡をするか、各裁判所のホームページを参照するなどして確認しておきましょう。
子の氏の変更許可の申し立てに必要な書類は、原則として次の通りです。なお、審理のために必要な場合は、家庭裁判所から書類の追加提出を求められることがあります。
- 子の氏の変更許可の申立書
- 申立人(子)の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 父・母の戸籍謄本(離婚の記載のある全部事項証明書)
必要書類は、郵送でも提出することが可能です。
申立書類一式を提出すると、家庭裁判所で審理が行われ、裁判が許可あるいは不許可の審判が下されます。結果については、審判書謄本が郵送されます。申立てから審判書謄本が送達されるまでは、おおむね2~3週間ほどかかります。
なお、許可を得ても、実際に市区町村役場で子供の戸籍を移動させるための手続きを行わなければ、実際に子供の氏が変更されません。家庭裁判所で氏の変更許可を得た後に、市区町村役場に入籍の届出をする必要があります。
入籍の届出にあたっては、審判書謄本や、戸籍謄本(全部事項証明書)などの提出を求められることがありますので、事前に市区町村役場に確認しておくことをおすすめいたします。
Q&A
Q1.離婚すると戸籍はどうなりますか?
離婚すると、結婚で戸籍に入った方が、夫婦の戸籍から除籍されることになります。除籍された方は、結婚前の戸籍(親を筆頭者とする実家の戸籍など)に戻るか、新しく戸籍を作ることになります。
Q2.離婚後の戸籍についてどういう選択肢がありますか?
離婚後の戸籍については、次の3つの中から自分に適したものを選ぶことになります。
- 親の戸籍など結婚前にいた戸籍に戻る(復籍)
- 元夫・元妻の苗字をそのまま使う
- 自分を筆頭者にした戸籍を新しく作る
Q3.離婚したら子供の苗字と戸籍は自動的に親権者と同じ苗字と戸籍になりますか?
離婚した場合、子供の苗字と戸籍は自動的に親権者と同じになるわけではありません。離婚によって夫婦の一方が戸籍から出ていく場合、子供はどちらが親権者であるかに関わらず、現在の戸籍にそのまま残るのが原則です。そのため、子供の苗字についても離婚前の苗字のまま変わりません。このような場合に、子供を親権者の戸籍に入れるためには、子の氏の変更許可申立ての手続きを行う必要があるのです。
当法律事務所の弁護士にご相談ください
この記事では、離婚後の戸籍がどうなるのか、といったことについて弁護士が解説させていただきました。
婚姻前の実家の戸籍に戻る場合などには、特段の手続きは必要ありませんが、婚姻中に名乗っていた苗字を離婚後も使い続けたい場合や、婚姻中の夫婦の戸籍から出ていく方が子供の親権者である場合などには、適切な方法で必要な手続きを行わなければなりません。
離婚後は戸籍に関する手続き以外にもやるべきことが多いため、スムーズに離婚後の手続きをこなしていくためには、このような手続きや関連する法律に詳しい、法律の専門家である弁護士にご相談いただければと思います。
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この記事を書いた人
雫田 雄太
弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
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