父親が親権を取った事例|離婚調停や裁判で父親が親権を取るポイント
離婚に際して、子どもの親権問題は避けては通れない争点のひとつです。
従来、子どもの親権については、母親が持つことが多いとされてきましたが、近年では父親が親権を取った事例も増えています。
この記事では、実際に父親が親権を取った事例を紹介させていただくとともに、父親が親権を取った事例から、子どもの親権争いで父親が勝つためには何が必要か、離婚調停や裁判に向けてどのような準備をしておけばいいのか、といった点についても深掘りしていきたいと思います。
目次
離婚調停や裁判で父親が親権を取った事例はある?
父親が親権を取った事例について見る前に、まずは子どもの親権に関しての基本的な情報を見ていきましょう。
日本においては、子どもの親権を父親が取得することは少なく、母親が親権を勝ち取ることが多いと考えられていますが、実態はどうなのでしょうか。
父親が親権を取った事例は少ない?子どもの親権を父親が取得できる確率は?
子どもの親権を父親が取得する確率について、具体的な数字を見てみましょう。
以下の表は、厚生労働省による「令和4年 人口動態統計」の「親権を行う子をもつ夫妻の親権を行う子の数・親権者(夫-妻)別にみた年次別離婚件数及び百分率」から抜粋したものになります。
【子どもが1人の場合の親権者(人)】
年 |
総数 |
夫が親権(人) |
妻が親権(人) |
2010 |
67,908 |
9,116 |
58,792 |
2011 |
62,988 |
8,206 |
54,782 |
2012 |
64,011 |
8,170 |
55,841 |
2013 |
62,500 |
8,106 |
54,394 |
2014 |
59,345 |
7,592 |
51,753 |
2015 |
60,767 |
7,856 |
52,911 |
2016 |
58,029 |
7,516 |
50,513 |
2017 |
57,166 |
7,307 |
49,859 |
2018 |
55,682 |
7,218 |
48,464 |
2019 |
55,251 |
7,283 |
47,968 |
2020 |
51,406 |
6,716 |
44,690 |
2021 |
48,979 |
6,298 |
42,681 |
2022 |
45,551 |
5,475 |
40,076 |
【子どもが1人の場合の親権者(%)】
年 |
総数 |
夫が親権(%) |
妻が親権(%) |
2010 |
67,908 |
13.4 |
86.6 |
2011 |
62,988 |
13 |
87 |
2012 |
64,011 |
12.8 |
87.2 |
2013 |
62,500 |
13 |
87 |
2014 |
59,345 |
12.8 |
87.2 |
2015 |
60,767 |
12.9 |
87.1 |
2016 |
58,029 |
13 |
87 |
2017 |
57,166 |
12.8 |
87.2 |
2018 |
55,682 |
13 |
87 |
2019 |
55,251 |
13.2 |
86.8 |
2020 |
51,406 |
13.1 |
86.9 |
2021 |
48,979 |
12.9 |
87.1 |
2022 |
45,551 |
12 |
88 |
以上の表からも分かる通り、母親が親権を取得するケースはどの年も85%を超えており、父親が親権を取った事例こそあるものの、父親が親権を取った事例は非常に少ないということが、データからもはっきりと分かります。
母親が勝ち取ることが多いのはなぜ?
離婚に際して父親が子どもの親権を取得しにくい理由や要因はいくつか考えられますが、一般的には次の要因が影響していることが大きいと考えられます。
- 子どもの養育実績の差
- 子どもと過ごす時間を確保しづらい
- 生活環境の継続
- 子どもの意思
離婚前の家庭内で、母親が主に子どもの世話や育児を担っていた場合、その実績が評価されます。裁判所は、既に子どもと強い絆を築いている母親が親権を持つ方が、子どもの安定した生活を維持できると判断することが多いです。父親が仕事に忙しく、育児の実績が少ない場合、親権を取得するのは一層困難になります。
一般的に、フルタイムで働く父親は、子どもと過ごす時間を確保しづらい、ということも親権を取得する上で大きな障害です。父親が長時間労働や夜勤などの仕事をしている場合、子どもと一緒に過ごす時間が限られます。裁判所は、子どもが親と過ごす時間の質と量を重視します。子どもとの時間を十分に確保できない父親が親権を取得するのは難しいとされます。
また、父親が子どもにとって安定した生活環境を整え、維持することが難しいという点も考慮されます。子どもにとって、居住環境や、近隣の友人関係が頻繁に変わるより、安定して継続する方が望ましいと考えられるためです。ですので、父親が単身赴任や転勤の多い仕事をしている場合、これらの要件を満たすことが難しく、親権取得に不利となることが多いです。
まず、子どもの意思が親権の決定に大きく影響します。離婚に際して、裁判所は子どもの最善の利益を考慮し、子どもの意思を尊重する傾向があります。特に子どもがある程度の年齢に達している場合、その意見が強く考慮されます。多くのケースで、子どもは母親との生活に馴染んでいるため、母親を選びがちです。このため、父親が親権を取得するのが難しくなるのです。
子どもが幼い場合は母親が優先されやすい
離婚に際して親権の問題が浮上すると、特に子どもが幼い場合、親権は母親に優先されやすい傾向があります。この傾向にはいくつかの理由がありますが、主に子どもの福祉を最優先に考慮した結果です。
まず、幼い子どもは母親との結びつきが強いとみなされることが多いです。離婚後も安定した環境を提供するために、裁判所は母親が親権を持つことが子どもにとって最善であると判断しがちです。特に乳幼児期は母親が授乳や日常のケアを主に担っているケースが多く、子どもが母親と過ごす時間が長いため、母親が親権を取得する方が自然とみなされることが多いです。
また、子どもが幼い場合、母親の存在が精神的な安定に大きく寄与すると考えられています。幼児期の子どもは特に安心感や愛情を必要とし、その提供者として母親が適任であるとみなされます。このため、裁判所は母親が親権を持つことが子どもの心理的な安定を保つ上で重要であると判断することが多いです。
さらに、父親が働いている場合、育児に十分な時間を割くことが難しいという現実もあります。多くの家庭では、父親が仕事をしている間に母親が子どもの面倒を見ているため、離婚後もその延長線上で母親が親権を持つことが適切とみなされます。父親が長時間労働をしている場合、子どもとの接触時間が限られ、その結果、母親が親権を持つ方が子どもの福祉に資すると考えられます。
最後に、社会的な固定観念も影響しています。伝統的に、母親が子どもの養育者としての役割を担うことが当然とされてきました。このような背景から、離婚に際しても母親が親権を持つことが自然とみなされる傾向があります。
これらの理由から、子どもが幼い場合、母親が親権を優先的に取得することが多いのです。
離婚後の親権者を決める方法と考慮される要素
子どもの親権を決める方法ですが、ほとんどの場合、離婚は夫婦の話し合いによる協議離婚になるため、話し合いで子どもの親権についても決めることになります。
離婚協議では子どもの親権についての争いが解決しない場合は、離婚調停や審判の中で子どもの親権についても争われることになります。
離婚調停が不成立となった場合は、離婚裁判において子どもの親権者を決めることになります。
さて、離婚調停や離婚裁判において、離婚後の子どもの親権者を決める際に、どういった要素が考慮されるのでしょうか。
考慮される要素1.安定した現状の維持
離婚調停や裁判において、親権を決定する際に重要視される要素の一つに「安定した現状の維持」があります。これは、子どもの生活環境や日常生活が極力変わらないようにすることを意味します。現在の住居や通学先、友人関係など、子どもが慣れ親しんでいる環境を、できるだけそのまま維持することが望ましいとされるためです。
子どもが離婚という大きな変化を経験する中で、生活環境が大きく変わらないことで、安心感を得ることができます。裁判所はこのような点を重視し、子どもの最善の利益を考慮して親権者を決定します。
考慮される要素2.子どもの福祉に資するか
親権を取得する親が子どもの福祉、つまり子どもの健康、教育、生活の安定にどれだけ寄与できるか、といった点も重要な考慮要素になります。
子どもの福祉に資するかというのは、子どもの利益を最優先に考慮する、ということです。どちらの親元で暮らす方が、子どもにとって最も幸せな環境を提供できるかを判断するものであり、父親や母親の事情だけでなく、子どもの事情を踏まえて総合的に評価されます。
親権者を決めるにあたっては、子どもの最善の利益を守ることが特に重要視されます。
考慮される要素3.子の年齢や意思
子どもの年齢は親権の判断において重要な要素です。一般的に、幼い子どもは母親との結びつきが強いとみなされることが多く、親権が母親に渡ることが多いです。しかし、子どもが成長し、年齢が上がるにつれて、その意思や意見が尊重されるようになります。特に小学校高学年から中学生以上の年齢になると、裁判所は子どもの意見をより重視します。
子どもがどちらの親と暮らしたいかを明確に表明する場合、その意思は親権の判断に大きく影響します。ただし、子どもの意思は単にどちらが好きかという感情的な理由だけでなく、その意思が子どもの福祉に資するかどうかも考慮されます。
考慮される要素4.離婚時の有責性が子に悪影響を及ぼすか
夫婦の一方が有責である場合、その行為が子どもの生活や精神的な健康にどのような悪影響を及ぼすかが考慮されます。
離婚時の有責性といえば、例えば不倫やDVなどがあります。本来、不倫が原因で離婚することになっても、離婚原因と子どもの親権争いは別問題なので、親権者を決めるにあたって影響することはありません。
しかし、家庭内暴力や子どもへの虐待を行っていた場合、その親が親権を持つことは、子どもの安全と福祉に重大なリスクを伴うことになってしまうため、このような有責性は親権の決定にマイナスに働くことになります。
離婚調停や裁判で父親が親権を獲得するポイント
父親が親権を取った事例は少ないとはいえ、可能性はゼロというわけではありません。父親が子どもの親権を勝ち取るために、以下のポイントに注意していただければと思います。
親権を勝ち取るポイント1.監護・養育の実績
離婚調停や裁判において父親が親権を獲得するためには、いくつかの重要なポイントがあります。その中でも特に重要なのが「監護・養育の実績」です。これは、父親が過去にどれだけ子どもの監護や養育に関与してきたかを具体的に証明することであり、親権を勝ち取るための大きなポイントとなります。
まず、父親が日常生活でどれだけ子どもの世話をしてきたかを具体的に示すことが求められます。例えば、父親が朝食を作り、子どもを学校に送り、宿題を手伝い、夜には寝かしつけるといった日常的な育児の実績があることを明確にすることが重要です。また、学校行事や病院の付き添いなど、子どもの生活全般にわたって積極的に関与してきたことも強調する必要があります。
さらに、父親が子どもの情緒面でのサポートを提供してきたことも重要です。例えば、父親が子どもと一緒に過ごす時間を大切にし、子どもと深い信頼関係を築いてきたことを示すことが求められます。これには、親子での遊びや家族での時間を大切にしてきた証拠を提示することが含まれます。
監護・養育の実績を証明するためには、具体的な証拠が不可欠です。例えば、子どもの学校の先生や保育士、さらには家族や友人からの証言を集めることが有効です。また、父親が子どものために行った活動を記録した日記や写真、さらには家庭内での役割分担を示す書類なども証拠として提出できます。これらの証拠を通じて、父親が子どもの生活において重要な役割を果たしていることを裁判所に示すことができます。
また、父親が今後も継続的に子どもの監護・養育を行う意思と能力を持っていることを示すことも重要です。例えば、離婚後の生活計画を立て、子どもとの生活をどのように支えていくかを具体的に説明することが求められます。これには、仕事と育児の両立を図るための具体的な計画や、子どもの福祉を最優先に考えた生活設計が含まれます。
このように、父親が親権を勝ち取るためには、過去の監護・養育の実績を具体的かつ明確に示すことが重要です。裁判所は、子どもの最善の利益を守るために、父親がどれだけ子どもの生活に積極的に関与してきたかを重視します。したがって、父親がこれまでの監護・養育の実績をしっかりと示すことが、親権を獲得するための重要なポイントとなるのです。
親権を勝ち取るポイント2.子どもと過ごす時間があること
「子どもと過ごす時間があること」も、親権を勝ち取るために重要なポイントとなります。親権を勝ち取るためには、父親が子どもとの関係をどれだけ大切にしているか、そして実際にどれだけの時間を子どもと過ごしているかを具体的に示すことが求められます。
まず、父親が子どもと過ごす時間をどのように確保しているかが重要です。例えば、父親が仕事の後や週末に子どもと積極的に時間を過ごしている場合、それを具体的に示すことが求められます。子どもとの時間を大切にし、一緒に遊んだり勉強を見たりする姿勢が親権の獲得において大きなポイントとなります。
また、父親が子どもとの質の高い時間を過ごしていることも重要です。例えば、父親が子どもの学校行事やスポーツ活動に参加し、子どもの成長を見守りサポートしていることを具体的に示すことが有効です。これにより、父親が子どもの生活に積極的に関わり、情緒的な支えとなっていることを裁判所にアピールできます。
さらに、父親が子どもとの時間を確保するための具体的な計画を持っていることもポイントとなります。例えば、離婚後の生活設計において、仕事と育児の両立を図るための具体的なスケジュールやサポート体制を示すことが重要です。これには、柔軟な勤務時間の設定や、家族や友人からのサポート体制を確保する計画が含まれます。
また、父親が子どもとの時間を通じて築いてきた信頼関係も強調する必要があります。子どもとの信頼関係が深い場合、裁判所はその点を考慮し、父親が親権を持つことが子どもの最善の利益に適うと判断することがあります。子どもが父親との時間を楽しんでいる証拠として、写真や動画、子どもからの手紙などを提出することが有効です。
このように、父親が親権を勝ち取るためには、子どもと過ごす時間があることを具体的に示すことが重要です。裁判所は、父親が子どもの生活にどれだけ積極的に関与しているかを重視します。したがって、父親が子どもとの時間を大切にし、実際に過ごしていることを証明することが、親権を獲得するための大きなポイントとなるのです。
親権を勝ち取るポイント3.経済的安定性
親権を勝ち取るためには、父親が経済的に安定しており、子どもを養育するための十分な財政基盤を持っていることを証明することが重要です。
まず、経済的安定性とは、父親が定職に就き、安定した収入を得ていることを意味します。離婚後も子どもを養育するためには、日常生活に必要な費用や教育費、医療費などを確実に負担できる財政力が求められます。裁判所は父親の職業、収入、そして将来的な収入見込みを詳しく検討します。例えば、安定した職に就いていること、収入が安定していること、そしてその収入が子どもの生活に十分であることを示す必要があります。
次に、父親が経済的に安定していることを証明するための具体的な資料が重要です。例えば、父親の収入証明書、給与明細書、納税証明書、銀行の残高証明書などを提出することが有効です。また、父親が財政的に計画的に行動していることを示すために、予算計画書や家計簿などの資料も役立ちます。これらの資料を通じて、父親が子どもの養育に必要な経済的資源を持っていることを裁判所に示すことができます。
さらに、父親が子どもの将来を見据えた財政計画を持っていることも重要です。例えば、子どもの教育費用を計画的に積み立てていることや、将来の大学進学のための準備を行っていることなどを具体的に示すことが求められます。これにより、父親が子どもの将来を見据えてしっかりと計画を立てていることをアピールすることができます。
また、経済的安定性には父親が子どもの生活に必要な物資を適切に提供できることも含まれます。例えば、子どもの生活必需品や衣服、食料、学用品などを十分に用意できる経済力を持っていることを示すことが重要です。これには、父親が日常的に子どもの生活に必要な支出を計画的に管理していることも含まれます。
このように、経済的安定性は父親が親権を勝ち取るための重要なポイントとなります。
親権を勝ち取るポイント4.母親に問題がある場合
母親に問題がある場合、父親が親権を勝ち取るための有力な根拠となります。
まず、母親に問題がある場合とは、具体的にどのような状況を指すのかを明確にすることが重要です。例えば、母親がアルコール依存症や薬物依存症である場合、子どもの健康や安全に対するリスクが高まります。こうした状況では、父親が親権を獲得するためのポイントとして、母親の問題が子どもの福祉にどれだけ悪影響を及ぼすかを示す必要があります。
さらに、母親が家庭内暴力を行っている場合も大きな問題となります。母親が子どもや夫に対して暴力を振るう場合、その家庭環境は子どもの精神的および身体的な安全に深刻な影響を与えます。裁判所は、子どもの安全を最優先に考慮し、暴力を行う親から子どもを保護するために親権を再評価します。父親は、このような状況を具体的な証拠と共に示すことが求められます。
また、母親が子どもの育児を放棄している場合も問題となります。例えば、母親が長時間家を空けることが多く、子どもの面倒を見ない場合や、育児に無関心である場合、子どもの福祉が大きく損なわれます。父親は、こうした状況を証拠として提出し、子どもの福祉を守るために自分が親権を持つべき理由を明確に示すことが重要です。
さらに、母親が不貞行為を行い、それが家庭環境に悪影響を与えている場合も考慮されます。母親の不貞行為が原因で家庭内の雰囲気が悪化し、子どもが精神的なストレスを感じている場合、父親はその影響を具体的に示す必要があります。このような証拠を示すことで、裁判所は父親が親権を持つことが子どもの最善の利益に適うと判断する可能性が高まります。
このように、母親に問題がある場合、父親が親権を獲得するためには、その問題が子どもの福祉にどれだけ悪影響を及ぼしているかを具体的に証明することが重要です。裁判所は、子どもの最善の利益を最優先に考え、母親の問題が子どもの健全な成長や安全に悪影響を与える場合、父親に親権を与えることを考慮します。したがって、父親は母親の問題を明確に示し、子どもの福祉を守るための具体的な理由を示すことが、親権を勝ち取るための大きなポイントとなります。
親権を勝ち取るポイント5.子どもが父親を親権者に望んでいる場合
離婚調停や裁判において父親が親権を獲得するためには、いくつかの重要なポイントがあります。その中でも、「子どもが父親を親権者に望んでいる場合」は非常に有力な要素となります。これは、子どもの意思が親権の決定に大きく影響を与えるためです。
まず、子どもが父親を親権者に望んでいることを裁判所に示すためには、子どもの意思が明確であることが必要です。子どもが父親との生活を希望する理由を具体的に述べることができる場合、その意思は裁判所において強く尊重されます。例えば、父親との生活がより安定していると感じている、父親と過ごす時間が楽しく充実している、または父親の育児スタイルに満足しているなどの理由が考えられます。
次に、子どもの意思を確認するための適切な方法があります。家庭裁判所調査官や児童心理専門家が子どもと面談し、子どもの意思を直接確認することが一般的です。これにより、子どもの真意が明確にされ、父親が親権を勝ち取るための有力な証拠となります。
さらに、子どもが父親を親権者に望む理由を支える具体的な証拠を用意することも重要です。例えば、子どもが父親との生活を楽しんでいることを示す写真や動画、父親と子どもが共に過ごした時間を記録した日記や手紙などが有効です。これらの証拠を通じて、父親が子どもにとって重要な存在であることを裁判所にアピールすることができます。
また、子どもの年齢も考慮されます。特に子どもがある程度の年齢に達している場合、その意思はより強く尊重されます。子どもが自らの意思を明確に表明できる年齢であれば、裁判所はその意見を重要な要素として判断材料に加えます。逆に、幼い子どもの場合は、その意思がどの程度自主的なものかを慎重に判断されることがあります。
さらに、子どもが父親を親権者に望む理由が、子どもの最善の利益に適うものであるかどうかも重要です。裁判所は、子どもの福祉を最優先に考え、子どもの意思が本当に子どものためになるかを総合的に判断します。父親が子どもの生活環境や教育、健康に対して十分な配慮を示していることを具体的に示すことが求められます。
このように、子どもが父親を親権者に望んでいる場合、父親が親権を勝ち取るためにはその意思を具体的かつ明確に証明することが重要です。裁判所は子どもの最善の利益を最優先に考え、子どもの意思がその利益に適うものであると判断した場合、父親に親権を与える可能性が高まります。
【裁判例紹介・解説】父親が親権を取った事例
それでは最後に、実際に父親が親権を取った事例をご紹介させていただきたいと思います。
父親が親権を取った事例:事案の概要
本記事でご紹介させていただく父親が親権を取った事例は、小学2年生の子ども(長女A)がいる夫婦において、原告である母親が、被告である父親に対し、離婚等を請求した事例になります。
母親は、父親からの身体的・経済的・精神的・性的暴力により婚姻関係が破綻したとして、父親に対し、離婚することと、慰謝料500万円の支払いを求め、附帯処分として養育費の支払・年金分割を求めました。
また、母親は長女の親権者として自身を指定することを主張し、その理由として、長女が健康で安定した生活を送っていること、母親の両親が長女の養育に協力していること、母親が主たる監護者であったことなどを挙げました。
一方、父親は母親の主張する離婚原因を全て否定し、長女の利益を第一に考慮して離婚を望まないと主張し、裁判所に対し母親の請求を棄却するよう求めました。さらに、父親は予備的に、自身が長女の親権者と定められるべきであると主張し、その場合の附帯処分として、長女の引渡しや母親との面会交流に関する計画を提案しました。
認定された主な事実
- 夫婦は価値観や経済観の違いから激しい口論を繰り返すことがあり、そのために関係が険悪化していました。
- 父親はある時から仕事一辺倒の生活を改め、家事や育児の分担を大幅に増やし、長女を保育所に通わせる手続きなども自分で行いました。
- このころ、母親は大学院に通うため、長女を連れずに数日間実家に帰ることが何度かありましたが、父親はその間、ベビーシッターを利用するなどして、一人で長女の監護にあたっていました。
- 夫婦関係が悪化してから1年程経った頃、父親が長女を保育所に迎えに行くと長女はおらず、母親が「体調が悪いので実家に帰る」というメールを父親に送り、父親に無断で長女を連れだして実家に帰っていました。
- 以来、母親は長女を約5年10ヶ月間に渡り監護しましたが、その間父親に対しては、合計6回程度しか面会交流に応じませんでした。
- 父親は、自身が長女の親権を得て長女との生活が実現した場合には、整った環境で周到に監護する計画と意欲をもち、緊密な親子関係の継続を重視して、年間100日間に及ぶ母親・長女間の面会交流の計画を提示しています。
父親が親権を取った事例:裁判所の判断
裁判所は、離婚請求や慰謝料請求に関しては、次の通り判断して母親の請求を一部認めました。
母親が主張する身体的・経済的・精神的・性的暴力についての証拠は不十分とされたため、父親に非があるという母親の請求は認められず、慰謝料請求は却下されました。
その上で、夫婦の婚姻関係は双方の衝突によって険悪となって破綻したことから、離婚請求を認めました。
そして、子どもの親権に関しては、次の通り判断しています。
上記認定の事実によれば、母親は父親の了解を得ることなく、長女を連れ出し、以来、今日までの約5年10か月間、長女を監護し、その間、長女と父親との面会交流には合計で6回程度しか応じておらず、今後も一定の条件のもとでの面会交流を月1回程度の頻度とすることを希望していること、他方、父親は、長女が連れ出された直後から、長女を取り戻すべく、数々の法的手段に訴えてきたが、いずれも奏功せず、爾来今日まで長女との生活を切望しながら果たせずに来ており、それが実現した場合には、整った環境で、周到に監護する計画と意欲を持っており、長女と母親との交流については、緊密な親子関係の継続を重視して、年間100日に及ぶ面会交流の計画を提示していること、以上が認められるのであって、これらの事実を総合すれば、長女が両親の愛情を受けて健全に成長することを可能とするためには、父親を親権者と指定するのが相当である。
母親は、長女を現在の慣れ親しんだ環境から引き離すのは、長女の福祉に反する旨主張するが、今後長女が身を置く新しい環境は、長女の健全な成長を願う実の父親が用意する整った環境であり、長女が現在に比べて劣悪な環境に置かれるわけではない。加えて、年間100日に及ぶ面会交流が予定されていることも考慮すれば、母親の懸念は杞憂にすぎないというべきである。
よって、母親は父親に対し、本判決確定後、直ちに長女を引渡すべきである。
【父親が親権を取った事例のまとめ】
- この事例において、裁判所が父親が親権者として相当であると判断したポイントは、次のポイントだと考えられます。
- 母親が父親の了解を得ずに長女を連れ出し、その後も長女と父親の面会交流をほとんど認めていないこと。
- 父親が長女を取り戻すために、数々の法的手段を講じてきたこと。
- 父親が整った環境で長女を監護する計画と意欲を持っていることを示したこと。
- 父親が用意する新しい環境が、長女の健全な成長を願う整った環境であり、長女が現在の環境に比べて劣悪な環境に置かれるわけではないこと。
- 父親が、年間100日に及ぶ母親と長女の面会交流を提案し、母親との交流を維持する意向を示していること。
以上のポイントなどを総合的に判断した結果、父親を親権者とすることで、長女が両親の愛情を受けて健全に成長できる環境が整えられる、と裁判所は判決を下しました。
【Q&A】父親が親権を取った事例
Q1.父親が親権を取った事例は少ないのでしょうか?
厚生労働省のデータなどを見ると、母親が親権を取得するケースは毎年85%を超えており、父親が親権を取った事例もありますが、母親が親権を取得するケースに比べて、父親が親権を取った事例は非常に少ないことが分かります。
Q2.なぜ父親が親権を取った事例は少ないのですか?
父親が親権を取ることが難しいとされる理由には、以下の点が挙げられます。
- 子どもが幼い場合、母親との結びつきが強いと見なされることが多い。
- 多くの家庭では母親が主に育児を担当しているため、母親の養育実績が評価される。
- 父親が長時間労働や転勤の多い仕事をしている場合、育児に十分な時間を割くことが難しい。
- 経済的には安定していても、子どもの日常生活を支えるための時間と環境が整えられないと判断されることがある。
Q3.どのような場合に、父親が親権を取ることができるのでしょうか?
父親が親権を取ることができるかはケースバイケースですが、以下のような事情がある場合には、父親の親権獲得が認められる可能性があります。
- 父親が子どもの主たる養育者であり、日常的な育児に積極的に関与している場合。
- 母親が育児放棄、虐待、またはアルコール依存症などの問題を抱えている場合。
- 子どもがある程度の年齢に達しており、自分の意思で父親と生活したいと望んでいる場合。
- 父親が経済的に安定しており、子どもの生活環境を良好に保つことができる場合。
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この記事では、父親が親権を取った事例の割合や、なぜ父親が親権を取った事例が少ないのか、といった点について弁護士が解説させていただきました。
また、実際の父親が親権を取った事例をご紹介し、裁判所の判断となったポイントについて簡単に解説いたしました。
父親が親権を取った事例は、割合にすると毎年約15%程度にとどまります。母親が親権者として認められやすいというイメージからも、「親権争いは母親が勝つ」と、最初から諦めてしまっている父親もいるかもしれません。
ですが、父親が親権を勝ち取る確率は、ゼロではありません。子どもの利益のためになる、と裁判所に認めてもらえれば、父親でも子どもの親権を得ることができるのです。
こうした親権争いでお悩みがありましたら、ぜひお早めに弁護士にご相談いただければと思います。弁護士法人あおい法律事務所では、初回の法律相談を相談料無料とさせていただいておりますので、お気軽にお問い合わせください。
この記事を書いた人
雫田 雄太
弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
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