• 子どもの問題

養育費の未払い分の請求方法|履行勧告や差し押さえについて解説

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。
3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

弁護士法人あおい事務所の離婚専門サイトをご覧いただき、ありがとうございます。
当サイトでは、離婚に関する法的な知識を分かりやすくお届けしております。皆様のお悩みの解消に少しでもお役立ちできましたら幸甚です。

養育費は、子供の生活や進学のための大切なお金です。そのため、原則として、子供が経済的に自立するまでは継続的に支払われるべき費用です。

ですが、近年、離婚後の養育費の未払い問題が深刻化しています。

養育費は、子供の健全な成長を支えるために欠かせないものであり、その未払いは母子家庭や父子家庭の生活に大きな影響を及ぼします。しかし、相手が養育費を支払わない場合、どのように対応したら良いのか悩んだまま長期間が経過し、結果として泣き寝入りになってしまうケースが少なくありません。そのため、相手からの養育費の支払いが滞った場合には、早めに対応することが重要です。

そこで、この記事では、養育費の未払い問題に注目し、弁護士が解説させていただきます。

最初に、なぜ扶養義務者は支払いをしなくなってしまうのかといった理由や、実際にどれだけの割合の母子家庭や父子家庭が養育費の支払いを受けられていないのか、といった実態についてお話しいたします。

そして、養育費の未払いに対して、どういった請求方法があるのかについて、具体的にご説明いたします。

また、養育費の未払いに罰則はあるのかといった点についても触れています。

本記事が少しでもご参考となりましたら幸いです。

目次

泣き寝入りが多い?養育費の未払い問題とは

それでは、養育費の未払い問題についての実態を簡単に見ていきたいと思います。

母子家庭・父子家庭ごとの養育費の未払いの割合

養育費の未払いについては、厚生労働省の「全国ひとり親世帯等調査」を見ると、「母子世帯の母の養育費の受給状況」と「父子世帯の父の養育費の受給状況」について、人数と割合が記載されています。

その調査結果報告によりますと、令和3年度の養育費の受給状況の人数と割合については、次の通りとなっております。

母子世帯の母の養育費の受給状況

母子家庭

総数

現在も養育費を受けている

養育費を受けたことがある

養育費を受けたことがない

不詳

人数

2,395

674

346

1,355

20

割合(%)

100.0

28.1

14.4

56.6

0.8

 

父子世帯の父の養育費の受給状況

父子家庭

総数

現在も養育費を受けている

養育費を受けたことがある

養育費を受けたことがない

不詳

人数

617

54

29

529

5

割合(%)

100.0

8.8

4.7

85.7

0.8

 参考:令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果報告 (厚生労働省)

母子家庭においては50%以上の母親が、父子家庭においては、約85%の父親が、養育費の支払いを受けたことがないという実態が明らかとなりました。

また、離婚後に養育費の支払いを受けていないひとり親以外にも、過去には受けたが現在は受けていないというひとり親の割合も、それぞれ約14%、約5%という割合となりました。

養育費を受け取っていない母子家庭・父子家庭が多く存在するというだけでなく、最初は養育費の支払いを受けていたが途中で支払いが滞ったという母子家庭・父子家庭も少なくないのです。このように、養育費の未払い問題は、深刻な状況なのです。

なぜ支払ってくれない?不払いの理由

子供の養育費をなぜ支払ってくれないのか、その理由はさまざまです。支払いたくないという理由もあれば、支払う気はあるが支払えない、といった理由もあります。

養育費の未払いの理由としては、次のような理由が挙げられます。

  • そもそも養育費の支払いについて取り決めをしていない。
  • 離婚後に養育費を支払う側の経済状況が悪化した(失業したなど)。
  • 離婚した相手と離婚後に関わりたくない。
  • 離婚した相手が音信不通になった。
  • 養育費を支払う側が再婚し、新しい家庭に経済的負担が増えた。
  • 養育費を支払う側が支払いを怠っても法的措置が取られないと思っている。
  • 養育費の支払いに対する理解が不足している。
  • 養育費を支払う側が子供に対しての責任感が欠如している。
  • 支払い方法や手続きについての情報が不足している。
  • 感情的な対立から意図的に支払いを避けている。

養育費が未払いの場合に請求するには?5つの対応を解説

 

養育費が未払いの場合に請求するには?5つの対応を解説

それでは、さまざまな理由から養育費が未払いになってしまった場合にどう対応したら回収できるのか、未払い分の養育費の請求方法について解説させていただきます。

請求方法1.相手に直接連絡して未払い分を請求する

未払い養育費を回収したい場合、まずは相手に直接連絡を取って請求する方法があります。単に相手が養育費の支払いを忘れている場合には、LINE、手紙や電話などの請求は、支払いの催促をするという意味で効果的な場合があります。

もっとも、単に支払いを忘れているのではなく、相手に何か理由があって(失業や再婚などの事情)養育費を支払わない場合もあるでしょう。そうすると、LINEなどで支払いを催告するだけでは、不払いの状態は解消できないでしょう。このような場合には、相手に直接連絡し、養育費が未払いの理由を確認したりすることで、未払い養育費を回収することができる場合もあります。

相手に連絡して未払い養育費を請求する際には、冷静に話し合うことが重要です。感情的にならず、具体的な支払い期日や金額について話し合いましょう。相手に養育費を払う気はあるものの、一時的に支払い困難な場合などには、分割払いの提案や支払い期限の延長など、柔軟な対応をすることで、未払い養育費を回収できる可能性が高くなります。

直接連絡する際には、次のポイントに注意してください。

  • 養育費の未払い額とその支払い期日を明確に伝えましょう。これにより、相手が具体的な行動を取りやすくなります。
  • 電話や対面での会話だけでなく、メールや書面での連絡も行い、やり取りの記録を残すことが重要です。これは、後々に裁判所での調停などの手続きになった際に、未払い分の養育費を請求した証拠として役立ちます。
  • 感情的にならず、あくまで冷静かつ丁寧に話すことを心掛けましょう。相手が防御的にならないよう配慮することが大切です。
  • 未払いの理由を尋ねることで、相手の経済状況や他の問題を理解し、適切な解決策を見つける手助けになります。

相手に直接連絡する方法は、迅速かつ簡単に解決できる可能性がありますが、連絡を取れない場合には他の方法によって未払い養育費を請求することになります。

請求方法2.内容証明郵便を送る

直接の連絡が難しい場合は、内容証明郵便で請求する方法もあります。

内容証明郵便とは、その郵便の内容や発送日、相手が受領した日付などを証明する、郵便局のサービスです。「いつ、誰が、どのような内容の文書を、誰に差し出したか」ということを、謄本(内容文書を謄写した書面)によって郵便局が証明してくれる制度です。そのため、内容証明郵便で養育費の請求をすると、相手に養育費を請求した事実や時期についての証拠を残すことにもなるのです。

内容証明郵便の書式は決まっており、郵便局で差し出すこともできますし、自宅にいながらインターネットを利用して差し出すことも可能です。

内容証明郵便の最大の効果は、「相手の反応を引き出す」ことです。

日常生活では、内容証明郵便を受け取る機会はあまりありません。通常の郵便と比べると内容証明郵便は形式が堅く、普通の手紙よりも厳格な体制になるので、その特別感が受取人に「何か対応しなければならない。」と思わせます。その結果、相手から「養育費の支払いを1週間待ってほしい。」といった反応を得られることがあります。

そして、内容証明郵便の送付によって、相手に心理的圧迫・プレッシャーを与えるため、未払い養育費の回収が実現しやすくなることが期待できます。

ただし、内容証明郵便そのものに法的効力はありません。そのため、法的効力のない内容証明郵便を何度も送ってしまうと、相手が慣れてしまう可能性があります。そのため、最初に送る内容証明郵便が非常に重要です。

また、内容証明郵便は相手にとっても「未払い養育費に関してこういった内容の内容証明郵便が送られてきた」という証拠になります。ですので、請求内容に間違いのないよう、内容証明郵便を送る場合は十分な注意が必要です。

内容証明郵便で未払い養育費の請求を検討している場合、弁護士に事前にご相談いただくことをおすすめいたします。内容証明郵便の文書内容の作成・チェックや、差し出し手続きまで、法律の専門家である弁護士がサポートいたします。

請求方法3.履行勧告や履行命令の手続きを利用する

自発的な養育費の支払いを期待できない場合には、履行勧告や履行命令の方法によって、未払い養育費を請求しましょう。

履行勧告

履行勧告とは、審判や調停で定められた義務の履行状況を裁判所が調査し、その義務の履行を勧告する方法です(家事事件手続法第289条1項)。

よりわかりやすく説明すると、裁判所が、養育費を払う義務がある相手に対して、「当事者間で決められたとおりの養育費をきちんと支払うように。」と説得してくれる制度といえます。

 

(義務の履行状況の調査及び履行の勧告)

家事事件手続法第289条1項
義務を定める第39条の規定による審判をした家庭裁判所(第91条第1項(第96条第1項及び第98条第1項において準用する場合を含む。)の規定により抗告裁判所が義務を定める裁判をした場合にあっては第1審裁判所である家庭裁判所、第105条第2項の規定により高等裁判所が義務を定める裁判をした場合にあっては本案の家事審判事件の第1審裁判所である家庭裁判所。以下同じ。)は、権利者の申出があるときは、その審判(抗告裁判所又は高等裁判所が義務を定める裁判をした場合にあっては、その裁判。次条第1項において同じ。)で定められた義務の履行状況を調査し、義務者に対し、その義務の履行を勧告することができる。

履行勧告の申し立て手続きには、手数料はかかりません。また、必ず書面によって申し立てる必要はなく、口頭によっても可能です。

履行勧告の申し立てをすると、裁判所が未払い養育費について、義務者に電話や文書などで問い合わせ、調査を行います。

履行勧告は、裁判所が関与するという点で、相手に「裁判所から養育費を支払うようにという連絡が来てしまった!きちんと払わなければ!」と思わせることができるという意味で、一定の効果が期待できる場合もありますが、相手に対して養育費の支払いを強制できる制度ではありません。そのため、履行勧告後も、相手が裁判所の説得に応じない場合もあります。

履行命令

続いて、履行命令について解説いたします。

養育費の未払いなど、金銭の支払いを怠った者に対して、義務を履行するように命じることを求める申立てが、履行命令の申し立てとなります(家事事件手続法第290条)。

この履行命令の申し立てにもとづき、裁判所が相当であると判断した場合には、養育費の支払いを怠ったもの(養育費を支払う義務がある者)に対して、定められた期限内に未払いの養育費を支払うようにという内容の命令を出すという制度です。

(義務履行の命令)

家事事件手続法第290条
義務を定める第39条の規定による審判をした家庭裁判所は、その審判で定められた金銭の支払その他の財産上の給付を目的とする義務の履行を怠った者がある場合において、相当と認めるときは、権利者の申立てにより、義務者に対し、相当の期限を定めてその義務の履行をすべきことを命ずる審判をすることができる。この場合において、その命令は、その命令をする時までに義務者が履行を怠った義務の全部又は一部についてするものとする。
2 義務を定める第39条の規定による審判をした家庭裁判所は、前項の規定により義務の履行を命ずるには、義務者の陳述を聴かなければならない。
3 前2項の規定は、調停又は調停に代わる審判において定められた義務の履行について準用する。
4 前3項に規定するもののほか、第1項(前項において準用する場合を含む。)の規定による義務の履行を命ずる審判の手続については、第2編第1章に定めるところによる。
5 第1項(第3項において準用する場合を含む。)の規定により義務の履行を命じられた者が正当な理由なくその命令に従わないときは、家庭裁判所は、10万円以下の過料に処する。

そして、履行命令によって養育費の支払いを命じられたのに、正当な理由なく命令に従わない場合には、10万円以下の過料が処されることとなります(家事事件手続法第290条5項)。履行勧告の場合はこの制裁がないため、履行命令は履行勧告よりも未払い養育費の回収に効果的と考えられます。もっとも、養育費の支払いを強制できるものではないので、相手が命令を無視してしまうと養育費を回収することはできません。

履行命令の申し立てを受けた裁判所は、義務者の養育費未払いの程度、養育費未払いの理由、養育費を支払う能力、生活状況などを総合的に判断して、相当と認めた場合に、履行命令が発せられます。

なお、履行勧告や履行命令を利用するためには、養育費の支払いに関して、審判、調停、調停に代わる審判により定められていることが必要です。

請求方法4.家庭裁判所の養育費請求調停の手続きを利用する

養育費の未払い問題が発生し、自発的な支払いを期待できない場合、家庭裁判所の養育費請求調停は未払い養育費を回収するのに効果的な対応です。

養育費請求調停は、第三者である調停委員が双方の意見を聞き、公正な立場から未払い養育費について解決策を提案する方法です。これにより、養育費の未払い問題を円滑に解決することが期待できます。

養育費請求調停を利用するためには、家庭裁判所に養育費請求の申立書を提出する必要があります。申立書には、養育費の未払い額や支払い状況、相手とのこれまでのやり取りなどを具体的に記載します。この申立書が受理されると、養育費請求調停期日が開かれます。

養育費請求調停の場では、調停委員が夫と妻の双方の意見を丁寧に聞き取り、解決策を模索します。調停委員は中立の立場から意見を述べるため、感情的な対立を避け、公平な解決が図られます。養育費請求調停が成立すると、調停調書が作成されます。

未払い養育費を回収する上で、養育費請求調停手続きには以下のメリットが挙げられます。

  • 調停委員が中立の立場から双方の意見を聞き、公平な解決策を模索します。これにより、感情的な対立を避け、建設的な対話が促進されます。調停を通じて相手の理解と協力を得やすくなり、養育費の支払いを促すことができます。
  • 調停では自主的な合意が図られます。未払い養育費の支払いについても相手が納得して合意するため、強制的に命じるよりも、義務の履行が期待できます。裁判と異なり、強制的ではなく双方の合意に基づくため、合意後の履行率が高まるのです。
  • 柔軟な解決が可能です。調停手続きでは、支払い方法やスケジュールの調整など、個別の事情に応じた解決策が提案されることがあります。例えば、一括での支払いが難しい場合には、分割払いの提案などができます。
  • 時間と費用の節約になります。調停手続きは、裁判に比べて比較的短期間で解決することが多く、費用も抑えられる傾向にあります。これにより、迅速に未払い養育費の回収を図ることができ、経済的な負担も軽減されます。
  • 調停が成立すれば、その内容は法的拘束力を持ちます。相手が未払い養育費を支払わない場合には、調停調書をもとに強制執行を申し立てることができるため、法的な強制力を背景に未払い養育費を回収することが可能です。

請求方法5.強制執行で相手の財産を差し押さえる

先ほどご紹介した履行勧告や履行命令には強制がないため、それでも相手が養育費の支払いをしないなど効果がない場合には、強制執行を検討することになります。未払い養育費を回収する方法として、強制執行による未払い養育費の回収があります。強制執行は、相手の自発的な未払い養育費の支払いを請求する回収方法ではなく、裁判所での強制執行手続きによって、相手の財産を強制的に差し押さえて未払い養育費を回収する方法です。

強制執行を行うためには、債務名義が必要となります。

債務名義とは、強制執行を申し立てる際に必要となる、強制執行をする根拠となる債権債務等を記載した公文書です。民事執行法第22条には、次の通り、債務名義となる公文書について明記されています。代表的なものとしては、調停調書、審判書、離婚裁判の判決書、離婚裁判の和解調書、強制執行認諾文言のある公正証書などがあります。債務名義がないと、強制執行はできませんので、「養育費についての口頭の約束」や「当事者で作成した養育費に関する念書」があるだけでは、強制執行をすることができないことに注意しましょう。

(債務名義)

民事執行法第22条
強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
1 確定判決
2 仮執行の宣言を付した判決
3 抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては、確定したものに限る。)
3の2 仮執行の宣言を付した損害賠償命令
3の3 仮執行の宣言を付した届出債権支払命令
4 仮執行の宣言を付した支払督促
4の2 訴訟費用、和解の費用若しくは非訟事件(他の法令の規定により非訟事件手続法(平成23年法律第51号)の規定を準用することとされる事件を含む。)、家事事件若しくは国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(平成25年法律第48号)第29条に規定する子の返還に関する事件の手続の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分又は第42条第4項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分(後者の処分にあつては、確定したものに限る。)
5 金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)
6 確定した執行判決のある外国裁判所の判決(家事事件における裁判を含む。第24条において同じ。)
6の2 確定した執行決定のある仲裁判断
6の3 確定した執行等認可決定のある仲裁法(平成15年法律第138号)第48条に規定する暫定保全措置命令
6の4 確定した執行決定のある国際和解合意
6の5 確定した執行決定のある特定和解
7 確定判決と同一の効力を有するもの(第3号に掲げる裁判を除く。) 

強制執行による未払い養育費の請求の流れ

まず、相手の財産を特定することが必要です。給与、銀行口座、不動産など、差し押さえる相手の財産を特定しなければなりません。弁護士を通じて、相手の財産を特定するための調査を行うことが一般的です。

そして、強制執行の申し立てを行います。債務名義や強制執行の申立書など、必要書類を揃えて裁判所に提出しましょう。

強制執行の申立てが認められると、家庭裁判所から差し押さえの命令が発行されます。この命令に基づき、相手の財産が差し押さえられます。例えば、相手の給与から未払い養育費が差し引かれたり、特定した銀行口座の預貯金から未払い養育費が回収されたりします。

ただし、給与の全額を差し押さえることは法律で制限されており、請求する未払い養育費の金額が給与の2分の1、または33万円を超える場合は、差し押さえられる上限が33万円までとなります。

また、差し押さえる財産が預貯金や給与ではなく、不動産などの場合、差し押さえた財産を現金化してから配当することになります。

ただし、強制執行の手続きは複雑で、他の手段と比べると手間と費用もかかります。

さらに、相手が失業しているなどの事情により、給料を含め差し押さえるべき財産がない場合や、相手の行方不明の場合などは、強制執行を試みたとしても、養育費の未払い分を回収できないという限界はあります。

支払いをしないことに罰則はある?

さて、子供の養育費に関して、親には扶養義務がありますが、養育費を支払わないことに関して、そもそも罰則はないのでしょうか。

養育費の未払いに刑事上の罰則はない

養育費の未払いは、子供の生活や教育に大きな影響を及ぼしますが、日本の法律において養育費の未払いそのものに対する刑事上の罰則は存在しません。養育費の支払いは民事上の義務であり、これを履行しない場合は債務不履行として扱われますが、刑法に基づく犯罪行為とはみなされません。

これは、養育費の支払いが個人間の契約や裁判所の決定に基づくものであり、刑事罰の対象となる行為ではないためです。そのため、養育費を支払わない夫や妻に対して刑事罰を適用することはできません。

ですが、例えば強制執行によって未払い養育費を回収する場合の財産調査において、相手が裁判所の財産開示命令に従わない場合は、刑事罰が科される可能性があります。このように、直接的な刑事罰はないものの、間接的に刑事罰の適用がある場合も存在します。

法改正により未払いの養育費を回収しやすくなりました

直接的な罰則はないものの、従来に比べて、未払い養育費は回収しやすくなったと考えられています。それは、2020年(令和2年)に、民事執行法の法改正があったためです。

例えば、これまでは、強制執行のためには相手の財産の特定が必要でしたが、相手が預金口座を変えたり隠したりすると、養育費を受け取る側の調査では財産を特定しきれず、差し押さえ対象の財産を指定できないために、未払い養育費の請求を泣き寝入りせざるをえなかったのです。

この点に関して、2020年の法改正により、自身で調査しきれない場合には「第三者からの情報取得手続き」を利用することで、財産の特定がしやすくなりました。

第三者からの情報取得手続きについては、民事執行法第204条以下に規定されています。

一例を挙げますと、例えば相手の給与から未払い養育費を回収したいと考えている場合は、次の規定を根拠に、第三者からの給与債権に関する情報取得を行えるのです。

(債務者の給与債権に係る情報の取得)

民事執行法第206条1項
執行裁判所は、第197条第1項各号のいずれかに該当するときは、第151条の2第1項各号に掲げる義務に係る請求権又は人の生命若しくは身体の侵害による損害賠償請求権について執行力のある債務名義の正本を有する債権者の申立てにより、次の各号に掲げる者であつて最高裁判所規則で定めるところにより当該債権者が選択したものに対し、それぞれ当該各号に定める事項について情報の提供をすべき旨を命じなければならない。ただし、当該執行力のある債務名義の正本に基づく強制執行を開始することができないときは、この限りでない。
1 市町村(特別区を含む。以下この号において同じ。) 債務者が支払を受ける地方税法(昭和25年法律第226号)第317条の2第1項ただし書に規定する給与に係る債権に対する強制執行又は担保権の実行の申立てをするのに必要となる事項として最高裁判所規則で定めるもの(当該市町村が債務者の市町村民税(特別区民税を含む。)に係る事務に関して知り得たものに限る。)
2 日本年金機構、国家公務員共済組合、国家公務員共済組合連合会、地方公務員共済組合、全国市町村職員共済組合連合会又は日本私立学校振興・共済事業団 債務者(厚生年金保険の被保険者であるものに限る。以下この号において同じ。)が支払を受ける厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)第3条第1項第3号に規定する報酬又は同項第4号に規定する賞与に係る債権に対する強制執行又は担保権の実行の申立てをするのに必要となる事項として最高裁判所規則で定めるもの(情報の提供を命じられた者が債務者の厚生年金保険に係る事務に関して知り得たものに限る。)

上記の規定の通り、市町村や日本年金機構、共済組合などといった第三者から、給与債権に関する情報を取得できるようになりました。これにより、養育費を支払う側が転職して給与口座が変わった場合にも、給与口座を特定できるようになったのです。

また、預貯金に関しても、金融機関から預貯金に関する情報(預貯金債権の有無、支店名、口座種別、口座番号、預貯金残高)を取得することが可能となりました(民事執行法第207条)。複数の金融機関についてまとめて調べることができるため、どの支店に口座を持っているのか、といったことを把握しておく必要がなくなったので、かなり調べやすくなりました。

離婚後に備えて執行認諾文言つき公正証書を作成しましょう

離婚後、養育費の未払い問題を未然に防ぐためには、「執行認諾文言付き公正証書」を作成することが非常に有効です。この公正証書は、夫婦間で養育費の支払いについて合意した内容を正式な文書として残すものであり、未払いが発生した場合に速やかに強制執行を行うための重要な手段となります。

「執行認諾文言付き公正証書」を作成することで、未払い養育費の回収が容易になります。この文書には、相手が養育費の支払いを怠った場合に直ちに強制執行に服することを認める旨の文言が含まれています。これにより、養育費の未払いが発生した際には、裁判所の判決を待つことなく、直接相手の財産に対して強制執行を行うことができるのです。

公正証書の作成手続きは、公証役場で行います。公証人が夫婦間の合意内容を確認し、それを基に公正証書を作成します。

執行認諾文言つき公正証書を作成することには、以下のメリットがあります。

  • 未払いが発生した場合、裁判を経ずに直接相手の財産を差し押さえることができます。これにより、養育費の回収が迅速に行われ、子供の生活が安定します。
  • 公正証書は公証人によって作成されるため、法的に強力な証拠となります。これにより、相手が養育費の支払いを怠るリスクが軽減されます。
  • 裁判手続きを経ずに強制執行を行えるため、時間と費用を節約することができます。特に、相手が支払いに応じない場合には、裁判を経ることなく迅速に対応できる点が大きな利点です。

養育費の未払いは子供の生活に大きな影響を与えるため、離婚後の備えとして執行認諾文言つき公正証書を作成することは非常に重要です。未払い問題を未然に防ぐためにも、弁護士に相談し、公正証書の作成を検討することを強くおすすめします。

Q&A

Q1.養育費の未払いの割合はどれくらい?

養育費は、子供の生活や進学のための大切なお金ですが、近年、養育費の未払い問題は非常に深刻です。厚生労働省の調査によると、母子家庭においては50%以上の母親が、父子家庭においては約85%の父親が、養育費の支払いを受けたことがないという実態が明らかとなっています。

Q2.未払い養育費を回収したいです。どういった請求方法がありますか?

未払い養育費を請求する方法としては、次のような方法があります。

  • 相手に直接連絡して未払い分を請求する
  • 内容証明郵便を送る
  • 履行勧告や履行命令の手続きを利用する
  • 家庭裁判所の養育費請求調停の手続きを利用する
  • 強制執行で相手の財産を差し押さえる

Q3. 未払い養育費を回収するために弁護士に相談するメリットは何ですか?

弁護士に相談することで、未払い養育費の回収手続きが円滑に進められます。弁護士は、強制執行や調停などの手続きに必要な書類の作成や提出をサポートし、相手の財産調査も行います。さらに、法的知識に基づいたアドバイスを提供するため、養育費回収の成功率が高まります。弁護士の専門知識を活用することで、迅速かつ確実に未払い養育費を回収することが期待できます。

養育費のトラブルは弁護士法人あおい法律事務所の弁護士にご相談ください

養育費の未払いは、子供の生活や教育に深刻な影響を及ぼす問題です。

未払い養育費を請求する方法としては、相手に直接連絡する、内容証明郵便を送る、家庭裁判所の調停を利用する、履行命令を申請する、そして強制執行で財産を差し押さえるなどの方法があります。しかし、これらの手続きを一人で進めるのは困難で、法的な知識と経験が重要です。

このような場合には、法律の専門家である弁護士に相談することをおすすめいたします。

弁護士は、未払い養育費の回収に向けた最適な手続きをアドバイスし、必要な書類の作成や裁判所への申請をサポートします。また、相手の財産調査や交渉も代行し、迅速かつ確実に養育費を回収するための力強い味方となります。

養育費のトラブルに直面した際には、ぜひ弁護士法人あおい法律事務所にご相談ください。当法律事務所では、初回無料で法律相談も行っております。Web予約フォームやお電話にて、お気軽にお問い合わせいただければと思います。

この記事を書いた人

雫田 雄太

弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

 

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。

関連記事