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離婚して子供が大きくなったので旧姓に戻したい!手続きを解説

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。
3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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離婚時に婚姻中の姓を離婚後も継続して名乗ることを決めた場合でも、後から旧姓に戻りたい、と思う事情が生じることがあります。
その中でも少なくないのが、仕事上の支障や子供のことを考えて、離婚してからも夫の苗字を使い続けていた人が、子供が大きくなったので旧姓に戻したい、というケースです。

離婚して10年以上経ってから、子供が大きくなったので旧姓に戻したい、という理由で苗字を旧姓に戻すことはできるのでしょうか。

そこでこの記事では、離婚してから旧姓に苗字変更したい場合の手続きや期間、認められるための条件などについて弁護士が簡単に解説させていただきます。
子供が大きくなったので旧姓に戻したいとお悩みの方に、本記事がご参考になりましたら幸いです。

目次

離婚して子供が大きくなったので旧姓に戻したい場合

離婚してからも、婚姻中に名乗っていた夫の苗字を名乗り続ける場合は少なくありません。
たとえば、仕事の関係で苗字を変えたくないため、旧姓に戻らないという女性がいます。また、幼い子供がいる場合、苗字が変わってしまうことで子供に何らかの不利益となってしまわないよう、離婚してからも夫の姓を変えることなく生活を送る人もいます。

このように、離婚後は夫の姓を使い続けることを選んだ母親が、子供が大きくなったので旧姓に戻したい、と子供の自立をきっかけに、苗字を旧姓に戻すことを検討することがあります。以下のような理由から、苗字を旧姓に戻すには、子供の自立が良いタイミングだと考えられているためです。

  • 子供が成人して自立したことで、元夫との繋がりが薄れ、旧姓へ戻すことへの抵抗感が薄れた。
  • 子供が結婚して別の戸籍に入ったことで、自分の戸籍には自分だけになり、旧姓に戻すことが簡単になった。
  • 子供は自分の戸籍に残っているが、子供が成人して同意が得られやすくなったことで、旧姓に戻すことが可能になった。

以上のような理由から、子供の成長を機に旧姓に戻すことを考えた時、どのような手続きを行えば旧姓に戻ることができるのでしょうか。
まずは旧姓に戻すための手続き方法について、具体的に見ていきたいと思います。

離婚後に苗字を旧姓に戻す手続き方法

 

離婚後に苗字を旧姓に戻す手続き方法

 

離婚と同時に苗字を旧姓に戻す場合は、離婚届の「婚姻前の氏にもどる者の本籍」欄に、旧姓に戻る方が本籍を記入し、離婚届を提出するだけで旧姓に戻ることができます。離婚届を提出するだけの手続きになるので、旧姓に戻るために特段の費用も生じません。

ところが、離婚届を提出してから旧姓に戻したいとなった場合は、離婚届の提出による旧姓に戻す手続きができないため、やや煩雑な手続きが必要となります。この、離婚後に苗字を氏を変更する手続きを、「氏の変更許可申立(戸籍法第107条)」といいます。

戸籍法第107条1項
やむを得ない事由によって氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。

この戸籍法の規定にある通り、氏の変更許可の申立て手続きでは、家庭裁判所の許可が必要となります。全体的な手続きの流れは、次の通りです。

  1. 家庭裁判所に対して「氏の変更許可の申立て」を行う。
  2. 氏の変更許可を得たら、家庭裁判所から審判書謄本を受領し、確定証明書の交付申請をする。
  3. 市区町村役場で「氏の変更」の届出を行う。

それでは、順に詳しく見ていきましょう。

1.家庭裁判所に対して「氏の変更許可の申立て」を行う。

なお、裁判所のホームページに掲載されている申立書の記入例には、申立ての理由について、次のように記載されています。

1 申立人は,昭和○年に乙川太郎と婚姻し,長男秋男(平成○年○月○日生)をもうけました。
2 申立人は,乙川太郎と平成○年○月○日に協議離婚しました。その際,長男が,当時中学在学中のため,婚姻中の氏を称することとしました。
3 長男は本年3月高校を卒業し,社会人となることとなりましたので,婚姻前の氏である「甲野」に変更する許可を求めます。なお,長男秋男は申立ての趣旨のとおり氏を変更することに同意しています。

引用:記入例(氏の変更許可)(裁判所ホームページ)

離婚して夫の姓を称していたものの、子供が大きくなったので旧姓に戻したいという場合の申立ての理由として、この記入例が参考になるかと思います。
この申立ての理由については、「氏を変更することがやむを得ない」と判断できる理由でなければなりません。この点については、詳しく後述しておりますので、記入にあたってご参考にしていただければと思います。

そして、氏の変更許可の申立てには、申立ての手数料として収入印紙800円と、所定の郵便切手代がかかります。郵便切手代は、申立てを行う家庭裁判所によって異なる場合がありますので、事前に郵便切手の組み合わせ等を確認するようにしてください。

以上の手数料と申立書に、戸籍謄本等の必要書類を揃えたら、管轄の家庭裁判所に提出します。

申立てについて、家庭裁判所が審理を行い、追加書類の提出を求められることもあるため、そのような連絡を受けた場合は落ち着いて対応し、書類を提出しましょう。

2.家庭裁判所から審判書謄本を受領し、確定証明書の交付申請をする。

審理が終わったら、市区町村役場での氏の変更手続きに必要な書類の交付申請を行いましょう。
市区町村役場での手続きに際して、家庭裁判所で氏の変更許可を得ていることを示すため、氏の変更許可の審判書謄本と、確定証明書が必要になります。

氏の変更が許可された場合には、申立人に氏の変更を許可する旨の審判がなされ、審判書謄本が申立人に交付されます。
確定証明書は、別途交付申請が必要です。家庭裁判所に備え付けの申請用紙に必要事項を記入し、収入印紙150円を添えて、審判をした家庭裁判所に交付申請することで受領できます。

郵送で確定証明書の交付申請をすることも可能なので、その場合は返信用の切手も添えるようにしてください。
詳細は、申立てをする家庭裁判所に確認しましょう。

3.市区町村役場で「氏の変更」の届出を行う。

家庭裁判所から氏の変更が許可されたら、実際に戸籍に反映させなければなりません。戸籍の記載事項の変更手続きは、市区町村役場で行います。
旧姓に戻す人の本籍地もしくは住所地の市区町村役場に対して、氏の変更の届出をしましょう。

氏の変更届の書式は全国共通で、役所の窓口やホームページなどから入手することが可能です。
氏の変更届(札幌市)

家庭裁判所へ氏の変更許可の申立てをしてから、変更許可を得て役所で手続きを完了するまでに、おおむね1~2ヶ月ほど要します。書類の追加提出が必要なく、申立てや届出の準備を迅速に進められるのであれば、スムーズに終わるでしょう。

離婚して子供が大きくなったので旧姓に戻したいという場合の氏の変更手続きは、以上の通りとなります。
家庭裁判所で行う審判といっても、申立て自体は上記の通り簡単です。

しかし、氏の変更許可を得るためには、戸籍法第107条1項に規定されている通り、「やむを得ない事由」があることが必要になってきます。

苗字変更するための「やむを得ない事由」とはどんな理由?

戸籍法第107条1項の「やむを得ない事由」については、ケースバイケースですが、一般的には「氏を変更しなければ、その人が社会生活において著しく支障をきたすことになるような場合」があれば、やむを得ない事由があると認められると考えられています。

そのため、単に「離婚してからしばらく経って、旧姓に戻したくなったから」というような理由では、やむを得ない事由があると認められることは難しいでしょう。

やむを得ない事由の有無を判断するにあたっては、通常次のようなポイントが総合的に考慮されます。

  • 氏の変更をする理由が正当なものであるか。
  • 氏を変更する必要性があるか。
  • 氏を変更することによる社会的な影響はあるか。
  • 氏を変更しないことによって、社会生活において著しく支障をきたしているか。

こうしたポイントを総合的に判断した上で、たとえば次のような「やむを得ない事由」がある場合には、氏の変更許可が得られる傾向があります。

「やむを得ない事由」の具体的な例

  • 離婚してからも元配偶者の姓を名乗り続けることで、精神的な苦痛を感じる、職場や日常生活において不利益を被っている場合。
  • 子供の氏を一致させ、家族関係の調和を図るために氏の変更が必要である場合。
  • 旧姓のまま仕事をしており、交友関係なども旧姓による場合。
  • 実家を継ぐ必要があり、そのために旧姓に戻す必要が生じた場合。

なお、裁判所の傾向として、旧姓に戻すことにおいては、「やむを得ない事由」についてゆるやかに判断することが多いようです。
そのため、「離婚した時には子供が幼く、学校での影響を考えて夫の姓を名乗り続けることにしたが、子供が大きくなったので旧姓に戻したい。」といったケースや、両親の高齢化によって同居し家を継ぐことになったようなケースでは、氏の変更が認められる傾向にあるようです。

一方で、「現在の姓では消費者金融からお金を借りられないため、旧姓に戻してお金を借りられるようにしたい。」といった理由は、不当な目的であるとして氏の変更が認められないことが一般的です。

離婚後に旧姓に戻すと子供の氏・戸籍はどうなるの?

離婚届によって旧姓に戻る場合は、基本的に子供は元配偶者の戸籍に残ったままとなるため、自動で子供も親の旧姓になることはありません。たとえば、両親が離婚して母親が旧姓の「鈴木」に戻る場合、子供は父親の戸籍に残り、父親の姓である「佐藤」のまま、ということになります。

そのため、子供の苗字を旧姓にしたい場合は、旧姓に戻る方の親の戸籍に子供を入れる手続きを行う必要があります。この手続きを、「子の氏の変更許可の申立て」といいます。

子の氏の変更許可の申立ては、家庭裁判所で行われる氏の変更手続きです。申立て先は子供の住所地の家庭裁判所となり、申立てには子供ひとりにつき収入印紙800円と、連絡用の郵便切手が費用としてかかります。
子の氏の変更許可の申立てには、申立書と添付書類(子供や父母の戸籍謄本等)を用意して、家庭裁判所に提出します。

なお、申立てを行い家庭裁判所で子の氏の変更許可をもらっても、その時点で手続きは完了しておりません。変更許可をもらったら、実際に子供の戸籍を移動しなければなりません。

子供の氏の変更許可の審判書を家庭裁判所より受領したら、市区町村役場に「入籍届」と審判書を提出し、戸籍の移動手続きを行います。
入籍届の届出先は、入籍する子供・入籍先の親いずれかの本籍地、または住所地の市区町村役場になります。入籍する子供ひとりにつき1枚、入籍届を記入し、氏の変更許可の審判書の謄本とあわせて提出します。

窓口では、本人確認のためマイナンバーカードや運転免許証などの提示を求められることもあります。本籍地以外の市区町村に届出を行う場合は、戸籍謄本等も必要になることがあるため、事前に市区町村役場で確認しましょう。なお、市区町村役場での届出に際しては、手数料等の費用は発生しません。

離婚後年数が経過していても旧姓に戻すことはできるの?

こうして、離婚して子供が大きくなったので旧姓に戻したいと思った時、まず気になるのは苗字変更をできるか、という問題です。
離婚してから5年、10年と長期にわたる年数が経過していた場合でも、苗字を旧姓に戻す手続きをすることは可能なのでしょうか。

この点につき、離婚してから何年経過していても、旧姓に戻すための手続きを行うことは可能です。
氏(苗字)は、そのひと個人を識別・認識する手段として社会的に重要な役割を果たすものであるため、安易な理由では変更は認められないものの、前述の「やむを得ない事由」があることが認められれば、離婚してから10年以上経過していようと、旧姓に戻すことが認められます。

「離婚してかなりの年数が経過しているが、子供が大きくなったので旧姓に戻したい・・・」とお悩みの場合は、まずは弁護士にお気軽にご相談いただくことをおすすめいたします。

【Q&A】離婚して子供が大きくなったので旧姓に戻したい

Q1.離婚してから子供が大きくなったので旧姓に戻したいです。離婚してから10年以上経っていますが、可能でしょうか?

離婚してから10年以上経過している場合でも、旧姓に戻すことは可能です。ただし、家庭裁判所で「氏の変更許可」を得る必要があります。

Q2.氏の変更許可の申立てが認められるために必要な「やむを得ない事由」の判断基準は何ですか?

やむを得ない事由の有無を判断するにあたっては、通常次のようなポイントが総合的に考慮されます。

  • 氏の変更をする理由が正当なものであるか。
  • 氏を変更する必要性があるか。
  • 氏を変更することによる社会的な影響はあるか。
  • 氏を変更しないことによって、社会生活において著しく支障をきたしているか。

Q3.離婚後の氏の変更には、どれくらいの日数がかかりますか?

離婚してから氏の変更手続きをする手順には、主に次の3つの手続きが必要です。

  1. 家庭裁判所に対して「氏の変更許可の申立て」を行う。
  2. 氏の変更許可を得たら、家庭裁判所から審判書謄本を受領し、確定証明書の交付申請をする。
  3. 市区町村役場で「氏の変更」の届出を行う。

申立て準備にかかる日数や、書類の追加提出が求められるかによっても異なりますが、通常は1~2ヶ月ほどを要します。

離婚して子供が大きくなったので旧姓に戻したいという時は弁護士にご相談ください

離婚してから長い年月が経過し、子供が大きくなったので旧姓に戻したい、と苗字の変更をご検討される方がいらっしゃいます。
旧姓に戻すための手続き自体はそこまで難しいものではありませんが、旧姓に戻すにあたって正当な理由が求められ、家庭裁判所や役所などで手続きを行わなければならず、煩雑な面もあります。

ご自身の場合に旧姓に戻すことが認められるのか、苗字変更にご不安やお悩みがありましたら、まずはお気軽に弁護士にご相談ください。
当法律事務所の弁護士は、離婚に関連する事例を数多く取り扱ってまいりました。離婚後の苗字変更の手続きについても、その豊富な実績を活かし、スムーズに手続きを進められるよう、ご依頼者様をサポートいたします。

初回の法律相談は無料となっておりますので、ぜひお問合せいただければと思います。

この記事を書いた人

雫田 雄太

弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

 

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。

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