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離婚協議書とは?書いた方がいいことは?無効になる場合・違反した場合についても解説

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。
3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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離婚協議書とは、夫婦が離婚する際にお互いの合意内容を文書にまとめるものであり、財産の分割や子供の親権、養育費など、様々な点に関する取り決めを明確にできます。離婚協議書があることで、後に生じる可能性のあるトラブルや誤解を未然に防ぐ助けとなります。

しかし、離婚協議書の内容やその必要性、法的効力について、詳しく知らない人も多いのではないでしょうか。

離婚協議書は、その合意内容によってはせっかく取り決めたことも無効となってしまう場合もあるため、その作成には正確な知識が求められます。

特に、離婚協議書の内容に関する話し合いは精神的なストレスが伴うこともあるため、適切な知識やサポートが求められます。

本記事では、離婚協議書の基本的な役割から、書き方の流れや注意点・ポイントなどを弁護士が詳しく解説していきます。
本記事を通じて、皆様がよりスムーズで円満な離婚手続きを進められるよう、ご参考になりましたら幸いです。

目次

離婚協議書

離婚協議書とは

離婚協議書とは、離婚を考えている夫婦が、どのような条件や取り決めで離婚を行うかを具体的に示した文書です。この書面の作成は任意なので、子どももいなく、特段分与する財産もない、といった夫婦などは、離婚協議書を作らない場合もあります。

離婚協議書の書面には、離婚におけるさまざまな条件について、詳細に定めることができます。
たとえば、子どもがいる場合、どちらの親が主に子育てを担当するのか、すなわち、親権や監護権を持つのかを明記します。

また、子どもの養育にかかる費用、いわゆる養育費の金額や、それをどのような方法や周期で支払うのかも、この書面に取り決めた内容を記載します。

なお、離婚協議書は、離婚を行政に届け出る「離婚届」とは異なるものです。離婚届は、離婚の事実を公的に記録するためのものであり、財産分与や慰謝料といった具体的な取り決め内容は記載事項ではありません。

一方、離婚協議書は、離婚条件についての夫婦間の合意を形にした契約書としての役割を果たす文書となります。

このように、離婚届には離婚条件についてを記入できないため、財産分与や養育費の支払いがあるときに離婚協議書がないと、言葉だけの約束になってしまいかねません。

しかし、言葉だけの約束は、後で「そんな約束した覚えはない」と言われてしまい、養育費を支払ってもらえなくなるなど、合意内容を履行してもらえなくなるリスクがあるのです。
こうしたとき、自分の権利を守るためには、裁判をするしかありません。ですが、裁判は時間もお金もかかり、しっかりした証拠がないと勝てないこともあります。

そんな裁判において、離婚協議書は証拠として使える書面となります。裁判所に離婚協議書を見せることで、離婚条件について夫婦の間で合意があったことを証明できます。
ですので、離婚するときは、しっかりと離婚協議書を作っておくことが大切です。

なお、離婚協議書を作成するためには、配偶者との離婚条件についての話し合い(離婚協議)が必須です。

しかし、配偶者との離婚条件に関する話し合いは、感情が高ぶりやすく、時間や労力を要することがしばしばあります。特に、双方が穏やかに話し合いを進める円満離婚のケースを除いて、交渉の席を設けること自体が難しいことも考えられます。

そういった場合には、離婚協議書の作成だけでなく、離婚協議の段階から、弁護士に相談することをおすすめいたします。弁護士という法律の専門家かつ第三者を夫婦の間にはさむことによって、離婚協議書の内容を適切にまとめるだけでなく、双方が納得する形での合意をスムーズに進めていくことが期待できるでしょう。

離婚協議書の最大の意義は、離婚後のさまざまなトラブルを未然に防ぐことや、離婚の条件をしっかりと実行させることにあります。
たとえば、離婚後に養育費の支払いが滞ったり、財産分与に関する約束が守られなかったりすることが考えられます。また、子どもの面会権に関する取り決めが無視されるケースもあります。
こういったトラブルは、離婚後の生活に経済的な影響を及ぼすものが多く、日常生活において大きなストレスを引き起こす要因にもなりかねません。この例のように、もし、相手が合意した内容を履行しない場合、離婚協議書があれば、その書面をもとにして、法的手段を取ることができるのです。

離婚協議書の効力

それでは、離婚協議書の法的効力について、その具体的な意味や内容を詳しく見ていきましょう。

離婚協議書は、夫婦間での合意内容を明文化した契約書としての性格を持ちます。
これには法的な拘束力が伴います。
具体的には、もし相手が協議書に記載された養育費や慰謝料の支払いを怠った場合、この協議書を証拠として裁判所に提出し、合意した内容の実行を求めることができます。これは、前述しました通りです。

しかし、離婚協議書自体は「私文書」としての性質を持つため、直接的な「強制力」は持ち合わせていません。
私文書とは、公的な機関や公証人による認証を受けていない、個人や団体間で作成される文書を指します。

強制力がないということは、たとえば、相手の銀行口座をすぐに差し押さえるといった行為ができない、ということを意味しています。
預貯金などを差し押さえて、強制的に未払い分を取得しようとしても、私文書である離婚協議書だけでは、強制執行ができません。
相手の財産を差し押さえて金銭を得る強制執行の手続きには、その権利を示す証明書(債務名義)が求められます。

しかし、離婚協議書はこの「債務名義」にはあたらないため、なんとかして金銭を回収しようとなると、裁判手続きを経る必要があるのです。

そこで、裁判手続きを経ずに強制的な措置を取るためには、離婚協議書を「強制執行認諾文言付きの公正証書」に変更する手続きが必要です。

公正証書とは、公証役場で公証人が作成する公的な文書(公文書)のことを指します。私文書である離婚協議書と反対に、「公文書」となるため、強制力を有しています。
そして、強制執行認諾文言とは、文字通り「この契約に違反した場合、強制的な措置を受け入れる」という意味の文言です。この公正証書を持っていると、裁判手続きを経ることなく、直接相手の財産を差し押さえることが認められるようになるのです。

総じて、離婚協議書は確かに法的な拘束力を持つものの、強制力までは持たないため、トラブルが生じた際に確実に権利を実現するためには、公正証書への変更を検討することを、おすすめいたします。

離婚協議書を公正証書にする方法については、どうぞこちらの関連記事をご参照ください。

離婚協議書の効力に期間はある?

原則として、離婚協議書の効力に有効期間はありません。
したがって、協議書の内容に反した場合、いつでも裁判を利用して、合意内容の履行・遵守を求めることが可能となります。

しかし、離婚協議書に基づく権利の行使には「時効」という法的な問題が関係してきます。時効とは、一定の期間その権利を行使しないと、その権利が失われるという制度のことです。
具体的には、離婚協議書で取り決められた各請求権の時効は以下のようになります。

(1)財産分与の場合
離婚後2年の間に財産分与の請求が可能です。この2年という期間は、時効とは異なり、除斥期間(一定の期間が過ぎると権利が失われる制度)として設けられているので、注意が必要です。

(2)慰謝料の場合
慰謝料の請求に関する時効は、請求の理由によって変わります。

①不法行為による慰謝料請求
「既婚者だと知らずに不倫をした」場合など、意図的または過失による損害が原因の場合、時効は3年(民法第724条)です。

②債務不履行による慰謝料請求
「契約に基づく金銭の支払いがなされない」場合など、契約の履行がなされないことが原因の場合、時効は10年(民法第167条1項)となります。

(3)年金分割の場合
年金分割は、離婚時に配偶者間で年金を分ける制度です。請求の期限は、離婚が確定した次の日から2年間です。この2年を超えると、基本的には請求はできなくなります。

(4)養育費の場合
養育費は、子どもの養育に関する費用を親が支払う義務があります。支払い期間は「子どもが20歳になる月まで、もしくは成人するまで」とされることが多いです。養育費の時効は、双方で合意した場合5年となります。5年以内のものは請求可能ですが、それを超えるものは時効が成立するため、基本的には請求することができません。

この時効の期間内に権利を主張しなければ、請求する権利が失われてしまう恐れがありますので、離婚協議書を作成したからといって安心せず、十分に注意しましょう。

離婚協議書の注意点

適切な内容の離婚協議書を作成するためには、次の点について注意しておく必要があります。

①内容の網羅性
離婚に関わる事項を全てカバーすることが必要です。親権、子供の養育費、慰謝料、財産分与など、関連する全ての項目をリストアップし、一つ一つ確認しながら記載していきましょう。

②明確性
どの項目についても、あいまいな表現を避け、具体的に記述することが必要です。
例として、養育費に関しては、具体的な金額、支払いの周期や期限、支払い方法などを明確に記載しましょう。

③公正証書の活用
離婚協議書を公正証書として認証することで、相手が内容に従わない場合、法的に強制的に実行することが可能となります。これにより、約束された内容の実行がより確実となります。

④専門家のアドバイス
弁護士や税理士などの専門家に相談することで、法律や税金に関する問題について、事前にクリアにすることができます。専門家の意見や助言は、適切な離婚協議書を作成するために、非常に有益です

⑤時効の確認
離婚協議書の内容には、一定の期間後に権利が失われてしまう「時効」が存在します。この期間を過ぎると、権利を主張することがたいへん難しくなるため、定期的に内容をチェックし、時効に注意することが必要です。

⑥状況変化に対応する柔軟性
離婚後、将来の生活環境や収入の変動、子供の成長やニーズの変化など、さまざまな状況変化に対応できるよう、協議書の内容について、見直しや変更ができるよう、手続きや条件を明記しておくと良いでしょう。

⑦協議書作成のための話し合いは冷静に
離婚協議書を作成するための話し合いにおいて、感情的になってしまったり、過去の言い争いなどを蒸し返してしまったりすることも少なくありません。

しかし、双方が真に望む結果を得るためには、感情を一旦横に置き、合理的な判断を下すことが求められます。冷静かつ客観的に最善の取り決めを目指すことが大切です。

離婚協議書に書いた方がいいこと

離婚協議書は、協議離婚を選んだ夫婦が、離婚に関する細かな条件や約束を書き留める大切な文書です。
この文書に絶対に書かなければならない項目や、書いてはならない内容について、法律で厳密に定義されているわけではありません。

しかし、後の問題を予防するため、離婚前に次のような主要なポイントを確認し、協議書にすることが広く勧められています。

①親権者と監護者の指定

子どもの日常の面倒を見る人、つまり生活を支える人と、子どもに関する重要な決定を下す法的な権利を持つ人を分けて書きます。これにより、子どもの生活や教育に関する権限を明確にします。

②養育費

子どもの教育や生活費、医療費など、子どもの成長とともにかかる費用を考慮して決定します。具体的な額は、子どもの年齢や収入、生活環境などに応じて変動することが一般的です。また、支払いは月々の固定額として行われることが多いですが、1定期間ごとのまとめての支払いや、特定の出費が発生した際の支払いとすることも考えられます。

③面会交流

子どもと非親権者の間の関係を維持するための、面会交流の取り決めを行います。具体的には、面会の頻度(例:毎月第1、第3土曜日)、場所(例:公園や非親権者の住居)、時間(例:午前10時から午後5時まで)などの詳細を定めます。また、特別な日や長期休暇中の面会についても、あらかじめ取り決めを行っておくことをおすすめいたします。

④年金分割

結婚期間中に積み立てられた公的年金を、どのように分けるかの取り決めを行います。按分割合や、受け取るタイミング(例:60歳になった時点での一括受け取り、または毎月の受け取りなど)を具体的に記載することで、双方の権利を守ることができます。

⑤離婚慰謝料(不貞行為、DV、モラハラなど)

離婚の原因となった不法行為(不倫やDVなど)により生じた、精神的な苦痛や不利益を補償するための金銭です。慰謝料の額は、その原因となった行為の重さや、それによる精神的なダメージの度合い、双方の経済状態などを考慮して決定されます。また、支払いの方法も、一括での支払いや分割での支払いなど、双方の合意に基づいて取り決めることが一般的です。

⑥財産分与や住宅ローン

夫婦間での共有財産の分け方、住宅ローンの返済負担などの詳細を具体的に書きます。また、夫婦のどちらかが連帯保証人となっている場合の扱いなども記載するとよいでしょう。

⑦婚姻費用の清算

夫婦が結婚中に共同で発生させた費用や借金の扱いに関する取り決めを行います。

例として、結婚式や新婚旅行の際に発生した未払いの費用、クレジットカードやローンの残高、共同での購入品に関する支払い残高などが考えられます。この部分では、どの費用をどのように分担して支払うのか、どちらの名義である借金をどちらが返済するのかといった具体的な取り決めを記載します。また、支払いの期限や方法、遅延時の対応なども合意して明記することで、後のトラブルを避けることが可能となります。

⑧連絡通知義務

夫婦のいずれかが住所を変更したり、子どもの健康状態や教育に関する重要な出来事があった場合など、相手方に通知する義務を持つことが多いです。この項目で、どのような事項を通知すべきか、また通知の方法や期限などを明確に記載します。これにより、双方が必要な情報を適切なタイミングで共有できるようになります。

⑨その他事項

離婚協議書の他の部分で触れられていない、夫婦にとって特有の事項についても、なるべく具体的に明文化しておくことをおすすめいたします。

⑩清算条項

離婚後も予期しない問題や要求が発生することを防ぐための取り決めを行います。具体的には、協議書に記載されている内容に基づき、双方がそれ以外の請求や要求を行わないことを確認し合う文言を記載します。この条項により、双方の合意内容に基づく安定した関係を維持し、予期しないトラブルの発生を防ぐことができます。

①離婚協議書は2部作りましょう
離婚協議書は、2部作成するのが望ましいとされています。夫婦それぞれが1部を保管しておくことで、後々の問題や疑問点が出たときの参照資料として活用できるからです。

②署名押印を忘れずに!
離婚協議書の内容が決まり、書面になったら、最後に自書による署名と押印が必要です。夫婦の双方が、それぞれ署名・押印をしましょう。押印の印鑑は実印がおすすめです。印鑑が実印の場合、後に裁判に発展したときに、「相手に勝手に押されたので自分は同意していない」といった反論を防ぐことが期待できるからです。

その他の書いた方がいいこと

上記の通り、離婚協議書に記載される一般的な内容以外にも、将来的に生じかねないトラブルを回避したり、お互いの利益を守るために、しっかりと取り決めておきたい項目がいくつかあります。

以下、離婚協議書において考慮すべき記載内容の例をご紹介いたします。

①子どもの教育費についての取り決め
子どもが将来、高校や大学などの高等教育機関へ進学する可能性を考慮し、その際の学費や教材費などの経費に関する取り決めを行います。

②保険についての取り決め
結婚中に共有していた生命保険や医療保険の扱いを明確にし、特に子どもを受け取り主として設定する際の手続きや条件を詳細に取り決めます。

③ペットについての取り決め
夫婦間で飼っていたペットの今後の飼育責任者や、その飼育に関連する費用や医療費についての取り決めを行います。

④贈与や遺産についての取り決め
夫婦間の資産移動や将来の相続に関して、明確な取り決めをし、遺産分割の際の基準や条件を詳細に決定します。

⑤税金についての取り決め
共有していた資産を売却した場合や、共同で名義を持つ口座の利息にかかる税金など、税金に関する取り決めを明確にします。

⑥デジタル資産についての取り決め
夫婦で共有していたデジタルサービスや、オンラインのアカウントのアクセス権や所有権についての取り決めを詳細に記載しておきます。

⑦新しい配偶者との関わりについての取り決め
子どもと新しい配偶者との関係や、面会に関するルールや条件、そして新しい配偶者との共通の時間や活動に関する取り決めを具体的にします。

⑧離婚協議書の内容の再評価の時期についての取り決め
たとえば5年後などの一定期間後に、離婚協議書の内容を見直す予定の日程やその際の手続きについての取り決めを行います。

離婚協議書の記載事項の例:離婚前に決めることとは?

なお、離婚協議書の記載事項について、書き方の詳細はこちらの関連記事でご説明しております。離婚協議書のサンプルもございますので、ぜひご覧ください。

離婚協議書は変更できる?

離婚協議書は、一度結婚生活を共にした二人が同意して取り決めた重要な契約書です。その内容を後から変更する場合、基本的には両者の同意が前提となります。

内容変更を希望する場合、まずは夫婦であった二人が改めて話し合いを行い、具体的な変更点についての合意を取り付ける必要があります。この変更についての合意が得られれば、新たに変更協議書を作成し、双方で確認・承認することで変更が正式に確定します。

しかし、契約内容の変更というのは、一方にとっては有利であっても、他方にとっては不利な場合が多いため、簡単に合意に達することは難しいことも少なくないでしょう。

特に、話し合いが揉めやすく、弁護士へのご相談も多いのは、養育費の減額についての話し合いです。
こういった、養育費や子どもとの面会の取り決めについては、夫婦間での話し合いで合意内容を変更するのが難しいため、家庭裁判所での調停手続きや審判手続きを活用することが考えられます。

たとえば、離婚協議書に記載された養育費の取り決め後、収入や生活の状況が大きな変化を遭遇したとき、見直しが求められるケースが考えられます。新たに家族が増える再婚や、予期せぬ失業による所得の減少など、変更の理由となる状況は様々です。

このようなときに、お互いが養育費の新しい金額での合意に至らない際、家庭裁判所に調停を申し立てることができます。そして、調停手続きや審判手続きを経て、養育費の新しい額が設定されることが期待できるでしょう。

なお、夫婦で話し合いによって離婚協議書の内容の変更に合意できたときには、合意に至った過程や、合意した内容を明確にしておくために、離婚時の協議書内容の変更や追加部分についても、正式な文書として取り交わすことをおすすめいたします。

後々のトラブルを防ぐため、変更があった場合は必ず書面にまとめ、双方が確認し、保存しておくことが望ましいです。

離婚協議書が無効になる場合

離婚協議書は、夫婦が離婚する際の様々な取り決めを文書化したものです。

しかし、その内容が公序良俗に反する場合や、法律的に有効と認められない条項が含まれている場合、離婚協議書は無効となる可能性があります。

公序良俗(こうじょりょうぞく)とは、一般的・社会的な規範や道徳的な価値観のことを言います。つまり、「公序良俗に反する内容」とは、社会の安定やモラルの維持に資する基本的な価値観やルールに反する行為のことであって、社会通念上、許容されない内容を指します。
明確な線引きが難しい場合もありますが、たとえば、次の通りです。

  • 子どもの親権を金銭で売買するような取り決め。
  • 「離婚後5年間は再婚してはならない」など、離婚後も、元夫や元妻に対して、過度な監視や制限を課すような内容。
  • 一方の夫婦に過度なペナルティや罰金を課すような条項。

これらのような内容は、公序良俗に反すると判断され、離婚協議書の無効の原因となります。

また、法律的な有効性が認められない条項とは、法律上認められていない取り決めや、権利を侵害する内容を指します。
たとえば、次の通りです。

  • 養育費の支払いを一方的に免除する条項(法律上、子どもの権利を守るため、養育費の支払いは原則として義務付けられています)。
  • 夫婦の一方が、遺産を相続する権利を放棄するような取り決め。相続権の放棄自体は法律的に問題はありませんが、それを強制することはできません。
  • 「離婚後、子どもとの面会を一切認めない」などと、子どもとの接触を完全に制限してしまうような条項。

こういった内容の条項は、法律的に有効とは認められず、離婚協議書の無効の原因となることが考えられます。

なお、公序良俗に反する内容と、法律的に有効と認められない条項とに明確な違いはありません。公序良俗は一般的な社会的規範や道徳的価値観を指すものであり、法律もこれらの価値観や規範を基に制定されるため、その境界は必ずしも明確ではないためです。両者を厳密に区別する意味も無いでしょう。

離婚協議書を作成する際は、弁護士など法律の専門家の助言を得るか、十分な知識と情報をもとに内容を検討することが大切です。

離婚協議書に違反した場合

違反したらどうなる?

離婚協議書の内容を守らなかった場合、合意内容に違反した側は、どうなるのでしょうか。

離婚協議書の内容を履行しなかった側は、民事的責任を負うことになります。離婚協議書が契約の性質を持つ文書であるためです。
たとえば、養育費を支払う約束をしていた場合、未支払い分についての支払いを求められる可能性があります。

さらに、協議書の違反によって精神的な苦痛を与えたとされる場合、慰謝料を請求されることも考えられます。
もし協議書に基づく内容が家庭裁判所の認可を受けていた場合、履行を強制される恐れがあり、その際には強制執行の対象となることもあるでしょう。

また、養育費などの支払いが滞り、裁判所の命令を受けた場合には、その記録が信用情報に影響を及ぼし、将来的に金融取引での不利益を被ることも考慮しなければなりません。

これは非常に例外的なケースではありますが、離婚協議書の違反が刑事犯罪として扱われる場合もあります。
特定の状況下では、たとえば、子どもの引き渡しを拒否し続ける行為が、未成年者誘拐の罪に該当することが懸念されます。

したがって、離婚協議書の内容は厳守することが求められ、違反した場合の法的責任やペナルティが考えられるため、注意が必要です。

違反された場合の対応

離婚協議書の取り決めが守られなかったとき、以下の通り、いくつかの対処法が考えられます。

まずは、相手方への催促が考えられます。

具体的には、取り決めの履行や未払いのある養育費などの支払いを求めるための連絡を行います。この際、後のトラブルを避けるために、内容証明郵便を用いて書面での通知や、通話の記録を残すことができるよう、電話などの手段を用いて連絡をとると良いでしょう。
特に、内容証明郵便は、送信内容と受け取りを確認することができるので、後々の証拠としても役立ちます。

催促をしてもなお、相手が義務の履行をしてくれない場合は、裁判所への申し立てを検討することになってくるでしょう。
このとき、離婚協議書は主要な証拠として裁判所に提出されます。裁判所が相手の不履行を認定すれば、強制執行という法的手段を用いて、相手に養育費の支払いや取り決めに従うことを強制することが可能になります。

しかしながら、離婚協議書の内容が法的に適切でない、または一方的に不利益をもたらすものであると判断される場合、その協議書自体の有効性が問われることが考えられます。このような場合、裁判所は新たな条件を設定する可能性があります。

最後に、こうした争いを最初から避けるための方法として、離婚公正証書の作成をおすすめいたします。

離婚公正証書は、公証人役場で作成される公的な文書で、法的に強い効力を持ちます。もし離婚協議書の取り決めた内容に違反した場合、離婚公正証書に基づいて、迅速に強制執行の手続きを取ることができるため、裁判を経ることなく、解決が期待できます。

離婚協議書に関するQ&A

Q1.離婚協議書とは何ですか?

離婚協議書とは、夫婦が離婚する際に、離婚条件についての合意内容を文書としてまとめたものです。具体的には、財産分与、子どもの親権・養育費や面会交流の条件、慰謝料の有無や金額など、離婚に関連するさまざまな事項を明記します。離婚協議書を作成することで、後日発生するかもしれないトラブルを予防することが期待されます。

Q2.離婚協議書の法的効力について教えてください。

離婚協議書は、合意した内容に従って履行する法的義務を負う契約書ですので、法的拘束力があります。
相手が養育費や慰謝料などの支払いを怠った場合には、裁判を起こして、義務の履行を請求できます。その際には、離婚協議書を証拠として提出することで、合意内容を証明することが可能です。

ただし、離婚協議書は私文書ですので、法的な強制力はありません。したがって、合意内容の履行がされなかった場合でも、相手の預貯金などの財産をすぐに差し押さえることはできません。内容に不備があるなど、場合によっては無効になってしまうこともあるため、注意しましょう。

Q3.離婚協議書に書くべきことは何ですか?

離婚協議書に書くべきことは、一般的には次の項目となります。

  • 離婚に合意した日・夫婦のどちらが離婚届を提出するか
  • 親権者および監護権者の指定(未成年の子がいる場合)
  • 養育費の取決め
  • 面会交流の取決め
  • 慰謝料の取決め
  • 財産分与の取決め
  • 年金分割の取決め
  • 清算条項(財産分与や慰謝料などの支払いが終わったら、互いに何も請求しないということ)
  • 通知義務(住所、連絡先、勤務先などが変わったときはすぐに連絡すること)
  • 公正証書作成への協力(執行認諾文言を入れる合意を記載する)

まとめ

離婚は人生の大きな転機となる出来事であり、その過程で作成する「離婚協議書」は、離婚後の人生を左右する非常に重要な文書です。
多くの方が、情熱的な感情や法律の複雑さに困惑し、協議書の作成に難しさを感じることでしょう。

離婚協議書は、夫婦のお互いが納得の上で離婚条件について合意したことを示す、重要な文書です。将来的に生じかねない金銭的トラブルを避けるためにも、適切な内容の離婚協議書を作成する必要があります。

しかし、離婚時に揉め事があって感情的になっていたり、法律的な知識が不足していたりすると、自分たちだけで離婚協議書を作成するのは容易ではないでしょう。

そこで、法律の専門家である弁護士にご相談いただければと思います。当法律事務所では、初回は無料相談とさせていただいております。
弁護士は、依頼者様のご意見やお悩みを伺い、離婚協議書を作成するかしないか、といったことを含めて、その方に最適と思われる法的サポートをご提供させていただきます。

また、法律に反する取り決めや、権利を侵害する内容を含んでご依頼者様が不利になることのないように、離婚条件の内容も精査いたします。

離婚協議書の作成に関してだけでなく、離婚協議書の作成に至るまでの話し合いも、弁護士がご依頼者様に代わって進めていくことも可能です。離婚協議においては、当事者だけで進めていくと、どうしても感情的になりがちです。離婚協議も、弁護士がご依頼者様の代理人として交渉を進めていくため、夫婦だけで行うよりも、スムーズに進行する可能性が高まります。
その結果として、離婚問題が早期に片付くことが期待できるでしょう。

適切な内容で作成されている離婚協議書は、後々のトラブルや紛争を減少させることができます。
養育費の未払いなどのトラブルが発生した際には、義務の履行を求める際の証拠の一つとなります。

離婚協議書について、ご不安やお悩みを抱えていらっしゃる場合は、まずは無料相談をご利用ください。作成依頼だけでなく、離婚協議書を作成する前の離婚条件に関する交渉なども、弁護士がサポートさせていただきます。

この記事を書いた人

雫田 雄太

弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

 

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。

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