財産分与【徹底解説】|共有財産(家や貯金)と対象にならないものも解説!
離婚を考えたとき、絶対に切り離すことができないのが財産分与です。
一般的には、離婚手続の時に夫婦で財産を分け合うこと、というイメージがあるかと思います。しかし、詳しい内容となるとイメージがわかないことも多いのではないでしょうか。
例えば、財産分与の対象となる「共有財産」とは、どういう意味なのでしょう。また、財産分与で、家や車、預貯金をどのように分けるのがよいのでしょうか。財産分与の相場はどれくらいなのでしょうか。
本記事ではそんな疑問にお答えすべく、離婚時の財産分与の手続について、弁護士が解説させていただきます。
離婚時の財産分与では、貯金や家、車などの他にも、退職金や年金といった将来貰う予定の財産や、住宅ローン・借金といったマイナスの財産など、考えなければならないことが多くあります。
本記事が離婚をご検討中の方や、離婚手続を進められている方のご参考になれば幸いです。
目次
離婚の財産分与(民法第768条)
財産分与とは
財産分与とは、婚姻中に形成した夫婦の実質的な共有財産を離婚時に清算することです。
離婚時の財産分与について、民法に次のとおり定められています。
民法第768条第1項 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
財産分与は義務ではなく権利ですので、夫婦がお互いに「財産分与はしない。」と合意するのであれば、それは有効ですし、離婚時に財産分与をする必要も当然ありません。
もっとも、離婚時に財産分与の請求をされた場合に、一方的に、拒むことはできません。民法第768条第2項に規定されているとおり、相手方から財産分与を請求された場合は、拒否しても家庭裁判所に財産分与請求の調停や審判の申立をされる可能性があります。
民法第768条第2項 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から2年を経過したときは、この限りでない。
民法第768条第2項ただし書きに「離婚の時から2年」とあるように、離婚後に財産分与を請求する場合は、離婚時から2年以内に行わなければなりません。この2年は時効ではなく、「除斥期間」とされています。
「除斥期間」とは、法律上定められている権利を行使できる期間内に、その権利を行使しなければ、権利が消滅してしまう期間のことです。消滅時効と似ていますが、消滅時効にかかる権利は、一定の事由により、時効の完成が猶予されるなどして、権利が消滅しないことがありますが、除斥期間にはそのような事由はありません。
また、消滅時効にかかる権利の場合は、請求された側が時効を「援用」する意思表示をすることで、権利が消滅し、請求を免れることができます。
一方、除斥期間経過による権利の消滅のために前記のような援用の意思表示は不要であるため、離婚時から2年経過すると、財産分与請求権は当然に消滅するのです。
できる限り離婚を急ぎたいという気持ちもあるでしょうが、財産分与請求権は重要な権利であり離婚時から2年経過後には消滅してしまいます。また、離婚後の新生活をスタートさせるためにも、離婚するにあたって財産分与についても検討するとよいでしょう。
財産分与の方法・やり方
それでは、具体的な財産分与の決め方等について見ていきましょう。
1.対象財産の確定
最初に行うことは、財産分与の対象となる財産の洗い出しです。
財産分与の対象となる財産については、後ほど詳しく解説いたしますが、一般的には「結婚してから別居までの間に、夫婦で築き上げた財産」が財産分与の対象となります。
2.分配する割合の決定
対象となる財産が確定したら、分配する割合について決めます。
割合は、原則として2分の1です。これは、夫婦が共働きの場合も、妻や夫が専業主婦である場合も同様です。
この点、「専業主婦は働いていないから、財産を形成していないので、財産を分与しなくていい。」という誤解を耳にすることがあります。
家庭裁判所の実務上、専業主婦であっても、夫婦が婚姻中に取得した財産は、夫婦が協力して形成したものであり、その協力の程度等が原則として平等であると考えられています。したがって、調停などの裁判手続きでは、専業主婦のケースであっても、財産分与の割合は、原則として、2分の1とされるのです。
なお、財産分与の割合については、こちらの関連記事をぜひご一読ください。
3.財産分与の話合い
夫婦の話合いによって、財産分与の方法や内容を決めていきます。
財産分与の方法として、次のようなものが主にあります。
- 財産分与の対象財産を売却し、その利益を分割する。
- 財産分与の対象財産を自分が保持する代わりに、他方配偶者に金銭の支払いをする。
- 現物による財産分与をする。
財産分与の割合についても、原則の2分の1にこだわる必要はありません。
例えば「家は妻に、車は夫に、貯金は2分の1で分配し、夫の退職金については分配しない。」というような取決めをする人もいます。
また、離婚条件で納得できず、離婚調停になっている場合は、財産分与に関しても離婚調停の中で解決することが可能です。
財産分与の対象となるのは「共有財産」です
共有財産とは結婚後に夫婦で協力して形成した財産のこと
財産分与の対象となるのは、夫婦の財産の内、「共有財産」です。
財産分与の対象となる「共有財産」は、「婚姻期間中に夫婦が協力して形成した財産」とされています。
どの財産が共有財産に当たるかについて、その財産の名義だけで形式的に判断しません。実質的に夫婦の共有の財産であるかを判断して決まります。
対象になる範囲とはいつからどこまで?
それでは、財産分与の対象である共有財産の範囲は、いつを基準として考えれば良いのでしょうか。
財産分与の対象となる財産は、夫婦の協力関係が続いている間に形成された財産である必要があります。
このことから、一般的に離婚財産分与の範囲は「結婚から別居まで」と考えられています。
別居といっても、例えば単身赴任や海外留学などで一方のみ海外にいる場合にも別居となりますが、この場合には、夫婦の協力関係がない別居とは言えません。
以上のように、実務上は、基本的には別居時を基準としつつも、個々の事案に応じて具体的に判断することになります。
【共有財産リスト】
結婚後、別居時までに夫婦が協力して形成した財産が共有財産であるとご説明いたしましたが、具体的な共有財産の例をリストにまとめますと、次の通りです。
- 不動産
- 車
- 家具や家電
- 預貯金
- 退職金
- 有価証券等
- 生命保険や学資保険などの解約返戻金
- 子ども名義の預貯金や児童手当
- 負債(借金やローン、マイナスの財産)
それでは、リストの9つの共有財産について、簡単に見ていきましょう。
(1)不動産
結婚後に購入した持ち家は、名義に関係なく夫婦の共有財産とされ、基本的に離婚時の財産分与の対象となります。
一方、結婚前から夫婦の一方が所有していた不動産は、夫婦が協力して築いた財産ではないため、財産分与の対象になりません。親から相続した不動産も、財産分与の対象とはなりません。
しかし、不動産を購入するときに、一方の親が頭金を支払、贈与を受けた場合は、その一部の財産は特有財産となり、贈与分を差し引いた額が財産分与の対象となります。
(2)車
車についても、例えば、購入資金を共有の財産から出しているような場合は、共有財産になり、離婚時の財産分与の対象となります。
車の名義が夫婦のどちらであっても、共有財産です。
しかし、夫が結婚前から所有している車や、妻が相続によって親から得た車は、婚姻中に夫婦の協力によって形成された財産とは言えませんので、共有財産にはなりません。
(3)家具や家電などの動産
家具、家電などの動産であっても、婚姻後に取得した財産は離婚時の財産分与の対象となります。
動産の分与も、売却代金を折半する方法や夫婦の一方が動産を取得して、他方に市場価額の半額を代償金として渡す方法など複数の分与の方法があります。
(4)預貯金
婚姻中に形成されたものであれば、夫婦のどちらか一方の個人名義の口座で管理していた預貯金も、財産分与の対象である共有財産となります。
また、 例えば、子どものために積み立てていた子ども名義の預貯金のように、入金されている財産の性質によっては、夫や妻の名義ではない預貯金も、実質的には夫婦の財産として、財産分与の対象になります。
(5)退職金
退職金は給与の後払的性格を有することもあり、給与と同じように離婚時の財産分与の対象となります。
もっとも、既に支払済みの退職金については財産分与の対象となりますが、将来に支払予定の退職金については財産分与の対象とはならないことがあります。
後者については、退職金が支払われる可能性の程度等によって財産分与の対象となるか判断されることになり、職種や勤続年数などの諸事情をも総合的に考慮して決まります。
(6)有価証券等
婚姻中に有価証券を取得した場合、これも共有財産として、離婚時の財産分与の対象となります。
有価証券とは、株式、債券、手形・小切手や、投資信託の受益証券など、財産的価値のある権利を表彰する証券をいいます(金融商品取引法第2条)。
金銭ではありませんが、経済的に価値があるものとして、婚姻期間中に取得した有価証券等は共有財産となるのです。
(7)生命保険や学資保険などの解約返戻金
夫婦のいずれかが加入している保険に財産的価値があり、婚姻期間中に加入していたものであれば、その保険も財産分与の対象となります。
生命保険や学資保険、損害保険などの保険は、掛け捨て型の場合は財産的価値を持ちませんが、積立型の保険の場合は解約または満期で返戻金が生じるため、財産分与の基準時に解約した場合の解約返戻金額が財産分与の対象となるのです。
(8)子ども名義の預貯金や児童手当
財産分与の対象となるのは、基準時の夫婦の共有財産であり、名義だけで判断するのではなく、実質的にみて夫婦で協力して形成した財産といえるかどうかで決まります。
したがって、子ども名義の預貯金であっても、その原資が夫または妻の収入である場合には、実質的に夫婦の共有財産であり、財産分与の対象と判断するのが一般的です。
児童手当についても、受給権者は子どもの父母のいずれかであることから、婚姻中に支給された児童手当については、夫婦の共有財産とされます。
(9)借金やローンといった負の財産
お金や住宅ローンといった負の財産も、離婚時の財産分与の対象となる場合があります。
住宅や車のローン、生活費のために借りたお金などは、夫婦の共同生活のために夫婦が負った債務であり、それについては離婚時に分担することが公平である、と考えられるからです。
一方で、配偶者がギャンブルなどで作った債務などは、共同生活に基づかない、一方配偶者に固有の借金として、財産分与の対象外となります。
詳しくはこちらの記事で解説しておりますので、ぜひご参照ください。
財産分与の対象にならないもの
分配の対象にならない財産は「特有財産」です
財産分与の対象となるのは、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産ですので、独身時代の貯金や、夫婦の一方が相続によって得た財産などは共有の財産になりません。
こういった、離婚財産分与の対象とならない財産を「特有財産」といいます(民法第762条1項)。
第762条1項 夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
特有財産が財産分与の対象外になるのは、もし特有財産を財産分与の対象としてしまえば、その財産の取得に関与していない他方配偶者が何らの労もなく離婚によって財産を得ることになってしまい、不公平だからです。
裁判例でも、同様に考えられており、たとえば、高松高裁は、「夫婦の一方が相続によって得た財産は、夫婦の協力によって取得されたものではないから、夫婦が婚姻中に取得した他の財産と同一視して、分与の対象物件に含ませることは、特段の事由がない限り、許されないというべきである。」と判断しています(高松高等裁判所昭和63年10月28日判決)。
特有財産となると、財産分与の対象外となりますから、ある財産が特有財産か否かについて、夫婦間で争いになることがあります。
例えば、ある預貯金が婚姻前の預貯金か否かが争いになることはよくあります。このような場合、預貯金については、過去の取引履歴を確認することで、特有財産か否かを判断できることがあります。
もっとも、一般的には金融機関の取引履歴は過去10年分までしか保管されていないため、それ以前の預貯金については、特有財産か否かを取引履歴から判断することが困難です。そのため、婚姻期間が20年以上の熟年離婚のケースなどでは、特に特有財産かどうかが争われることが多くなります。
その他にも、特有財産である不動産の家賃が特有財産かどうかが争われることもあります。
たとえば、夫が婚姻前から有していた不動産を婚姻後に妻が運用し、その運用によって出た利益に基づいて購入した不動産は、特有財産に当たるのでしょうか。この場合、妻の不動産の運用内容などに従って妻の貢献度を評価し、特有財産か否かを判断します。
ある財産が共有財産か特有財産であるかによって、財産分与により取得できる財産に差が出ることも多いため、共有財産か否かはとても重要な争点です。この点でお悩みの方は、まずは弁護士に相談されることをお勧めいたします。
家や車などの財産分与
さて、ここからは共有財産の具体的な分与のやり方を見ていきましょう。
まずは、家や車といった不動産の財産分与方法を中心に解説します。
(1)家などの不動産の財産分与の方法
①売却して現金化する
持ち家について、最も財産分与しやすい方法は、売却する方法です。
不動産を売却する場合は、売却して得た金額を、一般的には2分の1ずつに分けることになります。離婚後に相手と関わりたくないような場合は、とりわけこの方法がよく使われます。
分与額を算出するためには、不動産の時価を算出する必要がありますので、不動産業者などに依頼し査定してもらいます。
②売却せず清算する
夫婦の一方が持ち家に居住し続ける場合には、取得する側が、不動産の時価の2分の1を他方に支払うことにより清算できます。清算金を一括で支払えない場合などは、分割払の取決めをして、離婚公正証書に記載しておくと良いでしょう。
また、後々のトラブルを避けるためにも、不動産の名義変更の登記手続をしておくことが重要です。
不動産の名義変更をする場合、通常は離婚後に財産分与を原因とする所有権移転登記を行います。名義変更は、夫婦双方の協力を得て申請する必要があります。
一方が協力してくれない場合には、裁判所に申立をすることができますが、その点についても、協力を得られるように公正証書を作成しておくと良いでしょう。
住宅ローンが残っている場合は?
離婚時に住宅ローンが残っている場合は、少し注意が必要です。
住宅ローンの残債より売却額が大きい状態を「アンダーローン」といい、このケースでは売却額で住宅ローンを完済可能です。住宅ローンを完済した上で残った売却額を折半します。
住宅ローンの残債が売却額を上回る状態を「オーバーローン」といいますが、この場合は家を売ってもローンを完済できません。不足分は、別途返済する必要があります。
もしローンを借り入れている側がオーバーローンの自宅を財産分与で受け取る場合には、自宅の価値はないものと扱いますので、先ほどのように清算金を支払う必要はないことになります。
詳しくはこちらの記事で解説しておりますので、ぜひご参照ください。
夫婦共有の家財・家電の分配方法
自宅などの不動産の財産分与に伴って、家財や家電などの分配が問題となることがあります。
この場合の分配方法として、
①売却代金を折半する方法
②夫婦の一方が動産を取得し、他方に市場価額の半額を代償金として渡す方法
③現物で財産分与を行う方法
などの方法があります。
なお、古くなった家具や家電は価値も高くなく、厳密に算定することが困難なため、現物で分け合って、対価を支払わないというケースが一般的です。
(2)車の財産分与の方法
①売却して現金化する
最も単純で明快な方法は、車を売却して、財産分与の割合で売却代金を分配する方法です。
離婚後に現在使用している車を使う予定がないのであれば、こちらの方法がおすすめです。
②夫婦のどちらかが車を使い続け、他方に金銭か他の財産を渡す
夫婦の一方が車を使い続ける場合は、他方配偶者に対し、車の査定額の2分の1の金額を、金銭で支払うか、他の財産を譲渡することになります。
なお、車の所有者が変わるときは「移転登録」をしなければなりません。
移転登録の手続には、車検証や、現在の所有者の印鑑証明書や譲渡証明書など、あらかじめ用意しなければならない書類も多いので、事前に確認し準備しておきましょう。
移転登録の手続の概要や必要書類については、こちらのホームページをご参照ください。
<参考:国土交通省>
車のローンが残っていても分配できる?
車のローンが残っているときは、ローンの残債と車の査定額のどちらが大きいかによって、財産分与できない場合もあるため注意が必要です。
①アンダーローン(車の査定額がローン残債よりも大きい場合)
車の査定額がローン残債よりも大きい「アンダーローン」の場合は、プラスの財産があるということになるため、車の査定額からローン残債を差し引いた金額を分配することになります。
例えば、車の査定額が150万円で、ローン残債が90万円のケースでの財産分与を考えてみましょう。
車の査定額150万円からローン残債90万円を差し引くと、財産分与の対象となる金額は60万円です。
売却して現金化する場合は、売却代金が60万円になるため、財産分与の割合2分の1に従って、夫婦それぞれ30万円の現金を得ることになります。
車を売却せずに夫婦のどちらかが使い続ける場合は、60万円を折半した金額の30万円を、他方配偶者に現金で支払うか他の財産を充てることになります。
②オーバーローン(ローン残債が車の査定額よりも大きい場合)
車のローン残債が査定額よりも大きい場合は、車はプラスの財産ではないと考えられるため、通常は財産分与の対象になりません。
もっとも、車がオーバーローンであっても、車以外のプラスの財産は、財産分与の対象とするケースもあるでしょう。
なお、車のローンが残っている以上、売却する場合でもどちらかが使い続ける場合でも、車の所有権がある販売店やローン会社に事前に連絡しておきましょう。
勝手に車を売却したり、譲渡してしまったりすると、ローンの一括返済を求められてしまう可能性があるため、必ず販売店やローン会社に相談して進めてください。
預貯金の財産分与は?借金がある時は?
次に、預貯金などの財産分与の方法についてご説明します。
(1)貯金を分配する方法
婚姻中に形成された夫婦どちらかの名義の預貯金や、子ども名義の預貯金についても、入金されている財産の性質によっては離婚財産分与の対象となります。婚姻中に隠れて貯めているへそくりも、離婚財産分与の対象です。
分配の割合は原則2分の1ですので、一般的な財産分与の方法は、預貯金の合計額を折半することになります。
金額を合計して半分にすればいいだけ、と簡単に思われるかもしれませんが、実際には相手が通帳を開示することを拒んだり、配偶者に貯金があることを隠していたりするケースも少なくありません。
通帳開示を拒まれるなどして、貯金を把握することが難しい場合は、弁護士会照会や調査嘱託を利用することになります。
離婚のために相手方の預金口座や残高について調べようとしても、金融機関は、本人からの照会以外は基本的に受け付けてくれません。そういったときは、弁護士にご相談ください。
財産分与における通帳開示についての詳細は、ぜひこちらの関連記事をご覧ください。
妻の方が収入が多い・少ないに関係なく、妻の貯金も分配対象です
財産分与というと、夫が働いて得た収入を夫婦で折半するイメージが一般的ですが、以上のとおり、対象となる財産は夫の収入だけではありません。「婚姻中に夫婦が協力して形成した財産」ですので、婚姻中に妻が働いて得た収入も、財産分与の対象になります。
そして、妻の収入が夫の収入より多い・少ないかは関係ありません。共有財産である以上、夫婦のお互いの収入に対して、2分の1の権利を持っていますので、妻名義の貯金も夫婦で折半することになります。
しかしながら、あくまで2分の1での分与は原則にすぎません。話合いによって、「貯金については各自の名義の貯金をそのまま獲得する。」と決めることもできますので、まずは配偶者ときちんと協議をすることが大切です。
(2)借金やローンといった負の財産
借金やローンといった負の財産を分与する際は、
①プラスの財産が債務より多い場合
②プラスの財産が債務よりも少ない場合
とに分けて考えることになります。
①プラスの財産が債務より多い場合
財産が債務よりも多い場合は、財産額から負債額を差し引いて、その金額を夫婦で折半することになります。
例えば、預貯金や不動産の売却金などプラスの財産が2000万円あり、600万円の借金がある場合は、2000万円から600万円を差し引いた1400万円が財産分与の対象財産となります。
②プラスの財産が債務よりも少ない場合
このような、財産の総額よりも負債の方が大きい状態を、債務超過(さいむちょうか)といいます。
例えば、プラスの財産が2000万円あり、借金が2600万円あるとしましょう。この場合、プラスの財産全てを使って借金を返済しても、600万円の借金が残ります。この超過分600万円に関しては、財産分与の対象外です。
債務超過の場合には債務を折半する必要はなく、財産分与もないことになります。
財産分与の相場
実際のところ、財産分与の相場はいくらなのでしょうか。
財産分与では、個々の夫婦の事情に応じて財産分与の対象財産を確定し金額を決めるため、離婚慰謝料のような一般的な相場額がありません。
相場はないものの、離婚調停・審判で財産分与について取り決めた事件の、金額別・支払者別・内容別のデータを見ることができますので、参考にしてください。
下表は、裁判所が公開している令和3年の司法統計を基に作成したものとなります。財産分与の取決め金額ごとの、支払者が夫の場合と妻の場合とのそれぞれの財産分与の件数のデータです。
金 額 |
夫 |
妻 |
100万円以下 |
1,412 |
362 |
200万円以下 |
843 |
144 |
400万円以下 |
871 |
125 |
600万円以下 |
568 |
69 |
1,000万円以下 |
775 |
82 |
2,000万円以下 |
674 |
59 |
2,000万円を超える |
370 |
31 |
総額決まらず・算定不能 |
1,335 |
254 |
総数 |
6,848 |
1,126 |
離婚の調停が成立又は調停に代わる審判事件のうち、財産分与の取決めがあった事件の総数が7,974件です。そのうち、夫が妻へ財産分与を支払うと取り決めた事件が6,848件と、約85%を占めています。
離婚財産分与としての金額は、100万円以下のケースが最も多いことが分かりますね。
また、金銭や不動産など、財産分与の支払内容別にみると、約60%が財産分与を金銭によって行っていることが分かります。
この統計だけを見ると、100万円以下が最も多いのなら相場はそれくらいだろうと考えられるかもしれませんが、こちらはあくまで財産分与のみの金額別件数です。
離婚慰謝料や婚姻費用、養育費など、他の金銭的請求との兼ね合いもある場合が多いので、財産分与を検討する際はきちんと対象財産を把握するようのしましょう。
<参考:「令和3年 司法統計年報3家事編」第28表 「離婚」の調停成立又は調停に代わる審判事件のうち財産分与の取決め有りの件数―支払額別支払者及び支払内容別―全家庭裁判所>
財産分与の裁判手続き
財産分与は夫婦の話合いによって行うこともできますが、どうしても分配方法や内容で折り合いがつかず、話合いではまとまらないこともあります。
そういった場合に、民法は「財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。(民法第768条第2項)」と規定していますので、家庭裁判所での決着を試みることになります。
なお、離婚の前後によって手続が異なりますので、離婚前と離婚後の財産分与の請求とに分けて見ていきましょう。
(1)離婚前はまず調停を申し立てます
離婚前の財産分与は、家庭裁判所に対して、離婚調停を申し立てる際に、財産分与の処分も請求することになります。
なお、本来夫婦の話合いによって解決すべき離婚問題については、「調停前置主義」が採用されていますので、いきなり離婚の裁判を起こすことはできず、まずは離婚調停の申立をする必要があります。
<内部リンク:離婚調停>
そして、調停が不成立になった場合は、離婚裁判によって解決を図ることになります。
離婚裁判自体は、裁判所に離婚を認めてもらうための裁判なので、財産分与などの離婚条件は、離婚裁判に付随する申立て(附帯処分の申立て)を行わなければなりません(人事訴訟法第32条第1項)。
人事訴訟法第32条第1項 裁判所は、申立てにより、夫婦の一方が他の一方に対して提起した婚姻の取消し又は離婚の訴えに係る請求を認容する判決において、子の監護者の指定その他の子の監護に関する処分、財産の分与に関する処分又は厚生年金保険法第78条の2第2項の規定による処分(以下「附帯処分」と総称する。)についての裁判をしなければならない。
附帯処分の申立は、必ずしも離婚裁判と同時にする必要はありません。離婚裁判をしている期間であれば、口頭弁論の終結時までは、いつでも申立ができます。
以上のとおり、離婚前に財産分与の処分を家庭裁判所に求める場合は、まずは第三者を挟んだ話合いである調停によることになります。
(2)離婚後は2年以内に請求しましょう!
離婚後は、家庭裁判所に対して、財産分与請求調停または審判の申立をすることになります。
ただし、調停が不成立に終われば自動的に審判に移行することになるため、最初にいきなり審判の申立をすることは基本的にはありません。
なお、この申立は、本記事の前半でもお伝えしたとおり、2年以内に行わなければなりません。2年という除斥期間を経過すると、財産分与を請求する権利を失ってしまいます(民法第768条第2項)。
なお、離婚前の財産分与の請求と違って、財産分与だけを対象とする申立には、調停前置主義の原則がないので、調停を経ることなく訴訟を提起することもできます。
もっとも、実務上は、調停を経ることなく財産分与請求訴訟を提起することはほとんどなく、仮に調停を経ることなく訴訟を提起した場合でも、家庭裁判所が「当事者の話合いによって解決すべきである」と考えて、職権で調停に付すことが多いです。
調停が不成立になると、財産分与審判へと移行します。
その場合には、家庭裁判所において審理がなされて、審判によって裁判所の結論が示されることになります。
財産分与についてのQ&A
Q1.財産分与の対象である共有財産とは何ですか?
共有財産とは、婚姻中に夫婦が協力して形成した財産で、次の財産が挙げられます。
- 不動産
- 車
- 家具や家電
- 現金、預貯金
- 退職金
- 有価証券等
- 生命保険や学資保険などの解約返戻金
- 子ども名義の預貯金や児童手当
- 負債(借金やローン、マイナスの財産)
Q2.財産分与の対象にならないものとは?
独身時代の貯金や、夫婦の一方が相続によって得た財産などは「共有財産」にはなりません。
このような、財産分与の対象とならない財産のことを「特有財産」といいます(民法第762条1項)。
Q3.家などの不動産はどのように分配するのですか?
不動産の分配は、
①不動産を売却して現金化して、売却代金を折半する方法
②どちらかが不動産を所有して、他方配偶者に不動産の売却代金の2分の1に相当する金額を金銭で支払うか他の財産を譲渡する方法
があります。
弁護士にご相談ください
離婚時には、財産分与以外にも離婚慰謝料や親権など取り決める離婚条件は少なくありません。ましてや協議離婚の場合は手続を全て自分でやらなければならないので、負担が大きいですよね。
財産分与に適切に行うためにも、財産分与に強い弁護士にご相談ください。弁護士に財産分与をご相談いただくと、次のようなメリットがあります。
弁護士に相談するメリット
- 弁護士が代わりに交渉することで、冷静に話し合いが進み、スムーズな解決が期待できます。離婚後の財産分与であっても、2年という除斥期間に焦って不利な条件で合意してしまうことのないように迅速に対処します。交渉は弁護士が代理しますので、ストレスもありません。
- 弁護士が交渉を進めることで、有利な条件で財産分与の合意が締結できる可能性があります。
- 熟年離婚など婚姻期間が長い離婚の財産分与は問題が複雑化しがちですが、弁護士がきちんと財産の種類や金額を把握して、ご依頼者様の利益を第一に適切な財産分与となるよう対応いたします。
- 弁護士は、弁護士会照会制度などを利用することで、ご依頼者様だけでは調査できない隠し財産などを調査できます。
- 財産分与の条件が調ったら、弁護士が離婚公正証書の作成もサポートいたします。
- 財産分与の調停や裁判も、弁護士が冷静かつ迅速丁寧に対応いたします。見落としがちな法的問題にも対処して、適切な離婚財産分与ができるように、ご依頼者様と二人三脚で進めていきます。
財産分与の手続こそ、弁護士をご利用されてはいかがでしょうか。
この記事を書いた人
雫田 雄太
弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。