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離婚の財産分与で通帳開示請求できる?調べ方や拒否された場合の対応

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。
1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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離婚時の財産分与は、離婚を考えている多くの方々にとって、避けて通れない重要な問題です。
婚姻期間中に夫婦で築いてきた財産をどのように財産分与するかは、双方の生活に大きな影響を与えます。

通常は、離婚に伴う財産分与では夫婦の共有財産を折半することになります。そのため、預貯金等の財産がいくらあるのか、通帳開示し正確な金額を把握しておくことが重要です。
ところで、通帳開示請求はどのように行うのでしょうか。また、通帳開示を拒否されてしまった場合は、どうすれば良いのでしょうか。

本記事では、離婚時の財産分与に際して、一方配偶者が通帳や預貯金の情報を隠そうとする場合に、どのようにして情報を取得すれば良いのか、通帳開示の請求方法について解説していきます。また、通帳開示を拒否されてしまった場合に、取り得る対処法がないかなど、詳しくご説明いたします。本記事が離婚に伴う財産分与の手続きを進めるにあたって、ご参考になりましたら幸いです。

目次

離婚の財産分与における通帳開示請求とは

離婚の財産分与のときに相手の財産を調べる方法はあるの?

離婚する際に、離婚後の生活のために重要な財産分与について、夫婦で話し合いを進めていくことになります。
そんな財産分与ですが、皆さんは配偶者の預貯金について、どの銀行にどういった口座を持っているのか、全てを正確に把握していらっしゃるでしょうか。
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財産分与にあたっては、夫婦がお互いの財産について、きちんと知っておかなければなりません。

そこで重要なのが、通帳開示です。
「お互いの預貯金について、通帳開示しよう。」と話し合い、任意で通帳開示してもらえれば、スムーズに財産分与の準備を進めていけますが、そもそも離婚する・しないで揉めているケースなどでは、通帳開示を拒否されることもあるでしょう。
そうなった場合には、法的対応を取る必要も生じます。
それでは、まずは通帳開示請求とは何か、その内容についてご説明いたします。

どういう手続きなの?

通帳開示請求というと、法律上に定められた手続きのように思えますが、法律上、そういった手続きがあるわけではありません。
口頭で「持っている通帳を全て見せてほしい。」と言うのも、通帳開示請求のひとつの方法です。
ですので、法律上、「通帳開示請求」という名称の手続があるわけではないのです。

開示請求の対象となる内容は?どこまでが範囲?

 

開示請求の対象となる内容と範囲

 

さて、通帳開示請求をする場合には、その請求対象となる財産の内容と範囲が重要です。
通帳開示請求の対象となる財産の範囲は、夫婦が婚姻期間に築き上げた財産、すなわち「共有財産」の部分となります。

このため、通帳開示が必要なのは、結婚から離婚(もしくは離婚を前提として別居を開始した日)に至るまでの期間にわたって記録されている通帳の部分です。通帳を見せてもらえたら、該当するページをコピーしておくようにしましょう。

たとえば、婚姻したときに預貯金の残高が300万円あって、別居を開始したときに預貯金残高が700万円だった場合は、婚姻から別居開始までに築いた財産が共有財産に当たるため、700万円-300万円=400万円が財産分与の対象財産となります。

ここで注意しなければならないのは、離婚前・別居前に、不正な方法で資金の出入りがあった場合や、結婚後に親からの相続によって、特定の資産が夫婦の一方に入ったという場合です。
不正な入出金があれば、その理由や内容を特定する必要があります。

また、相続による財産の取得は、「夫婦が協力して築き上げた財産」とは言えないため、財産分与の対象とはならない「特有財産」に分類されます。たとえ、相続した財産が夫婦の共通の口座に入金されていたとしても、この部分は共有財産ではないため、金額から除外して財産分与を考える必要があるのです。

もっとも、特有財産であることを主張したい場合には、主張する側が立証しなければなりません。この点、普通預金口座は、10年以上前の履歴が残っていないことが多いため、特有財産であることの立証ができず、夫婦の共有財産と判断されることもあり得ますので注意しておく必要があります。

通帳開示を拒否されたときの対処法

離婚の財産分与にともなう通帳開示請求の方法

離婚の際に財産分与で通帳開示を求める方法ですが、まずは任意での通帳開示を求める方法になります。離婚協議や離婚調停では、まずは相手方に通帳開示を申し入れ、相手方から任意で情報の提供を受けることになります。
それでも離婚時の

財産分与の中で通帳開示を拒否されてしまう場合は、次の制度を利用して、通帳開示を求めることになります。

弁護士会照会制度を利用しましょう

弁護士会照会制度とは、弁護士法第23条の2に基づいた、弁護士が自身の所属する弁護士会を通じて、一定の条件の下、公務所又は公私の団体に対して必要な事項の報告を求めることができる制度をいいます。

(報告の請求)
弁護士法第23条の2 弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があつた場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。
2 弁護士会は、前項の規定による申出に基き、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。

このため、弁護士法23条の2に基づく照会のことを「23条照会」とも言うことがあります。
裁判手続きの外で行える請求なので、財産分与において、任意のタイミングでいつでも行うことができるのが弁護士会照会制度のメリットです。
なお、弁護士会照会制度を利用する際には、次に挙げた点について注意が必要となります。

  • 弁護士会照会は、弁護士のみが行うことができるため、通帳開示請求をしてもらおうと思ったら、まずは弁護士に依頼する必要があります。
  • 弁護士会照会によって通帳開示を求める際には、金融機関の名称等をある程度特定しておく必要があります。
  • 弁護士は弁護士会を通じて、金融機関などに照会をかけますが、弁護士照会を受けた金融機関は、一般的な回答義務を負うだけなので、金融機関側に回答を拒否する正当な事由がある場合には、弁護士会照会といえど、回答を拒否されてしまう可能性もあります。

弁護士は弁護士会を通じて、金融機関などに照会をかけますが、弁護士照会を受けた金融機関は、一般的な回答義務を負うだけなので、金融機関側に回答を拒否する正当な事由がある場合には、弁護士会照会といえど、回答を拒否されてしまう可能性もあります。

離婚に伴う財産分与の話し合いや調停において、相手方配偶者が任意で通帳開示してくれないときには、この弁護士会照会制度を利用することで、金融機関から取引履歴の開示を受けられることがあります。しかし、ご説明した通り、離婚に伴う財産分与をすることを目的とした弁護士会照会に対して、銀行側が回答を拒否するケースもあります。
離婚に伴う財産分与のために通帳開示を請求したいと思ったら、まずは早い段階で、弁護士に相談していただければと思います。

調停や裁判中なら家庭裁判所の調査嘱託を利用できます

裁判所による調査嘱託とは、家事事件手続法第62条に基づいて、家事事件に関する裁判を適切に行うために必要な情報や証拠を収集するために行われる調査のことです。
家庭裁判所が行う調査なので、弁護士照会では回答を得られなかった金融機関からも、回答を得られる可能性があります。

(調査の嘱託等)
家事事件手続法第62条
家庭裁判所は、必要な調査を官庁、公署その他適当と認める者に嘱託し、又は銀行、信託会社、関係人の使用者その他の者に対し関係人の預金、信託財産、収入その他の事項に関して必要な報告を求めることができる。

調査嘱託は、探索的な目的では行えないため、調査嘱託を申し立てる際には、通帳開示してほしい金融機関等との取引関係があることを具体的に疎明する必要があります。
なぜならば、現実に存在するかも分からない預貯金や銀行口座について、裁判所に深く探索させるような調査を認めてしまうと、相手方の権利や利益を不当に侵害してしまいかねないためです。

ですので、「どこかの銀行に、隠し持っている口座があるはずだ。」などという漠然とした情報では申立ては認められません。また開示の対象は、預貯金の場合には、原則として基準時(別居時)の残高です。過去の取引履歴については、その必要がある場合に限られます。

また、調査嘱託制度を利用するためには、離婚調停や離婚裁判など、裁判所での手続きを行っている必要があります。離婚調停や審判、離婚裁判の手続きの中で行われるものだからです。

裁判所が行う調査嘱託の結果は、証拠資料となります。そのため、離婚時の財産分与で相手方が通帳や収入などを隠している場合は、財産資料を手に入れるために、非常に有用な手段となります。
現在、離婚調停や裁判を行っている方や、離婚調停や離婚裁判の申立てを検討しているという方は、適正な財産分与をするためにも、調査嘱託制度の利用を検討してみてはいかがでしょうか。

また、その場合には、法律の専門家である弁護士にご相談いただくことで、スムーズな調査嘱託の申立てを期待できるかと思います。
当事務所にも、初回無料の法律相談がございますので、ぜひお気軽にご利用ください。

夫婦の隠し財産の調査方法は弁護士にご相談を

さて、離婚時の財産分与の手続きに際して、隠し財産を全て自分ひとりで洗い出そうとすると、手間も時間もかかってしまい、大変かと思います。
そこで、通帳開示の手続きについて、ご自身の状況に合った方法はないか、費用はいくらかかるのかなど、弁護士にご相談されることをおすすめいたします。

なお、弁護士会照会制度の手続きにかかる費用は、ご依頼される弁護士や法律事務所によって異なります。照会をかける金融機関の数に応じた弁護士会照会費用の他、手数料や郵便切手代といった実費がかかることが一般的です。
ご依頼される法律事務所のホームページなどで、事前にご確認ください。

離婚の財産分与で通帳開示請求は拒否できる?

離婚に伴う財産分与の話し合いの中で、突然「通帳開示してほしい。」と通帳開示を求められても、動揺したり戸惑ったりして、拒否したいと思うかもしれません。
通帳は大切な個人情報のひとつですから、通帳開示を求めてきた相手が、配偶者以外であれば、通帳開示を拒否することは可能です。

また、たとえ離婚に伴う財産分与に必要だから、という目的があっても、配偶者からの通帳開示請求も、拒否することはできます。財産分与において、配偶者といえど、相手方に通帳開示を強要することはできないのです。

もっとも、通帳の開示を拒否することの次のようなデメリットもあるため、通帳は開示するべきといえるでしょう。

デメリットとしては、正当な理由なく財産開示に応じない場合には、裁判所が他方当事者の主張する合理的な額を対象財産と認定することができます。

そのように認定される理由としては、他方当事者が主張する額が秘匿財産より多ければ、秘匿するメリットがないから、それでも秘匿する場合には、少なくとも他方当事者が主張する額は存在するという経験則があるからです。

また、前述の通り、財産分与の際には、任意のタイミングで弁護士照会制度を利用することができます。また、離婚調停や離婚裁判になっていて、財産分与について争っている状態であれば、裁判所による調査嘱託で通帳開示されることになるでしょう。
離婚時に適正な財産分与を行うためには、結論として、通帳開示することは難しく、財産を隠し通すのは、紛争を無意味に長引かせるだけとなってしまう可能性が高いです。さらに、前記のとおり、開示を求める側が主張する財産額について合理性が認められた場合には、その額の財産があるとみなされるおそれもあります。

離婚時の財産分与で、相手方配偶者から通帳開示を求められたときには、まずは冷静になりましょう。そして、なるべく任意に、通帳開示の請求に応じることを、おすすめいたします。

離婚の財産分与で通帳開示請求に関するQ&A

Q1.離婚時の財産分与で、通帳開示は必要ですか?

通帳開示は法的に義務付けられているわけではありませんので、離婚時に必ず行われるものではありません。ですが、財産分与を公平かつ正確に行うためには、非常に重要な手続きとなります。
配偶者の収入や貯蓄の実態を正確に把握することで、双方が納得のいく財産分与を行うことが可能になります。また、通帳開示を行うことで、隠されていた資産が明らかになり、適正な財産分与が実現することが期待できます。

この手続きを通じて、「隠し財産があったことを知らずに財産分与をしてしまった。」などといった、将来的なトラブルを防ぐことも期待できます。

Q2.通帳開示請求を拒否することはできますか?

通帳開示を拒否することはできますが、その結果として、相手方が主張する隠し財産額について、合理性が認められた場合には、相手方が主張する財産額を保有しているとみなされるおそれもあるので、拒否することはおすすめしません。

Q3.通帳開示が円滑に進まない場合、どのような対処法がありますか?

通帳開示が円滑に進まない場合、まずは冷静になり、相手方との対話を試みることが重要です。お互いの立場や意見を尊重し合いながら、開示の必要性や開示する情報の範囲について話し合いを行うことで、合意に達することが可能です。
それでも合意が難しい場合は、弁護士などの法律の専門家に相談してみることをおすすめいたします。

ご不安やお悩みは弁護士にご相談ください

離婚の際に避けては通れないのが財産分与ですが、その公平な進行のためには通帳開示が重要な役割を果たします。本記事では、離婚における財産分与の中での通帳開示の意義や手法、さらには通帳開示を巡るトラブルや注意点について詳しく説明させていただきました。
通帳開示は、財産の公正な分配を図るためには、欠かせない手続きです。拒否することもできますが、その場合は裁判所の介入を受けることもあります。その際には、罰金や強制執行が行われることも考慮する必要があります。

本記事では、通帳開示の目的、方法、対象となる財産の範囲、そして拒否した場合の対処法や、通帳開示に関する注意点などについて解説いたしました。
通帳開示請求は煩雑ですが、夫婦間の透明性を保ちながら、公平な財産の分配を行うためには欠かせない手続きです。また、通帳開示を拒否したり、情報を隠したりする行為は結局のところ、争いを長期化させ、より対立を深いものにすることに繋がりかねません。ですので、通帳開示について、正しい情報を知っておきましょう。

本記事が、離婚時の財産分与の通帳開示に関する理解を深め、財産分与をスムーズに進めるための一助となりましたら幸いです。

この記事を書いた人

雫田 雄太

弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

 

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。

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