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財産隠し|離婚財産分与で貯金を隠すのはNG!隠し口座がありそうな時は?

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。
3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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離婚時の財産分与をするにあたり、なるべく自分に有利に財産を分配したいと考えて、財産を隠したいと考える方もいるのではないでしょうか。

離婚時の財産分与において、財産を隠す行為は当然、推奨されません。しかし、現実には、貯金を隠す様々な方法があるので注意しなければなりません。
例えば、貯金を第三者の名義の口座に移したり、貯金を現金化して金庫や安全な場所に保管するなどして財産隠しが行われます。近年では、仮想通貨に変換するなど、巧妙な財産隠しをする例もあります。

財産分与を適正に行いたい方としては、相手方が財産を隠しているかもしれないと疑心暗鬼になることも当然です。
離婚における財産分与は、公正であるべきですので、実際に平等な財産分与を実現させるためには、貯金を含めた財産隠しを見破る方法に関する正確な知識が重要です。
本記事が、ご参考となりましたら幸いです。

目次

財産隠し

離婚財産分与で貯金を隠すのはOK?

財産を隠して一部の情報だけを開示したとしても、それを怪しんだ相手方が、弁護士や裁判所での手続きを通じて、財産の調査を行えば、隠していた貯金が発見されることがありえます。

財産分与は、夫婦の婚姻期間中の協力関係によって築き上げた財産を適切に分配する制度ですから、共有財産に該当する財産である以上は、相手方から財産に関する正確な情報の提供を求められたなら、必要な全ての情報を開示し、誠実に対応しなければなりません。

 

財産分与の対象となる貯金を隠すリスク

 

財産隠しは成功しない

このような情報提供を拒否しても、財産を完全に隠し通せる保障はありません。もし相手方が開示した財産に疑念を持ち、通帳の提示を求めたり、隠し口座を探り出そうとしたり、財産の調査を依頼したりすると、隠し貯金が見つかる可能性があります。

貯金隠しは罪になる?

さて、そんな離婚財産分与の対象財産である預貯金などを隠すことが、違法なのか、罪になるのか、気になるところでしょう。
相手の財産を黙って自分のものにして隠し通そうとする行為は、事案によっては、窃盗や詐欺罪の構成要件に該当しえますが、いずれにせよ、窃盗罪や詐欺罪で処罰されることはありません。夫婦間では「親族」となるため、特例として免除されることになるのです(刑法第244条1項、刑法第251条)。

(親族間の犯罪に関する特例)
刑法第244条1項
配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第235条の罪(窃盗)、第235条の2の罪(不動産侵奪)又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。

(準用)
刑法第251条 第242条、第244条及び第245条の規定は、この章の罪(詐欺及び恐喝)について準用する。

このため、離婚財産分与時に貯金を隠す行為は刑事罰の対象とはならないのです。

ただし、刑法上の責任を問われることはないものの、財産の開示を拒んだことが財産分与にあたって考慮されることがあります。
たとえば、夫が妻に対して自身が婚姻期間中に貯金を蓄えた銀行口座を隠したまま、財産分与を行ったとします。この貯金は共有財産に該当するため、当然妻に寄与度に応じて貯金を受け取る権利があるわけです。

財産分与を規定した民法768条3項は、財産分与にあたり、「一切の事情」を考慮することができる旨規定しています。財産隠しをしていること自体が「一切の事情」として考慮され、場合によっては、財産分与の判断において、不利に働く可能性があります。

裁判例(大阪高決令和3年1月13日家庭の法と裁判38号64頁)でも、財産隠しをしていた当事者が、財産分与にあたり不誠実と評価されて、次のように判断されています。

「家事事件の当事者は、信義に従い誠実に家事事件の手続を追行すべき義務があるにもかかわらず(家事事件手続法2条)、一件記録によれば、抗告人による本件手続の追行は、財産隠しと評されてもやむを得ないものであって、明らかに信義に反し不誠実なものというほかはない。このことに、本件口座の同日時点の残高が440万円程度である旨の相手方の推計には相応の合理性があることを併せ考慮すれば、抗告人は、本件手続において判明していない口座を有しており、440万円から168万円余りを差し引いた金額を同口座に保管しているものと認めるのが相当である。」

以上のように裁判所に不誠実と評価され得ることから、財産隠しをすべきではありません。

隠し口座や隠し財産がありそうな時

さて、離婚に際して相手に隠し口座や隠し財産がありそうな時は、どうすればいいでしょうか。ここでは、貯金の隠し方について把握し、隠し財産を探すのに役立てていただければと思います。

貯金の隠し方5つ

それでは、具体的な貯金を隠す方法について見ていきましょう。離婚時の財産分与で、相手方配偶者が資産を隠しているかもしれない、と疑念を抱いている方は、ぜひご一読ください。

①隠し口座

まず考えられる財産隠しの方法は、共有財産とは切り離して、別の個人口座や証券口座に保管しておき、その口座の存在自体を配偶者に隠しておくという方法です。貯金を隠す個人口座として、結婚前に作ってあった個人名義の銀行口座がよく用いられます。
夫婦共有の銀行口座から個人資産を分け、別の個人口座に移すことは、一見すると追跡を避けられるように思えます。

しかし、相手方が財産調査を進めた場合、隠し財産が発見される可能性が高く、それでもなお財産がない旨主張し続けた場合には、上記裁判例のように、裁判所に財産隠しと評価され、財産分与にあたり不利に判断されるおそれがあります。

②ネット銀行で財産隠し

対面の店舗を持たず、オンラインでの取引を主軸としたネット銀行は、通帳がなく、パソコンや携帯電話で気軽に取引をできる銀行です。その手続きの手軽さから、近年では利用する人も多くなってきました。
自分の配偶者がネット銀行を利用していることを知らない場合は、その存在を発見されない可能性があります。

こういった点から、ネット銀行に預金をすると財産を容易に画することができると思われる方もいるでしょうが、実際にはネット銀行も、裁判所による調査依頼に応じて、情報を提供することがあります。

③現金(タンス預金・へそくり)

さて、ネット銀行と比べ非常にアナログな方法ですが、預貯金を現金化し、へそくりやタンス預金として隠す方法も一般的です。
現金で隠すという方法は非常に原始的に思えますが、金融機関を介さないため、取引履歴などの記録が残りません。また、弁護士会照会制度(弁護士法第23条の2)などの財産調査方法を利用しても、現金が調べられることはないため、財産を隠す有用な方法と考える人もいます。

この方法は記録に残らないから財産隠しが発覚することはないと思う方もいるかもしれませんが、口座から引き出された使途不明金が見つかるなどしたことをきっかけに、家の中を探した配偶者が現金を発見するなどして、見つかることもあり得ます。そもそも金額が高額になればなるほど、隠す場所も難しくなってきますし、盗難などのリスクも出てきます。

④隠し送金

海外に秘密の預金口座を作るなどして、そこへ送金する方法が考えられます。しかし、この方法には大きなリスクが伴います。
海外の金融機関への送金には、それ自体が違法ではありませんが、資金の出所やその使用目的が正当なものである必要があります。透明性が欠如していると、その資金が違法な活動に関連していると疑われることがあります。加えて、国際的な規制の厳格化により、海外の金融機関も顧客の身元や取引の合法性について厳しくチェックするようになっています。

また、税務調査の際にも、隠し送金は問題となりえます。税務当局は、個人の所得や資産に関する情報を入手するために、国内外の金融機関と情報共有を行っています。そのため、海外口座に資金を隠していても、税務調査でその存在が発覚する可能性があります。

⑤貸金庫

貸金庫とは、銀行や信用金庫などの金融機関が提供する、貴重品や書類などを保管するための個人用の金庫のことです。貸金庫には、さまざまなサイズや料金のものがあり、契約者は専用の鍵や暗証番号などで自由に出入りできます。
貸金庫を利用する財産隠しの方法は、相手が貸金庫に現金や貴金属、株券や債券などの財産を預けておくことです。これにより、財産の存在を知られにくくなります。

貸金庫の契約者は、財産の内容や金額を開示する義務がなく、貸金庫の利用履歴も記録されません。また、貸金庫の契約者は、自分の名義以外の人物に貸金庫を譲渡することができます。したがって、相手が貸金庫に財産を隠している場合、それを発見することは簡単ではありません。

しかし、貸金庫を利用する財産隠しの方法にも、限界があります。
銀行の貸金庫を利用することは、個人のプライバシーが保護され、一定の安全性が期待できる保管方法ですが、裁判所の手続きで内容物の調査を受けることがあり、その際には貸金庫内に隠していた貯金が発見される可能性があります。

また、貸金庫に財産を預けるには、現金や貴重品を口座から引き出す必要があります。その際に、口座の取引履歴に高額な引き落としが残っている可能性があります。
そして、普通の預金口座と異なり、貸金庫は利用者の身元が明らかになっていることが多いため、その点で貯金を隠すことは難しくなります。

離婚で財産を隠されたら

適正な離婚財産分与をしたい場合、相手方配偶者に隠し財産がないかを調べなければなりません。しかし、夫婦とはいえ、預貯金や銀行口座といった情報は保護されるべき個人情報です。たとえ離婚時の財産分与のためとはいえ、銀行にはそう簡単には情報を開示してもらえません。
そこで、少しでも財産隠しを明らかにするために、取り得る方法をご説明します。

離婚財産分与時に貯金を隠された時の対処法

①任意での財産開示を求める

まずは離婚財産分与の話し合いの中で、相手に対して、任意での財産開示を求めることになります。この際に、通帳を見せてもらうだけではなく、ネット銀行を利用していないか、現金で保管していないか、具体的に確認しておきましょう。
特に、離婚財産分与の対象は夫婦の共有財産となるため、互いの個人の特有財産と区別する意味でも、婚姻期間中に築いた資産について教えてもらえることが理想です。

②離婚調停の中で開示を請求する

相手方が任意の開示に応じない場合、離婚調停の過程で財産の開示を請求することが可能です。調停では、両者が話し合いを行いながら財産分与を含む離婚条件を決定しますが、その際に裁判所を介した公正な立場から相手方に対して財産開示を要求することができます。
調停委員や裁判所の助けを借りることで、より正確な財産状況の把握が期待できます。

③弁護士会照会を利用する

弁護士会照会制度とは、弁護士法第23条の2に基づいた、弁護士が自身の所属する弁護士会を通じて、一定の条件の下、公務所又は公私の団体に対して必要な事項の報告を求めることができる制度です。「23条照会」ともいいます。
個人ではできませんので、必ず弁護士に依頼する必要がありますが、裁判所での手続きを必要としないため、自分のタイミングで照会を利用できることがメリットです。

④裁判所の調査嘱託を利用する

裁判所による調査嘱託とは、家事事件手続法第62条に基づいて行われる調査です。
家庭裁判所が行う調査なので、弁護士照会では回答を得られなかった金融機関からも、回答を得られる可能性があります。

離婚財産分与時の財産隠しに関するQ&A

Q1.離婚の財産分与の際に、財産分与の対象となる貯金を隠す方法はありますか?

公正な離婚財産分与の実現するためには、財産隠しは推奨されない行為となります。しかし、実際には、夫婦の一方が貯金を隠すことを試みるケースがあります。貯金を隠す方法としては、以下のような方法が考えられます。

  • 貯金を現金化して、自宅や金庫などに保管する。
  • 貯金を他人名義の口座に移す。
  • 貯金を海外の口座に移す。
  • 貯金を仮想通貨などに変える。
  • 貯金を投資や事業に回す。

Q2.離婚の際に、財産分与の対象となる貯金を隠すリスクは何ですか?

財産分与の対象となる貯金を隠すリスクは、大きく分けて、法的なリスクと経済的なリスクがあります。法的なリスクとしては、以下のようなものがあります。

  • 財産分与の対象となる貯金を隠した場合、裁判所に不誠実な行為と判断されて、財産分与の判断で不利になる可能性があります。
  • 貯金を自宅や金庫、他人名義の口座に保管すると、管理が難しくなり、盗難や火災、他人の判断によって失うリスクが生じます。

Q3.貯金を隠されているかもしれません。相手の財産を把握できますか?

相手方の財産を知る方法は、次のとおりです。

  • 相手方に協力を求める。相手方に正直に貯金の情報を教えてもらうことができれば、一番簡単です。
  • 証拠を集める。相手方が貯金を隠している場合は、自分で調べたり、弁護士に依頼したりして、証拠を探す必要があります。
  • 離婚調停や離婚裁判中であれば、裁判所が公私の団体に必要な調査を委託し、その結果を求める「調査嘱託」ができます。
  • 弁護士が弁護士会を介して相手方の金融機関に対して、相手方の貯金額や口座情報の開示を要請する「弁護士会照会」ができます。

まとめ

離婚時の財産分与で、貯金や資産を隠す行為は、公平な分割を妨げるものであり、様々な方法が問題となっています。
たとえば、配偶者が共有していない秘密の口座を持っていたり、親族や友人の名義を使って資産を隠したりすることがあります。また、財産を現金化して隠す、あるいは急いで費消してしまうこともあり得ます。

しかしながら、これらの行為は法的に重大なリスクを伴います。
隠し財産が明らかになれば、裁判所がその財産を不誠実な行動と見なし、隠した額以上に相手方に有利な分与を命じることがあります。
また、経済的な面では、財産の価値が市場の変動により減少したり、管理が困難になるリスクがあり、盗難や事故による損失の危険性もあります。

離婚の際に正当な財産分与を求める場合や、隠された財産に関する疑念を解消したいときは、迷わず法律の専門家にご相談されることをおすすめいたします。
当事務所の弁護士は、離婚財産分与にまつわる法的な問題について精通しておりますので、まずはお気軽に初回無料相談をご利用ください。

この記事を書いた人

雫田 雄太

弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

 

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