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婚姻費用の計算方法|算定表の見方や算定式の内容を弁護士が解説

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。
1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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婚姻費用は、別居中の自分の生活を保持するのと同程度の生活を配偶者にも保持させるために支払うものです。この費用を決めるにあたっては、双方の経済状態や生活水準などを考慮し、慎重に金額を算定する必要があります。

ご自身の婚姻費用としていくかが妥当であるかとか、どのように金額を決めれば良いのかなど、不安を感じていらっしゃるかと思います。

本記事では、婚姻費用の計算方法を中心に解説し、どの要素をどのように考慮すべきか、計算を進める際の具体的な手順を分かりやすく説明します。さらに、計算式の詳しい内容や、基準として用いられる婚姻費用算定表についても解説いたします。
本記事をお読みいただくことで、婚姻費用の計算に関する明確な理解を得て、皆さんが抱える疑問や不安を解消する一助となりましたら幸いです。

目次

婚姻費用とは離婚前の別居中の生活費

婚姻費用とは、夫婦が別居している期間中に、一方配偶者の生活を支えるために必要な費用のことを指します。大まかにいうと、別居期間中の生活費といえるでしょう。
別居中であっても、経済的に困窮することなく、安定した生活を送ることができるように、この婚姻費用が決められるのです。
婚姻費用とは別居中の生活費|分担請求の方法や含まれるものなどを解説

婚姻費用の金額や支払い方法を定める際、夫婦双方がそれぞれの収入や必要な生活費についてしっかりと話し合うことが重要です。お互いの生活が成り立つよう、公平な解決策を目指して具体的な金額や支払い方法を決める必要があります。

しかし、話し合いだけでは納得のいく結果に至らないこともあります。そのような場合には、「婚姻費用分担請求調停」という手続きを利用することになるでしょう。
この婚姻費用分担請求調停は家庭裁判所で行われます。中立の立場の専門家である調停委員が夫婦双方の状況を把握し、適切な金額や支払い方法について、取り決めがなされることになります。
婚姻費用分担調停とは?必要書類や申立て方法、流れなどを解説

婚姻費用分担請求調停では、夫婦双方の収入や生活費、子どもの状況などが考慮され、公平な婚姻費用が決められます。基本的には、後述する「婚姻費用算定表」を参考にしながら、具体的な事情を考慮した上で、具体的な金額を話し合って決めていくことになります。

合意に至れば、その内容に基づいて婚姻費用の支払いが行われますが、合意が難しい場合は裁判に移行することも考えられます。裁判は時間と費用がかかってしまい、その間、婚姻費用が支払われない可能性もあることから、できる限り避けたいところです。

婚姻費用について、夫婦のお互いが納得し、日常生活を送る上での負担が公平になるよう、婚姻費用の金額と支払い方法を設定することが重要です。

【最新版】婚姻費用算定表

さて、婚姻費用分担請求調停の中で、婚姻費用の金額を定める際に参照される表があります。本記事の冒頭でも名称が出てきました、「婚姻費用算定表」です。

金額は婚姻費用算定表に基づいて算出されます

婚姻費用算定表は、夫婦が離婚もしくは別居する際に、互いの収入に応じた適切な生活費の分担金額を計算するための指針として用いられる表のことです。婚姻費用の他、養育費についても記載されているため、「養育費・婚姻費用算定表」とも言います。

養育費・婚姻費用算定表は、裁判所のホームページに公開されておりますので、誰でも閲覧が可能です。最新版は令和元年版で、東京や大阪の家庭裁判所の裁判官らによる「養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究」の結果、公表されたものとなっています。
【参考:養育費・婚姻費用算定表

養育費・婚姻費用算定表の見方について解説します。縦軸には、婚姻費用の支払い義務を負う側(義務者)の年収、横軸には、婚姻費用や養育費を受け取る側(権利者)の年収が記載されています。
これらの年収は給与所得者と自営業者とで分けられており、収入の種類によって異なる算定基準が用いられます。

義務者と権利者の年収が交差する地点に記載されている金額が、婚姻費用の目安となります。この金額は1万円から2万円の範囲で設定されており、夫婦の具体的な収入状況に応じて選定されます。
加えて、養育費・婚姻費用算定表は、子どもがいる場合といない場合とで異なります。子どもがいる場合には、さらにその人数や年齢によって計算方法が変わってきます。子ども一人当たりの養育費もこの表を利用することで計算することが可能です。

婚姻費用は、夫婦のお互いが納得がいく形で、その金額や支払い方法について決めることが重要です。そのため、話し合いで養育費・婚姻費用算定表の金額よりも多い金額で合意することも、少ない金額で合意することも可能ではあります。しかし、一般的には、養育費・婚姻費用算定表に示された範囲内での金額を決定することが公平であるとされています。算定表による算定に納得ができないときには、まずは弁護士に相談されることをお勧めいたします。

婚姻費用の具体的な計算方法

それでは、養育費・婚姻費用算定表を用いて、具体的にどのように計算すればいいのか、見ていきましょう。

1.参照する算定表を選ぶ

婚姻費用に関する算定表は、夫婦のみの場合、および子の人数(1~3人)及び年齢(0~14歳と15歳以上の2区分)に応じて、表10~19に分かれています。まずは、家族構成に応じて、自分が参照する表を選びます。

2.夫婦それぞれの年収を算出する

まず、婚姻費用を支払う側(義務者)と受け取る側(権利者)の年収をそれぞれ算出します。

① 給与所得者の場合

基本的には直近の「源泉徴収票」に記載されている「支払金額」が、その人の年収にあたります。

源泉徴収票記載の収入額は前年のものですが、現収入と明らかに異なる場合でない限り、源泉徴収票により決めます。

これに関連してよくある主張として、今年の残業手当が減少するから前年の収入ではなく今年の収入により婚姻費用を計算したいというものです。

多くの主張は、単なる予想の域を出ることはないと判断されることが多いです。そのため、説得的な主張にするためには、残業手当の基本給に対する割合が著しく大きいことや、いわゆる働き方改革等によって、残業時間が減少し、将来もその傾向が継続する蓋然性が高いことを主張・立証することになります。

なお、複数の収入源がある場合は、市町村発行の所得証明書、税額決定通知書又は課税台帳記載事項証明書によって年収を決定します。

これは、所得税・住民税・社会保険料などの税金が引かれる前の金額です。手取りの金額ではありませんので、注意してください。

なお、給与明細だけを見て計算しようとすると、一ヶ月分の収入しか分かりませんし、歩合給やボーナスが含まれていない場合もありますので、抜け漏れのないよう注意が必要です。

また、確定申告していない収入がある場合は、その分を加えて計算してください。

② 自営業者の場合

確定申告書に記載されている「課税される所得金額」が年収にあたります。この金額は、税法に基づいて様々な控除が適用された結果です。
ただし、実際には支出していない費用(①雑損控除②寡婦、寡夫控除③勤労学生、障害者控除④配偶者控除⑤配偶者特別控除⑥扶養控除⑦基礎控除⑧青色申告特別控除)は加算した上で、年収とすることになります。また、専従者給与の合計額も、現実に支払いがされていない場合には、加算されますし、医療費控除、生命保険料控除、損害保険料控除については、特別経費で考慮されることから、加算した上で、年収とすることになります。

なお、自営業者の場合、税額を抑えるために経費が水増しされている例もないわけではないので、必要経費を検討しなければならないこともありえます。

③ 児童扶養手当等に関して

児童扶養手当や児童手当は、子どもの福祉のために国や地方自治体から支給される社会保障給付の一種です。これらの手当は、子どもの生活費を補助する目的であるため、権利者の年収には含まれません。
したがって、年収にはこれらの手当の金額を加算しないようにしましょう。

3.年収と表から金額を算出する

 

子ども2人で、2人とも14歳以下の場合

 

子どもの数と年齢に基づいて選んだ表の中で、権利者と義務者の所得の部分を、給与所得者と自営業者のどちらかに該当する方を選んでください。
義務者(婚姻費用を支払う側)の年収を縦軸で探し、その点から横に線を引きます。次に、権利者(婚姻費用を受け取る側)の年収を横軸で探し、その点から縦に線を引きます。この二本の線が交わる場所に記載されている金額が、義務者が支払うべき養育費の目安となる婚姻費用の月額です。

なお、養育費の計算表では、支払う親の年収が低いケースでは1万円、それ以外のケースでは2万円という幅を設けて金額を表示しています。
一方で、婚姻費用の計算表では、支払い分担金額について、1万円から2万円という範囲で設定されています。

生活費指数を使った婚姻費用の計算式

さて、以上の方法は、子どもの数や年齢といった家族構成が、養育費・婚姻費用算定表に記載されている場合に、簡単に婚姻費用の金額が分かるやり方です。
そのため、子どもが5人いるとか、年収が2000万円以上あるなど、養育費・婚姻費用算定表が単純に早見表として使えないようなケースでは、考え方はいくつかありますが、そのうちの一つを紹介します。具体的には、次の計算式を使って婚姻費用などの金額を計算していくことになります。

1.夫婦それぞれの基礎収入を算出する

まずは夫婦双方の基礎収入を算出します。養育費・婚姻費用算定表を用いる場合と、基本的な考え方は同じですが、算定表を使う場合は「年収」を算出したのに対して、計算式を使う場合は「基礎収入」で計算します。

基礎収入を簡単に言うと、実際に生活費として使用可能な金額のことです。
給与所得者であれば、年収から所得税、住民税、社会保険料などを控除した金額が基礎収入となり、自営業者の場合は、年収から所得税、住民税、国民健康保険料などを控除した金額が基礎収入となります。

実務では通常、個別に社会保険等の金額を計算して控除するのではなく、収入に応じて決まっている割合を使って基礎収入を計算します。
たとえば、給与取得者の場合は以下のような基礎収入割合になります。なお、総収入が2000万円以上の場合には、基礎収入割合を個別に算定することがあります。そのような場合には、弁護士に相談されることをお勧めいたします。

総収入 基礎収入割合
0~75万円 54%
~100万円 50%
~125万円 46%
~175万円 44%
~275万円 43%
~525万円 42%
~725万円 41%
~1,325万円 40%
~1,475万円 39%
~2,000万円 38%

2.権利者世帯に分配されるべき婚姻費用を計算する

次に、権利者(婚姻費用を受け取る側)に配分されるべき婚姻費用の金額を「生活費指数」を使って計算していきます。
生活費指数とは、その人に割り当てられるべき生活費の割合です。
権利者と義務者はそれぞれ100とされ、14歳以下の子どもは62、15歳以上の子どもは85とされています。

そして、計算式は以下の通りです。
権利者世帯に配分される婚姻費用=(権利者の基礎収入+義務者の基礎収入)×(100+子の生活費指数の合計)÷(200+子の生活費指数の合計)

※100は権利者の生活費指数であり、200は権利者・義務者の生活費指数の合計です

※子の生活費指数は子全員分の合計で計算します

3.義務者の負担分を計算する

上記の生活費指数を使って計算した金額を基に、義務者の負担する婚姻費用の月額を計算します。
権利者に収入があれば、権利者世帯に配分されるべき婚姻費用の全額を義務者が負担する必要はないため、権利者の基礎収入で賄える分は控除することになるのです。

計算式は、こちらです。
義務者の負担する婚姻費用の月額=(権利者世帯の婚姻費用-権利者の基礎収入)÷12

婚姻費用の計算事例

具体例①:14歳以下の子どもが4人の夫婦の場合

それでは、実際にどういった計算になるか、具体例を挙げてみましょう。
権利者の基礎収入150万円、義務者の基礎収入800万円、14歳以下の子どもが4人いる家庭では次の計算になります。

権利者世帯に配分される婚姻費用=(権利者の基礎収入+義務者の基礎収入)×(100+子の生活費指数の合計)÷(200+子の生活費指数の合計)

  • 権利者の基礎収入(660,000円)=1,500,000円×44%
  • 義務者の基礎収入(3,200,000円)=8,000,000円×40%
  • 子の生活費指数(248)=62×4人

権利者世帯に配分される婚姻費用=(660,000+3,200,000)×(100+248) ÷ (200 +248)
=3,860,000×348÷448
=2,998,392円

次に、義務者の負担する婚姻費用の月額を計算します。
義務者の負担する婚姻費用の月額=(権利者世帯の婚姻費用-権利者の基礎収入)÷12

  • 権利者世帯の婚姻費用=2,998,392円
  • 権利者の基礎収入=660,000円

したがって、権利者の基礎収入を控除すると以下の金額になります。
義務者の負担する婚姻費用の月額=(2,998,392円-660,000円)÷12
=2,338,392円÷12
=194,866円

この家庭のケースでは、月額約19万円の婚姻費用を義務者が権利者に支払うべきである、という計算結果となりました。

具体例②:14歳以下の子どもが2人、15歳以上の子どもが2人の夫婦の場合

権利者の基礎収入150万円、義務者の基礎収入800万円、12歳の子どもが1人、15歳の子どもが1人、18歳の子どもが1人いる家庭では次の計算になります。

権利者世帯に配分される婚姻費用=(権利者の基礎収入+義務者の基礎収入)×(100+子の生活費指数の合計)÷(200+子の生活費指数の合計)

  • 権利者の基礎収入(660,000円)=1,500,000円×44%
  • 義務者の基礎収入(3,200,000円)=8,000,000円×40%
  • 子の生活費指数(294)=62×2人+85×2人

権利者世帯に配分される婚姻費用=(660,000+3,200,000)×(100+294) ÷ (200 +294)
=3,860,000×394÷494
=3,078,623円

次に、義務者の負担する婚姻費用の月額を計算します。
義務者の負担する婚姻費用の月額=(権利者世帯の婚姻費用-権利者の基礎収入)÷12

  • 権利者世帯の婚姻費用=3,078,623円
  • 権利者の基礎収入=660,000円

したがって、権利者の基礎収入を控除すると以下の金額になります。
義務者の負担する婚姻費用の月額=(3,078,623-660,000)÷12
=2,418,623÷12
=201,551円

この家庭のケースでは、月額約20万円の婚姻費用を義務者が権利者に支払うべきである、という計算結果となりました。

 

Q&A

Q1.婚姻費用を計算する際に必要な情報は何ですか?どのような項目が支出として考慮されますか?

婚姻費用を計算するためには、夫婦双方の年収などの情報が必要です。
また、生活費の詳細(食費、住居費、光熱費、通信費、交通費、保険料、医療費、教育費、娯楽費など)や子どもの教育費、習い事費用など、日常生活を送る上で必要な費用が、婚姻費用を計算する上で支出として考慮されます。

Q2.婚姻費用の計算方法は法律で厳密に定められていますか?

いいえ。具体的な計算方法が法律で厳密に定められているわけではありません。

婚姻費用について定めた条文は、民法760条です。そこには、「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。」と定められている他に、具体的な計算方法までは記載されていません。

もっとも、法律上、計算方法が定められていないからといって、参考とするものが一切ないわけではありません。

実務上は、「養育費・婚姻費用算定表」を参考にして、婚姻費用を決定することが一般的です。

Q3.婚姻費用の計算結果に納得がいかない場合、どのように対応すべきですか?

婚姻費用の計算結果に納得がいかない場合は、再計算を求めるか、弁護士に相談して法的な手続きを進めることができます。
双方の経済状況や子どもの養育費の必要性に変更があった場合、裁判所に申し立てて婚姻費用の額を見直してもらうことも可能です。
養育費・婚姻費用算定表による簡単な計算では、その夫婦や家庭に特殊な事情などを考慮していないため、きちんと納得のいく計算方法によって、婚姻費用の金額を計算するようにしましょう。

婚姻費用の計算に関するお悩みは弁護士にご相談ください

この記事を通して、「婚姻費用の計算」に関する基本的な情報と、計算を進める上で必要な項目などについて、理解を深めていただけたのではないでしょうか。
婚姻費用の計算にあたっては、算定表を参考にしますが、夫婦の具体的な事情をもとに修正して具体的な金額を算出することもあり得ます。そのため、婚姻費用の具体的な額について、しっかりと決めたい場合には、弁護士に相談ください。

納得のいく婚姻費用を決定するためには、収入や支出などの情報を正しく理解し、それをもとに計算を進める必要があります。そして、計算結果に疑問を感じた場合には、専門家と一緒にその原因を探り、解決策を模索することが大切です。

婚姻費用の計算や内容は、夫婦双方の話し合いによって合意するのが理想的ですが、ときには裁判所の判断を求めることになるケースもあるでしょう。
そのようなときには、お気軽に当法律事務所の弁護士にご相談ください。

この記事を書いた人

雫田 雄太

弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

 

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。

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