育児うつの症状をチェック|子育てでノイローゼになる原因とは?
育児は喜ばしい事であると同時に、多くの責任とストレスをともなう事でもあります。特に初めての子ども・初めての子育てである場合は、ライフスタイルの変化や仕事との両立、慣れない育児に疲れ、しばしば心身に不調を引き起こすことがあります。
育児に関連する疲れやストレスからうつ病になった場合、周囲のサポートを受けてうつ病の症状を改善できれば良いのですが、中には自分ひとりで不安やストレスを抱え込んでしまう人もいます。
特に、昨今はSNSが発達し、育児やライフハックを発信する母親も増え、自分の子育てと他人の子育てとを比較する機会が増えています。そのため、「あの人よりも子どもの成長が遅れがちなのは、自分の育児が悪いんだ」などと思い込み、うつ病になりやすかったり、うつ病の症状が悪化してしまいやすい環境でもあるのです。
本記事では、育児うつの原因や症状、対処方法について解説いたします。ご参考になりましたら幸いです。
目次
育児うつとは
育児うつとは?産後鬱・ノイローゼとの違い
育児うつとは、医学的に明確な定義はありませんが、一般的には育児に関するストレスなどが原因で引き起こされるうつ病のことをいいます。
育児うつと似ているものに、産後鬱や育児ノイローゼ、マタニティ・ブルーといった言葉があります。
マタニティ・ブルーは、出産後に気分が不安定になる抑うつ症状です。出産後10日以内に症状が現れ、多くの場合は2週間程度で症状がおさまります。
産後鬱とは、出産後の急激なホルモンバランスの変化から、気分の落ち込みや不眠、うつ症状になることです。出産後の女性の10~15%程が産後鬱になると言われており、珍しい症状ではありません。前述のマタニティ・ブルーが長引くと、産後鬱に移行することがあります。
また、産後鬱の多くの場合は数週間から数ヶ月で症状が改善し、長くても1年程で症状がおさまるとされています。
育児ノイローゼとは、育児によるストレスを原因とする心身の不調です。産後鬱が出産後すぐに発症するのとは異なり、育児ノイローゼは出産後1年以上経ってから発症することもあり、その症状も長く続くなど、育児をしている間であればいつでも発症する可能性があります。
育児ノイローゼは育児うつと似ていますが、一般的に、症状の軽いものを育児ノイローゼと呼び、症状の重いものを育児うつと呼ぶとされています。
なお、メディアなどでは産後鬱のことを育児ノイローゼと表現したり、育児うつのことを育児ノイローゼと表現したりすることも多く、実は産後鬱と育児ノイローゼ、育児うつの違いは、医師の考え方によってもさまざまです。
ですが通常は、産後のホルモンバランスの変化を原因とするものが産後鬱、育児のストレスを原因とするものが育児ノイローゼや育児うつ、と考えられています。
育児うつの原因は子育ての不安や仕事との両立のストレス、肉体的疲労
育児うつの原因は、子育てに対する不安感や、家事や育児をこなす中での肉体的疲労、生活環境により生じるストレスなど、多岐に渡ります。
1.身体的な疲労感など
育児うつの身体的原因として、出産後のホルモンバランスの急激な変化が挙げられます。エストロゲンやプロゲステロンなどのホルモンは出産を経て大きく変動し、これが情緒不安定やうつ症状を引き起こすことがあります。
また、赤ちゃんの夜泣きや授乳によって十分な睡眠が取れないことも、育児うつの一因となります。睡眠不足が続くと、体力や精神力が低下し、うつ状態に陥りやすくなるのです。
さらに、出産は女性の体に大きな負担をかけるため、産後の回復期間に体調不良を感じることがあり、これがストレスとなってうつ症状を引き起こすこともあります。
そして、近年は既婚の女性も仕事をする家庭が増えたため、共働きの夫婦が珍しくありません。仕事と家事と育児を両立しなければならず、慣れない育児に手間取り十分に休息も取れないことから、多大なストレスを受け、育児うつとなってしまうケースも少なくありません。
2.精神的なストレス
育児うつの原因は肉体的ストレスだけでなく、精神的ストレスもあります。
育児に自信が持てなかったり、理想と現実のギャップに悩んだりすることで、自己肯定感が低下し、うつ状態に陥ることがあります。SNSが発達して他者との比較が容易になった昨今、特にこれは顕著です。
また、育児に追われて社会的な交流が減り、孤独感や孤立感を感じることも、うつ症状の原因になることがあります。さらに、子ども時代の虐待や家庭内の問題など、過去のトラウマが育児中に再燃し、うつ症状を引き起こすこともあります。
このほか、子育てのプレッシャーや知識・経験不足からくる不安感も、育児うつの重要な精神的原因となります。これらの不安やプレッシャーが積み重なることで、精神的な負担が増大し、うつ状態に陥る可能性があります。
3.生活環境・周囲のサポート
育児を妻がほぼ全て担っており、夫からのサポートが得られないなど、家庭の生活環境が育児うつの原因となる場合もあります。
また、子育てにかかる費用や将来の経済的な不安がストレスとなり、うつ状態に陥ることがあります。
さらに、周囲のサポートを得られるかどうかも大きな要因です。家族や友人、地域社会からの支援が十分でない場合、孤立感が増し、育児の負担が一層重く感じられることがあります。このような環境的な要因が、育児うつの発症に大きく影響を与えることがあるのです。
育児うつ病の症状(自律神経失調症、不安障害など)
育児うつは、ストレスに起因するさまざまな心身の不調が症状となって現れます。
一般的には、気分の落ち込みや無気力が続いたり、イライラして怒りの感情が現れやすくなったりします。こうした感情は、日常的な家事・育児にも影響を及ぼし、子どもへの関心が薄れたり、育児に対する意欲が低下したり、子育てができなくなったりするなどといった症状につながることがあります。
また、育児うつによる精神的なストレスは、自律神経失調症の原因となることもあります。
自律神経失調症とは、自律神経のバランスが崩れることによって引き起こされる症状です。自律神経には交感神経系と副交感神経系があり、通常はこの2つの自律神経がバランスを取って機能しています。この自律神経の働きが乱れると、頭痛やめまい、胃腸の不調、不眠などの身体的な症状が現れます。
育児うつが原因で自律神経失調症に陥ると、育児の負担感がさらに増し、うつ状態が深刻化する可能性があるのです。
さらに、育児うつは、不安障害を引き起こすこともあります。これは、極度の不安や恐怖が常につきまとう状態で、育児に関して常に過剰に心配して不安に襲われたり、パニックになったり発作が起きるなどの症状が現れます。
不安障害によって、育児に関する些細な問題に対しても過剰に反応してしまい、日々の生活がさらに困難になることがあるのです。
育児うつの主な症状を一覧にしてみますと、次の通りです。
育児うつの症状
- 気分が落ち込む。憂鬱になる。
- 無気力になる。何に対しても興味を失う。
- イライラする。怒りの感情が増加する。
- 子どもに対する関心が薄れる。
- 育児への意欲が低下する。
- 些細な事にも不安を感じる。過度に心配する。
- 疲れやすい。全身がだるい。
- 睡眠リズムが乱れる。眠れない夜が続く、または眠りすぎる。
- 食欲がなくなる、または過食に走る。
- 集中力が落ちる。物忘れが増える。
- 自分自身を低く評価する。自分を否定する。
- 孤立感を感じる。支援を求めることが難しいと感じる。
- 動悸がする。めまいを感じる。
- 自殺を考えることがある。自傷行為をすることがある。
こうした育児うつの症状は、心身ともに深刻な影響を及ぼしかねないため、早期の対処や適切な治療が重要です。気分の落ち込みや不安、身体的な不調が続く場合は、カウンセリングを受けたり医療機関を受診することをおすすめいたします。
子育てに疲れてない?特徴や症状をセルフチェック
夫にとっても妻にとっても、子育てで不安になる事はたくさんあるでしょう。そのため、育児うつの症状が現れても、「産後すぐに生活が変わって、慣れない育児で疲れているだけだ」と見逃してしまっていることが少なくないかもしれません。
ですが、育児うつの症状が出ている場合、自己判断で病院も受診せず放置してしまうと、育児うつの症状が悪化し、長期に渡って日常生活に影響を及ぼす恐れもあります。
下記の通り、育児うつの症状や特徴をセルフチェックできるよう、簡単なチェックリストを作成いたしました。当てはまる項目が多ければ多いほど、育児うつの状態にある可能性が高まります。
なお、育児うつといえば、女性がなるものという認識が一般的ですが、男性も育児うつになることがあります。そのため、チェックリストも妻・女性向けのチェックリストと、夫・男性向けのチェックリストを作成いたしました。
参考程度にご活用いただき、可能であれば病院などの適切な窓口にご相談いただければと思います。
【妻・女性向けセルフチェック】
□ 最近、ほとんどの時間で気分が沈んでいる。
□ 趣味やおしゃれに対する興味が失われている。
□ イライラしやすく、些細なことで怒りがこみ上げる。
□ 子どもや夫に対する愛情や関心が薄れているように感じる。
□ 常に疲労感があり、休んでも回復しない。
□ 睡眠の質が悪く、夜中に何度も目が覚める。夜なかなか寝付けない。
□ 食欲がなくなったり、逆に食べ過ぎてしまったりする。
□ 物事に集中できず、忘れっぽくなっている。
□ 自分自身を否定的に捉えてしまい、自信が持てない。
□ 友人や家族との交流を避けるようになった。
□ 心臓が不安でドキドキすることが多い。
□ 体重が急激に増えたり減ったりする。
□ 頭痛や肩こりが頻繁に起こる。
□ 日中よりも夜の方が気分が良いことが多い。
□ 自分のことを「悪い母親だ」と思ってしまう。
□ 子どもを叱った後、強い罪悪感に苛まれる。
□ 悲観的な考えが頭を離れない。
□ 生きる意味を見出せず、絶望感に襲われる。
□ 人と会うことが億劫で、外出を控える。
□ 育児の責任が重く感じ、逃げ出したいと思うことがある。
【夫・男性向けセルフチェック】
□ 最近、気分がずっと沈んでいるように感じる。
□ 仕事や趣味への興味・関心が薄れてきた。
□ 小さなことでイライラし、怒りやすくなっている。
□ 妻や子どもに対する愛情が感じられなくなってきた。
□ 体が重く、いつも疲れている感じがする。
□ 睡眠が浅い、または寝つきが悪い。
□ 食欲がない、または食べ過ぎてしまう。
□ 集中力がなく、物事を忘れやすくなった。
□ 自分に対する自信がなく、自己評価が低い。
□ 友人や同僚との付き合いを避けるようになった。
□ 胸が不安でドキドキしたり、手に汗をかくことが多くなった。
□ 急に体重が増えたり減ったりする。
□ 頭痛や背中の痛みが頻繁に起こる。
□ 未来に対して不安を感じ、希望が持てない。
□ 育児や妻との関係性のことで自分を責めてしまう。
□ 子どもを叱った後、強い罪悪感に襲われることがある。
□ 気持ちが暗く、ネガティブな考えが頭を占める。
□ 自分の存在意義を見出せず、絶望的な気持ちになることがある。
□ 人とのコミュニケーションを避け、引きこもりがちになる。
□ 育児のプレッシャーを感じすぎて、逃げ出したくなることがある。
このチェックリストは、自身の状態を確認するためのものであり、専門家の診断に代わるものではありません。心当たりのある項目が多い場合は、医師や専門家に相談してください。
【育児うつの治し方・対処方法】適切なサポートを受けましょう
病院は何科を受診すればいいの?
育児うつの症状が複数の科にまたがる場合や、どの科を受診すべきか迷う場合は、まず内科で相談し、必要に応じて適切な科への紹介を受けると良いでしょう。内科では、疲労感、倦怠感、食欲不振、不眠などといった個別の症状に対して、薬を処方してもらえます。
対症療法にはなりますが、不眠や頭痛で日常生活に著しく支障が出ているような場合には、まずはそうした症状を改善していくことで、育児うつになる前の日常生活のリズムを取り戻すことが期待できます。
育児うつだというはっきりした自覚がある場合や、カウンセリング相談などで育児に関する不安感やストレスを軽減させたい場合、内科のほかに、精神科や心療内科で診断を受けることをおすすめいたします。
精神科は、うつ病、統合失調症、双極性障害など、精神疾患全般を扱う診療科です。重度のうつ症状や自傷行為、自殺念慮がある場合など、精神的な症状が深刻な状態にあるときに受診することが推奨されます。精神科では、薬物療法や精神療法など、さまざまな治療手段を用いて、精神的な健康の回復を目指します。
心療内科は、精神科と同様に心の問題を扱いますが、ストレスや心身症、軽度から中等度のうつ病など、精神的な側面と身体的な側面が密接に関連している状態に特化しています。心療内科では、薬物療法のほか、カウンセリングや心理療法を通じて、心のバランスを整えるアプローチが行われます。
精神科と心療内科の違いは、扱う疾患の範囲や治療方法にあります。精神科はより幅広い精神疾患を扱い、重度の症状に対応することが多いです。一方、心療内科は、心と体の両方に影響を及ぼす症状に焦点を当て、軽度から中等度の症状やストレス関連の問題に対処します。
育児うつの症状や程度に応じて、これらの科の受診を検討することが育児うつの治療には効果的です。必要に応じて、医師は他の専門科への紹介や、カウンセリングセンターなど外部の支援機関との連携を提案することもあります。
また、医療機関はハードルが高い場合は、地域の保健センターや子育て支援センターなどで相談することも一つの手段です。
薬で治療できる?
育児うつの治療には、抗うつ薬や睡眠薬が処方されることがありますが、薬物治療だけでは根本的な解決ができないことがあります。
育児うつの原因は、育児に関連するストレスや心身の疲労ですから、まずはこうした原因を取り除かなければ、状況が改善されません。
そのため、カウンセリングなどの心理療法を取り入れたり、夫婦で話し合ってお互いにサポートし合うよう生活を見直したり、睡眠や食事などの生活習慣を改善していく必要があります。
そして、育児うつになったり深刻化させないために、次の対処方法を心がけていただければと思います。
対処方法1.自分の時間を確保する
育児から一時的に離れ、自分だけの時間を持つことが大切です。趣味やリラクゼーション、友人との交流など、心をリフレッシュできる活動を行いましょう。パートナーや家族の協力を得て、定期的に自分の時間を設けることが重要です。
対処方法2.十分な睡眠を取る
質の良い睡眠は、心身の健康維持に欠かせません。夜間の授乳や夜泣きに対応するため、昼間の短い休息を取るなど、工夫して十分な睡眠を確保しましょう。睡眠不足は、感情のコントロールを難しくし、育児うつのリスクを高めます。
対処方法3.他の人の育児・子育てと比較しない
SNSや周囲の人と自分の育児スタイルを比較することは、ストレスの原因となります。他人の見せる姿は一部分に過ぎず、完璧な親など存在しないことを認識しましょう。自分と家族に合った育児を行うことが大切です。
対処方法4.第三者に相談する
育児の悩みや不安を一人で抱え込まず、家族や友人、専門家に相談しましょう。特に心療内科やカウンセリングセンターでは、育児うつに関する専門的なアドバイスやサポートを受けることができます。地域の保健センターや子育て支援センターも、情報提供や相談窓口として活用できます。
これらの対処方法を実践することで、育児うつの予防や症状の軽減につながります。自分の心と体の状態に注意を払い、必要に応じて適切な支援を求めることが重要です。
Q&A
Q1.育児うつとは何ですか?
育児うつとは、医学的に明確な定義はありませんが、一般的には育児に関するストレスなどが原因で引き起こされるうつ病のことをいいます。産後鬱などと似ていますが、産後鬱は出産後すぐに症状が発症して長くても1年程でおさまるのに比べ、育児うつは育児をしている間はいつでも発症する可能性があります。
Q2.育児うつになる原因は何ですか?
育児うつは、出産後のホルモンバランスの変化、睡眠不足、自己肯定感の低下、孤独感、育児負担の偏り、経済的な不安など、身体的、精神的、環境的な要因が複雑に絡み合って生じます。
Q3.育児うつにはどういった症状がありますか?
育児うつになると、気分が落ち込み、無力感に襲われるなどの精神的な症状があり、こうした症状は日常的な家事や育児にも影響を及ぼし、子どもへの関心の低下や育児への意欲の減少といった症状につながることがあります。
また、育児うつは自律神経失調症や不安障害を引き起こすこともあります。頭痛やめまい、動悸を引き起こしたり、胃腸の不調、睡眠障害、パニック発作といった症状が現れることもあります。
これらの症状は育児の負担感を増し、うつ状態を深刻化させる可能性があるため、注意が必要です。
専門家にご相談ください
日本では「うつ病」という言葉に対してネガティブな印象もあり、うつ病であることを恥ずかしい、隠したい、と思う人は少なくありません。
ですが、育児うつ・育児ノイローゼは、誰にでも起こり得る症状です。診断を受けることをためらわず、心療内科や精神科などになるべく早期にご相談いただき、適切なサポートや治療を受けていただくことをおすすめいたします。
また、育児うつに関する悩みや、法的なサポートが必要な場合は、弁護士にご相談いただければと思います。当法律事務所では初回相談を無料とさせていただいておりますので、ぜひお気軽にご利用ください。
この記事を書いた人
雫田 雄太
弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。