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離婚公正証書とは?養育費などの決めること・作成の流れを弁護士が解説

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。
1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

弁護士法人あおい事務所の離婚専門サイトをご覧いただき、ありがとうございます。
当サイトでは、離婚に関する法的な知識を分かりやすくお届けしております。皆様のお悩みの解消に少しでもお役立ちできましたら幸甚です。

離婚をするにあたって重要なのが「公正証書」です。公正証書は、公務員である公証人がその権限に基づいて作成する公文書です。離婚時にする公正証書では、離婚における合意内容を明文化し、公文書とすることができるのです。公正証書を作成することで離婚協議を円滑にし、養育費の未払いといった将来のトラブルを最小限に抑えるためにも、公正証書の活用は大変重要です。

そんな公正証書の作成手続きの流れや、記載すべき具体的な内容について、弁護士が本記事で詳しく解説していきます。本記事を通じて、離婚を検討している方が公正証書についての理解を深め、より良い離婚手続きを進められましたら幸いです。

目次

離婚公正証書とは何ですか?

 

離婚公正証書とは何ですか?

 

離婚を考える際、「慰謝料や財産分与の請求が後から来るのではないか」、「子どもの養育費はちゃんと支払われるのか」などといった不安を抱く方は少なくありません。
そんな離婚時の疑問や心配を減らし、安心して離婚できるようにするために、離婚公正証書が活用されています。

公証役場で作成される文書

離婚公正証書は、公証人という法的な業務を行う専門家である公務員の立会いの下で作成されます。
公証人は、裁判官、検察官、弁護士といった、長年にわたって法律関係の仕事をしていた人の中から、法務大臣によって任命された専門家です。
公証人は、離婚公正証書の作成はもちろん、私文書の認証や遺言の保管など、さまざまな重要な法的文書に関する業務を行います。

そんな公証人が作成する離婚公正証書は、「離婚給付等契約公正証書」とも呼ばれます。
離婚公正証書には、離婚に際しての財産の給付に関する情報を中心に記載されることが多いです。

その具体的な内容は離婚の合意だけにとどまらず、子どもの親権や養育費の取り決め、慰謝料の支払い額、夫婦間の財産分与に関する詳細など、離婚に関わる多岐にわたる事項を明確に定めることができます。

注意していただきたいのは、公証人が条項を一から考えるということは基本的にはなく、合意に至った養育費の取り決めなどを公文書にする役割を担っているということです。

離婚公正証書の特徴は強い法的効力

離婚公正証書の最大の特徴は、単なる離婚協議書よりも、はるかに強い法的効力を持つといった点です。相手が離婚公正証書に記載された約束事を遵守しない場合に、強制執行をすることができるのです。

たとえば、養育費や慰謝料の支払いについての合意が離婚公正証書に締結されていれば、支払いが滞った場合、債権者は裁判所への申し立てなしに、債務者である相手の資産(銀行の預貯金、不動産など)を直接差し押さえることが認められます。
このような強制執行の機能によって、もし約束を守らない相手がいたとしても、裁判手続きを経ることなく、迅速かつ効果的に、お金を回収することが可能となります。
これにより、離婚後の義務の履行の不確実性や、将来的なトラブルを大幅に減少させることが期待されるため、少なくない夫婦が、離婚公正証書の制度を利用しています。

ただし、強制執行の適用を受けるには、離婚公正証書に記載されている支払い額が、明確になっていることが必要となります。
たとえば、「給料の半分を毎月支給する。」などのような、明確な金額の記載がない離婚公正証書では、強制執行をすることはできなくなってしまいます。
強制執行が可能な離婚公正証書を作成するにあたっては、正確な支払額やその支払い期日、支払方法などの詳細を、明確に記載することが重要です。

しかし、お金に関する取り決め以外のものについては、離婚公正証書による強制執行はできません。たとえば、不動産や自動車の所有権の移転といった手続きに関しては、強制執行の対象外となります。
もちろん、離婚公正証書の中で、不動産や自動車の所有権の移転について取り決めておくこと自体は問題ありません。ただし、その所有権移転の手続きなどが実施されなかった場合に、離婚公正証書では強制執行の措置を取ることができないため、ご注意ください。

また一方で、離婚公正証書は、支払いを受ける側だけでなく、支払う側にとってもメリットがあります。離婚公正証書で明示的に示された金額を超えた金額の支払い要求のリスクを避けられるますし、義務が明確になっているため、「この離婚条件で合意した・合意していない」といった水掛け論になることもありません。
支払いの義務を負う側にとっても、離婚後の生活設計に安心感をもたらすことができ、トラブル防止が期待できるのです。

以上にご説明した通り、公正証書の活用は、離婚後の金銭面での問題を予防し、お互いの新しい生活への第一歩を安心して進めるための大切な方法ということができます。
さらに、離婚公正証書の正本は公証役場にて保管され、夫婦それぞれが所持する謄本等を紛失した場合も、公証役場で再交付を申請することが可能です。そのため、紛失や破損といったリスクがない点も、公正証書の長所と言えるでしょう。

離婚公正証書があれば絶対に安心できる?

ここまで読まれた方は、「離婚公正証書があれば、離婚後も絶対に安心だ。」と思われるかもしれません。離婚公正証書は、夫婦間での約束や離婚条件を、正確に記録しておくための書類です。離婚公正証書を使うと、離婚の際の細かい取り決めが、法的な効力と強制力によって担保されます。

ただし、離婚公正証書を作るときには注意が必要です。なぜなら、一度作成した離婚公正証書を後から変更するのは、大変なことだからです。
知らないうちに不利な条件を書き入れて合意してしまうと、後からそれを変えるのが難しくなります。離婚公正証書を作成した後になって、「あれ?これってこんなはずじゃなかった。」などとならないように、よく確認することが大切です。

さらに、離婚で決めること、たとえば、子どもの養育費や財産の分け方など、お金の問題に関しては、非常に大きな金額になることも想定されます。ですので、将来的に支払われる金額・支払わなければいけない金額をきちんと計算して、夫婦の双方が納得できるかどうか、そして、将来的にも実際に支払えるかどうか、よく話し合っておく必要があります。

もし、公正証書を作った後で何か問題があれば、再び話し合いをするか、話し合いでの合意が難しければ、裁判所での調整が必要になることもあります。ですので、最初からしっかりと話し合って、公正証書には明確で具体的な内容を書き入れるようにしましょう。

離婚公正証書はとても役立つ制度ですが、使い方を間違えると問題が起きることもあります。ですので、作成する際には十分な注意が必要です。

離婚届の提出前に離婚公正証書を作るべき?

離婚届を出す前に、離婚公正証書を作るべきかというタイミングの問題については、夫婦それぞれの考えや状況によって異なります。しかし、多くの場合、離婚届を提出する前に、離婚公正証書を用意することが良いと言われています。

  • 離婚公正証書には、強制的に履行させる力が備わっています。本記事でご説明した通り、養育費の支払いが遅れた場合や、支払われない場合、裁判を通さずに相手の財産を手に入れることが可能です。離婚後にお金のやり取りがあるとき、公正証書を持っていると、安心して取り決めを進めることができます。
  • 離婚届を出した後で公正証書を作成しようとしても、相手がこれを拒んだり、条件を変えたりすることが考えられます。離婚届を出す前に公正証書を持っておくと、離婚の取り決めがしっかりと固定されます。さらに、離婚した後、ある期間が過ぎると財産の分割や慰謝料の要求ができなくなるケースがあるので、その点も留意が必要です。
  • 離婚届の前に公正証書を整えておくことで、離婚後の生活のスタートが円滑に進められます。離婚の条件についての話し合いや取り決めを早めに終わらせておくと、心の負担や時間のロスを少なくすることができます。

このような理由から、離婚届を提出する前に、離婚公正証書の作成を準備しておくことをおすすめいたします。

離婚公正証書には何を書くべき必要がある?

離婚公正証書に記載する内容は、夫婦双方で協議し、自由に取り決めることが可能です。一般的には、以下のような項目が必要とされています。

  • 子どもに関わる事項(親権や養育費、面会交流)
  • 夫婦の金銭的な取り決め(財産分与や慰謝料、年金分割)
  • 住所や連絡先を変更した旨の告知義務
  • 清算条項

離婚公正証書は、夫婦間で取り決めをした離婚条件を記載した文書です。ですので、その内容に関しては、基本的に自由です。これは、「契約自由の原則」という考えに基づいています。離婚公正証書の記載事項については、夫婦間の契約となるためです。
この契約自由の原則は、法律に違反しない範囲で、契約を結ぶか否か、契約の対象者、内容、方法などを自由に選ぶことができるというものです。

しかしながら、「契約自由の原則」があるからとはいえ、公序良俗に反する契約や、強行法規に反する契約は、無効とみなされます。
実際に、夫婦だけで取り決めた離婚条件の内容には、公序良俗に反するものや、法律的に無効となるものがあることが、しばしば見受けられます。

たとえば、時々ご相談を受けるのが、「特定の人との再婚をしない」という条項を離婚公正証書に記載したい、といったお悩みです。相手の不倫によって離婚に至った夫婦に見られるケースなのですが、再婚を禁止するような条項は、当然法律的に無効となるとされています。

なお、離婚公正証書は、公務員である公証人が作成する公文書ですので、法律や公序良俗に反するような内容の条項は、そもそも基本的には載せることができません。
離婚公正証書に記載する内容に関してお悩みの方は、まずは弁護士にご相談いただければと思います。
また、以下にご説明いたします、離婚公正証書の内容についての解説も、ぜひご一読ください。

内容①養育費など子どもに関する費用のこと

それでは、離婚公正証書に書くべき内容について、具体的に見ていきましょう。

養育費

養育費は、子どもの養育に必要な経費のことを指し、監護していない親が、監護している親へ支払う費用です。 この養育費の支払いは、子どもに最低限の生活を保障する「扶養義務」とは異なり、親自身の生活水準と同等の生活を子どもにも提供する「生活保持義務」に基づいています。
たとえ親権を持たない親であっても、その子どもの親であることには変わりなく、養育費の支払いの責任を持つものとされるのです。

そのため、離婚を経ても子どもの養育に関与していない親は、養育費の支払い義務があります。
しかし、実際には支払いが遅れたり、支払われなかったりする場合があるほか、非監護親が支払い金額の減額を求めることも珍しくありません。

養育費の内訳ですが、通常想定される生活費や医療費以外にも、次のような費用も養育費になり得ることがあります。

  • 食費
  • 衣服代
  • 学用品・教材費
  • 交通費
  • 習い事・クラブ活動費
  • 娯楽・レクリエーション費
  • 通信費
  • 保険料
  • 特別な支出
  • その他の学校行事関連経費

さて、実務上は、養育費の取り決めの状況はどういったものでしょうか。
厚生労働省の「平成28年度 全国ひとり親世帯等調査結果報告」によりますと、養育費の取り決めを行っていると答えた親は、全体で42.9%でした。その一方で、取り決めを行っていないと答えた親は、54.2%となっております。
調査対象家庭に限れば、養育費について取り決めを行っている親よりも、行っていない親の方が多いのです。

とはいえ、平成23年度の同じ調査では、養育費の取り決めを行っている母子世帯は37.7%という結果にとどまりましたので、養育費についての取り決めをするひとり親の数は増えてきてはいます。しかしながら、まだ半数以上が取り決めを行っていないというのが現実です。

取り決めをしなかったことの主な理由としては、「離婚した相手と関わりたくない」という回答が最も多く、その次に「相手に支払い能力がないと思った」という理由が挙がっています。

ですが、養育費は親ではなく、子どものための権利です。離婚後も支払いが継続することで、接点を持つことを忌避する気持ちも理解はできますが、離婚する前に養育費に関する取り決めをし、それを離婚公正証書として残しておくことを、おすすめしております。

養育費の取り決め内容と決め方

養育費について、どういった内容を離婚公正証書に記載するか、まずは夫婦で話し合って決めます。養育費の金額、支払い方法や支払い期間、振込先口座や送金の期日など、抜け漏れのないように細かく決めます。

一般的に、養育費の額の設定は、裁判所で公開されている「養育費算定表」を参考にすることが多いです。
この養育費算定表というのは、東京や大阪の裁判官たちが共同で研究を重ねて作成したもので、養育費の計算のための参考表となっています。この表は日本国内の裁判所で採用されており、裁判所自体もこの算定表を基にして、養育費の具体的な額を設定しています。
養育費算定表を活用することで、夫婦の所得や子どもの人数や年齢に応じた養育費の目安を簡易に知ることができます。

ですが、養育費はケースバイケースで判断されるものなので、「算定表」が必ずしも固定的な基準であるとは言えません。 具体的な内容については夫婦間の話し合いで決められるため、夫婦双方が納得する場合、算定表に基づいた額よりも高い金額や低い金額の養育費にすることも可能です。

養育費について協議する際は、毎月の養育費の具体的な支出項目を明確にし、できるだけ詳細な金額を計算することがおすすめです。以下がその基本的な内訳となります。

  • 子どもの日常の経費(食事代、衣類費、水道・光熱費など)
  • 学費(学費、テキスト代、学習塾や趣味の教室費用など)
  • 医療費
  • 子どものお小遣い
  • 交通費(学校への通学定期代など)

養育費を支払う期間については、大抵の場合、子どもが成人年齢である18歳を基準として、支払期間が決められます。ただし、子どもの年齢だけで決めてしまうと、20歳でも4年制大学に在学中で学費がかかるといったことが少なくないため、子どもが経済的に自立するときとして22歳を基準にする場合も多いです。経済的に自立するときとして一般的なのが、正社員としての勤務を開始する時点です。

また、子どもに障害があったり、慢性的な疾患があって長期継続的な治療・療養をしなければならなかったりと、特別なケアが必要なケースでは、通常の成人年齢である18歳や20歳に到達しても、養育費の支払いが必要とされることが想定されます。

支払い方法としては、銀行振込が一般的です。通常は親権者の銀行口座に振り込む形となりますが、子ども名義の銀行口座への振込も可能です。支払いのタイミング、例えば「毎月28日までに」と明確に離婚公正証書に指定することが推奨されます。
銀行振込を支払方法として指定する際は、手数料もどちらが負担するかについても、忘れずに取り決めて離婚公正証書に記載しておきましょう。

親権

親権とは、未成年の子を社会的に成熟させるための親の権利と義務として理解されています。この親権は、子の最善の利益を考慮して行使されるべきとされています(民法820条)。
日本の法律上、父母は婚姻中は共同で子どもの親権を持っており、これを「共同親権」と称します(民法818条第3項)。ですが、離婚した場合は、令和6年現在では、共同で親権を持つことはできませんので、どちらか一方を単独親権者として指定しなければなりません(民法819条第1項)。

(親権者)

民法818条
1 成年に達しない子は、父母の親権に服する。
2 子が養子であるときは、養親の親権に服する。
3 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。

(離婚又は認知の場合の親権者)

民法819条第1項 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。

(監護及び教育の権利義務)

民法820条 親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。

離婚届も、未成年の子どもがいる場合は、必ず親権者を記入するように決められています。離婚協議の中で親権についても話し合い、取り決めた内容を離婚公正証書に明記しておくことが必要です。

面会交流

面会交流は、子どもと、子どもの非親権者である親の適切な関係を維持するために必要な権利です。未成年の子どもがいる夫婦は、離婚公正証書に面会交流についても記載する必要があります。
離婚公正証書に面会交流に関する取り決めを記載する場合、具体的な日時、場所、頻度、手段(対面か、ビデオ通話かなど)、およびその他の必要な条件や、手続きについて離婚公正証書に詳細に明記することが大切です。

具体的には、面会交流を行う頻度、面会場所(非親権者の親の自宅や、公園など)、取り決めに違反した際の対応、面会交流で必要な交通費や食事代などの経済的な負担の分担、面会交流の際の通知方法や、変更・キャンセルの手続き、緊急事態や突発的な事情における対応など、可能な限り具体的な内容を離婚公正証書に盛り込むことが必要です。

また、面会交流の実施を円滑に進めるための双方の協力や配慮、通知義務、第三者の立ち会いの要否なども考慮して離婚公正証書に記載するとよいでしょう。
さらに、将来的に環境や事情が変わった場合や、子どもの成長に伴って面会交流の内容を変えたい場合について、再協議の方法やタイミングも離婚公正証書に明記しておくことで、夫婦双方が安心して合意を結べるでしょう。

内容②慰謝料や財産分与などのお金のこと

子どもに関する費用以外にも、財産分与や慰謝料、年金分割といった費用についても離婚公正証書に記載する必要があります。

慰謝料

円満な協議による離婚だけでなく、夫の浮気や妻のDVといった配偶者の不法行為が理由で、離婚に至るケースも少なくありません。

夫婦間で一方が離婚の理由を招いた場合、その不法行為を行った有責配偶者(不倫やDVを行った配偶者)が、他方の配偶者に対して慰謝料を支払う可能性が生じます。
離婚時の慰謝料は、離婚の理由を引き起こした側が、相手配偶者の受けた精神的損害を補償することを目的として支払うものです。なお、精心的損害は、DVによる身体的被害のような目に見えるものではないため、金銭的に直接的には評価しづらい部分があります。そのため、金額に関して夫婦間で意見の対立が起きることも多いです。

離婚慰謝料の一般的な金額はケースにより異なりますが、相場としては約200万円~250万円になります。離婚慰謝料の金額がこのように幅広いのは、離婚の原因や婚姻期間の長短など、様々な要因が影響してくるからです。

離婚慰謝料に関しても、金額を取り決めたら、夫婦のどちらに支払う義務があるのかを離婚公正証書に明記するとともに、金額と支払い方法、一括払いか分割払いかなど、細かい条件を離婚公正証書に記載しておきましょう。

財産分与

財産分与をする場合、離婚公正証書に財産分与についても記載が必要です。
財産分与とは、離婚に際して夫婦が、婚姻期間中に共同で築き上げた財産を、それぞれの寄与度に応じて配分することです。

財産分与の対象になる財産を「共有財産」と言います。これには、 夫婦で共有して購入した不動産や、夫婦の生活に必要な家具や生活用品などが含まれます。また、一方の夫婦の名義である預金や自動車、株式、保険の解約金、退職金などであっても、夫婦が協力して得たと考えられる財産であれば、財産分与の対象財産となります。

離婚公正証書においては、預貯金に関しては「金200万円について、甲は120万円、乙は80万円を受領するものとする。」といったように記述します。
土地や住宅については、地目や地積といった詳しい情報も離婚公正証書に記載し、対象となる不動産が明確に特定できるような書き方にしておく必要があります。

なお、財産分与の詳細な説明については、こちらの関連記事をご参考ください。
離婚時の財産分与とは?共有財産の意味や家・車・貯金などの分与方法を弁護士が解説!

年金分割

離婚公正証書に書くべき内容として、年金分割も忘れてはいけません。
離婚公正証書に年金分割について記載する場合、事前に年金分割をすることについて合意し、按分割合を決めておく必要があります。

年金分割の手続き自体は、離婚後に行うことになりますが、離婚後に按分割合などについて話し合いをするのは難しいため、離婚公正証書に定めておくことが大切です。

離婚公正証書には、「甲(第1号改定者)と乙(第2号改定者)は、対象期間に係る年金分割についての請求すべき按分割合を0.5とする旨合意し、その年金分割に必要な手続に協力することを約束する。」といった形で記載します。

離婚時の年金分割の手続きについては、ぜひこちらの記事をご覧ください。
離婚と年金分割|請求に期限あり?手続きをしたらいつからもらえる?
年金分割は離婚後2年内に!分割割合や分割対象、手続きの方法などを解説

内容③その他の取り決め

さて、以上が一般的に離婚公正証書に記載する内容となりますが、個々のケースに応じて以下の項目についても記載しておく必要があります。

ペットについての取り決め

夫婦間で飼っていたペットの今後の飼育責任者や、その飼育に関連する費用や医療費についての取り決めを行った場合、離婚公正証書にも記載しておくと良いでしょう。

贈与や遺産についての取り決め

夫婦間の資産移動や将来の相続に関して、明確な取り決めをした場合は、離婚公正証書にその旨も書いておきましょう。

税金についての取り決め

夫婦が共有していた資産を売却した場合や、夫婦の共同名義の口座の利息にかかる税金など、税金に関する取り決めをした場合は、離婚公正証書にも明記しておきましょう。

新しい配偶者との関わりについての取り決め

子どもと新しい配偶者との関係や、面会に関するルールや条件、そして新しい配偶者との共通の時間や活動に関する取り決めについても合意している場合、離婚公正証書にその旨を明記しておくと安心です。

清算条項

離婚後も予期しない問題や要求が発生することを防ぐための取り決めを行います。
具体的には、離婚公正証書に記載されている内容に基づき、双方がそれ以外の請求や要求を行わないことを確認し合う文言を記載します。
離婚公正証書にこの条項があることによって、双方の合意内容に基づく安定した関係を維持し、予期しないトラブルの発生を防ぐことができます。

例えば、以下のような条項が清算条項の例となります。

「甲と乙は、本件離婚に関し、以上をもって全て解決したものとし、今後、財産分与、慰謝料等名目のいかんを問わず、互いに何らの財産上の請求をしない。また、甲と乙は、本公正証書に定めるほか、何らの債権債務のないことを相互に確認する。」

強制執行認諾の文言

強制執行認諾文言を記載した離婚公正証書は、裁判を経ずに強制執行を行うことができる「執行証書」となります(民事執行法22条第5号)。そのため、養育費の支払いが滞った場合などに、裁判所に行くことなく、強制執行の手続きを開始することができるよう、強制執行認諾の文言を離婚公正証書に記載しておきましょう。
離婚公正証書には、「甲は、本証書記載の金銭債務を履行しないときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。」といったような文言を記載しておきます。

離婚公正証書の作り方と流れ

離婚公正証書の作り方と流れは、次の通りです。

  1. 離婚に関する条件を整理し、離婚協議書などの文書にしておきます。
  2. 公証役場へと離婚公正証書の作成を申し込みます。
  3. 公証人が離婚公正証書の案文を作成します。
  4. 案文の内容をチェックし、手続きの日程を設定します。
  5. 公証役場にて正式な離婚公正証書を作成します。
  6. 離婚公正証書の作成に伴う手数料を公証役場に納めます。

公証人は、夫婦間で決めた離婚条件に、法的誤りがないかの確認のみを行います。具体的な離婚の条件は公証人に決めてもらうことはできませんので、先に夫婦で合意した条件を文書にまとめ、それを公証役場に提出しましょう。

離婚の条件を明記した文書(離婚協議書)を作った後、公証役場で公正証書の作成を申し込みます。どの公証役場でも申し込めますので、最寄りの公証役場を探して申込みを行ってください。
公証役場の窓口に行けない場合は、郵送やFAXでの手続きをご検討ください。直接出向かなくても離婚公正証書を作成できるか、何が必要かといった具体的な手順については、最寄りの公証役場にお問い合わせください。

離婚協議書を提出すると、それを基に公証人が離婚公正証書の案文を作成します。公証人から追加の必要書類の提出を求められたら、追完しましょう。

離婚公正証書の案文ができたら、夫婦でその内容を確認し、実際に離婚公正証書を作成するための日程調整をします。公証役場での対面を避けたい場合、弁護士を通じて公正証書の作成を進めることもできますので、お気軽にご相談ください。

予約した日に、公証役場で、離婚公正証書の内容を再度確認します。問題なければ、夫婦が離婚公正証書に署名押印をして、離婚公正証書が完成となります。
離婚公正証書は3部作成され、原本は公証役場が保管することになります。離婚公正証書の正本を、慰謝料などの金銭の支払いを受ける方が受領し、支払う側が離婚公正証書の謄本を受領します。

必要書類

離婚公正証書を作成する際、身分証明書などの本人確認書類の提示が求められる他、下記の書類の提出が求められることがあります。

戸籍謄本

夫婦の婚姻の事実や子供の現状を確かめる際に使用します。離婚した後、元の夫や妻が自身の戸籍謄本を必要とすることが考えられます。

登記事項証明書

不動産の分割に際して、該当する不動産の登録内容を示すために利用します。

固定資産評価証明書

不動産の価格を立証する際に求められます。

銀行の預金通帳や証券の取引明細書

金融資産を分ける際の手引きとして、それらの資産の詳細を示す文書が要ります。

年金手帳や「年金分割のための情報通知書」

年金を離婚の際に分け合う取り決めをする時に、両者の年金の具体的な内容を把握するために参照します。

こうした必要書類は、離婚公正証書に記載される内容が、正確なものであることを保証するために必要です。公証人から提出の指示があったら、年金事務所に問い合わせた上、必ず提出してください。

離婚公正証書に関するQ&A

Q1.離婚公正証書とはどういった文書ですか?

婚公正証書は、公証人の前で作成される特定の書類で、その内容が正確であることを証明するためのものです。離婚の際に、双方の合意内容を明確にし、法的効力を持たせる目的で作成されます。
これにより、離婚後の紛争を防ぐ手段としても役立ちます。また、公正証書は、裁判なしである程度の強制的な効果を持つため、金銭的な取り決めなどが適切に守られるようになります。

Q2.離婚公正証書にはどのような内容を盛り込むべきですか?

離婚公正証書には、財産分与、子どもの親権・監護権、養育費の取り決めなど、離婚に関する重要な合意事項を明記することが一般的です。一般的には、次の項目について取り決められます。

  • 親権や養育費など、子どもに関すること
  • 財産分与や慰謝料など、夫婦のお金に関すること
  • 住所や連絡先の通知義務などその他の事項

Q3.公証役場とは、どのような機関ですか?

公証役場は、公証人が所属する公的な機関であり、法律的な効力を持つ公正証書を作成する場所です。
公証人は、国によって設けられた中立の第三者で、契約や意思表示の正確性と信頼性を保証する役割を果たします。
公証役場は、個人や企業が正式な契約を結ぶ際や遺言を残す場合など、様々な場面で必要とされる公正証書の作成をサポートしています。公証役場を利用することで、離婚合意書が公文書となり、裁判手続によらずに強制執行をすることができるようになることがあります。

離婚公正証書に関するお悩みは弁護士へご相談ください

この記事を通じて、離婚公正証書についての重要なポイントを解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。
公正証書は、離婚における合意事項を法的に確定し、後のトラブルを予防する役割を果たす重要な書類です。これによって、財産分与、親権、養育費の取り決めなど、離婚後の生活を円滑に進めるための明確なルールが設けられます。

公正証書のメリットとして、公正証書化すると、法的に強い効力を持つという点が挙げられます。これは、特に離婚時に紛争が発生した場合に大きな安心感につながります。
一方で、公正証書の作成には費用がかかるという側面も理解しておく必要があります。しかし、このコストは、将来的に生じうる紛争を未然に防ぎ、安定した関係を築くための投資と捉えられます。

しかし、公正証書の作成には、それなりのコストがかかることや、公証役場に足を運ぶ手間があることも確かです。

そこで、離婚公正証書の作成については、弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。
弁護士は法律の専門家です。弁護士に相談することで、離婚に関連する法律やルール、それに伴う権利・義務について正確かつ詳細なアドバイスが受けられます。これにより、不利な条件を押し付けられることなく、公正証書の内容が法律に照らして適切であるかを確認し、公平で適切な合意に繋がる可能性が高まります。

また、弁護士は相手方や相手方の代理人との交渉をサポートします。これにより、感情的な対立が激化するのを避け、より冷静で建設的な協議が可能になります。
よって、専門家である弁護士がサポートしていることで、精神的な安定も期待できます。離婚は心に大きな負担をかけるものですが、弁護士に相談することで、そのストレスを軽減することが可能です。
離婚は感情的な決断だけで進められるものではありません。公正証書を利用して、合意内容をしっかりと記録することで、将来的な紛争のリスクを減少させられます。

離婚公正証書の作成に関するお悩みは、ぜひお気軽に弁護士へご相談ください。

この記事を書いた人

雫田 雄太

弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

 

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。

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