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モラハラによるPTSD症状|後遺症やトラウマを克服するには

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。
1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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モラハラの配偶者と離婚しても、被害者にとってはそれで完結するわけではありません。たとえ離婚してモラハラの被害を直接は受けることがなくなったとしても、そのトラウマがPTSD症状になってしまい、離婚後も長く後遺症として残ってしまうこともあります。

この記事では、モラハラによって被害者に生じるPTSD症状について、その特徴や原因、具体例について分かりやすく解説いたします。

また、モラハラによるPTSD症状の治療方法や、トラウマを克服するために取り得る対処方法についても、詳しく見ていきたいと思います。

目次

モラハラによるPTSD症状の原因と特徴

PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは

PTSD(Post-Traumatic Stress Disorder)とは、戦争、天災、事故、犯罪、虐待などといった、命の安全が脅かされるような出来事に直面したり、事故現場を目撃するなどの強い精神的ショックによって発症する、精神障害の一種です。

精神的ショックを受けた体験を何度も思い出してしまったり、悪夢としてその体験を繰り返すことが続いたり、その体験をした場所や関連する人物や物を避けようとする行動が見られるようになります。

こうした強烈な精神的ショックによって生じる精神障害のうち、数日から1ヶ月程度で自然に治癒するものを「急性ストレス障害」と呼び、1ヶ月以上の長期間に渡って続くものを、「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」と呼んで区別しています。

PTSDの原因は「トラウマ(心の傷)」

PTSD(心的外傷後ストレス障害)の原因は、トラウマ(心的外傷)です。

このトラウマ体験に関して、文部科学省のホームページには次のように記載されています。

地震や戦争被害、災害、事故、性的被害など、その人の生命や存在に強い衝撃をもたらす出来事を外傷性ストレッサーと呼び、その体験を外傷(トラウマ)体験と呼ぶ。トラウマ体験となる外傷性ストレッサーには、次のような出来事などがある。

1.自然災害――地震・火災・火山の噴火・台風・洪水など
2.社会的不安――戦争・紛争・テロ事件・暴動など
3.生命などの危機に関わる体験―暴力・事故・犯罪・性的被害など
4.喪失体験――家族・友人の死、大切な物の喪失など

参考:在外教育施設安全対策資料【心のケア編】(文部科学省)

モラハラは一見すると、身体的な被害を受けていないため、トラウマになるほどのストレスを受けるのか、と疑問に思うかもしれません。

ですが、配偶者から受けるモラハラは、身体的暴力でこそないものの、被害者の精神に多大なストレスを与え、心身に影響を及ぼす精神的なDVです。モラハラによって、食欲不振や不眠症など、身体的な被害も生じます。

また、ストレスに対する耐性やキャパシティは、人によって異なります。たとえば、「誰のおかげで生活できるんだ」と夫に言われた時、「夫が仕事をする分、自分は家事と育児をして夫をフォローしている」と考え受け流せる妻もいれば、「自分は働いていない。夫がいなければ生活できない」と思い詰めてしまう妻もいるでしょう。

そのため、被害者によっては、モラハラによってストレスを受け続けたことが深刻なトラウマとなり、PTSD症状としてあらわれることになるのです。

PTSD症状の特徴(フラッシュバック、回避、過覚醒)

一般的にPTSD症状には、大きく次の3つの特徴が見られます。

1.フラッシュバック(再体験)

フラッシュバック(flashback)とは、過去に受けたトラウマ体験の瞬間が、突然脳裏に蘇り、まるでその場面を再び体験しているかのような感覚に襲われる現象です。トラウマを再体験しているかのように、鮮明に蘇るため、生々しく思い出されてしまい、心身に不調をきたすことがあります。

たとえば、モラハラの被害者が過去に配偶者から受けた侮辱や批判の言葉が、何かのきっかけで突然脳裏に浮かび上がり、そのときの感情や恐怖を再び強く感じることがあります。

そのため、離婚して今はモラハラの被害を受けていないのに、フラッシュバックによって、今もモラハラ被害を受けているように錯覚し、突然人が変わったようになったり興奮したり、現実にはないことを言い出したりすることがあります。

フラッシュバックは、現実と過去の出来事が混同され、被害者が再びその苦痛を体験するかのように感じさせるため、非常に辛いPTSD症状です。

2.過覚醒

過覚醒(hyperarousal)とは、PTSD症状の一つで、過剰な警戒心や緊張状態が続く状態を指します。

被害者は、周囲の環境に対して常に警戒し、些細な刺激にも過敏に反応してしまうことがあります。

たとえば、モラハラの被害者の場合、配偶者からの高圧的な口調や威圧的な態度、怒鳴り声がトラウマになっており、人の声や物音にも驚きやすくなることがあります。

このような過敏な反応は、日常生活に支障をきたし、睡眠障害や集中力の低下など、他の健康問題を引き起こすこともあります。

過覚醒は、過去のトラウマ体験に対する身体の自然な防衛反応であると考えられていますが、過剰な状態が続くことで、被害者の心身の健康に悪影響を与えるため、適切な治療やサポートが必要です。

3.回避と麻痺

PTSD症状の一つが「回避」と「麻痺」です。トラウマに関連する人や場所、物事を避ける行動(回避)や、感情の鈍化・麻痺といった症状があらわれます。

たとえば、モラハラの被害者は、原因となった加害者やトラウマを思い起こさせる場所を避ける傾向があります。

また、感情を麻痺させることで、痛みや恐怖から自分を守ろうとするため、喜びや悲しみといった感情を感じにくくなることがあります。

このような回避行動や感情の麻痺は、一時的には心の負担を軽減するかもしれませんが、長期的には問題解決を避け、回復を妨げることになります。

PTSD症状はすぐに生じるとは限りません

なお、PTSD症状は、トラウマ体験から、数ヶ月~数年の時間が経過してから生じるケースもあるため、トラウマ体験を忘れた頃になって、PTSD症状があらわれることもあります。

ですので、モラハラ配偶者と夫婦として生活している間はPTSD症状があらわれず、モラハラ配偶者と離婚してモラハラ被害を受けなくなってから、不意にPTSD症状があらわれることになるのです。

モラハラによる後遺症の症状の具体例

モラハラによるPTSD症状は、PTSD症状の中でも、「複雑性PTSD」であると言われています。

配偶者からのモラハラは、モラハラ行為が夫婦間・家庭内という外部の目に触れない環境下で行われるため、被害を受ける期間が長期間に渡り、モラハラ行為を受けている間、モラハラ被害者には味方がおらず孤立状態に置かれています。

また、モラハラ配偶者と離婚しても、たとえば養育費の支払いがあるなど、トラウマ体験の原因であるモラハラ加害者との接点が継続していることもあります。

こういった場合、通常のPTSD症状に加え、感情のコントロールや対人関係において、より深刻な影響が生じることになります。これが、複雑性PTSDです。

複雑性PTSD症状には、他者とのコミュニケーションが困難になったり、自分の感情をコントロールが難しくなったりする特徴が見られます。

こうした特徴の見られるモラハラのPTSD症状について、その具体例を見ていきましょう。

モラハラのPTSD症状の具体例

 

モラハラのPTSD症状の具体例

 

怒っている人を見ると、モラハラ夫の怒鳴り声を思い出してしまい、不安になって手汗がとまらなくなる。

モラハラ夫と似た容姿や体格の人を見ると委縮してしまい、声が出なくなる。

小さな失敗をしただけで、モラハラ夫の過去の非難が頭の中で繰り返され、自信を失う。

モラハラ夫からの軽蔑的な視線を思い出し、人前に出たり人と目が合うと緊張しやすくなる。

夜、ベッドに入ると、モラハラ妻の冷たい言葉がフラッシュバックし、眠れなくなる。

モラハラ夫に無視されたことを思い出し、家族といるのに孤独感を覚えたり、友人に見捨てられる恐怖を常に感じている。

突然の大きな音に驚き、モラハラ夫の怒りの爆発を思い出して動悸が激しくなる。

友人や家族との会話中、モラハラ妻から毎日非難されていたことを思い出し、友人や家族が自分を非難しているような幻聴に襲われる。

モラハラ夫の嫌味や皮肉を思い出し、人とのコミュニケーションが苦手になる。

鏡を見ると、モラハラ妻から言われた容姿への否定的なコメントを思い出し、自己嫌悪に陥るため、鏡を見ることができない。

家事をするたびに、モラハラ夫の不満の声が頭の中で鳴り響き、落ち着かない。

仕事でミスをすると、モラハラ妻の蔑みの言葉が蘇り、集中できなくなる。

モラハラ妻が愛用していた食器や家具を見かけると、過去の辛い記憶がフラッシュバックし、気分が沈む。

モラハラ妻の冷たい態度を思い出すたびに、心が重くなり、活力を失う。

子どもが泣く声を聞くと、モラハラ夫の叱責の場面が思い浮かび、動揺する。

モラハラ夫の支配的な態度を思い出し、他人に対して過度に従順になる。

テレビや映画で夫婦の喧嘩シーンを見ると、モラハラ妻との過去の衝突を思い出し、気分が落ち込む。

モラハラ夫から毎日「お前のせいだ」「お前が悪い」と言われていたので、家事や仕事の小さなミスも全て自分が悪いと思ってしまう。

モラハラ夫から自分の趣味や自己主張することを制限されていたため、趣味を始めようとすると誰かに怒られると思ってしまい、自己主張も自分には許されないと感じてしまう。

モラハラ被害を受けていた日々を思い出してしまい、自傷行為をしてしまう。

【対処法】トラウマを克服する治療方法

PTSD症状については、6~7割の人が発症から数ヶ月程度で自然回復すると言われています。しかし、深刻なPTSD症状は日常生活にも影響を及ぼしますので、PTSD症状をなるべく早めに改善できるにこしたことはありません。

PTSD症状には、その人の状況や段階に応じてさまざまな治療方法がありますが、ここでは主な治療方法をご紹介いたします。

1.グラウンディング(心の安定化)

PTSD症状の治療方法として、自分の感情をコントロールできるようにするため、最初に「グラウンディング」という方法が取られます。

大地を意味する英語「ground」からきており、グラウンディングとは、現実感を失ってしまう時に、自分の足でしっかりと現実の世界に立つ、ということを意味しています。

モラハラによるPTSD症状では、モラハラ被害者は現実感を失ってしまったり、トラウマの苦しみから逃れようとして自分の意識や身体と心を切り離したりしてしまいます。

そこでまず、モラハラ被害者に対し、五感に意識を集中させ、フラッシュバックなどで現実感を失った時に、自分で心を「今いる現実」に戻せるように対処するのが、グラウンディングという方法なのです。

グラウンディングは五感や頭を使う対処方法なので、さまざまなやり方があります。一例を挙げましょう。

  • 簡単な計算をする。
  • 手のひらや肩を刺激するなど、簡単にできるマッサージをする。
  • 好きな歌を歌う。
  • 身近にある雑貨や普段身に着けている持ち物などを触って、感覚を確かめる。
  • 好きなアロマや香水などを身に着けておく。

2.認知行動療法(CBT)

認知行動療法(CBT)とは、認知(考え方、ものの受け取り方)に働きかけて気持ちを楽にするという心理療法です。医師などと面談を行いながら、自分の考え方や行動を把握し、考え方のバランスを取って、ストレスにも対応できる精神状態をつくる方法で、PTSD症状をはじめ、多くの精神疾患に対して行われています。

具体的には、CBTではまず、患者が抱えるネガティブな思考や認識を特定します。たとえば、モラハラの被害者は自分自身について「何もできない人間だ」「価値がない」といった否定的な考えを持っていることがあります。CBTでは、これらの思考が現実と合っていないことを認識し、より現実的で肯定的な考え方に置き換える方法を学びます。

さらに、CBTでは感情や行動にも焦点を当てます。モラハラによるトラウマを抱える人々は、特定の状況や刺激に対して過剰に反応することがあります。CBTでは、これらの反応を認識し、より適切な対処方法を身につけることを目指します。たとえば、怒りや不安を感じたときに、深呼吸やリラクゼーション技術を使って落ち着く方法を学びます。

3.PE療法(持続エキスポ―ジャー療法)

PTSD症状の治療方法として一般的な方法がPE療法(持続エキスポ―ジャー療法)です。トラウマに関連する記憶や刺激に意図的に直面することで、向き合うことを避けているトラウマにあえて向き合い、少しずつ慣れさせていく方法です。

たとえば、モラハラの被害者は、医師の指導のもと、トラウマ体験に関連する場所を訪れたり、トラウマ体験について話したりして、そのトラウマ体験がもはやモラハラ被害者にとっては脅威ではないことを理解します。

PE療法によって、PTSD症状になるほど強烈な衝撃だったトラウマに対する不安や恐怖も、次第に軽減していきます。

4.EMDR(眼球運動による脱感作および再処理法)

EMDRは、眼球運動を利用したPTSD症状の治療方法です。

患者がトラウマ体験を思い出しながら同時に特定の眼球運動を行うことで、トラウマの感情的な影響を軽減し、再処理を促進することを目的としています。

具体的には、EMDRでは、患者がトラウマ体験に関連する思い出や感情に焦点を当て、その間にカウンセラーの指示に従って左右に眼球を動かします。この眼球運動は、脳の情報処理機能を活性化させ、トラウマ体験の再処理を促すと考えられています。

EMDRは、通常、カウンセラーや心理療法士とのセッションで行われ、セッションは数回から数十回にわたって行われます。

5.薬物療法

抗うつ薬や抗不安薬などの薬物を用いる対処方法です。

薬物療法は、根本的な原因であるトラウマに関する記憶を処理するような原因療法ではなく、あくまで「不安感や気分の落ち込みを薬で軽減させる」という対症療法になります。

そのため心理療法と併用されることが多く、最も効果的な治療法を見つけるためには、医師や精神科医と密接に連携することが重要です。薬物の種類や用量は、患者の症状や体質に応じて個別に調整されます。

薬物療法には副作用が伴うことがあるため、治療を開始する前に医師と相談し、適切な情報を得ることが重要です。

以上の通り、PTSD症状の治療方法や対処方法の一部をご紹介いたしました。こうした治療方法は、医師やセラピストといった専門家の指導のもとで行われることになります。

モラハラの配偶者と離婚した後、モラハラの行為がフラッシュバックしたり、PTSD症状が生じた時には、なるべく早めに医療機関を受診するようにしましょう。

Q&A

Q1.PTSDとは何ですか?

PTSDとは、心的外傷後ストレス障害という、精神障害の一種です。事故や事件に遭遇したり、暴行を受けるなどして、精神的に強い衝撃を受けたことが原因で、PTSD症状があらわれることがあります。

Q2.PTSD症状に見られる特徴は何がありますか?

一般的にPTSD症状には、大きく次の3つの特徴が見られます。

  • 過去のトラウマ体験が突然、強烈に蘇り、まるでその場面を再び体験しているかのような感覚になる(フラッシュバック、再体験)。
  • 常に警戒心が強く、緊張状態にあり、驚きやすく、小さな刺激にも過剰に反応する(過覚醒)。
  • トラウマに関連する場所や人、話題を避けようとしたり、感情を麻痺させ、無関心や無感情の状態になる(回避と麻痺)。

Q3.モラハラによるPTSD症状を治療したいです。トラウマを克服する対処方法などはあるのでしょうか。

モラハラによるPTSD症状を治療し、トラウマを克服するためには、認知行動療法、PE療法、EMDR、薬物療法といった治療方法があります。

これらのPTSD症状の治療法は、不健全な思考パターンを変化させ、PTSD症状を軽減し、心の負担の軽減を目的としており、適切な治療を受けることで回復が期待できます。信頼できる医師やカウンセラーに相談し、自分に合った治療計画を立てることが重要です。

まとめ

モラルハラスメント(モラハラ)は、精神的な暴力の一形態であり、被害者に深刻な心的外傷(トラウマ)を与える可能性があります。特に、長期にわたるモラハラは、被害者にPTSD症状を引き起こすことがあります。

この記事では、モラハラが引き起こすPTSD症状の特徴や原因、そしてトラウマを克服するための方法について詳しく解説しました。

モラハラによるPTSD症状は、フラッシュバックや悪夢、過度の警戒心、不眠など、日常生活に深刻な影響を及ぼすことがあります。ですので、モラハラ配偶者と離婚した後にPTSD症状が発症したら、なるべく早めに医療機関などを受診するようにしましょう。

この記事を書いた人

雫田 雄太

弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

 

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