• ひとり親

別居中の児童手当|配偶者と離婚協議中に子どもの手当を受給できる?

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。
3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

弁護士法人あおい事務所の離婚専門サイトをご覧いただき、ありがとうございます。
当サイトでは、離婚に関する法的な知識を分かりやすくお届けしております。皆様のお悩みの解消に少しでもお役立ちできましたら幸甚です。

離婚協議中や離婚調停中に別居している夫婦にとって、子どもの手当のひとつである「児童手当」を誰が受給するか、というのは非常に重要な問題です。

夫婦が同居している間は両親と子どもが同じ世帯なので、児童手当の受給に特段の問題は生じません。ですが、父親と母親が別居している場合、受給者を変更する申請手続きを行わなければ、子どもを監護する母親が児童手当を受給できなくなってしまうことがあります。

そこでこの記事では、離婚協議や離婚調停のために夫婦が別居している場合に、児童手当の受給についてどういった問題が生じるのか、そうした場合に取り得る手続きは何があるのか、といったことについて、弁護士が詳しく解説させていただきます。

本記事が、配偶者との別居中の児童手当の受給について、少しでもご参考となりましたら幸いです。

目次

児童手当とは?制度の概要

中学卒業までの子どもを養育する両親等への支給金

児童手当とは、日本において子育てにかかる経済的負担を軽減し、子どもの健全な育成を促進することを目的として、自治体が支給する給付金です。児童手当は、0歳から中学校修了前までの子どもを対象とし、対象の子どもを養育する親に対して支給されます。

児童手当の支給金額は、以下の表の通りです。

子どもの年齢

月額手当金額

3歳未満

15,000円

3歳以上小学校修了前の第1子、第2子

10,000円

3歳以上小学校修了前の第3子以降

15,000円

中学生

10,000円

所得制限を超える家庭

特例給付として一律5,000円

そして、児童手当を受給するためには、「中学校修了前の児童を監護し、児童と生計を同じくしている人」という支給対象者の要件を満たす必要があります。

通常、同居している夫婦であれば、両親のどちらもが「児童を監護し生計を同じくしている人」に該当するため、受給者の名義を父親にしようと母親にしようと、特段の問題は生じません。

ところが、両親が別居している場合には、「児童を監護し生計を同じくしている人」との関係で、児童手当の受給者について問題が生じることがあります。

配偶者と別居するとなぜ児童手当が問題になるの?

児童手当の受給者は、一般的に「生計を維持する程度の高い方」が受給者となるのが原則です。そのため、父親が児童手当の受給者となっている家庭が多いかと思います。児童手当の受給方法を口座振り込みにしている場合、受給者である父親の名義の銀行口座に振り込まれることになります。

この場合に、①母親が一人で家を出て別居する場合と、②母親が子どもを連れて家を出て行き別居する場合、について考えてみましょう。

①の母親だけが別居する場合には、現行の児童手当の受給者である父親と、対象児童である子どもは現住所でそのまま同居生活を続けることになります。「子どもを監護し生計を同じくしている人」である父親が児童手当の受給者であるため、①の別居の場合は特に問題が生じません。

ところが、②の別居の場合は、現行の児童手当の受給者である父親と、対象児童である子どもが、別居することになってしまいます。「子どもを監護し生計を同じくしている人」は母親であるため、実際に児童手当を受給している親と、実際に子どもを監護する親が、異なることになってしまうのです。

こうした別居の場合に、父親が進んで児童手当の受給者について変更する申請手続きを行ってくれるのであれば良いのですが、夫婦が別居する場合、離婚協議や離婚調停での話し合いがこじれていることが少なくありません。

夫婦仲が悪化している状態で、児童手当の受給者変更の手続きを積極的に行ってもらえるのか、不安が残るところです。

ですので、子どもを連れて児童手当の受給者と別居する場合は、児童手当の受給者変更の申請手続きを早めに行う必要があります。

離婚協議や離婚調停で夫婦が別居している場合の受給権者は誰?

それでは、離婚協議や離婚調停のために夫婦が別居している場合の、児童手当の受給権者について、もう少し詳しく見ていきましょう。

原則として支給対象は子どもと同居・監護している親

原則として、児童手当の受給者は子どもと同居し、日常的に監護している親となります。

これは、子どもの生活費や育児費用を直接負担している親が児童手当を受け取ることで、子どもの生活環境を安定させるためです。

ですので、母親と子どもが一緒に生活している場合、母親が児童手当を受け取ることになりますし、父親が子どもと同居している場合は、父親が児童手当の受給者となります。

なお、児童手当の受給申請の手続きは、受給者である親が行う必要があります。

単身赴任等による別居の場合の支給対象者は?

両親が別居するケースは、離婚を前提とした場合に限られません。別居の中には、配偶者の単身赴任による一時的な別居の場合もあります。

単身赴任の別居の場合は、必ずしも子どもと同居している親に対して児童手当が支給されるわけではありません。

単身赴任による別居は、別居中も生計が別々でないことが多く、また、一時的に別居中は生計が別になっている場合でも、単身赴任が終わって別居が終了すれば、再び生計を同じくすることになります。

このように、別居中の生計が別にならない単身赴任のような場合は、「生計を維持する程度の高い人」が児童手当の受給者となります。

したがって、一般的には「生計を維持する程度の高い人」である父親が受給者となり、父親が単身赴任のために子どもと別居している間も、父親が児童手当を受給することになるのです。

別居中の夫から児童手当を送金してもらえない!返還請求できる?

さて、夫婦が離婚を前提として別居している場合も、適切に受給者変更の申請手続きを行わなければ、元々の受給者である夫が児童手当を受給し続けることになってしまいます。こうした場合、妻は別居中に子どもを監護していない夫が受給した児童手当を、夫に対して請求できるのでしょうか。

原則として、児童手当は子どもと同居し監護している親が受給対象となる給付金ですから、子どもと別居している父親が児童手当を受給し続けた場合、「不当利得(民法第703条)」に該当する可能性があります。

不当利得を簡単にいいますと、法律上受け取る権利がない人が、他人の財産などによって利益を受けることです。

(不当利得の返還義務)
民法第703条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

そのため、夫に対し不当利得の返還請求の手続きを行うことは可能ですが、裁判手続きは時間も費用もかかる上、かける手間に対して得られる金額は多くはないため、現実的ではありません。

この点、夫に「別居中に夫が受給した分の児童手当をこちらの口座に振り込んでほしい」と請求して、スムーズに応じてもらえるのが理想です。

また、離婚協議や離婚調停における財産分与についての話し合いの中で、別居中に夫が受給した児童手当の分を財産分与に上乗せする形で請求することも考えられます。

もし夫が児童手当の返還請求に応じず、話し合いもしてくれない場合は、児童手当の受給者の変更申請手続きを行うことになります。

児童手当の受給者変更の申請手続き・必要書類

 

児童手当の受給者変更の申請手続き・必要書類

 

別居に際して児童手当の受給者を、非監護親から監護親へ変更するための手続きには、①現行の児童手当の支給を停止し、監護親が新規の児童手当の受給申請を行う方法と、②現行の児童手当の受給者を変更する方法の2つがあります。

それぞれの申請手続きや申請の流れ、必要書類等について、詳しく見ていきましょう。なお、ここでも「現行の児童手当の受給者は父親で、母親が子どもを連れて別居する」ケースを前提として解説させていただきます。

申請手続き①住民票のある市役所等に新規の申請をする

申請手続き①は、まず「非監護親が受給者となっている現行の児童手当の支給を停止する申請」を行い、あらためて監護親が「新規の児童手当の受給申請」を行う申請方法になります。

1.「児童手当・特例給付 受給事由消滅届」を提出する

児童手当・特例給付 受給事由消滅届は、児童手当の受給者が、市区町村から転出する場合など、児童手当の受給要件に該当しなくなった場合に提出する書類です。

現行の受給者である父親は、子どもが母親と家を出ていくことによって、子どもと別居することになるため、「子どもと生計を同じくする監護親」という要件に該当しなくなります。

そのため、受給事由が消滅したことの届出を行う必要があります。

児童手当・特例給付 受給事由消滅届は、現在児童手当を受給している市区町村役場に提出します。

2.「児童手当・特例給付 認定請求書」を提出する

続いて、配偶者との別居によって、子どもの監護親となった母親を申請者として、児童手当の新規申請手続きを行います。

必要書類は、次の通りです。

  • 児童手当・特例給付 認定請求書
  • 申請者の本人確認書類
  • 申請者本人の銀行等の口座番号がわかるもの

これらの必要書類に加えて、児童手当の申請理由によっては、追加で提出を求められる場合もありますので、事前に担当窓口に確認しておくと良いでしょう。

申請書類は、市区町村役場のホームページや窓口で入手することができ、窓口での提出以外に、郵送による提出も可能です。

また、申請手続きの内容や市区町村によっては、マイナンバーカードを利用してオンライン申請をすることもできますので、事前に自治体のホームページなどで確認しておきましょう。

申請手続き②現行の支給対象者を変更する

申請手続きの2つ目は、現行の児童手当の受給者を変更する方法になります。

この申請手続きですが、単に「夫婦が別居するので、児童手当の受給者を変更したい。」というだけでは手続きを行えません。申請を行うには、次の要件に該当している必要があります。

  • 父母が住民票上別居していること。もしくは、同じ住所でも世帯分離していること。
  • 父母が離婚協議中や離婚調停中、あるいは離婚をしていること。

したがって、子どもと一緒に別居を始めた場合、まず住民票の住所を変更するか、世帯分離をする手続きを行う必要があります。

そして、父母が離婚協議中・離婚調停中であること、もしくは離婚していることを証明するために、以下の必要書類を提出しなければなりません。

離婚協議や離婚調停等の証明に必要な書類の一覧

  • 離婚協議の申し入れにかかる内容証明郵便の謄本
  • 夫婦関係調整調停(離婚)の期日呼出状
  • 家庭裁判所における事件係属証明書
  • 調停不成立証明書
  • 弁護士等、第三者により作成された書類(弁護士が申請者に宛てた離婚協議の進捗状況報告書等)
  • 離婚の事実がわかる戸籍謄本等
  • 離婚届受理証明書

別居中の児童手当に関するQ&A

Q1.両親が別居中の場合、児童手当の受給者は誰になりますか?

児童手当の受給者は、原則として子どもと同居し、日常的に監護している親になります。別居している場合、子どもと一緒に生活している親が児童手当の受給者となりますが、自動的に受給者が変更されるわけではありません。受給者本人が、市役所等に対し申請手続きを行わなければなりません。

なお、配偶者の単身赴任など、一時的な別居の場合は、必ずしも子どもと同居し監護している親が受給者になるわけではありません。

Q2.別居後、児童手当の申請や手続きに必要な書類は何ですか?

児童手当の申請や手続きには、通常、以下の書類が必要になります。

児童手当の受給申請書、子どもと同居していることを証明する書類(住民票など)、受給者の身分証明書、振込先の銀行口座情報など。

市区町村によって必要書類が異なる場合があるため、事前に確認することが重要です。

Q3.別居後、非監護親が児童手当を受給し続けています。別居中に受給した児童手当を非監護親に請求することはできますか?

可能です。児童手当は本来、子どもと同居し監護している親が受給するものであり、非監護親が受給し続けることは「不当利得」に該当する可能性があります。

まずは、非監護親に対し話し合いなどで、直接返還を依頼することが現実的です。それでも解決しない場合は、受給者変更の申請手続きを行うことや、不当利得の返還請求を行うことを検討することになるでしょう。

当法律事務所の弁護士にご相談ください

児童手当と別居に関する問題は、離婚協議中の夫婦にとって重要な課題です。別居している場合、児童手当の受給者は原則として子どもと同居し、日常的に監護している親になります。非監護親が児童手当を受給し続けることは不当利得に該当する可能性があり、返還請求や受給者変更手続きが必要になる場合があります。

別居中の児童手当の受給手続きや問題解決には、市区町村の役所での適切な手続きと、場合によっては法律的な対応が求められます。児童手当の受給に関して不安や疑問がある場合は、早めに専門家に相談し、適切な対応を取ることが重要です。

児童手当は子どもの健やかな成長を支えるための大切な支援です。別居中でも、児童手当を適切に受給し、子どもの生活環境を安定させるための努力を惜しまないことが、親としての責任です。児童手当の正しい受給方法を理解し、別居後の生活をスムーズに進めるために、必要な知識と手続きをしっかりと押さえておきましょう。

また、別居に際して児童手当の受給申請や返還請求などに、お悩みや疑問がある場合は、弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。当法律事務所でも、弁護士による法律相談を行っております。平日の夜間や土日も対応可能ですので、お気軽にお問い合わせいただければと思います。

この記事を書いた人

雫田 雄太

弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

 

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。

関連記事