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母子家庭は医療費免除で無料?ひとり親の助成制度はいつまで使える?

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。
1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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母子家庭は、子育てと生計の維持を一人で担っていることから、様々な困難を伴う場合があります。子育ての関係で、仕事ができる時間が制約されることも多いでしょう。そのため、母子家庭では経済的余裕がないことが多く、しばしば「医療費が無料にならないか、いつまで免除を受けられるのか」という疑問の声を耳にします。

そこでこの記事では、母子家庭や父子家庭といったひとり親世帯の医療費助成制度に焦点を当て、助成の対象となる医療費は何か、無料になるかといった基本的知識から、申請手続きの方法、いつまで免除を受けることができるのか、といった事まで弁護士が詳しく解説いたします。

目次

母子家庭で医療費は無料になる?いつまで控除を受けられるの?

離婚や死別などの理由から、親一人で子どもを養育する母子家庭や父子家庭を、ひとり親世帯といいます。

ひとり親世帯は、時に経済的に厳しい場合も多いため、国や地方自治体によってさまざまな支援制度が設けられています。

中でも重宝される支援制度が、医療費助成制度(ひとり親家庭等医療費助成制度)でしょう。幼い子どもは体調を崩しやすく、病院を利用する頻度が高いです。

そのため、医療費の一部あるいは全額を支援もしくは免除してもらえると、ひとり親世帯としては生活も楽になり、その医療費の分を教育費や貯金などにまわせますし、収入の少ない母子家庭や父子家庭でも安心して子どもを病院に連れていくことができるようになります。

ですが、ひとり親家庭等医療費助成制度には、助成や免除の対象となる医療費と、対象にならない医療費があり、この制度を利用することができる対象者についても、要件が定められています。

そのため、母子家庭等で医療費助成制度を利用したいと考えている場合、事前に制度の概要について正しく把握しておく必要があります。

それではまず、母子家庭等を対象とした医療費助成制度について、基本的な情報を見ていきましょう。

母子家庭等ひとり親家庭に対する市区町村の医療費助成制度(マル親)とは

ひとり親家庭等医療費助成制度は、ひとり親家庭(未婚、離婚、死別などで片親のみの家庭)やその他特定の家庭を対象に、子どもの医療費を助成する公的な支援策です。以前は、母子家庭等医療費助成制度と呼ばれていました。この制度の利用申請をすると交付される医療証に、〇で囲まれた「親」の字が記載されているため、ひとり親家庭等医療費助成制度のことを「マル親」と呼ぶ場合もあります。

この制度の主な目的は、経済的に困難な状況にある家庭に対し、子どもたちが適切な医療を受けることができるよう支援することにあります。

具体的には、制度を利用することで、対象となる子どもの医療費の自己負担が軽減されるか、無料になる場合があります。

なお、ひとり親家庭等医療費助成制度の実施主体は市区町村なので、概ねは共通していますが、その詳細な内容は市区町村ごとに異なります。

この記事では、東京都新宿区のひとり親家庭等医療費助成制度をもとに解説させていただきます。

年収から社会保険料を控除した金額により所得制限があります

マル親の対象となるのは、次の3つのいずれかに該当する人です。

  1. 児童を監護しているひとり親家庭等の母又は父
  2. 両親がいない児童などを養育している養育者
  3. ひとり親家庭等の児童又は養育者に養育されている児童で、18歳に達した日の属する年度の末日(障害がある場合は20歳未満)までの人

そして、これらのいずれかに該当する場合でも、次のいずれかの要件に当てはまる場合は、対象除外となります。

  1. ひとり親家庭等の所得が限度額以上の人
  2. 生活保護を受けている人
  3. 児童福祉施設等の施設等に措置により入所している人
  4. 国民健康保険など健康保険に加入していない人

したがって、離婚であろうと死別であろうと、18歳未満の子どもがいる母子家庭等で、生活保護を受けておらず、所得が限度額未満の場合は、医療費助成制度の対象となります。生活保護を受けている場合は、生活保護制度での医療扶助で、医療費が無料となるため、マル親と併用ができないのです。

所得制限

さて、対象者の要件でも重要な所得制限について詳しく見てみましょう。

申請者または扶養義務者の1年間の所得の金額が、各市町村の定めた所得限度額以上である場合は、医療費助成制度を受けられないという規定です。

この「所得」は単純な給与収入ではなく、1年間の収入金額から「諸経費(給与所得控除額)」と「社会保険料」を引いた金額のことを意味しています。

具体的な所得の限度額については、市町村によって変わってきますが、東京都新宿区では次の通りとなっています。

扶養親族数

本人(申請者)

0人

1,920,000円

1人

2,300,000円

2人

2,680,000円

3人

3,060,000円

4人以上

1人増すごとに380,000円加算

 引用:ひとり親家庭等医療費助成制度(東京都新宿区)

 なお、市町村によっては、給与収入だけでなく、母子家庭の母親が子どもの父親から受け取っている養育費も所得に含む場合もあるため、医療費助成制度の利用を検討している際には事前に確認しておきましょう。

 助成制度はいつまで受けられる?

さて、母子家庭等の医療費助成制度の支援を、いつまで受けることができるのか気になりますよね。

対象者の要件でもご説明した通り、「生活保護を受けている場合」や「子どもが児童福祉施設等に入所している場合」などは、マル親を利用する資格が消滅することになります。

また、結婚や再婚によって、母子家庭や父子家庭ではなくなった場合も、マル親の対象ではなくなります。この「結婚や再婚」についても、市町村によっては法律婚だけでなく事実婚も含めている場合がありますので、注意が必要です。

そして、マル親の実施主体は市町村なので、現在マル親を利用している市町村から転出した場合には、当然その資格を失うことになります。この場合、転入先の市町村役場で、改めてマル親の申請手続きをする必要があります。引っ越し後に、マル親の申請手続きを忘れた場合には、転入先の市区町村役場に問い合わせを行い、手続きの詳細を確認しましょう。

また、加入保険を変更した場合には、手続きが必要な場合があります。例えば、「ひとり親家庭等医療費受給者変更届」を提出するなどの書類の提出を求められることがあります。手続きの詳細は、市区町村役場に問い合わせをし、確認することをおすすめします。

こうした要件に該当しない場合でも、母子家庭や父子家庭で、子どもが18歳になった場合は、18歳になった年度末(3月31日)までがマル親の助成を受けられる対象期間となります。

なお、子どもに一定の障害がある場合は、18歳ではなく20歳の誕生日の前日まで、とされています。

助成制度をいつまで利用できるか、という点についても市町村によって相違があるため、事前に十分確認するようにしてください。

完全免除・無料になる場合はある?自己負担は何割?

母子家庭等で医療費助成制度を利用する場合、医療費は全額免除されて無料になるのか、あるいは何割かは自己負担しなければならないのでしょうか。

この点に関しては、市区町村によっても異なりますが、例えば東京都新宿区の場合は、住民税を課税されない非課税の母子家庭等ひとり親家庭に関しては、医療費は全額免除されて無料になります。

一方で、住民税を課税される母子家庭等ひとり親家庭に関しては、通院でも入院でも医療費の1割を自己負担することになります。ただし、自己負担額について月ごとの上限額が定められており、通院の場合は1万8000円、入院の場合は5万7600円という一月あたりの自己負担上限額が定められています。

なお、例えば愛知県名古屋市の場合は、住民税課税・非課税に関係なく、愛知県内の病院で受診する時に、保険診療分の医療費が全額免除されて無料、という取扱いがされています。

このように、市区町村によって、母子家庭等の医療費助成で全額無料になるか、自己負担分はあるか、が大きく異なるのです。

助成の対象になる病院の費用・対象にならない費用

 

助成の対象になる病院の費用・対象にならない費用

 

続きまして、母子家庭等の医療費助成制度の対象となる医療費と、対象にならない医療費について見ていきましょう。

母子家庭等の医療費助成制度の対象となる医療費

母子家庭等の医療費助成制度の対象となる主な医療費は、次の通りです。

  • 診察料(医師が診察を行った際の基本料金。)
  • 治療費(疾病やけがの治療に直接関連する費用。)
  • 薬代(処方された薬の費用。)
  • 検査費(血液検査やレントゲンなど、診断を助けるための検査費用。)
  • 入院費(食事・差額ベッド代を除く。)
  • 訪問看護ステーション

基本的には、国民健康保険や健康保険などの、各種医療保険の自己負担分から一部負担金を差し引いた医療費について助成されます。住民税非課税世帯は、医療保険の自己負担分を全額助成されるため、無料になります。

原則として、助成対象は医療保険の対象となる医療費・薬代に限られます。市町村によっては、入院費用の食事費用も助成対象に含むこともあります。

母子家庭等の医療費助成制度の対象にならない医療費

一方で、医療保険の対象とならないものについては、母子家庭等の医療費助成制度の対象とはなりません。具体的には、次のような医療費です。

  • 健康診断費用
  • 差額ベッド代(個室や特別室を利用した際の追加料金。)
  • 一部の歯科治療(審美歯科治療など、健康保険の適用外とされる治療。)
  • 美容整形(美容目的で行われる手術や治療。)
  • 中絶や不妊治療
  • マッサージ
  • 紹介状なく受診した200床以上の病院の初診時選定療養費等
  • 健康保険組合等から支給される高額療養費・附加給付に該当する医療費
  • 他の公費医療で助成される医療費

これらの助成内容と除外項目は自治体によって差がありますので、利用前には地域の市町村役場で詳細を確認することが重要です。

また、生活保護を受けている人は母子家庭等の医療費助成制度の対象者に該当しない通り、他の公的支援制度を受けている場合は、同じ医療費について二重で助成を受けることのないよう、注意が必要です。

申請手続き方法

それでは、母子家庭等で医療費助成制度を受けるための申請手続き方法について、詳しく見ていきましょう。

母子家庭等で医療費助成制度を受けるための申請手続きは、市町村によって多少の違いはありますが、基本的には次の通りの手順で進められます。

医療費助成制度の申請手続きをスムーズに行うためには、事前に必要な書類を整え、手続き方法の流れを理解しておくことが大切です。

最初に、申請者の住民票のある市町村役場で、医療費助成制度について確認しておきましょう。医療費助成制度の対象となるかどうか、どのような支援が受けられるのか、市区町村のホームページや窓口で確認します。

そして、申請書類を用意します。

  • 申請者及び児童の戸籍謄本または戸籍抄本(1ヶ月以内のもの)
  • 個人番号確認書類(マイナンバーカード、個人番号の記載がある住民票等)
  • 申請者の本人確認書類
  • 申請者名義の普通預金口座の確認できる書類(預金通帳・キャッシュカード等)
  • 申請者及び児童の健康保険証
  • 障害認定診断書(父または母もしくは児童が障害を有する場合)
  • 児童扶養手当証書(児童扶養手当を受給している場合)

提出書類を用意したら、市区町村役場の子ども家庭課などの窓口に持参して、医療費助成制度の申請手続きを行います。原則として市役所等の窓口に持参して申請手続きを行うことになっていますので、窓口に行くのがどうしても難しい、というような場合には、郵送で申請手手続きが可能か、事前に問い合わせておくと良いでしょう。

申請手続きを行ったら、数週間から1ヶ月程度で、マル親の「医療証」が交付されます。

医療証の利用方法と助成の受け方

なお、母子家庭等の医療費助成制度の申請手続きを行ったことで、直接金銭が支給されるわけではありません。

医療機関を実際に受診する際に、マル親の医療証を医療機関の窓口に提示することで、医療費の助成を受けることが可能となるのです。

なお、医療証を使うことができるのは、医療費助成の申請手続きを行った市区町村のある都道府県に限られます。治療できる病院が隣県にしかなかった、などやむを得ずに都道府県外の医療機関を受診した場合は、その場は自分で支払い、後日助成を受けている市区町村へ申請して、「払い戻し」を受けることになるため、注意してください。

そして、医療費助成を申請してから、医療証が交付されるまでの間に病院を受診した場合も、後日市区町村に申請して助成を受けることになります。

また、市区町村によっては、医療機関を受診した場合に、ひとり親家庭等医療費受給者証と健康保険証を提示したとしても、医療費が一定額以下の場合には窓口払いがなしの現物給付で、医療費が一定額以上の場合には、償還払いとなる場合があります。「現物給付」とは医療機関受診の際、健康保険証等とひとり親家庭等医療費受給者証を提示すれば、医療費の窓口払いがないことをいいます。「償還払い」とは医療機関窓口でいったん医療費を支払った後、後日、市への申請により医療費を支給することをいいます。この場合、支払った医療費はひとり親家庭等医療費で申請することができます。

医療費の払い戻しの手続き

前述したように、後日助成を受けるような「払い戻し」が想定されるケースは、主に次の5つあります。

  1. 都道府県外の医療機関を受診した場合
  2. 医療証を取り扱っていない医療機関を受診した場合
  3. 都道府県外の国民健康保険・国民健康保険組合に加入している場合
  4. その他やむを得ない事情で医療証の提示ができなかった場合
  5. 一部負担金等相当額の上限金額を超えて医療費を支払った場合

このような場合は、以下の必要書類を用意して、市区町村役場で助成費用の申請を行います。

  • ひとり親家庭医療助成費支給申請書
  • 医療機関の領収書
  • 医療証
  • 健康保険証
  • 受給者名義の振込先金融機関の口座がわかるもの(預金通帳・キャッシュカード等)

詳細につきましては、お住いの市区町村役場でご確認ください。

【Q&A】母子家庭の医療費は無料?いつまで受けることができる?

Q1.母子家庭の医療費支援は、どのような内容ですか?

母子家庭である場合、子どもの医療費が全額または一部助成される公的な支援があります。具体的には、診察料、薬代、入院費などが対象となります。もっとも、自治体によって助成内容や範囲が異なるため、詳細は住んでいる市区町村の役所で確認する必要があります。

Q2.すべての母子家庭が医療費助成を受けることができるのですか?

医療費助成制度は、すべての母子家庭が対象となるわけではありません。収入などの所得限度額が定められている他、生活保護を受給しているかといった制度の要件が決められています。また、医療費の助成の内容についても市区町村によって異なる場合があります。このように、具体的な条件は自治体によって異なるため、事前に確認が必要です。

Q3.母子家庭等に助成される医療費は何の医療費が対象ですか?

母子家庭等の医療費助成制度では、診察料、治療費、薬代、検査費、基本的な入院費、訪問看護費用といった医療費が助成対象となります。

また、住民税非課税世帯では、医療保険の自己負担分が全額助成されるため、実質的に無料で医療サービスを受けることが可能です。

ただし、助成の詳細は住んでいる市町村によって異なるため、具体的な内容は地元の役所で確認する必要があります。

ひとり親世帯のお悩みは弁護士にご相談ください

本記事では、母子家庭等に対する医療費助成制度について、弁護士が解説させていただきました。

原則として、母子家庭等で子どもが18歳までは、医療費の一部または全額が免除されるという公的支援制度です。特に本記事でご紹介した東京都新宿区では、住民税の非課税世帯は医療費が全額免除され無料になるため、助成対象に該当する母子家庭の方は、ぜひ申請手続きを行っていただければと思います。

なお、支給内容や対象範囲など、各市町村により助成の詳細が異なるため、自分の住む地域の制度を十分に確認して申請手続きを進めてください。

医療費助成制度をはじめとし、母子家庭や父子家庭といったひとり親世帯では、さまざまなお悩みがあることと思います。特に、生活に直結する経済的な不安は尽きることがありません。

母子家庭や父子家庭で、生活費や養育費などのお悩みやご不安がある場合は、ひとりで悩まずにお気軽に弁護士にご相談ください。

この記事を書いた人

雫田 雄太

弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

 

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