相続放棄したら代襲相続は発生しない!後の相続人は誰?注意すべきケースも

相続放棄

更新日 2024.06.11

投稿日 2024.06.11

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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相続が発生した際、亡くなった人の財産だけでなく、その借金も引き継がれることがあります。特に多額の負債が絡む場合、相続放棄を選択する方も少なくありません。しかし、一旦相続放棄をすると、どうなるのでしょうか?多くの人は「代襲相続」が発生し、自分の子どもや孫に負債が移るのではないかと心配するかもしれません。

この記事では、相続放棄が行われた後の財産と負債の行方、そして代襲相続がどう関わるかについて、分かりやすく解説します。相続放棄後に実際に誰が相続人となるのか、相続放棄後の代襲相続について注意すべきケースも併せてご紹介します。

目次

相続放棄したら代襲相続は発生しない!

代襲相続とは

代襲相続とは、本来の相続人が亡くなっている場合に、その子孫が代わりに相続権を継承する法的な仕組みです。例えば、子どもが親の死亡前に亡くなっていた場合、その子どもの子(孫)が相続人として相続権を持つことになります。このとき、先に亡くなった子どもを「被代襲者」、その子孫を「代襲相続人」と呼びます。

代襲相続は、主に家族内の直系卑属(子、孫、曾孫)や兄弟姉妹が対象となり、これらの人物が被相続人より先に死亡しているケースで発生します。相続が確定すると、相続財産の調査や評価、そして必要に応じて相続税の申告と納付が行われます。

また、相続人が相続放棄したり、相続欠格事由(重大な過失による殺害等)や相続廃除に該当する場合でも、その相続権は次の代襲相続人に移行します。

(子及びその代襲者等の相続権)
第八百八十七条 被相続人の子は、相続人となる。
2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。
(引用:e-Gov「第817条

代襲相続に必要な手続きはない

代襲相続の手続きは、基本的に通常の相続手続きと同じ流れで進めることができます。しかし、代襲相続特有の注意点として、本来の相続人が亡くなっていることと、その子孫が相続人として権利を持つことを証明するために、通常よりも多くの戸籍謄本が必要になる点があります。

代襲相続では、本来の相続人の戸籍を通してその子孫が相続人となる権利を確認するため、戸籍謄本を複数代にわたって収集する必要があります。この部分が通常の相続手続きと異なる主な点ですが、その他の手続きは一般的な相続と大きく変わりません。

相続放棄とは

相続放棄とは、亡くなった人(被相続人)から相続される財産だけでなく、負債も一切引き継がないようにする法的な手段です。主なメリットは、被相続人が抱えていた負債を負担しなくても良くなること、及び相続争いに巻き込まれるリスクを回避できる点です。一方で、デメリットとしては、正の財産も放棄しなければならなくなるため、例えば住んでいた家を失う可能性があります。また、放棄した相続権は次の順位の相続人に移行するため、その影響も考慮する必要があります。

相続放棄は3ヶ月の期限内に手続きが必要

相続放棄の手続きは、被相続人の死を知った日から3ヶ月以内に行う必要があります。この期間内に次のような手続きをする必要があります。

  1. 相続財産の調査: まず、相続される財産だけでなく負債も含めた全ての財産を調査し、評価します。これにより、相続放棄の決断に必要な情報が得られます。
  2. 書類の準備と提出: 相続放棄申述書を作成し、必要な添付書類(戸籍謄本など)とともに、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。
  3. 申述受理通知の受け取り: 裁判所から相続放棄申述受理通知書が届けば、手続きは正式に受理されたことになります。

相続放棄は一度行うと撤回ができないため、申立て前には相続財産を十分に調査し、慎重な判断を行うことが重要です。また、手続きには時間がかかることがあるため、早めに行動することが望ましいです。

相続放棄手続きの必要書類

相続放棄を行う際には、家庭裁判所に提出する必要がある書類がいくつかあります。具体的にどの書類が必要かは、被相続人と申述人(相続放棄を申し立てる人)の属性によって異なることがあるため、最終的には該当する家庭裁判所のホームページで確認することが重要です。一般的に必要とされる書類は以下の通りです。

  1. 相続放棄申述書: これは家庭裁判所からダウンロードするか、裁判所で直接受け取ることができます。申述書には、相続放棄を申し立てる人の情報と相続を放棄したい理由が記載されます。
  2. 被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本: 被相続人の死亡を証明するものです。
  3. 相続放棄をする人の戸籍謄本:これにより、法定相続人であることの証明がされます。
  4. 収入印紙800円分: 裁判所の手続手数料を申述書に貼って提出します。
  5. 連絡用の郵便切手(金額は管轄の家庭裁判所に確認)

また、相続放棄を同順位の法定相続人全員が行う場合には、全員分の申述書を提出する必要があります。

相続放棄をすると代襲相続の権利も失う│子供が放棄しても借金は孫に移転しない!

相続放棄と代襲相続は異なる法的概念で、それぞれ特定の状況下で適用されます。相続放棄を行った場合、その人は法的に初めから相続人ではなかったとみなされます。これにより、その人の子孫への代襲相続は発生しません。つまり、相続放棄を選択すると、その人の相続権は完全に消滅し、その後の世代に移ることはないのです。

一方で、代襲相続は、相続人が亡くなっている場合にその子孫が相続人としての地位を引き継ぐ仕組みです。この二つが一緒に説明されることが多いのは、相続放棄による「相続人でなくなる」という効果と、代襲相続における「相続人の死亡」という条件が表面的に似ているためですが、法的な適用と効果には大きな違いがあります。

(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

「相続放棄したら代襲相続が発生しない」とは?具体的事例

相続放棄をした場合、その放棄した人は法的には最初から相続人ではなかったと見なされます。これが原因で、代襲相続も発生しません。具体的な例を挙げて解説します。

例1:祖父の借金を父が相続放棄した場合

祖父が借金を残して亡くなり、その法定相続人である父が相続を放棄した場合、父は法的に相続人ではなかったとみなされます。その結果、父の子供(祖父の孫)も代襲相続人にはなりません。この場合、祖父の孫やひ孫には代襲相続は一切起こらず、相続権は他の法定相続人に移ります。

例2:叔父の借金を兄弟姉妹が相続放棄した場合

叔父が借金を残して亡くなり、その法定相続人である兄弟姉妹が相続放棄を行った場合、これも同様に、兄弟姉妹は法的に相続人ではなかったと見なされます。この結果、兄弟姉妹の子供(叔父の甥姪)も代襲相続人にはなりません。さらに、傍系の親族である甥姪の子供に相続権が移ることはありません。

以上のように、相続放棄を行うと、その人とその子孫は、相続人ではなかったと扱われるため、代襲相続は発生しません。

相続放棄後は誰が相続人になる?

相続放棄をした場合、その放棄した相続人がもともと持っていた相続権は、その人の子孫には移りませんが、「次順位の相続人」に移ることになります。つまり、相続放棄により相続権は法的に初めから放棄した人が相続人でなかったと見なされるため、その人の直系の子孫ではなく、他の法定相続人が相続の対象となります。

具体的には以下のようになります。

亡くなった人の子供が相続放棄したケース│相続権は親または祖父母に

被相続人の子供が相続を放棄した場合、その相続権は自動的に次に順位が高い相続人に移ります。この場合、被相続人の配偶者がいれば、配偶者と一緒に被相続人の父母が相続人となります。

もし配偶者がいない場合は、相続権全てが被相続人の父母に渡ります。このとき、相続放棄をした子供の配偶者や子供たちには相続権は移らず、直接被相続人の父母が相続人となるわけです。

もし両親が既に亡くなっている場合には祖父母が相続人となります。

亡くなった人の子供・親が相続放棄したケース│相続権は兄弟姉妹に

被相続人の第一順位の法定相続人である子供や孫(代襲相続人)、そして第二順位の法定相続人である父母が相続放棄をした場合、相続権は次に順位が高い人に移ります。このシナリオでは、被相続人の配偶者がまず相続人となります。配偶者がいない場合、相続権は第三順位の相続人である被相続人の兄弟姉妹に移ります。

配偶者もいなく、被相続人の兄弟姉妹もすでに亡くなっている場合、その兄弟姉妹の子供である甥姪が代襲相続人となります。甥姪はその時点で相続放棄をするかどうかを決めることができます。

亡くなった人の兄弟姉妹が相続放棄したケース

被相続人の第一順位の相続人(子供や孫)、第二順位の相続人(父母)、そして第三順位の相続人(兄弟姉妹や甥姪)が全員相続放棄をした場合、相続権は被相続人の配偶者に移ります。

もし被相続人に配偶者がいない場合、すなわち全ての法定相続人が相続放棄を選択した状況では、民法で定められた通常の法定相続人が存在しなくなります。この場合、被相続人の財産は特定の手続きを経て管理されます。

具体的には、関係者(例えば債権者)や検察官が家庭裁判所に対して相続財産清算人の選任を申し立てることができます。選任された相続財産清算人は、被相続人の財産を整理し、債務の支払いなどを行います。清算終了後に残った財産は、最終的に国庫に帰属します。

相続放棄をしたら自分で次順位の相続人に連絡を

相続放棄を行うと、その権利は自動的に次順位の法定相続人に移ります。このため、相続放棄を決定した際は、自分が放棄したことを次順位の相続人に直接通知する責任があります。相続放棄の期限は、相続の開始を知った日から原則として3ヶ月以内です。この期間内に放棄の手続きを完了させる必要があります。

放棄をした後、次順位の相続人に連絡を行うことは非常に重要です。この連絡によって、次順位の相続人は自分が新たに相続人になった事実を知り、必要に応じて自身で相続放棄をするかどうかを検討する時間を確保できます。特に、故人が多額の借金を残している場合、次の相続人が無知のまま負債を引き継ぐリスクを防ぐためにも、情報の共有は不可欠です。

相続放棄後でも代襲相続人になるケースに注意

相続の仕組みでは、通常、相続放棄をした人の相続権はその人の子孫には移りませんが、特定の状況下では過去に相続放棄があった場合でも代襲相続が発生することがあります。これは相続が発生する順序によるものです。

父の財産を相続放棄した後に祖父母の代襲相続人となるケース

相続の際、放棄の決定は亡くなった各人ごとに行われます。例えば、ある孫が自分の父親の財産を相続放棄したとしても、その後に祖父が亡くなった場合、孫は祖父の代襲相続人として相続権を持つことができます。つまり、父の財産の相続放棄が祖父の財産には影響を与えません。

このケースでは、祖父が亡くなった時に孫は次の選択を迫られます。

  1. 祖父の財産を相続する。
  2. 祖父の財産も相続放棄する。

一度相続放棄をしたからといって、他の相続についても自動的に相続放棄されるわけではありません。祖父の相続においても改めて家庭裁判所に申立てが必要です。それぞれの相続発生時に個別に判断し、必要に応じて手続きを行う必要があります。特に、相続放棄を検討する場合には、それぞれの相続で設定されている申立て期限に注意が必要です。したがって、父の財産を放棄した後でも、祖父の財産については新たに相続の意思を確認し、適切な対応を取ることが求められます。

他の相続人が相続放棄したことで甥姪が代襲相続人になるケース

相続が発生した際、亡くなった人の家族、つまり配偶者や子どもたちが相続放棄をすると、相続の順位が次に低い人々、例えば故人の兄弟姉妹に移ります。これらの兄弟姉妹が既に亡くなっている場合、その子どもたちである甥や姪が代襲相続人となります。これを代襲相続と呼びます。

特に、故人が借金を残して亡くなった場合、甥や姪といった相続順位が低く、故人との関係性が薄い立場の人々も突然、相続人となる可能性があります。この場合、予期せず負債を引き継ぐリスクを避けるためには、相続放棄の手続きを行うことが重要です。

その他の相続放棄と代襲相続で注意が必要なケース

祖父と父親の借金をどちらも相続放棄したいケース

まず、借金を抱えた父親の相続が発生する場合、その法定相続人である子供は、負債を引き継ぐリスクを避けるために相続放棄を選択することができます。この相続放棄には、家庭裁判所に申立てを行う必要があります。

その後、同じく借金を持つ父方の祖父の相続が発生した場合、相続放棄した父親の代わりに、孫である子供が代襲相続人となります。この場合も、子供は祖父の相続に対して相続放棄を選択することが可能です。祖父の相続放棄も、別途家庭裁判所への申立てが必要となります。

ここで重要なのは、父親の相続放棄と祖父の相続放棄は別々の手続きとなるため、子供はそれぞれの相続ごとに申立てを行う必要がある点です。それぞれの申立ては独立しており、一方の放棄がもう一方に自動的に影響を及ぼすことはありません。

このように、複数の相続が連続して発生した場合でも、各相続において放棄の選択が可能です。ただし、それぞれの相続放棄には個別の手続きが伴うため、正確な手続きを確実に行うことが必要となります。

祖父の相続放棄をする前に父親が亡くなったケース

借金を抱えた祖父が亡くなった後、その相続を検討中の父親が亡くなるという状況では、父親の子である孫が「再転相続」の状況に直面します。このケースでは、孫は祖父の相続と父親の相続について、それぞれ相続放棄をするかどうかを判断する必要があります。

孫は以下の選択肢を考慮することができます:

  1. 祖父と父親の両方の相続を放棄する。
  2. 祖父の相続だけを放棄し、父親の相続を受け入れる。
  3. 父親の相続を放棄し、祖父の相続も放棄する。

ただし、重要なポイントとして、父親の相続放棄を選択した場合、孫は祖父の相続を受け入れる権利も同時に放棄することになります。これは、父親が祖父の相続権を放棄することを決定すると、その権利が孫に移る前に失われるためです。

このような複雑な相続の場面では、どの選択をするかが大きく影響を及ぼすため、専門家の意見を求めることが非常に重要です。

相続放棄と代襲相続の関係に関するQ&A

Q: 相続人が相続放棄をした場合、その被相続人の財産は誰が相続することになりますか?

A: 相続人が相続放棄をした場合、その被相続人の財産の相続権は次の順位の相続人に自動的に移ります。具体的には、もし第1順位の相続人(子や孫)が相続放棄を行った場合、財産は第2順位の相続人(父母や祖父母)に移ります。同様に、もし第2順位の相続人も相続放棄をする場合は、第3順位の相続人(兄弟姉妹)に相続権が移ります。そして、もし兄弟姉妹も相続放棄を行うか、または他に法定相続人がいない場合は、被相続人の財産は国に帰属されることになります。常に相続人とされるのは配偶者であり、他の順位の相続人と異なります。

Q: 親が祖父母より先に亡くなり、その親の相続を放棄した場合、祖父母の相続において代襲相続人となることは可能ですか?

A: はい、可能です。親が祖父母より先に亡くなり、その親の相続を放棄しても、あなたは祖父母の相続に関しては代襲相続人となり得ます。これは民法887条に基づいており、「被相続人の子が、相続の開始以前に死亡した場合、その者の子がこれを代襲して相続人となる」と規定されているためです。この法律の規定により、親の相続放棄があったとしても、祖父母の相続権はその子供(あなた)に移るため、代襲相続が認められます。

Q: 代襲相続人が相続放棄を検討すべきケースはどのような場合ですか?

A:例えば、祖父や叔父・叔母が多額の借金を抱えている場合、その借金は相続を通じて法定相続人に引き継がれます。このような状況では、代襲相続人(孫や甥・姪など)がその負債の返済義務を負うリスクがあるため、相続放棄を検討するのが賢明です。

代襲相続人が、被相続人の財産状況を慎重に評価し、借金が財産の価値を上回る場合は、相続放棄を行い、一切の財産と借金を相続しない選択をすることが適切です。相続放棄は、法定の期間内に適切な手続きを行うことが必要であり、弁護士のアドバイスを受けることをお勧めします。

まとめ

相続放棄と代襲相続に関する法律は、複数世代にわたる相続が絡むため非常に複雑です。相続放棄が適切かどうかは、個々の相続の状況により大きく異なるため、自己判断だけで進めると予期せぬ問題が発生することがあります。特に、相続放棄は相続開始の知った日から3ヶ月以内に行う必要があるため、問題が発生したら早めに専門家の意見を求めることが重要です。

この記事を通じて、代襲相続が発生する条件や、相続放棄が後続の相続人にどのように影響するかについて解説してきましたが、具体的な対応策については専門家に相談することが最も確実です。相続の問題は一人一人の状況によって異なるため、個別の案件に応じた法的助言が必要となります。相続に関する不安や疑問がある場合は、すぐに弁護士に相談し、適切な手続きを進めることをお勧めします。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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